[木場 side]
神殿の入り口に入るなり、皆はオーディン様から受け取った通信機器を取り付ける。
『無事か?こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな』
―――先生だ。
『言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは『禍の団』旧魔王派の襲撃を受けている。そのフィールドも、近くのVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔どもがうじゃうじゃしている。だが、これは事前にこちらも予想していたことだ。現在、各勢力が協力して旧魔王派の連中を撃退している』
「予想していた? どいうことだ?」
先生の言葉にゼノヴィアが怪訝な表情で問う。
『リアスの耳には入っているだろうが、最近、現魔王に関与する者たちが不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは『禍の団』旧魔王派。グラシャラボラス家の次期当主が不慮の事故死をしたのも実際は旧魔王派の連中が手にかけてたってわけだ』
グラシャラボラスの次期当主候補は『禍の団』に殺害されたのか・・・・・・。
恐らく、現魔王の血筋だから狙われたのだろう。
でも、どうしてディオドラが『禍の団』に?
『首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫。俺が倒したカテレア・レヴィアタンといい、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。このゲームにテロを仕掛けることで世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。ここにはちょうど、現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。テロリストどもにとって襲撃するのにこれほど好都合なものもない』
つまり、僕たちの試合は最初から旧魔王派に狙われていた。
敵のターゲットは現魔王と現魔王の血縁者―――部長。そして、観戦しに来ていた各勢力の頭であるオーディン様もターゲットの一人だったのだろう。
「では、あのディオドラの魔力が以前よりも上がったのは?」
部長が先生に問いかける。
『『禍の団』に協力する代わりにオーフィスの『蛇』を受け取ったんだろう。『蛇』をもらったやつは三流のやつでも一流並みの力量を得ることが出来る。・・・・・まぁ、ディオドラがそれをゲームで使ったことは奴らも計算外だっただろうがな。そのおかげで今回のことを予見できたわけだが』
なるほど・・・・・。
無限の龍神の力はあそこまで急激なパワーアップを可能にするのか。
もしかしたら、ディオドラ以外にも力を分け与えている可能性もある。
そうなると、非常に厄介だ。
『あっちにしてみればこちらを始末できればどちらでもいいんだろうが、俺たちとしてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を潰すにはちょうどいい。現魔王、天界のセラフたち、オーディンのジジイ、ギリシャの神、帝釈天とこの仏どもも出張ってテロリストどもを一網打尽にする寸法だ。事前にテロの可能性を各勢力のボスに極秘裏に示唆して、この作戦に参加するかどうか聞いたんだがな。どいつもこいつも応じやがった。どこの勢力も勝ち気だよ。いま全員、旧魔王の悪魔相手に暴れているぜ』
どの勢力もテロには屈しない姿勢というわけだ。
「・・・・・このゲームはご破算ってわけね」
『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんなことになっちまっている。今回、お前たちを危険な目に遭わせた。いちおう、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。だから、イッセー達に伝えたのもおまえらが転移した後になっちまったがな』
「もし、私たちが万が一にも死んでしまったらどうするつもりだったんだ?」
ゼノヴィアが何気なく聞くと先生は真剣な声音で言った
『これはイッセー達にも言ったことなんだが、もしそうなった場合は俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首でことが済むならそうした』
―――先生は死ぬつもりだったんだ。
そこまで覚悟して、旧魔王派の連中をおびき寄せたのだろう。
イッセー君が先頭を走りながら先生に通信を入れる。
「先生。アーシアがディオドラの野郎に連れ去られました。予定を変更して俺達はアーシアを助けに行きます!」
『―――っ。そうか、一足遅かったか・・・・・。分かった。おまえがいるなら、俺も少しは安心できる。そいつらのことは任せる。・・・・・・だが、くれぐれも気をつけてくれ。このフィールドは『禍の団』所属の神滅具所有者が作った結界に覆われているために、入るのはなんとかできるが、出るのは不可能に近いんだよ。―――神滅具『
「了解です!」
イッセー君が気合いの入った一声で答えた。
『最後にこれだけは聞いていけ。奴等はこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。つまり、多少敵に勘づかれても問題ない作戦があると言うことだ』
「つまり、相手は隠し玉を持っている可能性があるということですか?」
僕の問いに先生は答える。
『そういうことだ。それが何なのかはまだ分からないが、このフィールドが危険なことには変わりはない。ゲームは停止しているため、リタイア転送は無い。そちらにはイッセーがいるから大丈夫だとは思うが、絶対ではないんだ。だから、十分に気をつけてくれ』
そこで先生との通信は終わった。
部長がイッセー君に尋ねる。
「ねぇ、イッセー。元々の予定ではどういう手筈だったの?」
「元々は俺が皆と合流した後、俺が皆を神殿の地下にあるシェルターに避難させる予定でした。・・・・まぁ、それもディオドラのせいで予定が狂いましたけどね」
ということは僕達がやるべきことはディオドラを倒した後、アーシアさんを助けて神殿の地下シェルターに逃げるということだね。
それなら、早くアーシアさんを助けないと。
「分かったわ。それで、アーシアの位置は分かるかしら?」
「はい。神殿の奧からアーシアとディオドラの気を感じます。このまま突っ切りましょう」
僕達全員は無言で頷き合うと神殿の奧へ向かって走り出した。
[木場 side out]
▽
神殿の中は広大な空間だった。
大きな広間がずっと続く感じだ。
広間に巨大な柱が並ぶくらいで他に目立ったものはない。
神殿を抜けると前方に新たな神殿が現れ、俺達はそれを目指す。
それを何度か繰り返していくうち、とある神殿の中に入ったとき―――気配を感じた。
俺達はそこで足を止める。
前方から現れたのはーーーフードを深く被ったローブ姿の小柄な人影が十名ほど。
ディオドラの眷属だ。
『やー、リアス・グレモリーとその眷属の皆』
ディオドラの声が神殿に響く。
あいつの気は動いてない。
ということは、これは魔法か何かで声を送っているわけか。
『ハハハ、やっぱり君も来たんだね赤龍帝。じゃあ、役者も揃ったことだし、ゲームをしよう。中止になったレーティングゲームの代わりだ』
随分ふざけたことを言ってやがるな、こいつ・・・・・。
ゲームだと?
『お互いの駒を出し合って、試合をしていくんだ。一度使った駒は僕のところへ来るまで二度と使えないのがルール。あとは好きにしていいんじゃないかな。第一試合、僕は『兵士』八名と『戦車』二名を出す。ちなみにその『兵士』たちは皆すでに『女王』に昇格しているよ。ハハハ、いきなり『女王』八名だけれど、それでもいいよね? 何せ、リアス・グレモリーは強力な眷属を持っていることで有名な若手なのだから』
「いいわ。あなたの戯言に付き合ってあげる。私の眷属がどれほどのものか、刻み込んであげるわ」
部長がディオドラの提案を快諾した。
「相手の提案を呑んでいいんですか?」
美羽が部長に訊くと、目を細めながら言う。
「ここは応じておいた方がいいわ。あちらは・・・・アーシアを人質にとっているんですもの」
下手に刺激するのはマズいってことだな。
まぁ、あのディオドラのことだ。
何をするか分からないしな。
部長は息を吐くと小猫ちゃん達に視線を向ける。
「イッセーを出すまでもないわ。私達は小猫、ギャスパー、ゼノヴィアを出すわ。今名前を呼んだメンバーは集まってちょうだい」
小猫ちゃん、ギャスパー、ゼノヴィアは部長のもとに集まる。
「ゼノヴィア。あなたには『戦車』の殲滅を頼むわ。思いっきりやっていいから。全部ぶつけてちょうだい」
「了解だ。いいね、そういうのは得意だ」
部長がそう言うと、ゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべる。
まぁ、制限なしのこいつなら『戦車』の二人くらい余裕だろ。
「『兵士』は小猫とギャスパーに任せるわ。オフェンスは小猫。仙術で練り込んだ気を相手に叩き込んで根本から断つ。ギャスパーはイッセーの血を飲んでサポートに回ってちょうだい」
「・・・・・了解」
「了解ですぅ!」
二人はそれぞれ頷いた。
俺は木場の魔剣で指先を軽く切り、ギャスパーに血を与えた。
ドクンッ!
ギャスパーの胸が脈打ったのが分かった。
次の瞬間、ギャスパーの体を異様なオーラが包んでいた。
赤い相貌も怪しく輝きを発している。
よし、これならいける!
準備が整った三人は前に出る。
それを確認したのか、ディオドラの声が聞こえてきた。
『じゃあ、始めようか』
ディオドラの声と共に奴の眷属が一斉に構えだした。
それと同時に、ゼノヴィアはデュランダルを解放すると、アスカロンと二刀流の構えをして、『戦車』二名の方へ歩み出した。
「アーシアは返してもらう」
ゼノヴィアの全身からかつてないほどのプレッシャーが放たれていた。
その眼光は鋭い。
「・・・・・私は友と呼べる者を持っていなかった。そんなものがなくとも、神の愛さえあれば生きていける、と」
『戦車』二名がゼノヴィア目掛けて走り出す。
しかし、ゼノヴィアは動じずに独白を続ける。
「そんな私にも分け隔てなく接してくれる者達ができた。特にアーシアはいつも私に微笑んでくれた。出会った時に酷いことを言ったのにも関わらずだ。アーシアは何事もなかったかのように話しかけてくれた。それでも『友達』だと言ってくれたんだ!」
ゼノヴィア・・・・・・。
出会った時のこと、ずっと気にしていたんだな。
「だから、助ける! 私の親友を! アーシアを!」
ドンッ!
ゼノヴィアの想いに答えるかのようにデュランダルとアスカロンから絶大なオーラが発せられる!
その波動はゼノヴィアに攻撃を仕掛けようとした『戦車』の二人を弾き飛ばした。
ゼノヴィアは二本の剣を振り上げると涙まじりに叫んだ!
「だから! だから頼む! デュランダル! アスカロン! 私の親友を助けるために! 私に力を貸してくれ! 私の想いにこたえてくれぇぇぇぇぇぇっ!!」
ゼノヴィアが宙でデュランダルとアスカロンをクロスさせると、聖なるオーラが更に膨れ上がった!
二つの剣は広大な光の柱を天高く迸らせていく!
神殿の天井に巨大な穴が生まれた!
そして、ゼノヴィアはそれを『戦車』二名の方へと一気に降り下ろした!
ザバァァァアアアアアアアアアアアッッ!!
二つの大浪とも言える聖なる波動は、『戦車』二名を飲み込んでいった!
ドオオオオオオンッ!!
神殿が大きく揺れ、砂誇りが舞う。
揺れが収まったとき、俺の視界に映ったのは―――
ゼノヴィアの前方に伸びる二本の大きな波動の爪痕。
その先にあった柱や壁は全て消失している。
これがセーブ無しのゼノヴィアの攻撃か・・・・・。
予想以上の威力だ。
どうやら、夏の合宿の効果はかなり大きかったらしい。
ただ、ゼノヴィアは肩で息をしている。
流石に連発は無理か。
さて、残るは小猫ちゃんとギャスパーの方だな。
二人の方に視線を移すと、ギャスパーは複数のコウモリに分身して、小猫ちゃんは猫耳を出した状態で体の表面を青白く輝かせていた。
仙術による気を纏っているんだ。
八人の『兵士』は一斉に小猫ちゃんに襲いかかる。
だけど小猫ちゃんは特にその無表情を崩すことなく、相手の気配を読んで全ての攻撃を捌いていた。
小猫ちゃんは自分の力を扱いきれるように日々努力している。
今回はその成果が見られる。
攻撃が掠りもしないので、相手の『兵士』達は徐々に焦りを見せ始めている。
すると、数人の『兵士』の動きが止まった。
『小猫ちゃん、停止している間に相手を無力化するですぅぅぅ!!』
ギャスパーが邪眼の力を活用して相手の動きを止めたんだ。
他の『兵士』も停止させられ、小猫ちゃんは次々に停止した『兵士』を掌底で殴り飛ばしていく。
ギャスパーが停止させている間に小猫ちゃんが気を纏った攻撃を撃ち込む、か。
こりゃ、近接戦では最強のコンボだな。
小猫ちゃんに気を乱された相手は魔力を練ることも、立ち上がることも出来なくなる。
小猫ちゃんの攻撃をくらった『兵士』八名は崩れ、その場に倒れて動かなくなった。
死んではいない。
ただ、起き上がれないだけだ。
数ではこちらが完全に不利だったはずが、結果はこちらは無傷。
それも相手を瞬殺している。
圧倒的じゃないか。
戦闘を終えた三人が帰ってくる。
「・・・・・終わりました」
「ああ、よくやったぞ、小猫ちゃん。ギャスパーもゼノヴィアもだ。修行の成果が出せていたよ」
誉めると三人は嬉しそうに微笑みを浮かべた。
さて、とりあえずは一勝だ。
待ってろよ、アーシア!
すぐに助けに行くからな!