翌朝。
フォレストニウムの門の前に俺達は集まっていた。
トリムさんや兵士の人達も一晩寝たら体力も回復したよだ。
流石に鍛えられているだけはある。
「お世話になりました、ウルムさん」
「いえいえ。また機会があれば寄っていって下さい。歓迎しますぞ」
俺とウルムさんは握手を交わす。
俺達は今からこのフォレストニウムを出発し、オーディリアに行く。
トリムさんが伝令を回してくれたから、ある程度は受け入れ準備が整っている・・・・・はず。
まぁ、アリスの城はデカイからこの人数でも泊まるくらいはできるだろうさ。
「エルザ、またね!」
「ああ。いつでも帰ってこい。ここはおまえの故郷なんだから遠慮することはない」
「うん!」
俺の隣では美羽とエルザが手を取り合っていた。
二人とも少し眠たそうにしているのは、朝まで話をしていたのが原因らしい。
よっぽど話が弾んだようだ。
すると、エルザが美羽に耳打ちする。
(おまえ、あいつのことが好きなら早いこと手を打った方がいいぜ? 周りの女もあいつに惚れてるんだろう? そうなりゃ、早い者勝ちさ)
(早い者勝ちって・・・・)
(なーに、押し倒して迫ればいちころだろ。ほら、よく言うだろ? 押してダメなら押し倒せってな)
(それ、引くんじゃ・・・・・)
(そうだっけ? まぁ、どっちでもいいだろ。とにかく、おまえならいけるからやってみろよ)
(そうかなぁ?)
(おまえはその手のことは苦手だろうが、その時は勢いだ。自信を持て)
(う、うん・・・・・)
何やら俺の方を見ながら話してるけど・・・・・
何してんだ?
エルザは美羽との話を切り上げ、俺に近づいてくる。
そして、俺の肩を叩いた。
「昨日も言ったが、ミュウのこと大切にしろよ? 泣かせたら承知しねぇからな」
「お、おう。分かってるよ」
「それからもう一つ」
「へっ?」
エルザは俺の顔をぐいっと引っ張ると今度は俺に耳打ちしてきた。
(ミュウがおまえを求めた時は受け入れてやってくれ)
(それってどういう・・・・・)
聞き返すが、エルザは俺から離れてバンバンと背中を叩いてきた。
痛いって・・・・
戦士だから力が強いよ・・・・
エルザはニッと笑う。
「まぁ、そう言うこった! 頼んだぜ、スケベ勇者!」
そう言ってエルザは背中を向けて去っていった。
結局、どういう意味なのかさっぱり分からなかった。
美羽を受け入れろって言われても、とっくに受け入れてるんだが・・・・・。
甘えてきたときは、存分に甘やかしてるし。
まぁ、たまに俺の方から甘える時もあるけどね。
ふと、美羽の方を向けば顔がこれまでにないくらい真っ赤になっていた。
おいおい、何があったよ?
「イッセー殿、そろそろ」
「あ、うん。分かったよ」
トリムさんに促され、俺は改めて見送りに来ている魔族の人達を見る。
その人達に向かって大きな声で言った。
「それじゃあ、俺達は行きます! 皆さん、お世話になりました!」
それから俺達は門をくぐり、集落を出た。
さて、いよいよ行きますか!
アリス達のところへ!
▽
俺達はフォレストニウムを出た後、用意された馬車に乗ってオーディリアに向かった。
部長が感心しながら言う。
「こっちの世界にも馬車はあるのね」
「ええ。異世界って言っても俺達の世界とそう変わるもんじゃないんですよ」
「へぇ」
そんな会話をしながら馬車に揺られること数時間。
道の向こうに町が見えてきた。
皆の視線もそこに集まる。
「あそこが目的地のオーディリアの城下町セントラルです! 懐かしいぜ!」
俺は馬車の荷台から体を乗りだし、懐かしい光景に少しはしゃいでいた。
二年ぶりに見る町の光景。
俺が去った時からほとんど変わってない。
なんか感動するな!
「イッセーさん、すごく楽しそうですね。あの町に何か良い思い出があるんですか?」
アーシアがはしゃぐ俺に尋ねてくる。
俺は頷いた。
「ああ、あの町には思い出がたくさんあるんだ」
あそこでは楽しいこと、悲しいこと、たくさんのことを経験してきた。
そして、今の俺の原点になった場所でもある。
『だな。今の相棒はあそこから始まったと言っても過言ではない』
ドライグの言葉に皆は頭に疑問符を浮かべながら、周囲の光景を眺めていた。
それから数分後、馬車はオーディリアの王城、セントラル城に到着する。
俺達の世界で言う西洋風の城。
部長の家よりも大きいかな?
いやー、ここも変わらねぇな!
俺は馬車から飛び降りて城内をぐるっと見渡す。
「イッセー殿。ご案内いたします。皆様もこちらへ」
トリムさんが馬車から降りて案内をしてくれる。
トリムさんの後に続いて建物の中に入ると、そこでは――――
『お帰りなさいませ! 勇者様!』
メイドさん達がずらっと並んで盛大に出迎えをしてくれていた!
まぁ、お帰りってのは少し違うような気もするが・・・・・
細かいことは気にしないでおこう。
「皆、久し振り! 元気そうで何よりだよ!」
手を振ってメイドさん達に挨拶を返す。
二年も経っているせいか流石に新人らしき人も何人かいたけど、殆どが知っている顔だ。
皆と出会うのは―――――あ、やべ・・・・
森で
まさかと思うけど、エルザの時みたいにボコボコにされる、なんてことはないよね?
俺が内心焦っていると、一人のメイドさんが前に出た。
「お久し振りです、イッセー様」
「ワルキュリアじゃねぇか。元気そうだな!」
彼女はメイド達を纏める侍従長ワルキュリア・ノーム。
ロスヴァイセさんのような長い銀髪が特徴的な美女。
いつも冷静で面倒見の良いお姉さんなんだ。
「ええ。イッセー様に服をバラバラにされましたが、元気にやっています」
・・・・・一つ付け加えるならこの人も小猫ちゃん並みに毒舌を吐く。
それも的確に相手の精神を抉るような毒舌を吐いてくるので恐ろしい人でもある。
しかも、顔色変えずに言ってくるところが特に恐い。
まぁ、普段は優しいんだけどね。
「あ、う、うん。・・・・・・ごめんね」
「いえ、私は気にしていません。イッセー様がどれほどの変態であるかは私も存じていますので。むしろ、それが分かっていながらも対策をしなかった私の落ち度でしょう」
ぐはっ!
冷たい一言が、的確に俺の心を抉っていく!
ワルキュリア、真顔なんだもん!
再会早々、恐いよ!
でも、俺が悪いから文句は言えないんだよね・・・・・
ワルキュリアは部長達に頭を下げ、自己紹介をする。
「皆様、はじめまして。私はワルキュリア・ノーム。オーディリア家の侍従長をしている者です。この城内でお困りのことがあれば何なりとお申し付け下さい」
とワルキュリアの軽い自己紹介に続き、部長や木場達も名を名乗っていく。
皆の紹介を終えたところでワルキュリアは体の向きを変えた。
「さぁ、こちらへ。モーリス様がお待ちです。イッセー様」
「は、はい・・・・本当にすいませんでした」
なんだか逃げたしたくなってきた・・・・・
パタパタパタ
どこからか足音が聞こえてきた。
皆もそれに気づいたのか、それが聞こえてくる方向に視線を移す。
視線の先にいるのは一人の女性。
腰まである長い金髪で、背は部長と同じくらい。
赤いドレスを身に纏っている。
かなりの美少女だ。
「お兄ーさーん!!!」
その美少女は床を蹴って高くジャンプすると、俺に飛び付いてきた!
「ひょっとして、ニーナか!?」
「そうだよ! 会いたかったよぉ!」
その美少女、ニーナは弾んだ声でそう言うと頬擦りしてきた。
おいおい、マジかよ!
二年前よりも成長しすぎだろ!
最後に会った時はアーシアみたいな感じだったのに、今ではスタイルが部長クラスになってんじゃねぇか!
二年という月日でここまで成長するもんなの!?
お兄さん驚きだよ!
「大きくなったな。見違えたよ」
「うふふ~。私も成長したってことだよ☆」
ニーナは俺の前でくるっと回るとこっちにブイサインを送ってきた。
た、確かに成長したな。
特に胸が・・・・・
回転で揺れてたもんな・・・・・
「イッセー様、ニーナ様の胸元に視線が釘付けになっています。あれから二年も経つというのに成長しませんね」
「・・・・・やっぱりイッセー先輩は次元を越えてもドスケベです」
おおう!?
ワルキュリアと小猫ちゃんのダブルツッコミだと!?
強烈だが、新鮮だ!
まさかこの二人のツッコミを一度に食らう日がくるとは!
「小猫様、絶妙なタイミングです」
「・・・・ワルキュリアさんもかなり鋭いツッコミです」
なんか、二人の間に奇妙な感情が芽生えようとしているぅぅうううう!?
俺という共通のツッコミ相手を持つことで親近感でもわきましたか!?
「お兄さんも変わらないね~。相変わらずエッチなことが好きなんだ~。じゃあ、こんなのはどうかな?」
そう言ってニーナは胸元を寄せて前屈みになった!
ブファッ!
噴き出す鼻血!
エロい!
昔は俺のことをお兄さんって呼んでは後ろをついてきていたあの子がこんなにもエロくなっていたとは!
人間の成長って素晴らしい!
ワルキュリアがたん息しながらニーナを嗜める。
「ニーナ様、お止めください。あなたは王家の者なのですから、気品ある振る舞いをしてもらわなくては困ります」
「大丈夫だよ~。私がこんなことするのはお兄さんだけだし」
「それでもです。それにイッセー様をこれ以上、刺激すれば掃除が面倒になります。イッセー様も早くその鼻血を止めていただけますか?」
「は、はい・・・・」
とりあえずティッシュを詰めておこう。
持ってきておいて良かった・・・・・。
一応、ポケットティッシュは母さんに言われて四つほど持ってきてある。
「行きますよ。モーリス様も待っておられるので」
「あ、ああ。ニーナも行くか?」
「もちろん!」
そう言ってニーナは俺の腕に抱きつく。
腕が胸に挟まれてる!
しかも柔らかい!
また鼻血が噴き出しそうだぜ・・・・・
「お兄ちゃん・・・・・」
美羽が涙目で見てくるぅうううう!
泣かないでくれ、妹よ!
俺だって困惑してるんだ!
『(だが、嬉しいのだろう?)』
そりゃあもう!
最高です!
『(はぁ・・・・・)』
▽
「こちらでモーリス様がお待ちになっております」
と案内されたのは大きな扉の前だった。
木製で、見事な彫刻が彫られている。
ここは確か、他国の来賓がやって来た時に使う部屋だったような・・・・・。
コンコンコン
「モーリス様。イッセー様とそのご友人の方々をお連れしました」
ワルキュリアが扉をノックして言うと中から返事が返ってくる。
『おう。入ってくれ』
それに応じてワルキュリアが扉を開ける。
ワルキュリアに続き、部屋に入ると部屋の奥の椅子に白髪混じりの男性が座っているのが見えた。
男性は俺の顔を見るとニッと笑みを浮かべた。
「久し振りじゃねぇか。以前よりも随分逞しくなったな、イッセー」
「モーリスのおっさん!」
決して忘れられないその顔。
俺にとっては恩人で旅の仲間。
『剣聖』モーリス・ノアが笑顔で俺を迎えてくれていた。
▽
「どうぞ、イッセー様」
「ありがとう、ワルキュリア」
ワルキュリアに淹れられたお茶を受取り、喉を潤す。
迎えられた俺達は一旦席に着いて、ほっこりしていた。
長時間、馬車に揺られていたから少し疲れたしな。
「美味しいです。ぜひ淹れ方を教わりたいですわ」
「そう言っていただき光栄です、朱乃様。私でよろしければお教えしますが・・・・」
「ありがとうございます。それでは時間がある時にお願いしますわ」
「よろこんで」
皆、結構打ち解けてるんだよなぁ。
流石と言うべきか。
・・・・・ギャスパーは知らない人だらけで動きがまだぎこちないが、引きこもりっ子だからしょうがないよね。
モーリスのおっさんが茶を啜りながら言う。
「知らせを受けた時は驚いたぜ。まさか、おまえが再びこの世界に来るなんて思ってもみなかったからな」
「俺もまたこっちに来ることになるとは思わなかったけどね。まぁ、また再会出来たのは嬉しいよ」
「それは俺もさ。しかし、随分美人ばかり連れてきたもんだな。おまえのハーレム王の夢は叶ったのか?」
「うっ・・・・それは・・・・・」
俺の反応で察したのか、おっさんはニヤッと笑う。
「なるほどな。ま、そんなこったろうとは思ったがな。押しに弱いのは相変わらずか・・・・・」
その言葉に先生がおっさんに問う。
「やっぱり昔からこいつはそうなのか?」
「ああ。旅をしているころは、こいつは既に有名になっていてな。腕っぷしもあるし、性格もスケベなところ以外は真っ直ぐで良い。顔だって悪くない。言い寄ってくる女は結構いたぞ」
「だが、押しに弱すぎるせいでその都度タジタジになってたってところか。イッセー、おまえ、その辺りは全く成長してねぇのな」
そう言われると返す言葉もないです・・・・。
女の子に仲良くされるのは嬉しいんだけどね。
ただ、なぜか俺の周りの女の子は勢いが凄いんだ。
最初は良いんだけど、だんだん激しくなっていって、最終的には凄いことになるんだよね・・・・・。
うーむ、どうすれば女の子をしっかり受け止められるようになるのか。
これは俺の最重要課題だ。
「アザゼルって言ったな。こいつは元の世界ではどうなんだ?」
「まぁ、それなりにモテてるか。ここにいる奴らは皆そうさ。あー、そうそう。こいつは女の胸が好き過ぎてな。今では『おっぱいドラゴン』なんて二つ名が付いてる」
おいおいおい!!!
何言ってくれてんの、この人!?
つーか、その名前作ったのあんたでしょうが!!!
「クッ・・・・ククククククッ・・・・・・アーハッハッハッハ!!!!! おいおい、マジかよ!!!!」
おっさんが爆笑し始めた!
バンバンと机を叩いて笑い転げてるよ!
あー、もう!
先生のせいだ!
何でその名前のこと言っちゃうかな!?
「ハハハハ・・・・・はぁ~腹痛ぇ! おまえの胸好きもそこまでいくと逆に感心できるな! どうせ、ドライグも泣いたんだろ?」
「泣いてるよ! すでに!」
「おーい、ドライグ。おっぱいドラゴンになった感想は?」
『聞くなぁぁぁあああ!!! モーリス、貴様、分かって聞いているだろう!?』
「おうよ!」
『うおおおおおおおん!! なんでこの世界でもこんな目にぃいいいいいいい!!!』
あー、ドライグが泣いちゃったよ!
かつてないくらい号泣してるよ!
そりゃそうだよね!
異世界でもその名で呼ばれるなんて思わないよね!
俺も思ってなかったよ!
先生が未だに爆笑してるおっさんに言う。
「実はなそのおっぱいドラゴンはチビッ子の間で人気があってな。町を歩く度にその名で呼ばれるんだ」
おいいいいいいいいっ!?
確かに冥界の町でも病院でも言われたこともあったけど!
そんな追加情報教えなくていいから!
「マジかよ?」
「マジだ」
・・・・・・・・・・
「「アーハッハッハッハッハッハハハハハハハ!!!」」
おっさん二人の笑い声が城内に響き渡った。
そして、ドライグは泣いた。
次回、アリスが登場します!