遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

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バトルロイヤル開始!ついにアニメで瑠璃が喋るぞおおおおおおおお!!


第18話 迷える子羊とバトルロイヤル その1

そこは不思議な空間だった。ふわふわとしているようで、ちゃんと地に足がついているような。何とも言えない不思議な感覚の中でモコは寝ていた。

 

『モコ』

 

名前を呼ばれた。しかしモコの目は開かない。

 

『モコ、すまない』

 

大変申し訳なさそうな声色で、その人物はそう言った。何か言い返そうとしたかったが、モコの口は開かず、ただただ聞くだけしかできなかった。するとその人物は彼女の頬に優しく触れられた。

 

『もう君と手紙を交わす事が出来ないんだ』

 

今度は雨が降ってきた。生温い雨がモコの顔に降ってくる。

 

『せめて、君だけは笑っていてほしい』

 

ポタポタポタ、ゆっくりと雨は降ってくる。

 

 

『俺は、彼の中から君の幸せを願っている』

 

 

最後に感じたのは、額に柔らかい物が当たった感触だった。

 

 

 

 

 

*** ***

 

 

ふと、モコの意識は浮上した。ゆっくりと瞼を開けると、ぼんやりとした視界に白いものが入ってきた。

 

「きゅいっ!!」

 

嬉しそうに声を上げた白いものは、ぺろっと小さな舌でモコの鼻頭を舐めた。

 

「…シロ…ちゃん?」

 

「きゅっ!!」

 

名前を呼ばれ、シロは笑った。モコが少し時間をかけて重い体を起こすと、ツンとした消毒液の独特な匂いがモコの鼻を擽る。

 

「…保健室?」

 

「きゅー!」

 

薬品や治療道具が置かれた白い部屋にいる事に疑問を感じたが、シロが服の裾を噛んで、引っ張る。モコがシロの引っ張る方向に目を向けると、そこには見覚えのあるコートを着た人物の背中が見えた。

 

「…師匠…?」

 

そう呼ぶと、コートの人物は振り返った。思った通り、コートの人物は黒咲でキッと吊り上げた目がモコを見ると和らぎ、黒咲は椅子から立ち上がるとモコの方へと近づくと、彼女の頬に触れた。

 

「モコ、起きたのか…!あぁ、良かった…!」

 

黒咲は安堵した様にそう言うと、モコの頭を胸に押し付けるように抱きしめた。

 

「し、師匠…!?」

 

「痛いところはないか?気分は悪くないか?嗚呼、お前が無事で良かった…!!」

 

なでなでと慈しむ様にモコの頭を撫でながら自分の胸に押し付け、ぎゅうぎゅうと痛い程抱きしめる黒咲。砂糖をドロドロに溶かした様な甘い声にモコは戸惑うと同時に何故か寒気を覚えた。

 

「し、ししょ…!く、くるしっ…!」

 

「お前までユートの様に消えたのかと思った…!」

 

一瞬、黒咲が何を言っているのかが分からなかった。

 

「…ユート君が、消えた…?」

 

「ユートのダークリベリオンは榊遊矢に奪われ、お前を襲った融合の手先はいなくなっていた…!だが安心しろ、俺がお前を守ってやるからな」

 

なでなでなで。まるで妹を安心させる兄の様な手つきで、モコの頭を撫でる黒咲。猛禽類の様に鋭い金色の目はとろりと蜂蜜の様に蕩けており、瞳の向こう側には何かドス黒い物があった。

 

「(遊矢君がユート君のカードを奪った?融合の手先?…融合の手先ってなんなんでしょう…?)」

 

疑問が浮かぶ中、ウィンッと部屋の自動扉が開いた。

 

「失礼、邪魔をす…。おっとすまない」

 

「あ、赤馬社長…?」

 

「チッ、何の用だ」

 

ぎゅうと更に力を込めてモコを抱きしめる黒咲。あまりの苦しさにモコはちょっと暴れるが、師匠の前では無力だった。零児はジロリと黒咲を見ると、呆れたようにため息をついた。

 

「君の行動については何も言わないが…。用があるのは彼女だ」

 

「私ですか?」

 

「3回戦のルールは町全体を使ってのバトルロイヤルとなった」

 

「バトルロイヤル…?」

 

「そこで、君には選手達がルールを破らないかを確認する為の、見回り係となってほしい」

 

「見回り係…?」

 

零児が言った言葉にモコが首を傾げると、ギロリと黒咲が零児を睨んだ。

 

「貴様…!こいつを巻き込むつもりか!?」

 

「?」

 

「あくまで見回り係だ。彼女を巻き込むつもりはない」

 

睨み合う男2人の会話についていけずに頭上にハテナマークを浮かばせるモコ。今にも零児に牙を向きそうな黒咲は、ぎゅうぎゅうともっと力を込めてモコを抱きしめる。あまりに強い力に痛がるモコは何とか逃れようとするが、力の差は歴然だった。

 

「モコ、嫌なら嫌と言え」

 

「あうあう…!」

 

黒咲はそう言うが、零児は冷静に言った。

 

「断るなら給料はなくなるが?」

 

「やります!!!!!!」

 

師匠よりも馬鹿みたいに高い給料の方が大事なモコだった。

 

 

 

*** ***

 

 

バトルロイヤル。それは即ち、自分以外のデュエリストは全て敵であり、時には味方として共闘する形式。正午ぴったりに舞網市にはアクションフィールド『ワンダーカルテット』が展開され、フィールド全体にLC製のペンデュラムカードが広がり、デュエリスト達はペンデュラムカードを集めつつ、生き残るというものらしい。

今までの大会ではこの様な形式はなかったのだが、急遽こうなったとチーフは言っていた。

 

「…見回り係、頑張らないと!」

 

デュエルディスクに映し出された時計には現在12時1分と出ており、モコはデュエルディスクを左腕に装着するとエクストラデッキから1枚のカードを取りだした。

 

「ではお願いします!条件無視してエクシーズ召喚!誇り高き幽鬼の騎士よ!我が呼びかけに応じ、戦場で剣を振るえ!ランク1!『ゴーストリック・デュラハン』!」

 

モコが召喚したのは自身の首を探す首無しの騎士・デュラハン。凶暴な赤目の白馬に跨った黒い甲冑の首無し騎士は白馬から降りると、モコの前に片膝を付き、騎士の様に頭を垂れた。

見回り係であるモコはデュエル以外ならばいつどこでも、召喚条件を無視して、モンスターの召喚が可能なのである。零児がデュエルディスクに入れてくれたプログラムのおかげだ。

 

「デュラハンさん、お馬さんに私を乗せて一緒に見回りしてくれますか?」

 

そうモコが言うと、デュラハンは首がない為頷く事は出来ないが、代わりに体を前後に動かして頷く動作を真似た。デュラハンはモコを片腕に抱えると、相棒である白馬に跨った。そしてモコを自分の前に座らせ、手綱を持った。

 

「それでは~れっつごー!安全運転お願いします!」

 

【♪】

 

デュラハンは嬉しそうに手綱を動かすと、白馬がパカパカと歩き出した。何気に乗馬初体験のモコは楽しそうだった。

 

 

【…何故オ前ナノダ、デュラハン!!!!】

 

 

エクストラデッキの中ではアルカードが白いハンケチを噛んで、キーッ!と怒っていた。何故、デュラハンを呼んだかと言うと、ただ単にお馬さんが移動に有効だと思ったからだった。

 

 

 

*** ***

 

 

「あいちゅめ…!わたちをこんな所に閉じ込めてぇ……!」

 

「大体わたちがちゃんと表にいないとと、【○○○】が渡せないと言うのに…!」

 

「それを分かって、あいちゅはわたちを閉じ込めてるんでちゅか?」

 

「…いいえ、ありぇは分かってはいまちぇんわね」

 

「…あの子達とも連絡が取れまちぇんし…わたち、かなりピンチ?」

 

「……………だーれーかーたーちーけーてー…」

 

 

*** ***

 

 

パカパカ、パカパカ。馬の蹄の音が誰もいないフィールドに響く。ここは火山フィールド。質量装置のおかげで、熱さまでリアルに感じられる。

頭に乗ったシロが尻尾でモコの頬に流れた汗を拭ってくれた。

 

「あ、シロちゃん。ありがとうございます」

 

「きゅっ!」

 

「デュラハンさん、何かありますか?」

 

ぷるぷるとデュラハンは体を左右に振った。

 

「そうですか、何もないと良いんですが…」

 

「あ、モコ!」

 

前方の方から声をかけられ、モコは前を見た。そこにはこちらに走ってくる遊矢の姿があった。

 

「遊矢君!」

 

「何でバトルロワイヤルにいるの!?ていうか、そのモンスター…」

 

「ゴーストリック・デュラハンさんです。私、バトルロイヤルの見回り係をしているんですよ」

 

「見回り係?」

 

「何か危険がないか、選手達が変な行動をしていないか。それを確認する係です」

 

モコは白馬から降り、ねっとデュラハンに向かって言うと、デュラハンは体を前後に動かした。

 

「そうだったんだ。あ、俺黒咲探してるんだけど…!」

 

「師匠をですか?」

 

「し、師匠…?」

 

「探してる黒咲さんは黒咲隼さんですよね?でしたら彼は私の師匠なんですけど…?」

 

「だ、駄目!!」

 

遊矢が黒咲の名前を聞いた途端にモコの肩を思いっきり掴んだ。突然掴まれたモコはポカンとするが、遊矢は焦った様子で彼女の顔を見る。

 

「黒咲は危ない奴なんだ!ソリッド・ビジョン無しでデュエルでの衝撃をリアルに与えられる奴なんだよ!?」

 

「あ、危ないと言われましても…私、師匠に沢山色んな事教わって…」

 

「それでも!黒咲は危ない奴なんだ!素良の事も傷つけて…!モコだってもしかしたら酷い目に遭わされちゃうかもしれないんだよ!?」

 

あまりに必死な遊矢にモコは思わず驚くが、むっと顔を顰めた。

 

「モコの師匠は危ない人じゃないです!そんなに駄目とか危ないとか言わないでください!」

 

「危ない奴なんだって!アイツはユートと同じ別次元の…!」

 

「別次元とかよく分からないですけど、師匠はモコに色んな事を教えてくれた良い人です!それを危ない人って…!そりゃあ見た目イケメンで、初めて会った時不審者だと思いましたけど!」

 

今頃、遺跡エリアで海外の選手をボッコボコにし終えた黒咲は「ぴちゅんっ!」とくしゃみを1つしたとか。

 

「でも本当は良い人なんです!」

 

「モ、モコにとってはそうかもしれないけど!俺はモコを危険な目に遭わせてくなくて…!」

 

「危険危険って…!師匠の事危ない人扱いしないでください!」

 

ムッとした顔でそう言ったモコは遊矢に背を向け、デュラハンのサポート無しで白馬の上に跨った。

 

「ど、どこ行くの!?」

 

「師匠の所です!そんなに遊矢君が危ないって言うなら自分で確かめます!」

 

ぷいっと遊矢から顔を背けて、デュラハンに指示を出すと、デュラハンは手綱を操って白馬を動かし始めた。パカパカッとリズム良く蹄の音を立てて、去っていく白馬と首無し騎士、そしてモコに遊矢は叫んだ。

 

「ま、待ってモコっ!」

 

「待ちません!デュラハンさん、スピードアップです!」

 

怒りの表情を見せるモコの指示で白馬は更にスピードを上げ、遊矢が追い付けない程の速さで去って行ってしまった。思わずモコに向かって伸ばした手は宙を彷徨い、やがて下がっていった。

 

「ど、どうしよう…!モコを怒らせちゃった…!は、早くモコより黒咲を先に見つけないと…!」

 

遊矢の脳裏に浮かんだのは鋭い目つきの黒咲と彼に傷つけられるモコの姿。遊矢は慌てて、その場を後にした。

 

 

 

「(も、もし…もしもモコがユートみたいに消えちゃったらどうしよう…!)」

 

 

 

不安を抱えながら、ペンデュラムを揺らし遊矢は黒咲を探す為に別のエリアへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 




喧嘩別れの形で、お互いにすれ違ってしまったモコと遊矢。

しかし時を同じくして、アカデミアでは不穏な動きが…!

更に消えた筈の素良は精鋭・オベリスクフォースを連れてスタンダード次元に侵入!黒咲に負け、ドロドロとした気持ちを抱えたままの彼は黒咲へとリベンジとは別に、ある決意をする。

そして、黒咲を探すモコに近づく不穏な影とは…!?


次回 まよつじ第19話『迷える子羊とバトルロイヤル その2』!


「お前…美味そうだな!!」
「食べられるぅううう――――!!」


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