むかーしむかし、と言っても14年前の話。とあるそれはもう世界的活躍と人脈を持つスーパーウルトラハイパーミラクルな、ちょっとお屋敷が遊園地より大きいだけの家に、1人の男の子が生まれました。
彼はそのお家の中の次男であり、長男とはちょっと年の離れた子です。
ちょーっと大きな包丁を担ぎ、軍事に関しては末恐ろしい程の才能を見せる鬼神長男と比べ、次男はそれはそれは可愛らしい男の子でした。
ふわふわの白い髪に大きな瞳、ちょっと人見知りな所はありますが愛想が良く、ご近所さん(世界的玩具メーカーのご婦人やハリウッド俳優など)から、それはもう評判が良かったのです。
そんな次男はお家の一番偉いお祖母ちゃんの教育の元、すくすくと成長しました。彼はお祖母ちゃんが大好きで、お祖母ちゃんからの宿題も文句1つ言わずにしっかりとやりました。(なお、長男の家庭教師もしていた家庭教師はその素直さを見て涙ぐんでいました)
それから時は過ぎ、次男は中学生になりました。穏やかな性格から男女問わず人気です。
今日は『舞網第二中のふんわりプリンス』と呼ばれる次男・日辻モコ君の生活を見て見ましょう…。
*** ***
≪ゆや&ゆじゅの場合≫
「モコ~!」
通学路を歩いていたモコ君は名前を呼ばれて後ろを振り返りました。後ろからは大きな胸をたぷたぷと揺らしながらこちらへ走ってくる1人の少女がいました。少女の姿にモコ君は微笑みます。
「遊矢ちゃん。おはよう」
「おっはよー!」
舞網第二中のブレザーをマントの様に羽織り、赤いTシャツと深いグリーンのショートパンツから伸びる黒ニーソに包まれた足が眩しいこの少女の名前は榊遊矢ちゃん。モコ君のお友達です。まるでトマトの様な色合いの髪は腰までありました。
彼女は嬉しそうにモコ君に近づくと、彼の腕にまるで恋人の様にぎゅっと抱き付きました。
「えへへっ!朝からモコに会えるなんて早起きした甲斐があったよぉ!」
「僕も朝から元気な遊矢ちゃんが見れて嬉しいよ」
朝っぱらからゲロ甘なピンクのオーラを放つ2人。やばいくらいのリア充オーラですが、2人はこれでも付き合っていません。ただのお友達なんですよ?驚きでしょう…?
その結果、2人のフィールド魔法の効果で、モコ君と同じ通学路を歩いていた男子生徒諸君が胸を押さえ、蹲り始めました。
「く、クッソォ…!イケメンめぇ…!」
「ハハハ…真っ白に燃え尽きたぜ…」
「我が舞網第二中のエンタメ姫とあんなイチャイチャと…ッ!許すまじ!!!」
「だ、だが相手は顔だけではなく、家も性格も成績もパーフェクトな日辻…!しかも俺この前ノート見せてもらった…!超絶分かりやすかった」
「俺、日辻に保健室運んでもらったわ…。俺の乙女心が日辻になら抱かれても良いと…!」
「駄目だ!!勝てる気がしない!!」
頭を抱える舞網第二中男子生徒諸君。しかし2人はきゃっきゃと話し合っていて聞こえていません。見事にカオスな通学路です。そんな時、遊矢ちゃんの後ろの方からとある人物がやってきました。
「遊矢~!急に走らないでよー!」
「あ、柚子!」
遊矢ちゃんを追ってやってきたのはマゼンタ色の髪をツインテールにした少女、柊柚子ちゃんです。彼女は遊勝塾というデュエル塾の塾長の娘さんで、遊矢ちゃんもそこに通っています。遊矢ちゃんの元へ走ってやってくる柚子ちゃん。すると柚子ちゃんの視界にモコ君の姿が入り、それと同時にモコ君の視界にも柚子ちゃんが入り、モコ君は微笑んで、挨拶をしました。
「柚子ちゃん、おはよう」
ずきゅ――――んっ!
まさにそんな効果音が付く程、柚子ちゃんの胸は高まりました。柚子ちゃんからは微笑むモコ君の周りに薔薇が見えました。微笑むモコ君に見惚れていると、柚子ちゃんはハッと我に返り、身嗜みのチェックをします。女の子ですから好きな人の前では身嗜みはキチンとしたいものです。大丈夫な事を確認すると、柚子ちゃんは態とらしくごほんっ!と咳をして、モコ君の方へとやってきました。
「お、おはよう!モコ!」
「うん、おはよう」
「おはっよー!」
「遊矢はさっきしたでしょ!」
暢気に自分にも挨拶する妹的存在は柚子ちゃんにとって最大のライバルです。普段は可愛い妹分ですが、モコ君の前だと最大の障害にもなります。
えへへと笑う遊矢ちゃんに柚子ちゃんは『んもうっ!』と呆れますが、モコ君は『姉妹みたいだな~』と微笑んでいました。
「あ、柚子ちゃん。前髪少し切った?」
「えっ、分かる!?」
「そうなの!?」
モコ君の言う通り、実は柚子ちゃんは昨夜、少し前髪を切っていたのです。とはいっても2㎝くらいなのですが、モコ君はそれに気づきました。恐るべし、イケメン。
「うん、昨日より短くなってるから」
「へ、変じゃないかな…?」
「変じゃないよ、むしろ似合ってる」
好きな人に似合ってるなんて言われたら、それはもう恋する側からすれば天にも昇る気分です。柚子ちゃんのほっぺが赤く染まります。
「あ、ありがと…!」
「そろそろ学校行こうよ!遅刻しちゃう!」
「そうだね、行こうか」
今日も仲良し3人は一緒に学校へと向かったのです。
≪ましゅ&さわの場合≫
LDSと言えば広く、様々な生徒が通っています。その中でモコ君はLDSカフェ近くのベンチで図書室から借りた本を捲っていました。細く長いしなやかな指がページを捲る度、本が喜んでいる様でした。
「……」
「モコっ」
「ん?」
名前を呼ばれ、モコ君は本から顔を上げました。彼の前には艶やかな黒髪と褐色肌が特徴的な美少女が立っていました。名前は光津真澄ちゃん。LDSでも融合コースのトップの女の子です。そんな彼女の頬はほんのりと赤く染まっており、何かを隠す様に両腕は後ろに回されていました。
「真澄ちゃん、どうしたの?」
「あ…あの…!これっ!」
頬を赤く染めた真澄ちゃんが差し出してきたのは白い袋に水色のリボンのラッピングされた可愛らしいプレゼントでした。
「きょ、今日ね、学校でお菓子を作る実習があってね…!そ、それで上手く出来たからモコにあげようと思って…!」
お顔を真っ赤にして、差し出す真澄ちゃん。普段ツンツンした態度からは考えられない程のデレ真澄ちゃんです。とっても貴重です。恋する乙女真澄ちゃんです。緊張で手が震えていますが、大好きなモコ君に受け取ってほしい。何ともぴゅあっぴゅあな恋ですね!!
勿論、皆大好きトゥキメキプリンス・モコ君はそれを笑顔で受け取りました。
「ありがとう、真澄ちゃん」
にっこり。プリンススマイルでクッキーの入った袋を受け取ったモコ君。その笑顔に頬を赤くしながら、何度も頷く真澄ちゃん。その光景をカフェが見える位置で見ていた男子2人はハンケチで目頭を押さえていました。
「良かった…!良かったね真澄!」
「何度も渡そうと迷ってたからなぁ…!くっ、目から汗が…!」
まるで妹を見守るお兄ちゃんの様な気分で、北斗君と刃君は見守っていました。そんな事も知らず、モコ君はさっそくリボンを解いて、袋を開けました。
「わぁ!美味しそう!本当に貰って良いの?」
「う、うんっ!!」
「それじゃあさっそく」
いただきまーすと袋の中へ手を入れようとしたモコ君。しかし次の瞬間、袋はモコ君の上から消えていました。
「…あれ?」
「なぁ~にしちゃってくれてんのかな~?真澄ちゃ~ん…」
「あ、アンタは…!」
袋を奪った犯人は額に怒りのマークを浮かべながら笑い、片手に真澄ちゃんのクッキーの袋を持っていました。ジッパーシャツから見えるふっくらとした胸に目鼻立ちがはっきりとした端正な顔立ちの少女は袋の口を開けると上に向け、一気に中身を口の中へとイートINさせました。
「あああああああああああああっ!!?」
「(バリバリボリボリ…ごくんっ)はんっ、結構焦げた味のクッキーだな!」
「何ですってぇ!?」
がるるるっと怒りで唸る真澄ちゃんを無視して、美少女はモコ君の隣に座るとむぎゅりとふっくらとした胸をモコ君の押し付けながら、もたれ掛りました。
「日辻~♡真澄よりこの完全無欠の美少女・沢渡さんが作ったクッキーの方が良いよなぁ…?」
「ア、アハハ…」
甘える様な声を出しながら、またたびを嗅いだ猫の様にとろんと目を蕩けさせた美少女の名前は沢渡シンゴちゃん。お父さんが議員のお金持ちなお嬢様です。とは言っても真澄ちゃんも宝石商の娘なので、彼女もお嬢様ですが。
沢渡ちゃんはごろにゃ~んとモコ君にすり寄りますが、モコ君は対処が分からず、困った様に笑うだけです。一方で頑張って作ったクッキーを奪われ、食べられてしまった上にモコ君にベタベタ触れる沢渡ちゃんに怒るの真澄ちゃんはデュエルディスクを構えました。
「デュエルディスク構えなさいよ!!ボッコボコにしてあげる!!」
「やぁ~ん!真澄が怖いぃ~!日辻守って~!」
「モコにベタベタすんじゃないわよ!このホルスタイン!」
「誰がホルスタインだ!あ、アレですか~?嫉妬ですか~?」
「何ですってぇ!!」
「あ、あの…2人共落ち着いて…!」
「大体お前の方が日辻にベタベタし過ぎなんだよ!あからさまに日辻に色目使いやがって!!」
「それはこっちのセリフよ!なぁに?ご自慢のホルスタイン胸が無いと勝負できないわけぇ?はっ、ザマァ無いわね!」
「そっちこそ!宝石商の娘の癖に品がないんだよ!!勝ち気な女は好かれねぇぞ!」
「アンタも同じもんでしょ!?」
ぎゃーぎゃーぎゃー。モコ君の取り合いが始まりました。キャットファイトです。LDSでも珍しくはない光景なのですが、もう色々とヤバイ感じです。
「あ…あぁ…だ~れ~か~た~す~け~て~…」
モコ君のヘルプは激しいキャットファイトで消えていきました…。
≪ゆと&ちゅんの場合≫
モコ君は今、大変ピンチでした。
「…し、ししょ」
「静かにしていろ」
むにゅりと視界いっぱいに広がる青いコートの生地と顔を包む柔らかな感触にモコ君は強制的に黙らせられました。モコ君は今、とんでもなく美人なお姉さんに押し倒されていました。
腰まである髪にモデルの様なスタイルのこの美人さんの名前は黒咲隼さん。モコ君のデュエルの師匠です。
普段ちゃんとしていれば美人なのですが、かつて色々あった所為で黒咲さんは頭のネジが何本がイっていました。所謂残念美人というやつです。そんな黒咲さんはモコ君の根性を気に入って弟子にしたのですが、共に過ごしていくうちに段々とモコ君にちょびっと歪んだ思いを抱くようになってました。
「モコ、興奮するか?」
「むごごごっ!(苦しい!)」
「そうか、するのか。俺の体も捨てたものではないな」
「むぐ―――!(話聞いて!)」
フフフフと怪しげな笑みを見せる黒咲さん。モコ君からすれば呼吸器官を封じられたので、興奮よりも今すぐ空気を吸いたい必死な気持ちです。しかし彼女は気づきません。
「安心しろ、痛くも痒くもない。やってくるのは天に昇る様な快楽、芽生えるのは父性だけだ」
「むぅうううううう!!(助けてぇええええ!!)」
ハァハァと妙に興奮したような息遣いとギラギラとした目。そしてモコ君の体を撫でる手は滅茶苦茶怪しい手付きです。モコ君は師匠としてならば黒咲さんを尊敬していますが、今の黒咲さんはただの捕食者。モコ君は冷や汗を流します。
因みにモコ君の両手は上で縛れているので、抵抗できません。モコ君は紳士ですから足で女性を蹴りません。
まぁ、ぶっちゃけ完全に積みました。
「狩らせてもらうぞ…!お前の全てを!」
「(それカイトさんのセリフ――――っ!)」
ついにここまでか―――!と、思ったその時でした。部屋の扉が開いたのは。
ガチャ
「隼、今日の夕飯は何がい…」
やってきたのは遊矢ちゃんそっくりのお顔のユートちゃんです。実は彼女、隼ちゃんとその妹・瑠璃ちゃんと一緒に暮らしています。因みに似ているのは顔で、胸部は悲しい程平らでした。恐らく買い物帰りでしょう、手にビニール袋を持ち、部屋の扉を開けた彼女の視界に飛び込んできたのは親友が王子様を押し倒しているシーン。
バサリ、手からビニール袋が落ちました。
「……!しゅ、隼!?な、何をして…!?」
「ユート、邪魔をするな。今からする事はお前の目には毒だからな、早く退室するんだな」
「だから何をしようとして!」
「夫婦になる為の儀式」
「そもそもモコはまだ14だぞ!?夫婦どころか結婚出来ないじゃないか!」
ユートちゃん、大正論です。お顔を真っ赤にしてそう言うユートちゃんは実に可愛いです。黒咲さんは舌打ちをすると、こう言いました。
「なんならお前もするか?儀式」
「にゃっ!?」
「むぐ!?」
なんということでしょう!まさかの発言です!黒咲さんの頭の中が実に疑えるような言葉ですね!
「俺は構わんぞ。だが最初は俺だ、それは譲らない」
「にゃ、にゃにを言っているんだバカ隼!」
動揺のあまりネコ語になっちゃったユートちゃん。あわあわと慌ててます。
「い、いい加減にしろ!隼!瑠璃に言いつけてやる!」
「ふっ、甘いぞユート」
「なっ…!?それはどういう意味だ…!?」
「教えてやろう。…モコをここに連れてきたのは瑠璃だ!」
な、何ですって――――っ!?
「る、瑠璃がだと!?」
「まず瑠璃がモコを連れてきて、その後適当な理由をつけて俺の部屋に連れてくる。そして俺と2人っきりにし、今に至るという訳だ。因みに瑠璃からの伝言は!」
『私、出来るなら最初は姪っ子が良いな!』
「だ!」
「瑠璃まで共犯だと!?」
な、なんということでしょう!まさかの黒咲姉妹の共犯だったのです!衝撃の真実にユートちゃんは驚きますが、ふと気づきました。
「…おい、隼。モコがいないんだが…?」
「なにっ!?」
ユートちゃんにそう言われて、黒咲さんは下を見ました。するとさっきまで押し倒していたモコ君の姿がありません!慌てて周りを見ると、近くにあった窓が開いていた事に気付きました。それで黒咲さんは理解します。
「ちっ!風魔忍者か!」
「隼!説教してやる!さっさと来い!」
「黙れちっぱい!」
「ち、ちっぱいじゃにゃい!あ、後数年したら遊矢みたいにだな…!」
「数年後とは一体いつの事やら!後数十年後の間違いじゃないのか!?」
「だ、黙れ!この…ッ鳥胸!」
「まだ純粋でござるか?モコ殿」
「大丈夫です…ありがとうございます…月影さん」
因みにモコ君は女忍者・月影さんにプリンセスホールドされながら、逃走中だったとさ!
因みに社長を出さなかった理由はさらに変態度が増しているので、出せないと思ったからです!