遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

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活動報告にて、今後のまよつじについてを書きましたのでよろしければ…。第2章も後1、2話です!


第23話 迷える子羊とバトルロイヤル その6

―――ユート 僕の大事なユート

 

 

―――嗚呼 可哀想に 肉体が消えてしまったんだね

 

 

―――魂だけになってしまったのか

 

 

―――でも決して死んでいる訳ではない あくまで器がない状態になっただけだ

 

 

―――大丈夫 

 

 

―――僕なら君を助けてあげられる

 

 

―――そしてきっと彼らが君の体を取り戻してくれる

 

 

―――安心して 君の体が戻るまで 僕の体を貸してあげる

 

 

―――ちょっと少しの間だけ慣れないかもしれないけど

 

 

―――全てが終わったら 

 

 

 

 

―――また 僕と遊んでね

 

 

 

 

 

にゃぉーん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…と言う訳で、気付いたらこの様な姿になっていた訳だ」

 

火山エリア内のとある場所にて。黒いウィム・ウィッチことユートはちょこんと遊矢の膝の上に座って、この姿になってしまった訳を話していた。

 

「不思議な話ですね。不思議な夢を見たと思ったら、次目が覚めた時はこうだったって」

 

「でもユートが嘘ついている様にも見えないし…」

 

「俺もユートが嘘をついているとは思えんが…」

 

うぅ~んと唸る一同にユートも頷いた。

 

「君達が混乱する気持ちも分かるが…俺自身、にゃぜこんにゃ姿ににゃってしまったのか…」

 

「(…ちょっと、ねこごになってるの)」

 

うぅ…とぷにぷにピンクの肉球付き両前足で顔(目)を覆うユート。彼だって、こんな可愛らしい姿になる事など想像もしなかっただろう。遊矢がなでなでとユートの頭を撫でる。

 

「取りあえずユートが無事で良かったよ。どんな姿でもユートはユートなんだから」

 

「遊矢…」

 

「そうです!ユート君はユート君です!」

 

「モコ…」

 

微笑む2人にユートはゴシゴシと前足で目を擦る。そうだ、くよくよはしていられない。ユートはぷにぷにと両前足で頬を叩く。

 

「そうだな…こうしてまた2人と再会出来た事に感謝しよう。それに新しく知りあいも出来た」

 

「うむ。自己紹介がまだだったな。俺は権現坂昇だ。よろしく頼む」

 

「白樺鈴蘭なの!モコちゃんのおともだちはぼくのおともだちなの!」

 

「俺はユート。そこで転がっている隼の…………………………………………………………………………………………………………………一応仲間だ」

 

「間が長いよユート!?」

 

「一応は取りましょうよ!」

 

よろしくとユートが両前足を差し出す。右前足は権現坂が、左前足は鈴蘭が握る。ちゃんと握り潰さない様に優しくだ。因みに黒咲は優しい権現坂によって岩壁にもたれ掛っている。

すると、遊矢が思いついた様にあっと言うと、デッキケースから1枚のカードを取りだした。

 

「そうだ、ユートに返さないと。はい、ダークリベリオン」

 

「おぉ…!ダークリベリオン…!すまない、遊矢」

 

どうぞと渡してくる遊矢からダークリベリオンを受け取ったユートは嬉しそうな顔でイラスト部分を撫でる。

 

「すまないダークリベリオン…寂しい思いをさせて…」

 

ただのカードと思ってはいけない。ダークリベリオンはユートにとって半身も同然だ。愛しそうに慈悲を込めて撫でるユートの目はどこまでも優しく、穏やかで、どれだけ彼が愛情を持ってカードと接しているのかが分かる。しかしユートは一度だけ目を閉じると、すっと立ち上がり、遊矢の方を向いた。

 

「遊矢、申し訳ないが…まだダークリベリオンを預かってはくれないか?」

 

「えっ!?なんで!?」

 

折角戻ってきた大事なカードをユートは差し出す。何でと疑う遊矢にユートは困った様に笑った。

 

 

「俺は……………………………………………この姿じゃデュエルディスクがセット出来ない」

 

「「「「あ」」」」

 

 

そうだった。ユートは今、悲しい事に黒猫の姿になっている。つまり手足も細く短くなっており、人間状態で装着出来ていたデュエルディスクは…残念な事に装着できない。せめてこの姿専用のディスクがあれば違うのだろうが、でもそれだとカードの方が大きくなってしまう。

 

…実に残念な状況だった。

 

 

「………………うぅ、俺は駄目にゃんこだ。こんな姿になった挙句、デュエルも出来にゃいなんて…」

 

「あぁっ、ユート泣かないで!」

 

「く、クッキー!豆乳クッキーありますよ!食べます!?」

 

「食べりゅ…」

 

ポリポリポリポリ。小さくポリポリ食べるユート。-そんな時だった。

 

 

ピピピーッ!!

 

 

けたたましいホイッスル音が鳴り響いた。

 

「なに!?」

 

「これって確か…」

 

『終了ー!バトルロイヤル終了でーす!』

 

 

司会のニコの声が響く。そう、これはバトルロイヤル終了の合図。サラサラと火山エリアが光の粒子となり、元の舞網市の姿へと戻っていく。元に戻る街を見ながら、遊矢は呟く。

 

「そっか…バトルロイヤルの途中だったよね。すっかり忘れてた…」

 

「私もです…」

 

「ぼくも~」

 

ちらり。4人と1匹の目線が気絶している黒咲へと向かう。…殆どコイツのせいだよね?と言わんばかりだ。シロも目を回しながら黒咲の肩で気絶している。こっちは被害者。

 

「…シロちゃんまで巻き込んじゃって…もぅっ」

 

「すまない…」

 

「ユートが謝る必要ないよ。悪いのは黒咲」

 

「へんた~い」

 

「強ち間違いじゃないから言い返せないな…」

 

 

「話の途中、失礼する」

 

 

コツリと足音と静かな男の声が聞こえ、遊矢達は振り返った。そこには赤いマフラーを翻しながら、立っている零児がいた。隣には藍色の髪をポニーテールにした忍者。そして彼が米俵の様に担いでいるのは…。

 

「離せッ!私を降ろせ!!」

 

「セ、セレナちゃん!?」

 

手足をジタバタと暴れさせ、忍者から降りようとしているセレナがいた。何故か服が変わっているが、それよりも何故担がれているのかが気になったモコは慌てて忍者へと駆け寄った。

 

「あ、あのっ!降ろしてあげてください!」

 

「…承知した」

 

モコの言葉に忍者は1つ頷くと、セレナを降ろした。降ろされたセレナはガルルルと獣の様に忍者に向かって唸りながら、モコの隣に立った。

 

「セ、セレナちゃん大丈夫ですか?」

 

「この程度、どうと言う事ではない」

 

ぱんぱんと服の皺を手で払うセレナ。その服はモコも見覚えのある舞網第二中学校の女子制服で、モコは首をかしげた。

 

「あれ?セレナちゃん…その服…」

 

「ああ、これか。柚子が貸してくれたんだ」

 

「柚子だって!?って…君も柚子に似てるけど…?」

 

「む…?」

 

柚子と言う名前に遊矢が反応する。彼の反応にセレナは遊矢の方を向くと、目を見開いた。その視線は遊矢が抱き上げているユートへと注がれており、自分に向かってくる視線にユートは首を傾げた。ジ――――ッと見てくるセレナにユートは徐々に冷や汗を流し始める。すると何を思ったのかセレナは遊矢の方へカツカツと早歩きで向かうと、彼の腕の中にいるユートの横っ腹を両手で掴み、抱き上げた。

 

「にゃっ!?」

 

「あ、ユート!」

 

「ほほぉ!いい目つきをしているな!」

 

キラキラとした目でユートを持ち上げるセレナ。瑠璃そっくりな少女に見つめられるユートはオロオロとするしかない。

 

「にゃ…にゃあ…!」

 

「ちょっと!ユートをか、返して…!」

 

「ユートというのか!どれどれ…」

 

セレナは片手を横っ腹から前足へと手を動かすと、前足にある肉球をぷにぷにし始めた。

 

ぷにぷにぷにぷにぷにぷに…

 

「ふぉぉぉぉ…!」

 

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ…!」

 

「あ、ずるい!俺もぷにぷにしたい!」

 

「すずらんもするー!」

 

「おい、俺様にもやらせろよ!」

 

「あ、沢渡いつの間に!…てかアレ?確か俺に負けて…?」

 

「その説明は後だ!それより俺様にもぷにらせろ!」

 

「とししたのぼくがさきなのー!」

 

 

「……ランサーズの説明をしたいのだが…」

 

「…聞こえてない模様」

 

「あらら…」

 

 

 

 

*** ***

 

 

 

その後、様々な事があった。零児の口から柚子が別次元に行ってしまった事、アカデミアの事、ランサーズの事、舞網チャンピオンシップの真の目的…。後、何故沢渡がいる事。あまりに淡々と話す零児に遊矢は段々と怒りを募らせ、ついには彼にデュエルを挑む始末。結果は零児のデュエルタクティクスの前に敗北してしまった。

一方セレナはユートの猫パンチ(重め)によって強制的に起こされた黒咲とユートによってアカデミアの侵略の話を聞かされ、アカデミアから離反する事を決意。因みに話を聞いてる最中ずっとユートを抱えて肉球をぷにぷにしていた。

 

そして…モコはと言うと…。

 

 

「げっほけほっ…うぅ…」

 

LDS内に設置された医務室のベットで、寝込んでいた。額には冷えピタを張り、顔は真っ赤。体温計に出た数値を見て、マスクを装備した零児は「ふむ」と頷いた。

 

「38度ぴったりだな。すまない、無茶をさせたようだ」

 

「べ…べいきれす…」

 

「君の熱は私達が責任を持って治すと誓おう」

 

「ずびばせん…」

 

ケホケホと咳き込むモコ。どうやら無茶をし過ぎて(主に黒咲の所為で)熱を出してしまったのだ。社長業をしている為、風邪を引けば世界経済が狂うと言われるLCの社長たる零児は何としても風邪菌を貰うわけにはいかないので、マスクを装備している。しかしマスクの下に隠された口元はにやけっぱなしである。

 

「(嗚呼…風邪をひいて寝込むモコたんも何と愛らしい…。頬がまるで林檎の様だ、食べてしまいたい…。私が治療してあげたい…!)」

 

どんどん溢れ出す変態の考え。このまま一線でも超えてしまおうか…などと馬鹿げた(零児にとっては大事な)考えを思いついたその時、ウィンッと医務室の自動扉が開いた。

 

「なの~!モコちゃ~ん!おかゆもってきたのぉ~!」

 

入ってきたのはお盆の上に乗せられたお粥を持った鈴蘭だった。器用な事に頭に自分のデュエルディスクを乗っけて、入ってきた鈴蘭はベットのサイドテーブルに置くと、零児を見た。

 

「…?しゃちょーさん、どうしたの~?てがふるえてるの…」

 

「いや、なんでもない。少し痺れただけだ」

 

「…そうなの?」

 

きゅるるんっと大きな瞳で零児を上目使いで見る鈴蘭。弟と年の近いであろう少年にこの黒い思いを知られるわけにはいかない。というかだめだ。零児は震える手で眼鏡をかけなおす仕草をする。鈴蘭は首をかしげながらも、頭に乗せたデュエルディスクを取ると、ピッピッピと操作した。

 

「んとね~…くろしゃきさんはユートおにいちゃんのてでもういっかいねかせたの~!」

 

「…寝かせた…と言えるのか?」

 

「ユートおにいちゃんはゆうやおにいちゃんがせきにんもって、おうちにつれてかえるっていってたの!」

 

「そうか」

 

「あ、あとね~!」

 

鈴蘭はデュエルディスクの画面を見せた。

 

「シスターさんからメール~!」

 

 

【あのバカハゲの息子こと赤馬零児へ

 

 モコに手を出したらお前を3枚におろす、守らなかったら輪切りにする 以上】

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、零児は人生で感じた事のない恐怖を覚えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ランサーズの存在はスタンダート全てへと伝えられた。

そのランサーズに選ばれたメンバー達は、親睦会という名目で集められる。

そこでセレナはモコを風呂へと誘い、自分の話をし始める。

…そして沢渡とデニスが「覗き」などとアホっぽい事を考え始め…!


第24話 迷える子羊とセレナ


鈴蘭「れーらくんとなかよしになりたいの!」

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