とある自然豊かな町にて。小さな赤いポストの扉を開け、中身を見ると封筒が1通入っており、それを取ると修道女は笑った。その手紙を手に施設の中に入っていくと、施設に住む子供達が修道女の周りに集まってきた。
「せんせーっ!おてがみきたー!?」
「くるのー!?くるのー!?」
わらわらと寄ってくる子供達に修道女は笑うと、手紙を開け、中身を読み始める。
「あらまぁ、明日来るそうよぉ?」
「ほんとー!?あしたー!?」
「わーい!」
修道女の言葉に子供達は喜びの声を上げる。すると手紙を読んでいた修道女は「あら?」と呟くと、上品に笑う。
「お友達も来るみたいねぇ」
「おともだちー?」
「だれー?」
「男の子だって」
「「「おとこのこー!?」」」
男の子と聞いて、子供達はきゃあきゃあと騒ぎ出す。
「かれしかなー!?」
「えぇー!?できちゃったのー!?」
「もしかしてけっこんのごあいさつとかー!?」
「「「えぇ!?けっこんー!?」」」
「あらあら、うふふ」
少しませた女の子達の言葉を信じ切る子供達を見て、上品に笑う修道女は、まだ彼女が幼かった日々を思い出す。あんな小さな少女が友達を連れてくる日がくるなんて。余程信頼出来る友達なのだろう。楽しみだ。
『おかあさん!』
花の咲いたような笑顔は何年経っても変わらない素敵なチャームポント。小さな手で自分の家事を手伝ってくれた日々を思い出すと、自然と涙がつたい始めて、同時に成長を感じて胸がいっぱいになっていく。
「うっうぅう…!モコぉ…!成長しましたねぇ…!」
「あー!まざーがなきはじめたよぉー!」
「いつものことだねー!」
「ままぁーなかないでー!」
「ていうか、いつもモコねーちゃんくるたびなくよねー!」
「モ゛ゴォ!彼氏なんてお母さんは認めませんからねー!」
ここは、陽だまり園。親なき子、親に捨てられた子、様々な事情で育てられなくなった子供達を社会に出るまで育てる施設。
――――― 日辻モコの、世界で一番優しい優しい故郷
*** ***
「榊君、今週の土曜日モコの施設に来てみませんか?」
「え?どうしたの急に?」
舞網第二中学校屋上にて、母・洋子特製のパンケーキを食べようとした時、モコにそう言われて、目をパチクリと瞬きをさせる。モコは少し困った様に笑うと、理由を説明し始めた。
「実は今週の土曜日、月1で施設に帰っているんです。それでですね、お母さん、つまり施設の園長さんの手紙に『子供達は最近では榊遊矢君のデュエルが好きみたいです』って書いてあったんです」
「それってつまり…」
「施設の子供達が榊君のファンなんですよ!」
「それは嬉しいな!あ、だから一緒に来てほしいの?」
「そうなんです!」
ファンと言われて嬉しくない訳がない。嬉しそうな遊矢にモコは言う。
「普段からイベントとかない施設なので、どうしても楽しみが少ないんですよ…。だからこの通りです!」
お願いします!と両手をパンと合わせて、頼み込むモコ。施設の子供達を思って自分を頼ってくれた事を無下にする訳にもいかないし、何より頼られた事は嬉しい。
――――― 遊矢の答えは既に決まっていた。
「このエンタメの使者・榊遊矢にお任せあれ!」
「本当ですか!?わぁっ!子供達が喜びます!ありがとうございます!」
「俺のエンタメデュエルで子供達を笑顔にして見せるさ!」
「あ、うちの施設、リアル・ソリッド・ビジョンシステムないんで、アクションデュエルは出来ませんよ?」
「えっ!?」
「だから卓上デュエルになっちゃうんですけど…」
「そっか…それでも良いよ!デュエルを見せてあげれるなら!」
「ありがとうございます!それじゃあですね…」
遊矢がモコが施設出身だと聞かされたのは今から半年前の事だ。
柚子からモコの食事事情を聞かされ、遊矢もモコを自宅に連れていき、洋子の食事を食べている時に聞いてしまった。遊矢からすれば親が、洋子がいる事が当たり前で、父の遊勝がいなくなった後でも傍にいてくれたから考えた事もなかった。
そのどちらもいないという事は怖い事なのだろう。遊矢はモコを「すごい」と尊敬できる。だから支えられる事があったら支えたい、友達として。
「(モコが頼ってくれたの初めてだな…!)」
そう考えると嬉しくて嬉しくてしょうがない。やはり同性の柚子と比べると異性である自分とは多少の違いが出てきてしまう。でもモコは理由はなんであれ、柚子ではなく自分を頼ってくれた。それがもう嬉しいのだ!
「丁度3連休で、LDSもお休みですし、お泊りをしようと考えてるんです。もし良ければ何ですけど、お泊りセットを準備してもらえるとありがたいです」
「お泊りか!良いよ!母さんもきっとOK出すだろうし!何を準備すれば良い?」
「お着替えと歯磨きセットですかね!あ、デッキもお願いします!お布団とお風呂のタオルはあるので!」
「わかったよ!」
久しぶりに楽しめそうだ!
*** ***
ガタンゴトン、ガタンゴトンと揺れる電車の中でモコと遊矢は荷物を持ちながら座っていた。
「もうすぐ駅に着きますからねー」
「うん!楽しみだなぁ!」
「それにしても舞網チャンピオンシップへの参加権賭けたデュエルの最中に誘ってしまってごめんなさい…」
「良いよ!それにニコも休息は必要だって言ってたし!」
実は遊矢は現在、舞網市で行われるプロの登竜門と呼ばれる大会『舞網チャンピオンシップ』の『ジュニアユース』選手権への出場を目指して、デュエルで連勝をしているのだ。父の様なエンタメデュエリストを目指す彼にとっては大事な時期で、それを知らずに誘ってしまったモコは罪悪感に落ち込んだが、彼のマネージメントを務めるニコ・スマイリーの許可を貰って、何とか落ち込むのをやめたのだ。
なお、遊矢はモコには内緒にしているが、ニコには彼女が施設出身で子供達の為に自分を誘ったと説明すると、ニコは大泣きでOKを出してくれた。なんて話の分かるマネージャーだろうと遊矢はニコに感謝した。
「それにしても結構離れた所にあるんだね、施設」
「そうですね、舞網市と比べると結構田舎ですよぉ。でもその分自然が豊かで、のどかな所ですよ!」
「舞網市は建物多いからあまり自然見ないしね。楽しみ!」
「自然育ちの子供達はパワフルですよ~!あ、次の角右です」
電車を降りて、道を歩いていく2人。近代的な舞網市とは真逆に自然が多く、空気も澄んでいる。道はコンクリートではなく土で出来ており、周りを見れば畑で農作業している老夫婦が見えて、遊矢は良い所だと笑顔になる。
トコトコと歩いていくと、徐々に賑やかな声が遊矢の耳に入ってきた。
「あそこです!陽だまり園!モコのマイホームです!」
「おぉ!結構大きい!」
モコの指差した先にはクリーム色の壁が特徴的な建物が経っており、声の主達はそこにいるのだろう。道を歩いて、入口の前まで行くと庭では子供達がきゃっきゃと遊んでいた。
久しぶりの施設の姿に喜ぶモコ。すると、遊んでいた子供の1人が入口前に立っているモコと遊矢を見つけて、声をあげた。
「モコねーちゃんだー!!」
「えっ!?モコおねえちゃん!?ほんとだー!」
「モコちゃーん!おかえりー!」
「となりにいるのって、さかきゆうや!?ほんものー!?」
「ぺんでゅらむのおにいちゃんだー!」
「ままぁー!モコおねえちゃんかえってきたよー!」
モコと遊矢を見つけるなり、きゃあきゃあと駆け寄ってきた子供達はあっという間に2人の周りを囲み、ちょっとした騒ぎになってきた。
「モコおねえちゃんおかえりー!あいたかったー!」
「モコも会いたかったですよー!」
「ねぇねぇ!ほんとーにさかきゆうやなのー!?」
「本物だよ!」
「ねぇねぇぺんでゅらむかーどみせてー!」
「アハハッ、後で見せてあげるよ!皆、元気だなー!」
「「「げんきだよー!」」」
「モコ!」
落ち着いた女性の声が施設の方から聞こえてきた。そちらを向くと、施設の女の子に手を引かれてやってくる黒い修道女服を着た女性。その女性を見ると、モコは嬉しそうに名前を呼んだ。
「お母さん!」
「えっ、お母さん?」
という事は園長さん?遊矢は駆け寄ってきた女性を見た。園長はモコに近寄ると、彼女はモコをぎゅうと抱きしめた。
「お帰りなさい、私の可愛い娘」
「ただいま、お母さん」
抱きしめてくる園長の背中に腕を回し、久しぶりの対面を味わうモコ。遊矢は2人の再会を穏やかな見守っていた。お互いの存在を確かめる様に抱きしめ合う2人は親子にしか見えない。例え血の繋がりがなくとも、立派な親子だ。
園長はひとしきりモコを抱きしめると、体を離し、少し皺が目立つ手で彼女の頬を撫でた。
「元気そうでなによりだわ。シスターとの生活は楽しい?」
「とても楽しいです!友達もいますし!あ、そうだ!彼が手紙に書いてあった榊遊矢君です!」
モコの視線が遊矢に向くと、遊矢は一礼した。園長はモコから離れ、遊矢に近づいていくと彼の前に立ち、微笑んだ。
「初めまして、榊遊矢君。私はこの施設の園長をしている『
「は、初めまして!榊遊矢です!」
ゆっくりと優雅に礼をする美影園長に見惚れつつ、慌てて遊矢も礼を返す。――――― 上品な人だ。美影園長は所々に少し皺はあるものの、上品な顔立ちと雰囲気がとても素敵で、まるで英国に住んでいそうなご婦人に見える。穏やかそうな感じはどことなくモコと似ている様な気がした。
「今日は来てくれてありがとうね。こんな田舎だけど、楽しんでいってね」
「は、はい!お邪魔します!」
「ゆーやおにいちゃんあそぼー!」
「えー!さきにぺんでゅらむかーどみたいよー!」
「はいはい、皆~!まず荷物置かせてくださいねー!」
「「「はーい!」」」
モコの一声で子供達は、2人を施設の方へ引っ張って行く。その後ろ姿を美影園長は穏やかな眼差しで見つめ、そして遊矢の背中を見た。
「…そろそろ私も本気出さなくちゃいけないかしら…?」
*** ***
「ゆーやおにいちゃんあそぼー!」
「わーいっ!おにいちゃんおにねー!」
「分かったから落ち着いてね!うわっ!力強…ッ!」
「モコねーちゃんもー!」
「はーい!怪我しないでねー!」
パワフルな園児達と鬼ごっこしたり、
「かぶとむしー!」
「くわがたー!」
「あ、へらくれすおおかぶとだー!」
「えっ!?そんなのまでいるのこの木!?」
「大きいですねー」
虫取りをしたり、
「しごととわたし、どっちがたいせつなの!?あのおんなはなに!?」
「ち、ちがうんだ!はなしをきいてくれ、みよこ!」
「わたしのほうがかれをあいしているの!だからあなたはようずみなのよー!」
「あなたとはもうおわりね!ひどいっ!あいしていたのにー!」
「何でままごとが浮気現場に!?」
「最近の流行らしいですよぉ」
何故か浮気現場を再現したままごとをしたり、
「ぴんくのかばさんかわいいー!」
「ディスカバー・ヒッポだよー」
「むらさきのにゃんにゃーん!」
「トランポリンクスだよー」
「ぺんでゅらむかーど、はじめてみたー!」
「どらごんかっこいー!」
「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンだよ!俺のエースモンターなんだ!」
「ふわぁ…!仲間が増えましたねぇ。私が知ってるのはヒッポちゃんだけでしたから」
「なんかわからないけど、ペンデュラムカードが増えたんだよな…」
「不思議ですねー」
「ねー」
カードを机の上に広げて見たりした。園児達は明るく、パワフルで、人懐っこい。笑顔が可愛らしい子供達の体力を間近で見て、遊矢は「あ、年取ったな」と年寄りくさい事を思った。
そして、遊矢は数時間後には…。
「ゼーハーゼーハー…ッ!ヒュー…ヒュー…ッ」
「あらあら、大丈夫ぅ?遊矢君」
「あ゛、あ゛い゛…」
施設内にある畳の部屋で、うつ伏せの状態でゼーハーゼーハーと苦しそうに息を荒げていた。もはやグロッキーである。何とか体を起こして、美影園長から渡された冷たい麦茶を受け取ると一気に飲み干す。ずっと砂漠の中を歩いて、やっと見つけたオアシスと言う名の麦茶は遊矢の人生の中で一番美味しかった。
「ぷはぁっ!生き返るぅー!」
「うふふ、うちの子供達は元気でしょう?自然育ちは体力あり過ぎて、私追いつけないのよぉ」
「お、俺もギリギリですけど…」
うふふと上品に微笑む美影園長は遊矢の隣に座ると、庭で子供達と遊ぶモコを見つめた。
「…ねぇ、遊矢君」
「なんですか?」
「貴方はどこまであの子の、モコの事を知っているの?」
「え?」
遊矢が美影園長の方を振り向く。美影園長はただモコを見つめている。
「ど、どこまでと言いますと…」
「全部かそうではないか。それだけよ」
「…えっと、全部は知らないです」
「そう」
美影園長はポケットからとある物を取り出すと、それを遊矢に渡した。それは一枚の写真だった。
「これって…」
「可愛いでしょう?幼い頃のモコと私の写真」
今よりももっと幼い顔立ちで、可愛らしい笑顔でピースをするモコとモコの肩に両手を置いて、笑う美影園長の写真。何とも穏やかで微笑ましい写真だが、遊矢は気づいてしまった。
――――― この写真に写るモコと今のモコの違いを
「…モコの目ってオッドアイだったんだ…」
「そう、まだここにいた頃のモコはね、前髪で目を隠していなかったのよ」
そう、写真に写る幼いモコの前髪は右斜めにピンで分けられており、普段から隠れているその目はちゃんとその写真に写っていた。右目は水色、左目は黄色。大きな左右の瞳は色が違う事を、この日初めて遊矢は知った。
「初めて見た…」
「でしょうね。モコはこの目が原因でこの施設に来たんですもの」
「えっ」
驚く遊矢を尻目に美影園長は語りだす。
「あの子は元々両親からの虐待を受けていてね」
「虐待…!?」
虐待などニュースでしか聞いた事がない遊矢はまさか友達がそんな事を受けていたを思っていなかった。美影園長は続ける。
「あの子の生みの両親は、言い方は悪いけど頭のネジが緩い人で、計画性もなく子供を作って出来たのがモコなのよ。しかも生まれた子は目の色が左右違う子供。2人は2歳までは辛うじて育てたんだけど、結局目の色が違うせいで気味悪がっちゃって後は完全放置。殴る蹴るは当たり前、食事はまともに食べさせない。劣悪な環境でモコは4歳まで育ったの。でも生みの両親は飲酒運転をして交通事故で死んじゃってね。いわゆる罰が当たったって考えても良いと思うの。その後、警察の方がモコを連れてきたってわけ」
「……」
あまりに壮絶、あまりに現実味のないその話に遊矢は唖然とした。ありえないと言いたいが、写真に写るモコの瞳は左右色の違うオッドアイ。それを気味悪がった両親による虐待。美影園長の作り話にしては出来が良すぎる上に、その顔は嘘を語っていない。
つまり、それは紛れもなく事実だった。
「…知らなかった」
「それで?どう思った?」
「え」
ショッキングな話に現実逃避をしそうな遊矢を引き留めたのは美影園長のその言葉。彼女の方を見ると、美影園長は真剣な眼差しで遊矢を真っ直ぐ見つめる。
「気持ち悪いと思った?それとも怖いと思った?」
「そ、そんな事…!」
「それを私の目を見て、ちゃんと言える?」
遊矢は言葉に詰まった。美影園長の瞳は真っ直ぐに遊矢を射抜き、嘘は許さないと語るそのシルバーの瞳は本当に先程まで上品に微笑んでいた女性のものなのか。まるで遊矢を見定めするかのように美影園長は静かに遊矢の答えを待つ。
――――― 遊矢は考えていた。
「(…びっくりしたな)」
それが素直な感想だった。初めて聞いた、モコの過去。彼女がどうして前髪で目を隠しているのか、どうして施設で育ったのか。「どうして」が沢山頭の中に出てくる。いつも彼女は前髪で目を隠していても、にこにこ微笑んでいたし、穏やかで、争い事が嫌い。そんなモコの過去は、遊矢にとってはショックでしかない。
でも、それでも自分は―――――
「…正直に言うとビックリしたっていうのが素直な気持ちです」
遊矢は美影園長の方へ体を向け、正座をして、そう告げた。美影園長は何も言わずに彼の言葉を聞く。
「でもそれでモコの事を気持ち悪いとか怖いとか嫌いだとかは思いません。この気持ちに嘘偽りはないです」
今度は遊矢の目が真っ直ぐ美影園長を射抜く。
「俺はモコの友達です。モコといるのは楽しいし、何より俺の夢を応援してくれている大事な人です」
遊矢は微笑む。
「俺の父親は周りから逃げたと言われてます。俺が違うと何度も言っても殆どの人は逃げたと言うんです。だから俺の夢を馬鹿にする人も沢山いました」
瞼を閉じれば思い出す、忌々しい、悪意のある言葉達。
『臆病者の息子』
『父親と同じエンタメデュエリスト?なれるわけないだろう?』
『逃げたチャンピオンの息子が何言っているんだよ、馬鹿じゃないねぇの?』
何度言われただろう、何度傷ついただろう、何度泣いただろう。悪意の茨たちは幾度もなく幼い遊矢の小さな胸を貫き、傷つけ、締め付けてきた。
それでもまだ夢を抱けるのは、仲間が、友達が、母が応援してくれるおかげ。勿論、その応援してくれる人達の中にモコはいる。
「モコは俺の夢を一度も馬鹿にした事はありません。笑って、真っ直ぐ俺を見て『すごいね!』って言ってくれたんです」
あれは半年前。静かに彼女に語った夢を、決して馬鹿にせず、純粋にすごいと言ってくれた彼女。言葉に表現できない程、嬉しかった。
「単純だと思われるかもしれません。それでもモコは俺の友達です。かけがえのない友達です。だから美影さん」
遊矢はそこで言葉を一旦区切ると、ゆっくりと美影園長に対して頭を下げた。
「貴方の娘さんを嫌う事なんてありえません。だからこれからも友達でいさせてください」
――――― お願いします。
静かな時間が流れる中、暫くすると美影園長は上品に笑った。
「うふふ、まるで娘さんくださいって言われてるみたいねー」
「えっ!?あ、いやっ、そういう意味じゃ…!」
「ありがとう」
美影園長の言葉に慌てて顔を上げ、顔を真っ赤に染めて戸惑うが、美影園長は頭を下げていた。それに遊矢はポカンとした。
「良かった、貴方が友達で。私、どうしても心配だったの。あの子…モコは人一倍臆病なのよ。自分の目が普通の人とは違うってわかってるから。だからこそ前髪で隠すのは一種の盾、あの子にとっては自分を守る為の鎧なのよ」
「鎧…」
「怖いから、他人を不快にさせるから、理由なんていくらでも作って隠して、守っているのは自分の心。誰だって嫌でしょう?悪口言われたり、裏切られたりするの」
だからモコはずっと守ってきた。今の日常を、友達を失わない為に。
「だから試すような真似をしたのよ。勿論、勝手にあの子の過去を喋った事はいけない事だけど、どうしても知っておいて欲しかったの。ごめんなさい」
「あ、謝らないでください!俺、モコの事を知れたし、何よりやっと本当の友達になれたっていうか…!」
「それじゃあ遊矢君」
「は、はいっ!」
美影園長はうふふと笑うと、ガシャンッ!と左腕に藤色のデュエルデイスクを装着した。
「デュエル、しましょうか♡」
「え…………えぇえええええええええ!?」
遊矢の絶叫が、陽だまり園中に響いた。
*** ***
「ままぁー!がんばってー!」
「ゆーやおにいちゃーん!ぺんでゅらむしょーかんみせてー!」
「こんなちかくででゅえるみるのはじめてー!」
「…ど、どうしてこんな事に…?というか、いつリアル・ソリッド・ビジョンシステム導入したんですか?」
陽だまり園の施設裏にあるとある建物。そこはモコも知らない、いつの間にか建てられた建物であり、中は広々としていて、モコ達は観戦席に座っていた。フィールドの中心には微笑む美影園長と、戸惑いの表情を隠せない遊矢の姿が見える。
「驚いたでしょう?実はこの前、システムを導入したのよぉ」
「え!?システム高いでしょう!?」
リアル・ソリッド・ビジョンシステムはアクションデュエルには必須の機械。当然、値段も高く、最新のシステムを提供しているLCの物は高いが、高品質で、他の会社の物はLCと比べると値段こそは安いものの、どっち道値段は普通の人が頑張って働いても正直買えるか買えないかのギリギリの値段だ。
遊矢達、遊勝塾の場合は遊矢がストロング石島とのエキシビションマッチに出たおかげで無償で貰った物だが、陽だまり園の場合はそこまでお金があるとは思えない。
だが美影園長は言った。
「実はねー昔、私のお世話になった人がね、無償で導入してくれたのよぉ」
「無償で!?」
「やっぱり人との縁とか出会いとかって大事にしなきゃねー」
微笑む美影園長にモコと遊矢の背中に寒気が入る。あれ?おかしいな風邪かな?何故か聞いちゃいけないと脳が警報を鳴らす。
「さぁ、デュエルしましょう!私、アクションデュエル久しぶりだからワクワクしちゃうわぁ!」
「あ、あの…何でデュエル…」
「だってぇ!私だってペンデュラム召喚みたいんですものぉ!」
何て子供っぽい理由なんだろう!遊矢は思わずショックを受けるが、子供達からすればいつもテレビの向こうで見ていたデュエルが生で見れるのだ。わくわくとした顔が遊矢の視界に入ってくる。
――――― やるしかないのだ
「美里ちゃーん!おねがーい!」
「はい!シスター!」
システムの始動部屋に座る女性に声をかける美影園長。女性は指示通りに機械を操作し、ボタンを押した。
「アクションフィールドON!フィールド魔法『ステンドグラス教会』!」
シュインッと音を立てて、システムによってフィールドが作られていく。その名の通りステンドグラスで出来た窓とシャンデリアが煌びやかな教会。美影園長の後ろにある窓には十字架のオブジェが輝く。
「始めましょうか!」
「は、はいっ!」
ふぅと息を吐いて、遊矢は口上を言った。
「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ、これぞデュエルの最強進化形」
「「「あくしょ――ん!!」」」
「「デュエル!!!」」
遊矢は知らない。このデュエルにかける美影園長の思いが。
モコは知らない。美影園長が何故遊矢にデュエルを申し込んだのか。
美影園長は教えない。――――― このデュエルは母として、モコを育てた人物として、彼を見極める事を。
………とかなんとか、かっこよく言っているが、簡単に言えば『娘に彼氏はまだ早い』ということだ。
モ「はわぁ…お母さんのデュエル、初めて見るですー」
遊「俺からしたら園長さんが怪我しないか心配だけど…」
モ「それよりも次回!次回やっとまともなデュエル描写が出てくるんですよ!?その方がビックリじゃないですか!」
遊「そうなんだよね!あ、ライフ計算とか、カード効果間違ってたら教えてね!」
モ「結構ライフ計算、間違えちゃうんですよね…。デュエルディスクは自動計算してくれるけど…」
遊「あはは…。とにかく次回は俺と美影園長のデュエル!」
モ「榊君にも頑張ってほしいし…でもお母さんも頑張ってほしいぃ…!あぁどっちを応援すれば――!?」
遊「モコ落ち着いて!それじゃあ次回!まよつじ第7話『迷える子羊の母として』!お楽しみに!」
モ「もっこるんるーん!です!」