扇矢萩子の捜査録~艦これRPGリプレイ~   作:長谷川光

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第四回セッションの後日談
水師営の反応


 一月二十三日  01:12

海王:『…旗艦、居るか?』

海威:『旗艦は居ませんよ、海王ちゃん』

海王:『…あぁ、そうだな。そうだった』

海威:『どうぞ入って、熱いお茶でも入れるから…今夜は冷えそうですからね』

海王:『…なぁ、海威さん。アンタ…本当にどうすんだよ?』

海威:『どうしろというんですか、海王ちゃんは』(急須を持ってきて

海王:『いやさ、アタシに聞かれても困んだよ… アタシにとっちゃ、アンタがずっと旗艦なんだからさ…その…あーめんどくさい』

海威:『行けませんね…もう、順天ちゃんが旗艦なんですよ。きちんとしてもらわないと』

海王:『…すまない』

海威:『結局、渡してないんでしょ、コレ?』

海王:『”旗艦のお仕事”なんて舐めたタイトルにしてるからですよ… 順天に渡したらアタシが殺されっちまう』

海威:『そうですかね?これぐらいの方が可愛げがあると思うんですよ』

海王:『…海威さんよ、聞いた話じゃアンタって元々…』

海威:『海王ちゃん、本人の前で口に出そうとするなんて中々に勇気がありますね』

海王:『まーなんですか、勇気というか根性は結局海威さんには負けますよ。鎮海で燻ってたアタシを一人で来てここまで連れてきたんだからなぁ』

海威:『…恩を売られたとは思わないんですか? 私、結構打算的に動いていたつもりなのですが』

海王:『アンタ、いい人だからな…端々に本音が見えてさ…憎むに憎めなかったんだよ』

海威:『……背中がむず痒いですね』

飛鳥:『コンコンコン。失礼すルヨ、もと旗艦サン。銀箭さんガお見舞いに来たアルネ』

海王:『……!?』(身構える)

海威:『これはどうも、ご親切に…飛鳥ちゃん』(海王を手で制しながら

飛鳥:『ソソ、殺るっていうならモウやってルカラネ~警戒するだけ無駄無駄』

海威:『それで…閣下から?』

飛鳥:『アー覚悟決めないデ、早まらないデネ!後で各方面から私が恨まれノハ勘弁ヨ!』

海王:『なら…なんで貴女がわざわざ?』

飛鳥:『ん、響のドアホーが何してくれるのカナっテ思っテサ。色々と手を回した訳ヨ… 流石に、19人も意識を刈り取るのは疲れたケドネ』

海威:『…意識を刈り取る?何の話でしょうか』

飛鳥:『ありゃりゃ、元旗艦は知らないのも当然ネ。アンタが自力で逃げ出すから、その捜索をやってた間抜けどもをガスっとやったカラネ。大丈夫、ノーキル・ノーアラートヨ』

 

海威:『…私、順天ちゃんに…そこまで、徹底的に嫌われていたんですね…』

飛鳥:『インや、違うヨ… 逆々、死なれたら困るカラ兵を付け、探してもいタノヨ』

海威:『…経験者は語りますね』

飛鳥:『経験者、になりたいネ。ハァ…ヤッパ小豊のバカたれはぶっ殺した方ガ良いのカネェ…』

海威:『そんなこと言う割には…響ちゃんのことを世話焼いてくれたりするよね』

飛鳥:『…元旗艦、アンタは勘違いシテルヨ。これ以上騒ぎ起こされタラ、私のお姉さまとのラブラブ密月[ 検閲済み ]がオジャンになるノヨ!!』

海威:『…は、はぁ。先生が、元気になったからって…その、ハードなことはしない方がいいと思いますよ』

飛鳥:『…ハードなことをしてくるのは、実は』

海威:『やめてください!えぇ、叩き出しますよ!』

飛鳥:『…アンタがカッツリまとめ上げないから私までこんなことになってルノヨ!ソコ、分かって欲しいナ!』(ビシッ

海威:『それは…もう満潮さんに釘を刺されていますしね…閣下がお認め下されば、と申し上げましょう』

飛鳥:『あぁ、ミッチーも居たカラネ。石原さんはお認めしてるからさ、それは兎も角、粛軍は此れから済ますカラ安心シテ良いヨ』

海威:『…そう、ですか』

飛鳥:『んじゃ、私は此れからデートの時間ダカラ、二度目は起こすなヨってことでサヨーナラー』

 

海王:『あの人、アタシは苦手です…』

海威:『そっか… まぁ、あの子はちょっと極端ですからね』

海王:『そもそも…お調子者モードと、殺し屋モードの境目が分からないって…あれどうなってるんですか?』

海威:『…先生曰く、敵対心持ってませんよ というサインがあの微妙に訛って見せる口調だそうだけれど。それでも、殺るときは殺るんだとか』

海王:『それ、いよいよどうしろと』

海威:『まぁ、あの訛った口調の時に殺しにかかってくるのはかなりレアなようですし…あの子の前では、変に気を張らずにおしゃべりするのが一番ということですかね』

海王:『そっすね…気を張らずに駄弁るなんてアタシには無理そうですが。まっ、しばらくはアンタがしてくれるんだろ?』

海威:『…そうですね、ですが海王ちゃんにもしっかりしてもらわなければいけませんよ。』

海王:『それは分かってる、無理せず吸収するつもりさ…』

海威:『…そうですね、ではその無理せず吸収するためにも今度一緒に関東軍本部に行きませんか?』

海王:『わー海威さんってお美しいですね、ほんっと痺れる憧れるー』

海威:『その時の報告書は順天とまとめてくださいね』

海王:『あー聞こえてないっす、アタシがアンタの後釜なんてそんなの無茶っす』

海威:『その理由が、飛鳥さんに会いたくないからっていうなら… 慣れてください、としか言えませんよ』

海王:『…いや、それだけじゃなくってさ。なんで、アンタは満映とかまで手を伸ばしてるんですか』

海威:『あっちゃぁあ…海王ちゃんにはそこまでバレてましたか』

海王:『…あー良いです。アタシ、何にも見てない。聞いてない』

海威:『よかったー、仕事に興味を持ってくれてたんですね。これは教えがいがありますね』(ニコニコ

海王:『せ、せめて…お手柔らかに頼みます…』(ガクリ

 

***************

 

 一月二十三日 明朝 ハルビン水師営 執務室

順天:『……』(何かを認めている

響@:『……順天、いるかい?』コンコン、とノックを

順天:『…教官、ですか? どうぞ、お入りください』

響@:『失礼するよ』

順天:『朝早くから何ですか? 教官には特に何事もお願いしていないのですが』(手元の書類を慌てて隠しながら

響@:『えーっとね、書類仕事を増やして申し訳ないんだけど……。一応、昨日の午後の一悶着について纏めておいたから』ぴらっ、と数枚組の書類を取り出しつつ

響@:『もっと穏便にやるつもりだったが、かなり手荒く彼らをぶちのめしてしまった。私の給金を削った分で、お見舞いを出してやってほしい』

順天:『……ご丁寧に』 (複雑な表情で受け取る

順天:『一個小隊、壊滅の件…ですか。もっとも、教官方に止められていなければ…同志全員がこの世に居なかったと思いますので、軽微なものですがね』

響@:『ん? 小隊が壊滅……? 負傷者人数のところは鉛筆書きにしておいたから、弄ってもらって構わないけれど……そこまでやったっけな』

順天:『…私が海威さんの様子見に派遣したのがそれだけで、見事にその隊の全員が伸ばされたようですからね』

響@:『……私たちが相手にしたのは10人程だ。残りは別の場所への捜索に行ったものだと思っていたが……そうか。誰かがテコ入れしたらしい』

順天:『……どちらにせよ、教官にはご迷惑をお掛けしました。遅ればせながら謝罪申しあげます』

響@:『骨は折れたけど……それが迷惑だとは思ってないよ。元は日本人が撒いた種だ。どうか謝らないでほしい』

順天:『…いいえ、いいえ。止めて頂かなければ…私は、海威さんを殺していました。』

響@:『…………』黙って耳を傾けてる

順天:『日本人が、いきなり襲ってきたように…私も、あの人に襲い掛かってしまった。 同じことは、絶対にしたくないと…決めていたというのに……』

響@:『……私が、順天は生粋の満州族だと知ったのは、いつだったかな。養民のお母さんについて聞いたときもそうだったけど……ちょっと言葉が出なかったのを覚えてる』

順天:『…我が家は、清朝の代に漢民族と混じり…一色単になった家です。他者に寛容であれというのが我が家風です。』

 

 だから、お父さんはお義母さんと結婚もしましたし…その結果として大切な妹が出来ました。だけど…狡賢く、小利口な日本人だけは嫌い、到底許せたもんじゃない

……どれだけの、同胞が…あの騒乱の中で…声ならぬ呪詛を吐きながら死んでいったか

 

響@:『…………』

 

 …だから、私は憎んだ。無法に振る舞う…残虐非道な日本人たちを  だけれど、憎んだからって…日本人と同じことはしたくなかった。私は、マジメに努力したと思う。江防艦隊の旗艦艦娘にまで短い時間でなった。 だけど、その努力して得た地位さえ…壊された。

 あの女、海威さんの…所為で

ここに来てから、海威さんは何時も云った。まだ貴女には早い。それは急ぎ過ぎだ。私がやるから大丈夫。 一体、何だって!!

 

響@:『……海威は、その振る舞いの理由まではずっと話さずにいたんだな』

順天:『あの人は…私を、子供扱いしているのでしょうね。何も知らない、何もできない…ただの、無力なお飾り』

響@:『確かに、決して子供扱いしていない……とまでは言えない……そこのところ、今なら問い糺してみてもいいのかもしれないな』

順天:『……』

響@:『……ただ、ひとつだけ言えることがある。もう、順天はお飾りなんかじゃない。これからの北洋水師は君が率いる』

順天:『……えぇ、そうです。私が、今度こそ』

響@:『これまで軽んじられてきたんだ。見返してやればいい。海威も、関東軍も、日本人も』

順天:『……教官』

響@:『……なんだい』

順天:『いえ、響さん。その口ぶり、ご自分の事は除外なさっているつもりで?』(少しニヤッとする

響@:『……ほう? それとこれとは話が別だぞ。砲戦の手管に関しちゃ、私から言わせれば順天はまーだまだヒヨッコだ』

順天:『あはっ… えぇ、そうでしょうが。しかし、響さんも日本人…私が憎く思い、見返したいと思う相手ですよ』

響@:『大いに結構。と言っても、私を見返すには満州国が……いや、押し付けられた借り物ではなく、君たちが認める、君たち自身の手で掲げられた旗が天にひるがえるとこまでやってもらわないと』

順天:『旗、ですか…日本では云うそうですね、錦の御旗を奉じると。私は、この大地に生まれたものとして…何を奉じるべきなのでしょうね。』

響@:『ふむ……故郷に奉じるべきもの、か。私は大陸の生まれじゃないようだから、多分、その問いに本当の答えは出せないだろうけど……いつも順天のすぐ側に、その答えをくれる人がいるんじゃないか?』

順天:『…オーリャですか?』

響@:『……う。き、訊き返されるとあれだな。別に誰がと言ったわけではないけれど……。まぁ、養民とか……趙君とか』

順天:『うっ……で、ですから、彼は無関係です!』

響@:『ま、まぁ、そういうことにしておこう。とにかく、順天の後ろには大勢の仲間がついてくるんだから。迷ったら相談すればいい』

順天:『…仲間、か。……私は、少なくともどう扱えばいいのか分からない人が二人います。一人は…教官です。これから、どう呼べばいいのでしょう』

響@:『海威と同じように「響ちゃん」と呼んでくれても構わないが……』

順天:『…本気で仰っていますか、響ちゃん?』

響@:『ごほん。冗談は置いといて……。でも、本当に好きに呼んでくれればいいよ。新しい辞令が出ない限りは訓練教官でい続けるつもりだから』

順天:『そうですか、では…これまで通り教官と呼ばせて貰います。後、あの女…私は、どう扱えばいいのでしょうか』

響@:『……それは、私にも何とも言えない。私のように雇われ顧問として、北洋水師での肩書を改めて得ることになるか……』

響@:『あるいは、関東軍の飛鳥のように提督や順天の私兵として飛び回ることになるか。はたまた全く別のところへ異動になるか』

響@:『……どうなるにしても、接し方は難しいな』

順天:『…今朝この部屋に入ると、“手引き”とだけ書かれた引き継ぎの資料が置かれていました。』

響@:『……随分投げやりだな。中身はちゃんとしてるのか?』

順天:『中身は何時もの海威さんらしからぬ…丁寧な内容でしたよ…昨日云っていた、新しい予算案も乗せてありました。』

響@:『ふむ。目を通すと事項別明細が一応あるだろう。納得できそう?』

順天:『余りにも詳細が書いてあって、どうしてこうなっているのか問い詰めたくなるほどですよ』

響@:『題字は必要最低限、中身はギッシリなんて……いつもの海威だな』

順天:『どうすればいいのでしょう…本当にあの女は』

響@:『丁寧に注釈があるとはいえ、予算執行に間違いがあっちゃ大変だ。……当面は質問攻めでいいさ。これまで説明してこなかったツケを払ってもらおう』

順天:『…そうですね、捨てる訳にはいきませんしね。だんだん腹が立ってきました… 今から海威の部屋に問い詰めに行きます』

響@:『その意気だ。海威が生意気なこと言ったら私にチクっていいよ。すぐに出雲に電報打ってやる』

順天:『はん…あの女の泣きっ面が今から楽しみで仕方ありませんね。では…相談に乗って頂きありがとうございます』(席を立つ

響@:『こんな相談でよければいつでも乗るよ。……といっても、私は今からまた少し水師営を離れるけれど』

順天:『分かっています、必要ならば兵を出せるように整えておきます。』

響@:『……あぁ、頼んだ。何が出てくるか分かったもんじゃないけど……連中に勘定は払わせる。絶対にだ』

順天:『…お願いします。』 (苦しい面持ちで頭を下げる

響@:「...Yes, Ma'am. My FlagShip.」ぴしりと敬礼して……踵を返して出ていく!

養民:「わっ…」(後ろ手に尻もちをつく

響@:「っと! ……ごめん!」助け起こす

養民:『…あの、あの…その…』

響@:『……私か? 順天に会いにきたか?』

養民:『…そ、その。起きたら…お姉ちゃんが居なくって、それで…ここに来たら教官と、お話してたから』

響@:『あぁ、すまない。待たせていたか。私の話は終わったから。……順天を頼んだよ』

養民:『う、うん……』(ちょっとさびしげな顔

響@:『すぐに片付けて戻ってくる。お茶菓子でも買って帰るよ。……それじゃ』

養民:「…せ、せんせい!」

響@:「……な、なんだい」

養民:「かえって、きてください。 そ、それだけです」

順天:『養民…教官はまた任務に戻るだけ。そんな顔する必要はないよ』 (養民を後ろから抱きしめながら

響@:「……あぁ、心配いらない。必ず帰ってくるさ。信じて待っていてくれ」

養民:『うん… お待ち、しています』

響@:こっくりと頷きだけ返して、満潮たちのところへ向かいます

順天:『養民、呆けている暇はない …水師を、私たちの手に取り返したのだから…だから、オーリャも教官に対して責任があると思う。』

養民:『…どういうこと、お姉ちゃん?』

順天:『…私たちが、教官を雇っているの。だから、教官にきちんと戻ってくる場所を用意すること… オーリャ、できるでしょ?』

養民:『…うん、うん!』

 

 

『教官のために私が』と気焔を立ち上らせる妹を、順天は既に手遅れに感じていた。 


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