ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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12話 新たなる力

[木場 side]

 

僕達は一瞬、何が起こったのか分からなかった。

いや、今でもよく分からない。

 

ディオドラ・アスタロトをイッセー君が打倒し、神滅具の装置を美羽さんが破壊したことで、アーシアさんの救出が無事に終わり、この場から退避するはずだった。

 

だけど、その瞬間のイッセー君がものすごい勢いでアーシアさんを庇ったと思うと二人はまばゆい光の中に消えていった。

 

イッセー君は美羽さんに「皆を頼む」と言っていたけど正直、何のことなのか理解できていない。

 

「神滅具で作った結界が人間ごときに壊されるとはな・・・・・。霧使いめ、手を抜いたな。計画の再構築が必要だ」

 

聞き覚えのない声。

 

僕達の前に現れたのは数百を超える旧魔王派の悪魔。

ほとんどが上級悪魔と見られるが、中には最上級悪魔クラスの者も数人いた。

 

そしてその先頭に浮かぶ二人の悪魔。

二人とも軽鎧(ライト・アーマー)を身につけ、マントも羽織っていた。

 

・・・・・なんだ、この体の芯から冷え込むようなオーラの質は・・・・・。

 

部長が口を開く。

 

「・・・・・誰?」

 

「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私は偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正当なる後継者、シャルバ・ベルゼブブ」

 

「同じく、真の魔王アスモデウスの正当なる後継者、クルゼレイ・アスモデウスだ」

 

―――旧ベルゼブブと旧アスモデウス!

アザゼル先生が通信で言っていた今回の首謀者がご登場とは・・・・。

 

ディオドラ・アスタロトがボロボロの体で旧ベルゼブブ―――シャルバに懇願する顔となった。

 

「シ、シャルバ・・・・助けておくれ・・・・キミと一緒なら、こいつらを殺せる・・・旧魔王と現魔王が力を合わせれば―――」

 

ピッ!

 

シャルバが手から放射した一撃がディオドラの胸を容赦なく貫いた。

 

「愚か者め。あの娘の神器の力まで教えてやったのに、モノにできずじまい。しかも、赤龍帝とはいえ神器を使っていない者に敗れるなど・・・・・たかが知れているというもの」

 

嘲笑い、吐き捨てるようにシャルバは言う。

 

ディオドラは床に突っ伏すことなく、チリと化して消えていった。

 

あれはーーー光の力?

 

天使や堕天使に近い能力か?

 

僕の視界にシャルバの腕に取り付けられた見慣れない機械が映る。

もしや、あれが光を生み出す源か?

 

『禍の団』は三大勢力の不穏分子が集まっていると聞く。

光を扱う天使や堕天使の協力者から何か提供があったと見るべきか・・・・・。

 

「さて、サーゼクスの妹君。突然で悪いが、貴公には死んでもらう。理由は言わずとも分かるであろう?」

 

旧アスモデウス、クルゼレイが言う。

冷淡な声だ。

瞳も憎悪に染まってる。

 

よほど現魔王に恨みがあるのだろう。

主張と家柄、魔王の座を取り上げられたことを深く恨んでいるようだ。

 

「グラシャラボラス、アスタロトに続き、私を殺すと言うのね」

 

部長の問いにシャルバは目を細める。

 

「その通り。不愉快極まりないのだよ。我ら真の血統が、貴公ら現魔王の血族に『旧』などと言われるのは耐えがたいことなのだよ。故に我らは現魔王の血族を滅ぼすことにしたのだ。―――サーゼクスの妹よ、死んでくれたまえ」

 

「くっ! イッセーとアーシアをどうしたというの!?」

 

部長は最大までに紅いオーラを全身から迸らせ、シャルバに問い詰める。

 

その問いにシャルバは嘆息した。

 

「ああ、あの赤い汚物と堕ちた聖女か。あの者達は私が次元の彼方に送った。いかに赤龍帝と言えども『次元の狭間』に居続ければ、『無』に当てられて消滅するだろう。当然、あの娘も同様。―――死んだ、ということだ」

 

クルゼレイがシャルバに続く。

 

「こちらは赤龍帝を警戒してこうして手勢を引き連れて来たのだが・・・・・その必要は無かったようだ。まぁ、我らにとっては嬉しい誤算だった。・・・・・ふん、それにしても愚かな男だ。あの娘を庇おうとしなければ、もう少し長く生きられたものを・・・・・。所詮は低俗な転生悪魔か」

 

 

ギリッ

 

 

僕は怒りでどうかなりそうだった。

僕の親友を、イッセー君を馬鹿にするこいつらに対して強烈な殺意が胸の奥から涌き出るようだった。

 

他の皆も同様だ。

 

涙を流しながらも、シャルバとクルゼレイに鋭い視線を送っている。

 

当然だ。

 

大切な仲間であるアーシアさん、そしてイッセー君を殺されたのだから・・・・・・っ!

 

「許さない・・・・・ッ! 許さない・・・・・ッ! 斬り殺してやる・・・・・ッ!!」

 

ゼノヴィアが涙を流しながらデュランダルとアスカロンを強く握りしめ、シャルバ達に斬りかかろうとする!

 

 

―――しかし、それは美羽さんによって止められた。

 

 

「落ち着いて、ゼノヴィアさん。今、突っ込んでも相手の思う壺だよ」

 

「・・・・っ! しかし、アーシアとイッセーはあいつに殺されたんだぞ! おまえはそれを許せるのか!?」

 

ゼノヴィアは激昂し、美羽さんに掴みかかる。

 

ゼノヴィアの気持ちは理解できる。

親友と愛する者を同時に奪われたんだからね。

僕だってそうだ。

 

でも、なんで彼女はこうも冷静にいられるんだ?

彼女は普段からイッセー君を慕っていて、彼への想いは他のメンバーよりも強い。

 

それなのにどうして、こうも冷静でいられるんだ?

 

僕が疑問に思うなか、美羽さんはゼノヴィアの手に自分の手を添えて言った。

 

「本当にお兄ちゃん達が死んだと思ってる?」

 

 

――――っ

 

その言葉に僕の思考は一瞬止まった。

 

「お兄ちゃん―――イッセーがこのくらいで死ぬって本当に思ってるの、皆?」

 

彼女は続ける。

 

「あの人はこの程度じゃ死なない。ボク達を置いて死ぬような人じゃない。・・・・アーシアさんだってそう。イッセーがいるなら大丈夫」

 

美羽さんはゼノヴィアの手を放し、シャルバ達の方へと視線を向ける。

 

そして、一歩だけ前に出た。

 

「イッセーは必ず戻ってくる。だから、それまではボクが皆を守るよ」

 

そう言う彼女の体からは凄まじいオーラが発せられる!

これが美羽さんの実力なのか・・・・!?

上級悪魔を軽く越えている!

 

先程の魔法で随分と消耗したように見えたけど、何処からこんな力が出てくるんだ!?

 

「・・・・そうね、イッセーがこれくらいで死ぬはずがないわ。それにアーシアだって彼が着いているのなら・・・・・。ありがとう、美羽。おかげで冷静さを取り戻せたわ」

 

部長が笑みを浮かべながら言う。

 

そうだ。

 

イッセー君が死ぬはずがない。

確証はない。

だけど、不思議とそう思えるんだ。

 

他の皆もそれが分かったのか、先程とは表情が違う。

 

美羽さんはそれを見て微笑む。

 

部長が美羽さんの隣に立つ。

 

「さぁ、皆! イッセー達は絶対に帰ってくる! 私達の元に! だから、生き残るわよ!」

 

『はい! 部長!』

 

僕は涙を拭って、目の前にいる強大な敵に剣を向けた。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

俺とアーシアが光に包まれた後、目を開けるとわけの分からん場所にいた。

 

周囲は様々な色が混ざり合ったようなハチャメチャな景色。

万華鏡を覗いているかのようだ。

 

ここは何処だ・・・・・?

 

『ここは『次元の狭間』だ』

 

次元の狭間?

 

あー、そう言えばグレモリー所有の列車に乗った時に通ってたな。

 

 

・・・・・以前にも見たことがあるような・・・・・

そう、悪魔に転生するずっと前に・・・・・・

 

うーん、思い出せん。

 

まぁ、今の問題は俺に抱えられてる気絶したアーシアと向こうにいる部長達の方が心配だ。

 

『鎧を纏っておけ。いくら相棒といえども素の状態では次元の狭間の『無』にあてられて消滅するぞ』

 

おいおい、マジかよ!

 

それ、早く言ってくれない!?

 

つーか、それだとアーシアもヤバいじゃねぇか!

 

『アーシア・アルジェントには相棒のオーラを纏わせておけ。それならば、暫くの間はもつだろう』

 

そうか!

 

了解だ、ドライグ!

 

俺はドライグの指示通りに鎧を纏う。

そして、気絶しているアーシアと俺の気を同調させて、俺のオーラを纏わせておく。

アーシアの体の表面を分厚く赤いオーラが包んでいる状態だ。

 

とりあえずはこれでよし。

 

さてさて、早く戻らないと向こうが危ない。

結構な数がいたはずだ。

ほとんどが上級悪魔クラス。

中には魔王クラスらしきやつが二人いたな。

 

『あとは最上級悪魔クラスが五人だな』

 

それだけの数を相手に部長達が生き残るのは正直、かなりキツいぞ。

美羽だって消耗してるんだからな。

 

ドライグ、どうすれば戻れる?

 

『そうだな・・・・・。大抵は特殊な術式や装置を使って次元の狭間を行き来することが出来るんだが・・・・・。後は強大な力をぶつける、とかだな』

 

なるほど・・・・。

 

強大な力、か。

 

ここにはアーシアもいるから出来るだけ一点に力を集めた方が良さそうだな。

 

ただ、問題は戻った後だ。

 

百を越える敵がいて、その中には魔王クラスが二人もいやがる。

どうせ、オーフィスってやつの『蛇』を貰ったんだろうが、厄介だ。

あまりに数が多すぎる。

 

天武(ゼノン)を使ったとしても分が悪すぎるな・・・・。

天武(ゼノン)はパワーは絶大だけど、基本的に一対一の決戦仕様だ。

大勢の敵を相手にするのには向いていない。

 

『となると、アレの出番か。まさか、試運転もせずにいきなりの実戦投入とはな』

 

そうなるな。

まぁ、俺らしいといえば、そうなるかな?

 

でも、今回使うのはそれだけじゃない。

 

『ほう・・・・。だが、アレは・・・・。相当の無茶になるぞ、分かっているのか?』

 

そりゃあな。

下手すれば腕一本持ってかれるかもな。

 

その辺りは事が済んでから考えればいいんじゃないか?

今はそんなことよりも大切なことがある。

 

『そうか。ならば、俺も少しでも相棒の負担が減らせるよう、努力しようじゃないか』

 

頼むぜ、ドライグ。

・・・・・悪いな、いつも世話になりっぱなしで。

 

『何を言う。俺と相棒の仲だろう。存分に頼ってくれ』

 

ハハッ、やっぱりおまえは最高の相棒だよ!

 

 

さーて、それじゃあ、お喋りはここまで。

行こうか、ドライグ!

 

『応ッ! 旧魔王派とやらに見せつけてやれ。自分達が誰を敵に回したのかをな』

 

分かってるさ!

 

 

俺は手を前に突き出す。

すると、手元に赤い粒子が集まって一つの形をなす。

 

「仲間が危ないんだ。今回は付き合ってもらうぜ『イグニス』」

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

旧魔王派の悪魔達との戦闘が始まり、数分。

僕達は逃げながらも、襲いかかってくる敵を撃退していった。

今のところは全員無事だ。

 

だけど、それも危うくなっている。

 

何せ相手の数が多すぎる。

それに力量も向こうの方が上ときている。

 

正直、今生きていられるのは美羽さんの力のお陰だと言っても過言ではない。

 

彼女が放つ多彩な魔法による攻撃は旧魔王派の悪魔達を撹乱し、僕達がそこを突いて撃破している。

こちらには僕の聖魔剣やゼノヴィアが持つ聖剣、そして朱乃さんの雷光。

悪魔にとって猛毒となる武器を所持しており、それが相手の悪魔を苦しめている。

 

しかし、美羽さんの疲労具合も酷く、肩で息をしている状態だ。

 

僕達も相当疲労している。

 

もう、いつ誰がやられてもおかしくない状況だった。

 

「死ね! 忌々しいグレモリー!」

 

敵の悪魔が手に持った槍で部長に襲いかかる!

 

「させませんわ!」

 

朱乃さんが放つ雷光が敵の悪魔に命中し、消滅させる。

 

「デュランダル!」

 

ゼノヴィアがデュランダルの聖なるオーラによる嶄戟を放ち、複数の悪魔を屠る。

 

流石に二人の攻撃は強力だ。

格上の相手であっても、光の力と聖なる力が効いている。

 

 

すると、そこへシャルバとクルゼレイが姿を現した!

 

「ほう、これだけの数を相手にここまでやるか。惜しいものだな。現魔王の血族になど産まれなければ将来、良い悪魔になったものを・・・・。非常に残念だ」

 

「卑劣なやり方しか出来ないあなた達が何を言うの!」

 

部長が巨大な滅びの魔力を放ち、朱乃さんやゼノヴィアもそれに続く!

 

だが、それはクルゼレイによって全て弾かれてしまう。

クルゼレイはそのまま部長に近づき、手元に魔力集める。

 

マズい!

 

全員がそう思い、それを阻止しようと動き出すが、他の悪魔に妨害されてしまう!

 

このままじゃ!

 

僕は必死で剣を振るう!

このままでは部長が殺されてしまう!

それだけは絶対に防がなければならないんだ!

 

抗う部長だが、クルゼレイには一切攻撃が通じず、追い詰められてしまう!

 

 

「さぁ、これで終わりだ、リアス・グレモリー」

 

 

クルゼレイが巨大な魔力を部長に放つ――――

 

 

 

「ぐおおおおおっ!?」

 

 

 

しかし、それが部長を襲うことはなく、そこにいたのは片腕を失い、苦悶の声をあげるクルゼレイの姿。

 

なんだ!?

 

どういうことだ!?

 

 

僕だけじゃない、旧魔王派の悪魔達も突然のことに動きを止めていた。

 

 

そして、その答えはすぐに分かることになる。

 

 

部長の前に舞い降りた赤い龍を模した全身鎧(プレート・アーマー)

それは現れると同時に翼をバッと大きく広げた。

その鎧の形状は僕が知っている物とのどれとも違うものだった。

 

だけど、間違いない。

 

あれは――――

 

 

「部長、皆、遅くなってゴメン。無事か?」

 

 

左手にアーシアさんを抱え、右手に見たことがない大剣を持ったイッセー君だった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 


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