遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

5 / 41
皆様のご声援、いつも感謝してます!モコが人気で嬉しいです!
合言葉は~?もっこるんるーん!!


第3話 迷える子羊とスイートボーイ

モコはその日を非常に、非常に楽しみにしていた。気のせいか、前髪の向こうに見える朝日が眩しい。肩から下げられた鞄の中から最後の新聞を取り出し、ゴトンとポストの中へと入れた。これで今日の新聞配達は終了。モコはスキップしながら、新聞社へと戻っていく。

 

『舞網新聞社』と書かれた看板がついた建物の中へと入っていくと、事務室の扉を開けた。

 

「新聞配達、終わりましたー!」

 

「おーモコちゃん、お疲れ様~」

 

モコを事務室で出迎えたのは、この新聞社の社長を務める伊集院次郎。右の頬から鼻にかけて、大きな傷跡が特徴的なダンディなおじさんだ。よっこいしょと言って立ち上がると、白い封筒を机の引き出しから出し、それをモコに向ける。

 

「ほらよ、今月の給料」

 

「わぁい!ありがとうございます!」

 

白い封筒を受け取り、大事そうに両手で抱えるモコ。わーいわーい!と喜飛び跳ねてぶモコの姿に次郎は笑いながら、見つめる。…主にジャンプで上下に揺れるモコの胸を。

 

「そういやぁ、今回は何を買うんだ?またモヤシか?」

 

「違いますよぉ~今回はカード買うんです!今までの節約のおかげでお金が貯まったんですぅ!」

 

今まで給料が入る度にモヤシを購入していたモコ。今回はこの給料で、待望のカードショップでカードを購入するのだ。

 

「舞網市中のカードショップを見に行くんです!その日はLDSの授業はありませんし、ゆっくーりショップを見れます!」

 

「そうかいそうかい、モコちゃんが嬉しいとおじさんも嬉しいよ」

 

うふふと笑うモコを優しい眼差しで見る次郎。…相変わらず視線の先は胸だが。

 

「それでは!今日もありがとうございました!失礼します!」

 

「おつかれちゃーん」

 

事務室の出入り口の前でぺこりと礼をして去っていくモコ。その後ろ姿(尻)を見送る次郎。モコが部屋の中からいなくなると、次郎はふぅーとため息を吐き、新聞を広げ読み始める。

 

「モコちゃん、すーっかり元気になっちまったなぁ。ちっせぇ頃はお前の足に引っ付いて隠れてたってのに」

 

「私の子だぞ?当然じゃないか。あと、モコを厭らしい目で見るな。除外するぞ」

 

「どこを?」

 

音もなく現れたのはモコの育て親であるシスターだった。はぁと息を吐く次郎は、かさりと新聞を一枚めくる。

 

「モコちゃんはお前に育てられた癖にあーんな真面目でかわいーく育っちゃって。おじさんが後20歳若かったらアプローチしてたんだけどな」

 

「刺すぞ」

 

「おいおい、その馬鹿でかい包丁構えるなー。流石のおじさんも死んじゃう」

 

ブンブンと空気を切る音を立てながら、馬鹿でかい包丁を振り回すシスター。一体どこにそんな力があるんだろうか?

 

やめてーと棒読みで言いながら、新聞でガードの構えをする次郎。その情けない姿にシスターは呆れた様にため息をつくと、包丁を振るのをやめ、目を細めて次郎に尋ねた。

 

「で?わかったのか?誰がモコをLDSに入れた(・・・・・・・・・・・)のか」

 

「…結構わかりやすかったぞ」

 

次郎は新聞を机の上に置き、引出しから一枚の紙をシスターに渡す。

 

「おかしいとは思っていたんだ。デュエルセンス以前にデッキがないモコが、どうしてLDSが少ないとはいえ優遇まで与えてモコを入れたのか。当然だが私の給料でLDSに通わせる事など造作もない。だが馬鹿みたいな値段のする入塾料まで免除だぞ?さすがに変だろう?」

 

「そうだよなぁ。それは俺も変だと思って調べたら、面白い事が分かってなぁ」

 

「面白い事?」

 

「その用紙見て見ろ」

 

次郎に紙を指差されて、シスターは怪訝な顔で紙の内容に目を通す。そして、

 

「あ゛ぁ?」

 

女性とは思えない、地の底から出した様な低い声がシスターの口から発せられた。

 

「面白いだろう?だってさぁ…」

 

次郎はクックックと喉を鳴らす様に笑うと、言った。

 

 

「LDSの最高責任者兼LCの2代目社長様がモコちゃんをスカウトしたんだから」

 

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

「今日は良いカードがあると良いですねーうふふ」

 

今にも踊りだしてしまいそうな程胸が高鳴って仕方ないモコは舞網市の街中を歩く。うふふと微笑むモコは視界に入ってきた物に、ピタリとその足を動かすのをやめた。

 

「……そういえば最近舞網市はピリピリしてますねぇ」

 

そう呟いて、辺りを見渡すモコ。一見、普段と変わらない街並みだが、先ほどからモコの視界にチラチラと入ってくる、少し街並みと合わない制服が気になっていた。あれはLCの制服組と言い、LCで選ばれたエリートデュエリストが所属する自衛団の様な存在だ。LDSでも教員が何名か制服組の服を着ているのを見た事がある。

 

普段は街のパトロールなどを行っているが、ここ最近険しい顔で何かを探している様な表情を浮かべていた。

 

「おかしいですね…制服組はパトロールやイベントなどの警護などでしか見ないんですけど…ここまで人数がいるのは見た事がないです」

 

「へぇーあの人達、制服組って言うんだ」

 

「そうなんです、強いデュエリストさんが集まっててですね…あれ?」

 

モコ、誰に説明しているんでしょう?それに気づいたと同時にドンッと腰辺りに軽い衝撃がやってきた。

 

「きゃっ」

 

「やっほー!モコ、こんなとこでなにしてるの?」

 

「ひっ!」

 

後ろから聞こえてきた声とお腹に回された手に、モコの背筋に寒気が走る。サーッと体温が下がっていくのを感じつつ、モコは恐る恐る後ろを向き、腰へと目線を下げると、そこにはにっこりと可愛らしく笑う少年。

 

モコの後ろから腰に抱き付いてきたのは、モコの天敵(イケメン)・素良だった。

 

「ひ、ひぃいいいいっ!イケメンッ!」

 

「あ、逃げちゃだーめ♡」

 

「ひょぇえええええ!」

 

ぎゅーっと腰に抱き付く素良に逃げようとするモコ。どうにか逃げようとするが、腰に抱き付かれている為に逃げられない上に、イケメンに触れないので押しのけるという事も出来ない。完全にモコは逃げ道を塞がれた。

 

「意外とモコってお腹細いんだねー、でもお尻はちょっと大きいかも」

 

「セクハラですぅうううう」

 

「あ、大丈夫だって!ちゃんとお嫁さんに貰えるって!」

 

「普通のお顔な公務員の人とモコは結婚したいですぅぅううう」

 

「へぇ、公務員が良いんだ~珍しいね、普通だったらプロのデュエリスト~って言う人多いと思うんだけど」

 

「ごくごく平和で平凡な家庭を築きたいですぅううううう」

 

「うぅ…」と情けない声を出すモコ。ひとしきりモコをからかい終わった素良は「おもしろかったよぉ」と言うとモコの腰から離れ、モコの前に移動する。

 

「で?なんでここにいるの?」

 

「う、うぅ…実はカードショップを見に行こうと…」

 

「カードショップ!なに?カード欲しいの?」

 

「そ、そうです…モコ、まだデッキないですから…」

 

「デッキがない?モコってLDSなんでしょ?なんでないのさ?」

 

「実は…」

 

モコはなるべく素良と目を合わせない様にしながら、自分がデッキを持っていない理由を説明すると、素良は目を見開いた。

 

「お金がないからデッキないの!?うっそ!」

 

「嘘じゃないですよぉ…だからカード買いに行くんですぅ」

 

「LDSの授業で使うでしょ!?」

 

「実技の授業の場合は先生にデッキ借りてるんです…実技のテストは免除されてますけど」

 

「ありえない…ボクが前いた所じゃデッキくれたのに…」

 

「育った環境は人それぞれですぅ…」

 

「うー…」と落ち込むモコに素良は少し考える素振りを見せた後、何かを思いついた様に「あ」と呟くと、モコに言った。

 

「じゃあさ!ボクとカードショップ見に行こうよ!」

 

「へっ?」

 

名案と言わんばかりに言った素良にモコは固まる。

 

「ボク、舞網市に来たばっかだし分からない所もあるんだよね!モコはずっと舞網市にいるんでしょ?」

 

「ま、まぁ…そうですけど…」

 

「じゃあ他のカードショップとかある程度わかるよね?」

 

「はい…」

 

「だったらモコが案内してよ!」

 

「はいぃ!?」

 

突然の素良の提案にモコは驚くが、その反応は素良の想定内の答え。素良はにーっこりと笑うと話を続ける。

 

「その代わり!ボクがモコのデッキ構築のアドバイスをしてあげる!ねっ、これならボクもモコも利益はあるでしょ?」

 

「イ、イケメンが私のデッキ構築のアドバイス…!?」

 

――――― それはつまりイケメンと話したり話したり話したり…!?

 

イケメン恐怖症であるモコにとっては拷問同然の苦痛。当然モコは断るつもりだ。しかし断りの返事を入れるよりも前に素良が言った。

 

「ねぇ、モコ。…今の君、大っ嫌いイケメンであるボクとこうして会話出来てるって気づいてる?」

 

「はっ!」

 

言われて気づいた。モコは目を合わせない様にしているとはいえ、宿敵・イケメンの素良と会話できている上に成立しているのだ!それに気づいた時、モコはわなわなと震える自分の両手を見た。

 

「そ、そうです…!イケメンと会話が出来ているのです…!何故…!?」

 

「それってつまりさーボクは大丈夫って事じゃない?」

 

「はうわっ!?」

 

ピシャーンッ!と雷に打たれた様な衝撃を受けたモコ。例えそれがイケメンで年下の素良でも、会話出来ている。それは即ち、

 

「と、年下イケメンを克服したんですか、モコは…!?」

 

「おめでとー!」

 

「や、やったのです!モコは年下イケメンを克服したのです――――!!」

 

きゃーっ!と両手を上にあげて大喜びするモコにパチパチと拍手を送る素良。―――――しかし、この反応、まったくもって素良の想定内過ぎる反応である。

 

「(わあ、モコってチョロ過ぎ~)」

 

喜ぶモコに拍手を送る一方で、内心こう思う素良。モコが怯えるのも、モコが自分とカードショップ巡りを断ろうとするのも、モコが年下イケメンを克服したと思って喜ぶのも。全て素良の想定内。この反応をわかった上で素良はカードショップ巡りを提案したのだ。――――― 恐るべし、紫雲院素良。恐るべし、年下イケメン。

 

「モコ、ボクと一緒に行くよね!カードショップ巡り!」

 

「喜んで!」

 

「それじゃあ行こうか!」

 

そう言って、素良はモコの手を握った。

 

「…はえ?」

 

「なにボーッとしてるの?」

 

「あの、手…」

 

「当然でしょ?デートなんだから」

 

…デート?その言葉を聞いて、モコの頭の中で辞書が引かれる。

 

【デート】(読み:でぇと)

・夫婦もしくは交際している男女もしくは交際する前の男女が出掛ける行為の事である。

 

「…あるぇ?」

 

「行っくよー!」

 

「え、ちょ、きゃあっ!あ、あの!イケメ、じゃなくて紫雲院君!?」

 

「素良で良いよー!」

 

手を繋がれたまま、走り出す素良。引っ張られるモコ。舞網市内を1人の少年と1人の少女が走る。

 

「まずどこ行こうか!腹ごしらえでもする?ボク、おすすめのパンケーキショップあるんだけどさー!」

 

「あわわわわ…!そ、素良君…!手!手離してください…!あれっ!?カードショップ巡りは!?」

 

「あっそれともアイスが良い?ケーキもあるし、クッキーのお店もあるよ!クレープの方が良いかな?」

 

「話を聞いてください!手を離してくださいぃいいいい!私、施設の男の子以外と手繋いだ事ないんですー!」

 

「へぇ!良い事聞いちゃった!じゃあボクがモコの初めての男って訳か!えへへ、奪っちゃった♡」

 

「なんか言い方がおかしいですよ―――――――!!」

 

こうして、素良とモコの奇妙なデートは始まったのである。

 

 

 

「あれって日辻…?それに手を繋いでいる奴は…!こ、これは沢渡さんに報告せねば!!」

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

「あ、モコ!あの店なぁに?」

 

「アレはジュースのお店ですよー。この前雑誌に載ったとかなんとかで今、女性に大人気なんです!」

 

「へぇ~!あ、あっちは?」

 

「あっちはですね~…」

 

 

「クレープ美味しいね!」

 

「あぅう…すみません、奢ってもらってしまって…」

 

「良いよ気にしないで!あ、モコのイチゴクレープ美味しそうだね~一口食べていい?」

 

「良いですよぉ、はいあーん」

 

「あーん」

 

 

「あれ?モコそっくりの女の子のポスターがあるねー」

 

「あ、これはですね、最近人気の恋愛ゲーム【でゅえるぷらす】、略して【でゅえぷら】です。この主人公がモコそっくりーって一時LDSで噂になりましたねー懐かしいです」

 

「ふーん…」

 

 

「はい、到着です!ここが舞網市で最も品が豊富な施設、舞網モールです!」

 

「そうなんだ~。カードショップは何階?」

 

「5階です!カードショップ『マドルチェ~甘味殴り~』です!」

 

「わぁ、物騒な名前!」

 

 

――――― 舞網モール

品が豊富な上にコンサートホールやレストラン、スポーツクラブなどの施設が揃った舞網市に住む人間なら一度は行った事があるであろう大型モールだ。

屋上には親子連れが楽しめる簡易的な遊園地があり、休日となれば親子連れで溢れかえる舞網モールで、最も人気なのは5階にあるカードショップ『マドルチェ~甘味殴り~』である。

 

エスカレーターで5階まで上がると、そこには大きな【マドルチェ・ホーットケーキ】の像が置かれた広いカードショップが素良の眼に飛び込んできた。

 

「わぁ…!大きいね!」

 

「このカードショップ、5階全てが店舗なんです!」

 

「えっ!5階全部!?それってすっごく広いじゃん!」

 

「そうなんです!種類も多い上、初心者や子供でもカードが手に入りやすい様に、他のお店よりも格安でカードが買えるんです!」

 

「赤字にならないのかな?」

 

「ここの店長さん、商売上手ですから」

 

さぁ、行きましょうと素良の手を握ったまま歩き出すモコ。店の中へと進むと、卓上のデュエルスペースがあり、その周りを囲むようにショーケースの中でカード達が眠っているかのように飾られている。

既にいくつかのデュエルスペースではデュエルをしている人達がいた。

 

「ではモコ達はデュエルスペースではなく、近くのテーブルに移動しましょう。デュエルスペースを使うと他の人達に迷惑がかかってしまいますから」

 

「そうだねー」

 

「モコちゃんなの!」

 

すると甲高い声が2人の後ろから聞こえてきた。振り返るとそこには4歳くらいの子供がモコと素良を見て、翡翠色の瞳を輝かせていた。黒い猫耳帽子が特徴的で、髪はモコと同じ白髪。その子供に素良は首を傾げるが、モコは明るい声で子供の名前を呼んだ。

 

「鈴蘭ちゃん!こんにちはです!」

 

「モコちゃんこんにちはなの!」

 

「モコ、このちびっ子だぁれ?」

 

「この子はこのショップの店長さんの甥っ子さんで店長代理の【白樺鈴蘭(しらかばすずらん)】ちゃんです!」

 

「店長代理!?」

 

「そうなの!てんちょーだいりをしている鈴蘭なの!スズてんちょーってよんでなの!」

 

まさかの店長代理の登場に素良は鈴蘭の顔を見て、質問を投げかける。

 

「君、何歳?」

 

「ことしで12さい!」

 

「はぁ!?12!?」

 

「ちなみにおとこのこなの!」

 

「はい!?」

 

おかしいでしょ!と素良は抗議する。性別はともかく、鈴蘭の見た目は完全に4歳、せめて頑張っても5歳くらいだ。素良の腰までしか身長がない。それなのに今年で12歳、つまり小学6年生だ。

 

「鈴蘭ちゃん、昔から変わらないですもんねー」

 

「えへへー」

 

「変わる変わらない以前の問題でしょ!?成長止まってんの!?」

 

「それよりもモコちゃん、今日は何の用なの?もしかして『でーと』ってやつなの?おてて、つないでるし」

 

「あ」

 

鈴蘭に言われて、モコは今まで素良と手を繋いでいた事をやっと思い出した。

 

「そ、そういえば繋いでましたね…手」

 

アハハと笑ってモコはするりと素良の手を離す。それに素良は「あ…」と何故か名残惜しそうに小さく呟いた。

 

「…にゅ?お兄ちゃんどうかしたの?」

 

「っな、何でもないよ!それよりもほらっ!デッキ構築のアドバイスしてあげるから奥のテーブル行こっ!」

 

「あわわっ!背中押さないでくださいー!鈴蘭ちゃん!奥のテーブル借りますねー!」

 

「はいはいどうぞなのー!」

 

ぐいぐいとモコの背中を両手で押し、逃げる様に去っていく素良とモコ。その2人の姿を鈴蘭は首を傾げながら、見ていた。

 

「あのお兄ちゃん…まるでおててつないだの、はじめてみたいなおかおだったの~…」

 

あれれ~?と左右に首を傾げる鈴蘭は「まいっか!」と考えるのをやめ、トコトコと店のカウンターの方へと向かって行った。

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

「と、いう訳で!紫雲院素良と!」

 

「日辻モコの~?」

 

「「デッキ構築のアドバイス~!!」」

 

パチパチパチと拍手する2人。まるで『突撃!隣の晩御飯』的なテンションで始まったアドバイス講座はこうして始まった。

 

「まずデッキ構築で大事な事は【デッキのイメージ】を固める事!」

 

「はい!素良先生!質問です!」

 

「どうぞ!」

 

「イメージと言ってもどうやって固めればいいんですか?」

 

「そんなに難しい事じゃないよ!例えば…」

 

素良は自分のデッキを出すと、何枚かカードをテーブルの上に置いていく。

 

「ボクは【ファーニマル】と【エッジインプ】っていう名前の付いたカテゴリーを使うんだ」

 

そう言って見せてきたのは可愛らしい羊のイラストが描かれた『ファーニマル・シープ』とチェーンの塊がモンスターとなった『エッジインプ・チェーン』。ファーニマルシリーズは可愛らしいが、エッジインプシリーズは怖い印象をモコに与えた。

 

「それぞれ名前が違うんですよね?デュエルする時、名前が違うと少し不便なのでは?」

 

「そこは大丈夫!ファーニマルとエッジインプは2つで1つ、お互いに良い効果を与えるんだよ!ほら、見てごらん」

 

素良が指差したのはファーニマル・シープのカード。

 

「シープの効果はシープ以外のファーニマルモンスターがあれば手札から特殊召喚出来るのと、シープ以外の自分フィールドにいるファーニマルモンスターを1体手札に戻して、自分の手札・墓地から【エッジインプ】モンスターを特殊召喚出来るんだ」

 

「ファーニマルモンスターなのにエッジインプモンスターを呼び出せるんですね!」

 

「その通り!そしてファーニマルモンスターとエッジインプモンスターで融合召喚を行う!」

 

素良はデッキの近くに置いたエクストラデッキから1枚のカードを取り出し、置く。

 

「これがボクの融合モンスター【デストーイ・チェーンシープ】!他にもいるけど、チェーンを素材として融合召喚出来るのはこの子だね!」

 

「おぉふ…きゅ、急にスプラッタなモンスターになりましたね…」

 

「そう?可愛いと思うけど?」

 

モコが顔を少し青くするのも仕方ない。何故なら紫色の枠に囲まれたそのカードに描かれたイラストは体からチェーンが溢れ出し、ギョロッとした目を持つボロボロになった羊のぬいぐるみの様なモンスター。それを可愛いと言った素良にモコは多少だが引いた。

 

「ゆ、融合するとデストーイって名前になるんですね」

 

「うん!他にもデストーイ達をサポートするカードもあるよ!でも無理にカテゴリーで纏める必要はないよ。例えば属性で纏める、種族で纏めるっていうのもありだし」

 

「なるほどなるほど~」

 

「後は使ってみたい召喚法とかで決めるとかもありだよ!」

 

「使ってみたい召喚法…」

 

使ってみたい召喚法と聞かれて、モコの脳裏に浮かんだのは煌びやかな宝石の騎士達を堂々と操る真澄の姿。

 

「…融合召喚を使ってみたいです」

 

「へぇ!もしかしてあの真澄ってお姉ちゃんと友達だから?」

 

「それもあるんです。…けど、その、すごく馬鹿げた理由なんですけど…」

 

「なになに?笑わないから教えて!」

 

モコは赤くなった顔を両手で覆うと、ぽつりとその理由を呟いた。

 

 

「…ま、真澄ちゃんとお揃い…にしたくて…」

 

 

きゃっと照れるモコ。実は憧れていたのだ、お揃いというものに。勿論エクシーズもシンクロを使ってみたいのだが、1番初めて使う召喚法は真澄と同じ融合召喚にすると心に決めていたのだ。

 

「…いいんじゃない?お揃い!」

 

「え?」

 

「だってボクともお揃いだよぉ?」

 

「あ、確かに…」

 

机の上に置かれたカード達。デストーイ・チェーンシープは融合モンスター。当然素良も融合使い。そう、真澄だけではなく素良ともお揃いになるのだ。

 

「それじゃあイメージは固まったね!融合召喚をベースにしたデッキ!」

 

「はい!」

 

「じゃあ次は使いたい融合モンスターを決めたいけど…どの子が良いかなぁ?」

 

融合モンスターと言っても様々なモンスター達から選ぶのはなかなか難しい上に決めにくい。この広い店の中でモコは選べるのだろうかと素良は密かに思う。

 

だがモコは、困った様に笑った。

 

「実は…このお店にはいない気がするんです」

 

「…え?」

 

その言葉に素良はポカンとする。素良の反応にモコはアハハと苦笑いになった。

 

「その変な話なんですけど…このお店にあるカード達に運命を感じないんです…」

 

「運命?」

 

「勿論、このお店のカード達は魅力的です。ですが…それだけじゃ物足りないって言うか、胸にポッカリ穴が開いた様な違和感があって…」

 

何度か店長に言って、モコはショーケースに飾られたカード達に触れた事がある。融合、シンクロ、エクシーズ、儀式…それぞれ魅力的で、いつか自分もこんなカード達の様な素敵なカードを使ってみたいと何度思った事か。

 

しかしそれだけなのだ。カード達の様な素敵なカード、モコの運命のカードは未だに見つからない。

 

 

「おかしいですよね?こんなのだから、いつまで経ってもデッキが出来ないのかなぁって…」

 

「おかしくなんてないよ」

 

「え?」

 

どこか諦めたかの様に笑うモコの言葉を素良は否定した。驚いた様に自分を見てくるモコに、素良は笑顔で言った。

 

「運命のカード、良いじゃない!ロマンチックでボクは好きだよ」

 

「…素良君…」

 

「ボクのデッキは与えられた物だけどさ、自分でデッキを1から作り上げるって素敵な事なんじゃないかな?しかも沢山のカードの中で運命の1枚を見つけて作り上げるのはもっと素敵な事だよ」

 

―だからさ、そんな諦めたみたいに言わないでよ

 

素良はそう言った。モコは暫くポカンとしていたが、その言葉に自分の頬が段々と緩み始めていくのを感じていた。

 

「良いんですかね…?ロマンチストで…」

 

「個性なんて人それぞれだよ」

 

ぱちんとウィンクで言葉を返す素良にモコは花が咲いた様な笑顔で笑った。

 

「ありがとうございます!素良君!私、いつか運命のカードを見つけてみます!」

 

「その調子!それじゃあみっちりアドバイスしてあげるから覚悟してね!」

 

「はいっ!素良先生!ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします!」

 

 

奥のテーブルでは、その日楽しそうな笑い声が絶えなかったと、後に鈴蘭は語る。

 

 

 

 

 

「なーんでボク、あんな事言っちゃったんだろうねぇ…」

 

帰り道。素良は今日の出来事について、そう言葉を零した。モコは真面目に素良のアドバイスを聞いて、アドバイスを参考にします!と幸せそうに言って家に帰って行った。本当に幸せそうな顔で、笑っていた。

 

「…あーあ、本っ当にボクって優しいなー」

 

ガリガリと棒付きキャンディを噛んでいくと、口に広がる甘さ。その甘さは何故かモコを思わせる。

 

「…そういえば言うの忘れちゃった」

 

素良は足を止めると、自分の右手を見た。その手は、その右手はモコの手を握った手だった。モコの性格を表したかの様なあの温かい手を。

 

 

 

 

「ボクも女の子の手、握るの初めてだよーって」

 

 

 

 

あの牢獄の中にいたら感じる事はなかったであろう、その優しい温かさは少なくとも素良に影響を与えていた。しかし素良はその手をぎゅっと閉じると、今頃家に着いたであろう少女に一言呟いた。

 

 

 

 

「……ごめんね、モコ」

 

 

 

 

―――――― ボクはいつか君を悲しませる人間なんだ

 

 

 

 

 

その小さな懺悔は、吹いた風に消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モ「はうわぁ…今回はイケメンと沢山お話しちゃいました…!こ、これで少しは克服できましたかね!?」

素「さぁ?それはどうだろうねぇ?」

モ「ひぃいいいいっ!やっぱり駄目でした―――――!!」

素「まったく…せっかく人がデッキ構築のアドバイスしてあげたってのに、その反応はないんじゃない?」

モ「うっ、うぅすみません…」

素「さぁーて!次回のまよつじ第4話は、モコに沢渡が接近するよぉ!」

モ「またもやイケメンッ!?モ、モコは生きていられるでしょうか…!?」

素「さぁ?それはモコ次第じゃない?」

モ「ですよね――――!!じ、次回!第4話『迷える子羊と沢渡さん』でお会いしましょう!」

素「それじゃあ皆、行くよー?合言葉はー?」

モ「もっこるんるーん!」



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。