ぷくぷく…ぷくぷく…
「ふぅー…」
両掌に乗せた泡を遊矢はふぅーと息を吹いて、飛ばす。静かな風呂場には透明な泡がふわふわと浮かんでいる。ここは榊家の風呂場。遊矢が入っているのは泡風呂で、浴槽内は白い泡でいっぱいだった。
普段は遊矢1人で入るのだが、今回ばかりは違う。浴槽内にぷかぷかと浮かぶ1つの桶の中に新しい住人が1匹。
「風呂は久しぶりだ…気持ちいぃ…」
はにゃ~と桶の中でまったり寛ぐのはユート。久しぶりの入浴に目をとろんとさせて、楽しんでいる。頭には遊矢が面白半分で乗せたミニタオルをちょこんと乗せている。何とも可愛らしい姿だ。先程遊矢に洗ってもらったおかげで、体は湿っており、つやつやとした光沢が輝く。
「ユート、気持ち良い?」
「最高だ…すまないな、風呂まで借りてしまって」
「全然良いよ!それにしてもユート、猫なのに水とか平気なの?」
「平気だ。どちらかと言うと気分が良い」
桶にたっぷりと入れられた泡風呂を堪能するユート。猫は元々砂漠地帯の生き物だった為、自分の身体が濡れる事を嫌う筈だが、ユートにとっては気分の良い物らしい。
「お風呂上がったら、何か飲もうね。後ドライヤーしてあげる」
「ミルクでも貰おうか」
「…コール用(猫用)ミルクで良いかなぁ?」
「普通の人間用で大丈夫だ。どうやら見た目こそは猫だが、食事に関しては人間と同じで平気らしい」
「…不思議な体だね」
「だな」
ぷくぷくと更に泡が立つ中、ユートの耳がピンッと立った。
「そうだ、遊矢。早く上がらないと親睦会に遅れるぞ」
「あ、そうだった!上がろうかユート!」
「あぁ」
そう、本日はランサーズの親睦会である。
LDS兼LCビル前で、遊矢と彼の頭に乗ったユートは受付嬢に説明すると、秘書である中島が迎えに来てくれた。中島に案内され、着いて行く遊矢とユート。
「あっ、遊矢君!ユート君!こんにちは!」
「あ、モコ」
会場へと向かう途中で出会ったのは大量の唐揚げが乗った大皿を両手に持ったモコだった。白いフリフリのエプロンを身に着けており、家庭的な姿の彼女を初めて見た遊矢は彼女に駆け寄る。
「どうしたの?その恰好」
「親睦会のお料理作ってて…あ、エプロンは理事長さんが貸してくれてですねぇ」
「そうなんだ…」
「もう皆さん着いてますよ!権現坂さんも!」
「さぁ、行きましょう!」とモコが料理を運びながら、2人を会場へと連れていく。中島は自分の仕事を終えたと言わんばかりに音も立てず、静かに去っていった。
廊下を進み、1つのアンティーク調の扉の前に辿り着く。両手がふさがったモコの代わりに遊矢がドアノブを開けると、中はアンティーク調の扉とは違い、畳の和室で長いテーブルの上には様々な料理。そしてそれらを食べる権現坂や沢渡達がいた。
「皆さーん!遊矢君とユート君のご到着でーす!」
「おぉ、やっと来たか!」
「おせーぞ!俺様が日辻特製の料理全部食っちまうところだったぜ!」
「スイーツもあるのー!」
コップに入った水を飲む権現坂とモコの作った料理を食べれて嬉しい沢渡と口周りにハンバーグソースを付けた鈴蘭が声をかけてきた。他にはデニス、セレナ、忍者改め月影、黒咲。零児とその弟・零羅の姿はなく、今の所このメンバーで料理を食べているらしい。
「皆早いね」
「すまにゃい、遅れて」
「きにしなくていいの!ぼく、モコちゃんのごはんがたべたくてはやめにきちゃっただけなの!」
「ボクは元々LDSにある宿舎に泊まってたから、会場はすぐそこだったしね」
「私もだ。と、言う訳でユートを寄越せ」
「にゃっ!?」
サッと目に見えないスピードで遊矢の頭の上に乗ったユートを奪い去ったセレナ。流石は元アカデミア兵なだけはある。すかさず自分の席に戻り、ユートを膝に乗せ、肉球をぷに始める。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにっ
「やめてくれぇ――――!」
「ぷにぷにだ…!」
「ユ、ユートォ――――!」
「遊矢ぁ―――――――――!」
うにゃあああああと涙目で遊矢に助けを求めるユート。しかしセレナからの拘束からは逃れられず、肉球をぷにぷにされてにゃーにゃーと悲鳴を上げるしかない。セレナが押す度に小さな爪が出る。
「セレナちゃんはユート君が本当にお気に入りなんですねぇ」
「セレナ…ユートって言うより猫が好きなんじゃ…?あ、モコ、この唐揚げ美味しい!」
「ありがとうございます!自信作なんです!」
「暢気に会話してないでたしゅけてくれぇ――――!!」
にゃ――――!ユートの切ない悲鳴が和室に広がる。すると、誰かがユートをセレナの拘束から救い出した。
「ハーイ、そこまでだよ~セレナ」
「むっ、貴様!」
「にゃ~……」
ひょいっとセレナから目を回すユートを取ったのは意外な事にデニスだった。彼はユートの首根っこを摘まむ形で持ち上げると、遊矢の元に近づき、ぽすんっと彼の頭にユートを乗せた。
「はい、ドーゾ」
「あ、ありがとうデニス。ユート、大丈夫…?」
「うぅ…何で俺がこんな目に…」
「はい、ユート君。ナスの天ぷらどうぞ」
「天ぷりゃ!?」
天ぷらと聞いてぐったりしていたユートは耳と尻尾をピンッ!と立てると遊矢の頭から胡坐をかいていた彼の膝へと降り、箸で摘まんだナスの天ぷらを差し出してくるモコに向かって口をあーと開けた。
「はい、あーん」
「あー…んっ」
ぱくり、小さな口をいっぱいに開け、天ぷらを口にするユート。もごもごと頬を動かすと、ふにゃんと表情が緩んだ。
「うみゃああ~……!天ぷりゃ…!久しぶりだぁ…!」
「ユート、美味しい?」
「うみゃあ…天ぷらうみゃあ…!」
「うふふ、美味しいなら作った甲斐がありましたぁ」
きゃっきゃ、うふふ。微笑ましい家族ごっこを見せる遊矢・ユート・モコ。次に何を取ろうかと思い、唐揚げを箸で取ったモコの手首を誰かがぱしっと掴んだ。
「あら?」
「良いなぁ~ユート~!ボクもあーんってしてくれるかい?」
「ひぃっ!」
彼女の手を掴んだのはニコニコと笑顔を浮かべるデニスだった。暫くの間治まっていた持病が始まった。顔が近い事で、余計に恐怖が勝る。口元が引き攣るモコに気づいているのか気づいていないのか、デニスはぐいっと顔を近づける。
「ねっ?良いでしょ?」
「ぴぃ…ッ!」
ひくひく引き攣るモコ。「(あ、デニスは知らないんだっけ?)」と思った遊矢がデニスに声を掛けようとした、その時だった。
ヒュッ!カカカカカカカッ!
何か鋭い物がデニスの顔をスレスレで通り、壁にクナイの様に突き刺さった。それは数本のフォーク。上質なシルバーのフォークだった。油が切れたロボットの様にギ・ギ・ギと首を動かし、デニスが後ろを見るとそこには小さな白い
―――鈴蘭である。
「Ah……スモールボーイ…?」
「『モコちゃんにてをだすやからはつぶせ』というめいれいなの」
キラリ。右手の指と指の間に4本のフォークを挟み、次の準備は出来てるぞとばかりに大きな瞳を吊り上げる鈴蘭。ぱくりと左手で掴んだフォークに刺さるケーキを食べる姿は可愛らしいが、デニスはそれに戦慄を覚え、ゆっくりとモコの手を離すと、降参と両手を上げた。
「Sory…お願いだからそれDownだよ、Down!!」
「チッ、しとめそこなったの。……モコちゃーん!カスタードパイちょーだい♡」
「は、はぁーい…」
きゅるるんっ!まさに天使の笑顔でそう言う鈴蘭にすぐにモコはカスタードパイを渡す。「わぁい!」と喜んでパクパク食べる鈴蘭。しかし他メンバーはこう思った。
『(鈴蘭を怒らせるのやめよう)』と
「それじゃあ、お食事も終わった事ですし…」
「取りあえず今いるメンバーで自己紹介しようか。初めて顔を合わせるメンバーもいるだろうし…」
数十分後、空になった皿やコップがテーブルに並ぶ中、モコと遊矢はそう切り出した。
「初めは言い出しっぺの俺から!俺は榊遊矢!使うデッキは『EM・魔術師・オッドアイズ』の混合デッキだよ!使える召喚法は『ペンデュラム・融合・エクシーズ』。取りあえずこれくらいかな?よろしくね」
「次に私が。日辻モコと申します。使うデッキは『ゴーストリックを中心としたアンデット』デッキです。使える召喚法は今の所『エクシーズ』だけです。皆さんの足手纏いにならない様、精進致します。よろしくお願いします」
「俺はユート。エクシーズ次元のレジスタンスだ。今の所…この姿ではデュエルが出来ず、皆に迷惑をかけてしまうが、サポートをさせてもらう。よろしく頼む」
「権現坂昇だ。使用デッキは『超重武者』。使う召喚方は『シンクロ』のみ。短いがよろしく頼む」
「俺様は沢渡シンゴ!使うデッキは『魔界劇団』だ!俺も『ペンデュラム』を使う!精々俺様の足を引っ張るなよ!」
「黒咲隼。『RR』モンスターで『エクシーズ』に繋げるのが俺の戦い方だ。以上」
「セレナだ。『月光』デッキで、『融合』を得意とする。元々アカデミアだが…これ以上アカデミアの被害を増やさない為にも全力を尽くす。よろしく頼むぞ」
「風魔一族が1人、風魔月影。アドバンス召喚を得意とした『忍者』デッキを使う。以上」
「ぼくは白樺鈴蘭!デッキは『マドルチェ』!デュエルはあまりとくいじゃないけど、コンピュータめんでサポートできればとおもってるの!これからよろしくなの!」
そしてここにはいないが、リーダーを務める赤馬零児とその弟・零羅も加わる。計11名(うち2人はサポート)が、ランサーズだ。
自己紹介が一通り終わると、突然セレナが立ち上がり、つかつかと歩いてモコの所までやってきた。
「セレナちゃん?どうしました?」
「話がある。誰にも邪魔されたくないからな。風呂へ行くぞ」
「え?お風呂?あ、ちょ、セレナちゃん!?」
ガッとセレナはモコの手を掴み、立ち上がらせると扉を開いて出て行ってしまった。その後ろ姿を鈴蘭が見送ると、今度は鈴蘭も立ち上がった。
「じゃあぼく、したのかいのじどーはんばいきでジュースかってくるの!」
「どうして?ジュースならまだいっぱいあるけど?」
「れーらくんとしゃちょーさんにもってくの!ケーキももってくの!ぼく、れーらくんとなかよくなりたいの!」
「そうか。ならばこの漢、権現坂も共に参ろう。幼子をこんな時間に1人で行かせるのも悪いからな」
「ありがとなの!ごんちゃん!」
「ご、ごんちゃん…」
「分かった。赤馬零児と零羅によろしくね」
「なの!」
「いってきまーす!」と権現坂の肩に乗って出て行く鈴蘭と権現坂。手を振ってそれを見送った遊矢は、残っているケーキに手を付けようとしたが、不意に沢渡とデニスが手を組んで何か考え事をしているかの様な姿に気付いた。
「…どうしたの?沢渡、デニス。そんな深刻そうな顔して」
ジト目で見ながら、遊矢はぱくりとケーキを食べる。正直まだスイーツやジュースは残っているので、まだまだ食べ盛りだけど全然背が伸びない遊矢は楽しく、美味しく食べたい。なのにそんな深刻そうな顔で近くにいられると美味しく感じられないのだ。
だが、それでも2人は深刻だった。
「…遊矢、お前聞いていたのか?」
「アレだよ遊矢。君の耳はブシアナかい?」
「…節穴って言いたいの?」
「Yes、そうそれ。…沢渡、君も同じ事を考えている様だね」
「お前もな」
と、ガタッと2人は立ち上がった。それに遊矢は思わずビクリと震える。
「…え?何?」
「行くぞ、デニス」
「OK、沢渡」
「えっ、ちょ、どこ行くの!?」
スタスタと扉へ向かって進む2人に何やら嫌~な予感を感じた遊矢が慌てて扉の前に通せんぼする。
「おい、どけよエンタメデュエリスト」
「そうだよ、ボク達はこれから大事な目的があるんだ」
「そ、その目的ってなんだよ!」
ダメだ、何か通したらダメだ。遊矢の直感はそう告げる。すると、2人はキッ!と目を吊り上げると、拳を握って言った。
「決まってるだろ…!――――――― 覗きに行くんだよ!風呂場を!!!」
「Yes!モコのCuteかつSexyなBodyを見に行くんだよ!!内緒で!!!」
「アホじゃないの!?」
まったくもって遊矢、大正論である。よく考えれば沢渡もデニスも、遊矢もそうだが思春期だ。遊矢も確かにちょっとは興味はあるものの、流石に彼の中に眠る正義感が許さない。だが沢渡と外人・デニスはオープンだった。
「お前は興味ねぇのか!?あの日辻の裸だぞ!?」
「は、はだ…ッ!?なにバカな事言ってんのさ!!もしモコが知ったら泣いちゃうだろ!?ねぇ!ユートも何か言って……あれ?ユート?」
ふと、遊矢は先程からユートが自己紹介以降、喋っていない事に気付いた。あれ?と思って、キョロキョロと見渡すと部屋の隅っこに、何か黒い物がいる事に気付いた。
「…くぴぃー…むにゅむにゅ…くぴーっ…」
「すぅー……すぅー…」
「あれ!?寝ちゃってる!?」
いつの間に移動したのかユートは壁にもたれ掛る形で寝ている黒咲の膝の上で丸まって寝ていた。ちょっと涎を垂らしながら、くぴくぴと眠るユートは大変愛らしいが、今はそれどころではない。黒咲もこの話を聞いていたら暴れていただろうが、何故2人が寝ているのかが遊矢はわからなかった。今の時間は8時半。寝るにはまだちょっと早い時間。
しかし、その違和感の正体はすぐにわかった。
「あ、黒咲とユートにはさっきSleepしてもらったよ。2人にさっきすぐ効く睡眠薬入れたジュース渡したから」
「何やってんの!?」
経緯はこうだ。女子2人が出ていった後、すぐにデニスが黒咲に睡眠薬入りジュースを渡す。しかし警戒心が強い黒咲がそれを拒否。だがさっきデニスに助けてもらった貸しのあるユートが怒って、ジュースを飲めと言う。仕方なしにジュースを受け取り飲む黒咲。それを見たデニスがお礼と称して同じ睡眠薬入りジュースをユートに渡す。それをユートが飲み…大体同じタイミングで眠気がやってきて、黒咲とユートは夢の世界へ。
全てはデニスの掌の上で踊らされたのだ。
「最低ッ!酷いよデニス!」
「HAHAHA!大丈夫だよ遊矢!効果は1日だけだし!体に害は無いし!」
「そ、それでも!!」
ダメな物はダメェェェ――――――!!
遊矢の声が、部屋中に響いた。
「あら?」
「む?どうしたモコ?」
「いえ…なんでも(今、遊矢君の声がしたような…?気のせい?)」
LCに設置されたミニ露天風呂にて。この露天風呂は最上階に設置されているが、天井はマジックガラス素材でモコ達中に入っている人物は綺麗な夜空が見えるが、上からは見えない様になっている。全天候型の露天風呂。そこで女子2人は風呂に入っていた。
「露天風呂なんて豪華ですねぇ…素敵」
「金の無駄遣いだな」
「あはは…雰囲気台無し。でもこのお風呂、さくらんぼ風呂ですから甘い匂いがしますね!」
「あぁ、そうだな」
髪をお団子に纏めた2人ははぁ…と息を吐きながら、アセロラ色のさくらんぼ風呂を堪能する。ちゃぷちゃぷと風呂が波打つ中、セレナは話を切り出した。
「なぁ、モコ。お前は私がアカデミアにいた事は知っているな?」
「え、えぇ…。赤馬社長からお話は聞いてます。なんでも閉じ込められていたと…」
「そこまで聞いてるなら、話してもいいか。……私はエクシーズ次元の惨劇を知らなかったんだ」
セレナは夜空を見上げて、目を閉じる。
「私はてっきりアカデミアはちゃんと話をつけてエクシーズ次元の『デュエリストだけ』を狩っていると思っていた。だが実際は『関係のない人間』まで巻き込んでいた。更には黒咲の妹を攫った…」
「…私も何も知らなくて…。師匠、黒咲さんが別次元の人で、沢山傷ついていた事も知らずに私が無理に言ってエクシーズ召喚を教えてもらって…」
「知らなくて当然だろう?スタンダード次元の人は零児や一部を除いて知らずにいたのだから」
思えば不思議な話だ。慕っていた師匠が実は別次元の人で、妹を攫われていたなんて。誰も想像は出来ない。
「私は気づいたらアカデミアにいて、外には出れなかった。ただ我が儘を言えば何でも揃えてくれた。服でもカードでも。そう考えれば自由になれない代わりに贅沢は与えられていたと思う」
「贅沢…ですか」
「まぁ、それでも外に出たかったんだがな」
フッとセレナが呆れたような笑みを浮かべる。
「それで私の力を認めさせる為にスタンダードへ来たんだが、そこで柚子と会い、黒咲とエクシーズ次元の事を知って…今、こうしてランサーズにいるという訳だ」
「…これからはランサーズで一緒です!一緒に頑張りましょうね!」
「あぁ。そういえば聞いたんだが、モコも狙われたと」
「えぇ…何故か。フレデリックという男性の方が…デュエルはなんか中途半端に終わってしまって…」
「フレデリック?フレデリック・デュリオの事か?」
「知ってるんですか!?」
「あぁ。何でも人体実験を行っているという噂を耳にした事がある」
「じ、人体実験!?」
ひぇっとモコが青ざめる。
「わ、私よく生きてましたね…!今度会ったらどうしよう…!」
「安心しろ、モコ」
ぎゅっとセレナが横からモコに抱き付く。ちゃぷりと波打つ音が静かな風呂場に響いた。
「セ、セレナちゃん?」
「私が守ってやる。だからお前は安心してデュエルに励め」
「あ、あぅぅ…!セ、セレナちゃん…!」
うりゅりとモコの目が潤むと、今度はモコからセレナに抱き付いた。
「セレナちゃん大好きです!」
「うむっ!存分に私に惚れるがいい!」
「きゃーっ!カッコイイー!」
ぱちゃぱちゃと水飛沫が跳ねる。するとセレナが何かを思いつくと、がっ!と両手で下から思いっきりモコの胸を掴んだ。
むにゅんっ!
「ひゃっ!」
「ずっと思っていたのだが…モコお前、結構あるな。デュエルで邪魔にならないか?」
むにゅむにゅ
「ちょ、セレナちゃ」
「柔らかいな。癖になりそうだ…!」
むにゅむにゅ
「あんっ、セレナちゃん離してくださーい!」
「モコもモコの胸も私が守らねばな!!」
「ひぎゅぅう…!うぇぇぇん…だーれーかーたーすーけーてー!」
一方同時刻、露天風呂出入り口前。
「ふっふっふ…!やっとここまで来たぜ!」
「まったく…遊矢ったらしぶといんだから!」
何故かボロボロになった沢渡とデニスが笑みを浮かべて、立っていた。ここに来るまで止めようとする遊矢と格闘していた2人。ついに遊矢をデニスのマジック道具の縄でぐるぐる巻きにして、大声を出さない様にガムテープで口を塞いでここまで来たのだ。そこまで女体を見たいのかと思わせる程の執念である。
「では…いざっ!!」
「ボクらのEdenへ!!」
そう笑って、風呂場の出入り口を一歩入ろうとしたその時だった。
「そうはさせぬ」
その声が聞こえたと同時に2人の意識はブラックアウトした。
「…まったく馬鹿な事を考えおって…」
やれやれと呆れるのは月影。彼が2人を手刀で気絶させたのだ。先程私情で抜けていた月影が会場へ戻ると、そこには眠る黒咲とユート、そして拘束された遊矢がおり、何事かと慌てて遊矢の口に貼られたガムテープを取ると、この馬鹿2人が覗きをしようとしていると聞いて、大急ぎで止めにきた。何とか2人は月影のおかげで罪を犯さずに済んだ。
「あ、月影さーん!」
「む、鈴蘭殿と権現坂殿」
月影の後ろからやってきたのは鈴蘭と彼を肩に乗せた権現坂だった。2人は月影の元へやってくると、彼の足元で気絶している馬鹿2人を見た。
「あれ?なんでこんなところでねてるのー?」
「この2人が日辻殿とセレナ殿の入浴を覗き見ようとしていたのでな。成敗してやった所だ」
「なに!?覗きだと!?破廉恥な奴等だ!」
「さいてー!」
「ところで鈴蘭殿。例の物はキチンと届けた」
「ほんと!?よかった!」
月影の言葉に鈴蘭が喜ぶ。それを権現坂と月影は微笑ましそうに見た後、下を見て蔑んだ目で馬鹿共を見た。
「…説教だな」
「同意だ」
こうして、沢渡容疑者とマックフィールド容疑者への説教(10時間)が行われる事となったのであった。
とある部屋にて。電気も付けずに、月の明かりだけに照らされたその部屋の主は置かれていた手紙に目を通した。
『零羅君へ!
僕、鈴蘭って言うの!今日の親睦会に来なかったから、モコちゃんが作ったケーキとジュース置いとくね!
ジュースは僕のオススメなの!良かったら飲んでね!あ、チョコレートも置いておくね。これ僕のお気に入り!
これからよろしくなの! 白樺鈴蘭より』
「……」
綺麗な字の手紙。その部屋の主、零羅はテーブルの上に置かれたケーキと缶ジュース、そしてコロンと置かれた小さなチョコレートを見た。暫くすると、零羅は手を伸ばし、チョコレートを取ると包み紙を剥がし、チョコレートを口の中へ入れた。コロコロと口の中で転がして、飲み込むと零羅が小さく呟いた。
「………………………美味しい…」
親睦会を終えたランサーズ面々は戦いに備え、各自で準備をしていく。
デッキ調整をする者、家族と話す者、決意を固める者。
そして舞台は次の次元『シンクロ次元』へ!!
次回 まよつじ第2章最終話『Next⇒Synchronize』
「モコ。俺は君に言わなくちゃいけない事があるんだ」
「遊矢君…?」