――― ナジェンダ。苗字不明。
大半を男が占めるセキュリティで、数少ない女性のセキュリティであり、なおかつとある部署の『部長』。セキュリティの長官・ロジェに次いで、2位の権力を持っていると噂されているが、実際に彼女はセキュリティに入ってから5年で現在の地位になった有能な人物だ。権力の関しては噂ではないかもしれない。
何より彼女がセキュリティ内で有名なのは、その部署所属という事と美貌だ。
揉み上げに桃色のメッシュが入ったプラチナブロンドの長髪に少しツリ目気味な青い瞳。陶器の様に滑らかな肌。何より目を引くのがメロンを詰めたような大きな胸。グラビアアイドルも真っ青なグラマラスなボディーを持つ彼女に下心を持って近づく男も、彼女目当てで彼女の部署に入ったセキュリティもいる。しかしナジェンダの部署を知れば、男は逃げ、彼女目当てで部署に入った者は後悔する。
――― ナジェンダは セキュリティ一 過激で残酷な部署『拷問部』の部長だからだ。
麗しい見た目とは裏腹に彼女は笑顔で、愛用する茨付き鞭を振るい、囚人の返り血を浴びても笑顔笑顔。ずっと笑顔。
と、同時にナジェンダは一種のコレクターであった。
彼女は無類の「可愛いもの」好きである。ぬいぐるみは勿論、ベット、ベットのシーツ・布団・枕・枕カバー、ベットの骨組み、部屋の壁床、シャンデリア…エトセトラ。そして無機物だけではなく、人間も彼女は「可愛い」ならば愛した。
男女性別年齢問わず、コモンズトップス構わず、ナジェンダは「可愛い」を愛した。
故にそれ以外には一切興味がない。だからこそナジェンダは笑顔で、数々の罪を犯した囚人達を痛めつける。その姿を誰かが「微笑みの貴婦人」と言ったが、正確には「微笑みの『鬼』婦人」だろう。
これが、ナジェンダがセキュリティで恐れられる理由である。
「と、言う訳だ・か・らっ……連れてきてね!」
きらりんっ!と効果音でも付きそうなくらい眩しく愛らしい笑顔を見せる上司に部下のセキュリティ2人は「は、はぁ…」と何とも言えない返事をした。
上司に呼ばれたこのセキュリティ2名は「拷問長から任務だ」と聞かされ、てっきり凶悪犯を捕まえるかと思いきや、まったく全然違う任務を課せられた。
「ご、拷問長…質問よろしいですか?」
「どうぞ~」
「あの、もしなのですか…拒否された場合は…」
「ん~そうねぇ…あ、でも私連れてきてって言ったよね?」
「はぁ…」
「だ・か・らっ―――――」
――――― 自分の首がどうなるか、わかってるよネ……?
「「と、言う訳なんで本当に一生のお願いですから来てください!!!!!」」
「は、はぁ…」
「…はたらくおとなはたいへんなの…」
きっちり90度。深く深く頭を下げるセキュリティ2名にモコと鈴蘭は心底同情した。変な上司を持つと部下が苦労する。現に2人は首が落とされる未来でも予想してしまったのか、ガタガタガタと小刻みに震えている。実に哀れだ。
セキュリティ2名の後ろには黒光りする高級車、所謂リムジンが止まっている。つまりはこれに乗ってナジェンダの所まで来てほしい。モコと鈴蘭が来ない場合は彼らの首が飛ぶ。
モコはカウンター席でコップを拭くゼットの方を振り向いた。
「と…言う事なんですけど…行っていいですか?」
モコの質問にゼットは穏やかに微笑んだ。
「えぇ、良いですよ。行かないとそこの2人の首が本当の意味で飛びますからね」
「だ、そうなので行きます」
「「よっしゃぁああああああああああああああ!!」」
職務を忘れ、喜びの涙が流れるセキュリティ2名。実はこの2人、同期の親友同士で、養成所からずっと一緒である。故に先程まで「死ぬ時は一緒だお☆」と言い合った。だが彼らは救われた。1人の心優しい少女のおかげで。
「ありがとう!ありがとうございます!」
「ありがとう!」
「あ…それはよかったですねぇ…」
土下座して感謝する2人にモコは戸惑うしかない。それ程2人にとって怖いのだ、ナジェンダは。
リムジンの中では相当良い扱いを受けた。美味しいジュースとお菓子とフルーツの食べ放題で、ソファはふかっふか。VIP気分に浸りながら、モコはフルーツをちびちびと食べていた。鈴蘭とシロはすっかりドーナツに夢中である。
「そう言えば…ナジェンダさんはどう言ったお方なんですか?昨日会ったばかりなので…」
「ナジェンダ様…拷問長はその名の通り『犯罪者を拷問する部』の部長です」
「ひぇっ!?拷問!?」
現代でも聞かない不穏な言葉にモコは跳ね上がる。
「はい。しかも5年で幹部クラスまで上り詰めた天才でもあります。普通なら10年かかるものをあの人は半分の年月でやり遂げた異例中の異例」
「更にはセキュリティでも数少ない女性なので、我々としては憧れではあるのですが…」
と、そこでセキュリティ2名は口籠った。モコと鈴蘭が首を傾げる。
「ですが?」
「どうしたの?」
「……拷問長はその美貌と苛烈さから有名ですが…もう1つ、とある事で有名なんですよ」
「なにそれ?」
鈴蘭の無垢な眼差しにセキュリティは「うぐっ」と苦しそうにすると、硬い口を開いた。
「………………と、年下好きでして……」
「「………………は?」」
*** ***
「いらっしゃぁ―――い!待ってたわぁー!」
セキュリティが扉を開けた瞬間、モコ達の視界に入ってきたのは豪華な服を纏ったナジェンダだった。まるで英国の貴婦人が着るようなボリュームのあるスカートにパフスリーブ。鍔の広い帽子には桃色の薔薇のコサージュが飾られている。どこからどう見ても高級な物であろう衣類を着たナジェンダは、きらきらとした笑顔で両腕を広げながらモコ達を迎えた。
「さぁっ!入って入って!今日のために色々と用意したのよぉ!」
「お、お邪魔します…」
「な、なの…」
まるで初めて友達が家に遊びに来て気分が上がっている少女の様なナジェンダのテンションの高さに引きつつ、モコと鈴蘭は足を踏み入れた。部屋の中にある家具も全て高級品だ。テーブル、クローゼット、ベット、ランプ、シティが一望出来るガラスの窓。同じ様に多額の金と権力を持っている零児の社長室はもっと殺風景だった。あれとは真逆でモコは目がチカチカした。
「今日はねっ!モコちゃんと鈴蘭ちゃんの為にぃ!とーっても美味しいお菓子とお茶取り寄せたのよぉ!」
「(と、取り寄せ…!?)」
「さっ!さぁ!座って座ってぇ!」
「は、はひ…」
取り寄せなど新聞やチラシでしか見た事ないモコは眩暈を覚えたが、何とかナジェンダに案内された席に座る。大きな長方形のテーブルの上には綺麗に飾られたスコーンやクッキー、ティースタンドに乗った様々な色のマカロン。スイーツだけではなく、サラダや肉料理と言った主食も存在している。まるでパーティーでも開いているかの様に錯覚する程の料理の多さ。こんな量では流石にモコと鈴蘭とシロだけでは食べきれない。
「ど、どうしましょう…こんなに沢山食べれないんですけど…」
「ぼ、ぼくもむりなの…」
「きゅー…」
「あ、別に残しても良いからねぇ!私のメイド達が食べるからぁ!」
きゃはっと笑うナジェンダにモコ達は苦笑いで返す。恐る恐る菓子に手を伸ばし、モコはぱくりと一口食べた。
「…あ、美味しい…」
「なのっ!おいしいの!」
「きゅきゅー!」
ぱくぱくと食べていくモコと鈴蘭とシロ。ナジェンダはそれをニコニコと微笑みながら見ていたが、傍に置いてあったデュエルディスクをちらりと見ると少しだけ顔を顰め、「チッ」と小さく舌打ちすると立ち上がった。
「ごめんねぇ~私、急に仕事が入っちゃったのぉ~!ちょぉ~っと行ってくるわねぇ!」
「あ、はいっ!」
「(ぱくぱくぱくぱくっ!)」
うふふと上品な微笑みを絶やさないナジェンダはカツカツとヒール音を出しながら、扉に向かい、モコ達にひらひらと手を振った後、部屋を出て行った。
部屋から出たナジェンダは部屋の外にいた白い服を着た男性ににこりと微笑んだ。
「おじい様方がお呼びですって?」
「はい。連れて来る様にと」
「そう…。で?どうしてくれるの?」
「はい?…がっ!?」
ガシッ!!
ナジェンダの言葉に首を傾げた男性の視界に入ってきたのは華奢な掌で、ガッ!!と顔面を掴まれた。華奢な掌とは裏腹に異常に強い握力で、男性がかけたサングラスがミシッミシッと悲鳴を上げる。突然の出来事と痛みに狼狽える男性に向かってナジェンダは上品に微笑んだままだ。
「なのねぇ…私の嫌いな物知ってるわよねぇ…?」
「ナッ…ナジェンダざまっ…!おやめくださ…ッ!!」
ミシッ…!
「『楽しい事邪魔される』の大ッ嫌いなの」
「アッ…!アガッ…!!」
ミシミシッ…!
「――――― 『また』減らすわよ」
バキィッ!!!!!
「……あっ、やっちゃったわぁん。―――まっ、いっか!!」
そう言ってナジェンダはとある場所を目指した。
*** ***
「おいっ!いつまで俺達を待たせる気だ!!いつ来るんだよ!その貴婦人ってのはよぉ!」
「お、おい…沢渡…!」
苛立ちを隠せない沢渡の声が行政評議会内に響く。慌てて遊矢が注意するが、いつまで来ない貴婦人とやらに少しだけ苛立っているのは彼も同じだった。
―――セキュリティに捕まった遊矢達は収容所から色々とあって此処、行政評議会の建物にいる。行政評議会の面々にはいつの間にか零児から話は通っていたは良いが、何と遊矢がセキュリティの長官・ロジェによってシンクロ次元で最も大きな大会『フレンドシップカップ』の前夜祭でシティ最強のジャックと戦う事になった。
話はこれで終わりの筈だったが、評議会の議長である老人・ホワイトタキが『もうすぐここに貴婦人が来る』と言うので、全員は外に出る事も出来ずにずっとここで待たされているのだ。未だに来ない貴婦人にランサーズの面々は苛立ち始めているが、3人だけ別の反応をしていた。
2人は顔を青ざめて、1人は機嫌良さそうにしていた。
あまりに極端な反応の違いに顔を青ざめた2人―クロウとシンジに遊矢は声をかけた。
「クロウ、シンジ…だ、大丈夫…?具合悪いの…?」
「色んな意味で具合が悪いぜ…」
「あぁ…まさかここにあの女が来るとはな…」
まるで化け物でもやってくるような反応に遊矢は首を傾げた。
「あの女…?」
「お前達は知らねぇに決まってるよな…。あの鬼姫の事を…」
「おにひめ?誰の事?」
「―――セキュリティで一番怖い奴さ…。あのロジェよりも、あの議長よりも恐ろしい奴の事だ」
「名前はナジェンダ。セキュリティである意味唯一、俺達コモンズもトップスも裁ける切り裂き姫。それが―――」
「あら、嬉しいっ!私の噂をしてるなんて感激だわぁ!!」
バンッ!
扉が勢い良く開かれる。全員が振り返った。逆光で姿は見えないが、コツコツと一歩ずつ歩いてくる度にその姿が露わになる。クロウとシンジが青褪め、1人が嬉しそうに表情を変えた。
豪華なドレスを身に纏い、豊かな胸を揺らしながらやってきた美女。突然現れた美女に遊矢達は固まるが、1人だけ、冷静を保っていたロジェがカツカツとナジェンダに近づいていった。
「ナジェンダ!貴方もこちらに呼ばれたのですね!これは光栄だ!貴方もこの者達を裁きに」
「邪魔」
バッサリ。近寄ってきたロジェを一言で斬ったナジェンダは彼の横を通り過ぎて、遊矢達の元へと向かう。戸惑う遊矢達。ナジェンダは遊矢の手前で止まると、にっこりと微笑んだ。
「貴方達ねぇ~?ランサーズとか言う集団って」
「あ、アンタは…」
「ナジェンダって言うのよん!気軽にナジェンダお姉ちゃん、もしくはナジェンダお姉たまって呼んでねぇん!あ、私より年下の坊やとお嬢ちゃんだけね!年上と可愛くないのはアウトだからぁ!」
「は…はぁ…?」
「あ、そう言えば何で呼ばれたんだっけぇ?タキおじ様~私、何で呼ばれたのん?」
遊矢達に微笑んだ後くるりと回ってタキの方へと向く。にっこり笑顔のナジェンダと同様にタキは一見穏やかな老人の笑顔で彼女を見た。
「いえいえ、貴方がまた新しい子を入れたと聞きまして…今度はどんな子なのかと」
「それはそれはとーっても可愛い子達よん!小動物感が溜まらなくてねぇ!もっこもこなのよぉ!」
「…ん?もっこもこって…」
ナジェンダの言葉に遊矢は妙に引っかかった。もっこもこ。そんな言葉が合う人物など1人しかいない。―――そう、今遊矢(と言うかユート)が探してやまないあの少女。
「名前、モコちゃんと鈴蘭ちゃんって言ってぇ~」
「やっぱり!!!」
嗚呼、神よ!何故このタイミングでモコと鈴蘭が敵(っぽい人)に捕まっているのですか!?遊矢の脳内でこの言葉が突如として出てきた。通りでクロウ達に探してもらって、収容所でも見つからない訳である。トップスのお偉いさんに捕まっていたらそりゃ見つからない。
彼女の言葉を聞いて、頭上で自分同様に手錠(超ミニサイズ)を付けられているユートの目がギラつくのがわかる。見えていなくても殺気が出ているのがわかる。そして黒咲もナジェンダを睨み付けている。どうしてエクシーズ次元のデュエリストはこうも、すぐに手が出そうになるのだろう。まぁ、状況が状況で仕方ないと遊矢はため息をついた。
「あらん?知り合い?もしかしてお友達?」
「え、えっと…」
「貴様ァ!!俺の弟子に何をするつもりだ!!!」
「黒咲!?」
突然怒鳴り声を上げたのは黒咲だった。普段から鋭い目を更に吊り上げ、怒りの籠った目でナジェンダを睨み付ける。
「ナジェンダに何と言う口を!」
「あら、イケメン君はモコちゃんのお師匠さんってわけ?」
ロジェを手で制し、ナジェンダは笑顔を崩さず、黒咲に話しかける。
「そうだ!俺の弟子に何をするつもりだ女ァ!!」
「ん~?そうねぇ~?」
ナジェンダはわざとらしく口に指を当てて、考えるふりをすると、言った。
「お・し・え・な・いっ」
「ふざけるな!!」
「あ、それよりロジェ。この子達…あー、そこのペンデュラム下げてる子の罪状は?」
「トップスの敷地侵入とセキュリティからの逃亡、それから収容所脱走です」
ロジェの言葉に遊矢は敷地侵入はしていないと反発しようと口を開けようとしたが、それよりも先にナジェンダは初めてこの場で顔を顰め、言った。
「はぁ?敷地侵入ぅ~?だったら別に罪にならないでしょ?」
「…はい?」
「え…?」
予想外の言葉にロジェと遊矢が固まる。ナジェンダは続ける。
「どーせ、トップスのご婦人が通報でもしたんでしょぉ?もしその敷地侵入が明確な犯罪目的があるなら話は別だけど…彼が『迷子』だったらどうするのよぉ?」
「ま、迷子…?と、言うと…?」
「馬鹿ねぇ。このシティはバカみたいに広いのよぉ?コモンズならともかく、彼コモンズじゃないでしょぉ?見た事ないし。つまり彼は異国の人間。…このシティの格差社会を知らない彼が『間違えて』敷地に入った場合どうするのよぉ?」
「そ、それは…」
「そもそも聴取したのぉ?その様子だとしてないわねぇん。罪状関係なく問答無用に逮捕するから私の収容所の部屋足りなくなるのよぉ!?どうしてくれんのよ!」
ガミガミガミ。急に始まったナジェンダの説教にロジェは完全に狼狽えている。彼女は『遊矢をコモンズで見た事ない』と言った。つまりそれは彼女はコモンズの人間を全て覚えているという解釈も出来る。
驚く面々など放っておいて、ナジェンダは一頻りロジェに説教をすると、ふぅ…とため息を吐いた後、遊矢達を見た。
「ごめんなさいねぇ。そこの君。手錠の鍵持ってる?」
「い、一応は…」
「全員外して」
「は?」
近くにいた評議会の部下にそうナジェンダは言った。その発言に今度は遊矢達だけではなく、タキを除いた評議会の長達も驚いた。
「ナジェンダ?何を言っているのですか?」
「言葉通りですわ」
「しかしそれは」
「ご安心を。あくまで外すだけです。そもそも外した瞬間、逃げようなんて考えたら…」
と、そこまで言ってナジェンダは袖の中から何かを取り出した。それは一本の長さ10cm程度の細い棒で、彼女が軽く棒を宙に投げた。上がった棒を遊矢達は目で追う。棒はカシャンカシャンッ!と音を立てて、長さがナジェンダと同じ背丈程の長さになると、更にもう一度カシャンッと音を立てて、何かが出てきた。
それは――――どこからどう見ても鎌の刃だった。
真っ赤に染まった鎌の刃は確実に草刈などで使うサイズではない。デカイ。鎌はくるくると回転しながら徐々に下に落ち、ザクリと鎌の先端が固い床に刺さった。
「――― 即座に私の『
にっこり。上品な笑みのまま、そう告げたナジェンダにこの場にいる全員戦慄した。そんな彼らの様子に気にする事なく、ナジェンダが鎌の持ち手を掴み持ち上げる。
「もう一度言うけど…手錠、外して?」
「畏まりました!!!」
生命の危機を感じたのだろう部下はせっせと遊矢達の手錠を外していく。全員外し終えた瞬間、部下は逃げる様に下がった。生命の危機を感じたのは外された遊矢達も同じで、誰も『逃げる』という選択をしなかった。否、出来なかったの方が正しいだろう。例えナジェンダの言葉が脅しだとしても、もし逃走した場合、彼女から『逃げれない』と本能が叫ぶのだ。
「んじゃあ…君で良いわ。赤いマフラーのイケメン君」
「…私ですか?」
「えぇ。モコちゃんに会わせてあげる」
「なっ、何で赤馬零児だけ…!」
「あ、それからこの猫ちゃんも連れていくね!」
ひょいっと抗議した遊矢の頭上からユートを奪ったナジェンダ。その際にナジェンダはこっそりと遊矢に小声で呟いた。
「後で貴方にも会わせてあげる」
「!」
「んふっ」
ガタガタガタとナジェンダに対する恐怖で微かに震えるユートを抱えたナジェンダは出入口を目指す。出入口を通る寸前で、ナジェンダは足を止め、振り返り、
「それじゃあ皆さん」
「――――― ゴキゲンヨウ」
にっこりと、笑った。
――― 同時刻 融合次元にて
「ふぅーん…これが『ランサーズ』って言う奴等の写真ねぇ…」
とある部屋。椅子に座った少年はピッピッとデュエルディスクを操作し、先程やってきたオベリスクフォースから受け取ったデータを見ていた。画面には名前、顔写真、使用するデッキが出されており、少年はつまらなそうに見ていたが、ある人物のデータを見た瞬間、ぴたりと操作をする手が止まった。
「何この子?」
少年が見たのは、自分よりも少し小さそうな背の少女だった。真っ白な髪におっとりとした瞳。見た目から穏やかで気弱そうな性格だという事が溢れ出している少女―――モコのデータを一通り見た少年は言った。
「ふぅーん…日辻モコちゃんかぁ……」
――― にたり
彼は、笑った。
それはそれは愉快そうに笑みを浮かべた。まるで子供が新しい玩具を見つけた時の様な、獣が獲物を見つけた時の様な、非常に愉快だと言わんばかりの笑み。
「新しい玩具――――この子に決ぃーめたっ」
彼の後ろでナニカが動いた気がした。
その者―――赤き悪魔の竜を操りしデュエリスト
―――王の覇気を持ち
―――全てを支配する
―――絶対王者
次回 第29話『迷える子羊とトップ・オブ・キング』
鈴蘭「なんてシリアスなかんじだけどいつもどうりなの!!」