艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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そろそろ書溜めが消える!やばい!

次の話がうまく浮かばなくて苦労してますがそれでも投下。

5/29誤字訂正しました。


二つ目と三つ目

カチコチと時計の秒針が時を刻む。

 

「少佐、先の連絡からかれこれもう2時間以上経過した。なかなか君の艦隊も粘るね?それとも早くに全滅して報告が遅れているのかな?」

 

ニヤニヤと矢田がこちらを見ながら挑発してくる。完全に自信の勝利を確信した顔で。

 

「あいつらがやられたなんてことはありえませんよ」

 

「その命、相当惜しいものと思えるな。事実を認めたまえ。君の艦娘たちは死んだのだよ!」

 

ケラケラとさも可笑しそうに笑う。

 

「そして少佐、君も死ぬ。約束通り待ったが無能な艦娘たちは無様に負け──」

「いいから黙っててください」

 

最後まで言い終えぬうちに静かに、しかし強い気迫と共に峻がいった。

その気迫に押されて矢田は口を噤んだ。執務室のドアがギシリと軋む。

 

 

あいつらが負けた?あり得ない。()()()()()()()()()()()()の戦力でやられるわけがない。

 

 

湯呑みに口をつけ、冷めかけた茶を一口飲む。来客用の机の上にそれを置こうとして自分のコネクトデバイスに通信が来たことに気づいた。

 

「基地から通信がきたので出たいのですが」

 

「おや、死刑宣告がようやくきたか。スピーカーモードにして出たまえよ」

 

 

いいだろう。言う通りにしてやろう。

ゴトリと机におかれたスピーカーの配線を首のデバイスに接続する。

 

 

「俺だ」

 

『こちら叢雲。侵攻艦隊の撃退を確認。こちらの損傷は軽微。基地の防衛に成功したわ』

 

 

矢田の余裕ぶった表情がさあっと蒼ざめたが無視をした。

 

「了解だ。基地を第三種警戒体制に移行。別命あるまで待機だ。ただし指揮権はまだそっちに預けとくから何かあったらそっちで勝手に動いてくれて構わない」

 

『了解。基地を第三種警戒体制に移行するわ』

 

「じゃ、任せたぜ」

 

『任されたわ』

 

 

プツンとスピーカーから音が切れて通信が終了したことを告げる。

 

「バカな!二艦隊だぞ!それを2時間程度で片付けたというのか!」

 

出撃準備やらなんやらを含めれば実質かかった時間はもう少し短いはずだがな。

 

「さて、あなたの仮定話は崩れたようですが」

 

「ぐ……ならば仕方あるまい…」

 

「では拘束させていただき──」

「動くな!」

 

腰を浮かしかけた瞬間に止められて仕方なく座り直す。面倒くせえな。さっさとお縄につけよ。

 

「いい加減にして欲しいのですが」

 

「君は艦娘は大事かね?」

 

「ええ、もちろんですとも」

 

「なら動くな。君の連れてきた艦娘の矢矧がどうなっても──」

「あら、私がどうかした?」

 

執務室のドアが開き、矢矧が部屋に入り、そのまま横の壁に背を預けた。今度こそ矢田が静かになってしまう。

 

 

「よお矢矧。わざわざタイミング計ってまでの登場お疲れ」

 

「なによ、気づいてたの?」

 

「隠れてるつもりなら気配ぐらい消せ。それとドア軋ませてんじゃねえよ。バレバレだ」

 

「…次から気をつけるわ」

 

次はないと思うけどな。こんなことそうそうあってたまるか。

 

「なぜだ!なぜ貴様はそこにいる!」

 

驚きから立ち直った矢田が机を両手で叩き、叫ぶ。

 

「提督に事前に渡されてたのよ、麻酔煙幕玉って物を」

 

 

矢矧が付いてくると言って聞かないと悟った時点で工廠に取りに行かせたものだ。自分が襲われる可能性を見越して事前に明石に作らせたものだが役に立ったようで何よりだ。

 

「にしても矢田大佐、あなたはどこまで腐っているのよ!阿賀野姉に、他の子たちに何をしたの!」

 

 

矢矧は思い出す。自分を攻撃しようとした時の姉の顔を。ごめんね、と謝りながら涙でぐちゃぐちゃになった顔を。他の艦娘たちが辛そうに眼に涙を溜めながら自分を倒さんとして来た時を。

 

「さてな。その様子だと何かされたのか?まあ戦うのが貴様らの仕事だ。それが貴様に向いただけだ、野蛮な兵器どもが」

 

「違う。矢田、あんたは暴力や弱味を握って脅してたんだ」

 

遂に俺は丁寧語を使うことを止めて呼び捨てまでした。こんな奴に敬語を使うのすらもったいない。

 

「違うか?そこらへんも情報提供者から聞いている」

 

その情報提供者とはゴーヤなのだがわざわざそんなことまで教えてやるようなことはしない。

 

「万策尽きたか?深海棲艦に基地を襲わせて証拠隠滅を図り、それに失敗したから矢矧を人質にして俺を消そうとする」

 

のんびりと足を組んで座ってたソファから立ち上がる。

 

「読めるんだよ、その程度の浅知恵は」

 

「なっ……」

 

矢田がついに口をパクパクするだけで何も言えなくなる。

 

「最初にチェックメイトって言っただろう。チェックメイト、つまり討ち取ったりだ。ただのチェックとは意味合いが違うんだよ」

 

すっと息を吸う。今度こそ終わらせよう。

 

「矢田惟寿、貴官を艦娘への恫喝、及び情報漏洩による国家反逆罪で拘束する!」

 

 

がたり、と矢田が椅子を蹴って立ち上がる。

 

「くそっ!陸奥、やれ!」

 

陸奥に視線をやると、その手にハンドガンが握られている。あの形は9mm拳銃だ。

 

「…ごめんなさい、帆波少佐。あなたに恨みはないけど私にはこうするしかないのよ」

 

陸奥が銃の遊底を引き、弾を装填して真っ直ぐに構えて狙いをつけた。

 

「ゴタゴタ言ってる暇があるならさっさと撃て!」

 

「矢矧、もう少し脇に寄せてな」

 

矢田が喚く。峻が両手をポケットにいれて足を肩幅に開いた。

脅されてやらされているのはわかっている。だがここまでくると一種の洗脳状態といってもいいだろう。

 

「撃てよ、陸奥」

 

そして外部の人間にはそれを瞬時に解くことはできない。

 

「っ!ごめ…んなさい!」

 

 

陸奥の指が引き金(トリガー)を引き、室内に銃声が響く。

 

銃口から弾丸が飛び出し、銃弾が峻の額目掛けて飛来する。

額に当たれば確実に死ぬ。

その命を奪う凶弾を峻は軽く首を左に傾けることによって避けた。

 

 

「何をやっている!陸奥、早く殺せ!」

 

続いてもう一度銃声。今度は首を右に傾けて弾丸をかわす。

もう1発。次は体ごと少し右にずれてかわす。

 

 

「くそっ!使えんポンコツめ!寄越せ!」

 

矢田が陸奥から銃をむしり取り三度引き金(トリガー)を引く。

 

体を左に傾ける。次は軽く前かがみ。最後は直立して動かない。弾丸はすべて後ろの壁に突き刺さる。

 

「なぜだ!なぜ当たらん!」

 

「銃口見てりゃだいたいの弾の軌道は読めるし、引き金(トリガー)を引く指の動きを見てればとんでくるタイミングも掴める。軌道とタイミングさえわかってるなら避けるのは容易い」

 

「いや、だからと言って出来るのは大概おかしいわよ」

 

矢矧が律儀にもツッコむ。実際あれをやれと言われて出来る自信は矢矧にはなかった。なんで平然と躱せてるのよ。

 

「提督、あなたどんだけ強いのよ…」

 

「こんなもんはただの技術だ。強さだけでいうならお前たちの方がよっぽど強い」

 

技術で強さは測れない。彼女たちは人を守るという戦いをするのだ。そのために戦場に立てる。それはもう立派な強さだ。

 

 

「陸奥、こいつをなんとかしろ!私の逃げる時間を稼げ!」

 

ガッと陸奥を矢田が蹴り、前に無理やり出させると窓を開けて逃げ出した。

 

あーあ。ついに追い詰められて証拠隠滅から逃走に目的が変わっちまったなあ。最初にさっさと自白しておけば本当に口利きしてやったのに。

 

顔を辛そうに歪めた陸奥が飛びかかってきた。

 

「ごめんなさいっ」

 

この人に恨みはない。むしろ以前に自分の砲撃の腕を褒めてもらって戸惑いはしたけど、嬉しかったこともあり、どちらかといえば好意的な印象だ。でもやらなくちゃいけない。あの子たちが酷い目にあわないために。もうゴーヤみたいな子を生まないために。

 

女とはいえ仮にも艦娘。力はそれなりにはある。それにこの人は背が私と大して変わらないくらい小柄だ。上から抑え込めば動きは止められる。

大きく飛びかかって抑え込めばきっと……

 

「やあああっ!」

 

陸奥が峻に向かって飛び掛った。

そして気づくと床に仰向けに1人で倒れていた。

 

何があった?今の一瞬になにをされたか理解が追いつかない。ただ躱されただけならうつ伏せのはずなのになぜか仰向けになっている。

 

 

「矢矧、俺は矢田を追う!本部に連絡だ!あとこれ預かっててくれ!」

 

上着を脱いで矢矧に放り投げる。上着を脱いだせいで今まで隠れていた拳銃の入ったホルスターやマガジンポーチが姿を現した。

 

「あと陸奥の見張り頼む!なにかするとは思えないがここで自殺でもされたら後味が悪い」

 

「何かあった時は?」

 

「お前の判断で動け!責任は俺がとる」

 

「待って!」

 

窓から飛び出して矢田を追おうとしたところを陸奥に引き止められる。

 

「銃があるなら私を殺した方が手っ取り早いはずなのになんで生かしたのよ⁉︎」

 

「…そうだな、そっちの方が手っ取り早いさ。でも陸奥、お前は死ぬ」

 

「でも私が死んでも次の”陸奥”がまた妖精に造られるわ」

 

窓枠にかけた足を戻して陸奥の近くへ歩み寄る。

 

「確かにお前が死んでも新しく”陸奥”は造られるだろう。お前も知ってる通り、同時期に同個体の艦娘は存在しない。けどこれは裏を返せば沈んでもまた同じ艦娘は造れるってことだ」

 

ストンとしゃがんで座っている陸奥と視線を合わせる。

 

「容姿も声も艦種も全く同じ”陸奥”がお前が死んだら建造されるんだろう。新しく造られた”陸奥”も確かに艦船だった戦艦陸奥の記憶を引き継いだ艦娘だ。でもそれはお前じゃない。別の生命(いのち)だ。お前はいまここにいる陸奥しかいないんだよ」

 

だから勝手に死ぬな。そう言い残して窓から飛び出していった。

 

 

「勝手な人でしょ?うちの提督は」

 

矢矧がキャッチした上着を軽く折り、自分の腕に掛けながら空いた手で陸奥を立たせる。

 

「普段はグダグダしてばっかりなのにスイッチが入った瞬間、急に人が変わったように動き始める。今回は助けてって言葉にスイッチが入ったみたいね」

 

誰かがヘルプサインを出した?天城?それとも扶桑?いいえ、彼女たちも私も例外なく外に出ることはなかった。じゃあ一体誰が……

 

「私たちに相談もせずに突っ走るんだから。巻き込まれるこっちの身にもなってほしいわ」

 

「でもあなたは楽しそうね」

 

「ええ。自分のことを信頼してもらって戦える。こんなにいい場所はなかなかないわ」

 

そこは一体どんなところなんだろう。そんな場所があるなら見てみたい。そして自分もそこに行ってみたい。

 

 

「………ねぇ、あの人の後、追いかけてみてはダメかしら?」

 

少し間が空いてから陸奥が唐突に言った。

 

「いいわよ、別に」

 

目を大きく開いて陸奥が驚く。

 

「やけにあっさり許可を出すのね。私はあの人のことを殺そうとしたのに」

 

「殺そうとしたのが本気じゃないことくらいわかるわ。それに責任は全部提督がとってくれるそうよ?」

 

矢矧が悪戯っぽく笑う。

 

追いかけてみよう。なにがあるかはわからない。でも知りたいから。

 

 

急いで追いかけたかったが、さすがに窓から出て行くのは躊躇われたのでドアから出て廊下を走ってそれから外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

矢矧に陸奥を任せてから窓から飛び出して外にでた。首のデバイスから通信を飛ばす。

 

「おい、明石。見えてるんだろ?」

 

『はい!ばっちりです!』

 

4つのプロペラを回しながら目の前にドローンが降下してくる。

 

『封筒の中の指示通りに銚子に提督が来てからずっと上空でホバリングして見張ってました!』

 

 

明石に渡された封筒には麻酔煙幕玉の作成の依頼ともう1つ、無人偵察機のドローンをつかって銚子を見張り、矢田が逃げ出したときに備えて上空から見張っておく依頼が書いてあった。

 

 

「矢田はどっちに行った?」

 

『船着場の方ですね。急いだ方がいいと思います。多分船で逃亡する気ですから』

 

「わかった。引き続き上空から見張っといてくれ」

 

『了解です!』

 

ドローンが上昇していく。明石本人は館山でこれを操縦して搭載されているカメラでずっと見張っていた。峻の指示通りに。

 

全力で船着場の方向へ走る。少し差を開けられすぎたか。

仕方ない。少し手間だがやるか。ここの基地の地図は頭に入れておいたから大丈夫だろう。

 

ダッと室外機の上に飛び乗り、そのまま大きくジャンプ。次に壁の排水管に足をかけてもう一度大きく飛び上がり、屋根の上に飛び乗った。

 

屋根を斜めに突っ切って次の建物の屋根に飛び移りまた駆け抜ける。それを数回繰り返して飛び降りると船着場に着いた。少し前を矢田が走っている。

 

「くっ、来るな!」

 

手にまだ持っていた9mm拳銃を撃ってくる。しかしあまり扱い慣れていないのだろう。弾丸は峻の周りのコンクリートを抉るだけだ。

 

「目くらめっぽう撃ちゃ当たるようなもんじゃねえんだよ、(それ)は」

 

左脇に装着されているショルダーホルスターから愛銃のCz75を右手で引き抜きスライドを左手で引いて弾を装填。構えながら右手の親指で安全装置を押し下げて解除する。

 

「くらえ!」

 

引き金を躊躇いなく引く。

銃口から9×19mmパラベラム弾が火薬の破裂した勢いにのって飛び出して。

狙い余さず矢田の手に持っていた9mm拳銃を弾き飛ばした。

 

 

「来るなっ!来るなあ!」

 

船着場にあった漁船のような中型船に矢田が乗り込んだ。まだ距離がある。追いつくにはあと少し時間がかかる。

それを知って矢田が狂気の笑みを浮かべた。

 

「いいか、いつか見ていろ!必ず貴様らには恐ろしい目に合わせてやる!絶対だ!」

 

ポケットからキーを取り出し、操縦板の横に差し込みぐるりと回しエンジンをかけようとする。

だがパスン、という頼りない音しか出ずエンジンはかからない。もう一度キーを回す。パスン。もう一回。パスン。

パスンパスンパスン。

 

 

「無駄よ。ここら辺の船の燃料は全部ぬいちゃってあるから」

 

船尾付近からゆっくりとイムヤが現れる。

 

「イムヤ、うまくいったみたいだな」

 

たん、と軽やかに飛び上がり船に乗る。

 

「ええ。封筒の中身通りにやっといたわよ」

 

 

イムヤに渡された封筒にはこう書いてあった。

”対象が船による逃亡を図った場合を想定してすべての船の燃料を抜いておいてくれ”

 

「ちょっとキツイかと思ったが余計な心配だったか」

 

「ええ、それに1人じゃなかったもの」

 

「みたいだな。ただ俺は聞いてねえぞ」

 

船尾の影から1人の少女がおどおどとイムヤの横に並んだ。

 

「聞いてねえぞ、ゴーヤがここにいるなんて」

 

 




今回文字数多めです。

二つ目と三つ目の封筒の中身がついに明らかになりました。
そして進む帆波さんのチート化は止まるところを知らないのか!

ご要望などはお気軽にお申し付けください。できる範囲でならします。

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