ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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6話 悪神の襲来です!!

冥界。

 

俺はグレモリー領にある大きな病院に来ていた。

理由は右腕の定期検診を受けるためだ。

 

俺の前では眼鏡をかけた主治医の先生が診察結果を見て何やら頷いていた。

 

「ふむふむ・・・・・。以前見たときよりも状態は良好ですね。と言っても完治にはほど遠いですが・・・・。ただ、薬の効果が出ていることが分かっただけでも、大きいでしょう」

 

「完治までどのくらいかかりそうですか?」

 

俺が尋ねると主治医の先生は腕を組んで考え込んだ。

 

「う~ん、今の薬では完治までは至らないでしょうし・・・・・。開発している新薬の効果次第となるでしょうね」

 

「あー、グリゴリと共同で開発してるって言うやつですか?」

 

主治医の先生が頷き、机の引き出しから資料を取り出した。

 

資料にはグラフやら何やらがたくさん書かれていて、俺が見てもさっぱり分からない。

 

「ええ、魔王ベルゼブブ様も開発にご協力して下さっているので、効果は期待できると思います。データも良い結果を出しているようです。この分で行けば遅くとも一ヶ月で完成すると聞かされています。それまでは今の薬で少しずつ治療を進めていきましょう」

 

おおっ。

そんなに早く出来るんだな。

先生が言ってた通りだ。

 

「それではこれで診察は終わりです。薬も処方しておきますので、受け取っておいてください」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

あと遅くてあと一ヶ月。

ということはもっと早く完成する可能性もあるってことか。

修学旅行に間に合えばラッキーだな。

 

一通りの診察が終わったので、診察室から出る。

 

すると、診察室か前のベンチに座っていた美羽が俺の元に歩いてきた。

 

なぜ美羽がここにいるかと言うと、俺の付き添いだ。

 

本来なら部長がいた方が何かと融通が聞くんだけど、部長は今、他の皆と共にオーディンの爺さんを護衛中だ。

俺のために仕事を休ませるのも悪いと思ったので部長にはそちらを優先してもらった。

 

「お待たせ」

 

「ううん。それで、どうだった?」

 

「ほんの少しだけマシになってるみたい。まぁ、新薬の完成待ちだな」

 

「そっか・・・・。じゃあ、それまではボクがお世話するよ。お兄ちゃんを助けるのも妹の役目だからね」

 

美羽は微笑みながらそう言ってくれた。

 

うぅ・・・・

美羽の優しさが心に染みるぜ!

なんて良い娘なんだ!

 

俺は感動の涙を流しながら美羽の頭を撫でてやる。

 

「ありがとうな、美羽。なんか、いつも世話になりっぱなしだな」

 

「気にしないで。今までお兄ちゃんには助けてもらってばっかりだったから、これくらいどうってことないよ」

 

美羽はそう言ってくれるけど、ここのところずっと美羽の世話になりっぱなしだからな。

今度、何かお礼しないと。

 

何が良いかな?

 

美羽が俺の手を引く。

 

「じゃあ、行こっか」

 

「そうだな」

 

この後、受付で薬を受け取った俺達はそのまま家に帰った。

 

 

 

 

 

 

帰宅後。

 

時計を確認すると時刻は午後の四時を少し過ぎたくらいだ。

 

今、家にいるのは俺と美羽の二人だけ。

他の部員はアザゼル先生と共にオーディンの爺さんの護衛任務で、父さんは休日出勤、母さんはご近所さんと何処かに出掛けている。

何処かと言っても駒王町の中にいるみたいだけどね。

 

 

「お兄ちゃん、アイス食べる?」

 

美羽が冷蔵庫の中を漁りながら訊いてくる。

 

「おー、いるいる」

 

俺も何か口に入れたかったのでそう答えた。

 

美羽がアイスを包んでいた袋を開けて、俺に手渡してくれた。

ちなみにアイスは抹茶バーだ。

 

季節はもう秋だけど、たまに冷たいものが欲しくなる。

 

「なんか、あれだな。美羽と二人になるのって久しぶりだ」

 

俺の言葉に美羽もアイスを食べながら頷く。

 

「いつもは部員の皆と一緒にいるからね。皆といるのは楽しいけど、こうして二人で過ごせて嬉しいよ。お兄ちゃんを独占してるって感じで」

 

ニコッと笑いながらそんなことを言ってくる。

 

独占って・・・・

そんなこと言わなくても俺の妹はおまえだけだぞ?

 

まぁ、俺も美羽と過ごせるのは嬉しいんだけどね。

 

 

・・・・・・こうして二人でいると美羽をこっちの世界に連れてきた時のことを思い出す。

 

人間と魔族との長きに渡る戦争を終わらせるためにシリウスと一騎討ちをして、それに勝った。

それで終わりかと思えばシリウスから美羽を託された。

 

そして、美羽を守るために俺はアリス達にも黙って美羽をこちらの世界に連れてきた。

 

そんでもって、父さんと母さんに頼んで美羽を娘として家族に受け入れてもらった。

 

・・・・・・あれからもう二年以上が経ったんだな。

 

早いもんだ。

 

美羽もすっかりこっちの生活に慣れて、今では自動ドアも一人でくぐれるほどになった。

 

大したことじゃないと思うだろ?

でも、昔と比べると大きな進歩なんだぜ?

 

「どうしたの? さっきからボクの顔を見てるけど」

 

俺の視線に気づいた美羽が尋ねてきた。

 

「いやぁ、おまえをこっちに連れて来た時のことを思い出してたんだよ。あれからもう二年以上が経ったんだぜ?」

 

「あー、もうそんなになるんだ。あっという間だった気がするよ」

 

「自動ドアに怖がってたのを昨日のことのように感じるよ」

 

俺が笑いながらそう言うと、美羽は頬をプクッとかわいく膨らませながらポカポカ叩いてきた。

自動ドアの事はあまり言われたくないらしい。

 

「もう! それを言わないでよ! お兄ちゃんのイジワル!」

 

「ハハハハハ、悪い悪い」

 

俺は美羽に謝りながら頭を撫でてやる。

こうすると機嫌が良くなるのは変わらない。

 

俺は食べ終わったアイスのバーをゴミ箱に捨て、美羽が入れてくれたお茶を飲む。

 

そして、美羽にあることを尋ねた。

これは二人きりの時じゃないと出来ない質問だった。

 

「なぁ、美羽。・・・・・もし、シリウスに会えるとしたらやっぱり会いたいか?」

 

俺のいきなりの問いに美羽は一瞬目を見開いた。

 

いきなり、こんな質問するなんてどうかしてると自分でも思ってる。

それでも訊きたかった。

 

「・・・・・会えるなら会いたいよ、やっぱり。辛い思い出や悲しい思い出が多いけど、楽しい思い出もある。厳しい人だったけれど、それでもボクにとっては優しいお父さんだったから・・・・・・・」

 

「そっか・・・・・・。ゴメンな、いきなり訊いちゃって・・・・」

 

俺がそう言うと美羽は首を横に振った。

 

「ううん、気にしないで。・・・・朱乃さんと朱乃さんのお父さんのことだよね?」

 

「ああ」

 

美羽は俺の意図が分かっていたらしい。

流石に鋭いな。

 

「美羽から見て、バラキエルさんはどう思う? 堕天使とかそんなのは抜きにしてだ」

 

「そうだね・・・・・。優しい人、だと思うよ。とても朱乃さんのことを想っているのが伝わってくる。・・・・・朱乃さんにもそれは伝わっていると思う。お母さんのことも理解してるはずだよ」

 

俺は少し驚いた。

 

美羽は朱乃さんのお母さん、つまり朱璃さんのことを知っているようだった。

 

「どこで朱璃さんのことを?」

 

「リアスさんから聞いたの。お兄ちゃんも知ってたんだね」

 

「ああ。俺はアザゼル先生からな」

 

なるほど、部長から聞いたのか。

確かに部長なら朱乃さんのことを把握しているはずだもんな。

 

美羽も朱乃さんとバラキエルさんのことが気になってたってことか。

 

美羽が話を続ける。

 

「朱乃さんは素直になれないだけなんじゃないかな? 心の中では昔みたいに戻りたい、だけど素直になれないせいで、お父さんを拒絶してしまう。だから余計に心を開けなくなっている。そんな感じがするんだ」

 

・・・・・・・

 

なんと言うか、やっぱり美羽はすげぇな。

朱乃さんのことを良く見ている。

下手したら俺よりも人を見抜く力があるのかもしれない。

 

「あ、でも、ボクが勝手に思ってることだから本当にそうとは限らないよ?」

 

美羽がお茶を飲みながら言う。

 

「いや、案外、美羽の言う通りかもしれないぜ?」

 

アザゼル先生と言ってたように、朱乃さんは堕天使を受け入れつつある。

それを考えれば美羽の言っていることも正しいのかもしれない。

 

お互いの本当の気持ちを伝える機会さえあれば・・・・・・

 

まぁ、そこが一番難しいんだけどね。

 

「さて、どうしたもんかね・・・・・」

 

そう呟いてお茶を飲む。

 

 

その時だった――――

 

 

 

「「――――――!!」」

 

俺と美羽は顔を見合わせる。

 

「ねぇ、今のって・・・・・」

 

「ああ。何か大きい力が現れたな。英雄派・・・・・じゃないな。この気は人間のものじゃない」

 

かと言って悪魔でも堕天使でも天使でもない。

俺が知っている中で一番近い者があるとすれば・・・・・・

 

オーディンの爺さん。

 

だけど、この気は爺さんのものじゃない。

だとすれば、今のはいったい・・・・・・?

 

左手の甲に宝玉が現れる。

 

『相棒、気を付けろ。今現れたのは―――――神だ』

 

神・・・・・

 

なるほど、どうりで。

 

並のやつならここまで大きな力は持ってないだろうからな。

神と言われれば納得だ。

 

なんで、神がこんなところに?

 

『この気配から察するに相手は北欧の神の一角、ロキだろう。奴がこの地を訪れた理由は考えずとも出てくるだろう?』

 

オーディンの爺さんか・・・・

 

『そうだ。先日、オーディンは厄介な者に自身のやり方を非難されていると言っていた。恐らく―――――』

 

なるほどね・・・・

そういうことかよ。

 

とりあえず、会いに行くか?

 

『それならば、ティアマットを呼んでおけ。今の相棒が奴の相手をするには荷が重い』

 

了解だ。

 

俺は召喚用の魔法陣を開いてティアを呼び出す。

 

魔法陣が光輝き、ティアが姿を現した。

 

「急に呼び出して悪いな」

 

「気にするな。それで私を呼び出した理由は―――――なるほど、そう言うことか」

 

ティアは窓から空を見上げて目を細める。

俺が言う前に神の気配を感じ取ったようだ。

 

「神が現れたか・・・・・。しかも、この感じ。ロキか・・・・・。だとしたら厄介だな」

 

ティアはそのまま何やら呟いた。

 

ティアが窓を開けてこちらを向く。

 

「行こうか。放っておくのはマズいかもしれん」

 

 

 

 

 

 

ティアに促され、外に出た俺は悪魔の翼を広げて上空を目指す。

 

後ろにはティアと美羽が続いていた。

 

俺は飛びながら美羽に言う。

 

「おまえまで来る必要はなかったんだぞ?」

 

「二人だけを危険な目に合わせられないよ!」

 

「危険って・・・・・。まだそうなるとは決まってないぞ?」

 

俺の意見にティアが首を横に振った。

 

「いや、美羽には来てもらった方が良いだろう。相手はロキだ。だったら美羽の力も必要になる」

 

ティアがそこまでいうのか・・・・

 

飛んでから数分。

町の遥か上空に二つの影を確認した。

 

若い男性と女性が浮遊していて、女性が男性と腕を組んでいた。

男性は黒を基調としたローブ、女性は黒いドレスを着ている。

二人とも顔立ちが良くイケメンと美女だ。

どちらも相当の実力者のようだ。

 

目の前の二人がこちらに気づいて視線を向ける。

 

男性の方が俺達を見て、笑みを浮かべた。

 

「ほう。そのオーラ、赤龍帝か。それに龍王最強と名高きティアマットまでいるとは。そこの娘は・・・・・なるほど」

 

俺達のことを知っているみたいだな。

 

ティアが尋ねる。

 

「これはこれは、北欧の悪神ロキ殿、そしてヘルヘイムの女王ヘル殿。このようなところで会うとは奇遇ですね。態々北欧からこのような町に来られたのは観光ですかな?」

 

あの男性がロキ、女性がヘルって名前なのか。

 

『そうだ。ロキは北欧の悪神と謳われる狡猾の神だ。そしてヘルはその娘。北欧における死者の国、ヘルヘイムを治めている。どちらも強大な力を持った神だ。相棒でも真正面からやり合うのは難しい。ティアマットを呼んだのは正解だったな』

 

マジか。

そんなヤバイ奴が二人も現れたってのかよ。

 

ティアの問いにロキが答える。

 

「残念ながら観光ではない。我らはこの地を訪れている主神オーディンに物申しに来たのだよ」

 

「なるほど、オーディン殿に文句を言っていたのはあなただったのですね」

 

「そういうことだ。我らが主神殿が、北欧から抜け出て他の神話体系に接触しているのが耐えがたい苦痛でね」

 

そう言うとロキは体から黒いオーラを発する。

 

「物申しに来た、ですか・・・・・。話し合いをするにしては纏うものが穏やかではありませんね」

 

ティアの言葉にロキは口の端を吊り上げた。

 

「話し合いだと? 我らは端からそのつもりはない。オーディンの首を取るつもりでここに来ている」

 

こいつ・・・・!

オーディンの爺さんを殺す気で来てやがるのか!

 

そんなことすれば大騒ぎなんてもんじゃなくなるぞ!?

分かって言ってるのかよ!?

 

その言葉を聞いてティアのオーラが変化した。

 

「なるほど・・・・『神々の黄昏(ラグナロク)』を迎えるのが貴様の悲願だったな。だが、そんなことをさせると思うか?」

 

「龍王が三大勢力の肩を持つと?」

 

「私は今の生活に満足している。それを乱されるのが許せんだけだ。私の生活を乱そうとするならば、神である貴様にも牙を向けるぞ」

 

ティアがその身に濃密なオーラを纏ってロキを睨み付ける。

 

「面白い。ならばオーディンを屠る前に貴殿らを相手にするとしよう」

 

ロキとヘルが禍々しいオーラを纏った。

 

離れているのに肌をビリビリと刺激してきやがる。

これが神か・・・・・。

 

俺も即座に鎧を纏って、戦闘体勢に入る。

相手は神だ。

油断は出来ない。

 

「美羽、おまえは町に被害がいかないように結界を頼む」

 

「分かった」

 

美羽は手元に魔法陣を展開すると、俺達を囲むように結界が広がった。

ひとまず、これで町の人に気付かれることはないし、被害がいくこともないだろう。

 

といっても、相手は神クラス二人だ。

俺達が本気を出してしまえば美羽の結界は砕け散る。

 

家を出る前にアザゼル先生に報告を入れておいたからもうすぐ来るはずだ。

追い払うのは無理でも援軍が来るまでなら保つだろう。

 

「イッセー、おまえはロキをやれ。私はヘルを相手する」

 

男の方をやれってことね。

俺は頷く。

 

「了解だ。気をつけろよ、ティア」

 

「フッ、誰に言っている。・・・では、行こうか」

 

そう言って、俺はロキ、ティアがヘルの前に立つ。

 

それを見てロキが言う。

 

「私の相手は赤龍帝か。相当の実力を持っているようだが・・・・。貴殿一人で我に届くとでも?」

 

「さぁな。俺としては事を荒立てたくないから、あんた達にはこのまま帰ってほしいんだけど・・・・」

 

「そうはいかん。我の目的を達するまではな」

 

「そうかよ。だったら、強制的にお帰り願うぜ!」

 

 

ドンッ!!

 

 

俺の体から赤いオーラが噴き出す。

 

「神が相手なんだ。出し惜しみは無しだ」

 

オーラがどんどん激しくなり、バチッバチチッと火花を散らす。

それに合わせて鎧が通常の物から進化していく。

 

禁手(バランス・ブレイカー)第二階層(ツヴァイセ・ファーゼ)――――――天武(ゼノン)!!!」

 

鎧の各所にブースターが増設されて、格闘戦に特化した形態となる。

 

ロキはこの形態を見て少し感心しているようだった。

 

「それが貴殿の力か。歴代の赤龍帝を何度か見たことがあるが、そのどれとも当てはまらない。流石に我の前に立とうとするだけはある!」

 

この形態を見ても余裕の表情だな、こいつ。

 

だったら、その余裕を無くさせてやるまでだ!

いくぜ、ドライグ!!

 

『だが、むやみやたらと突っ込むなよ? ロキは魔術に秀でている神だ。どんな術を使ってくるか分からんぞ』

 

ドライグの忠告を聞きつつも倍増をスタート!

 

『Accel Booster!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

一瞬の倍増!

高められた力が俺の体を駆け巡る!!

 

全身のブースターからオーラが噴出され、そのままロキ目掛けて飛翔する!!

正直、右腕が使えない分、格闘戦は辛いところがあるけど、まずは軽く拳を交えてみる!

 

「おおおおおおおおおっ!!!」

 

左の拳を振りかぶり、とりあえず一撃目!

 

拳がロキの顔面に届く前に障壁のようなものが展開され、俺の攻撃を阻んだ。

ロキの魔法か!

 

でも、これくらいなら破れる!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!』

 

ブースターから噴射されるオーラが増して拳の威力を高めていく!

 

そして―――――

 

俺の攻撃に耐えかねたロキの障壁にヒビが入る。

 

「軽くやってこれか。よもや我の障壁を崩すとは。だが、甘い」

 

ロキがそう言うと、俺を囲むようにあたり一面に魔法陣が展開された。

そして、魔法陣からは鎖のようなものが伸びてきた!

 

俺の動きを止めようってのか!

 

俺は咄嗟にその場を離れるが、大量の鎖は俺を追いかけてくる。

それをさらに避けても、鎖は大きなカーブを描いて俺のところに戻ってきた。

 

追尾機能もあるのかよ!

 

「その鎖から逃れられると思うな。貴殿をどこまでも追いかけて、締め上げるぞ」

 

ちぃ!

早速厄介なやつを出してきたな!

だったら撃ち落とすまでだ!

左手を後方に突出し、気を集中させる。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!』

 

「アグニッ!!」

 

放たれる極大の気の奔流。

 

それは俺を追いかけていた大量の鎖を包み込み、全て消滅させた。

 

そして、俺が放ったアグニはそのままロキの方へと突き進む。

しかし、ロキの展開した障壁によって軽々と防がれてしまった。

 

まぁ、今のくらいじゃあいつには届かないよな。

 

「フフフ、今代の赤龍帝。流石に今の程度なら対処できるか」

 

「舐めんなよ。あれくらいでやられるかっての」

 

「いや、貴殿を侮ってなどいない。むしろ、その逆だ。貴殿は警戒すべき人物だからな。・・・・・ではこれならどうだろうか?」

 

ロキはそう言うと手元に一つの魔法陣を展開した。

 

召喚用か・・・・・?

一体何を―――――

 

ロキの手元に現れたのは一振りの剣。

柄から刀身まで真黒な両刃の剣が現れた。

 

「――――いくぞ」

 

ロキは剣を握った次の瞬間―――――

 

俺との間合いを一瞬で詰めてきた。

 

「なっ!?」

 

俺は驚きながらも咄嗟に上体を後ろに反らし、斬戟を回避する。

 

しかし、避けたと思えば、ロキは剣を逆手にして更に斬りかかってきた!

 

「ほらほら、どうした? 隙だらけだぞ」

 

ロキは笑みを浮かべながら高速で剣を振るってくる。

 

クソッ!

こいつ、格闘戦もこなせんのかよ!

 

とにかく、今は崩れた体勢を立て直さないと、やられる!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!』

 

全身のブースターからオーラを噴出させて、全力で後方に下がろうとするが、その度にロキに間合いを詰められる。

恐らく、行動する瞬間に何かしらの魔法を使ってやがるな・・・・。

 

それなら―――――――

 

俺は錬環勁気功を発動する。

気による残像を作りだし、ロキの認識を僅かにずらす。

 

こいつは目で俺の動きを追っているそれなら――――

 

すると、ロキの剣は残像を捉えて空を切った。

 

思った通りか。

 

「ほう・・・。我から逃げ切るとは。やるではないか」

 

「そりゃどーも。・・・・なぁ、その剣はなんなんだ? かなりヤバそうに感じるだけど」

 

俺が尋ねると、ロキは手に持った剣を俺に見せつけるかのように天に掲げた。

 

「楽しませてくれている礼だ。特別に答えてやろう。この剣は我が創り出し神剣レーヴァテイン!! これに斬られたものはレーヴァテインの炎によってすべて燃やし尽くされる!」

 

すると、ロキが手にしている剣、レーヴァテインから炎の渦が生み出された。

かなりの熱量だ。

 

神剣レーヴァテイン。

俺が持ってるイグニスみたいなもんか。

 

『剣の力としてはイグニスの方が遙かに上だろう。だが、あの剣も十分危険だ』

 

だな。

斬られたらダメージは免れないな。

 

北欧の魔術に神剣。

更にはそれを駆使する戦闘技術。

 

正直、今の俺では勝つのはキツイな。

万全の状態でも難しい。

 

せめて、あと一人。

あと一人、俺と同レベルの奴がいれば―――――

 

見れば、ティアはヘルの相手をしてるし、美羽も町に被害が出ないよう結界を維持するので精一杯だ。

 

ここは俺が何とかして持ちこたえるしかないな。

 

天撃(エクリプス)を使いたいところだけど、場所が悪すぎる。

下手したら美羽の結界を壊してしまうだろうし、そうなれば町の人たちにも気づかれる。

イグニスも当然使えない。

 

アスカロンは――――――――ゼノヴィアに貸しっぱなしだ。

最後に使ったのって、美猴と戦った時だっけ?

 

まいったね。

 

ロキが口を開く。

 

「何やら考え事をしているところ悪いが、我はそろそろオーディンの首を取りに行きたいのでな。貴殿との戦い、ここで終わらせるのは惜しいが、仕方があるまい」

 

ロキは再び召喚用の魔法陣を展開する。

 

なんだ?

次は何を呼び出すつもりなんだ?

 

「貴殿に紹介しよう。我が息子を」

 

息子?

娘の次は息子かよ・・・・

 

魔法陣が輝き、そこから灰色の何かが現れた。

あれは・・・・・・狼か?

 

かなりデカいな。

十メートル以上はある。

 

狼の赤い相貌が俺を捉えた。

 

 

ぞくっ・・・・・

 

 

身体中に悪寒が走った。

それだけで、あの狼の危険性が分かる。

あいつはヤバい。

ロキやヘルよりも遥かに危険な感じがする。

 

なんだ、あの狼は・・・・・・?

 

神喰狼(フェンリル)だと!? イッセー、美羽、奴には近づくな!」

 

普段、冷静なティアが焦りの表情で叫ぶ。

 

「あの狼は何なんだよ!? かなりヤバいのは見て分かるけど・・・」

 

ティアはヘルと魔法合戦を行いながら教えてくれた。

 

「あいつはロキが生み出した最悪最大の魔物の一匹だ! あいつの牙は神を確実に殺すことが出来る! あいつに噛まれたら、いくらおまえでもやられるぞ!」

 

「「―――――ッ!?」」

 

俺と美羽はその情報に驚愕した。

 

神を確実に殺す牙!?

そこまでヤバいのかよ!?

 

ロキの野郎、なんつーもんを召喚しやがる!

 

『やつは全盛期の俺でも手こずるレベル、天龍に準ずる力を持つ。これまでの敵とは訳が違う。やつからいったん距離を置いた方が良い』

 

地上最強の二天龍とまで称されたドライグがそこまで言うのか・・・・・

 

ロキがフェンリルを撫でる。

 

「その通り。息子の牙で噛まれた者はたとえ神であろうと死に至る。貴殿とて容易に屠ることができる。貴殿らはここで死ぬのだ」

 

クソッ・・・・!

ロキとヘルだけでも手が一杯なのに・・・・!

 

どうする?

どうすれば、この状況を切り抜けられる?

 

俺が頭をフル回転させて、現状の突破口を探っているとロキが笑みを浮かべた。

 

「まずはそこの娘。じつに面白い力を持っているではないか。それを食らえばフェンリルの糧となる、か?」

 

な、何・・・!?

 

ロキがスーッと指先を美羽に向ける。

そして、一言。

 

「――――――――やれ」

 

 

『オオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオンッッ!!!』

 

 

闇の夜空で灰色の狼が透き通るほどの遠吠えをした。

そして、その赤い相貌が美羽に向けられる。

その瞬間、眼前の狼が俺の視界から消えた―――――。

 

くそったれ!

そうはさせるかよ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Ignition Booster!!!!』

 

一瞬の倍加と共に全身のブースターからオーラを噴出して、フェンリルの先に回る!

 

 

「あいつに触んじゃねぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!」

 

俺は美羽の前に立ち、突っ込んでくるフェンリルの顔面を渾身の左ストレートで殴り飛ばす!!

拳がフェンリルの顔に命中するが、ここから更に力を上げる!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

ドガァァァァァァァァァアン!!!!!

 

 

激しい衝撃が上空を揺るがし、美羽の張っていた結界までも破壊してしまった。

 

「美羽! 無事か!?」

 

「う、うん・・・お兄ちゃんが守ってくれたから・・・・」

 

「そうか・・・・。良かった・・・・」

 

危なかった。

あと一瞬でも遅れれば―――――

 

フェンリルは殴られた衝撃でロキのところまで飛んでいくと、見事な着地を決めていた。

流石は最悪最大の魔物。

顔から血を流しているが思ったよりダメージは少ない。

それでも、動きを止めるくらいにはダメージを与えられたか。

 

だが―――――

 

 

「ごぶっ」

 

 

俺は口から血を吐き出す。

腹部を見れば、鎧には大きな穴。

 

そう、俺が拳を繰り出した瞬間にあの狼もそれに合わせてその大きな爪で俺の腹を抉ったんだ。

ったく、あのスピードに合わせるとかとんでもねぇな・・・・・。

 

あまりの激痛に体がよろめく。

体勢を崩した俺を美羽が支えてくれた。

 

「お兄ちゃん!? しっかりして! 今、治療するから!」

 

美羽が手元に魔法陣を展開して俺の腹部に手を当てる。

 

だけど、ロキはそれをさせまいとフェンリルに指示を出す。

 

「回復か。そうはさせん。赤龍帝はフェンリルに追い付くばかりかダメージを与えた。恐るべきことだ。今のうちに始末するに限る。―――――フェンリル」

 

この状態で襲われたら、次は間違いなくやられる!

そうなれば美羽もあいつに殺されてしまう!

 

「イッセーはやらせん!!」

 

ティアが俺を守ろうとフェンリルに攻撃を仕掛けようとする。

しかし、ヘルが間に入ってそれを阻止する。

 

「行かせると思って? お父様の邪魔はさせませんわ」

 

「くっ!! そこをどけぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」

 

マズい!

 

ティアがヘルに足止めされている以上、俺が何とかするしかねぇ!

 

美羽は何が何でも守ると決めた。

こいつはやらせない!

 

 

 

『覇を使え』

 

 

 

頭に男の声が聞こえた。

ドライグの声じゃない。

 

これは―――――

 

『覇を使えばその娘も守れる。さぁ、唱えよう』

 

歴代の赤龍帝か・・・・!

こんな時に!

 

うるせぇ!

黙ってろ!

 

『何を言う。貴様は誓ったのだろう? その娘を守ると。今のままで奴らを退けられると思っているのか?』

 

それでもだ!

覇龍を使ったら奴らは倒せるだろうけどな、守りたいものまで傷つけてしまうような力なら俺は絶対に使わねぇ!!

 

 

「これなら!」

 

美羽がフェンリルを囲むように魔法陣を展開すると、そこから光の槍が無数に飛び出してフェンリルに突き刺さる。

だけど、あれじゃあフェンリルは止められない!

 

フェンリルは自分に向かってくる槍を前足ですべて薙ぎ払う。

 

「まだだよ!」

 

美羽はフェンリルの足元に巨大な魔法陣を展開させる。

魔法陣には六芒星が描かれていて、それはフェンリルが中央に立ったと同時に激しく輝いた!!!

 

魔法陣から発せられた光はフェンリルを覆い尽くすと天まで伸びる光の柱となった。

 

「これで少しは時間を稼げるはず! 今のうちに治療を!」

 

美羽の狙いは時間を稼ぐことか。

美羽も自分の力ではフェンリルを止められないことは分かってたんだな。

 

確かに俺が回復できれば、もう少しだけなら何とかなるはずだ。

 

美羽の掌が俺の腹部に再び当てれられ、傷を癒していく。

 

「アーシアさんほどの治療は出来ないから、応急処置にしかならないけど今はこれで!」

 

「ああ、ありがとう、美羽」

 

よし、このまま傷がある程度塞がってくれれば・・・・・

 

 

しかし―――――

 

 

突然、フェンリルを封じていた光の柱が砕け散った。

 

「フェンリルの動きを止めるとは驚いたぞ。見たこともない魔法だ。やはり、貴殿が・・・・・」

 

見ればロキがレーヴァテインで魔法陣を破壊していた。

 

やられた・・・・!

もう少しだったのに・・・!

 

ロキは俺達にレーヴァテインの切先を向ける。

 

「案ずるな。楽に死なせてやろう」

 

二ィと笑みを浮かべるロキ。

 

俺は中途半端に傷が塞がった状態で立ち上がり、美羽を押しのける。

 

「美羽、少し下がってろ」

 

「ダメだよ! そんな傷で動いたら・・・・・!」

 

美羽は俺を制止しようとするが、俺はそれを聞き入れなかった。

 

左腕を突出し、その名を呼ぶ。

 

「来い、イグニス」

 

手元に赤い粒子が集まり、一つの剣を作り出す。

それは巨大な片刃の剣。

俺の右腕を焼いた剣だ。

 

こいつを使うってことは左腕を失うことになるだろう。

でも、ここで生き残るにはイグニスの力を借りるしかねぇ。

イグニスの召喚によって周囲の温度が急激に上昇する。

 

「!? その剣は一体!?」

 

初めてロキが驚愕したな。

 

まぁ、こいつについて教える余裕なんて俺にはない。

 

俺はイグニスを振りかぶりロキに斬りかかろうとした。

その時だった。

 

 

「イッセー、そいつは使うな!」

 

 

どこからか聞こえる声。

 

それと同時に無数の光の槍、雷光、滅びの魔力、聖なるオーラがロキとフェンリルに襲いかかった。

その攻撃が放たれた方向を確認すると、オカ研メンバーにアザゼル先生、バラキエルさん、ロスヴァイセさんにオーディンの爺さんが駆けつけてくれていた。

 

皆の登場でロキ達の動きも止まり、ティアと戦闘を行っていたヘルもロキのところに合流していた。

 

先生とバラキエルさんが黒い翼を羽ばたかせて、俺の横に寄って来た。

 

「すまん、遅くなった。アーシア、イッセーを治療してやってくれ!」

 

「はい! 美羽さん、イッセーさんを!」

 

「うん!」

 

俺は美羽に抱えられ、アーシアの元に運ばれた。

今のアーシアなら遠距離からの治療も可能だけど、一旦俺を後退させる意味もあるんだろうな。

 

先生が怒気を含んだ声で言う。

 

「よう、ロキ。よくも俺の生徒をやってくれたな。おまえがここに来た目的は聞かなくても分かってる。オーディンの爺さんの首だろ?」

 

「これはこれは堕天使の総督殿。いかにも。我の目的はオーディンの首。他の神話勢と和議を結ぼうなどと愚かな考えを持つ主神を粛清しに来たのだ。貴殿らにも我が粛清を受けてもらおう」

 

「そのためにフェンリルまで呼ぶとはな。しかも人間界に。正気の沙汰とは思えんね」

 

「我は目的のためなら手段は選ばん。オーディンよ、今一度だけ聞く! まだこのような愚かなことを続けるおつもりか!」

 

ロキはオーディンの爺さんの方に視線を移して尋ねる。

 

爺さんは部長達の前に立ち、顎の長い白髭をさすりながら言った。

 

「そうじゃよ。少なくともお主らよりもサーゼクスやアザゼルと話していたほうが万倍も楽しいわい。だいたいのぉ、黄昏の先にあるのは終末。つまりは滅びじゃ。それを自ら引き起こそうとするなど、それこそ愚かな行為じゃと思わんか?」

 

それを聞いたロキのオーラが変質した。

明らかな殺意が爺さんへと向けられる。

 

「了解した。・・・・・我は止まらん。ここで貴様を殺し、黄昏を行うとしよう。いかにオーディンがいるとはいえ、フェンリルがいては前に出てこれまい」

 

その言葉に同調するように、ヘルとフェンリルからも凄まじいプレッシャーが放たれる。

 

ロキとヘルはともかくフェンリルがヤバすぎる。

 

一度、戦ってみて分かった。

あいつはこの場にいるメンバーだけじゃ止められない。

フェンリルを止めるならまだ戦力が足りない。

 

 

すると―――――

 

 

「悪いが、兵藤一誠をやらせる訳にはいかないな」

 

 

俺達の前に白銀が舞い降りる。

 

 

「やぁ、兵藤一誠。無事か?」

 

「ヴァーリ!?」

 

俺達の前に現れたのは白龍皇ヴァーリ。

旧魔王派との一件以来だ。

 

「おうおう、よくもその出血で動けるねぃ。やっぱり赤龍帝は色々おかしいぜぃ」

 

横から金色の雲に乗って出てきたのは美猴だった。

 

「うるせーよ。今にも倒れそうなんだよ、俺は。もう少し気遣え」

 

美羽とアーシアの治療で傷は塞がりつつあるとは言え、流した血の量は多い。

今にも気を失いそうだ。

 

俺がそう言うと美猴はケラケラと笑う。

 

「そんなこと言う元気があるんなら、気遣う必要もないと思うぜぃ?」

 

うーん、腹立つ!

ロキの前にこいつを倒しちゃおうか!

 

って、そんなことよりも何でこいつらがここにいるんだ?

 

「―――――! 白龍皇か!」

 

ロキがヴァーリの登場に嬉々として笑んだ。

 

「始めましてだな。悪神ロキ殿。俺は白龍皇ヴァーリ。―――――貴殿を屠りに来た」

 

「白龍皇が赤龍帝の味方をするか」

 

「彼、赤龍帝の兵藤一誠を倒すのはこの俺だ。他の者に横取りされるのは気にくわないのさ」

 

ヴァーリの答えにロキは口の端を吊り上げる。

 

「ふはははははは! なるほど! 実に面白い! まさかこんなところで二天龍を見られるとは思わなかったぞ!! ――――今日は引き下がるとしよう」

 

ロキがそう言うとヘルが尋ねた。

 

「よろしいのですか?」

 

「流石に白龍皇まで来られてはこちらも不利だ。赤龍帝も回復しつつある。この場は一時退くとする」

 

ロキがマントを翻すと、空間が歪みだし、ロキとヘル、フェンリルを包み込んだ。

 

「だが、この国の神々との会談の日! またお邪魔させてもらう! オーディンよ、次こそはその喉笛を噛みきってみせよう!」

 

そう言い残すと、ロキ達は姿を消した。

それを確認したと同時に俺も意識を失った。

 

 

 

 

 

 

気づくと、俺はオーディンの爺さんが移動するときに乗っている馬車の中で横になっていた。

 

あー、失血で気を失ったのか。

 

「気が付いた?」

 

声がした方を見ると、美羽とアーシア、小猫ちゃんがいて俺を治療してくれているところだった。

温かい緑色のオーラが俺を包み、腹部の痛みを消してくれていた。

小猫ちゃんも俺の体に手を当てて気の巡りを良くしてくれている。

自然治癒能力を高めてくれているんだ。

 

「三人とも、ありがとう。俺はもう大丈夫だ」

 

俺は上体を起こして三人にお礼を言う。

すると、三人は涙ぐんだ。

 

「もう! 心配したんだから!」

 

「イッセーさん! 良かった!」

 

「・・・・・先輩、無茶しないでください」

 

ガバッと三人が抱きついてきた。

 

あははは・・・・・

また心配かけちまったな。

俺って毎回同じことを繰り返しているような気がする。

 

俺は三人の頭を撫でてやる。

 

「心配かけてごめんな」

 

さて、俺のケガも治ったことだし、あいつにも礼を言わないとな。

 

俺は三人を連れて馬車を出た。

 

馬車は既に地上に降りていて、場所は駒王学園旧校舎の前にある小さな広場だった。

夜間のため、人の気配はない。

それでも、念のためだろう、周囲には何やら結界が張られていた。

 

部長達が集まっている場所に歩を進める。

そこには部長や先生、オーディンの爺さん以外にもメンバーがいた。

 

ヴァーリとその仲間。

美猴と黒歌、それからアーサーがいた。

 

俺に気付いたヴァーリが声をかけてきた。

 

「気が付いたか、兵藤一誠。傷の具合はどうだ?」

 

「ああ。お陰さまで今は完全に塞がっている。ありがとな、ヴァーリ。あの時、おまえが来てくれなかったら誰かが死んでいた」

 

「気にするな。言っただろう? 君を倒すのは俺だと。あんなところで死なれては俺が困るのさ」

 

ヴァーリは笑みを浮かべながらそう返してくる。

 

どんだけ俺と闘いたいんだよ、こいつ!

 

まぁ、何にしてもヴァーリのお陰で助かったのも事実だ。

ここは素直に感謝しておこう。

 

先生がヴァーリに声をかける。

 

「イッセーの無事も確認できたことだし、話を戻すぞ。ヴァーリ、なぜ、ここに現れた?」

 

「心配するなアザゼル。そちらに害を及ぼす気はないさ」

 

「答えになってないぞ」

 

先生の言葉にヴァーリは苦笑する。

そして、俺達を見渡してから言った。

 

「そちらはオーディンの会談を成功させるために、何としてでもロキを撃退したい。そうだろう?」

 

その問いに先生が答える。

 

「ああ、そうだ。だが、このメンバーだけではロキとヘル、そしてフェンリルを退けるのは至難の技だ。英雄派のテロ活動のせいで、どこの勢力も大騒ぎ。とてもじゃないが、こちらにこれ以上人員を割くことは出来ん」

 

「だろうな」

 

・・・・・・はぁ。

テロが横行してるこの時期に厄介な奴等が現れたもんだ。

しかも相手は神クラス。

面倒なんてレベルじゃないぞ。

 

「それで? おまえはこの後、どうするつもりなんだ? おまえがロキ達を倒すのか?」

 

先生の問いにヴァーリは肩をすくめる。

 

「そうしたいところだが、今の俺にやつらを同時に相手するのは不可能だ。フェンリルだけでも厄介だと言うのに」

 

まぁ、そうだろうな。

いくらヴァーリが強いと言ってもあのレベルを相手にするのはな・・・・・

 

俺が万全の状態だったとしても無理だ。

一人一人のレベルが高すぎる。

 

 

「―――――だが、二天龍が手を組めばそれも不可能じゃない」

 

 

『!?』

 

 

その言葉にこの場にいる全員が驚愕した!

だって、そうだろう!

 

こいつが言ってることは―――――

 

 

「今回の一戦、俺は兵藤一誠と共闘しても良いと言っている」

 

 

 


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