遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

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モコ、色んな意味でピンチ!!


第19話 迷える子羊とバトルロイヤル その2

「ふんふんふーん」

 

鼻歌を歌いながらシスターは道を歩いていた。自慢の馬鹿でかい包丁『杜若・魁』は今日も光を浴びて刃が光り輝く。上機嫌なシスターがブンッ!と包丁を振るうと、鎌鼬が発生し、周りにいた人間達に襲い掛かる。

 

―――服が破けるという形で。

 

「イヤァァアアアアアアアアアア!服が―――っ!」

 

「らめぇえええっ!」

 

「お、オレもうお婿にいけない!!」

 

わーわーぎゃーぎゃー。シスターの周りにいた男達の服がビリビリに破けていき、乙女の様な悲鳴を上げて皆大事な部分を隠す。この場にいるのが全員男性なのが非常に残念だ。

シスターの視界に入ってくる赤・黄・青の信号カラーの制服を着た男性達。だが上機嫌になっているおかげで、ただでさえ普段から無双状態なのに、今日は完全無双状態のシスターはそんな事気にせず、ただ嬉しそうに杜若を振るう。

 

―――目的が達成できたからだ。

 

するとシスターの肩に乗っていたクリーム色の生き物が嬉しそうに声を上げた。

 

「きゃんっ!」

 

シスターの方に乗っていたのは生後2ヵ月くらいのフレンチブルドッグの子犬で、嬉しそうに小さな尻尾を振って鳴いていた。

 

「ん~?プルもモコに会いたいか~?」

 

「きゃうんっ!」

 

そうですっ!と言わんばかりに鳴いたフレンチブルドッグの子犬ことプル。プルの頭を撫でながらシスターは上を見上げた。

 

「今頃~モコは喜んでいるかな~?」

 

シスター、現在プルをお供にアカデミアにて男性達の服狩りを無意識に行っていた。

 

 

*** ***

 

 

モコはデュラハンの白馬に跨りながら、ぷっくりと頬を膨らませていた。

 

「んもうっ!遊矢君のバカバカっ!師匠は危ない人じゃないもん!」

 

先程、火山エリアで遊矢と喧嘩別れになってしまったモコ。今彼女は沢山の木々が生い茂るジャングルエリアへと来ていた。

 

「そりゃあちょっと怖いですけど!モコのむ、胸も揉んでましたけど!でも良い人ですもん!」

 

健気な女子中学生の押し倒し、豊満な胸を揉んだ上に、デュエルとは関係ないトレーニングをし、あまつさえちょっとヤンデレちっくになってきた青年Kは本当の良い人だろうか?しかし鈍感なモコは気づかない。

 

するとぷんぷんと怒るモコは白馬から降りた。

 

「デュラハンさん!ここからはモコ1人で歩きます!ここまで連れてきてくれてありがとうございます!」

 

ぺこりと頭を下げたモコにデュラハンは左胸に手を当てると、光の粒子となって消えていった。デュエルディスクのプレートからデュラハンのカードを取り、エクストラデッキに戻すとディスクを左腕から外した。

 

「さてと…誰かいませんかね?」

 

キョロキョロと辺りを見渡すと誰もいない。あるのは木々だけで、人の気配も影もない。モコは辺りを見渡しつつ、足を進める。

 

「どうしましょう…。シロちゃんは今、いないし…」

 

実は先程、一緒に行動していたシロはモコが書いたバトルロイヤルのフィールドなどの状況を書いた書類を届けに一旦分かれている。今頃はきっと本会場の方に着いている頃だろう。

 

「にしても…何度見てもLC製のソリッドビジョンシステムは凄いなぁ…。本物そっくり」

 

と、モコはしゃがんで足元に落ちていた枯れ葉に触ると枯れ葉独特のザラザラとした触感がモコに手に伝わる。

 

「どうせなら鳥さんとかいれば良かったのになぁ…」

 

「何てね」とモコは笑った。因みに指令室でこの言葉を聞いた零児が本気でシステムを弄ろうとしていたが、流石に中島に「今ここを動くのはちょっと…」と言われて静かにしていたとかなんとか。

 

すると、しゃがんでいたモコにフッと影が覆い被さった。

 

「おい、そこの白いの」

 

「はい?」

 

と、少し乱暴な口調でモコに言葉をかけたその声は女の子の物で、モコは後ろを振り返った。後ろにはモコを見下ろす様に立っている少女が1人。赤い制服の様な服を纏い、藍色の髪を黄色いリボンでポニーテールに結ったその少女の顔はモコにとっては非常に見覚えのある顔だった。

 

「…あれ?柚子ちゃん?」

 

「ゆず?誰だそれは?」

 

柚子本人かと見間違う程良く似た顔立ちのその少女は首を傾げ、モコを見下ろす。モコは少し考えて見た。モコが知っている柚子はもうちょっと口調が柔らかいし、何より髪はツインテールだ。彼女の腕にはこれまた柚子の物とよく似たブレスレットをしているが、形や宝石の色が違う。

 

モコは立ち上がり、少女を少し見つめるとハッとして頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい!知ってる人に良く似てて…!間違えちゃってごめんなさい!」

 

「い、いや…そんなに頭を下げるな。勘違いなら誰にでもある、気にするな」

 

ペコペコと頭を下げるモコに少女は少し狼狽えた。

 

「私、日辻モコと言います。えっと貴方は…?」

 

「私か?私はセレナだ」

 

「セレナさんですね」

 

よろしくですと言ったモコに、少女・セレナはうむと頷いた。

 

「ところでセレナさんはバトルロイヤルの参加者…じゃないですよね?」

 

「バトルロイヤルだと?何だそれは」

 

「あれ?知らないんですか?今、このフィールドはバトルロイヤル仕様になってて…」

 

「そうなのか?…ところでモコとやら」

 

「はい?」

 

ジッとセレナはモコを見つめる。頭のてっぺんから足の先まで見つめるセレナにモコは「あの~…」と声をかけるが、セレナの目は上下に動いている。すると、セレナの目がモコの顔を見て止まった。

 

「モコ」

 

「はい?」

 

「お前、美味そうだな!」

 

「…………ひぇっ!?」

 

突然、そう言ったセレナにモコはびくりと跳ね上がる。それもそうだ、友達に良く似た初対面の少女に「美味そう」と言われるなど。驚くモコを後目にセレナはじゅるりと何かを啜った。

 

「何故だろう…お前を見ているとどうしてか食欲が湧いてきてな…!」

 

「食べられるぅ――――っ!!」

 

まるで獲物を目の前にした肉食動物の様に目をギラギラさせるセレナにモコは後ずさりをするが、モコが一歩後ずさりする度にセレナは一歩近づく。その繰り返しだ。

 

「特に胸の部分がな…!」

 

「焼肉じゃないんですから!!!」

 

 

 

*** ***

 

 

素良はバリバリとキャンディを歯で砕いて食べながら、ある事を考えていた。

 

「(黒咲と戦う前に、あの子を見つけなきゃ)」

 

そう考える素良の脳裏に白い髪が浮かぶ。ふんわりとしたクリームの様で、綿あめにも見える髪を持つ少女は1人しかいない。

 

「(まったくもう…!モコったらボクが居なきゃダメなんだから!)」

 

2本目のキャンディを齧り、素良は歩く。後ろには多数のオベリスクフォースが彼に付き従う様に着いてくる。

 

「(モコは何もわかっちゃいないんだ!遊矢や柚子と比べても鈍い子だからね!きっと黒咲に騙されているんだ!そうに違いない!だってどう考えたってそうじゃないか!そうでなきゃあの子がエクシーズ召喚を使う訳がない!)」

 

バリバリバリ、ピンク色のキャンディがどんどんと擦り減っていく。

 

「(黒咲よりもあのアルカードってエクシーズモンスターが邪魔だ!モコを見つけたらビリッビリに破いて、燃やして、二度とモコの手に渡らないようにしないと!!)」

 

あの日、雪兎とのデュエルでアルカードは召喚されてからモコの傍を離れる事はなかった。しかも必要以上にモコがアクションマジックを使って守る始末。それが余計に腹が立つ。

 

「(モコだってエクシーズじゃなくて融合使えば良いのに!ボクと同じファーニマルデッキ使えば良いのにさ!ってそうは言ってもモコはあのデッキ出来るまで、デッキなかったんだよね。嗚呼あの時、控えのカードでデッキ作って渡せば良かった!!!…ん?)」

 

そこで素良の足はピタリと止まった。それと同時にオベリスクフォース達の足も止まる。

 

「(…そうだ!初めからそうすればよかった!)」

 

ニタリと歪んだ笑顔を素良は浮かべた。

 

「ねぇ、君達にお願いがあるんだけど」

 

「何でしょう?」

 

素良はデュエルディスクを軽く操作すると、ある画面をオベリスクフォース達に見せた。

 

 

「この白い髪の子、見つけたら捕獲ね。アカデミアに連れて帰るから」

 

 

その画面には、デュエルディスクを構えてデュエルをする、あの日のモコが映っていた。

 

 

 

 

*** ***

 

 

「ひーっ…ひーっ…!な、何とか逃げ切れたぁ…!」

 

ハーハーと荒い呼吸を繰り返し、地面にぺたりとへたり込むモコ。先程ジャングルエリアでセレナに襲われそうな所を何とか振り切ったモコは、フーッと呼吸を整えると辺りを見渡した。

 

「…ここは…遺跡エリアの近くですかね…?」

 

遠くに見える遺跡らしき建造物。きっとここは遺跡エリア近くだろうと判断したモコはよっこらせと立ち上がる。すると、足音が背後から聞こえ、モコは振り返った。

 

「誰…?」

 

サクサクと地面を踏む音が近づいてくると同時に何やらブツブツと話声が消えてきた。

 

「セレナ様とやらは一体どこへ行ったんだ…まったく迷惑な話だぜ」

 

「面倒」だとか「帰りたい」だとか、何かと文句を言うその声は確実にモコに近づいていた。そして、遠かったその声の主の姿が見えてきた。

 

青年くらいだろうか、年は黒咲に近い様に見える。青い軍服の様なジャケットに白いパンツ、黒いブーツを身に着け、一見どこかの国の軍人の様に見えるが、面倒くさそうに無造作に伸びた肩より長い黒髪を、黒革の手袋をはめた左手でガリガリと掻いていて、ルビーの様な赤目は如何にも怠いと語っており、服とのギャップが激しい。右手に抱える様に妙な面を持っている。

 

「あーあ、どっかに可愛い女の子いないかなー!…ってあれ?」

 

パチリとモコの目と青年の目が合ってしまった。突然登場に目をぱちくりとさせるモコを見た青年は頬を紅潮させ、速足でモコに近寄るとガッ!と黒革の手袋をはめた両手でモコの両手を握った。

 

「わぁあああああ!何々!?君、ちょー可愛い!」

 

「へっ?…ひぃっ!?」

 

目をキラキラさせて、モコの顔にズイズイと顔を近づける青年。少し遠くてあまり見えなかったが、青年は中々顔が整っており、それがモコの持病を引き出した。顔が青ざめるモコに気づいていないのか、青年は早口で話す。

 

「マジ可愛い!肌の艶ヤバイ!髪の毛ちょーふわっふわ!おっぱい大きいのに腰括れてるし!目も大きい!スタンダードにこんな可愛い女の子いたんだ!スタンダードも捨てたもんじゃねぇな!ねぇねぇ名前は!?デュエルディスクのアドレス教えてよ!何なら今からデートでもどう!?俺スタンダードよく分かんないから君の好きなお店で良いよ!」

 

「ひぇぇえ…!」

 

早口な上にマシンガントーク、息継ぎなしでこう言った青年にモコはビビるが、ふと鼻を変わった匂いが擽った。

 

「(あれ…?この匂い…)」

 

モコの鼻を擽ったのは、例えるなら鉄の様な匂いだった。しかもかなり匂いは強く、モコはその匂いが青年から匂っている事に気付いた。そしてもう1つ、腐った様な、何となく鼻につく様な匂い。鉄の匂いが強いおかげで、こっちは少し薄い。

 

「(なんだろう…?どこかで嗅いだ事がある様な、ない様な…?)」

 

「あ、俺さ『フレデリック・デュリオ』!気軽にフレンって呼んでね!」

 

「は、はぁ…?」

 

「所でさ、君日辻モコちゃんで合ってる?」

 

「!」

 

バッ!とモコはフレンの両手を解き、サッと後ろに下がった。その反応にフレンはにっこりと笑うとガシャンッと左腕にデュエルディスクを装着し、ヒュンッと音を立ててプレートが展開させていく。プレートは剣の形をしており、舞網市では見た事のないデュエルディスクだった。

 

「悪いけどさ、俺と一緒に来てくれない?俺達の隊長命令なの」

 

「た、隊長命令…?」

 

「うん。俺的にはさ、君みたいな子傷はつけなくないんだ。なるべーくだーいじに!大事にしたい訳よ!」

 

フレンはにっこりと笑うと、

 

「―――エクシーズ次元の女の子はすぐに壊れちゃうし」

 

そう言った。その笑顔にモコは体の底から体が冷えるのを感じた。

 

「え、エクシーズ次元…?」

 

「まぁ話は後で我らがお城でゆーっくりと、ね!」

 

「…嫌、と言ったら?」

 

「デュエルで力づく!」

 

と、フレンはまたもや笑顔で言う。モコはジッとフレンを睨むと、懐からデュエルディスクを出し、それを左腕に装着した。ヒュンッと現れたプレートにフレンは嬉しそうに微笑んだ。

 

「うんうん、ちょーっと抵抗する姿もキャワイイね~!」

 

「隊長命令だか何だか知りませんけど、モコは着いて行きませんからね!」

 

「それ、勝ってから言ってね~!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

 

モコ LP:4000

 

フレデリック LP:4000

 

 

 

 

 

 

 




謎の軟派青年フレデリックとデュエルする事になったモコ!

デュエルの中、フレデリックの口から語られる彼の本性!それはあまりにも外道…!

そして、恐怖が限界突破したモコは…!?


次回!まよつじ第20話『迷える子羊とバトルロイヤル その3』!


――― ダレダ ヌシサマ ヲ イジメルヤツハ?


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