次話も書きはじめているので、もう少し早く投稿できるかと思います。
オーディンの爺さんと再会した次の日のこと。
俺達グレモリー眷属は グレモリー家主催のイベントに主役として参加していた。
そのイベントとは『おっぱいドラゴン』関連のもので、いわゆる握手会と言うやつだ。
俺の目の前には長蛇の列が出来ていて、ほとんどが冥界の子供達だ。
「今日は来てくれてありがとう」
と、子供一人一人にサイン色紙を渡して、握手をしていく。
本当は俺が書いたサイン色紙を渡す予定だったけど、俺の腕が使えないこともあって、代わりの人が書いてくれたんだ。
今日来てくれた子供達には申し訳ないと思いながらも握手をする。
すると、子供達は満面の笑みを浮かべるんだ。
「おっぱいドラゴン! 頑張ってね!」
うん。
この言葉が聞けただけで、イベントに参加して良かったと思えるよ。
子供達の中には「変身して!」とか「ゼノンになって!」とかお願いしてくる子もいたので、俺はその要望に答えてあげている。
まぁ、それで笑顔が見れるならいいよね!
他の眷属の皆も『おっぱいドラゴン』に出演しているからこの握手会に参加している。
俺の隣の席ではスイッチ姫として出演している部長が笑顔で子供達と握手をしている。
「ふふふ。最初はこの役に対して思うところがあったのだけれど、子供達の笑顔を見ているとこういうのも悪くないって思えてくるわね」
「ええ、俺もそう思います。何だかんだで、楽しんでますし」
俺と部長は笑いながら握手を続けていく。
ちらっと木場の方を見ると女の子がすげー並んでる。
木場も番組内では敵組織の幹部『ダークネスナイト・ファング』として出演しており、今もその格好をしている。
騎士の鎧を着こんだ木場は結構様になっていて、イケメンを更に引き立たせていた。
く、くそぅ!
うらやましいぞぉぉぉぉぉおお!!!
俺だって女の子にキャーキャー言われたい!
なんで木場ばかりが!
やっぱり顔なのか!?
小猫ちゃんも今は獸ルックの衣装を着て握手をしている。
かなりラブリーな姿だ。
並んでいるのは主に大きなお友達。
小猫ちゃんも『ヘルキャットちゃん』として味方役で出演している。
それにしても、小猫ちゃん、かなり丁寧に応対してるな。
うーん、プロだ。
▽
握手会を終えた俺達は楽屋のテナントへと戻っていた。
結構疲れたな。
まぁ、楽しかったけどね。
俺は腰を伸ばしてストレッチする。
基本、椅子に座りっぱなしだったから体のあちこちが変な感じだ。
そこへスタッフが近づいてきた。
「イッセーさま、お疲れさまですわ」
タオルを持ってきてくれたのは縦ロールヘアが特徴の女の子。
「おー、サンキューな。レイヴェル」
そう、その女の子はライザーの妹であるレイヴェル・フェニックスだ。
彼女がここにいるのは、なんでも今回のイベントのことを知ってアシスタントを申し出てきたらしい。
人手も足りなかったので、イベント責任者が即OKを出したところ、テキパキと仕事をこなしていったそうだ。
俺も分からないことをレイヴェルに聞いたりして結構世話になったんだよね。
正直、そこまで仕事が出来るとは思ってなかったから驚いているところだ。
「いやー、今回はレイヴェルがいてくれて助かったよ」
「い、いえ! 私は当然のことをしたまでですわ!」
顔を赤くしているところを見ると照れてるのかな?
うーん、可愛いな。
「それにしても、子供達は皆、イッセー様に夢中でしたわね」
「ああ。子供達に夢を与える仕事って良いもんだなって思えたよ」
「はい。とても素晴らしい仕事だと思いますわ」
最初はサーゼクスさんやアザゼル先生に頼まれたからってのもあった。
でもさ、子供達と触れ合ってみて真剣にヒーローやってみようかなって思えたんだ。
だから、今後もおっぱいドラゴンを続けてみようかと思う。
俺なんかが、子供達に夢と希望を与えることが出来るのなら。
「イッセー、そろそろ人間界に帰るわよ」
部長が楽屋テントへ入ってきた。
もうそんな時間か。
今日はこの後、オーディンの爺さんの護衛だったな。
あの爺さん、キャバクラ行くわ、おっぱいパブにも行くわ、道端のお姉さんをナンパするわでやりたい放題だから、疲れるんだよね。
上司で苦労しているという点で、レイナとロスヴァイセさんが愚痴を言い合っていたような・・・・・
二人とも互いを励まし合っていたのを良く覚えている。
なんとも言えない光景だった・・・・・・。
「了解です。レイヴェル、今後もこういうイベントがあると思うんだけど、その時はまた助けてくれないかな? 俺って冥界のことで知らないことも結構あるからさ」
「は、はい! 私でよろしければいつでも駆け付けますわ」
「ありがとう、レイヴェル」
俺はレイヴェルと握手を交わした後、部長達と共に人間界に帰っていった。
▽
冥界でのイベントを終え、オーディンの爺さんの日本観光に付き合った後。
「ハァッ!」
ギイィィィィン!!
ゼノヴィアが振り下ろしたデュランダルと木場が作り出した二本の聖魔剣が激突し、激しい金属音を周囲に響かせている。
鍔迫り合いは不利と見た木場は一旦後ろに下がる。
今の一撃で刀身にヒビが入った聖魔剣を捨て、木場は新たに聖魔剣を二振り作り出した。
兵藤家の地下にあるトレーニングルーム。
そこで、木場とゼノヴィアが互いの剣をぶつけ合っていた。
現在、家に住むオカ研メンバーは各自、修行に打ち込んでいた。
部長や朱乃さんは魔力方面、イリナとレイナは光力といったようにそれぞれに与えられた課題をこなしており、アーシアやギャスパーも神器をより扱えるようにアザゼル先生が作成したメニューを基に取り組んでいる。
ちなみに小猫ちゃんは俺が与えた気を扱う修行メニューをこなしている。
俺は美羽に少し修行に付き合ってもらった後で、今は皆の監督役だ。
・・・・・それにしても、木場のやつ速くなったなぁ。
それも直線で速いだけじゃなくて、ジグザグと方向を変えながらもそのスピードを維持できているところがすごい。
木場の相手をしているゼノヴィアも木場のスピードに翻弄されて、手数が少なくなってきているようだ。
ゼノヴィアも『騎士』だからそこそこのスピードはあるんだけど、木場と比べるとやはり劣る。
更にはテクニックの面でも木場が優位に立っているから、デュランダルの強大なパワーで薙ぎ倒していくスタイルのゼノヴィアには木場はかなり相性が悪い。
だからと言って木場が一方的かと言われると、そうではない。
ゼノヴィアだって日々の修行で強くなってきている。
その証拠に手数は減っているものの、木場の攻撃を紙一重で交わしている。
避けられない攻撃についてはデュランダルの刀身で受けて、そのまま木場を弾き飛ばしている。
そのため、木場もゼノヴィアに有効打を与えられないでいた。
ゼノヴィアもテクニック方面が良くなってきていることが分かる。
・・・・まぁ、結局、パワーでゴリ押しになるのは変わらないけどね。
現段階だと、総合的に見て木場の方が上かな?
何回か模擬戦をやってるけど、最終的には木場が勝ってるしな。
俺がそんな風に二人の模擬戦を見ていると、ぜノヴィアは木場との距離が空いた一瞬を狙って、デュランダルを床に突き刺した。
何をするつもりだ?
その行為に木場も俺同様に怪訝な表情を浮かべていた。
すると、ゼノヴィアが叫ぶ。
「やられっぱなしは性に合わん! いかせてもらうぞ!」
ゼノヴィアがそう叫ぶと、足元からゼノヴィアを丸く囲むように光が漏れだした!
そして、その光は強くなっていき、ゼノヴィアを中心に広がっていった!
ドドドドドドドドドドドドッ!!
広がっていく眩い光は床を抉っていき、ゼノヴィアに迫っていた足場を失った木場はそのまま弾き飛ばされた!
光が止み、残ったのはゼノヴィアを中心にした破壊の波紋。
「ゲホッ ゲホッ あ、危なかった・・・・・・。直撃の瞬間に聖魔剣の盾の展開が間に合ったからよかったけど・・・・・・。まさか、全方位に攻撃を仕掛けてくるなんてね」
木場は苦笑しながら言うと聖魔剣を杖にして立ち上がる。
今のはゼノヴィアを中心に全方位へと聖なるオーラの攻撃が広がる技だな。
しかも、波のように次々にと聖なるオーラが襲ってくるから、こちらから攻撃するのは難しい。
ある意味、攻防一体の技だな。
「これで一矢報いることが出来たぞ。どうだ、イッセー?」
ゼノヴィアは胸を張ってこちらにブイサインを送ってきた。
確かに今のが木場に直撃してたらヤバかったかもな。
まぁ、それなりに威力は調整してるみたいだったけど。
「お、おう。・・・・・でも、もう少し威力を抑えてくれるか? 家が壊れそうでよ・・・・」
「ん? そのことなら大丈夫だ。リアス部長からは魔王の攻撃を受けても壊れないと聞いているからな」
マジか。
この家を設計した人、すげぇな。
そういえば、アジュカさんお抱えの建築家が設計したとか部長が言っていたような・・・・・・。
何か特別な術式でも組んでいるのだろうか?
俺が感心していると、ゼノヴィアは木場に言う。
「さぁ、続けようか」
「そうだね。・・・・・・いくよ、ゼノヴィア!」
そうして、二人は模擬戦を再開した。
そこへ一つの気配が現れる。
「おー、やってるな」
声がした方を振り向けば、そこにいたのはアザゼル先生だった。
「どうしてここに?」
「美羽に聞いたら、全員ここで修行してるって聞いてな。様子を見に来たのさ。ほれ、差し入れだ。おまえの母親から渡されたものだ」
と、先生が手渡してきたのは大きめの弁当箱で、中にはおにぎりがたくさん入っていた。
どうやら母さんは全員分作ったらしい。
これ、一人で作るの大変だっただろうに。
母さんには感謝しないとな。
早速一つ頬張る。
うん、美味い。
具に明太子が入っている。
先生は俺の隣に座ると、笑った。
「おまえ達、グレモリー眷属は随分強くなったもんだな。正直、そのペースに驚かされている」
「全くです。木場には下手したら数年くらいで抜かされそうですし」
「まぁ、あいつの才能はずば抜けているからな。おまえ達の中ではトップだろうよ。他の面子も才能豊かで成長が早い。ギャスパーだって、俺が与えたメニューをこなし、少しずつではあるが神器の使いこなしつつある」
確かに、この間の英雄派との戦闘でもあいつは活躍していたしな。
ふと横を見るとギャスパーが先生が作ったという空中で浮遊する虫みたいなロボットを停止させていた。
一応、修行なんだけど、はたから見てると何とも微笑ましい光景だ。
「あいつも頑張ってるみたいですからね」
俺の言葉に先生も頷く。
「ああ。出会った頃と比べると引きこもりもマシになったしな。俺も一つもらっていいか?」
「どうぞ」
先生がおにぎりを一つ頬張る。
「お、鮭か。それでだ。ここに来た目的は修行の見物以外にもう一つあってな。おまえに朗報だ」
「朗報?」
「おまえの腕を治療する新薬を開発していてな。それがもうすぐ完成しそうなんだ」
おおっ!
マジですか!
その知らせに喜ぶ俺!
だって、もっと時間がかかるものだと思っていたしな。
「悪魔の医療機関とグリゴリで共同で開発したものだ。アジュカのやつも一枚噛んでてな。効果は期待できるだろうよ」
そう言って先生は水筒の茶を啜った。
この人がそう言うならマジで期待できるな!
冥界の皆さん、ありがとうございます!
俺、今後も冥界のために頑張ります!
あ、そうだ。
俺、先生に訊きたいことがあるんだった。
「先生。俺、訊きたいことがあるんですけど」
「朱乃とバラキエルのことだろう?」
先生は見透かしたように言った。
この人は俺が尋ねてくることをなんとなく分かってたんだろうな。
先生の問いに頷く。
「そうか・・・・・・。だが、俺から聞いたんじゃ、堕天使の総督としてバラキエルを擁護するような話ぶりになっちまうだろうな。それでも良ければ話してやる」
「はい」
俺が一言返すと、先生は息を吐いた。
そして、二人の間に何があったのか話してくれた。
▽
朱乃さんのお母さんの名前は姫島朱璃といって、とある神社の巫女をしていた。
ある日、朱璃さんがいる神社の近くに、敵対勢力に襲われて重症を負ったバラキエルさんが倒れていた。
偶然、傷付いたバラキエルさんを発見した朱璃さんはバラキエルさんを匿い、手厚く看病した。
その時、バラキエルさんと朱璃さんは親しい関係になった。
そして、朱乃さんが二人の間に産まれた。
バラキエルさんは朱乃さんと朱璃さんを置いていくわけにはいかず、近くで居を構えて、そこから堕天使の幹部として動いていたそうだ。
三人は慎ましくも幸せな日々を送っていた。
だけど、幸せは長く続かなかった・・・・・
ある日、アザゼル先生からの指示でバラキエルさんはとある任務に向かうことになった。
それはバラキエルさんにしかこなせなかった任務だそうだ。
その時だ。
朱乃さんと朱璃さんが住む家を敵対勢力が襲撃したのは・・・・・
どうやら、バラキエルさんにやられて恨みを持っていた者がバラキエルさんの不在を狙っての犯行だったそうだ。
バラキエルさんが二人の危険を察知して駆けつけたが一足遅かった。
朱乃さんは朱璃さんが命がけで庇ったおかげで助かった。
しかし、朱璃さんは敵の手によって殺害されてしまう・・・・・
▽
「その日、朱乃は俺達堕天使がどれだけ他の勢力に恨まれているのかを知ってしまってな。堕天使の幹部であるバラキエルに対して心を閉ざしてしまったのさ。・・・・・全ては俺のせいなんだよ。あの日、俺がバラキエルから妻と娘を奪った。・・・・俺はバラキエルに殺されても文句は言えない」
アザゼル先生の口調は静かなものだけど、拳を強く握っていた。
よほど、後悔しているのだろう。
先生は今でも自分を責め続けているのか・・・・・
「でも、昔はともかく今の朱乃さんなら分かってるはずですよね? バラキエルさんが悪くないのは・・・・」
「多分な。だが、頭では理解していても、まだ受け入れることができないのかもしれん」
先生はため息をつく。
「バラキエルも自分から朱乃と話をしようとしているが、また朱乃を傷つけてしまうのではないかと考えているようでな。前に進めないでいるのさ」
朱乃さんに拒絶されて、そのまま去ってしまったのはそういうことか・・・・
だけど・・・・・
俺はこれまで見てきた朱乃さんを思い出して、それを先生に伝える。
「でも、朱乃さんは少しずつ前に進んでいると思いますよ? レイナとも普通に接することが出来てますし、自分に流れる血を受け入れようともしています」
そう、朱乃さんは堕天使を受け入れつつある。
堕天使に対してのイメージもだいぶ和らいできているはずだ。
だったら、バラキエルさんのことだって受け入れることが出来るはずだ。
俺の言葉に先生も頷く。
「ああ。俺もそれは感じていた。・・・・だから、何かしらの切っ掛けがあれば昔のような関係に戻れるんじゃないかと考えてはいるんだが・・・・。俺が下手に手出しすれば二人の関係を悪化させてしまうだろう。・・・・その切っ掛けがやって来るのを待つしかないのかもしれん」
切っ掛けか・・・・・。
それが訪れるのは今すぐかもしれないし、十年後、二十年後になるかもしれない。
下手すれば、それが来ないことも考えられる。
それをただ待つってのもなぁ・・・・。
先生が俺の肩に手を置く。
「朱乃が自身の弱い部分を見せる男はおまえだけだろう。だから、その時は頼む。これはおまえにしか頼めないことなんだ」
先生は俺の目をまっすぐな目で見てきた。
そんな先生に俺は笑みを返した。
「ええ、朱乃さんは俺が守りますよ。俺に出来ることならなんでもします」
そうだよ。
俺は俺ができることをすればいいんだ。
これまでだってそうしてきた。
俺がそう言うと、先生はどこか安堵したようだった。