遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

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まよつじ、帰還であります!!('×')ゞノロノロペースですが、再びよろしくお願いします!


第26話 迷える子羊とシンクロ紳士

 

ふわりと浮遊感を感じ、暫くした後、モコと鈴蘭は目をゆっくりと開けた。2人がいたのは、どうやら噴水公園の様で、後ろを振り返れば大きな白い噴水があった。

零児が作り出した次元移動用魔法カード「ディメンション・ムーバー」を使って、シンクロ次元に来たと思うのだが、モコと鈴蘭は辺りをキョロキョロと見渡した後、2人が顔を合わせて言った。

 

「…ここどこです?」

 

「まいごになっちゃったのぉおおおおおお!?」

 

鈴蘭の絶叫が響いた。

 

 

 

 

「こまったなの…でんぱもつながらないの…」

 

「私もですね…遊矢君にも師匠にも繋がりません」

 

「これじゃあ、いどうもできないのぉ…」

 

しょぼんと落ち込むモコと鈴蘭。噴水公園のベンチに座り込んだ2人はピッピッとデュエルディスクを何度も操作するが、ずっとアンテナが立たず、圏外のままである。ハァとため息をつく。

 

「どうするの…?このままじゃあ、ぼくたちねるところないけど…」

 

「野宿という訳にもいきませんよね…?」

 

「あ、コンパクトなパジャマはあるの!」

 

鈴蘭が背負っていたリュックから折り畳み傘程の長さの包みを2つ取り出す。どうやらこれがパジャマらしい。

 

「『マドルチェ・メェプル』タイプと『マドルチェ・ホーットケーキ』タイプなの!ぼくホーットケーキタイプがいいの」

 

「では私はメェプルタイプを…ってそうじゃなくてですね!?」

 

「はっ!はなしがそれちゃったの…!…あと、おかねって…」

 

「あ……スタンダードと通貨は一緒でしょうか…!?」

 

ガサゴソと鞄を漁るモコ。取り出したネコ型のサイフ(シスターからの誕生日プレゼント)を開け、中を見ていると、入っているお金は…500円玉だけだった。

 

「……」

 

「……」

 

…モコはそっとサイフを閉じた。

 

「……のじゅくなの」

 

「……野宿ですねぇ」

 

「……つうか、つかえるの?」

 

「……わからないですね」

 

ついに2人は俯いて、喋らなくなってしまった。訳も分からぬ土地で2人ぼっち。しかも両者未成年な上に働ける年齢でもない。しかも仲間とは連絡も取れず、行方不明。

 

完全に詰んだ。

 

 

 

 

一方で、遊矢達はと言うと。

 

「モコがいないだと!?モコ!どこ行ったんだモコォオオオオオ!!」

 

「ユ、ユート!落ち着いて!というか黒咲の心配は!?」

 

「そんにゃ事よりもモコだ!嗚呼!今頃泣いていないだろうか!はっ!もしや暴漢に襲われているなんて事になっていたら…!はにゃせ遊矢!俺は一刻も早くモコを探さねば!!」

 

「今バラバラになったらダメだって!!あ!セレナと沢渡も零羅も動いちゃだめだよ!!特に前者2人!!」

 

ジタバタと暴れるユートを両手で掴みながら、いつも以上に苦労する遊矢がいた。

 

 

 

 

「とはいえ、ずっとこの場にいてもあれですし…移動しますか?」

 

「でもまよったら…」

 

「…やめましょう」

 

「なの」

 

「「はぁ…」」

 

すっかり気分の落ち込む2人。幸いにもこの噴水公園に人気はない。そこでふと、モコは上を見上げた。

 

「そういえば…ここって高層ビルが多いですね。というか、全部高層ビルですよね?」

 

「いわれると…」

 

モコの言葉に鈴蘭も上を見上げてみる。モコの言う通り、この公園を囲むように高いビルがいくつも聳え立っていた。白く、窓はガラス張りで、まるで都心の様だ。どれも似たようなビルだが、それと同時に高そうだと感じる。モコは首を傾げた。

 

「何でしょうか…ここはオフィス街なんでしょうか?」

 

「いかにもおかねかかってるよねー。おかねもちがいっぱい?」

 

「えぇ、いっぱいですよ。人口自体は10万人程度ですが」

 

落ち着いた声と共にやってきたのは挽きたてのコーヒーの香りだった。ビクッと跳ね上がった2人が後ろを振り返ると、そこには1人の男性が立っていた。顔の右半分以上を黒く長い前髪で隠し、白のワイシャツに茶色のベストを身に着けた穏やかそうな老紳士だ。両腕には茶色の紙袋を抱えていた。買物帰りだろう。

 

老紳士は穏やかに微笑んでおり、戸惑う2人に話しかけた。

 

「お嬢さん達は旅行者…ではないですよね?」

 

「え、えっと…」

 

「かと言ってコモンズの子でもなさそうですし…」

 

「コモンズ?コモンズってなぁに?」

 

鈴蘭がそう聞いた途端、彼の小さなお腹からぐぅ~~と音がなった。

 

「あぅ…おなかへったの…」

 

「あら、どうしましょう…」

 

「なら、私の店に来ますか?」

 

へにょりと脱力する鈴蘭とモコを助けたのは老紳士だった。目を見開く2人を見て、老紳士は穏やかにほほ笑むと、右腕に荷物を抱え、左腕でベンチに座っていた鈴蘭を抱き上げた。

 

「わぁっ」

 

「こっちですよ」

 

「あ、鈴蘭ちゃん!」

 

片腕に鈴蘭、片腕に紙袋を抱えた老紳士はモコに背を向けて歩き始めた。モコも慌てて鈴蘭のリュックを抱えて、老紳士の後を追いかける。

老紳士はニコニコと笑顔のまま、スタスタと歩いていく。老紳士は公園から離れ、ビルが並び立つ街の方へと歩いていく。豪華なビルが建つ割には人気ない。後を追いかけるモコはあちこち見るが、人の声はするのに人がいない。鈴蘭はすっかり老紳士に心を開いたのか、きゃっきゃと話しかけ、それに老紳士も答える。まるでお祖父ちゃんと孫の様だ。

 

「あ、ここですよ。私の店」

 

と、老紳士が足を止める。追いついたモコが彼の言う店を見上げる。すごくオシャレと言う訳でもない、だが落ち着いたアンティーク調の喫茶店。店の上にはこの店の名前であろう文字が彫られていた。

 

「ぜ、ぜっと…わん?」

 

「『Z-ONE(ゾーン)』ですよ。さぁ、中に入ってください。あ、両手塞がっているので開けてもらえます?鍵は開いてるので」

 

「あ、はいっ!」

 

モコがドアノブをガチャリと回し、扉を開けるとカランコロンと来店を告げるベルが鳴った。店内も落ち着いた雰囲気で、思っていたよりも広い。

老紳士は荷物をカウンターテーブルに置き、鈴蘭を丸椅子に座らせると、キッチンの方へと向かい、モコ達に言った。

 

「何がいいですか?パスタ?オムライス?ホットケーキもありますよ」

 

「え、あ、お、お金持ってな」

 

「構いませんよ。そもそも子供から取り上げる訳にもいきませんから」

 

にっこり。何だか圧さえ感じる笑顔だ。戸惑うモコに、お腹が空いた鈴蘭にとっては嬉しい様で、元気に手を挙げた。

 

「おむぱしゅた!」

 

「おむぱしゅた?…あぁ、オムライスパスタですね?」

 

ぶんぶんと鈴蘭が首を縦に振る。

 

「そちらのお嬢さんは?」

 

「わ、私は何でも…!」

 

「ふふ、それが一番困ってしまうんですよ」

 

「えぇ!?あ、すみません!!」

 

オロオロするモコに老紳士はからかう様に笑う。

 

「では同じものにしましょう。いいですか?」

 

「は、はい!ぜひ!」

 

「オレンジジュースあるー?」

 

「ありますよー」

 

「鈴蘭ちゃん!」

 

子供らしく遠慮のない鈴蘭をモコが注意するが、老紳士は穏やかに対応する。

 

10分後、2人の前にはナポリタンの上に卵が乗ったオムパスタが置かれていた。

 

「わぁーい!いっただきまーす!」

 

「い、いただきます…!」

 

「パスタのお代わりはありますからね」

 

スプーンとフォークを使ってあむりと食べた鈴蘭の目が一気に輝く。

 

「おいしー!」

 

「本当です…美味しいです!ナポリタンも卵も美味しい…!」

 

初めは遠慮がちに食べていたモコもその美味しさに段々とスプーンとフォークを進め始める。その様子を老紳士は笑顔で見ていた。

 

 

*** ***

 

 

「すー…すー…」

 

「あらあら…もぅ」

 

座るモコの腕の中ですやすやと眠る鈴蘭。オムパスタを食べ終わった後、満腹になって眠くなったのかウトウトし始め、ついには寝てしまった。見た目以上に子供だ。本能の赴くままというか、忠実というか。ポン、ポン、と背中をゆっくり優しく叩くモコ。少し困った様にも見えるが、鈴蘭だって急に訳の分からない場所に来て、困惑していたのだ。疲れるのもわかる。

 

「モコちゃん、鈴蘭君預かります。2階は私の部屋ですので…」

 

「あ、お願いします」

 

鈴蘭を起こさない様にそっと老紳士もとい『ゼット』に渡す。数分すると、2階からゼットが下りてくる。

 

「ゼットさん、すみません…。ご飯を貰っちゃった上に鈴蘭ちゃんを寝かせてもらっちゃって…」

 

「構いませんよ。ですけど、これからどうするんです?お友達と別れてしまったのでしょう?」

 

「はい…しかも泊まる場所もなくて…あ、鈴蘭ちゃん起きたら出ていきますので…」

 

「あ、出ていかなくて大丈夫ですよ。うちで働ければいいんですから」

 

「……え?」

 

モコが顔を上げるとゼットは穏やかに微笑んでいた。

 

「3食付きです。しかもメニューは選び放題。素敵でしょう?」

 

「3食付きの…メニュー選び放題…じゅるり」

 

「あ、おやつも付けますよ」

 

 

それに、モコは負けた。

 

 

 

*** ***

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

「いらっしゃいませなのー!」

 

「きゅー!」

 

ふりふり、ふわんふわん。白がZ-ONE内で揺れる。ゼットがキッチンで作った料理を両手に持ち、店内の客へと運んでいくモコと、お盆に乗せて慎重に持っていく鈴蘭、そしてカウンターテーブルに置かれた座布団の上にスフィンクスの様な体勢のシロは来店してきた客に愛想良く鳴く。

 

モコは髪をツインテールに纏めてメイド服を、鈴蘭は普段着にエプロンをして店内をあちこち移動する。

 

メイド服と言っても短いスカートではなく、足首まである長いスカートで、露出を極端に減らした物だ。しかしメイド服という事で店内にいる客の目を引く。鈴蘭は持ち前のあざとさを使って、女性客の心をしっかりガッチリ掴んでいく。シロも先程から女性客に撫でなれまくりである。

因みにシロはどうやら鈴蘭のリュックに隠れていたらしく、昨日ぴょこっと出てきた。

 

「ありがとうございましたー」

 

「なのー!」

 

最後の客が消え、店内がガラリと店員以外誰もいなくなる。途端にモコと鈴蘭とシロは「はぁあああ…」と息を吐いた。

 

「接客って疲れますねぇ……」

 

「なのぉ……」

 

「きゅぅ…」

 

へたり込む2人と1匹にゼットは「お疲れ様」と言った。

 

「お上手でしたよ、皆さん」

 

「「ありがとうございまーす…」」

 

「きゅー…」

 

「あ、休んだらお掃除お願いしますね。なんせ、年寄りなもんですからね」

 

 

はっはっは。

 

 

喫茶店・Z-ONEに穏やかな老人の笑いが響いた。

 

 

 

 




モ「いやぁ、久しぶりの次回予告ですぅ」

鈴「なの!ぼくもさんかなの!」

シ「きゅっ!」

モ「では、次回の見所を!」

鈴「じかいは、『なぞのきれーなおねえさん』登場なの!」

モ「何でしょうか?バリバリのキャリアウーマンさんですかね?」

鈴「はっ!アレは…ブルーアイズマウンテンなの!」

モ「す、すごいです!アレは一杯3000円もする高級品ですよ!?」

鈴「あのおねえさん、なにものなの!?」

シ「きゅー!」

モ「次回!第27話『迷える子羊と美女』!でお会いしましょう!合言葉は~?」

鈴「もっこるんるーん!なの!」


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