扇矢萩子の捜査録~艦これRPGリプレイ~   作:長谷川光

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出雲の告白

支那方面艦隊、旗艦艦娘出雲

彼女の元には今回の事件に関連する大量の決済すべき書類が届けられている。

沖合で見つかった餓死死体を乗せた船について、意見を聞きたいという名目で足柄は出雲に呼び出される

足柄@:「来たヨー」ドアノックノックがちゃ。

出雲:「……来たか。 貴様…沖合で餓死死体を乗せ、舵の破壊された船が発見された。本件について貴様の意見を聞きたいのだが」(淡々と

足柄@:「あー、逃がしタと思ったんだけど。舵こわれてたんダ、じゃダメ?」

出雲:「……………貴様、私の仕事を増やすな」

足柄@:「はーイ。舵と浄水器と浄水タンクぶっ壊して流しただけヨ。」

出雲:「それが甘いと云っている」

足柄@:「?」首かしげ

出雲:「やるならば徹底しろ、偶然でも行きがかった他の船舶に救援を求められたならば厄介なことになっただろうが」

足柄@:「いちお、あの時間の潮の流れと他の船の航路は確認しといたけどネ。無線も持ち去っておいて貰ってたし……ま、そこまでやって助かったらあいつに運があったって事よネ。」

出雲:「……成程な。どちらにせよ助かることはなかった、何故なら各国の船舶に対して、当該海域での潜水艦型深海棲艦の影が噂されていたからな」

足柄@:「あー、警戒のため。ボスもわりとおこだっタ?」

出雲:「さぁな… 旧正月を潰された怒りがまだ治まらなかったなどではない」

足柄@:「他にも理由ありそだけドね。ワタシは溜飲下がったかナー」

出雲:「そうか… まぁ良い。この件については以上だ」

足柄@:「はーイ。」

出雲:「…して、貴様。」

足柄@:「?」さっきと逆方向にかしげた

出雲:「年寄りの無駄話に、付き合う気は有るか」

足柄@:「良いヨー。お茶持ってくル?」

出雲:「…そうだな、頼もう」

足柄@:(略)自分と出雲の二人分持ってきて机を挟んで出雲の前に座る。

 

出雲:「………話の付き合いだと思って答えろ、貴様は何故本名を度々口にする。」

足柄@:「本名だからだヨ?」

出雲:「そうか……私の本名は二つある、しかし…私が私を定義する際、最も私らしい名前だと思っているのは『出雲』だ」

足柄@:「うン。」もう一つはあのヒルダなんだろうなーっていうかお。

足柄@:「そーネ。足柄はーンー。お仕事の名前?」

出雲:「私もそう考えている…ここは間違っても軍の施設であり、ここは我が職務に応じて与えられた部屋だ。故に、私が貴様に私の本名をここでぶちまける訳にはいかない」

足柄@:「うン。」

出雲:「話が逸れたか……私は、二つの名を持つが故に両国から信頼と共に疑念を常に抱かれている。」

足柄@:「ふむふム。」ずずー。

出雲:「私の忠は明治大帝に捧げた。故に、大帝が愛したこの国に、貴様の云うところのお仕事の名前を我が名として、身を奉じている。二つの本名を殺すことでな」

足柄@:「…」とてもむつかしいことをいってる、というかお

出雲:「…それでいい (苦笑)… 私は『出雲』であり、それ以外の何物でもない。もっとも使えるならば、本名は札として使うがね。」

(唇を湿らせるように茶を口に含む。)

 

出雲:「貴様の顔に書いてあるように、私は難儀だ。」

足柄@:「そーネ。」

出雲:「その所為で、私は自らの娘を己の手で育てることを放棄した」

足柄@:「この前の写真の子。」

出雲:「……あぁ、そうだ。児玉紫、彼女の本名だ」

足柄@:「ああ、だからゆかりんなのネ。」

出雲:「……正直、ユカリに逢った時はゾッとした。瓜二つだったからな」>ゆかりん

足柄@:「ンー。ゆかりんがその辺なんか言ってたよーナ?」<うり二つ

出雲:「そうか」

足柄@:「ただ、ゆかりんはゆかりんらしいヨ。」ずずー。

出雲:「紫が死んだのは14、奴の齢は13。まさか同一視できるものではない」

足柄@:「確かに合わないネ。」

出雲:「ともかく、紫と私は海軍の中で初めて互いの面を見た…最も向こうは私の事を知っていたのだが」

足柄@:「有名だしネ。」

出雲:「……彼女の父親は私が母親だと紫に告げなかったようだが、私の顔を見て悟ってしまったらしい」

足柄@:「へー。」出雲の言葉から垣間見える出雲家の闇。でもまあよくあるよくある。

出雲:「そうとは云え彼女が私にそれを追求する事もなく、私は彼女の教官として振る舞い…貴様も知るところとなったL号・M号の被験対象に私たちは選ばれた」

足柄@:「ああ、あれネ。」

出雲:「その最中、欧州大戦が発生した。私たちはそこで実験的な実戦投入の為に第二特務艦隊、通称遣欧艦隊として地中海に放り込まれ……マルタ島で私たちは作戦の合間を過ごした。そのある一日に、私は紫に呼び出された」

足柄@:「ふむふム。」

出雲:「『教官が母上なのですか』とな」

足柄@:「なんて答えたノ?」

出雲:「『是』と答えた。まぁ…あまりにもあっさりと私が答えるから、面食らわれたがな」

足柄@:「もうちょっととぼけると思ったのかナ」

出雲:「何分父親が私の名を伏せ、私も彼女に名乗り出はしなかったからな。故に尋ねたとて、私が黙秘する…または否定すると思ったのだろう」

足柄@:「ボス、こう言うのは正面から答えるのにネ」

出雲:「嘘も成るべくは作りたくない故にな」

足柄@:「それでそれデ?」

出雲:「母娘の会話というべきか、兎も角二人でその後も数回ほど話す機会があった」

足柄@:「色気無さそな…でもないのかナ?」冷泉思い浮かべつつ

出雲:「……冷泉の事を憎からず思っていると、私に相談してきたが…如何せん私に恋愛の相談など無理な話だ。しかもよりにもよって自らを死地に追い込んだ奴らの一人に恋慕するなど、好きモノにも程があるだろうと思ったものだ」

足柄@:「わりと良くあると思うけどナー。」

出雲:「…彼女は、従姉と共にトランスシルバニア号が沈没した際、その乗員の殆どを救助し、連合国から賞賛を浴びた。昔の伝手から、直接私を通して英国議会からの感謝状が届くほどだった」

足柄@:「凄いじゃなイ」

出雲:「だが僅か一か月ほど後、彼女は敵潜水艦の魚雷によって死んだ」

足柄@:「……」なーむー。ってかお。

出雲:「艦体の方は長期間の入渠によって戦力に戻すことは可能だった。しかし、M号計画による処置を受けていた彼女は艦にかかった負荷をその身に受け…即死だった」

足柄@:「なるほド。」海威の間に合わなかったバージョンと把握した

出雲:「死は平等に敵味方に降り注ぐ、戦友が倒れることもこれが初めてではない」

足柄@:「そーネ。いい奴もやな奴も死ぬときは死ぬしネ。」

出雲:「しかし私以外の面子にとっては初めての戦場だ、動揺するなという方が無理な話。部下を叱咤しながら、私は任務をやり遂げた」

足柄@:「ま、ボスまで動揺してたら全部オじゃンだし。」

出雲:「あぁ、崩壊していただろうな。さて…欧州大戦が終わった世界では、既に私は旧世代の艦娘であり、半身である出雲号も世界水準から言えば過去の遺物となっていた。私の任は、後進の育成ばかりとなり…断じてしまえば暇が多かった」

足柄@:「今までドンパチやってたわけだしネ。」

出雲:「余りにも暇でな…色々と手を出したわけだ」

足柄@:「色々。」

出雲:「時間的な余裕があり、後進を見ている内に、娘の事ばかりが頭を占めていった。何もなくとも彼女の事が頭に浮かぶ…私はな、それが苦しかったのだよ。だから、時間つぶしを…な」

足柄@:「良くあるらしいネ。」

出雲:「娘を自らの我儘で捨て、あげく彼女を忘れようとした。斯様な私がどうして親を名乗れるか?」

足柄@:「え。誰だってやな事忘れたいって思うことあるじゃン?聞かれて名乗ったんだシ、ちょっとでも会話もしたんでショ。」

出雲:「…そう貴様は考えるかしらんが、私は私を許せないのだよ。」

足柄@:「そゆ性分なの知ってる。でもサ。たぶん、そのこ……紫はそうして欲しくないと思うヨ?」

出雲:「…彼女もそう思うだろうが、これは私の戒めだ。そう簡単には揺らがん」(苦笑

足柄@:「ボスも頑固だからネー。でも、いつかは許さないとだと思うヨ。」

出雲:「…さぁな、墓まで持っていくやもしれんが… 貴様に見放されぬようにはするさ」

足柄@:「ボスは良い上司だしネー。そうそう見放さないヨ。ところでサ。純粋な疑問なんだけド。」

出雲:「…何だ」

足柄@:「これ、ワタシが聞いちゃっても良い話だったノ?」

出雲:「…貴様はどう思う」

足柄@:「判ったら聞いてないヨ。」扱いづらい部下であると言う自覚はあるという顔

出雲:「老人の妄言だとでも思えばよかろう」

足柄@:「ボスって妄言とか吐かないと思うシ。」

出雲:「……私の、貴様の生まれてから今に至るぐらいの時間の話をした訳だが」

足柄@:「うン。」

出雲:「ついでだ、貴様の話を聞かせてくれ」

足柄@:「ンー。そんなおもしろイ話でも無いと思うけどナー。そーネ。ひとまず生まれは内地なんだけド。親の顔とかは良く知らないのよネ。物心ついたときから近所の爺さんとかに育てられて来てたかラ。」

出雲:「…ほぉ」

足柄@:「なんか、捨てられてたらしいんだけどまあ、そこはどうでも良いかナ。運が良かったと思うヨ。爺さんやおっさん達は職業的にはともかく、子供を食い物にするような奴らじゃなかったシ。そんな爺さん達に育てられて独り立ちしたんだけど。あるときちょっとヘマして捕まっテ。で、ムショに居たんだけどなんか適性があるとかデ、恩赦と引き替えで軍に入った感じかナー。」

出雲:「…希有だな、貴様の経歴も」

足柄@:「そーネ。同じの見たこと無いナ。」

出雲:「………」

足柄@:「ま、そういう訳でボスの期待に沿えないかもしれないけド、軍にもそこまで忠義とかはないのヨ。」

出雲:「…貴様に、忠は求めていない。国へも、軍にもだ。もっとも貴様に限った話でもないが、な」

足柄@:「ふン?じゃ、なに求めるノ?」

出雲:「貴様は自らに忠を尽くせばよい、私が貴様に求めるのはその能力、そして結果だ」

足柄@:「わお、殺し文句。ま、忠義はないけどネ。ボスに対する義理はあるからその間は結果出せるように努力するヨ。」

出雲:「石原曰く、戦争の本質たる決戦戦争を阻害する要因の一つに傭兵の使用があるという」

足柄@:「……」

出雲:「私は貴様を国に雇われた傭兵として捉えている」

足柄@:「うン。国やら軍やらよりも判りやすくていいネ。」

出雲:「傭兵への扱いは契約の正確な履行だ、故に貴様への俸給云々を保証しているし、これからもこれは揺らぎはしない」

足柄@:「わりとお給料良いヨネ。」

出雲:「満足してもらっているようでなによりだ。 さて本件、および前件から貴様の才覚・機転は共に想定以上であった。正面から云おう、私は貴様が欲しい。」

足柄@:「飛鳥が聞いたらその場で飛びつきそうな台詞ネ。」

出雲:「だろうな」

足柄@:「で、どゆ意味?」

出雲:「私の“下”に付く気はないか」

足柄@:「今でもそうヨ?」形式上は。

出雲:「露骨に云えば、貴様を私の私兵としたい」

足柄@:「まあ、そーネ。みっちーにも声かけルなら、かナ。」

出雲:「相、分かった。 それだけか」

足柄@:「ワタシは上に余所行けって言われたら(軍を)抜けるしね。あんま変わんないヤ。」

出雲:「そうか、感謝する」

足柄@:「あ、あと細かい処理は良く判んないからお任せするヨ。」

出雲:「…貴様の心ばかりだったからな」

足柄@:「それじゃ、お茶もう一杯飲ム?煎れてくるけド。」

出雲:「…あぁ、淹れてこい」

足柄@:「あいあイー」と言って部屋から給湯室へ

出雲:「………」

 




 隣国との融和とは、地方連邦の前段階だ。そして地方連邦という地域統合はやがて世界的連合体の前段階に成りうるだろう。その果てに人類が一つになったとき……戦災によって親に先立つ子供も、子に先立たれる親も無くなるだろう。それが…私の野望だ

目を閉じイスに凭れ掛かる彼女は、娘が困ったように『母上ですから』と笑いかけてくる姿を瞼の裏に幻視した。

 私は、まだ逝けぬ。

亡き娘に向けて呟かれたその言葉は、壁一枚隔てたところで控える出雲の影(陰影)にのみ届いていた。

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