骸骨が二つ転がる。
暗闇の中で荒れた荒野で二人の死神は賭け事をしていた。ここには人間が一人も存在しない死神の世界である。
「髑髏二つ。また俺の勝ちだ。ケケケ」
魔法使いの持っているような骨の杖を持つ死神が発言した。
「ケッ」
真っ黒の長い角を持つ死神は、何度も賭け事に負け思わず捨て台詞を吐こうとしたが、その場で息を飲んだ。
(あれから五日か…)
賭け事をしている二人の死神を一瞥したが、どちらが勝ったとか負けたとか興味はなかった。なぜなら死神界には飽きていたからだ。
すでに死神界のマンネリ化した日常には自分の求めるものはほとんど無いと考えていた。
だからリスクを冒して自分のデスノート以外にもう一冊のデスノートを入手して人間界にわざとノートを落としたのである。
「そろそろいくか」
真っ黒なパンクの見た目に真っ黒の大きい羽根を持つ死神は立ち上がった。
「ん。どこに行くんだ。リューク?」
賭け事に勝利した死神は尋ねた。
「死神界はどこに行ったって不毛だぜ。ヒヒ」
賭け事に負けた死神は自分が賭け事に勝てないことが不毛なのと同じように死神界全体が不毛であることを伝えた。
(……一応言っておくか)
伝えるべきか少し考えたが、口に出すことにした。
「デスノート落とししまった」
「ギャハハ!今度はまた、すげードジしたな」
賭け事に勝利した死神は笑いながら言った。
「つーか、おめー死神大王騙くらかして二冊デスノートを持ってたじゃねーか。二冊共落したのかよ?」
(……めんどくさい)
「でどこに落としたかわかってるわけ?けけけ」
賭け事に勝った死神は興味を持って聞いている。マンネリ化したこの世界では誰かが何かを無くしたということでも刺激があるのである。
「人間界」
リュークはぶっきら棒に答えた。
「え!?」
二人の死神は驚きの顔を隠せなかった。リュークが何てことをしたかすぐに理解できなかったからだ。冷静に考えてみたときには死神界にリュークの姿は無かった。
リュークが人間界に落とした一冊のノートから
二人の選ばれし者のもう一つの戦いが始まる。
この世で起きた一番の難事件と言えば「ロサンゼルスBB連続事件」である。その事件を解決した探偵はLと呼ばれていた。
Lは、ドヌーヴ、エラルド=コイルとしても難事件と言われる事件を解決していきた。
世界一の探偵が何度も事件を解決していても世の中にはびこる犯罪は減ることはない。
法律があろうが警察の取り締まりを強化しようが過去に犯罪が無かった時期は無かったように未来も一定数の犯罪があるのだろうと感じていた。
それに関しては悲しくはない。むしろ悲しいとか嬉しいとか楽しいとかわくわくするという人として必要な感情が無くなっているのではないかと感じている。
圧倒的な推理力と引き換えに大事な何かが欠落してしまった。
事件を担当すること自体嫌悪してしまうのも時間の問題であるとも考えていた。せめてその時間を少しでも遅らせる為に事件解決するときは大好きな甘い物を食べながら事件を担当することで事件に対する思い出を甘いもので上書きしていた。
家の中で大好きな甘いものを食べながら、世間では難事件と言われるLにとっての易事件を解決していった。
難事件をいとも簡単に解決していった結果、世界の三大探偵になった。ここまで有名になると当然命も狙われる立場になることは容易に推測できた。しかし、L個人の情報は外部に漏れることはない。だからといってセキュリティは甘くするどころか、大変厳しくしていたのである。
食べログで☆4.7の評価がついているモンブランケーキ専門店のモンブランケーキをワタリに買って来てもらっていたものを思い出し、冷蔵庫に取りに行った。
白い大きな冷蔵庫は台所にあり、台所からは外に見える。防犯対策の為とあるビルの25階をすべて所有しており、外からは侵入することは難しい。
また25階が最上階であり屋上へはLしか行けない。そういう意味ではかなり安全と言える。しかし、ふとベランダに黒い何かが落ちたのを見逃さなかった。
この不思議な現象に対して難事件と言われる仕事よりもこの現象の方に興味を持ち、はだしでベランダに出た。
この時すでに自身の人生が変わるような感覚に襲われていた。
このセキュリティシステムでノートが一冊ベランダに落ちてくるなんてことはありえないことであり、ありえないことがありえているという事実がLに今までにない感覚を与えたのかも知れない。
――ありえないことが起こっているがこのことを認めるしかない……そしてこの黒いものは……ノートですか……良く見ると何か英語で書いてありますね……デスノート?直訳で死のノート
Lは、得体のしれない者を見るかのように黒いノートの隅を摘まんで表紙を見つめていた。
「これは死神のノートです……ほぉ」
依頼される難事件と言われる易事件よりもこのデスノートの方が自分自身を楽しませてくれると直感した。だから、ノートを捲ってみた。そしてその直感は当たっていた。
直感というのは実は合理的なものである。Lはこの25階に不審物が落ちることなどありえるはずがないと思っていた。予期せぬ事が起きた……これこそLにとっての事件であり、それはただならぬモノであるということを理解していたのである。
Lはデスノートのあるページに目を止めた。そこには英文で何か長文が書かれているようである。Lが英語が得意であるかと言えば得意であると答える。たまたま英語が得意であったのではなく、それが英語でなくともスラスラ読めた。たまたまプピュラーだった英語ではあったが、Lは現存する全ての言葉を解読できるのである。
「HOW TO USE。全部英語ですか……一番ポピュラーな言語を使っている……いや、ここがイギリスだからと考えるべきか……それとも一番使われているからかなのか……後者の場合はより注意深くこのノートに向き合う必要がある……」
読み進めていくとあるページでLの目が大きくまんまるになっていった。
「このノートに名前を書かれた人物は死ぬ。ほぉ」
――こういうくだらないこと結構好きです。そもそも人生なんてくだらないことばかりですが、そのくだらないことの中から幸せとかは見つけたりするもんなんですよね。関連性で言えば、不幸の手紙なんかもいい発想でしたね。
興味を持ったので台所に戻った。そして冷蔵庫からワタリが苦労して買ってきたモンブランを取り出し机の上にモンブランケーキと紅茶を用意した。ごちゃごちゃしているのが好きではないLの机の上には今用意したケーキセット以外は何も置かれていない。そして雑巾で机を拭くと椅子に体育座りで座った。
モンブランケーキのてっぺんには栗が乗っている。しかし、栗ではなくケーキの部分を口に加えながら続きを読み始めた。
もぐもぐもぐ……
『書く人物の顔が頭に入ってないと効果はない
ゆえに同姓同名の人物にいっぺんに効果は得られない』
『名前の後に人間単位で 40秒以内に
死因を書くとその通りになる』
『死因を書かなければ 全てが心臓麻痺となる』
『死因を書くとさらに6分40秒 詳しい死の状況を記載する 時間が与えられる』
――なるほど。楽に死なせたり苦しませて死なせることができるだけでなくいつでもどこからでも自分の手を下さず人を殺すことができるということですか
「悪戯もここまで手が込んでいるとはなかなかです」
えっと食べログの回し者ではないですよ(