狼剣士のロキとフェンリル   作:山吹 色

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4.決着の狼剣士

 

「──さぁ、殺し合いをはじめよう。狼剣士!」

 

そう言い放ち、腰に携えた剣を抜き放ち、一瞬で俺との間合いを詰めるマスフィン大佐。

俺はその速さに目を疑った。

咄嗟にバックステップをしながら、拾うかためらっていた二振りの剣を拾い、放たれた斬撃を剣で受け流す。

しかし、あまりの威力に受け流した剣が弾かれ、その反動でよろけて膝を付いてしまう。

だが、マスフィン大佐は追撃の手を緩めず、四つん這いになっている俺へ再び剣を振り下ろす。

俺は間一髪で身体を捻って躱し切り、側転で床を転がりながら離脱する。

マスフィン大佐が振り下ろした剣は一撃で地を割り、小規模なクレーターを作る。

くそっ……パワーもスピードも桁違いだ!

下手したら触れただけでお陀仏だな。

身元不明の肉塊になるのは勘弁してくれよ。

やはり……これも魔魂蟲の力なのか?

あんないかにもひ弱で、戦いに向かない体格の男がこんなにも強くなるなんて。

ヘッドスプリングで勢いよく立ち上がり、覚悟を決めて左右の手に握る剣を構える。

下劣な笑いを浮かべ、剣を振り回しながらマスフィン大佐は俺へと迫る。

俺は振り下ろされた剣を、右手に握る剣で弾き、そのままの勢いで懐に潜り込み、左脚を軸に反時計回りして回転斬りを浴びせる。

しかし、彼は見切ったように半歩下がって体を反らし、振り抜かれた剣の切っ先をスレスレで躱した。

反撃を警戒して俺は大きくバックステップして彼との間合いを空ける。

今のこの反射神経と動体視力……。

まさか魔魂蟲が供給する魔力で基礎的な身体能力まで強化してるのか?

そう考えている矢先、彼の追撃が俺に襲い掛かり、咄嗟に受け流すもその刃は頬をギリギリ掠めていった。

 

「どうしたんです?貴方の本気はその程度ですか?」

「……くっ。マスフィン大佐?なぜ魔魂蟲なんかに魂を?」

「決まってるでしょう?国を守るためです」

「それは建前だ。本来の目的は……」

「ふ。そこまで見透かしているのですか。私は戦う力が欲しかった。魔導剣士に匹敵する強大な力が。あの憎き女共にこの国を任せておけますか」

「……それは間違っています。貴方は神様ではなく悪魔と取引をした。その選択はこの国を、あるいは世界を滅ぼす。それは分かっていたはずです」

 

荒くなった息を整えながら剣を構えていう俺。

対峙する彼は顔色一つ変えずに、剣を構える。

おそらくその声は彼の耳には届いていないだろう。

強大な力を得た人間はその力に酔いしれ、感覚が麻痺して正気を無くす。

……さっきまでの俺と同じ。

だったら、答えは一つ。

俺の手で……彼を倒すのみ。

強く剣の柄を握り締め、全身の神経を研ぎ澄ます。

 

「サザナミ大佐。貴方は悔しくないのですか?女共が幅を利かせて闊歩する世界が?」

 

剣を構えたまま、そう告げるマスフィン大佐。

魔力を使えるのは女性だけ。

女性だけが力の強さを誇示し、世界を闊歩する。

男性は何の力も持たず、跡継ぎを残すためだけの存在。

女に守られる存在。

そう聞いたことがある。

それが悔しいということなのだろうか。

俺を羨み、憎むようなことなのだろうか。

俺には分からない。

男で唯一、生まれた時からずっとそうだったから。

だから戦う力が欲しかった。

彼は欲しがった。

願った。

魔魂蟲という悪魔に、自分の魂を売ってまで。

 

「貴方には分からないでしょう。ずっと男の魔導剣士……最凶最悪の狼剣士として世界に名を馳せた者だからそれを言っても分からない」

「そうですね。分かりません。全くを持って。ですが、貴方がやった行為は見過ごせません」

「そうでしょうそうでしょう。話し合いでは埒が開きませんね。だったら殺し合いではっきりさせるしかありませんよ?どちらがこの国を滅ぼすか、この国の救世主になるか」

「……悠長に話す気は俺もありませんよ。ならば俺は貴方を倒すまで」

 

そう言い放つと俺の体に真っ赤な線が浮かび上がり、複雑な紋様を象どる。

さらに紅い瞳が輝きを増す。

風が無いのに銀色の髪がサラサラと靡き出す。

そしてその真っ赤な線から燐光が煌めく。

これが俺が唯一使える、肉体強化の魔導。

血呪(ブラッド)開放(サージ)

血液に封じていた魔力を開放し、体に巡る神経やら何やらを魔力で補い、筋力などの強化を行う。

そして普段は使わない部分、つまりリミッターを外して潜在的な力を使う俺にしか使えない魔導。

眼前にいたマスフィン大佐の表情が凍る。

 

「なっ……なんて魔力だ。こんな魔力は少しも感じなかったぞ!」

「あいにく俺の魔力は他人に感じずらい性質でね」

「くっ……ええい!こんな付け焼き刃なぞ、叩き斬ってやる!」

「斬れるもんならやってみろ。返り討ちにしてやる」

「うぉぉっ!!」

 

彼は先程のように恐るべき速さで俺との間合いを詰め、両手で握った剣を振り抜く。

微動だにしない俺を見て貰ったと表情を緩めた彼。

しかし、それは瞬く間の出来事だった。

目の前にいたはずの俺の姿が、音も無く忽然と姿を消した。

 

(……そんな馬鹿な!?どこに消えた!?)

 

そう思い、彼は真横に気配を感じたので咄嗟に右へ視線を向けた。

 

「がはっ!?」

 

その瞬間、右脇腹に激痛が走り、まるで猛牛に突進されたように軽々と吹き飛ばされる。

左側にあった壁に激突し、その衝撃で壁が崩れる。

彼が見たのは、目にも止まらぬ速さで彼を蹴飛ばした俺の姿があった。

あまりの速さに衝撃波が発生し、着ていた軍服がボロボロに破れていた。

ゆっくりと右手に握る剣を肩に担ぎ、崩れた壁の破片の下敷きになった彼を見下ろす。

 

「ぬぉあああ!」

 

マスフィン大佐は怒声を上げ、その壁の破片を吹き飛ばして起き上がる。

やはり殴る蹴るは効果が無い。

……斬り捨てるしかないか。

ゆっくり剣を構える俺。

怒りと焦りに飲まれ、猛牛の如き突進で俺へ迫る彼。

それですら今の俺にはスローモーションに見える。

俺が動く度、赤い燐光は尾を引きながら俺を追従する。

次々に迫る激しい斬撃をまるで見切ったように軽々と弾き返し、機敏に躱し、大きく踏み込んで胴に一太刀浴びせる。

 

「ふんぬっ!!」

 

その瞬間、マスフィン大佐の胸部から腹部にかけてまるで鋼のように硬くなり、一太刀浴びせた俺の剣を弾き返す。

不敵な笑みを浮かべるマスフィン大佐。

 

(……誘われた!?)

 

危険と判断して離脱しようとしたが、時すでに遅し。

彼の手に握る剣が空を斬り、俺に迫って来る。

咄嗟に身体を捻って剣の軌跡から急所を外させ、通過したその切っ先は脇腹をギリギリ掠めていく。

それを見た彼は目を見開いて驚くのと同時にギシギシと歯を鳴らす。

しかし、俺の剣を弾き返したあの黒い光沢のある鋼は一体どうやって作り出したんだ?

それにどこかで見たことがある。

大きくバックステップで離脱しながら俺は考える。

だが、その時間は無いようだった。

彼は再び凄まじい速さで間合いを詰め、天高く最上段に構えた剣を豪快に振り下ろす。

2本の剣を交差させて受け止めようとしたが、あまりの威力に凄まじい音と共に刀身が粉々に砕け散る。

砕け散った衝撃で俺は後方に吹き飛ばされ、背中から着地すると地面を転々と転がる。

彼の握る剣の刀身も衝撃に耐え切れずに、粉々に砕け散って後方へと吹き飛ばされる。

俺は手を着いてゆっくりと起き上がり、地面に転がる剣を再び拾い上げる。

まだ俺の体から噴き出し、ゆらゆらと揺らめく燐光。

これが出ている間は、血呪開放の力はまだ途切れていない。

燐光が消える前に、彼との決着を着けなければ俺は殺される。

…何故か?

それは血呪開放の効力で身体の限界を超えて動かし続けた結果、反動で俺はピクリとも動けなくなってしまうからだ。

簡単に言えば全身筋肉痛、しかも全く動けなくなるぐらい酷いやつだと思ってくれたらわかりやすいか。

そうなると俺は無防備になってしまう。

結末は最悪、だろうな。

そうなってしまう前に、あれをぶち抜いてマスフィン大佐を斬り伏せなければ勝ち目は無い。

……どうしたらいいんだ?

少しよろめきながら、彼が吹き飛ばされた向こう側を見る。

その時だった──雲を斬り裂き、雷の如き速さで地面に突き刺さる一振りの大太刀が現れた。

 

(……汝に降り掛かる全ての厄災を斬り払い、汝に仇なす魔を食らう古の狼なり。銘を『銀狼刀(ぎんろうとう)』……名を『裂牙(れつが)』という。我は汝の牙。汝の剣である)

 

という艶のある女性の声が頭の中に響き渡る。

その声には聞き覚えがあるし、この大太刀にも覚えがある。

細く長い、美しい白銀の刀身。

まるで狼の歯のように、鋭く尖り触れただけでありとあらゆる物を引き裂く八重刃。

真っ白い柄に銀色の鍔──イーストオーシャンの方では白銀拵えという。

銀狼刀『裂牙』……に間違いない。

五年前、あの大虐殺をした時に俺が使っていた愛刀。

そしてこれは契約している戦精霊・ロキの剣形態(スパーダモード)でもあるのだ。

つまりこの頭に響き渡る声の主は剣形態のロキ本人だ。

 

「ロキ!どうしてここに来たんだ」

(仕方あるまいに。お前様が相手をするのはもはや人間ではないからの。あちしが手伝わんでどうする腹づもりだったんじゃ?)

「いや、それは……」

(たわけ。考えておらんかったのか?)

「……」

 

ロキに図星を突かれて黙り込む俺。

俺はゆっくりとその真っ白い柄を右手で握り、地面に突き刺さる刀身を引き抜くと肩に峰を乗せて担ぐ。

 

「ガぁ……グおおおおお!」

 

突然、マスフィン大佐とは思えない野太いまるで化物のような叫び声が闘技場の響き渡る。

 

(やれやれ。魔魂蟲の魂の侵食が始まっておる……早くカタをつけないとまずいことになるぞ)

 

と脳内で警告の声が響き渡る。

魔魂蟲の魂の侵食。

つまり簡単に言えば、怪物化が始まっているという事だ。

初めて見るからなんとも言えないが、一つだけわかることがある。

いままで感じていた魔力が急激に増幅している。

おそらく吸収した魂の生命力を全て魔力に変換して、俺にぶつけるつもりか。

死力を尽くして最後の戦いを挑んで来るのだろう。

当然、彼は死ぬ。

あとには退けないか。

 

「最後の一騎打ち……いや、最期の足掻きと言ったところか」

 

受けて立とう。

一端の魔導剣士……いや、同じ国、同じ者の下に仕える軍人として敬意を払ってそれを打ち破る。

悔いのないように、迷いのないように。

なんか清々しい気持ちだ。

今の俺にも迷いはない。

ただその気持ちに答えるだけ。

 

「ロキ……最大出力で頼む。彼に引導を渡してやる」

(あいよ。本当にお人好しじゃのう。主は)

「ありがとう。はあああああっ!」

 

まるで燃え盛る赤い炎のように、体中の紋様から巻き上がる紅い燐光。

体中に滾る魔力が手足に収束していくのが感覚で解る。

紅い瞳が血のように真っ赤に染まり、瞳孔がくっきりと見開く。

白銀の切っ先に向けてほどばしる、目を見張るような真紅の雷。

ゆっくりと切っ先を彼に向け、腰を落として深く沈み込む。

 

秘剣(ひけん)壹之型(いちのかた)突式(とつしき)紅一閃(くれないいっせん)!」

「グルぁああああ!!」

 

紅蓮に染まる燐光を纏い、真紅の残像を残しながら、まるで地を走る稲妻のように駆け抜ける俺。

迎え撃つは光沢のある漆黒の甲殻を持つ蠍の怪物。

口から紫色の光線を放つも、ことごとく俺に斬り払われる。

次の瞬間、目も眩むような真紅に染まる一閃が堅牢な甲殻を一撃で貫いた。

 

 

 

 

自室に戻っていた私は、強大な魔力のぶつかり合いを感じ取り、矢も盾もたまらず魔装具を装備し、呼びに来た部下達と共に飛び出した。

おそらく場所は使われなくなった闘技場。

間違いない。

一つはサザナミの魔力、もう一つは邪悪な禍々しい魔力の塊。

まさか、サザナミに何かあったのでは?

そんな不安が脳裏を過ぎる。

急がなくては。

闘技場の前に着いた時、1人の少女が蹴破られた扉の前でうずくまっていた。

銀髪ロングヘアで獣耳と尻尾を生やした少女。

警戒する部下達を他所に、私は彼女に駆け寄った。

 

「フェンリル!」

「……お姉ちゃん!」

「フェンリル……一体何があった?」

「パパがっ……パパが危ないの!」

「サザナミが?あの下品な胸の……いや、ママはどこに行ったんだ?」

 

恐怖に震えるフェンリルを抱きしめながら、不意に本音が出かけたのを飲み込みながら聞く私。

だが、ようやく恐怖から開放され、我慢していたのか泣きじゃくり始めた彼女を宥めながら、待機させていた部下達を闘技場に潜入させる。

 

「私が来たからには大丈夫だ。怖かっただろう?」

「お姉ちゃんっ……怖かったよ」

「よしよし。あのデカ乳ババア……こんな小さな子を一人にして……」

「……ん?」

「いや、なんでもない。とりあえず離れよう。ここは危ないからね」

 

フェンリルの手を引きながら一旦、私達は闘技場から離れる。

今度会ったら文句の百も言いたいが、今はそんなところではないだろう。

マスフィンめ……一体何をした?

こんな大事になるなら目を離さなきゃ良かった。

その瞬間、目も眩むような紅い閃光が闘技場から見えた。

……膨大な魔力の放出。

こんな規模の放出は今まで見たことない。

それと同時にもう一つの魔力が完全に消失したのを感じた。

脳裏に過ぎる最悪の結末。

力無く倒れるサザナミの姿が、鮮明に脳裏に浮かび上がる。

予知夢のようなはっきりした光景に目をうたがった。

まさか……そんなはずは!

 

「王妃殿下!」

「どうした?」

「戦いに勝ったと思われるサザナミ大佐を闘技場の中央で無事に保護しました!」

「そうか。……良かった」

「しかし意識不明の重体です!早急に医務室へ運びます!」

 

私はすぐに医務室へ運ぶように指示を出し、安堵の溜息を一つ漏らす。

あの禍々しい魔力の正体についても聞きたいことはあるが、当事者が目を覚ますまで待つとするか。

 

「ママ!」

「おぉフェンリル。待たせて済まなかったの」

「パパは?パパは大丈夫なの?」

「あぁ。心配いらぬ。久しぶりに魔力を使ったので身体に堪えただけじゃ」

「良かった!パパは悪者に勝ったんだね!」

 

思い切りしがみつき、無邪気に笑顔をこぼすフェンリルに、ロキは静かに笑いながら彼女の頭を優しく撫でる。

 

「ロキ!」

「ん?姫様かえ。どうした?」

「貴様ぁ!どうしてまだこんな小さな子の傍を離れたりした!何かあったらどうする!」

「おうおう……威勢がいいの。落ち着け。あちしは旦那様の助太刀に行っていたのじゃ。もしもあちしが行かなければ、旦那様は死んでいたからの」

「なっ……死んでいた、というのは?一体何があった?」

 

ロキはフェンリルを抱きしめながら、サザナミが肉体強化魔導『血呪開放』を使ったこと、マスフィン大佐が魔魂蟲に侵食され、最後にその力を使って怪物化した事を告げる。

それを聞いた私は耳を疑った。

魔魂蟲とはもう存在しないものばかりとずっと思っていたからだ。

しばし考えた私はある結論にたどり着く。

……そうか!

あの禍々しい魔力の塊は、魔魂蟲から発せられる魔力だったのか。

 

「魔魂蟲に侵食された者は人を喰らい、魂の生命力を奪い取る。そうやらなければ生きてはいれないのじゃ」

「それでは街で起きていた死体が見つからない殺人事件は、まさか」

「そうじゃろう。マスフィンとかいう男が喰っておったのじゃ。人間をな」

「なるほど……これなら辻褄が合うわね」

「ふむ。これでとりあえず一件落着じゃな。帰ろうではないか」

 

そう言われて私達は城に戻る事になった。

まったく放っておくと、勝手に死にに行くわでこっちがヒヤヒヤする。

でも、サザナミの活躍でこの国の未曾有の危機は免れた。

そうだ。

いい事を思いついた。

サザナミが起きたらその事を話そう。

そうすれば“私の目の届く場所に居てくれる”はずだわ。

今回のようなことは起きないはず。

なにやらいろいろ考えを巡らせながら、私は先を行くロキとフェンリルの後に続いた。

 

 

 

 

──ヘルズヘイム公国・レインズ城内。

樹海侵攻を目論む魔導剣士大国は作戦会議の真っ只中だった。

様々な議論が交わされる中、1人の兵士が入室し、とある青い髪の女性の前にひざまついて頭を下げた。

 

「ロベリア隊長。報告です」

「んー?どうしたのー?」

「はっ。偵察するためにルシュクル王国へ潜入させておいた同胞からの伝達です」

「はいはい♪待ってましたわ♪」

「大変申し上げづらいのですが……ルシュクル王国はかの伝説の魔導剣士『狼剣士』を自らの配下に率いれたとのことです。ですが何らかの事情により負傷している模様」

 

その報告を受けた瞬間、会議室は大いにざわめき始める。

彼の伝説を知らぬ者は全世界において誰もいないのだ。

最凶最悪の魔導剣士。

この世でただ1人の男の魔導剣士。

弱小国と踏んではいたのだが、まさか狼剣士を軍に引き入れるとは想定外の事だ。

 

「ロベリア様!樹海侵攻はもう一度考え直した方がいいのでは!」

「そうですロベリア様!いくら我が魔導剣士隊が優秀でも狼剣士相手では勝ち目がありませんよ!」

「うるさいわね……狼剣士一人に何ビビってんのよ?簡単な話じゃないの」

「は?一体何を?」

「良く頭を使いなさい。戦う前に奪えばいいじゃない……狼剣士を奪ってから蛻けの殻になったルシュクル王国を潰しに掛かれば一石二鳥よ。それに、アタシより強い男に興味があるわ」

 

グラスに入っているワインを煽りながら、不気味な笑みを浮かべていう彼女に一堂唖然とする。

自分達の相手に取るのでなく、相手から強奪して自分達の仲間にする。

その発想の転換自体、あまりにも突飛だったからである。

そうすれば戦力を増強および資源確保の両方が可能になる。

一石二鳥だ。

 

「しかし!どうやって敵国から奪うというんです?」

「そんなことも考えられないの?樹海侵攻の作戦は予定通り遂行しなさい。ただし初手はダミーの作戦としてね」

「ダミー……ですと?」

「いわゆる陽動よ。アタシ達が樹海侵攻を開始したとなれば、ルシュクル王国はすぐに兵を派遣して迎撃する。しかしそれは陽動で、本命が城に侵入して医務室に寝ている狼剣士を連れ去るのみ」

 

つまりまとめて簡潔に話せば、初手の侵攻作戦をエサに誘き出し、時間を稼いでる間、蛻けの殻になった城内に侵入して医務室にいる彼を連れ出す。

 

「楽しみね……男の魔導剣士……」

 

そう言いながら彼女は再びグラスを煽った。


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