遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

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第2章スタート!!社長ファンの人、ごめんなさい。


第2章 次元戦争のファーストステップ
第15話 迷える子羊と赤い馬


その日はモコにとって人生の大きな転機になるかもしれない日だった。

 

「うぬぬぬ…」

 

鏡の向こうの自分と睨めっこをしてから10分が経過していた。今日は新聞配達のバイトはない。だからこそ、今日はちょっと遅めに起きたモコは、起きてから10分間ずっと鏡と向き合っていた。

 

「やるかやらないか…。でもやるべきですよね…?」

 

モコはキッと鏡を睨み付けると、言った。

 

 

「勇気を持って一歩前へ踏み出せ!!ですっ!」

 

 

 

*** ***

 

 

わいわい、がやがや。遊矢が教室の前まで来ると、中から妙に騒いでいるクラスメイト達の声が聞こえた。

 

「嘘~!本当に日辻さん!?」

 

「すっごぉーい!」

 

「…?日辻ってモコの事だよね?」

 

女子達はモコの事で騒いでいる様だ。遊矢は不思議に思いながらも教室の扉を開けた。中に入ると、モコの机の周りにクラスメイトである女子生徒達がきゃあきゃあと甲高い歓声を上げながら、集まっていた。男子はそれを遠巻きに見ているが、興味津々な様子で、そわそわとしてる。

何があったんだろうと首を傾げる遊矢。すると日直で先に登校していた柚子が遊矢に気付き、駆け寄ってきた。

 

「遊矢!モコがすっごい事になってるの!」

 

「すっごい事?」

 

「良いから来て!」

 

妙に興奮している柚子は遊矢の腕を掴むと、モコの机の方へと向かう。席に近づく度に女子達の声がはっきりと聞こえてきた。

 

「日辻さん、どうして今まで隠してたの~?」

 

「ちょっと恥ずかしくて…」

 

「全然恥ずかしくなんてないよ!すっごくカワイイ!」

 

「むしろ綺麗だよ~!良いなぁ、素敵!」

 

「照れます…」

 

「前々から思ってたけどスタイル良い~!モデルみた~い!」

 

「そこまで大層な物では…」

 

「モコ!遊矢来たわよ!」

 

柚子がモコを呼ぶと、モコは柚子の方へと振り返った。遊矢はあんぐりと口を開けると、ボトッと手に持っていた鞄を落とした。

 

「遊矢君!おはようございます!」

 

振り返ったモコはいつも通り挨拶をするが、遊矢はそれどころではなかった。

 

「モ、モコ…?」

 

「はい?」

 

「め…め…!」

 

「め?あぁ!目の事ですね!はい、出してみました!」

 

うふふと笑うモコ。何といつも隠されていた筈の目が見えるのだ。前髪はシルバーで出来た花のピンで右斜めに分けられており、瞳は美しい水色をしている。前に陽だまり園で美影園長に見せてもらった写真と似ている。しかし遊矢はそれよりも驚いたのは左目まで水色になっている事だ。彼女の瞳はオッドアイで、左目は黄色の筈だった。なのに右目と同じ水色になっている。

 

ぱくぱくと金魚のように口を開閉させる遊矢に柚子は興奮気味に言った。

 

「ねっ!すごいでしょ!」

 

「…うん、しゅごいね…」

 

「遊矢ったらビックリし過ぎちゃった?そりゃそうよね、あんなに可愛いだなんて知らなかったもんね~!」

 

実は知ってましたなんて言える暇もなく、遊矢はただコクコクと上下に首を振るしかなかった。クラスメイトに囲まれて笑うモコは質問攻めの対応に追われて遊矢の反応に気づかなかった。

 

 

 

 

「モコ!左目どうしちゃったんだよ!何で色が…!」

 

お昼休み。遊矢はモコの手を掴んで裏庭に来ていた。一緒に来ていた柚子は先生に呼ばれて、今は職員室にいる。遊矢の質問にモコは「あぁ、これですか?」と言いながら、左目を指差した。

 

「カラコンですよ、カラーコンタクト。シスターが前々から作ってたんですよ」

 

「からこん…?」

 

「はい!見知らぬ人をびっくりさせない様にと。今まで入れる勇気がなかったんですけど、先日のデュエルで自信がちょっと付いたかなって…」

 

照れくさそうに笑うモコに遊矢は「そっか…」とどこか嬉しそうに笑った。先日、退塾を賭けたデュエルで見事勝利し、退塾を免れたモコ。どうやらその事がキッカケで多少は自信が付いた様だ。遊矢は友達として、その成長を喜ばしく思う。

 

「そういえば舞網チャンピオンシップ、出れる事になったんですよね!遅くなりましたがおめでとうございます!」

 

「ありがとう!モコは出ないの?」

 

「締め切り明日ですし…それに元から出る気もないですからねぇ」

 

「そっかぁ~何かもったいないよね~!せっかくデッキ出来たのに!」

 

「ゴーストリックの皆には悪いんですけど…」

 

今は鞄の中で眠っているゴーストリック達の顔を思い浮かべながら、モコは申し訳なさそうに言った。

 

「出れなくてもさ、応援には来てくれるんだよね?」

 

「勿論です!LDS生には希望者のみチケットが配られますから。流石に席はLDS専用の席になっちゃいますけど…」

 

「来てくれるなら嬉しいよ!俺のエンタメデュエルで皆を笑顔にしてみせる!」

 

「頑張ってください!応援してます!」

 

「何なら遊勝塾来る!?今なら入塾半額キャンペーン実施中だけど!」

 

「…遊矢君、柚子ちゃんみたいになりましたねぇ…」

 

 

 

*** ***

 

「モコ!貴方、目…!」

 

「出してみました~。イメチェンですよ、イメチェン」

 

「こりゃあたまげた…!一体何の変化だ?」

 

「左目にカラーコンタクト入れてるの?」

 

「はい、流石に知らない人が見たらビックリしちゃうかなって。シスターが作ってくれました」

 

「シスターさんが作ったんだ…」

 

「普通じゃねぇなあの人…」

 

LDSに来ても反応は同じ様な物だった。ラウンジで話し合ういつもの4人。チラチラとモコを見る生徒が何人かいるが、彼女はそれを気にしなかった。

 

「黒咲さんは知ってたのか?」

 

「はい、トレーニング中は前髪分けてたので。師匠は目については何も言いませんでしたけど」

 

「あの人にとっては些細な事なんじゃないかな?黒咲さんは見た目よりも中身重視って感じだし」

 

「北斗の言う通りね。黒咲さんはそういうの気にしないタイプだからモコも大丈夫なんでしょ」

 

アハハと笑う合う4人。それをラウンジの近くにある壁からこっそり見る人物が4人。沢渡と愉快な取り巻きトリオである。

 

「日辻ってあんな顔だったんだな」

 

「可愛いのにな」

 

「おいっ!沢渡さんがいるんだぞ!」

 

「…(パシャッ)」

 

「沢渡さん!流石に無言で写真撮るのは…!」

 

「駄目だ、聞いてない」

 

「おい、写真見てニヤニヤしてるぞ。やばい」

 

デュエルディスクの写真機能で遠くにいるモコを撮る沢渡。フラッシュと音をキチンと切っている所が怪しい。写真を見ては嬉しそうに頬を染めている沢渡に取り巻き3人はちょっと引くが、彼らは『沢渡さんと日辻を見守る会』だ。沢渡さんが嬉しそうならそれで良いかと割り切った。

 

すると、山部がある事に気付いた。

 

「あれ?あれって中島さん?」

 

「えっ?社長秘書の?」

 

ラウンジに入っていったのは黒いスーツとサングラスが特徴的な男性、LDS最高責任者にしてLCの社長・赤馬零児の秘書である中島だった。いつもなら零児に付いている事が多い中島をLDSで見るのは珍しい事だ。中島はきょろきょろと誰かを探す様にラウンジ内を見ると、見つけたのか足を進めた。彼は真っ直ぐモコの元へと向かって行く。楽しげに会話する4人だが、真澄がモコの後ろに立った中島に気付いた。

 

「中島さん?」

 

「えっ?」

 

「会話中に申し訳ない。日辻」

 

「あ、はいっ」

 

中島に名前を呼ばれ、モコは席を立った。

 

「あの…私、何かしました?」

 

「そうではない。社長が呼んでいるんだ。着いてきてもらえるか?」

 

「えっ」

 

彼が言う社長とは間違いなく赤馬零児の事だろう。その彼がモコを呼んでいると言うのだ。何故と思うモコだが、LDSトップの命令ならば仕方がない。モコは頷くと、真澄達に振り返った。

 

「えっと、ご、ごめんなさい。ちょっと行ってきますね」

 

「え、えぇ…」

 

真澄達に「失礼します」と一礼をして中島について行くモコの背中を見送りながら、真澄達は不思議に思っていた。

 

「どうして社長がモコを?何かした訳でもないのに…」

 

「この前のデュエルで問題起こしたのは宇佐美だろ?モコはデュエルしたとはいえシステムに関しちゃ無関係だろ」

 

「うっ、宇佐美…!」

 

宇佐美と聞いて胸を苦しそうに押さえ、顔を青くする北斗に刃は呆れた。

 

「お前…宇佐美トラウマになってんな」

 

「うぅうう…この僕の心を弄んだ悪魔めぇ…!」

 

「…イイ女見つけろよ」

 

「それにしてもモコは大丈夫なの?社長、イケメンだけど…」

 

「「………………あっ」」

 

 

 

*** ***

 

 

「ほへぇ…広い…」

 

「座って待っていてくれ、社長を呼んでくる」

 

「あ、はいっ」

 

中島が退室すると、モコは窓の方へと近づいていった。社長室は広々としていて、特に社長の机の後ろにある大きな窓は舞網市を一望出来る程だ。窓から下を見ると、LDSへとやってくる人々が蟻よりも小さく見える。

 

「すごい…ここから見る夕日は綺麗でしょうね…」

 

「…なに、してるの?」

 

「ひゃあっ!」

 

突然聞こえた声にモコはびくりと跳ね上がった。キョロキョロと周りと見渡すと誰もおらず、「幻聴かな?」と思っていると、くいっと制服の裾を引っ張られ、モコは右下を見た。制服の裾を引っ張っていたのはパーカーを羽織り、フードを目深に被った小さな男の子だった。年は10歳くらいだろうか、片腕に熊の人形を抱えている。モコを見上げるその瞳は真ん丸としていて、よく見るとフードの中にキャップの鍔が見えた。

 

突然現れた子供にモコは少し怯えたが、相手が子供だと知ると両膝をカーペットに付け、目線を合わせた。

 

「えっと…私、社長さんに呼ばれたんですけど、今待っていて…。そしたら大きな窓があったからここから見る夕日は綺麗なんだろうな~って思ってたんです」

 

「…兄様に?」

 

「兄様?もしかして赤馬社長の弟さんですか?」

 

モコの問いに男の子はこくりと頷いた。だから社長室にいるのかとモコは納得した。

 

「えっと…お名前を聞いても良いですか?」

 

「…零羅」

 

「零羅君ですね。私、総合コースの日辻モコって言います。初めまして」

 

「…はじめ、まして」

 

人と目を合わせるのが苦手なのか零羅は俯きがちになりながら、自分の名前を言った。恥ずかしがり屋なのかな?とモコは首を傾げる。

 

「…ねぇ」

 

「なんですか?」

 

「…こうちゃ、いれられる?」

 

「…はい?」

 

 

 

「零羅君はお砂糖どれくらい入れます?」

 

「…そのスプーンで2杯…」

 

「分かりました。冷たいのとあったかいのどっちが良いですか?」

 

「…温かいの。兄様の分も欲しい…」

 

「でしたら中島さんの分も用意しましょうか。2つは無糖にしましょう。後でお2人がお砂糖を好きな分入れられる様に。零羅君のはすぐに飲めるように少しだけぬるくしましょうか?」

 

「ん…」

 

カチャカチャとティーカップを4つとポッド、砂糖の入ったシュガーポットをトレイの上に乗せ、モコと零羅は机へと向かい、ソファに座った。

机の上に置かれた紅茶に零羅はさっそくカップを持って、口を付けた。

 

「熱さは如何ですか?」

 

「…へいき、飲める」

 

「良かったです」

 

ちびちびと紅茶を飲む零羅にモコはほっと安堵した。最初零羅は少々ビクビクとしていたが、紅茶を淹れているうちにモコに慣れてくれた様だ。

 

一方で零羅はモコが『兄様に危害を加える人ではない』と言う事を分かっていた。社長室に来る女性の殆どはどこかの会社の令嬢で、皆零児に気があるもしくは取引のついでに見合いを申し込んでくる人ばかりだった。その度に零児は他の人には分からないが、嫌そうな顔をしていたのを零羅は知っていた。

知っていたからこそ零羅は社長室に来る母以外の女の人は兄様に嫌な顔をさせる人、つまり『危害を加える』と認識していたのだ。その為、女性のモコが部屋に来た時、彼女も今までの人だと思っていたが、モコが舞網第二中の制服とLDSのバッヂを付けていた事が幸いし、彼女がLDS生だとすぐに気づけた。

 

「…モコのデッキ、なに?」

 

「私ですか?私はですね~ゴーストリックって言うんですよ」

 

「ゴーストリック?」

 

「見て見ますか?」

 

零羅が頷くのを見たモコは腰に付けたデッキケースからデッキを取り出すと、零羅に差し出した。

 

「はい、どうぞ」

 

笑ってデッキを差し出すモコを見て、零羅は少し驚いた。デュエリストの命ともいえるデッキをあっさりと零羅に渡そうとしているのだ。小さいとはいえデュエリストである零羅からすれば自殺行為とも言える。下手したらデッキを奪われる可能性だってあるのだ。しかしモコは何も疑っていなかった。こうやって無防備にデッキを差し出す行為は、完全に零羅を信用している証である。

 

零羅は恐る恐るデッキを掴む。モコは何もしなかった。

 

「…ゴーストリック…初めて見る」

 

「私の大切なお友達なんですよ~」

 

「…ともだち」

 

「はい、とーっても大事な」

 

「…そうなんだ」

 

零羅は友達というのがよく分からない。でも幸せそうに語るモコを見ていると、デッキが大事なものだという事は伝わる。零羅はモコにデッキを返した。

 

「…みせてくれて、ありがと」

 

「はい、どういたしまして!」

 

「零羅」

 

後ろから低い声が降りかかってきた。2人が振り返ると、座っていたソファの後ろに1人の青年が立っていた。銀色の髪にアメジスト色の瞳、赤い眼鏡と重力を無視した様に浮かぶマフラーが特徴的な美青年。モコは顔からサーッと血の気が失っていくのを感じていた。

 

「(し、師匠と並ぶトップ・オブ・ザ・イケメンッ!!)」

 

「兄様…」

 

「兄様!?えっ!?じゃあ貴方が…!?」

 

「いかにも、私が赤馬零児だ」

 

「ひぇぇぇぇ…!」

 

零羅が兄様と呼んだ青年、赤馬零児の後ろには中島が立っていた。間違いない、彼が赤馬零児だとモコが理解するのに時間は掛からなかった。すると零児の視線が机の上に乗せられた紅茶のカップに向けられる。

 

「そのカップは?」

 

「ご、ごめんなさい!わ、私が勝手に使ってしまって!」

 

「ちがう…ぼくがおねがい、した」

 

慌てるモコの言葉を遮る様に零羅がぽそりと呟いた。零児はほんの少し驚いた様に零羅を見た。

 

「こうちゃ、のみたくて…だれもいなかったから、へやにいた、モコに、ぼくがおねがいしたの…!」

 

まるでモコを庇う様に言った零羅はぎゅっとモコの腰に抱き付いた。

 

「だ、だからっ、モコをおこらないで…!モコは、ぼくのっ、おねがい、聞いてくれただけ…!」

 

「零羅君…。あ、えっと!わ、私が悪いんです!!勝手にカップ取り出したのも勝手にお湯沸かしちゃったもの私です!!私が犯人です!!」

 

「ち、ちが…っ!」

 

「怒ってなどいない」

 

お互いに庇い合う2人を見て、零児はそう言った。えっと驚く2人に零児はふっと笑う。

 

「少し驚いただけだ。それに自分で無理をせず、誰かに頼る事は悪い事ではない」

 

「…に、兄様、おこってない…?」

 

「何故その必要がある?弟の願いを聞いてくれてありがとう、日辻モコさん」

 

「あ、いえ!わ、私も紅茶飲みたかったのでタイミングが良かったと言いますか…!あ、一応社長さんと中島さんの分のお茶もあるのでよろしかったらどうぞ!!」

 

「それはありがたい」

 

「私の分まで…」

 

モコの気遣いっぷりに感心しながらも、零児と中島はモコの向かい側にあるソファに座った。

 

「さて、本題に入るとしよう。まずは先日のデュエル、見事だった」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

零羅が傍にいるおかげか、モコは零児と目は合わせないものの、会話はちゃんと成立していた。

 

「宇佐美に関しては…暫く謹慎と言う事は知っているか?」

 

「本人から直接…後性別も…」

 

「そうか。だが私が君を呼び出したのはその事ではない」

 

「えっ」

 

だったらどうして?と目で訴えるモコに零児は中島に目配せをすると、紅茶を飲んでいた中島はカップをソーサーに置き、持っていたファイルから1枚の紙を机の上に置いた。

 

「舞網チャンピオンシップ…?」

 

「1週間後に開催されるのは知っているだろう?」

 

「は、はい…。でも私、参加する気は…」

 

「無理だろうな。もし今から6連勝、と言っても時間がない」

 

「そうです…」

 

「私が言いたいのは参加ではない。別の事だ」

 

中島がまたファイルの中から1枚の紙を取り出すと、それをモコに渡した。受け取ったモコは紙に目を通すと、見開いた。

 

「え、これって…!」

 

「舞網チャンピオンシップのスタッフ応募用紙だ。君にスタッフになってほしいんだ」

 

モコが渡されたのは『舞網チャンピオンシップ スタッフ応募』と書かれた紙。零児はモコをスタッフになってほしいと言ったのだ。困惑するモコを観察する様に見ながら、零児は言った。

 

「アルバイトという形でだ。報酬は勿論、制服や当日の説明もキチンと」

 

「ま、待ってください!わ、私中学生ですし!」

 

「君の家の事情は理解しているつもりだ。生活費が必要なのだろう?」

 

そう言われて、モコは黙った。まるで無理だとは言わせないと言わんばかりの口調。相手は若干16歳の高校生とはいえ、会社と塾を経営する立場の人間だ。一般人であるモコと社長で頭の切れる彼と口で戦うなど、もう既に勝敗は見えている。

 

「で、でもぉ…」

 

「だったら報酬金はこれでどうだ?」

 

それでも渋るモコに零児はトドメを刺す。デュエルディスクの計算機機能を使って、金額を打つとそれをモコに見せた。途端にモコの顔が驚愕に染まっていく。

 

「(ゼ、ゼロの数が…異常に多い!!)」

 

お金持ちの零児からすればはした金なのだろうが、一般人で節約しているモコからすれば恐ろしい程0が多い。勿論、他の人が見ても馬鹿げた数値だ。それを出すと彼は言っている。

 

となれば、当然…。

 

「お話お受けします!!!」

 

「よろしい、ならば契約成立だ」

 

 

*** ***

 

 

その夜、零児は自室で1人ベットの上で考えていた。

 

「…リアルモコナたんと会話してしまった…」

 

ポッと頬を染めて、乙女の様に両手で頬を押さえる零児。ふっかふかのベットの上でごろごろと左右に回転までし始めた。見た目はイケメンなのに非常に残念である。しかし彼は今までモコの事はデュエルディスクの画面の向こう側でしか見た事がない。ちゃんと会話をするのも顔を合わせるのも今日が初めてなのだ。

 

「…ふ…ふふふ…リアルモコナたんが淹れてくれた紅茶を飲んでしまった…。私の為に淹れてくれた紅茶…!」

 

今まで飲んだ紅茶の中で1番美味しかったと零児は思う。愛する相手が淹れてくれた紅茶はこんなにも美味しいものなのかと嬉しく思ってしまう。

恋とは恐ろしい。愛とは恐ろしい。人を、あの冷血漢の零児をここまで変えてしまうのだから。

 

「…しかし零羅があれ程懐くとは…」

 

弟の零羅は非常に臆病で人見知りが激しく、初対面の人間に懐くなど一切ない筈だった。それがまさか初対面のモコに紅茶を淹れてくれないかと願い、庇う様な発言をした。実に珍しい事、零児が初めて見た零羅の一面だった。

 

「流石は私の弟…。モコたんの魅力に気づいてしまうとは…」

 

更に笑みを深める零児。すると、彼は頭の中である事を思いついた。

 

「……私と零羅で、モコたんを共有するのはどうだ…?」

 

零児の頭の中である光景が浮かぶ。赤馬の屋敷で微笑む愛しのモコたんと彼女に甘える可愛い弟。そこに自分も加わって甘い甘い新婚生活。きっとモコたんには真っ白なワンピースが似合う。

いずれは零羅も大人になる。その時、赤馬の血を絶やさない為に結婚をする事になる。…その相手がモコだったら?

喧嘩は好きではない。暴力も非効率的だ。だったら共有という手を使う。

 

「兄弟サンド…ふっ、我ながら恐ろしい考えを思いついてしまった…!」

 

そう言いながら、口元は笑っている。夢を見るだけではもったいない。ならば実現するのみ!!

 

 

 

「赤馬家の権力を使ってでもモコたんを…!」

 

 

 

その夜、零児の自室で怪しい笑い声が響いたとかなんとか…。

 

 

 

 

 

 




零「ふふふ…モコたんフォーエバー…」

中「社長、次回予告のお時間です」

零「そうか(キリッ)では次回のまよつじは舞網チャンピオンシップ開幕だ」

中「日辻のスタッフとして気合が満ち溢れてますね」

零「次回第16話『迷える子羊と白いもふもふ』で会おう」

中「さっ、零羅様」

羅「もっこるんるーん…」

零「ところでモコたんの肩に乗っている白いモフモフは一体なんだ?」


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