キャラがだんだんとチート化していく…
索敵機から入電よ。敵艦隊の総数は12。戦艦3、空母2、軽空母2、重巡1、軽巡2、駆逐2です」
「ありがとう。索敵機を帰還させて。瑞鶴もよ」
加賀の索敵機7号機が敵艦隊を捕捉した。結構な数だ。
「いい?私たちの目的は基地を守ることよ!絶対にここを通してははいけない。何としても撤退に追い込ませるわよ!」
士気は十分上がっている。敵は目視ですら確認できるレベルまで接近していた。
敵は実際のところ数で言えばこちらを上回っている。それでもいける気がした。
「北上、敵艦隊の真ん中に魚雷を数発うちこめる?」
「いいけどなんで?」
砲弾をひょいひょい躱しながら北上が聞いた。
「敵艦隊を分断させる。機動部隊と打撃部隊にわけてからこちらも部隊を2つにわけて迎撃するわ」
「んー、わかった。あらよっと!」
圧搾空気が解放され魚雷が飛び出した。そしてちょうど深海棲艦たちの真ん中に滑っていく。深海棲艦が回避すると見事に2つに分かれた。
「今よ!加賀、瑞鶴、攻撃隊出して!夕張と鈴谷は防空戦闘用意!敵機動部隊をお願い!天津風と北上と榛名と私は敵打撃部隊を叩く!」
「了解!第一次攻撃隊、発艦始め!」
「了解。攻撃隊、発艦しなさい」
2人の空母が弓を引き絞り放つたびに矢が艦載機に変化し編隊を組んで飛んでいく。
敵機動部隊も負けじと艦載機を出し始めた。
「加賀、そっちの指揮任せるわ。打撃部隊はこっちが引きつける」
「了解しました。武運を祈ります」
「ええ、そっちもね」
二手に分かれた深海棲艦を追って叢雲率いる打撃部隊と加賀率いる機動部隊が分かれて攻撃を開始した。
深海棲艦の空母群が艦載機を放つ。直掩を残して他の艦載機を一気に迎撃に当たらせた。
ばらばらと落ちていく深海棲艦の異形の艦載機と自分たちの出した零戦。
「瑞鶴、艦爆と艦攻を重点的に出して」
「でも!向こうのほうが数も上まわりすぎてる!艦爆や艦攻じゃすぐに落とされる!」
確かに航空戦において艦戦が少ないのは致命的だ。
「私が艦戦をだすから大丈夫よ」
「いくらなんでも1人であの数は……」
「あの程度、鎧袖一触よ。心配いらないわ」
航空戦を抜け出てきた敵艦載機が鈴谷と夕張の張った弾幕にさらされて落ちる。それを抜けたものたちが放る爆弾や魚雷をすい、と躱して次の矢を番え放つ。
私が出したもの以外が艦戦でないことに気づいたのか深海棲艦がニィと笑ったような気がした。
笑っていられるのは今のうち。すぐに後悔することになるとも知らずに愚かね。
「ちょっと!数が多すぎよっ!」
「ああもう!ウザったい!」
「夕張、鈴谷。だらしがないわ。もう少しくらい耐えなさい」
加賀の鬼!という声が聞こえるが無視する。艦載機を操るために集中する必要があるからだ。
イカのような形の深海棲艦の艦載機と加賀と瑞鶴の艦載機が乱れ交う。
瑞鶴の艦爆が上昇。それを追おうとする敵艦載機を加賀の艦戦が逃さないとばかりに機銃を乱射し行く手を阻む。グンとターンしその鉛弾を躱し、狙いを加賀の艦戦につけようとすると上空から瑞鶴の艦爆によって投下された爆弾にあたり、敵艦載機が一機爆散する。
爆風に煽られバランスを崩した敵艦載機の一瞬の隙を突いて加賀の艦戦が襲いかかった。
「瑞鶴、あなたは後は敵空母群をやりなさい。艦載機の相手は私がやります」
「了解!攻撃隊、行くわよ!」
航空戦が繰り広げられる中を瑞鶴の艦爆と艦攻が飛び出した。それを止めようと追いかけた深海棲艦の艦載機を鉛弾が穴を穿ち海に叩き落とした。
「私を無視してどこへ行こうとしているのかしら」
艦爆と艦攻を止めようと加賀の艦戦との戦いを抜け出そうとした敵艦載機から、鉛弾の雨を受けて次々と炎を上げて落ちていく。
「ここは譲れません」
そこに驕りや慢心は微塵も見えることはない。
敵空母群に辿り着いた瑞鶴の艦爆は目標を見据えて一気に降下した。
突破されるとは思っていなかったのだろう。しっかりとした対空姿勢が整っていない。
「やっちゃって!」
艦爆を瑞鶴が駆り絨毯爆撃。そして逃げようと散開したタイミングを狙って艦攻が一気に魚雷を離した。
爆撃音と水柱が立ち、敵の姿が見えなくなる。
「敵空母一隻轟沈を確認!残りも中大破よ!」
「鈴谷、突撃するよ!」
「やめなさい。やる意味は薄い」
もうここまで叩けば問題ない。軽巡クラスが牽制弾を撃ちながら機動部隊が退いていく。
「敵機動部隊の撤退を確認。別命があるまで現状で待機」
「はふぅ、疲れた…」
夕張が張っていた肘肩をだらんとさげて力を抜いた。
「むこうはどうなってるかねー?」
「そう言いながらわかってるんじゃないの、鈴谷はさ?」
「お、瑞鶴言うねぇ」
ニヤニヤと鈴谷が笑う。
「んー多分だけど叢雲が暴れてそろそろ終わってる頃じゃない?」
「榛名と北上は隙を見つけ次第個人の判断で撃って」
マストを捻り引き抜くとすらりとした抜き身が陽光を反射する。
「天津風は砲撃で私のバックアップよろしく。さあ、行くわよ!」
出力上昇。主砲装填完了。降り注ぐ砲撃を複雑な航行で避けてグングンと前進する。
「くらえっ!」
砲撃が放物線を描いて戦艦タ級に命中するが、目立った外傷は生まれない。
さすが戦艦。駆逐艦程度の砲撃は豆鉄砲ってとこかしら。
お返しとばかりに撃たれた砲撃が近くに着弾しふらりとよろめく。砲弾の破片が艤装を叩き、不気味な音を発した。
戦艦タ級3隻が一斉に砲撃しすべてがこちらに向かってくる。右ステップ、バックステップ、もう一度右ステップ。
ギリギリでの回避を余儀なくされながらも間一髪でなんとか逃げ続ける。
でもこれでいい。私に砲撃を集中させろ。私だけを狙え。そうすれば……
「主砲、斉射!始め!」
「四十門の酸素魚雷、行きますよー」
榛名の主砲が全て火を吹き、北上の魚雷発射管から多数の魚雷が発射された。
そうすれば榛名や北上が照準をつける時間が稼げる。そして砲撃が来ればそちらに意識を割かざるを得ない。
「そうすれば今度は私を見失う!」
一気に接近。牽制として撃たれた副砲を身を屈めて躱し懐に飛び込んだ。
「やあああっ!」
右手に握った刀で幹竹割り。後ろに退こうとしたところをそのまま追いかけてもう一度刀を振り切ると、タ級の主砲が合計2つ斬り飛ばされた。
対深海棲艦刀”
ただし、戦艦の装甲相手ではさすがに無理があると判断したので主砲を斬り飛ばすのが限界なのだが。
タ級が主砲を斬られるというかつて経験したことのない現象に戸惑う。
その隙を叢雲は見逃さない。
「榛名、今よ!距離450、ジュリエット!」
「了解です!砲撃開始っ!」
榛名が撃つと同時に叢雲も魚雷を打ち込み確実に沈めにかかる。しかし沈む瞬間を見届けるヒマなどない。
「次!北上、魚雷発射!角度3.75、数10、アルファへ!」
「了解っと!」
10発の魚雷が次の戦艦に迫っていく。沈みはしないだろうが損傷は受けるはず。
そう考えていると、またも叢雲のそばに砲弾が落ちる。
立った水柱のサイズからして軽巡と瞬時に判断。
「天津風、連装砲くんで軽巡を抑えて!」
「わかったわ!連装砲くん!」
連装砲くんこと正式名”自律駆動砲”が軽巡ヘ級に向かって砲弾を撃ち出す。
ジリジリと、だが深海棲艦の艦隊を着実に退かせていく。
いける。北上はそう思った。前で叢雲が敵を引きつけてくれているおかげでとてもやりやすい。そしてギリギリの回避を強いられているにもかかわらず、的確な指示を出してくれているのもありがたかった。
魚雷を再装填させている間、ぐるりと海を見渡すと不意に叢雲の後ろに急速接近している物がみえた。
「っ!叢雲、後ろ!」
駆逐ロ級が特攻を仕掛けてきていた。おぞましい歯のついた口を大きく開けて襲いかかった。
「このッ!」
「えっ……」
北上は我が目を疑った。
叢雲が振り返りざまに刀を真横に一閃。そのまま真っ直ぐに駆け抜ける。
次の瞬間、ロ級が真っ二つに割れ、大量の水飛沫をあげて沈んだ。
アレ?ロ級って2つに斬れるものだっけ?そもそも深海棲艦って斬れるものなの?
「ちょっと待って!叢雲、今の何⁈ロ級って斬れるの⁈」
「珍しく大慌てね。別に出来なくはないわよ。こういうデカブツを斬るには少しコツがあってね。切り傷をつくったらそこに刃を押し当てて行けばあとは自重と突っ込んできた勢いで勝手に裂けてくのよ」
そんなことできるのは艦娘多しと言えども叢雲くらいのもんだと思う、とは北上は言わなかった。それに正直思考が追いつかなかった。
「こちら天津風。軽巡の轟沈を確認!」
「こちら榛名。重巡を大破。やりました!敵艦隊が撤退していきます!」
「追撃はしないわ。今加賀から通信が来たけど向こうも撤退したみたいよ」
ふぅ、と張り詰めた緊張をといた。
あとはあいつに連絡しとかないとね。
鞘に断雨を戻し元のマストに戻す。
そして峻のコネクトデバイスに通信を入れる。
「こちら叢雲。侵攻艦隊の撃退を確認。こちらの損傷は軽微。基地の防衛に成功したわ」
それにしても嫌にあっさりと退いたわね。
艦娘たちの軽い本気を書こうとしたらこうなった。後悔はしない。
まだまだ佳境。これからです。