遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

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第2章に入って、次元戦争になっていく予定なので特別記念。
もしもモコがアカデミアだったら?編


IF 蕾から薔薇へ -美は咲くー

フィールドに舞うのは茨の鞭。

 

フィールドで蹂躙するは鎧を纏いし剣闘獣。

 

フィールドで歌い踊るのは1人の少女。

 

 

軽やかな歌声と乾いた鞭の音が剣闘獣達を動かす。一度彼女に狙われたら逃げられない。

 

 

ただただ剣闘獣達から逃げ惑う獲物を少女は歌い、鞭を片手に舞いながら蔑む様な目で見る。

 

かつて、アカデミア一の落ちこぼれであったみすぼらしい雑巾の様だったあの少女が、ここまで美しく、軽やかに、今まで彼女を馬鹿にしてきた者達を蹂躙する側になったのだろう。

 

「た、助けてくれぇ!!!」

 

ご自慢の古代の機械達も剣闘獣達によって狩られ、無様に命乞いをする青い服のオベリスクフォースの男。彼はエリートだった。だからこそ落ちこぼれであった少女を馬鹿にしてきた。

 

それが今は立場が見事に逆転している。アカデミアのコロッセオにいる観客の生徒達や教官達でさえ同情してしまう程、彼は哀れだった。

 

プライドを折られた彼はもう戦士でも何にでもない。ただの人間だった。

 

しかし、アカデミアで助けなど必要ない。それがこの学校のルールだ。

 

「はしたないですねぇ。それでもあのオベリスクフォースの人間ですか?」

 

まるで鈴を転がしたような可愛らしい声と口調とは裏腹に少女は毒を吐く。これが元・落ちこぼれだったなどと信じられない。

今の彼女は残酷な程美しかった。ボロ雑巾みたいだと誰かがかつて言った。しかし今の彼女はまさに女王。淑女でありながら傲慢、優しくありながら戦闘狂。頭のてっぺんから足の先まで美しい。

 

「助けて?そんな言葉、アカデミアで使っても無駄ですよぉ?だって」

 

ッパンと乾いた鞭音と共にギロリと剣闘獣達がオベリスクフォースの男を睨み付ける。少女は天使のように微笑み、

 

 

「弱肉強食。弱き者は要らない。それがルールでしょ?」

 

 

女王の様にもう一度鞭を振るった。

 

 

「んふふ…良いねぇ良いねぇ、最高だよぉ」

 

パチパチと特別席でユーリは小さな拍手を彼女に送っていた。想像以上だとユーリはぞくぞくとした甘い痺れを感じながら、微笑んだ。

 

「ユーリ様ぁー!勝ちましたぁー!」

 

明るい声にユーリはまた嬉しそうに微笑む。フィールドを見れば無残な姿になった元・オベリスクフォースの男ときゃっきゃと子供の様にはしゃぎ、ユーリに手を振る少女の姿。ユーリが手を振り返すと彼女は一層喜んだ。

 

「うんうん、可愛い可愛い」

 

ちょっと手を振っただけで、まるで主人に褒められた犬の様に喜ぶ少女。気のせいか尻尾が見える。よくぞここまで美しくなったと感心してしまう。初めて出会った日はあんな細くて、ボロ雑巾の様だった彼女はユーリの手で全てを変えられた。

 

 

それは、半年ほどの前の事である。

 

 

「ぐすっ…!うぇぇ…!ふぇぇぇん…」

 

ユーリが散歩で庭が見える廊下を歩いていると、聞こえてきた泣き声。ユーリは足を止めると、声の主を探した。キョロキョロと辺りを見回すと茂みからぐすぐすと鼻水を啜る音が聞こえてきた。茂みを覗くとそこには赤い制服を着た1人の少女がいた。

所々汚れた赤い制服に砂を被ったのか少し茶色になった白髪。しかし白い髪は砂を被っているだけではなく不自然に一部だけ長く、他は短い所があった。

 

ユーリはそれが気になって声をかけてみた。

 

「ねぇ、煩いんだけど」

 

「ひぃっ!ご、ごめんなさい!!」

 

ちょっと軽く声をかけただけで大げさな反応を示した少女は恐る恐る後ろを振り返り、ユーリの姿を見ると顔から血の気が引いた。少女の前髪は異様に伸びており、潤んだ右目だけが隙間から見えていた。

 

「ゆ、ユーリ様!?」

 

「ふぅーん…僕の事知ってるんだ?」

 

「も、申し訳ございません!すぐに退きます!」

 

慌てて立ち上がり頭をペコペコ下げて去ろうと背を向けた少女にユーリは言った。

 

「ちょっと待った」

 

そう言うと少女はぴたりと止まった。体は微かに震えているが、言葉には従っている。彼女はどうやら上下関係という物を本能的に理解している様だ。それにユーリは口角を上げた。

 

「へぇ、ちゃぁんと分かってるんだ。僕が上だって」

 

「…は…い…」

 

「うんうん、従順なのは好きだよ。…そうだな、決~めた」

 

ユーリはにっこりと笑うと、少女の腕を掴み、歩き出す。少女は突然のユーリの行動に驚いているが、ユーリの機嫌は良かった。

 

「ユ、ユーリ様!触っては駄目です!」

 

「何で?」

 

「だ、だって…!ユーリ様が汚れてしまいます…!薄汚い私の腕など掴むなど…!」

 

「んふふ、なぁに?僕の事好きとか?」

 

冗談のつもりで言ったのだが、少女は一瞬言葉を失うと、「あ…」とか「う…」とか言いだした。どうやら図星だったらしい。そんな初心な反応にますますユーリは機嫌が良くなった。

 

「そっかぁ、僕の事が好きなんだぁ!」

 

「だ、だってユーリ様のデュエル…素敵で…!」

 

「あ、そっちか。まぁ良いや」

 

今にでも鼻歌を歌いそうな程、機嫌の良いユーリはアカデミアの長い廊下を歩き、自分の部屋の前まで行くと扉を開けた。ユーリの部屋は彼の服装に似合わず、思ったよりも殺風景だが、天蓋付きの大きなベットとドレッサーが非常に豪華だった。

 

ユーリは少女の腕を掴んだまま、部屋の中にある1つの扉を開けた。扉の向こうには脱衣所があり、少女はカーペットの上に立たされた。

 

「じゃあ脱いで」

 

「…へ?」

 

「脱いで。あ、勿論下着も全部。裸になってって言ってるの」

 

「…えぇっ!?」

 

ボンッ!と顔を真っ赤に染める少女。首まで赤くなっている。当然だろう、突然憧れの人に服を脱げなどと言われて混乱するのは当たり前だ。しかし少女は本能的に上下関係を理解している。

 

少女は俯きながら、スカートをぎゅっと握ると、ぽそりとユーリに言った。

 

「…あの…ぅ、後ろ…向いててもらえますか…?」

 

「良いよ」

 

くるりとユーリは後ろを向いた。それを確認した少女は恐る恐る服を脱ぎ出した。しゅるしゅると耳に入ってくる布切れ音。それが心地良かった。

 

「…もぅ、良いです…」

 

「はぁーい」

 

のんびりとした返事と共にユーリが振り返ると、少女は後ろを向いていた。途端にユーリの機嫌が悪くなる。

 

「ねぇ、何で後ろ向いてるのさ。見れないじゃん」

 

「ご、ごめんなしゃ…!で、でも貧相な体をユーリ様に見せるのは、その…!」

 

震える少女の背中。ユーリから見えるのは白い背中と形の良いお尻、ある程度肉の付いた足だった。ユーリは仕方ないかと首を横に振ると、風呂場の扉を開けた。

 

「先に入ってて」

 

「は、はいっ」

 

胸を両手で隠してぴゃっと風呂場の中へと入っていく少女。ユーリは一瞬見えた大きな胸に機嫌を直し、マントとジャケットを脱いだ。袖を捲ると、ユーリはガラッと風呂場の扉を開けた。少女はタイルの上でしゃがんでいた。

 

「それじゃあ洗うからお湯の中入って」

 

「あ、洗う!?」

 

「そうだよ、僕が君を洗うの」

 

そう言いながら、ユーリは風呂場の棚にあったシャンプーやコンディショナー、スポンジなどを取ると右手で少女の肩を掴んだ。

 

「入れ」

 

「は、はいぃっ!」

 

少しだけ肩を掴む手に力を加えると少女は素直に従った。すっと立ち上がり、恐る恐る大きな浴槽の中へと入っていく。浴槽の中身はユーリが気に入っている泡風呂だ。するとユーリはシャワーヘッドを掴むと蛇口を捻り、少女にお湯を浴びせた。

 

「きゃっ」

 

「僕が髪洗ってあげるから、体は自分で洗ってね」

 

「は、はい…」

 

ひょいっとスポンジを浴槽の中に入れると、少女は泡風呂の泡を付け、ゴシゴシと体を洗い始めた。ユーリは髪にお湯を含ませると、シャワーを止め、シャンプーを数量手の上に乗せると少し泡立たせて、少女の髪を洗い始めた。

 

「ねぇ、髪どうしたの?流石に中途半端過ぎない?」

 

そう言えば、少女はスポンジを持つ手を止めた。そしてぽつりと呟く。

 

「…上の生徒に…無理矢理、切られて…抵抗しちゃったら…こんな風に…」

 

「へぇ、そう。じゃあ後で僕が切って整えてあげる。あ、名前は?」

 

「…レッド、の…日辻モコ…です」

 

「モコね。分かった」

 

少女・モコの髪を洗い続けるユーリ。一度シャワーでシャンプーを落とすと、今度はコンディショナーを塗り始める。

 

「馬鹿だねぇ、その上の生徒とやらも」

 

「え…」

 

「だってさぁ、こぉーんな綺麗な白い髪、中途半端に切るとかありえない。センス無さ過ぎ」

 

「…きれい…?」

 

「うん、そんじょそこらの女子生徒よりもずーっと綺麗だよ」

 

綺麗とユーリに言われて、少女は頬を染めると恥ずかしそうに俯いた。そして控えめに体を洗うのを再開した。

 

「僕はねぇ、美しい物が好きなんだ。本でもカードでも人間でも。それで中途半端は大ッ嫌い」

 

「中途半端はお嫌い…」

 

「そう、綺麗な髪を中途半端なハサミで中途半端に切った中途半端な生徒は嫌い」

 

「…うれしい…」

 

夢でも見ているかのように幸せそうに呟いたモコにユーリはにっこりと笑った。

 

 

 

 

ブォオオーッとドライヤーの音がユーリの部屋に響く。ユーリはドレッサーの前にモコを座らせると、ドライヤーをかけはじめた。服はユーリのワイシャツとズボンだが、彼女にとっては少し大きいらしい。

 

モコは俯きながら、ぽつぽつと話していた。

 

「…私…何をやっても駄目で…デュエルは…もうボロボロ…先生からも…怒られてばっかで…」

 

「うんうん」

 

「…上の生徒からも…同じクラスの人にも…馬鹿にされてばっかで…でも弱いのは事実だし…」

 

「うんうん」

 

「…お父さんもお母さんも…立派になれって言ってたけど…多分どんくさい私が面倒になって、アカデミアに…」

 

「そっかぁ」

 

ユーリもその話はある程度聞いていた。アカデミアで落ちこぼれの生徒がいる。それだけだった。その落ちこぼれがモコであった事もあの茂みで見た時に薄々気づいていた。

ゆっくりと話すモコに相槌を打ちながら、ユーリは聞いていた。ドライヤーの電源を切ると、今度はハサミを取り出した。

 

「だったら見返せば良い」

 

「え…」

 

「馬鹿にしてきた奴等、全員に」

 

じょきんっ。ユーリが中途半端に伸びたモコの後ろ髪を切った。

 

「憎くない?今まで君を馬鹿にしてきた奴等」

 

「それは…」

 

「憎いよねぇ?馬鹿にされて、見捨てられて、蔑まされて」

 

じょきんっ

 

「…っきらい…!」

 

「そう、それで良いんだよ。良いかい?感情と言うのは人間にとって必要不可欠な物だ。切っても切れない関係だ」

 

じょきんっ じょきんっ

 

「喜びは人を楽しみさせる、悲しみは人を絶望に落とす、そして怒りは…あるスイッチを押すのさ」

 

「スイッチ…?」

 

「―――復讐心」

 

じょきじょき

 

「治まらない怒りはいつかとんでもない化け物を生む。でもその使い方は人それぞれ。…もし、君の怒りを力の糧に出来るなら?」

 

「あ…っ」

 

「感情は時として立派な武器になるんだよ」

 

じょきじょき

 

「モコ、君は今チャンスを与えられた。変わるチャンスだ」

 

「変わるチャンス…」

 

「このまま落ちこぼれで終わるか、それとも僕と共に支配する側にになるか。どっちが良い?」

 

「…わたし……私は…私は…!」

 

 

 

 

 

「―――――変わりたい!!!」

 

 

 

じょきんっ!!

 

 

「最高の答えだよ」

 

 

腰まであった髪は、肩にかかる程度の内巻きになったボブカット。ユーリは最後の仕上げに前髪を切った。はらはらと落ちる白い髪。

 

―――前髪の向こう側に眠ったいた水色と黄色の瞳には、確かな決意が宿っていた。

 

「良いかい?美しさはそれぞれだ」

 

ユーリは座るモコの後ろから抱きしめる。

 

「君は美しい。泣いて、諦めて、それでも諦めきれず変わろうとする。実に人間らしくて美しい」

 

ユーリは微笑む。

 

「さぁ、君を馬鹿にしてきた人間達を見返そう。まず美しさの基本は美味しい食事からだよ、良いね?」

 

「はい、ユーリ様」

 

「その後はマナー、デッキ、デュエルの仕方…いっぱいあるよ?それでも着いて来れる?」

 

 

 

 

「――――――どこまでもお供いたします、ユーリ様」

 

 

 

「完璧な答えだよ、モコ」

 

 

 

 

 

 

 

立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。その言葉を体現した少女がアカデミアの廊下を歩けば、人々はモーゼの川の如く左右に分かれた。遠巻きにモコを見て、うっとりとする生徒も多いが、近づけば彼女が使役する剣闘獣達に噛みつかれるのは目に見えている。

 

何より彼女に手を出せば、彼が黙っていない。

 

「ん、流石はモコ。僕の好みをちゃぁんと分かってるね」

 

「光栄です、ユーリ様」

 

紅茶を褒められ、頬を桃色に染めてふんわりと笑うモコ。これが先程までオベリスクフォースの男を蹂躙していた人物だとは思えない。

アレ以来、モコはユーリによって変えられた。髪は雪の様に白く、肌は艶やかで、瞳には自信を宿していた。指一つを動かすだけでも品が溢れる。紅茶の淹れ方も、料理も、全てユーリ好みになった。

 

モコが淹れた紅茶を飲まないと落ち着かない程、ユーリは彼女を気に入っていた。

 

「さっきのショー、中々な楽しめたよ。特に無様な命乞いを切り捨てた所とか最高」

 

「私は事実を言ったまでです。ですが、ユーリ様がお喜びになってくれたなら本望ですわ」

 

「君は本当に可愛いねぇ」

 

すっとユーリはモコの首に手を伸ばす。彼女の首には紫色の宝石のタグが付いたチョーカーを付けており、ユーリは宝石に触れる。これはユーリがモコに与えた、彼女がユーリの所有物であるという事を示すものだ。

 

「んふふ、ねぇモコ」

 

「なんでしょうか?」

 

「君にエクシーズ次元の残党を狩るお仕事が入ってるんだけど」

 

チョーカーの隙間に人差し指を入れて、くいっと軽く引っ張るとモコは少し前屈みになった。ユーリはチョーカーから指を抜くと、彼女の腰を抱き寄せて、豊かな胸に顔を埋めた。

 

「僕は行ってほしくないんだよねぇ」

 

「何故ですか?エクシーズの残党を狩ればユーリ様はお喜びになるのでは?」

 

胸に顔を埋めるユーリを抱きしめながら、モコは不思議そうに首を傾げる。

 

「だって君の紅茶が飲めなくなるじゃない」

 

「あら…」

 

ぐりぐりと胸に顔を押し付けるユーリ。子供の様な我が儘と甘える仕草にモコは愛しさを感じながら、くすくすと笑った。

 

「でしたらお断りしましょう。プロフェッサーには申し訳ないのですが」

 

「良いの?怒られちゃうかもよ?」

 

「構いませんわ。だって」

 

白百合の様にモコは微笑んだ。

 

「私の一番はユーリ様ですもの」

 

にこりと笑うモコにユーリは一瞬固まるが、すぐに顔を隠す様にぐりぐりぐりと胸に顔を埋める。

 

「…まったく君って子は…」

 

「事実を申し上げたまでですわ」

 

 

 

 

貴方の為ならば、例え次元の果てまでもお供します。

 

 

 

 

 

 




日辻モコ(アカデミア版)
・かつては泣き虫で臆病だった為、弱肉強食が激しいアカデミアでは落ちこぼれであったが、ユーリによって全てを変えられた。
・本編は腰まである長髪だが、内巻きになったふんわりボブカットになっている。
・使用デッキは『剣闘獣』。完全に手懐けており、鞭を常備している。
・ユーリを崇拝し、彼女のとっての生きる意味は『ユーリの為』と思っている程。
・過去の自分を嫌い、それと同時に今まで自分を蔑んでいた生徒達を剣闘獣を使って痛めつける事が快感(ユーリが喜んでくれるから)
・口調は丁寧だが、少しお嬢様の様な感じ。

ユーリ
・アカデミアのトップエリート、言っちゃえばアカデミアで2番目に強い地位を持つ(1番はプロフェッサー)
・ある日見つけたボロ雑巾同然のモコを気紛れで気に入って、ピカピカにした張本人。
・自分に従順でおっぱいの大きいモコが可愛くてしょうがない。
・美しいものが好きで中途半端が嫌い。
・他の女のやつよりモコのおっぱいとふとももが好き。モコ自身も好き。
・ある意味アカデミア一のスケベ。


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