遊戯王ARC-V 迷える子羊   作:ちまきまき

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別名「クロサキーズ・ブート・腹パンキャンプ」兼「赤馬零児の事情(セイヘキ)」


第11話 迷える子羊弟子とちゅんちゅん師匠

学校指定のジャージを羽織り、髪をポニーテールにしたスポーティースタイルのモコはLDS内にある部屋と向かっていた。

LDS生が持つICカードをスキャンすると、プシュッと音を立てて、扉が開く。部屋の扉を潜ると、目の前に広がるのは真っ白な空間。

 

――――― 仮想空間室 LDSの最新質量装置を使って仮想の世界を一時的に作り上げる事が出来る部屋。

 

その部屋の中心に黒咲は立っていた。そして口を開く。

 

「…五分遅刻だ大馬鹿者ォ!!」

 

「すみましぇぇんっ!!」

 

開口一番に発せられた怒号にモコは震え上がった。実は今まで縛った事のないもこもこの髪をポニーテールにするのに時間がかかってしまったのだ。ぷるぷると震えるモコに対して黒咲は米神をピクピクさせながら言った。

 

「戦場では遅刻などない!1秒でも判断が遅れたら即死だと思え!良いな!?」

 

「は、はひぃっ!肝に銘じます!」

 

ビシッ!と敬礼をするモコに黒咲はふんっと鼻を鳴らすと、自身の腕に装着したデュエルディスクの画面を操作すると、うぃんっと装置が起動し、光の粒が部屋を覆う。

光が消えると、そこはそよ風が吹く草原と透き通った青空が広がる世界。

 

「わぁ…素敵!」

 

モコが感嘆の声を上げる中、黒咲はエクストラデッキから1枚のカードを取り出し、デュエルディスクに置いた。

 

「来い、ライズ・ファルコン!」

 

黒咲が召喚したのはエクシーズモンスターである機械の体を持つ鳥、ライズ・ファルコン。あの日、モコの肩を掴んだあのモンスターだった。

この仮想空間内では正規の召喚法を使わなくとも召喚が可能になる。理由は簡単、デュエルをしていないからだ。

デュエル中ならば正規の召喚法を使わないと召喚は不可能だが、この部屋は別名「モンスタートレーニングルーム」。

 

アクションデュエルの特訓専用の部屋だ。モンスターと共にデュエルをするアクションデュエルだからこそ、この様な特殊なトレーニングルームがある。

 

「良いか?お前が俺に教えろと言ったんだ。…俺が何をしようと」

 

「文句は言わない、ですよね?」

 

黒咲の言葉を遮って、言うモコ。その顔には覚悟が現れており、やっとまともな顔になったと黒咲は満足気に口角を上げる。そしてデュエルディスクを構えた。

 

「行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

 

 

それは昨日の事だった。

 

「俺に…デュエルをだと…?」

 

「はいっ!…ひぇぇやっぱ怖いよぉ…」

 

じっと黒咲を見つめていたモコだが、やっぱりイケメンは駄目らしく、後ろを向いてしゃがみこんだ。その情けない姿に黒咲は呆れた様にため息をつくと、モコに背を向けた。

 

「下らん。そんなにビクビク怯えた女にデュエルを教える義理はない」

 

ふんっと鼻を鳴らして、去ろうとする黒咲。しかしモコは断られる事を想定して、対策を既に考えていた。

 

「……シスターに言いつけちゃいますよぉ~…?」

 

ピタッ!

 

その言葉に黒咲は足を止めた。モコは続ける。

 

「黒咲さんがぁ~モコに意地悪したって聞いたらぁ~シスターはどう思うでしょうねぇ~?」

 

カタカタカタカタと黒咲の体が小刻みに震える。脳裏に浮かぶのはあの鬼神の様な女。

 

「おっとぉ~こんな所に受話器がぁ~!充電もたぁっぷりあるし~!このままシスターに電話かけちゃおうかなぁ~!すぐに来ちゃいますよぉ?あ~!指が通話ボタン押しちゃいそ~!」

 

「今すぐに空いている日にちを言えェ!!!!」

 

勝った。モコは人生で初めてイケメンに勝った。

 

こうして、黒咲をシスターでねじ伏せたモコは彼を師とし、デュエルを教えてもらう約束を取り付けた。これが昨日の昼間の事である。

 

 

 

 

「ぴ、ぴぃいいいいいいっ!高いですぅ!!」

 

「目を瞑るな!目を開けて真っ直ぐ前を見ろ!」

 

「は、はぃいいいいいっ!!」

 

飛翔するライズ・ファルコンの背にしがみ付くモコ。その横ではもう1体のライズ・ファルコンの背に立った黒咲が大声を上げて、指導を行っていた。

今2人がいるのは上空で、ヒュウヒュウと軽いそよ風が吹き、髪や服を揺らす。

 

「ある意味荒療治だが、最初は精神を鍛える!デュエルにおいて強い精神は最も強い武器とその空っぽの脳味噌に刻めェ!」

 

「はいっ!強い精神はデュエルにおいて最も強い武器です!!」

 

「それが何故最も強いか答えてみろ!」

 

「相手が発動したあらゆるカードの効果に慌てず、すぐに対処出来る様にするためです!!」

 

「甘い!対処を考えつつ、戦略を何通りも考える!そうしなければ負けると言う事を忘れるな!!」

 

「はいっ!!」

 

何故ライズ・ファルコンの上に乗りながら、デュエルに対する考え講座をしているのだろうか?しかしそれを疑問視する者はいない。部屋には2人しかいないからだ。

 

「ライズ・ファルコンはお前を落とす事はしない!風に怯えず、意地で立ってみろ!」

 

「はい!」

 

モコは恐る恐る目を開ける。モコの前髪はシスターから貰った銀色の花のピンで止められており、目が露わになっていた。モコの目の事を黒咲は何も言わなかった。興味がないのか、気を使ってくれたのかは分からない。

 

だが、今はそれよりも特訓の方が先だ。モコはぽんぽんとライズ・ファルコンの背を軽く叩いた。

 

「ライズ・ファルコンさん、立ちますね?嫌だったら振り落してください」

 

「ピャー」

 

モコは竦む足に喝を入れて、ゆっくりと立ち上がる。初めは生まれたての小鹿の様だったが、次第に足がしっかりと立ってきた。

数分もしないうちにモコはライズ・ファルコンの背で立っていた。両手を広げて、恐る恐る前を見ると、笑った。

 

「わぁああ!立ってます!立ってますよぉ!ライズ・ファルコンさん、どこか痛いところはないですか?」

 

「ピャー」

 

ふるふると首を横に振るライズ・ファルコン。変な所は踏んでいないみたいで、モコはほっと安堵の息を吐く。

 

「見てください!黒咲さん!立てましたぁ!」

 

「あ、あぁ…。まずは初歩はクリアしたか」

 

正直言うと今日はしがみ付くだけで精一杯だと思っていたが、まさかそんなに早く立つ事が出来るとは思っていなかった黒咲は目を見開く。きゃっきゃとはしゃぐモコに、黒咲は声をかけた。

 

「次のステップへと行くぞ」

 

「っはい!」

 

 

 

*** ***

 

 

「デュエルとは常に体力勝負!体力を作ってこそデュエリストだ!!」

 

「はいっ!」

 

今度はマシーンなどを使って体力作り。まずはランニングマシーンのウィンウィンと動くレーンの上に乗り、流されない様に走る。

 

「はっはっ…はっはっ…」

 

「呼吸は一定に保て。リズムも崩すな」

 

「はいっ」

 

次はダンベル上げ。重さに負けず、ダンベルを持ち上げ続ける。

 

「んく…っ、んん~!」

 

「集中を切らすな!諦めるな!諦めたらそこでデュエル終了だぞ!」

 

「師匠…!私はデュエルがしたいですぅうう…」

 

「ならば持ち上げ続けろォ!!」

 

「ハイッ!!ぬぉおおおお!!」

 

次は縄跳び。ぴょんぴょんと跳ね続ける。

 

「デュエリストたる者、瞬発力が必須だ!2重跳びを20回出来る様にしろ!!」

 

「はい!1!2!3!」

 

次はサンドバックを使って、パンチとキックを繰り出し続ける。

 

「殴れ!蹴れ!サンドバックを敵だと思え!休む事無く続けろォ!」

 

「パンチパンチ!キックからのパンチ!」

 

「そうだ!もっとだ!もっと熱くなれ!!」

 

「目指せ頂点です!!キックパンチキック!」

 

「攻撃パターンを読まれるな!!」

 

「パンチと思わせてキック!と思わせてからのストレート!!」

 

「良いぞ!!」

 

………もうデュエルとは関係のない気がする。いや、もうデュエルとか関係ない。だがモコは黒咲を信じ、修業を続ける。黒咲もいつの間にか指導に熱が入っている。熱血コーチの様だ。

ぽすぽすぽすっとサンドバックを殴り続けるモコに、黒咲は満足気に頷く。見た目とは違って、中々根性があるモコを黒咲は気に入りつつあった。LDSにも鉄の意思と鋼の強さを持つ人間がいた。それだけでもアイツと契約をした甲斐があるものだ。

 

だが、特訓を重ねる2人を仮想空間室にあるカメラから見る人間がいた。

 

それはLDSの最高責任者であり、LCの2代目社長を務める青年。黒咲の契約相手である赤馬零児である。

 

「…黒咲、何故彼女を…?」

 

社長室にあるタブレットから映像を見る零児は怪訝そうに言った。カメラの視点を変えると、映像が指導していた黒咲からサンドバックを殴り続けるモコに変わる。ぽこぽこと殴り続けるモコに零児はうっすらと笑うと、

 

――――― パシャリ

 

スクリーンショットをした。

 

「…ふふふ…モコナたんコレクションが増える…」

 

フフフフフと不気味に笑う零児。皆さん、お気づきかもしれないが、彼・赤馬零児16歳は紛れもなくモコの追っかけである。している事は追っかけの領域を超えているが。

 

ここから、零児が何故こんな事になってしまったのかを長くはなるが、説明しよう。

 

元々彼女に夢中になったのは、3年前行方不明だった父親の行動を知ってしまい、それで心が荒んでいた事が始まりだった。それはもう荒れに荒れて、心を完全に塞ぎきってしまった零児を見かねたゲームマニアのLDS研究員が、彼にとあるゲームを渡した。

 

それこそが今や世界規模の恋愛ゲームとなった『でゅえぷら』である。

 

当初は何が恋愛ゲームだと、うだうだ思っていた零児だが、「まぁ…心配してくれたし、気分転換程度に…」と思って、その研究員にゲーム機を借りて、でゅえぷらを始めた。

 

するとどういう事だろう。あまりの面白さにハマり、夢中になってしまった。

 

ゲームとは思えないリアルなデュエル、カードの豊富さ、現実で新しいパックが発売されれば無料アップデートでゲーム内でも使える。

何より零児はゲーム内に登場するとある女性キャラクターにどっぷりとハマってしまった。

 

そう、それが『でゅえぷら』の代表キャラ・黒日達モコナだ。

 

彼女は穏やかで優しくて、何より可愛い。母性と優しさに溢れた彼女に零児は惚れに惚れ、権力を駆使して彼女に関連するグッズを集めた。ある日は自ら朝早くから店に並んで買った事もある。

ついに頭がぶっ壊れたのかと思うだろうが、零児の家庭環境などを思って言うと、彼の周りの女性は何と言っても権力目当ての女性が多すぎたし、母親も性格はあまり良いとは言えない。そしてあまり外に出る事もないから、興味も湧かない。

 

だからこそ、女性不信 兼 女性知らずになっていた零児からすればヴァーチャルの黒日達モコナは自分の事を見てくれる唯一の相手だった。

 

自分の事を何も知らない。でも自分のデュエルを褒めてくれる。それが嬉しかった。

おかげで、LCの2代目社長として本領を発揮した彼は今から1年半前、偶然にも彼女を発見した。それが彼女。

 

取引を終えて、車で帰っていた零児が偶然窓の向こうを見た時に見つけたのがモコである。

 

ふわふわの白い髪、小柄な体なのに胸がふっくらとしていて、ニーソに包まれた足はほっそりとしていて、お尻はちょっと大きめ。だがそこも良い。至高のお尻だ。零児は雷が撃たれた様な衝撃を受けた。そしてこう思った。

 

――――― 彼女こそが私のリアルモコナたん、だと。

 

それからは権力を使って彼女を調べ上げ、優遇を付けてLDSに入塾させた。以来、ありとあらゆる監視カメラで彼女の写真を撮っている。

 

 

「フフフフ…マイ・リアルモコナたん…素晴らしい…ジャージ姿もまたふつくしい…可憐だ…」

 

もう既に末期の変態だった。タブレットに映った写真のモコを美しい指先で撫でる零児。彼のファンが知ったら幻滅するに違いない。だが、彼はスイッチの切り替えが出来る人間だった。

 

コンコンッ

 

アンティーク調の扉を誰かノックした。それを聞いた零児はサッとタブレットを録画モードにして隠し、キリッと真面目な顔になる。これが零児の『仕事出来る社長モード』だ。

 

「誰だ?」

 

「中島です。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「入れ」

 

失礼しますと一言言って入ってきたのは秘書の男性・中島だった。

 

「どうした?」

 

「実は黒咲が日辻モコにデュエルを教えているみたいなんです」

 

「その事か」

 

零児は机の上に置いてあったリモコンを取ると、ピッとボタンを押した。すると壁側に付けられたモニターに電源が入り、モニターに仮想空間室の映像が映る。

 

「これの事だろう?」

 

「あっ!そうです!黒咲め…!何故日辻にデュエル…?……これデュエルですか?」

 

「体力作りだそうだ」

 

「そ、そうなんですか…。ではなくて!黒咲は何故日辻といるんです!?」

 

「彼女から志願したそうだ。黒咲にデュエルを教えてほしいとな」

 

「日辻から…!?」

 

驚く中島を後目に零児は引出しから1枚の書類を取り出す。

 

「デュエルを教えてほしいという事は彼女はデッキが出来たと思って間違いはないだろう。……例え今、あの大会に出ようとしてももう遅い。だが彼女はきっと大会には参加しないだろうな」

 

 

 

*** ***

 

 

「ふひぃ…ふひぃ…」

 

「今日はここまでだ。初日にしてはよくやったと言ってやろう」

 

「はひぃ…ありがとうございます…」

 

ぴくぴくぴくとうつ伏せで震えるモコ。その顔はげっそりとしており、元々白い顔が青白くなっている。うつ伏せになった弟子に師匠の黒咲はため息をつくと、モコの腹に腕を回し、肩に担ぎあげた。米俵抱きである。

米俵抱きはその名の通り、米俵の様に肩に担ぎ上げるのだが、それは自然と抱き上げる人物の肩が、抱き上げられた人物の腹を押す。つまり、体力の無いモコの顔が更に青白くなった。

 

「ぐぇ…」

 

「少し我慢してろ」

 

「ばび…うぷっ」

 

「吐くな。吐いたらもう指導せんぞ」

 

そう言われてモコは即座に口を両手で押さえた。黒咲は部屋を出ると、近くに設置されたソファにポイッとモコを投げた。

 

「ぷへっ」

 

「飲み物買ってきてやる。そこで待っていろ」

 

「ばい…」

 

スタスタと黒咲は自動販売機の方へと向かう。横になったモコは冷たいソファの革に頬を当てると、ひんやりとした冷たさが熱くなった頬の熱を冷ましていく。

 

「ほへぇー…ソファ冷たいですぅ…ふかふかして…きもちぃぃ…」

 

ウトウトと瞼が重くなっていく。黒咲が帰ってくるまでどうにか起きていたいが、それよりも疲労した体が休息を取ろうと睡眠を促す。モコの体力は空っぽになった所為で、彼女は眠気に抵抗する事無く、そのまま夢の世界へと旅立って行った。

 

「……」

 

「すぅー…すぅ…」

 

「…せっかく人が飲み物を買ってやったと言うのに…コイツは…」

 

黒咲が自動販売機で飲み物を買い、戻ってくるとモコはすやすやと眠っていた。黒咲は怒りを通り越して、呆れた様にため息を吐くと、飲み物を持ったまま、ソファに座った。手に持った缶を左側に置くと、右側ですやすやと寝ているモコの顔を見た。

 

「くぴぃー…すぴぃー…」

 

「……」

 

「すぅ…すぅ…ぷぎゅ」

 

試しにモコの鼻を摘まんで見ると、変な声が出た。すぐに離すと、また穏やかな寝息が黒咲の耳に入ってくる。

 

「…アホ面だな」

 

「すーすー…」

 

穏やかな顔で眠るモコ。少しやり過ぎたとは思っていた。ついつい頭に血が上ると周りの事が見えなくなると、ユートに何度も言われているが、直そうとしても直せない。

この穏やかな顔を見ると、まだ平和だったあの日を思い出す。妹と親友と、3人で一緒に笑っていたあの日を。

 

「…何故俺にデュエルを教えてほしいと言った。何故だ…」

 

すっとモコの頬に触れる。傷だらけの黒咲の手とは違い、一切の傷がないモコの頬。自分の手はアイツ等を殲滅する手。思えばこうして人に触れるのはいつ振りだろうか?

 

「……俺は一切の責任は問わん。お前が選んだ道だ」

 

例えそれが、彼女を傷つけようとも。

 

 

 

*** ***

 

 

その次の日も、そのまた次の日もモコは黒咲と共に特訓に励んだ。モコは新聞配達のバイトをしているおかげで、元々体力はある方だった。故に黒咲のトレーニングには何とか付いていけた。体力作りをしつつ、デュエルの勉強も忘れない。黒咲先生お手製のテストをクリアし、間違った所は徹底的に見直す。予習も復習も忘れない。

 

そんな日々が続いて、弟子入り当日から2週間が経った。

 

「モコ、よくぞ俺の特訓を乗り越えた。まさか2週間で終えるとはな…」

 

「うぅ…黒咲師匠のおかげです…!モ、モコは師匠のおかげでやっとデュエリストの第1歩を進めます…!」

 

「フッ…本当に文句の1つも言わないとは思っていなかった。これで俺が教える事はない」

 

「…ッはい!お世話になりました!」

 

LDSの廊下にて。満足気に微笑む黒咲に彼向かって敬礼をするモコ。2週間が経ち、黒咲の考えたトレーニングプランは全て終了した。まさかこんなにも早く終えるとは思っていなかった黒咲は見た目とは裏腹なモコの根性に関心しながらも、どこか寂しさを感じていた。

 

だが、これでモコはデュエリストとして第1歩を踏み出せるのだ。

 

「師匠!モコ、これから対戦相手を探してきます!」

 

「あぁ、鉄の意志と鋼の強さを忘れるな」

 

「はい!それではいってきま」

 

 

「やっと見つけました!日辻モコ!!」

 

黒咲から離れようとしていたその時、モコは名前を大声で呼ばれて足を止めた。2人が右側を見ると、そこにはモコと同い年ぐらいであろう少女が立っていた。

ダークピンクのツインテールで、毛先がくるんとカールしている。目は赤いツリ目で、勝ち気そうだ。しかし顔のパーツはどこも整っており、ぷくりと膨らませた頬はつやつやとしている。服はバルーンスカートになった花柄のワンピースにブーツ。可愛らしい服装が似合っており、どこか小悪魔的な印象を持たせる。小悪魔的美少女と言うべきか。

 

美少女は怒ったような顔でモコに近づいてきた。

 

「今までどこにいるかと思えば、まさか黒咲様といますとは」

 

「え、えっと…どちらでしょうか?」

 

首を傾げるモコに、少女は薄い胸を張ると、笑った。

 

「顔を合わせるのは初めてですね。自分、融合コースの宇佐美雪兎(うさみゆきと)と言います」

 

「融合だと…?」

 

「真澄ちゃんと同じ融合コースの…?」

 

融合と聞いて黒咲は顔を歪めたが、モコはそれに気づく事はなかった。融合コースといえば真澄の所属するコースで、その名の通り融合召喚を主力としている。

 

「えっと宇佐美…さんはどんなご用件で…?」

 

「単刀直入に言います。(ゆき)とデュエルをしなさい」

 

「…へっ!?」

 

まさかのデュエルの申し込みにモコは驚くが、雪兎は話を続ける。

 

「貴方、最近調子に乗っているそうですね?」

 

「ちょ、調子に乗っているだなんて…そんな…!」

 

「現に黒咲様といるじゃないなですか。それだけで十分です」

 

オロオロとするモコだが、黒咲と共にいたのは事実だ。言動からして、黒咲のファンであろう彼女からすれば、モコは調子に乗っているのだろう。

 

「しかも実技のテスト免除?一体どんな手を使ったのか」

 

「それはモコのデッキが完成するまでって約束で、これからは受けるつもりですけど…」

 

「そうですか?つまりデッキが完成したと言う事ですね?」

 

「はい…」

 

こくりと頷くモコに雪兎は笑みを深めると、ビッ!と指をモコに指した。

 

「でしたらデュエルをしましょう!雪が勝ったら黒咲様から離れて、LDSをやめなさい!」

 

「えぇっ!?」

 

ざわっ!と周りが騒がしくなる。今までの話をLDS生も聞いていたようだ。

 

「おい…あれって宇佐美だろ?融合コースの。アイツ、家が金持ちとかなんだろ…?」

 

「それよりもあの日辻がデュエルだぞ?出来るのか…!?」

 

「しかもLDSの退塾と黒咲様をかけてって…!ちょっと条件悪くない?」

 

「そうよね…日辻さん可哀想…」

 

「おいっ、誰か先生呼んで来いよ…!それか光津!」

 

どんどんと広がっていく話にモコは戸惑うしかない。だが雪兎はにんまりと小悪魔のように笑い、話をつづけた。

 

「どうです?逃げますか?」

 

「…え、えっと」

 

ちらりと後ろを見ると、黒咲は小さく頷いた。それにモコは笑顔になると、雪兎と向き合った。

 

「わかりました!お受けします!」

 

「ふっ、それで良いです!デュエルスタイルはスタンディングアクション、時間は明後日の午後2時、場所はLDSの第1コート!何か異論は?」

 

「ありません!」

 

「それでは、御機嫌よう!せいぜいデッキ調整でもしていなさいな!」

 

「アーッハッハッハ!」と高笑いして去っていく雪兎。それと同時に周りにいたLDS生達もさらに騒ぎ出す。

 

「おい聞いたか!?明後日の14時から宇佐美と日辻のデュエルだってよ!」

 

「日辻の初デュエルかよ!今のうちに席確保しとこうぜ!!」

 

「ちょっと気になるよね~。行ってみる?」

 

「行く行く!日辻さんと宇佐美さんが黒咲様を賭けてデュエルするんでしょ!?」

 

「最近刺激が足りないと思ってたのよね!」

 

「どっち勝つと思う!?」

 

「宇佐美って融合コースの上位だろ?でも日辻は成績優秀者だからな~!」

 

どんどんと噂が広がっていく。

 

 

そう、これがモコの初デュエル。

 

 

数時間後にこのデュエルは2人の名字から取って、『兎VS羊 ~干支対決~』と名前が付き、LDS生徒内でチケットが販売される程、噂となる事となった。

 

 

 

 

 

 

 




モ「ぬぉおおおおお!デュエル!デュエルですよぉ!初めてのちゃんとしたデュエルですよぉ!師匠!!」

黒「あんな女などお前のデュエルで捻じ伏せてしまえ」

モ「それにしてもあの宇佐美さんってお方は黒咲さんのファンみたいですね。黒咲様って呼ばれていたし」

黒「面倒だ。女のファンなど興味がない。うるさいだけだ」

モ「むむっ流石師匠!くーるですね!モコも見習わなければ…!」

黒「お前はお前のままで良い。デュエルで大事なのはどれだけ自分が平常心を保てるかだ」

モ「はいっ!そんな平常心で次回は『デュエル前日』の話になります!真澄ちゃん達や遊矢君達も出ますよ!」

黒「次回ッ!まよつじ第12話『迷える子羊とデュエル前日』だ!見なければブレイブクローエボリューションを食らわせるぞ!!!」

モ「ではでは~もっこるんるーん♪ですっ」


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