扇矢萩子の捜査録~艦これRPGリプレイ~   作:長谷川光

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海威が倒れたその日、3月12日。
欧州では一大事件が起こっていた。
ナチス・ドイツはオーストリア併合のために軍を動かしたのである。
その翌日には併合宣言、アンシュルスが世界に向けて発せられることとなる。
英仏両国は、ナチス・ドイツをソ連への防壁とするためにこの動きを黙認せざるを得なかった



嵐の前の静けさ

19CH年 3月13日 00:32 ハルビン水師営 指導艦私室

養民:『…教官、夜遅くだけど…いい?』

響@:『養民? どうぞ』

養民:『うん… おじゃまします』(何か悩み事がある感じで、少しうつむき加減)

響@:『まぁ座って……』と言葉を促す

養民:『あのね……親仁さんのことなの』

響@:『あぁ……。ロシア出身と言っていたっけ』

養民:『…ロシアって、住みにくいの?』

響@:『む……。自然環境は、ここよりロシアのほうが厳しい。それは間違いないが……親仁が言っていたのは、もっと政治的な部分についてだろうから……。肌に合うか合わないかは人次第、ということだろう』

養民:『政治…? お姉ちゃんが云ってた。自分のために頑張るのがシホンシュギで、頑張ったものを皆で分けるのがキョウサンシュギだって』(難しそうな顔で)

響@:『あぁ、その通りだ。満洲や中華民国は資本主義で、ソ連は共産主義を掲げている』

養民:『私ね、よくわからないけど…… 親仁さんには、それが合わなかったの?』

響@:『多分ね。ただ、もっと個人的な事情が親仁にはあったのかもしれないし、決めつけることはできないけど』

養民:『……キョウサンシュギは、ダメなの? …私は、ロシアの兵隊さんを……救って、よかったの…?』

響@:『うーむ……。共産主義の是非は難しい問題だけど、私たちが済北島で彼らを助けたのは正しい行動だったと私は信じてるよ』

養民:(少し安心した表情になる)

響@:『とはいえ、ソ連と私たち……共産主義と資本主義が根本的に敵同士なのは、紛れもない事実』

養民:『…敵…』

**:足音がする

養民:『………』

響@:『……“政在養民”という言葉があるんだ』

養民:『……うん』

響@:『政治とは、そこに暮らす人を養うため……。みんなの幸せのためにあるもの。これは、2千年以上も前から言われていることだけど』

**:(養民と響さん? ……今入るのも何だしな)

養民:『……』

響@:『でも、世界に暮らす全ての人にとっての正しい政治というのは、一度も実現できた試しがない』

**:(響さんの政治論か…謹んで拝聴させて頂きましょう)

響@:『人間はその答えを求めて長い歴史の中で戦い続けてきた……。そして今、最後に残ったのが資本主義と共産主義の対立というわけ』

養民:『…だけど、どっちも皆にとって正しくない…ってこと?』

響@:『それは分からない。もしかしたらどちらかが正しくて、人間が紡いできた大きな歴史の流れに終止符が打たれるかもしれない。今は両陣営とも自分たちこそが正しいと信じていて……そして私たちは、資本主義の側にいる』

養民:『……私。陣営なんて、考えたことなかった……お姉ちゃんのためにって、思ってたから。でも…あの時、助けなきゃって思った… なんでだろう…』

親仁:『ごほんっ…教官殿? 夜分遅くで大変申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?』

響@:『それは……っと。どうぞ。開いているよ』

親仁:『失礼します…あら、養民さんも?』

養民:『……むぅ』(少し不満げ)

響@:『まぁ座って。お茶でも淹れよう』

親仁:『お手を煩わせて申し訳ありません…』

*養民はお客様ではなく身内であるため、お茶を淹れていなかった。

親仁:『聞いていて気分を害されないお話がよろしいでしょうか、それとも単刀直入なお話の方がお好みでしょうか?』

響@:『む……何だか穏やかじゃないな。単刀直入に言ってくれたほうがありがたいよ』

親仁:『…ふぅ。柔らかく優しい香りですね』

響@:いつものようにジャスミン茶を出しつつ

親仁:『まるでこの北洋水師そのもの。 少しでも湯加減を間違えれば破綻するところまでも…』

響@:『公私含め北洋水師に問題が山積みなのは否定しないが……何か気付いたことが?』

親仁:『…はっきり申し上げて、このままではアムール川軍団に簡単に滅ぼされてしまいますよ。』

響@:『そっちか……。そうだな。今、向こうがやる気になれば鎧袖一触だ。関東軍はともかく我々は助からない』

親仁:『残念ながら、個人について指摘しましたら… 海王さんのガードを固くすることを進言しますわ。仮に、私がソ連のスパイだとして、ここを潰す為に誰か一人を殺すなら彼女でしょうから』(コロコロと笑う)

響@:『ぐ……。その辺は海王自身がしっかりしてると思ったが、今回のことがあるだけに何ともだな。諫言ありがたく頂戴しよう』

親仁:『聞き入れていただけて、恐悦至極に存じます』

養民:『………えっ?』(少し身構えてた)

響@:『だからといって私がすぐに何ができるというわけではないのが申し訳ないところだが……。親仁が案外こういう話をしてくれると分かったのはありがたい』

親仁:『ふふふ… お役に立てたようで何よりです。では…私はこれにて。美味しいお茶、ご馳走様でした』

響@:「あぁ。その内、対ソの方針について親仁の見聞を頼りにすることも出てくるかもしれない。そのときも忌憚のない意見を頼むよ」

親仁:『もちろん、ソ連のことは私が最も知っていると自負しておりますので…頼りにしていただければと。それでは…夜分に、それも『お二人の時間』をお邪魔して申し訳ございませんでした。 失礼しますね』

響@:『……おやすみ、また明日』

親仁:(ゆっくりと一礼して、去っていく)

養民:『……お休みなさいませ、です』

響@:『……ふむ』親仁を見送った後で少し思案しつつ

養民:「……せんせ?』(首傾げ

響@:『いや。親仁が北洋水師で何を為そうとしているのかと改めて思ってね……』

養民:『…何かを、なす… ……ここが住みにくくなったら、親仁さんはまたどこに行くのかなぁ… ふぁっ』(欠伸

響@:『……親仁は、私とも順天たちとも違う目的を持ってこの軍にいる。ここが彼女にとっても住みよい場所であるよう、私たちも頑張ろう』

養民:『うん……』 (頷く

響@:『……さ、もう遅いし今夜は解散にしようか』響も身体をほぐすように伸びをしつつ

養民:『ねぇ…ここで一緒に寝てもいい?』

響@:『……それは色々とまずいんじゃ』

養民:『なんで…?』(悲し気な声

響@:『い、いやその、ここは狭いし、養民が戻らなかったら順天も心配するだろう?』

養民:『お姉ちゃん、海威さんの所にいるから…戻っても私一人』

響@:『そうだったな……。なら仕方ない……いや仕方ないのか……?』

*現在海威の意識の回復を待つべく順天はその傍に控えている。

養民:『ダメ?』

響@:『駄目というわけでは……分かった。そうしようか』

養民:(ぱああああ、と、喜色満面に)

響@:後で順天に何を言われるか分かったもんじゃないけど別に他意はない訳だしセーフセーフ!

養民:「せんせぇ、大好き」(抱き着く

響@:「私が床で寝る……って訳にはいかないんだろうなぁ、これは……」と抱き着いてくる養民の頭を撫でつつ

養民:「せんせ…あったかい…」(すぅすぅ…)

 

* * * * *

 

19CH年 3月13日 16:43

 親仁がハルビン水師営の面々の輪に溶け込むべく、あちらこちらに自主的に顔を出すなどしている一方で、海王は馬鈴玉へのコネクトを構築するべく、(様々なことを忘れるべく)仕事に没入し始めていた。

 

GM:各人が動くなか、響は業務を淡々と片づけていた順天に呼び出されます。

響@:はーい。あ、昨日の夜に親仁に言われたこと、順天には世間話の延長の形だけど内容自体はちゃんと伝えておくよ  言ってる事自体は正しいし、「彼女なりに思ってることを伝えてくれた」的なニュアンスで

順天:『……親仁についてですが』

響@:『何か思うところがあったり?』

順天:『思うところしかありませんがね…彼女の処遇に関しては、教官に任せます。』

響@:『了解。努力するとしよう』

順天:『……海威さんについてなのですが』(躊躇うように)

響@:『聞かせてくれ』

順天:『譫言のような寝言をつぶやくだけで…意識はまだ…』(暗い顔)

響@:『……そうか』

順天:『あの人の真意を、私は知ろうともしなかった…いいや。今でさえ、本気であの人の云うことを聞く気が私にはあるのか…』(自嘲じみた笑みを浮かべる

響@:『…………』

順天:『ともかく、あの人について考えるとき…どうしてもある人の存在が看過できずにありました』

響@:『……ある人?』

順天:『ヒルダ・ヴィクトリー・ネルソン。或いは艦娘[出雲]』

響@:『あぁ、出雲か……。海威は出雲を師と仰いでいたしな』

順天:『そして教官を送り込んできたのもその人。 一体、彼女は何者なのですか?』

響@:『うーん……まぁ、殊勲艦であることは確かだな』

順天:『松花江で私たちが行っている油槽船護衛、それさえも出雲が欧州大戦で使ったやり方のアレンジだとか。そこまで出雲は戦略・思想に影響を与えるものなのですか?』

響@:『そう言われると、出雲個人に感化されてる奴もそれなりにいる気がするが……』

順天:『想像で云うしかできませんからね、私は』(肩を竦める

響@:『帝国海軍左派の重鎮の一人ってのは知っての通りだろうし、後はそうだなぁ……骨董が好きってくらいか。私が知ってるのは』

順天:『…へぇ』

飛鳥:『ナニナニ? 姉さまの話が聞きたいアルカ?』(ぴょこん

響@:「げっ、飛鳥」

順天:『何者!』

飛鳥:『ドーモ、響のアホタレに新旗艦サン 飛鳥サン参・上☆』

順天:『……一体なんの御用で?』(低い声

響@:(また管内の警備体制の見直しだな……)

飛鳥:『お姉さまがあと二、三日でここに来るからサ。それの前触れカナ?』

響@:「…………は?」

順天:『お姉さまとは?』

飛鳥:『左派の重鎮で、骨董が好きな人ヨ!』

順天:『……はい?』

飛鳥:『ダーカーラ、出雲お姉さまアル!』

響@:『そんな暇人じゃないだろう。出雲がここへ何しに来るんだ』

飛鳥:『視察カナッ?』

響@:「…………」本気で面倒くさそうな顔

順天:「……ちっ」(舌打ち)

飛鳥:『先云っとくケド、あんた等がシッカリしてたら姉さま来る必要ないっての分かってルカ?』

響@:『それでこっちに加賀か飛龍でもくれるってなら喜んでやってもいいが……』

飛鳥:『カガヤンは日本第一主義者だから薦めないヨ?』

響@:『……いやそれよりも……。視察ってことは、支那方面艦隊旗艦としての正式な来訪ってことでいいんだよな?』

飛鳥:『ソ~ねぇ… 色々かっ飛ばして云えバそういうことネ』

響@:『ふむ、そうか……』(口元に手を当てて一人で納得してよう)

飛鳥:『ままっ 伝えたカラ 後は好きにすれバいいヨ!』

順天:『……分かりました。用意はしておきましょう。会って話すことなどありませんがね』

響@:『まぁ順天がよいと言うなら仕方ない。準備はしてやろう』

飛鳥:『アホ響、水師が大切なら口調に気を付けるとイイヨ、鈴玉にあることないこと喋るゾォ?それとも海王を保護しよッカ?』(からから)

響@:『分かった分かった。相変わらず耳聡いこと……馬鈴玉に会うなら、「馬家として駄目ならば、馬鈴玉個人にコンサルタントとして仕事を依頼したい」と伝えといてくれ』

飛鳥:『中華民国の為になるならアレは動くってのは保証するケドネェ』(思案顔)

響@:『どちらにしても、彼女とはいずれ直接会って話がしたいものだ。飛鳥のいないところで……』

飛鳥:『飛鳥さんが暇人みたにいうナッ!ハァ…アホ響がお偉くならレテ、飛鳥さんは嬉しいヨ。 とまー 飛鳥さんはテッシュー! じゃ~ナァ~』(執務室のドアから出ていく

響@:『そりゃ、少しでも偉くならなきゃ飛鳥に義理が立たないからな……』と後ろ姿に向かって呟いておく……

順天:『………舐めた口をききやがって』(ぼそっ

響@:『……あれも出雲に多大な影響を受けた人物のひとり……いや、その第一人者だな』

順天:『つまり、生きる災害だと。迷惑な…』

響@:『まぁ、会って自分の目で確かめてみるといい。私からあれこれ言うのはやめておこう』

順天:『…………はぁ』

響@:『しかし、出雲が来るのが数日後、テューダ卿への回答期限が来週……。しばらくは目が回りそうだな』

順天:『…態々ご苦労なことをしてくれる日本と、この『国』成立の際には日和見した国が…なんだって… 気に食わない…』

響@:『出雲はまぁいいにしろ、英国の方は本当に意図を計りかねる……。調べれば何か出てくるだろうか』

順天:『何であれ、拒めるほどの力がないのが…ただ悔しい………』

響@:『……強くならないとな。私たちも』

順天:『…教官』

響@:『何だい、順天』

順天:『……海威さんから学んだことが一つあります』

響@:『……ふむ?』

順天:『……教官は、頼りにならないけど… 頼りにしてます。…そう、伝える必要があると…学びました』

響@:『……そうか』

 

響@:返事はそっけない感じになったけど、表情はふっと笑みを浮かべて嬉しそう

 

* * * *

19CH年 3月14日

 響は石原莞爾が待つ新京へ向かう列車の中に居た。その理由とは遡ること約半日前。

海王:『…その、教官。石原閣下に説明しなければならないのですが…アタシ、今回ばっかりは……無理っす…』

響@:『気持ちは分かる……。私がひとりでのんびり行ってこよう。ここは任せたよ』

海王:『ほんと…すんません。出雲女史への対応は、アタシが整えますんで…』

響@:『私もすぐに戻ってくるよ。……いつも海王には周りの尻拭いばっかりしてもらってるから。たまにはこういうのも、ね』

海王:『あはは…頼んます』(苦笑

 

というわけで新京に響はやってきたのだ!

 

 10:32 新京 関東軍司令本部

GM:関東軍の将校たちが慌ただしく動いています。響がやってきたことにケチを付けられないほど忙しい模様

響@:欧州の動きのせいかなぁ……

 

響@:そういえば奉天での爆破事件のときは石原莞爾のとこには顔出さなかったんだっけな

GM:そーいえばそうっすね

響@:響が石原と会うのはクーデターのとき以来か

響@:ことあるごとにわしを頼りおって……と言われなきゃいいが

GM:どうだろう、そこら辺は響次第やな

響@:んー、顔を出す機会があったとしたら、青島沖のドンパチが終わって、水師営で一息ついた直後かなぁ

GM:さて、石原が神がかり的な予見能力によって響の来訪を予知していたのか、響が来た途端に作戦会議が終了します。

響@:ははは さすが石原閣下だなぁ

 

石原参謀長:「以上、散会」

将校's:「はっ」(それぞれの担当部署に戻る)

響@:「…………」邪魔にならないように立ってる

石原参謀長:「さて…響君。ワシに話とは何か?」(自らの執務室に向かいながら

響@:「忙しいところにすまない……。ちょっと大連と電報のやり取りをしたくてね。その内容でこっちを混乱させたくないから前もって釈明に来た」

石原参謀長:「大連か…何のために?」(後ろ手に戸を閉め)

響@:「みっともない話で申し訳ないが……。英国外相が満洲の有力者と話がしたいと我々のところへ吹っ掛けてきてね」

石原参謀長:「イギリスが、か?」

響@:「そう。その英外相テューダ卿は、以前も満洲に来たことがある。その記録を大連のヤマトホテルから拝借できればと思って」

石原参謀長:「…なるほど、分かった。それで、響君はそれを手に入れてどうする気なのか?相手の狙いは『滿洲の有力者』なのだろう、君らを相手は対象としているのではなかろう」

響@:「察しのとおり、ここからが肝心の話で……。我々がテューダ卿に満洲の有力者として誰かを立てるとしたら、石原中将、貴方なんだ」

石原参謀長:「それを予測しているにも関わらず、何某かの情報を得たい。君のことだ、あらかた北洋水師の誰かがその外務卿と知り合いなのではないか?  ふむ……成程、そうきたか」(一人納得する)

響@:「この話を受けたのは海王だ。出回り先で、テューダー卿その人と知らずに声を掛けられたらしい。相手は我々のことも、海王とここ新京の繋がりのことも把握している。このまま一杯食わされちゃ敵わないと、必死に情報収集をしてるというわけ……」

石原参謀長:「………ふむ、で…挽回しようという理由か。響君、昨日ドイツがオーストリアを併合したのは聞いているかね?」

響@:「聞いてる。全貌まで正確に把握しているわけではないけれど」

石原参謀長:「これについての分析で陸軍は揺れておる…つまり満州の隣国、ソ連の存在があるからな」

響@:「ドイツがこの先どこまで行くか……。行く行くはソ連を欧州に釘付けにするかもしれない、とか、そういったところか?」

石原参謀長:「いま世界は幾つかの勢力に分けることが出来る」

響@:「ふむふむ」

石原参謀長:「つまりソ連邦・ドイツ=イタリア枢軸・英仏同盟・アメリカ大陸・そして東亜諸国だ」

響@:「…………」大人しく傾聴してる

石原参謀長:「そして陸軍の大勢は欧州同盟とソ連邦の戦争を主張しており、その際に我々はソ連の東を征討することを考えている。が、ワシはそうは思わん。果たしてベルサイユ体制の克服を旗印にする総統ヒトラーが、特にフランスと結ぶだろうか?」

響@:「どうだろう。無学な私の直感としては……今のドイツが英仏と足並みをそろえる未来は想像できない」

石原参謀長:「英国がそれを感じていたとすればどうか?我が国はソ連に対抗するため枢軸勢力と防共協定を締結している。また中国にはドイツが軍事顧問団を送り込んでいるらしい。これら東亜諸国の枢軸勢力への取り込みを行うドイツに楔を打ち込むための動き、それがテューダ卿の狙いではないかとワシは分析する」

響@:「なるほど……。思えば、今回の中華民国との交渉にもドイツが噛んでいたっけ」

石原参謀長:「トラウトマン大使のことだな」

響@:「日中が互いに睨み合っている状況は、欧州どの国から見ても都合のいいものではなかった。それが解消されつつある今、どこも次の手を打とうとしている。その1つ目が今回の英国の動きというわけか」

石原参謀長:「……さて、どうするかの」

響@:「……実は、テューダ卿からの話を海王が持ち帰ったとき、私は、これは私たちだけでは頭を回しきれないと判断して、浙江財閥の知人のひとりにブレーン役をしてもらおうと考えついた」

石原参謀長:「ほぉ、誰か?」

響@:「馬家商家の馬鈴玉。奉天での爆破事件の首魁である艦娘中山を、私たちが直接会って引き渡した相手だ」

石原参謀長:「あやつか。つまり、国民政府中央に流すべきだと?」

響@:「そうまでは考えていなかった。馬鈴玉個人の商才が、テューダ卿を前にしてなお信用に値するのと、そのまま英国にカモにされるくらいなら、国民政府に中抜されてトントンで抑えたほうがマシ、くらいのつもりだったんだが……」

石原参謀長:「馬松儀、外交に口出しする際の彼女の名前だ」

響@:「なるほど。奉天の事件の後処理には、その名前で出てきたんだな……」

石原参謀長:「実の妹を政治の駒に出来るあたり、一種の怪物ではあろうの」

響@:「中将がテューダ卿との会談に応じてくれるなら、北洋水師からの詫びも込めての助太刀として彼女を同席、というつもりでいたんだが、どうだろうか」

石原参謀長:「向こうの意向次第ではあるが、ワシは避けるべきだと考えるが。国民政府の利益を損ねる場合、彼女は全力でテューダ卿の提案を潰しにかかると予測できる。」

響@:「分かった。主賓がそう言うなら避けておこう。すぐ海王に電報を打つとして……。他に中将の方から我々に用意させたいものはないか。尽力させてもらう」

石原参謀長:「そうだの。今の所、云えるのは一つだろうな」

響@:「ふむ?」

石原参謀長:「対ソ戦へのあらゆる努力」

響@:「あぁ……親仁を寄越してくれたことにも、まだ礼を言えていなかったな。ありがとう石原参謀長殿。お言葉、確かに承知仕った」

石原参謀長:「………ワシの考えだが」

響@:「…………」黙って聞く姿勢

石原参謀長:「人には器がある。響君の好きな“彼女”が大成してくれれば、海威君も喜んだだろう」

響@:「私は……。いや、続けてくれ」

石原参謀長:「海威君の彼女への意志は、ワシのこの国への意志へと等しい。あれからまだ二か月、されど二か月。猶予はないぞ? 急がねば手遅れになる」

響@:「そう……だな。その通りだ……」(このままでは守れない。それだけは確かだ。順天も、私も……)

 

響@:石原との話はこんなところだろうか……とりあえず、海王には大急ぎで、石原がテューダ卿との会談を承諾したこと、馬家への協力依頼は白紙に戻すことを打電しとく。あと大連の眞斗さんには帳簿の横流しを頼むのは流石にやめにして、石原莞爾と英外相テューダ卿の会談を行う予定があるから、その際に是非コンシェルジュを頼みたい、後日正式な依頼と打ち合わせに……的に送っとく

GM:眞斗から響宛に電報が返されます

眞斗:『今月の十九日、哈爾浜に私用でおりますのでその際に詳しくお聞かせくださいませぇ~』

響@:ディナーの日じゃねぇか!

眞斗:『追記、ちかちゃんが出世しちゃったよぉ… 嬉しいような、寂しいような…』

響@:出世て……この時分だと、冷泉博士と一緒に内地か

GM:二月に中尉に補されまして、舞鶴に四月から着任するのが内定している感じです。今現在は、トクサの資料を東京で最後の整理をしています。

響@:丁寧な感謝の言葉と、ちかこに会えたら眞斗さんのことも伝えとくね的な感じで返電、かな

 

 


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