艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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演習その2です。
こんな艦隊演習あるか!とツッコミながらもお楽しみください。

それでは抜錨!




鞘走らせて

「敵艦隊発見!提督、砲撃許可を」

 

『ふん、ようやくか。撃て!』

 

3隻の主砲が一斉に火を噴くと、相手艦隊のだいぶ手前に水柱が上がった。

 

「相手も撃ってくる!天城、相手の艦載機をお願い!瑞鳳は下がってて!扶桑、山城、いくわよ!」

 

もう一度弾を装填し、斉射準備を進める。その間に天城が艦載機を紙片を通して放つ。

 

「天城航空隊発艦、始め!です!」

 

飛ばされた紙片が艦載機に変わり、襲いかかる瑞鶴の艦載機を迎撃する。

 

「山城、砲戦行くわよ」

 

「はい、扶桑姉さま!」

 

扶桑と山城が撃つと、向こうもニ射目を放つ。

 

「きゃあっ!」

 

「山城⁉︎」

 

榛名の砲撃が見事に山城に命中。艤装がペイントに染まり、中破判定が出てしまった。

 

(弾着観測射撃…やられたわ。制空権を取られることは無いと思ってたのが裏目にでた!)

 

「山城、下がって!扶桑、もう一度──」

「きゃあああ!」

 

砲撃開始よ、と陸奥が言い終える前に天城の悲鳴が聞こえた。

 

「天城っ!どうしたの?」

 

振り向くと全身がペイントに染まった姿の天城が立っていた。判定は大破。

 

「うぅ…やられました……いきなり海中から魚雷が……」

 

(いきなり?まさか!)

 

あちらには雷巡がいたはずだ。つまり…

 

(艦載機で視線を上に向かせてその隙に甲標的で空母を潰しにかかったってこと⁈)

 

いつの間に接近して…

違う。最初からだ。最初から甲標的をおろしておいて、来るであろうエリアを予測し、待機させておいた。

 

(完全に相手のペースに乗せられてるっ……)

 

想像以上にやり手な司令官らしい。ここまで手のひらに転がされるとは。この様子だと阿賀野はとうにやられているだろう。

 

(私たちは負けたら……)

 

状況は最悪だ。瑞鳳は中破して発着艦不能、天城も大破して同様だ。阿賀野は通信が来ないが恐らく大破判定だろう。さらに山城も直撃をくらって中破判定だ。まともにやりあえるのは自分と扶桑しか残っていない。

 

負けた時を想像して暗雲たる気持ちになる。

勝たねば…負けたらまた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今んとこうちが押してるな」

 

戦闘指揮所で状況を確認しながら峻が呟いた。

 

「それでも今のところ、よ。油断はしないで」

 

「わかってるよ、加賀」

 

それにまだ戦艦は2隻も残っている。警戒して然るべきだろう。

 

『こちら矢矧、阿賀野姉は大破判定になったわ。でも私も中破判定よ』

 

「まぁ、まずまずだろ。ゆっくり戻ってこい。こっちも今佳境だ」

 

さっきから陸奥と扶桑の目標が完全に榛名に向かってしまっている。現状は榛名が小破で止まっているが、ほっとけば直撃をもらってもおかしくない。

 

『あはは、提督さん、以外と相手は砲撃下手なのかもね。だって私のところに飛んできてるよ』

 

通信で瑞鶴が笑う。

着弾位置の確認をすると確かにさっきから榛名の周りが多い中で2発だけ瑞鶴の前後に落ちている。

 

(待て、前後だと。まずい!夾叉されてる!つまり、本当の目的は…)

 

「瑞鶴、よけろ!」

 

『え?うわぁぁぁ!』

 

『瑞鶴被弾。大破判定よ』

 

叢雲の声が瑞鶴の大破を伝えてきた。

 

「ちっ!あちらさんもなかなかやりやがる」

 

一つだけ主砲を瑞鶴に狙いをつけて、他は適当な目標に撃ち込んで誤魔化していたのだろう。狙いをつけていた砲撃が夾叉した瞬間全ての砲塔を調節し本命に叩き込んだのだ。

 

少々甘く見ていたかもしれない。

そろそろ詰めに入るべきかと思案していると背筋がぞくっとする。

 

「…加賀、背後で殺気を放つのやめてくれ」

 

「あの子があまりにも不甲斐ないからよ。帰ったらみっちり特訓させます」

 

加賀のみっちり特訓コースとは。心の中で瑞鶴に合掌。生きて帰れよ。

 

『ちょっと、あんた!やるならさっさと指示だして!』

 

「あぁ、わかってるよ!天津風、連装砲くんを分離(パージ)だ!榛名、仰角を気持ち落とせ!一気に仕掛けるぞ!」

 

館山の全力を見せてやろう。そうそう簡単に覆せるとは思うなよ。

 

「叢雲、スタンバイだ。やるぞ」

 

『了解よ。こっちは準備完了』

 

「総員、さっき説明した通りにカウント3で行くぞ!3、2、1、ゴー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった!」

 

陸奥の狙い通りに空母を大破判定に追い込んだ。これでもう空は心配しなくてもいい。

 

「扶桑、まだやれる?」

 

「問題ないわ。山城、あなたは下がってて」

 

「いいえ、ここまできたら最後までやります。それに相手の砲撃の精度も慌てているのか下がってますから」

 

中破してるとはいえ戦艦。まだやれるのならなってもらうしかない。それぐらい今は追い詰められてしまっている。それでも相手の砲撃精度が落ちているのは救いだ。水柱をさっきからたててばかりで擦りもしなくなった。

視界が遮られているのは厄介だが、当たるよりかマシだ。

 

ふと水柱の隙間から何かが光を反射してキラリと輝いた。

 

(なにか接近してきている?)

 

また甲標的が?いいや、違う。今度は水上を走ってきている。

 

(あれは…自律式駆動砲かしら。相手の天津風の兵装ね)

 

連装砲くんと天津風が呼んでいる兵装が接近して砲撃を開始する。

 

 

このタイプの兵装は艦載機と同様に脳で操っているので、使用者の慣れと腕が物を言う。

 

 

ひょいひょいと副砲の砲撃を交わしながら水上の連装砲くんが砲撃を次々と打ち出していく。

 

「このっ、ちょこまかと!」

 

相手艦隊の砲撃と連装砲くんの砲撃で周囲に水柱が立ち、視界がうまく確保できず、結果的に砲撃の精度が落ちていく。

 

これが狙いか。こちらが一発当てたことを用心して今度は視界を奪いに来る。なんともやり辛い。

 

(でもそれじゃトドメは刺せない。じゃあなにが本当の狙い?)

 

わからない。ただ視界を奪うだけで終わるのはこれだけ撃ち込んでおいて割りに合わないはずだ。

なら本当の狙いが……?

 

陸奥が思考を続けているなかで、これでもかと水柱が大量にたち、そして砲撃が止んだ。

 

そして視界が晴れると目の前には。

 

これでもかという数の魚雷が接近していた。

 

「しまっ────」

 

炸薬の代わりに詰められたペイントが一斉に弾けた。

 

「うっ、ごめんなさいやられたわ」

 

「扶桑姉さま、山城も同じくです…」

 

咄嗟にバックステップと副砲で迎撃したので陸奥は小破程度で済んだが、扶桑は10発近く当たり、山城も数発はいってしまっている。そのためにお互い大破判定をもらっていた。

 

そういうことか。視界を奪ったのは魚雷の接近を気づかせるのを遅らせるためだったのか。

 

 

突如目の前を掠めた長物をギリギリで陸奥が躱し、正面に立っている艦娘を視界に捉えた。

 

「へえ、今の躱すなんてなかなかやるじゃない」

 

刀のような武器を緩く構えながら叢雲が賞賛した。

 

 

そして大量に撃ち込んだ魚雷でもう一度大きな水柱を立てて、追撃としてこの艦娘が間近まで接近する隙を作るためだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に不意を突いたつもりだったが、避けるとは思ってなかった。

 

軽く得物を振って構え直す。

 

 

この得物は仕込み刀で叢雲の艤装の槍のような形のマストを軽く捻りながら抜くと姿を現わす。普段は真剣のところを、今回は演習用の模造品に差し替えてあるが。

 

 

『北上も天津風も魚雷はスッカラカンだ。ここで決めるぞ!』

 

「わかってるわよ。さあ、いくわ!」

 

機関の出力を一気にあげて間を詰めにかかる。陸奥が右サイドステップで躱そうとするが、陸奥の主砲に刀で斬りつけそのまま駆け抜けながら主砲を放つ。

 

「聞いてないわよ、駆逐艦が刀をもって近接戦闘だなんて!」

 

副砲を撃ってくるが遅い。再度接近して撃ってきた副砲を斬りつけると使用不能判定が出た。

 

「セイっ!」

「遅いっ!」

 

型もなにもない破れかぶれな正拳突きを身体を捻るようにして躱し、今度は陸奥自身を袈裟懸けに斬った。バックステップで下がっていると自分の意志とは関係なく機銃がばら撒かれる。

 

いいタイミングであいつも介入してきたわね。艤装の機銃の操作をコネクトデバイスでリンクして掃射し、追ってこれないように牽制させたのだろう。

 

『いいぜナイスだ叢雲。好きにやりな。フォローはしてやるから』

 

「はいはい、助かるわ。ならちゃんと付いてきなさい!」

 

付いてこれないかもしれない、なんて心配はこれっぽっちもしていないけど。

 

もう一度突進して主砲を放つ。陸奥の視界が一時的に塞がれて叢雲の姿を見失う。

そしてその隙を突いてそのまま背後に回り込み、刀を背中に軽く押し当てた。

 

「投降しなさい。勝ち目はないわ」

 

「まだ主砲は一門生きてる。いつでも……えっ?」

 

陸奥が主砲を回そうとしても回らない。なにかが引っかかったようなギギギと鈍い音がするだけだ。

 

よく見ると機銃に装填されていた模擬弾が台座に詰まってうまく稼働していないことがわかる。

 

 

あいつは牽制として撃ったときこれも狙ってたわね。まったく抜け目ないんだから。

 

「残ってる主砲は撃てないわけじゃないでしょうね。それでも」

 

刀を上段に構えていつでも振り下ろせる体制に変えて囁いた。

 

「陸奥、あなたが背後を振り向いて照準をつけてから主砲を撃つのと、私がこの刀を振り下ろして残った魚雷も発射するのとどっちが速いと思う?」

 

「………降参よ」

 

陸奥が両手を挙げて投降の意を示した。中破した瑞鳳はもっと前に投降済み。他は全て大破轟沈判定。つまり…

 

『この演習、俺たちの勝ちだ!』

 

わあっと歓声が聞こえる。その中で鞘に刀を戻してパチンとはめ直した。

 

『演出終了。勝者、館山基地』

 

苦り切った声の矢田大佐の放送が流れて演習の終了を告げた。

 

 

『お前ら、とりあえず指揮所に戻ってこい。矢矧、阿賀野の足止めよかったぞ。北上、魚雷の腕あげたな。天津風、連装砲くんの操縦の腕上げたな。榛名、山城を中破させたのは助かった。瑞鶴、よく数の不利があるなかで制空権を渡さなかったな。叢雲、さすがうちの切り札(エース)だ。次も期待してるぜ』

 

 

エースと言われて悪い気はしないわね。少し疲労もあるが、その疲労もどこか心地いい。

 

『各自帰ったら反省点を洗って各々直せるようにな。あと瑞鶴、加賀がみっちり特訓コースだとさ。ご愁傷様』

 

いやあぁぁぁ!死にたくないぃぃぃ!という瑞鶴の悲鳴が聞こえる。ま、完全に油断して直撃食らってちゃそうなるわよ。

 

あとは挨拶してから基地に帰るだけね。

もうそこまで来れば自分の出番はあまりない。あとはあいつに任せてゆっくりしてようかしら。特に何かするわけじゃないみたいだし。

 

 




艦娘は人の形してるなら近接戦闘もいけると思ったので書きました。
ほら、やれそうな人いるし。フフ怖さんとかその妹とか。

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