第1章があと一つで終わります。
まだ続編かけてないんですけどね。
とにかくいきます!
「ようやく帰ってこれた……」
陽が傾き始めた夕方、峻がぐったりと疲れた様子で館山の基地の正門をくぐった。
あの後、矢田がモーターボートごと吹き飛んだことを確認すると深海棲艦はあっさりと帰って行った。
叢雲たちを俺はひとまず陸にあげ、負傷している者から順に手当をしていった。
幸い傷を負っている者も大したこともなく、とりあえずは銚子基地は守られた。
が、大変なのはそこからだった。
吹き飛んだ施設を直さなければいけないし、運び出した艤装やら物資やら機材やらを元に戻さなくてはいけなかったからだ。
基地司令たる矢田が死んだため、銚子基地の艦娘たちは一度艦隊を解散され、別のところにそれぞれ着任するという形になるらしい。
そしてその処理について決まるまで2日かかった。
しかしそれらの解決のメドがたつと次の問題が浮上した。
矢田が深海棲艦と内通していた件と、今回の襲撃についての関連性だ。
俺は何があったのか詳しい事情説明を求められ本部に召喚。尋問され、ざっくりとあったことを全て話した。
少佐がこのようなことをするのは越権行為なのではと言われたが、館山が攻撃されているのでやむを得ない状況ということになった。
ちなみに俺が発砲したことについて言われたときは、
「いや、あれは正当自己防衛ですし、おすし」
と言って押し通した。おすしは嘘だが。
結局のところ矢田が深海棲艦と通じていた証拠は俺が二徹で手に入れた写真やら動画があり、かつゴーヤの証言もあるので特にお咎めはなさそうだ。
そしてその尋問が終わるまでの3日間俺は本部に常にいなければならなかったのだ。矢矧やイムヤ、陸奥、ゴーヤは割とすぐに解放してもらってたみたいだが、俺は結果的に言えば5日間帰ることが叶わなかったのだ。
館山基地に久々に戻り、ふらふらと寝室に向かう。
本部で寝させてもらえなかったわけではないが精神的な疲労がかなり蓄積していた。
「あら、ようやくおかえり?」
「おう、叢雲。ほんとにようやくだよ……」
寝室に向かう途中で執務室に顔だけ出しておこうと思い、入ると案の定叢雲がいた。
「今回は助かったぜ。矢田の行動には全て手を打ってあったが深海棲艦の方までは打ってなかった。正直、銚子に奴らが攻めてきたときは終わったと思ったよ」
「いいわよ、別に。こっちとしても間に合ったようでよかったわ」
「にしてもよく来れたな。事前に来るかもしれないって思ってなきゃ間に合わんだろ」
「館山に攻めてきた時、いやにあっさりと撤退してったからなんとなく、ね。本気で潰しに来るなら追撃用の艦隊くらい用意してそうなものだしね」
「そういや、そうだったらしいな。ログ見てから思ったが俺もてっきりもう少し粘るもんだと思ってたぜ」
「見切りつけられてたのかもね」
「かもな。さて、そろそろ寝てくるわ」
くぁ、と欠伸を噛み殺しながら執務室を出てこうとすると叢雲がガシっと背中のシャツを掴んだ。
「……なんだよ?」
「あんたが5日間も外したせいで仕事は山積みよ。特に今回の件で司令官系の人間にうちの艦隊の噂が広がってね。是非とも演習してくれって依頼が山と来てるのよ」
「おい、まさか……」
峻がギギギと軋むような動きで首を回し叢雲を見た。顔は俯いていて表情は読み取れない。
「さて、私と楽しく
叢雲が顔を上げると満面の笑みを浮かべ、対照的に峻の表情が絶望に染まる。
「いやだああああ!俺は寝るんだ!いい加減ゆっくり落ち着いた場所で酒飲んでから静かにのんびり寝たいんだああああ!」
無情にも執務室に鍵が掛けられ叢雲によって椅子に拘束される。やべえ、逃げられない。目の前にドサドサとめまいのする量の紙束が置かれ、無理やりペンを握らされた。
「さて、まずはここの山からお願いね。あんたのサインないといけないのよ」
「お前が書けよ……」
「それはあの時だけよ」
執務室に絶叫が響く。
最終的に白目を剥きながらペンを動かしている姿を見てさすがにやりすぎたと思った叢雲が解放してくれるまで続いた。
次の日。
「あんにゃろ、覚えてやがれ……」
目を擦りながら峻は廊下を歩いていた。
叢雲はちゃんと解放してくれたし、睡眠時間はしっかり8時間ほど取らせてくれているので鬼畜ではないのだが。
「あら、こんにちわ」
ついこの間、一緒に戦った陸奥が廊下の向こう側からやってきた。
「ん?陸奥、なんでお前ここにいるんだよ?」
矢田隊は解隊になったはずだが……
「執務室に行こうと思ってたけど、手間が省けたわ。本日付けで館山基地の帆波隊所属になった長門型戦艦陸奥です!よろしくね、
ピシッと脇を締めた敬礼をした後、悪戯っぽい笑顔を浮かべている。
「え、何?お前うちに入るのことになったの?」
「嫌かしら?」
不安そうな表情を浮かべる陸奥。入るのは構わないどころかむしろ嬉しいくらいなんだが、初耳だぞ?
「いや、戦艦だし歓迎するけどさ」
まあとりあえずは歓迎会くらい開いてやんねえとな。ゴーヤもそういえば入るんだっけ。今回の功績を無理やり押し込んでゴーヤの着任も上には認めさせてある。
「じゃ、用があったら基地内の無線で呼んでくれ。俺から用がある時は放送とかで呼び出すから。わからんことがあれば適当な奴に聞けば教えてくれる。部屋は今夜までには用意するから待っててくれ」
「わかったわ。あと……」
「なんだ?」
「今回のこと、本当にありがとうございます。あの子たちも救われたし、私自身も救われました」
「気にすんな。あと敬語は無理してつかうな。上が監査に来てる時以外は基本使い辛いなら使わなくていい」
堅っ苦しいのは苦手なんだよ。
「そう。ならそうさせてもらおうかしら」
「それでいい。じゃあな。ちょっと用事もできた」
陸奥と別れてイムヤの部屋へ向かう。
ねぎらいぐらい言っといてやりたいし、頼みごとも出来たからな。
「さすがに昨日はちょっとやりすぎたかしら……」
執務室で叢雲は仕事をしていた。陸奥とゴーヤが着任することになったのでその書類を作成しなくてはいけないからだ。
峻のやるべきことではあるのだが、白目剥くまでやらせておいてまた今日もやれ、と言うのは少々気が引けた。
まあ前までの書類も全部ざっと目は通してもらっておいたし私一人でもなんとかなるわよ。
それにしてもこの紙の山は見るだけで憂鬱になるわね。今日も今日とて大量に送られてくるし。どうせほとんど演習の申し込みでしょ。全くめんどうね。
苛立ちまぎれに机を拳で叩くと紙の山がドサドサと崩れてしまい、余計に苛立たせた。
「ああ、もう!」
仕方なく立ち上がり、床に広がってしまった書類を拾い集めていく。
「はあ……こんな送ってきてもいっぺんには処理しきれないっての。ん?」
一枚だけ演習申し込みとは違う紙を見つけた。
興味本位で目を通してさっと叢雲が青ざめた。
「監査のお知らせ……2日前に届いたやつ。しかも日程は……今日⁉︎」
ばっと時計に目をやる。あと1時間もない。
急いで放送のマイクに駆け寄り、全体放送に切り替えた。
「秘書艦叢雲より緊急!あと1時間しないうちに監査が来る!禁制品とか持ってる者は急いで隠しなさい!そして準備出来次第、正門に集合!」
どのクラスがくる?中佐?それとも大佐?
とにかく急がないと。
11+2というのは元々いた11人の艦娘に陸奥とゴーヤが加わったからです。最初の11人はわかりますよね?
明石を忘れちゃだめですよ?
それでは次回予告
帆波、連行される!
お楽しみに!(嘘)