遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

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本編でシリアス?ユートがナストラル?ユーゴがモコを泣かせた?黒咲さんと素良の泥沼?
…んなもん切り捨てちまえ!シリアスはぶった切るぜェエエエエエエエ!!(今回シリアスに耐え切れずこんなテンションになったゴマぷりんでした)


番外編 赤馬さんちのメイドちゃんっ!

ガタガタと僅かに動く車内で、今年で11歳になるモコは車窓越しに青空を見上げていた。今日も今日とて清々しい空は昨日と同じだった。

 

モコがいる車内は静かで、隣に座っている黒いスーツの男性も運転している初老の男性も何も言わなかった。

 

この車内に来る前、モコは住んでいた孤児院で掃除をしていた筈だった。その時、隣に座っている黒いスーツでサングラスをした男性に声をかけられ、名前を聞かれた。素直に頷くと、ご丁寧に菓子折りを持ってきた彼はモコと園長先生と話し始めた。

 

何でもモコを捨てたクズ父親は、今自分が仕えている赤馬零児の父・赤馬零王の元・執事だったとか。何故過去形なのかと言うと、クズ父親はモコの母親と駆け落ちし、既に赤馬零王とは縁を切っているかららしい。菓子折りを食べながら、別世界の話の様に聞いていたモコだが、話は急展開を迎えた。

 

―――何と、赤馬零児がモコを引き取りたいと申し出たのだと言うのだ!

 

驚いたモコだが、彼女からすればこれはチャンスだと思った。赤馬と言えば舞網でも有数の金持ちで、零王が1代で成功させた『LC』がある。つまりお金があると言う事だ。

モコの住む孤児院は結構オンボロで、ここに住む自分よりも小さい子供達の為にもどうにかしたかった。だからモコは条件を出した。

 

―――建物を新品で安全な物にしてくれるって約束出来るなら、行く

 

スーツの男性はそれを呑んだ。戸惑う園長先生を後目にモコはせっせと荷物の準備をした。早く行かないとおうちが安全にならないと思っていたからだった。

モコは荷物の準備が終わると、わんわん別れを惜しんで泣く子供達を抱きしめ、涙を流す園長先生に深く頭を下げて、黒光りする高級車に乗り込んだ。

 

車を追いかけようとする子供達を見ないようにしたが、声だけはうっすらと聞こえてモコは僅かに泣いてしまった。

 

 

そして今、モコは大きな大きなお屋敷を見上げていた。

 

 

「ほぇ…おっきぃおうち…」

 

「赤馬の本家だ。中で零児様が待っている」

 

「あ、あい…」

 

運転手が車のトランクから出してくれた荷物を受け取ると、モコは彼に頭を下げて、かなり重い荷物と1人でうんしょよっこらしょと運ぼうとした。しかし11歳でありながら、結構小柄で非力なモコではちょっと荷物が動くだけで、運ぶなど出来なかった。何だかじれったくなったスーツの男性が荷物を持ってくれた。

 

「あ、ありがとうございましゅ…。あ、おなまえ…」

 

「中島だ」

 

「なかじまさん、ありがとうございます…」

 

ぺこりと頭を下げると、中島は薄らと笑って、屋敷の中へと入っていった。モコも慌てて付いて行き、中へと入った途端、ガッシャーンッ!と大きな音が響いた。

 

「(びくっ!)」

 

「わぁああああ!?」

 

「れ、零児様!?」

 

聞こえてきた子供の声に中島が荷物を抱えて、走っていってしまった。モコも慌てて追うと、声の発信源はどうやら台所にいるようで、中に入ると細かい白い粉が舞っていた。

 

「零児様!一体何が…!?」

 

「ご、ごめん中島…!ケーキ作ろうとしたら手元が狂って小麦粉が…!」

 

「いや、貴方ケーキどころか料理とか出来ないでしょう!?」

 

「だって今日あの子が来る日だから!」

 

タイルの床に転がった白い粉がかかったシルバーのボウルに、粉を被った赤渕の眼鏡をかけ、中島に「零児様」と呼ばれた少年はケホケホと軽く咳き込んでいた。荷物を置いて、零児にかかった粉を振り払う中島。すると零児がモコを見た。

 

「…あぁっ!!えっ、もう来てたの!?」

 

「私がいるんですから当然でしょう…」

 

呆れた様に中島に、モコを見てあわあわと慌てる零児。想像とは違った零児の姿にモコはぽかんとしていた。

 

「(この人がれーじさま?)」

 

もっと大人だと思っていたが、自分と年の近い少年だった零児にモコは目をぱちくりさせていたが、零児はパタパタとアーガイルの紺色のセーターに付いていた小麦粉を払うと、立ち上がって、モコに近づいていった。

 

「えっと、君が日辻モコちゃん…だよね?」

 

「あ…はい…」

 

「急に吃驚したよね?僕は赤馬零児。よろしくね」

 

「よ、よろしくお願いします…」

 

にこりと笑う零児にモコは頭を下げた。すると、零児は中島に言った。

 

「中島!あれ!あれ持って来てあげてよ!」

 

「…本当にあれやるんですか…」

 

「もちろん!」

 

キラキラと目を輝かせ、早く早くと急かす零児に中島はため息をつくと、モコに声をかけた。

 

「日辻…すまないが、少しこちらへ来てもらえないか?」

 

「は、はい…」

 

 

*** ***

 

 

ふわふわ揺れるリボン、レース、スカート。試しに触ってみると、つやつやとした高級感あふれる肌触りにモコは戸惑った。

 

―――今、モコが身に着けているのはメイド服だった。シンプルなヴィクトリアメイドスタイルのメイド服。

 

サイズは見事な程にモコにぴったりで、鏡に映る自分が自分の様ではないと思ってしまった。こんなに可愛らしい服を着た事がないモコはくるりとその場で一回転すると、ふわりとスカートの花が咲いた。

 

「サイズは大丈夫か?」

 

「だいじょーぶです」

 

「中島ー!出来たー?」

 

コンコンッと扉をノックされ、中島が「良いですよ」と言うと零児が入ってきた。彼は入ってくるなり、モコに近づくと笑顔になった。

 

「わぁ!似合ってる!」

 

「零児様…流石にメイド服はどうかと…」

 

「だって今日から僕のメイドになるんでしょ?」

 

そうだよね?と首をかしげてそう言う零児に中島は絶句した。

 

「な、な、なに言ってるんですか!?」

 

「だって母様がそう言ってたし!」

 

「日美香様ですか…!お前も嫌だと言っていいんだぞ?」

 

そう中島に言われたが、モコはこう答えた。

 

「…かわいい、おようふく…!」

 

「それはそうか!女の子だからな!!」

 

嬉しそうに鏡に映った自分が着るメイド服を見るモコ。リボンやレースは女の子が可愛いと好む必須アイテムだ。嬉しそうなモコを見て、零児はモコの手を握った。

 

「それじゃあ、こっちに座って!」

 

零児に手を引かれ、モコは近くにあったドレッサー前に置かれた椅子に座らされると、零児はブラシを手に取り、彼女の白い髪を梳きはじめた。

 

「えっとね、こーしてーこうしてー…」

 

「零児様、やはり私が…」

 

「だめっ!中島は見てるだけで良いの!えっと…あともうちょっと…!」

 

あわあわと忙しなく手を宙で動かす中島と何やら真剣な零児はブラシでモコの髪を束ね始める。

 

「むむむ…っと出来た!」

 

零児の手がモコの髪から離れると、モコの髪は2つに束ねられていた。蝶々結びになった黒いベルベットのリボンで結ばれた白い髪はモコが少し動く度にゆらゆらと揺れる。

 

「うんっ!こっちの方が良い!」

 

「…りぼん」

 

「僕からのプレゼントだよ!」

 

ひらひらと揺れるリボンと髪。満足気な零児の後ろでは中島がハンカチで目元を押さえながら「零児様があんなに上手く髪を結えるなんて…!」と泣いていた。

ドレッサーの鏡で揺れる髪を眺めていたモコはゆっくりと椅子から降りると、頭を下げた。

 

「…これから、よろしくおねがいします…れーじ様、なかじまさん」

 

その日、日辻モコは零児専用のメイドとなった。

 

 

 

 

 

「なんて事もありましたねぇ」

 

クスクスと笑うモコに零児は彼女が淹れてくれたコーヒーに口を付けながら、うっすらと笑った。

 

「随分と懐かしい話をするな」

 

「ほんの3年前の事ですよ?私にとっては昨日の事のように思えます」

 

今では赤馬家唯一のメイドとなったモコの髪はあの日と変わらず黒いベルベットのリボンでツインテールに結われていた。メイド服もサイズは変わったが、デザインは変わらずシンプルなヴィクトリアスタイルだ。テーブルの上にサンドイッチの乗った皿を置いた。

 

「零児様ったら、お仕事以外は何も出来ないなんて、お嬢様方に知られたら驚かれるでしょうね」

 

「…口が達者になったな」

 

「あら?赤馬家にいれば嫌でも口は達者になるものですわ」

 

にこりと微笑むモコ。仮にも多数の企業やデュエル塾を買収しているLDSの最高責任者の隣にいる人間だ。嫌でも口は達者になるだろう。実際に口以外にも作法と度胸はついている。

 

「さぁ、お食事どうぞ。いい加減パワーバーではお体が壊れます」

 

「…私のメイドが冷たい」

 

「でしたらキンキンに冷えたアイスコーヒーでその無駄に知識が豊富な頭を目覚めさせましょうか?」

 

ゴンッと冷やされたグラスの中には黒いコーヒーと大量の氷が入っていた。零児はそれをストローを使って飲むと、頭を押さえた。

 

「…どこまで冷やしたんだ」

 

「そのグラス、耐熱ならぬ耐寒でして、冷凍庫の中に入れても壊れませんの」

 

「…それでここまで冷たいのか」

 

「私のメイドが冷たい」としくしくと嘘泣きをする零児。それを無視するモコ。すると、社長室の扉がノックも無しに乱暴に開かれた。

 

「おい、メイド。飯を寄越せ」

 

「あら、黒咲様。何がよろしいですか?」

 

「何でも良い。お前でも良い」

 

「あらまぁ、どうしましょう!こんな所に手作りのミニクロワッサンが!」

 

サッとモコが皿の上に乗った大量のミニクロワッサンを出すと、黒咲は舌打ちをして皿を奪って食べ始めた。

 

「…黒咲、私のメイドに手を出そうとするな」

 

「何故だ?強い雌に自分の遺伝子を渡そうとして何が悪い?」

 

「…戦闘狂め」

 

当然だろうと言わんばかりの黒咲に零児は痛む頭を押さえた。零児と契約したその夜に零児を襲撃しようと部屋に侵入した黒咲はにっこり笑顔で放ったモコのボディーブローを受けてから、ずっとこうだった。

どうやら強い雌であるモコに(ピー)して(ピー)させて、子供を作りたいそうだ。戦場で生きてきた所為か、頭のネジが何本がイッているらしい。

 

「おいメイド。これを食い終わったら、俺の部屋に来い」

 

「因みに何をなさるつもりで?」

 

「何をと言われれば…せいこ」

 

「おーっと、手が滑ったー」

 

すかさず零児が掴んでいたサンドイッチを黒咲の口に突っ込んだ。それと同時に開かれたままの扉から零羅が控えめに入ってきた。

 

「モコ…ケーキ、ある?」

 

「はい、零羅様がお好きなイチゴのショートとチョコレート、どちらに致しますか?」

 

「あぅ…えっと…」

 

「でしたら私と半分こにしましょう。それでしたらどちらも食べれますよ?」

 

「うんっ、そうする…っ!」

 

きゃっきゃと触れ合う可愛いメイドと可愛い弟に零児は微笑む。嗚呼、可愛い可愛い。

 

「おい!俺の邪魔をするなッ!」

 

「勝手に所有物に手を出されそうになって落ち着いていられる程、私は大人ではない」

 

「チッ!あの雌は俺の物だ!」

 

「…下品なハヤブサに渡す気はさらさらないな」

 

本当に野生動物だなと零児は呆れる。

 

 

 

 

 

…まぁ、今日もメイドと弟が可愛いから良いっか!!

 

 

 

 

 

 




日辻モコ(メイドバージョン)
・赤馬家、というか零児のメイドさん。
・ツインテールで、黒いベルベットのリボンで結んでいる。
・零児さんの元で育ったので、ちょっと主人に対して生意気だが、敬愛はしている。
・黒咲さんに遺伝子を注がれそうになっている。
・結構力が強い

零児さん
・モコのご主人様。靴下を履かないのはステータス。
・本編よりちょびっと子供っぽい。
・仕事以外何もできない、真の仕事人間。
・取りあえずモコと零羅と中島がいればオールオッケー。

黒咲さん
・モコちゃんのボディーブローについついときめいた戦闘狂ボーイ。
・モコちゃんに(ピー)して(ピー)して子供を作りたい。出来れば沢山。
・でも勝てない
・でも諦めないハングリー咲さん


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