遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

30 / 41
ジューンブライドと、某先導系カードゲームの新パック発売と、次回のまよつじのハヤブサVSスイートボーイの前に番外編。
ゆやモコ推しの方!今回は甘めですよ!!やったね!

皆でデュエドル編!


番外編 頑張れ!デュエドル!~ウェディングプロジェクト~

――― 芸能界

 

それは煌びやかで華々しく、1度は夢見る事もあるであろう世界。

 

だがそれは怪物でもあり、弱き者は皆、芸能界の猛者達に全てを食らい尽くされる。

 

今、テレビに映っている人、特に「あ、この人最近人気だよな~」とか思う芸能人は皆、猛者と考えても良い。実力もさながら、時には運が必要となるこの世界。

 

煌びやかな職業と言えば、歌手・モデルなどが挙げられるだろう。最近では声優もその1つである。

 

 

しかし最も分かりやすい職業 それが―――アイドル。

 

 

愛らしく、カッコ良く、華々しい。まさに芸能界を象徴するザ・芸能!!

 

 

この物語は、デュエルと歌で芸能界のトップを目指すデュエドル(デュエリストアイドル)達の青春ストーリーである!!

 

 

 

 

 

「ウェディングプロジェクト…ですか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

大手芸能事務所・LDSの社長室にて。人気デュエドル・モコは若手社長にして超人気俳優・零児から渡された企画書に目を通していた。

 

内容は『ウェディングプロジェクト』。その名の通り、モデルであるデュエドルや俳優達などがウェディングドレスを着て、写真を撮って、その写真集を出すという至ってシンプルな企画だ。

ただしモデルとなる芸能人は今旬な人物から人気の人物まで幅広く、要は良い写真があれば掲載され、更に運が良ければウェディング業界にも注目され、他の仕事がもらえる可能性がある。ぶっちゃけ言えば運次第で新人でも将来のチャンスが貰える貴重な企画なのだ。

 

「正確にはウェディングドレス風のドレスを着て撮影する。そのモデルに君を推薦したい」

 

「わ、私がモデル…!」

 

「どうだ?受けて損はないだろう?」

 

「はい!お話、ぜひお受けします!」

 

人気とはいえ、仕事で給料を貰う立場のモコにはありがたい企画だ。受けない訳がない。ふんわりと笑うモコに零児はフッと口角を上げてうっすらと笑った。

 

「その企画には私も出る。新郎役としてな」

 

「社長もですか?はわぁ…社長でしたら、お相手はきっと綺麗な女優さんですよねぇ…」

 

モコの脳裏には綺麗なドレスを着た女優とタキシード姿の零児が並んでいる姿が浮かぶ。端正な零児とお姫様の様な女優のペアは素敵だろうとメルヘン思考なモコは「うふふ」と微笑みながらそう思う。

 

しかし、零児の脳内はこうだ。

 

「(フフフ、モコたんならばこの企画に賛成してくれるとわかっていた。モコたんの相手は何が何でも私が務める。道端の砂利以下のデュエドルやら俳優やらなどと会話すらさせん!!…ふふふ、モコたんにはドレス風ではなく、ウェディングドレスを着せよう。勿論バレないようにだ。嗚呼、何が良いだろうか。プリンセスライン、Aライン、マーメイドも良いな…!レッツ・ハッピーウェディング!)」

 

まったくもってこの男は本編でも番外編でも変態である。冷静な顔で腕を組みながら様々な邪念がポンポン生まれる零児。一方でモコはドレスと聞いて、嬉しそうだ。

 

「ドレスかぁ…!今までアイドルの衣装も可愛かったですけど、ドレスはもっと可愛いんだろうなぁ…!」

 

モコのキャッチコピーは『ゴーストプリンセス』。愛嬌たっぷりの幽霊・ゴーストリックを操る彼女の衣装はゴシック風。黒を基調とし、モコのふんわりとした可愛さを演出すべく白のレースやフリルがたっぷり使われた可愛い衣装だ。因みにサイズがぴったりで、それを用意したのが零児。…ちょっと疑ってしまう。

 

 

さて、今回はどんな騒動になるのやら…。

 

 

*** ***

 

デュエドルたるもの挨拶は新人でもベテランでも大事である。モコはコンコンと楽屋の扉をノックすると、返事が返ってきた。

 

「ご挨拶よろしいでしょうか?」

 

「どうぞ!」

 

「失礼します」

 

一言入れて、ドアノブを回して扉を開ける。中に入るとそこには顔見知りのデュエドルがいた。

 

「遊矢君!お久しぶりです!」

 

「久しぶり!春のお花見企画以来だね!」

 

中にいたのはモコと同期のデュエドルで、華やかなパフォーマンスが人気のエンタメデュエドル『榊遊矢』。小さな芸能事務所・遊勝事務所のメンバーだ。最近ではモコと雑誌で組む事が多く、この前は春のお花見企画で一緒に仕事をした。

 

とてとてと足音鳴らしてやってきたモコと遊矢は両手の掌同士を合わせてきゃーっと再会を喜ぶ。

 

「遊矢君もウェディングプロジェクトに参加するんですか~?」

 

「うん!新郎役!今衣装合わせしてるけど、柚子も来てるよ~!素良も来てる!権現坂は和服雑誌の取材でいないけど…」

 

「今度事務所の方に遊びに行きますぅ!お菓子持ってきますね~!」

 

「ありがと~!」

 

もはや女子会のノリである。きゃっきゃと騒ぐ2人。すると遊矢の楽屋に誰かが入ってきた。

 

「モコ、衣装合わせの時間だ」

 

「シスター!」

 

「あ、シスターさん。こんにちは!」

 

入ってきたのはモコのマネージャーのシスターだ。噂では「昔世界的モデルだった」とか「実は芸能界の頭領」だとか言われている人物だが、モコにはデロデロに甘い。シスターはモコの肩を抱えると、遊矢に言った。

 

「榊君、今回モコの相手を頼む」

 

「え、俺で良いんですか!?」

 

「あぁ、年も近いし、何より君なら安全だ」

 

「安全?」

 

「…今回の新郎役、殆どダメな奴ばっか」

 

「あぁ」

 

遊矢、理解する。妙にげっそりとしたシスターの顔を見て、大体の察しはつくだろう。

 

「?」

 

分かってないのはモコだけだった。

 

 

*** ***

 

 

「よし、可愛いぞ」

 

「ふわぁ…!素敵…!」

 

ふわふわ、少し動くだけでスカートが揺れる。モコが着ているのはくるぶし丈の白いアングルドレスで、胸は中心部がV字になり、胸を強調するようなハートカット。水色の花のコザージュが胸元で咲いている。靴はサンダル。二の腕まであるロンググローブ。ヴェールはないが、本当に花嫁の様だ。軽く化粧を施しているおかげで、頬と唇は淡いピンク色に染まっていて、可愛らしさを倍増させる。

 

「入っても良いですか~?」

 

「良いですよぉ~」

 

「失礼しまーす!…わぁっ!モコ可愛い!お姫様みたい!」

 

楽屋に入ってきた遊矢が頬を紅潮させて、モコを褒める。遊矢はシンプルにホワイトのタキシードを着ていて、モコの衣装と合わせたのか胸元には、色は赤いが形は一緒の花が咲いている。

 

「そんな…お姫様みたいだなんて…照れます」

 

「でも本当にお姫様みたいだよ!すっごく綺麗!」

 

「…あぅ…そのぉ…遊矢君も王子様みたいでカッコイイ…です…!」

 

「えっ!」

 

顔を真っ赤にさせてそう言ったモコに、今度は遊矢が照れる番だった。

 

「う、嬉しいな…、ありがとう…」

 

「…はい…」

 

うふふ、えへへ。頬を紅潮させ、目と目が合えば恥ずかしがってそらしてしまう。それでも相手の姿が素敵で、ついつい見てしまう。まるで結婚式直前のカップルの様だ。

 

すると少し落ち着いた遊矢はわざとらしくゴホンを咳をすると、右手をモコに差し出した。

 

「お手をどうぞ、プリンセス」

 

普段の明るくコロコロと表情が分かる彼から一変し、キリリとした顔でそう言った遊矢にモコはほんのりと頬を赤くすると、微笑んでその手に優しく右手を乗せた。

 

「ちゃんとエスコートしてくださいね?」

 

「喜んで!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……若いなぁ」

 

 

楽屋を出て行った2人を背中を見て、シスターはそう呟いた。嗚呼、甘いなぁ。

 

 

 

*** ***

 

 

スタジオに入れば既に何人か企画参加者とスタッフがおり、幸いにも参加者は全員2人の顔見知りだった。

 

「あっ、モコと遊矢君来た!」

 

「おっせーぞ!」

 

「リンちゃん!」

 

「ユーゴ!久しぶり!春フェス以来だね!」

 

「おうよ!」

 

先に2人に声をかけてきたのはモデルのリンとデュエドルのユーゴ。あの人気デュエドル・ジャックと同じ事務所「サティスファクション」所属の人気モデルとデュエドルコンビだ。ユーゴは遊矢の従兄弟で、リンは柚子の従姉妹。遊矢と柚子は何かと芸能界に親戚が多い。

リンは淡いミントグリーンのプリンセスラインのドレスを着ており、ユーゴは遊矢と同じホワイトのタキシード。お互い胸元に同じ形の花のコサージュを付けており、リンは白、ユーゴはミントグリーンだった。

ドレスの裾を踏まない様に気を付けてやってきたリンはモコに「久しぶり!」と声をかけた。

 

「モコ可愛い!妖精さんみたい!」

 

「リンちゃんも素敵です!お花の妖精さんみたいです!」

 

「よぉ、遊矢!なんだ?手繋いでご登場たぁ、中々ラブラブじゃねぇか」

 

「えへへ!今日は俺がモコの王子様なんだよ!」

 

「そうなんですよぉ」

 

えへへ~と笑い合う遊矢とモコにユーゴは「よっ!仲良しめ!」と囃し立てる。ニヤニヤしてくるユーゴに遊矢もニヤリと笑うと、

 

「そっちこそ!今日はリンとの結婚式みたいで嬉しい癖に!」

 

「なっ!?にゃに言ってんだ!そ、そういうのはなぁ…!」

 

「あら、遊矢君ったら!冗談も程々にしてよね!」

 

「   」(チーン…)

 

リンの無慈悲な言葉にユーゴがスタジオの隅っこで、膝を抱えてのの字を書き始めた。背中からは哀愁が漂い、下手したらキノコでも生える勢いである。これには流石にある意味原因となった遊矢とモコは同情せざるおえない。慌てて2人でユーゴのライフを回復しに行く。

 

「ユ、ユーゴ君!気を確かに!」

 

「ユ、ユーゴ!ほら!そんな落ち込まないで!あれだよ!しょ、将来の為の予行練習と思えば良いって!」

 

「…ぐすん、そぅか?」

 

「「うんうんっ!」」

 

「予行練習も何も、弟分と撮影するだけでしょ?」

 

「   」(チーン…)

 

「ユーゴ君!?」

 

「大変だ!ユーゴのライフがゼロ超えてマイナスに!!」

 

哀れユーゴ。いつか思いは届くさ、きっと。オロオロと遊矢&モコペアがユーゴを慰めていると、今度は別のペアが声をかけてきた。

 

「あら、大丈夫?ユーゴは」

 

「まったく鉄の意思も鋼の強さもない奴め、それでもデュエドルか」

 

「あっ!瑠璃ちゃん、師匠!」

 

「黒咲兄妹!?」

 

やってきたのはこれまた柚子の従姉妹である兄妹、端正な容姿と圧倒的デュエルで事務所「ハートランド」を支える大黒柱、人気デュエドル・黒咲隼と彼の妹で、その歌声は「天上の調べ」と名高いシンガー・黒咲瑠璃。瑠璃は紫色のAラインドレス、隼は黒いタキシード姿。花は他のメンバーと違いお互いに黄色だ。

隼は一時期モコにデュエルを教えていた事があり、その影響で未だに師匠呼びが抜けない。隼も久しぶりに見た元気な弟子の姿に微笑んだ。

 

「元気そうだな、モコ」

 

「はい!毎日師匠に言われた通り、3食ご飯キチンと食べてます!」

 

「そうか。遊矢、お前も久しいな」

 

「うんっ!この前のユートとのタッグデュエル、見てたよ!相変わらず相性バッチリだね!」

 

「当然だ」

 

フッと笑う隼。瑠璃はモコの手を握った。

 

「モコも久しぶり!この前の遊矢君とのお花見企画、楽しそうだったね!」

 

「はいっ!瑠璃ちゃんもアルバム発売おめでとうございます!」

 

「ありがと!」

 

「それにしても黒咲達は兄妹で撮るの?ユートは?」

 

「嗚呼、ユートなら…」

 

そう言って隼はある方向を指す。その先を見てみると、そこには普段着に眼鏡を付けたユートがカメラを調整しつつ、スタッフと話し合っていた。

 

「ユート!」

 

遊矢が名前を呼べばユートはこちらを見て、スタッフに2、3言話すとこちらにやってきた。

 

「遊矢、君もこの企画に参加するのか」

 

「うん!モコも一緒!」

 

「こんにちは、ユート君」

 

「モコ…!そうか、君も参加を。だったら余計に上手く撮らねばな」

 

ユートはハートランド所属のカメラマン志望の遊矢の従兄弟だ。モコを見るなり可愛らしくほんのりと頬を染め、カメラを調整する姿はいじらしい。すると隼が少し呆れた様な顔で言った。

 

「まったくお前も参加すれば良い物を…」

 

「隼、何度も言うが俺はデュエドルではなくカメラマンになりたいんだ!この前のタッグデュエルだってお前と瑠璃とカイトに言われてしょうがなく…!」

 

「でも評判良かったんでしょ?」

 

「うぅ…遊矢まで…」

 

はぅ…と落ち込むユート。実は彼、デュエドルの素質は十分あるのだが、ユート自身のカメラマンへの夢を叶えたいという意思は強い。それを分かった上で隼と瑠璃は彼をデュエドルとして導こうとしているのだ。

 

「無理強いは駄目ですよ、師匠」

 

「むっ」

 

「モコ…!」

 

助け舟を出してくれたモコにユートはキラキラとした目で見る。やっぱり持つべきは優しくて可愛い女の子だ。ぶきっちょで目付きが鋭くて、鈍ちんな猛禽類男子など却下。しかし諦めの悪い奴でもある。

 

「しかしユートのデュエドルとしての才能を潰すなど…」

 

「夢を潰したら元もこうもないですって!」

 

「ぬぬ…」

 

「(照れ照れ)」

 

渋い顔をする隼、恋する乙女の様に火照った頬を両手で押さえて照れるユート。差が激しい。するとにっこりと女神の様に微笑んだ瑠璃からこんな提案が出た。

 

「だったら兄さん、私との撮影が終わったらモコと撮れば?『2人っきり』で」

 

「にゃっ!?」

 

うふふと口に手を当てて上品に笑う瑠璃。因みに2人っきりを強調したのは気の所為ではない。その提案にユートはギョッとするが、隼は「ふむ」と考え始め、

 

「…良いな、それ」

 

「しゅ、隼!?」

 

「モコ、瑠璃との撮影が終わったら俺と撮るぞ。『撮影する側』のユートもスキルが上がるんじゃないか?」

 

「にゃ…!?」

 

「そうねぇ、兄さんとモコが『撮る』んですものねぇ。あ、その写真撮れたら黒咲家に飾りましょう!」

 

「にゅや!?」

 

「流石は瑠璃。良い提案だ」

 

 

「「あーあ、ユートもタキシード着て撮れば良いのになー」」

 

 

「ぐにゅにゅ…!」

 

超絶わざとらしい黒咲兄妹に、ユートは猫語になりながらも悔しそうに拳を握る。更に黒咲兄妹は追撃を行う。

 

「あらーこんな所にタキシードがぁ~」

 

「偶然だな、サイズも誰かさんにピッタリだ」

 

「しかもお花のコサージュまである~」

 

「これがあれば撮影が出来るな」

 

 

「「あーあ、残念だけど、これ撮影の邪魔になるからどこかに仕舞わないと…」」

 

 

「や、やれば良いんだろう!?うぅっ!俺、やりゅから!!」

 

「「いぇーい」」

 

涙目でそう言ったユートにパチンとハイタッチする黒咲兄妹。流石は幼馴染同士。扱いに関しては心得ている。こうしてユートはカメラマンではなくデュエドルへの道を進む事になるのだった。

 

「こ、これで良いだろう!?」

 

「似合っているぞ、ユート。七五三の様だ」

 

「きゃぁ、ユート可愛い!」

 

目に涙を溜め、顔を真っ赤にして、黒いタキシードに着替えたユートを黒咲兄妹は「可愛い可愛い」と褒めちぎる。ユートも1人の男子だ。可愛いだの言われたくはない。うぅと落ち込むユートにモコが駆け寄ってきた。

 

「まぁ!ユート君素敵です!カッコイイです!」

 

「ふにゃっ…!?カッコイイ…!?」

 

モコがカッコイイと褒めるとユートから涙が引っ込み、今度は照れ照れと照れはじめる。因みにカメラマンはスタッフさんに変わってもらった。すると、モコの後ろからある声が聞こえてきた。

 

「んふふ…初心だねぇ、黒猫君?」

 

「そ、その声は…!?」

 

ざわっ!その声にスタジオ中がざわついた。特に隼に関しては既にデュエルディスクを構えそうだ。

何を隠そう、この声の主は今、芸能界でトップをキープする超大手の事務所「アカデミア」所属デュエドルで、何とデビュー1年目でその人気を不動の物にし、大量のファン(と言う名の信者)が増えまくっている、まさにダークホース以上のダークホース。

 

その名を―――!

 

「ユーリ!!」

 

「やぁ、ごきげんよう、モコと遊矢とその他下々のデュエドル達」

 

片手で髪を振り払う姿さえ様になっている彼、ユーリはそう言った。その言葉にモコと遊矢以外のメンバーの怒りスイッチが入ってきた。不穏な空気を感じて、モコが慌ててユーリを止めに入る。

 

「ユ、ユーリさん!そんな失礼な事言っちゃ、んっ」

 

「はい、モコ。喋っちゃだーめ」

 

ピトリとユーリは人差し指をモコの唇に当てて、彼女の言葉を遮る。その仕草にユートの眉間に皺が寄る。それを分かっているのか、ユーリは更に片腕でモコの腰を抱えると抱きよせた。

 

「わっ」

 

「ッ貴様ァ!俺の弟子に触るな!」

 

「わぁ、怖い猛禽類だなぁ。ねぇ、モコ。ボクと撮影しない?セレナも衣装合わせでいないし~」

 

「ちょ、ユーリさっ」

 

なでなで。ユーリがぐいっと顔を近づけながら腰を撫でる。それに黒咲とユートの眉間に更に皺が寄り、お互いエースモンスターを出そうとした途端、

 

「ユーリ、いい加減にして」

 

スッとユーリの首筋に一枚のカードが添えられた。そのカードは魔法カード『スマイル・ワールド』。このカードを持つデュエドルは1人しかいない。そう、彼女の相手役を務める彼―――

 

「…遊矢」

 

「賢いユーリなら分かるよね?」

 

にっこり。いつも通りの笑顔なのに異様な気迫を放つ遊矢にユーリはため息をつくと、モコを遊矢に返した。遊矢はモコの腰を掴んで抱き寄せると、彼から離れた。遊矢の胸元に顔を押し付ける様な形になったモコは恐る恐る顔を上げる。

 

「ゆ、遊矢君?」

 

「もぅっ!モコ、駄目だよ?勝手にうろうろしたら!俺の傍にいてね」

 

「は、はい…?」

 

「よし、良い子」と遊矢はモコの頭を撫でる。モコは訳が分からずハテナマークを飛ばすが、他の男性陣は冷や汗をかいていた。

 

「ゆ、遊矢はいつの間にあんなオーラを…」

 

「恐るべき、遊矢」

 

「ひゃあ~…こぇぇ…」

 

「まったく、遊矢ったら…ちょっと遊んでただけなのにぃ…」

 

ぷぅと頬を膨らますユーリ。いや、お前が原因だよとメンバーは思う。するとスタジオの扉が開いた。

 

「さつえい!はっじめるの~!」

 

ガラガラガラ。台車に乗った椅子に座って登場したのは大きなサングラスとサンタの様な白い髭を付けた小さな人物。メガホンをぶんぶん振り回しながら、「さつえいさつえい!」と言うこの人物こそが今回の企画当事者。

 

―――芸能界の『奇才』 人気監督 スズランティーノ監督である。因みに天才子役・鈴蘭と似ているとか似てないとか。

 

台車を押しているのはタキシード姿の零児で、台車の隣には遊勝事務所所属・素良もいる。カラカラと台車を押されてやってきた天才監督はぴょんっと椅子から降りると、メガホンを振り回す。

 

「きょうはウェディングプロジェクトさんかありがとうなの!you達、Futureがあるデュエドルたちのきらめきを~さいだいげん!ひきだすべく、さつえいするの!そしてこんかいのしゃしんはざっしにして、ウェディングぎょーかいのひとたちにくばるからおしごとふえるかもなの!」

 

「それじゃあさつえいがんばるのー!」スズランティーノ監督が撮影開始の合図を上げた。

 

 

*** ***

 

「それじゃあ、つぎはゆうやくん&モコちゃんペア!じゅんびするの!そらきゅん!キャメラ、スタンバイッ!なの!」

 

「はいはーい」

 

今日、素良はスズランティーノ監督のアシスタントをするらしい。ガチャガチャと素良やスタッフ達が機材の準備をする中、遊矢とモコは手を繋いで撮影場所に向かった。

 

「頑張ろうね、モコ!」

 

「はいっ!素敵な写真撮りましょうね!」

 

「うんうんっ!ラブラブいいね!そらきゅん!おはなじゅんびっ!」

 

「はいよー」

 

カメラに写らない様にハシゴを設置し、素良は上に上がると籠に入った白薔薇の花びらを巻く。

 

「それじゃあとるの~!さくらぎくん!しゃったー!」

 

「はいっ!スズランティーノ監督!」

 

LDS所属のデュエドル・桜樹ユウが尊敬するスズランティーノ監督の指示でカメラを構える。

 

「それじゃあモコ、リラックスして…」

 

「はい…」

 

ブーケを持ち微笑むモコを遊矢は穏やかに花嫁たる彼女をエスコートする。どこか初々しくも甘い雰囲気にスズランティーノ監督は「なの」と頷くと、シャッターを切る合図を送る。

何度かシャッター音がする中、2人はお互いに見つめ合いながら、幸せなひと時を過ごす。本当に幸せそうに微笑む新郎新婦。最後のシャッターが切られると、スズランティーノ監督の声が響いた。

 

「キャァッット!!ナイスフォト!Excellent!これはいいものなのぉ!」

 

「先生!お写真です」

 

「ナイス!ナイスフォト!さくらぎくん!とりあえずぜんぶUSBにいれて!せんべつはさつえいぜんぶおわってからなの!」

 

「はい!」

 

パタパタと騒がしくなるスタジオ。撮影を終えた2人はえへへと笑い合いながら、去ろうとする。だが、

 

「はい!つぎは~…れーじくんとモコちゃぁん!ロイヤルウェディング、いってみよぉー!」

 

「えっ!?零児!?」

 

「あらまぁ!」

 

「ふふっ…ついに私の番か…」

 

くるくるくる~と回転しながらそう言ったスズランティーノ監督に遊矢は抗議した。

 

「ちょ、スズランティーノ監督!零児とモコ組ませちゃダメでしょ!」

 

「ここのルールはMeなの!!」

 

「何て俺様ルール!」

 

うぅ~と遊矢が唸る中、零児は片腕をモコに差し出し、薄らと笑った。

 

「どうぞ、麗しいレディ」

 

「…あ、はいっ…」

 

顔だけは王子様の様に整っている零児にそう言われたら、誰だって赤面するだろう。モコは頬をほんのりと染めながら、その腕に恐る恐る手を添えた。流石は社交界にも出る零児。女性のエスコートは学んでおり、かなり様になっている。その姿に素良はキャンディをころころと転がしながら、感心していた。

 

「ほへぇ~…流石は一流事務所の社長兼有名俳優…女の子の心はしっかりキャッチ出来るんだねぇ」

 

「うんうん、こっちもいいのぉ~!さくらぎくん!キャメラァ!!」

 

「はい!」

 

即座に桜樹がカメラを構える。背が近い遊矢とは違い、背が高い零児を見上げる形になるモコだが、優しい顔で微笑む零児につい目をそらしてしまう。直視できないのだ。まるで普段とは違ってタキシード姿の新郎の姿に見惚れている新婦の様だ。そんな恥ずかしがる新婦に新郎は穏やかに微笑みながら、歩みを進める。

 

撮影する零児&モコに、先程までぶーぶー言っていた遊矢も見惚れている。

 

「零児、流石だな…。伊達に人気俳優って言われてるだけの事はあるなぁ…」

 

「あぁ…」

 

ほぇぇと見惚れる遊矢&ユート。すると、ふと忌々しげに零児を見ていた隼が何かに気付き、後ろを振り向いた。

 

「何だ?」

 

「どうした?隼?」

 

「いや…何か気配が…」

 

次の瞬間、スタジオに2人の人物が入ってきた。

 

「その撮影!私達も参加させてもらうわ!」

 

「その通り!」

 

何と、その人物達はタキシードを身に纏い、髪を襟足で1つに束ねた柚子とセレナだった!!

 

「え…ッぇええええええ!?ゆ、柚子!?セレナ!?なんでタキシード!?」

 

「何、セレナ、君…男装に目覚めたの…?」

 

えぇぇと驚く遊矢とユーリ。しかし柚子とセレナはふっと笑うと、

 

「遊矢!貴方ばかりにモコは独占させない!」

 

「その通り!私達もモコと撮らせてもらおうか!無論、新郎役として!」

 

「えぇええええええ!?ちょ、スズランティーノ監督!良いの!?」

 

遊矢がそう言えばスズランティーノ監督は、

 

「オーケー!イケ女オーケー!」

 

「嘘ォ!?」

 

「それにモコちゃんをみてみるの!」

 

と、スズランティーノ監督がメガホンでモコを指す。それに従って皆が見ていると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………カッコイイ…♡」

 

 

「「「えぇええええええぇええええええええ!?」」

 

 

とろんとして、目をハートにさせるモコがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、来月発売されたとあるウェディング雑誌の表紙は謎の美少年2人と嬉しそうに笑う白い髪の花嫁で、それがかなり好評だったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 




一回やってみたかったアイドルパロ!次回の大戦頑張るぞぉー!(ガタガタ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。