FAIRY TAIL 妖精の凍てつく雷神 作:タイトルホルダー
トールはジェラールとは戦いません。ナツに頑張ってもらいます。
──魔法評議会本部ERA──
時は少々遡り、評議院の議長が体調を崩して欠席しているなか、残りの9人でエーテリオンを投下するか否かを決定していた。
初めは賛成2と反対7で否決されたが、ジェラールの正体と目的をジークレインが話すことによって他の評議員も一転。マカロフと昔から親展のあるヤジマ以外は全員が賛成し、楽園の塔へのエーテリオン投下が決定された。
そして時間が過ぎ、着々とエーテリオン発射準備が整ってゆく。
それを眺めるジークレインにウルティアが話しかける。
ウルティア「いよいよですわね。ジークレイン様。あなたの8年の想いが実現するのです」
ジークレイン「お前は怖くないのか、ウルティア」
ウルティア「ええ、少しも。私はいつでもジーク様を信じてますから」
ウルティアはジークレインの隣に立つ。
ジークレイン「そりゃあそうか。
ジークレインはエーテリオンの射出台を見上げる。
ジークレイン「失敗したらオレは死ぬ」
ヤジマ「(
ヤジマは、二人の会話を魔法で隠れながら聞いていると気になる言葉が入ってきた。
ジークレイン「だが、命をかける価値は十分ある
これがオレの理想だからだ」
ヤジマ「(………?)」
ジークレインの言葉にウルティアも同意する。その様子にヤジマは怪訝な顔をする。
そのときのジークレインの口は邪悪な笑みに歪んでいた。
──楽園の塔近海──
アニス「あ、いた!おーいグレイ!ハッピー!」
グレイ「アニス!ルーシィ!ジュビア!」
ハッピー「みんな無事だったんだね!」
行きに乗ってきたボートに先に乗っていたグレイとハッピーにアニスは声をかけ、全員で無事を確認する。
ハッピー「でもオイラたち全員で乗るには大きさが足りないんじゃないかな?」
グレイ「しょうがねえだろ。これしかなかったんだからよ」
パオラ「さて、あとはトールとナツとエルザに……」
ウォーリー「ショウとマユミ、ダゼ」
ルーシィ「そして敵はジェラールだけね」
そうしていると今度はショウが合流し、続けてマユミがやってきた。
グレイ「ちっ!まずいぞ……あと少しでエーテリオンが落ちてしまう!」
ジュビア「ジェラールを倒せば早くここから脱出できるんですけどね……」
ルーシィ「ねえ、ジェラールってどれくらい強いの?」
ここでルーシィは疑問に思ったことを言うが、マユミたちはすぐに口を開くことはなかった。その理由は、ジェラールの強さを知らないからである。
ミリアーナ「みゃあ。私たちってジェラールが戦っているところを見たことないし」
マユミ「で、でも、シモンくんが言ってたんだけど、ジ、ジェラールにはジークレインっていうお兄さんがいて、その人は評議院なんだけど聖十大魔導の一人でもあるって」
パオラ「ということは、ジェラールもそいつと同等クラスってことよね」
そう言うが、自分達ではどうすることもできない。グレイたちは戦闘で体力と魔力を消耗しており、自分達が行ったところで足手まといにしかならない。
だから自分達にできることと言えば、戦っている者の勝利を信じることである。
──楽園の塔最上階──
ここにただ一人椅子に座っているジェラールが三羽鴉に見立てた駒を倒し、不気味に微笑んだ。
ジェラール「やれやれ、ゲームはもう終わりか」
エルザ「人の命で遊ぶのがそんなに楽しいか」
階段を上りきり、最上階へとたどり着いたエルザの声は怒りがこもっている。
ジェラール「楽しいねぇ、生と死こそが全ての感情が集約される万物の根源。……逆にいえば命ほどつまらなく、虚しいものもない」
エルザの問いに対し、ジェラールは楽しそうな声で答えた。
ジェラール「久しぶりだな、エルザ」
エルザ「ジェラール」
ジェラール「その気になればいつでも逃げ出せたハズだが?」
エルザ「私はかつての仲間たちを解放する」
ジェラール「かまわんよ、もう必要ない。楽園の塔は完成した」
エルザ「あと10分足らずで破壊されるとしてもか?」
ジェラール「エーテリオンの事か?ククク……」
椅子から立ち、笑いながらエルザに近づくジェラール。
エルザ「その余裕……やはりハッタリだったか」
ジェラール「いや……エーテリオンは落ちるよ」
エルザは力強く刀を握り、ジェラールを睨みつける
エルザ「それを聞いて安心した!!!10分貴様をここに足止めしておけば、全ての決着がつく!!!」
ジェラール「いや、オマエはゼレフの生贄となり死んでいく、もう決まっている………それが
エルザに対しジェラールは被っていたフードを取り、冷静に言った。
ジェラール「正確に言えばあと7分だ。あと7分でエーテリオンはここに落ちる、この7分間を楽しもう、エルザ」
エルザ「今の私に怖れるものは無い、たとえあと何分でエーテリオンが落ちようと、貴様を道づれにできれば本望」
ジェラール「行くぞ!!!」
剣を構えるエルザにジェラールが闇の怨念の塊を繰り出して攻撃する。
しかしエルザは素早くかわし、怨念を斬り捨てる。
その隙にジェラールは飛び上がるエルザの腹部を狙って衝撃波で吹き飛ばす。
エルザ「ぐっ!?」
吹き飛ばされたエルザは、塔の壁を突き抜けて落下するが、一緒に落ちてくるガレキを足場にして再びジェラールに斬りかかる。
エルザ「せっかく建てた塔を自分の手で壊しては世話がないな」
ジェラール「柱の一本や二本、ただの飾りにすぎんよ」
エルザ「その飾りを造る為にショウたちは8年もお前を信じていたんだぞ!!!」
更に怒りを込め、剣をふるうエルザ。だがジェラールの余裕は変わらない。
ジェラール「いちいち言葉のあげ足をとるなよ。重要なのはRシステム。その為の8年なんだよ。そしてそれは完成したのだ!!!」
エルザ「がはっ!!」
ジェラールの右手に込めた魔力で放った怨念がエルザの体にまとわりついた。
ジェラール「!!」
しかしエルザは自慢の剣術で怨念を全て斬り払う。
エルザ「はぁ!!!」
ジェラール「ぐあっ!?」
エルザの攻撃がジェラールの腹部をとらえ、ジェラールはそのまま後ろへ吹き飛ばされた。
ジェラール「(これが………あのエルザだと!!?)」
斬撃による痛覚でジェラールは怯んでしまう。
エルザはその隙をついてジェラールを取り押さえ、左手でジェラールの右手首をつかみ、首元に剣を突き付ける。ジェラールの左手は足で拘束している。
ジェラール「くっ…!」
エルザ「お前の本当の目的は何だ?本当はRシステムなど完成してはいないのだろう?」
ジェラール「!!!」
エルザ「私とて8年間何もしてなかった訳ではない、Rシステムについて調べていた……確かに構造や原理は当時の設計図通りで間違っていない。しかしRシステムの完成には肝心なものが足りてない」
ジェラール「言ったハズだ……生贄はお前だと……」
エルザ「それ以前の問題だ。足りてないものとは〝魔力〟。
この大がかりな魔法を発動させるには27億イデアもの魔力が必要になる。これは大陸中の魔導士を集めてもやっと足りるかどうかというほどの魔力だ」
ジェラールは確信づいた事を言われ、冷や汗を流す。
エルザ「人間個人ではもちろん、この塔にもそれほどの魔力を蓄積できるハズなどないのだ……そのうえお前は評議院の攻撃を知っていながら逃げようともしない………お前は何を考えているんだ」
ジェラール「エーテリオンまで……あと3分だ……」
エルザ「ジェラール!!!お前の
ジェラールの手首を握りしめるエルザ。その痛みでジェラールは顔を歪める。
エルザ「ならば共にいくのみだ!!!私はこの手を最後の瞬間まで放さんぞ!!!」
ジェラール「あぁ。それも悪くない……」
半ば観念したような表情を浮かべるジェラール。
ジェラール「オレの体はゼレフの亡霊にとり憑かれた。もう何も言うことをきかない………ゼレフの肉体を蘇らす為の人形なんだ」
エルザ「とり憑かれた?」
ジェラール「オレはオレを救えなかった……仲間も誰もオレを救える者はいなかった。楽園など……自由など……どこにもなかったんだよ」
エルザ「!」
ジェラール「全ては始まる前に終わっていたんだ」
ジェラールがそう言ったのち、空に一筋の光が生まれる。その中から巨大な魔法陣が現れ、魔力が集まってゆく。
それと同時に楽園の塔とその近海が大きく揺れ始める。
エルザ「Rシステムなど完成するハズがないと分かっていた。でも、ゼレフの亡霊はオレをやめさせなかった……。もう、止まれないんだよ、オレは壊れた機関車なんだ………」
するとジェラールはエルザを見据え、その瞳に決意を浮かべて言った。
ジェラール「エルザ。おまえの勝ちだ……オレを殺してくれ。その為に来たんだろ?」
エルザ「……私が手を下すまでもない。この地鳴り……すでに
そう言ったエルザは握っていた剣を捨てる。
エルザ「終わりだ……お前も、私もな」
ジェラール「不器用な奴だな………」
エルザは握っていたジェラールの手首を放し、ジェラールの上から降りる。ジェラールは体を上半身だけ起こす。
エルザ「お前も……ゼレフの被害者だったのだな」
ジェラール「これは自分り弱さに負けたオレの罪さ……
エルザ「自分の中の弱さや足りないものを埋めてくれるのが……仲間という存在ではないのか?」
ジェラール「エルザ……」
エルザ「私もお前を救えなかった罪を償おう」
ジェラール「オレは……救われたよ」
そう言ったジェラールは強引にエルザを抱き寄せた。
エルザはそのジェラールの行動に抵抗もせずに受け入れた。
そしてその直後、眩い光が塔全体に降り注ぐ
トール「この光……!!!」
最上階まで走っていたトールは迸る光に思わず眼を細め、足が止まる。
シモン「間に合わなかったか………」
壁に項垂れるシモンは空からの光を見て諦めるように呟いた。
ナツ「エルザァ!!!」
階段をのぼっていたナツも外の光が激しく光っているのを感じる。
そしてついに
裁きの光、エーテリオンが発射されて楽園の塔に降り注ぐ。
その際、ジェラールに抱き寄せられていたエルザは、
自分の見えないところで
ジェラールが笑っていることに気づかなかった。
オーグ「むぅ……」
オーグ老師は後悔していた。自分達の選択は本当に正しかったのかを。
いくらゼレフ復活を阻止するためとはいえ、犠牲者の命は戻ってこない。自分達の行動をどう正当化しようが、犠牲者の家族の心は癒されないのだ。
だが、ここで監視用
「ほ、報告します!爆心地中央にエーテルナノ中和物を確認!融合体濃度急速に低下!別エネルギーと思われる高魔力発生!!!」
魔水晶の操作役の者たちが監視用魔水晶の映像を回復させようと動きだし、タッチパネルを操作して修正を始める。
「映像、回復します!」
しかし、監視用
エーテリオンによる爆煙がだんだん晴れてくると、ちらほらと水色の何かが見えてくる。
ハッピー「あれって……水晶……?」
グレイ「いや……
パオラ「なんで、あんなものが……」
トール「何だこれは……エーテリオンは落ちたんじゃなかったのか……」
ナツ「いってぇ……何がどうなってやがる」
シモン「な、なぜ……オレは生きてる……?」
エーテリオン投下の煙が晴れるとそこには今まで気味の悪かった建物の代わりに、途方もない魔力が込められた水晶が楽園の塔とほぼ同じ大きさと形で立っていた。
ルーシィ「な、なに…あれ?」
ショウ「Rシステムだ」
パオラ「あ、あれが……」
ショウの言葉に息を飲むルーシィたち。
ウォーリー「アレが俺たちが造っていた楽園の塔の本当の姿だゼ」
マユミ「さ、作動してる」
ルーシィ「作動って……ゼレフが復活するの!?」
ショウ「わからない。俺たちだって作動しているのは初めて見たんだ」
そして戸惑っているのは中にいた者たちも同じ。目を開けたエルザが目にしたものは、辺り一面が輝く水晶に囲まれていた。
エルザ「な、なんだこれは……いったい何が起こった?」
エルザが周りを見ていると抱きしめていたジェラールがエルザから離れ、立ち上がった。
ジェラール「くく………アハハハハハっ!!!!ついに……ついにこの時が来た!!」
ジェラールは腕を広げ、大いに喜んだ。
エルザ「お、お前…」
ジェラール「驚いたかエルザ。これが楽園の塔の真の姿、巨大な魔水晶なのだ。そして評議院のエーテリオンにより、27億イデアの魔力を吸収することに成功した!!!ここにRシステムが完成したのだぁ!!!」
映像が晴れ、楽園の塔が消えたと思ったらそこには巨大な魔水晶の塔が立っており評議院は困惑していた。
「なんだあの塔は!?」
「凄まじい魔力反応です!」
「あんな魔力を一ヶ所に留めておいたら暴発するぞ!!!」
評議院のメンバーは慌ただしく、確認を行うが何が起こっているかわからない。
しかし、ヤジマには起こったことが理解できた。いや、できてしまった。
ヤジマ「やられた……やられたっ!!!くそぉっ!!!」
ヤジマはジークレインの罠にはまったことに気づき、ジークレインを探す。
ヤジマ「あやつはどこにおるっ!!!」
するとERAの建物にヒビが入り崩れていく。
「何だこれは!?」
「建物が急速に老朽化している!!?」
オーグ「
建物の崩壊で全員が慌てて逃げる中、ヤジマはその中央で魔法を行使しているウルティアが目に入った。
ヤジマ「ウルティア!?」
ウルティア「全てはジーク様……いえ、ジェラール様のため。あの方の
エルザ「貴様……騙したのか……」
騙されたことによる怒りでエルザは震えるが、まだ気持ちの整理がついていない。そこに声がかけられる。
「可愛かったぞ。エルザ」
エルザ「え…!?」
エルザがその声のもとを振り返るとそこにはERAにいるはずのジークレインが立っていた。
エルザ「ジークレイン!?」
ジークレイン「ジェラールは本来の力を出せなかったんだよ。本気でやばかったから騙すしかなかった」
ジークレインがそう言いながら、ジェラールの隣に立つ。
エルザ「な……なぜ貴様がここに!?」
ジークレイン「初めて会った時の事を思い出すよエルザ。マカロフと共に始末書を提出しに来た時か、ジェラールと間違えてオレに襲いかかってきた」
エルザは驚きの連続に頭が追いつかないでいた。
ジークレイン「双子と聞いて、やっと納得してくれたよな。しかし、お前は敵意を剥き出しにしていたな」
エルザ「当たり前だ!貴様は兄でありながらジェラールのことを黙っていた!いや、それどころか貴様は私を監視していた!!!」
ジークレインはエルザの問いに答えずに話し、エルザも言い返すがジークレインは不敵な笑みを浮かべるだけだった。
ジークレイン「そうだな……そこはオレのミスだった。あの時は〝ジェラールを必ず見つけ出して殺す〟とか言っておくべきだった。しかし、せっかく評議院に入れたのにお前に出会ってしまったのが一番の計算ミスだな」
ジェラール「とっさの言い訳ほど苦しいものはない」
エルザ「そうか……やはり貴様らは結託していたんだな」
ジェラールとジークレインの物言いに確信を得たエルザは2人にそう言ったが2人の言葉はまだ終わらなかった。
ジークレイン「結託?」
ジェラール「それは違うぞエルザ」
その言葉の直後、ジークレインの体にノイズが走る。
「「俺たちは元々一人の人間だ。最初からな」」
その瞬間、ジークレインはジェラールと重なり、1人になった。
エルザ「そんな……まさか、思念体!?」
ジェラール「そう、ジークは俺が作り出した思念体だ」
そう。つまりジェラールは一人二役だったのだ。一人は楽園の塔を完成させるために、もう一人は評議院に忍び込んでエーテリオンを打つために。
ジェラール「仮初めの自由は楽しかったかエルザ?全てはゼレフを甦らすための布石だったんだよ」
エルザ「貴様はいったいどれだけのものを欺いて生きて来たんだァ!!!」
エルザは怒りに打ち震える。
それに対して、ジェラールは力をいれ、魔力を高めてゆく。
ジェラール「フフ……力が、魔力が戻って来たぞ」
ジェラールは分割していた魔力が元に戻るのを実感し、計画は最終段階へと進んでいく。