扇矢萩子の捜査録~艦これRPGリプレイ~ 作:長谷川光
講演会の最中、突如として発生したトラブルに際しての発言を問題視された響は満洲国軍事教官として左遷されることになった。
これは彼女が教官として着任してからの三ヶ月弱の出来事を辿るものである。
『新天地』
上海から大連まで海路で移動し、そして大連から満洲鉄道によって一路北上した
満洲第二の都市であり一大軍事拠点、ハルビンである。
駅のプラットホームから改札口へと出てきた響の元に、陸軍っぽいカーキ色の上着を着た少女が近づいてくる。
**:『長旅お疲れさま、ようこそハルビンへ。』(中国語)
響@:「Привет。出迎えありがとう……。あなたは?」
海威:『私は海威、これでも北洋水師の旗艦ですよ。出雲先生から貴女の事は聞いています、響ちゃん。車を用意しているから色々と案内しますね』
響@:「あぁ、旗艦自らご足労いただいたとは……」
海威:『いえいえ、人手が全く足りないんですよ。』 (と、云いながら車に案内する
響@:「……少しでも力になれればと思うよ。改めて、特Ⅲ型駆逐艦、響だ。命により貴艦隊に身を寄せる。よろしく頼む」
海威:『特三型…かぁ、時代は進むね…ほんとうに、よろしく頼むね。』
海威:「さて…」(急に日本語
海威:「ごめんね、いきなり中国語でばってしゃべって。日本語を使っているところはあまり人には見せたくないのです。」
響@:「こちらこそすまない。私も配慮すべきなんだろうが、上海にいた頃も邦人居留区だったから、実はまだあまり……」
海威:「響ちゃんは英語ならしゃべれますか?」
響@:「ごく基本的な内容なら……」
海威:「なら大丈夫です、私の指示で水師内での公式文書だとか、命令だとかは英語で行うようにしています」
響@:「なるほど。急いで勉強しなおすとするよ」
海威:「お願いします、第二言語という形で中国語、第三言語に日本語を採用しているのでなんとかやりくりは出来るとは思うよ。…英語なんてしゃべれるか!って叫ぶ子もいるのだけれど…今の時世、好きであれ嫌いであれ一流・二流の区別なく海軍関係者は英語をしゃべれなきゃいけませんから」
響@:「確かに。私たちは艦娘だけれど、通常の海軍士官なら必須教養だったっけ。いかな形であれ、私も肩書がついてしまった以上は甘えていられないな」
海威:「ごめんね… 最初の頃は制限を掛けてなかったんだけれど、あまりにも日本人が日本語で威張るし、中国人が中国語でひがむものだから…」
響@:「心中お察しするよ。上海でも、そんな場面が少なからずあったからね……」
海威:「はは…ありがとう。こほん…兎に角、私は普段は中国語を第二言語で喋ってるってことです。話を続けるね、ここハルビンは重要な軍事拠点である上に資源的にも豊富なんです。」
響@:「ふむふむ」
海威:「東方には大炭田が広がる一方で、西方では数年前に大慶油田が発見されたんです。つまり、対日輸出の主要品目である重油を産出するここは…松岡満鉄総裁のいうところの日本の生命線なのです」
響@:「重油……?」
海威:「はい、重油です。作ろうと思えば軽油も」
響@:「そうか。……ふむ、話を続けてくれ」
海威:「はい、その石油の一部はハルビン北方を流れる松花(ソンホワ)江を利用して満州国内の化学企業の各工場、各軍の燃料庫に届けられます。なので、松花江の治安維持が北洋水師の最重要な任務となっています。今車で向かっているのは、私たちの松花江での警備拠点。ハルビン水師営です」
響@:「ふむ。しかし、河川防衛のための艦隊か。改めて大陸の大きさに驚くな……」
海威:「河川防衛…そうですね。遣支艦隊は揚子江と東シナ海ですから専用ではありませんからね。…そろそろ着きます。英語を話せる態勢になってくださいね」
響@:「ぱ、Понятно。……じゃなかった。アイシー」
海威:『その意気ですよ、響ちゃん』(英語)
GM:水師営と呼ばれる建物は、遣支艦隊の本部よりも小さいが赤レンガ造りの堂々としたものです。遣支艦隊本部と明らかに違うのは松花江に直接面して立地している点。江上では三人の艦娘と数隻の警備艇が演習しているのが見えます。
響@:『……見慣れない艤装だな。海と川の違いか』
海威:『うちの軍は、日本の陸軍と海軍のお古のハイブリッド状態ですから』(苦笑
響@:『なるほど。海防と比べて、河川の治安維持が後回しにされるのは仕方がないが……』
守備兵:『海威さん、ご苦労様です』
海威:『えぇ、今のところ深海棲艦の脅威も余りありませんから。 お疲れ様、あの子たちを招集してちょうだい』
響@:守備兵さんにはぺこりとお辞儀だけしておこう
守備兵:『了解です』 (響の方はじろっとみる
海威:『さて…響ちゃんには教官として来てもらってるから、それなりの部屋を用意しています。私としては、部屋に先に荷物を置いてから顔合わせをしたほうがスムーズかなっと思うのだけれど』
響@:『……Спасибо。そうさせてもらおう』
海威:『じゃあ、荷物を置いたら作戦室に来てください。提督もお呼びしなきゃいけないので』
響@:さっと荷物を置いて……響としては『それなりの部屋』がどのくらいなのか気になるけど
GM:将官クラスに与えるには少し狭い程度の、一般艦娘からしたら結構デカい部屋ですね
響@:とりあえずは作戦室に向かいます
GM:作戦室内には、海威を含めた四人の艦娘と一人の壮年男性が
響@:壮年男性は初対面だけど官報や新聞なんかでお馴染みの顔と思われる……!
尹提督:『君が響君か。私は尹祚乾。事務全般をつかさどっている』
響@:『特Ⅲ型駆逐艦、響です。このたび教官の任を拝命、貴艦隊所属となります』
尹提督:『わが軍は再編されたばかり…個としての練度はまだしも全体としての練度は足りていない。そこら辺を補ってもらえると助かる』
響@:『了解しました。艦隊型の艤装ゆえ、一部的外れな言もあろうがご容赦いただきたい。私も勉強するところから始めます』
尹提督:『そうか、頼むぞ。具体的な目標だが、来月の建国記念日に観艦式が行われる予定になっている、それまでに彼女らを恥ずかしくない程度にまで錬成してもらいたい。』
響@:『鋭意励行しましょう』
尹提督:『では…私からは以上だな。後は諸君らで話すといい。』 (後ろにいる海威に声をかけて出ていく
海威:『畏まりました。改めまして、私が海威。お揃いの服装をしている二人の内背の高い方が順天、もう一人は妹さんの養民。それから彼女が海王…これが、北洋水師が保有する全艦娘です』
海王:『アタシは海王、海威が来るまでは旗艦をやってたんだけれど…あんまり実力は無いからよろしく』
順天:『……初めまして、養民の姉の順天です。こっちでは変なことはしないでくださいね』
養民:『えっと?養民、です。よろしくです』
響@:『言葉遣いには気を付けるよ。……響です。改めて、よろしく。共に頑張りましょう』
海威:「さてと…響。さっき軽く言ったけれど石油の運搬を襲ってくる悪党どもを追い払う事が具体的な案件なんです。つまり、私たちの任務は匪賊追討、簡単に云えば満洲国内で略奪・殺人・強盗をする賊を取り締まることが主です。」
響@:「まるきり治安警察だな……」(日本語でぼそり)
海威:『うん。だから今まで以上に、砲を人間に向けることが多くなると思う…覚悟してて、味方面して急に襲い掛かってくる連中だとかもいる。その時はなるべく警察的に振る舞って』
響@:『わかった。実務的なノウハウは私が皆に教えてもらうことになりそうだな……』
海威:『そうなるかな。取りあえず今のところ伝えなければいけないことはこれぐらい。分からないことがあったら、私か順天に聞いてくれたらいいよ』
響@:『ふむ……とりあえず皆の警邏の仕事や演習に連れ回してもらうとしよう』
海威:『では…順天。案内して差し上げて』
順天:『…了解です、こちらへどうぞ』 (すっごい仏頂面
GM:順天に連れまわされること、数百キロ単位。 ソ満国境から、工場への搬入口等々
順天:『これらの水域を、私たち艦娘と警備艇を組み合わせて巡回…警護に当たっています』
響@:『人員数と比べて管轄区域が膨大だな……』
順天:『場合によっては、関東軍の騎兵部隊と合同で警護をすることもありますが…今のところそれは少ないです』
響@:『……ああ。関東軍の厄介にならないに越したことはない』
順天:『はい、私は絶対に借りたくありませんが…旗艦の命令なのでしかたなく』
響@:『……そういえば。海ではさんざ戦ってきたけど、こういった内陸の河川にも深海棲艦は頻繁に出没するのか』
順天:『はい、数年前までは頻繁に出没しました… しかし、ソ連による大規模征討の後は散発的に出現するほどです。ソ連アムール川軍団、もともとはこっちを監視するための小規模な部隊だったのが…それ以来陸海統合したウザい勢力として配置されています』
響@:『……ソ連、か。そうだ。大慶の油田の発見以来、ソ連側に変わった動きはないか?』
順天:『…露骨な南下主義者が軍団の司令官に就任したと聞いています。確か、プガチョーフという男で、関東軍は危機感を持っているようです』
響@:『……情報収集が必要だな』
順天:『…情報収集をする時間がないんです。察してくださいよ』(冷ややかな視線)
順天:『関東軍の奴ら、ハルビンに特務機関ってのを置いてるんですが…諜報をやってんだか、謀略をやってんだかよくわからない連中です。お題目は満州防衛のための情報蒐集らしいですが』
響@:「Чёрт。こんなときに彼らがいれば……」(日本語)
順天:「…?」
響@:『いや、すまない。上海にいた頃、私達のそばにそういうのが得意な人達がいたんだ』
順天:『そ…そうですか』
響@:『とりあえず、私たちに陰謀術数を弄している余裕がないのは理解した。観艦式よりもっと先を見据えた、本格的な練度を身に着ける必要があるな……』
順天:『…今の、練度に私自身も満足は出来てませんが……ここに居るなら頭はあんまり使う必要ないですよ、大抵は旗艦が勝手に進めますから』
響@:『ふむ……』
順天:『あの人、関東軍と結びついてるんです。人畜無害を装って、五族協和を謳うふりをしてるだけですよ…』
響@:『……そんなこと、私に話してしまっていいのか』
順天:『誰もが知ってることですし、何より…困ったことが起こる前に備えるのがここの流儀ですから。教官殿も、ご注意くださいな』
響@:『……肝に銘じておくよ』
順天:『…では、残りの巡回行程をこなして帰還します』
響@:『Понятно。よろしく頼む』
GM:そうして、着任初っ端からの巡回視察は終わる
ソ連も深海棲艦も特に怪しい動きを見せないまま、月日は経ていき九月十五日。
約一か月間での訓練・演習の結果、なんとか艦隊行動もさまになって来た北洋水師であるが… その日新人艦娘たちの顔は明るくは無かった
尹提督:『今日までの訓練の成果を見せる時が来た、いざ胸をはって…と、言ってやりたいところだが、大丈夫なのか?』 (顔色の余りの悪さに
海威:『響教官のおかげで、形にはなっています。後は胆力の問題だと思いますが…これまで衆目の目に曝されることは如何せん少なかったので…』
響@:『練度は充分です。陣形の切り替えも、艦砲射撃も問題なくこなせます。彼女たちなら』
尹提督:『これが、北洋水師として最初のお披露目だ。失敗は許されない…』
海威:『提督…そんなことは云わないで下さい。なんとか取り繕えたらそれでいいんですから』
順天/養民:『………』(ズーン
海王:『いや…旗艦殿、それはあんまりにも明け透け過ぎやしませんかね』
海威:『それぐらいでいいんですって、固いことは考えないで良いんですよ』
響@:『……これからのことを思えば、観艦式なんて通過点の一つに過ぎない。けど、私個人の都合としては、皆の披露が上手くいくのが、仕事の一区切りになるわけで……』
響@:『まぁその、頑張ってほしい。私のためにも。上手くいったら、ぱーっと美味しいもの奢るから』
養民:『ほ…ほんとですか!やったぁ!』
順天:『こら養民、はしゃがないの!』
養民:『ご、ごめんなさいお姉ちゃん…』(しょぼん
順天:『ま…その…教官の期待にはなるべくこたえますよ』
海王:『養民には甘いからなぁ…順天は。まぁ、そこそこ期待していてくださいよ』(肩を竦めながら
響@:『皆なら大丈夫。“満州は松花江に北洋水師あり”と、山河を越えて海の向こうまで轟砲を響かせてやるといい』
順天:『えぇ…いつまでも、舐められたくはないですから』
海威:『教官殿、いいお言葉ありがとうございます。』(時計ちらり)
海威:『観艦式まで猶予が無くなって来ました… 響教官。行ってまいります』(敬礼
響@:『…………』ビシッ
北洋水師:「…」(ビシッ
GM:そして、観艦式本番。上級官人から皇帝その人までを含めた滿洲国の権力者、関東軍の高級将校が見守る中北洋水師の訓練展示が行われる
警備艇が陣形移動をする間、高い機動力を持つ艦娘が攻撃態勢を取り威嚇射撃を行う
響@:(よしよし、見栄え良くやれてる……!)
砲艦・警備艇の砲撃が続き、再び四人が陣形を単横陣に切り替え対空射撃を始める。降ってくる対空射撃の的を海威・順天・海王の順にクリアしていくのだが…
養民:『え!?あれ、うそ!』
GM:一人、焦りのあまり射撃をミスりまくる養民
海威:『陣形変更…輪形陣! 輪形中心は養民、対空射撃…始めええ!』
響@:「…………!」
GM:的が養民の頭をこっつんするギリギリで三人の対空射撃が最後の的を破壊する。その後養民がぎこちないながらも、なんとかすべての訓練展示を北洋水師は完遂したのだった
響@:「Хорошо……よくやった、みんな……」
海威:『えぇ…何とか終わりました』
海王:『いやぁ…一時はどうなるかと思いましたが、なんとかなるもんですね』
順天:『…………』
養民:『うっ…あぐ、そのぉ…ごめんなさいぃ!』
響@:『……一から十まで完璧じゃなかったのは事実だ』
養民:『あぅ……』
響@:『けど、皆が助けてくれた。養民、反省点は自分で抽出できているね?』
養民:『はっ…はい!』
順天:『教官、それは甘くはないですか』
響@:『養民は今、「はい」と答えたから、厳しいことは明日言う。訓練も明日から増やす』
海王:『…マジですか』
響@:『けど、とりあえず呑みに行こう』
海威:『ですね、まずは今日の打ち上げをしませんとね』
順天:『二人とも…まぁ、養民の絞り方については追々話しましょう』
響@:『経験から、前もって言わせてもらうが……失敗を頭にチラつかせながら呑む酒は、もの凄く不味い』
海王:『はは…教官殿はよく分かっていらっしゃる』
響@:『けれど、その不味い酒を一緒に呑んでくれる仲間がいるというのは、いいものだよ』
養民:『えっと…結局、どっちがいいの?』
響@:『不味い酒もまた良し、ということさ』
海威:『養民、私たちは仲間なんです。考え方、信じるもの、そもそもの生まれ育ちも違うけれど…今は北洋水師として一緒に戦う仲間』
海威:『仲間、友人…表し方は色々あるかもしれないけれど近くにいる誰かを頼り頼られる。その一つが飲みに行くって形だと思うんです。』
養民:『よくわかんないけれど…楽しそう?』
順天:『はぁ…この子は全く…さて教官殿、どこに連れて行って下さるおつもりで?』(養民の頭を撫でながら
響@:『地元民のお眼鏡に叶うかは自信がないけれど、ハルビン市内に“紅蘭”ってお店がある』
海威:『あぁ、紅蘭ですか。見つけるのが早いですね』
響@:『……その様子だと大丈夫のようだ。ちょっと多国籍な、珍しい料理とお酒があるらしくて気になっていたんだ』
順天:『…紅蘭?多国籍…珍しい料理に酒?』
響@:『小さな五族協和を垣間見に行こう。朝鮮の料理やロシアの酒もあるらしい』
養民:『朝鮮の料理?美味しいのかなぁ…どんなのかなぁ』(わくわく
海王:『まぁ、行って好きなだけ頼めばいいだろ?なんせ、教官殿のおごりだそうですしね』
響@:『今日くらい甲斐性を見せてやるとも……!』
海威:『一応、私が最年長なんですから…半分は持ちますよ』
響@:『それには及ばない……と自信を持って言えないのが何とも』
順天:『旗艦、教官に恥をかかせたいの?貴女が今度驕ればいいだけじゃない』
海威:『そうなんだけれどね…海王が絶対呑み過ぎるのが今から見えているから…』
海王:『信用が無いですねぇ、旗艦殿』
響@:『……ふふっ。芸者をあげて大騒ぎするわけじゃないし、私一人で大丈夫だよ』
海威:『そうですか、解りました。今日の財布は任せますね』
GM:満州国建国を祝う北洋水師による観艦式は、なんとか成功裏に終わった
響@:『……では、北洋水師、ひととき錨を下ろしに行くとしよう』
GM:生まれも育ちも異なる彼女達、紅蘭に向かう時の姿は”仲間”としてのつながりがそこにはあった。
養民:『よぉ~し、何食べようかな~!』
順天:『こら養民、はしゃぎすぎないで!』
海王:『今日は飲むぞぉ!』
海威:『ふふっ…よかった』
とは云えども全員が互いに気を許したわけでも、互いの抱える一物を見せたわけでもないのだろう
海威:『これでご満足いただけましたか、石原閣下?』
まだ、歯車は動き始めたばかり
『新天地』 fin