ライトは父親の着替えを持っていくように母親に命じられた。霞が関駅で降りた。外はとても寒い。息をすると白く濁る。歩きながら父親に念のために連絡をした。
ぴぴぴ
『留守番電話サービスに……』
「あれ?珍しいな……大事な会議がない限りは繋がるんだけどな……」
警察庁の受付に行くと何やら揉めているようであった。黒いロングという髪からも女性であると分かった。
本部と昨日約束をしたが本部に誰もいないのはおかしいという内容である。
――本部に誰もいない……携帯は留守電……一体どうなっているんだ……
ライトは父親の着替えを渡した。すると受付の男がライトの助言で解決した保険金殺人事件の話をしてきた。そしてキラ事件も推理しているか?という旨を聞いてきた。
「ええ。うまくいけばLを出し抜けるかも……」
その女性は横で聞いていた。局長の息子……助言により事件解決……そして何よりもLを出し抜くという発言……
「あの……僕の父はキラ事件本部の長ですからもしよければ直接取次ましょうか?今は携帯を切っているみたいなので今すぐとは言えませんが……」
横で受付の人が「一般人にそういうのは……」と小言を挟んでいる。
「それにこの女性は信用できる。目を見ればわかります」
女性の大きな目には月と同じ何かを達成したいという力強い目をしていた。
女性はお願いしますと一礼した。外で歩きながら話をしている。キラ事件の話はあまり人に聞こえるところですべきではないと考えた。やりとりをしていてキラ事件を本気で捜査しているようであった。キラの能力は名前と顔が必要であることも確信していたし、それ以上の能力があるとも言っていた。そこで僕からあの秘密を切り出してみた。
「キラは人を殺すだけでなく死ぬ前の行動も操れます」
女性は歩くのを止めた。そして僕が振り返ると何かを言い出そうとしていた。
「私と同じ考えを持っていたなんて……それだけじゃない私の考えが正しければ……キラは行動を操った上心臓麻痺以外でも人を殺せる……」
月はびっくりし、冬にも関わらず冷や汗を一滴垂らした。
「心臓麻痺以外で殺人ができる……それは僕も考えてなかったことだ……しかし、それが本当なら……」
ライトは頭の中を整理している。今まで考えてこなかったけれど言われてみればそうなのかも知れないと考えた。例えば能力に条件があるなら大量に殺す以上できる限りその条件を知らせては自分の首を絞めることになる。顔、名前、心臓麻痺、殺人犯、キラを追うものこれらに該当する人しか殺されないとするなら確かに他に事故死をしたり自殺をしたりした人は軽視してしまうだろう……
「キラが本当に殺したい殺人は心臓麻痺以外で行う……」
「はい。私の知り合いが多分キラに会っています」
「キラに会っている?もしそれが本当なら会った本人が警察に言うべきでは?」
女性は歩くスピードが速くなった。そして伏し目がちにこういった。
「もうこの世にはいません。日本に入ったFBI捜査官の一人でしたから……そして彼は私の婚約者でもありました。彼は偶然バスジャックに巻き込まれたと言っていましたが、私の考えが正しければその事件は何らかの事情によりキラが起こしたと確信しています……」
――ま、まさか……
バスジャック……FBI……ある男の顔が思い浮かんできた。
――レイ=ペンバー……
女性は振り返るとライトの顔をじっと見つめた。
「だから私はキラを絶対許せない」
彼女のあの目は復讐心からだと悟った。僕よりもずっとキラを捕まえたいのかも知れない。
「何故そのバスジャックがキラ事件に関係あると?」
そのバスに乗り合わせていたとはこの場では言えなかった。名前も知らない女性ともっと親しい間柄になったあとに自分もいたことを告白しようと考えた。
「バスジャック犯は最後は事故死。その8時間前には指名手配犯がコンビニ強盗に入り自分にナイフが刺さって死亡。一日に二人の指名手配犯が再び犯罪を起こし、自ら命を失った……あまり例のない出来事です……バスジャックに遭遇した8日後彼は11人の捜査官とともに死にました。そしてその8日間に都内の罪の軽い者が20人以上心臓麻痺でなくなっています。そして彼が死んだあとその現象はぴたりと止まりました。全てキラに利用されたとしか考えられないんです
ライトは鬼のような形相になっていくのを感じていた……この話は筋が通っている。だとしたらキラはなんてひどい人間なんだ……人間の命を自分のおもちゃのように使っている……許せない……
「コンビニ強盗はバスジャックさせるための予行演習だったと考えることもできます……目的はFBIの情報を盗むためだったのかも知れません。なぜなら彼はバスの中でFBIのIDを見せたと言っていました。日本に入ったFBIの情報は彼から漏れたとしか思えない……
「……」
――それはない。なぜならその相手は僕だからだ。