艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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いい加減話を進めろよ!と思われるかもしれませんがご容赦をば。
牛歩なりに進めてるつもりなんです。

とにかく抜錨。




五つの封筒

 

「ねえ、ゴーヤ。基地を旅行しない?」

 

「お願いするでち。置いといてもらうからにはしっかり基地の中を覚えておきたいし」

 

朝、イムヤが病室を訪ねてきた。

どうやらイムヤは基地を案内してくれるみたいだ。ようやく風邪のような症状も治まり、病室から出て普通の生活をしてもいいと許可が出て、何をしようかと考えていたからちょうど良かった。

 

 

「とはいってもイムヤ達が使うような場所は限られてるからねー。そこだけざくっと案内しとくね」

 

 

 

 

 

というわけでまず連れてこられたのは工廠だった。確かに使用頻度は高いとおもう。

 

「ここが工廠よ。今は明石しかいないみたいだけど夕張とかもよくいるわ。あと提督もよくここで艤装いじったりなんか作ったりしてる」

 

「明石の工廠へようこそ!あ、ゴーヤってあなたのことですよね?艤装が直ったのでちょっと見て欲しいんですけど」

 

明石と呼ばれた人がニコニコと笑いながら話しかけてきた。あそこまでボロボロになって壊れたゴーヤの艤装を直してくれたらしい。

 

「わかった、今行く!直してくれてありがとうございます!」

 

「いえいえ、それぐらい。んーと、大丈夫そうですね。中のプログラムまではちょっと見れないので今度提督にお願いしときます」

 

ゴーヤの艤装は完璧に直っていた。よくスペアパーツがあったなあ。優しく艤装をそっと撫でる。

 

(この前は無茶させちゃってごめんね)

 

「ゴーヤ、次行くわよー!」

 

「今行くでち!明石さん、ありがとう!」

 

ぺこりと一礼してイムヤを追った。

 

 

 

 

 

「医務室とか入渠用風呂とかは場所知ってるとおもうから飛ばして次は演習場に行きましょう」

 

演習場は結構広かった。畳の場所と板張りの場所と2種類あって、中には弓道場や射撃演習場なども併設されているみたいだった。

 

「弓道場はよく空母の人たちが使ってるわ。畳張りのところはたまに提督とかが体術か何かの訓練してるわね。板張りのところも似たような感じよ。ま、私たち潜水艦は潜ってナンボだからあんまり関係ないかも」

 

「今も弓道場は使ってるみたいだしね」

 

 

ヒュー、ストンという音が鳴り、矢が的に当たった。

 

「ダメね。真ん中から僅かにズレてる。瑞鶴、もう一回」

 

「もう……勘弁して………」

 

 

なんだか1人虫の息だけど大丈夫かな?

 

「あー、一昨日の演習で瑞鶴は大破判定もらっちゃってたらしいからそのせいかも」

 

「結構ここは厳しいの?」

 

「訓練は自分でやれって感じの放任主義よ。だからってやらないと実戦に出してもらえなくなるけど」

 

「えっ、なんで?」

 

「ちゃんと腕があればいいのよ、訓練とかしてなくても。ただ下手なの出して沈まれたくないって提督はいってたわね」

 

出撃するには結局ちゃんと訓練する必要があるみたい。瑞鶴の悲鳴を耳に残しながら演習場を後にした。

 

 

 

 

 

「はい、わかると思うけど食堂よ。たまに机の配置変えて宴会場になったりするわ」

 

「提督の作るご飯はおいしかったでち」

 

「本人曰く、”ひとり暮らしの時に作ってたら自然と出来るようになった”らしいわよ」

 

ふーん。またあの玉子粥食べたいな。でもそれ以外のレパートリーも食べてみたい。

 

「あの提督って出来ない事とか苦手な物とかあるのかな?」

 

「……そういえば特に思い当たらないわ。人間だから何かしらはあると思うけど」

 

「あれ、そういえば提督見ないね」

 

「そうね。まあどっかで遅めの昼寝してるか入れ違いで工廠に行ったとかそんなんよ、きっと」

 

随分とフリーダムな人なんだということはよく伝わった。

 

 

 

 

 

「執務室はここよ。万が一の可能性を考えて入らないけど提督に報告があるときはここよ」

 

「万が一って?」

 

「提督が真剣に働いてる可能性」

 

「へ、へえ…」

 

何というか……うん。

 

 

 

 

 

「さあ、最後はここよ!」

 

「何の変哲もない部屋だけど?」

 

強いて言うなら生活できそうな感じのする部屋だということくらいだ。

 

「ここはね…」

 

「ここは?」

 

「ゴーヤの部屋よ」

 

「ふーん、ゴーヤの…ってええ⁈」

 

このふかふかしてそうなベットが?木製でしっかりとした作りの机とか椅子とか箪笥とかが?

 

「こんないい部屋使っていいの⁉︎」

 

「私の部屋も間取りとか家具とかは同じよ。困ったら隣の部屋にいるからいらっしゃい」

 

「あ、ありがとうでち!」

 

「用意したの提督だから。あったら礼言っときなさい。あと希望すれば敷布団に変更も出来るから。それとこれ、部屋のカードキーよ。無くさないようにね」

 

放り投げられたカードキーをキャッチ。

まさか部屋1つ使わせてもらえるなんて至れりつくせり、だ。もっとこう、匿うから倉庫の中とかそういうところを想像していた。

 

「何から何まで申し訳ないでち…」

 

「気にしない気にしない。もうそろそろお昼だし、食事行きましょう!」

 

「わかった!」

 

2人で食堂へ向かう。今日のお昼は何だろう。そう考えている自分に気づいて少し驚いた。

 

(ゴーヤ、今楽しんでる?)

 

楽しかった。この間まで感じることのなかった感情に少し戸惑いを覚えたがすぐに頭からそんな思考は出ていった。

いい匂いが鼻をくすぐる。

 

お昼はどうやら餡掛けうどんのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、あー、食後に悪いがちょっと呼び出しだ。14時までにイムヤ、執務室まで来てくれ。繰り返す。14時までにイムヤ、執務室まで来てくれ」

 

銚子との演習が終わってから2日後の昼、峻は放送でイムヤを呼び出していた。

 

「これ、頼まれてた報告書よ」

 

「さんきゅ、叢雲。特に何もなかったか?」

 

「ええ、なにも問題なかったわ。ところでいつ帰ってきたのよ?」

 

「つい1時間くらい前だ」

 

「ボウズじゃなかったのね、その様子だと」

 

「ああ。餌にしっかりと食いついた。あとは竿を引き上げるだけだ」

 

軍服の外套を椅子の背にかけて、大きく伸びをすると背骨がバキバキと鳴った。

 

「叢雲、これに目を通しといてくれ。今すぐじゃなくていい。明日までで頼む」

 

執務室の机の引き出しから大き目の封筒を取り出して叢雲に渡した。

 

「…了解。後でちゃんと見とく」

 

「あとこっちの封筒は今から明石に渡しに行ってくれないか?」

 

「わかったわ。じゃ、行ってくる」

 

2つの封筒を携えて叢雲が執務室から退室した。

そして手元にはあと3つの封筒が残っている。そのうち1つを渡す相手は……

 

「提督、入るわよ」

 

イムヤがアホ毛を揺らしながらはいってきた。そう、イムヤにこの封筒を渡す。

 

「イムヤ、この封筒の中身を今ここで見てくれ。ただし声は出すなよ」

 

怪訝な顔つきになりながらイムヤが封筒を受け取り中身を取り出した。

中に入っていた紙に目を通していくとだんだんと眉をひそめていく。

 

「やるのは構わないわ。ただ、手段やその他諸々は私の自由にさせてもらうわよ」

 

「わかった。必要なもんは言ってくれれば用意できるもんは用意する」

 

「特に必要ないわ。じゃ、準備してくる」

 

わずか5分程度の会話をしてイムヤも部屋を出ていった。

 

執務室に1人、ぼんやりとしたまま手元の叢雲が作ってくれた報告書に目を落とす。

明日は銚子まで行き、矢田大佐に報告書を渡してこなければ。

約束は守らないといけない。

 

欠伸を噛み殺しもう一度大きく伸びをする。

 

「くそっ。やっぱ徹夜は辛いな」

 

目を(しばたた)きながら心に誓った。

今日はゆっくり寝とこう、と。

 

適当な酒を片手に寝室へ向かった。明日は早い。寝酒を一杯やったら寝るとしよう。まだ夕方にもなってないけど。





次回から話を一気に動かす予定です。
まだまだ続きますがご容赦を。

ご要望や改善点などありましたらお気軽に教えていただけると助かります。

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