「そろそろ時間ね」
部長がそう言い、立ち上がる。
決戦日。
俺達は深夜にオカルト研究部に集まっていた。
アーシアがシスター服、ゼノヴィアは例の戦闘服。
他のメンバーは駒王学園夏の制服姿だ。
ゲームに出るメンバーは部屋の中央に展開されている魔法陣の上に集まり、転移の瞬間を待つ。
「皆、頑張れよ! あんなやつボコボコしてやれ!」
『おうっ!』
俺の声援に皆が気合いの入った返事をする。
これまで、俺は皆の修行につき合ってきたけど、皆はかなり力を上げていた。
部長もディオドラを研究して作戦を練っていた。
準備は万端。
後はあいつを倒すだけだ。
皆、かなりの努力を積んできた。
あんなやつに負けやしねぇ!
「皆、頑張ってね!」
「私も応援するわ!」
「私は皆が勝てるよう天に祈っておくわ!」
美羽、レイナ、イリナも声援を送る。
・・・・・・イリナ、俺達は悪魔だからね。
祈ったら逆にダメージを受けるって。
いや、アーシアとゼノヴィアは大丈夫なのかな?
魔法陣に光が走り、皆はゲームフィールドへと転送されていった。
さて、俺はテレビで皆のゲームを観戦しようかな。
俺が部室に用意されたモニターの電源を入れようとした時、椅子に腰かけていたアザゼル先生が立ち上がる。
・・・・・・?
なんだ?
部室に残ったメンバーはアザゼル先生の表情に怪訝な表情を浮かべていた。
なぜなら、アザゼル先生の表情はいつになく真剣なものだったからだ。
「どうかされました、総督?」
気になったレイナが先生に声をかける。
そして、アザゼル先生は低い声で俺達に言った。
「おまえ達には悪いと思っている。このゲーム、実は―――――」
▽
[木場 side]
「・・・・・着いたのか?」
魔法陣のまばゆい輝きから視力が回復し、目を開けてみると―――。
そこは広い場所だった。
・・・・・一定間隔で大きな柱が並んでいる。
下は・・・・・石造りだ。
辺りを見渡すと、後方に巨大な神殿の入り口がある。
・・・・・大きいな。
ギリシャで作られる神殿によく似ている。
パッとみでは壊れた箇所もなく、出来上がったばかりの様相を見せていた。
ここが僕たちの陣営か。
短期決戦か長期戦か判らいが、僕は僕の仕事をこなすだけだ。
などと勇み立ち構えていたのだが・・・・・・いつまでたっても審判役の人からのアナウンスが届いてこない。
「・・・・・おかしいわね」
部長がそう言う。
僕や他のメンバーも怪訝そうにしていた。
運営側で何かおこったのか?
そんな風に首をかしげて思っていたら―――。
神殿とは逆方向に魔法陣が出現する。
まさかディオドラか?
この近距離で相対するなんて、短期戦のゲームなのか?
だが、魔法陣は一つだけじゃなかった。
さらにパッパッと光りだし、辺り一面、僕たちを囲むように出現していく。
「・・・・・アスタロトの紋様じゃない!」
僕はそう言い、剣をかまえる。
朱乃さんも手に雷を奔らせながら言う。
「・・・・・魔法陣全て共通性はありませんわ。ただ―――」
「全部、悪魔。しかも記憶が確かなら―――」
部長が紅いオーラをまといながら、厳しい目線を辺りに配らせていた。
魔法陣から現れたのは大勢の悪魔たち。
全員、敵意、殺意を漂わせながらでてくる。その悪魔たちは僕たちを囲んで激しく睨んでくる!
何百人か、千人ぐらいか、正確な数は判らないが、結構な数に囲まれている!
「魔法陣から察するに『
―――――っ!?
『
なぜ僕たちのゲームに乱入してくるんだ!?
「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」
囲む悪魔の一人が部長に挑戦的な物言いをする。
やはり、旧魔王を支持する悪魔にとってみれば、現魔王とそれに関与する者たちが目障りなのだろう。
「キャッ!」
悲鳴!
この声は―――アーシアさん!
アーシアさんの方へ振り向くと、そこにはアーシアさんの姿はない!
「部長さん!」
空から声!上を見上げてみるとアーシアさんを捕えたディオドラの姿があった。
「やあ、リアス・グレモリー。アーシア・アルジェントはいただくよ」
笑顔のままそう言うディオドラ。
「卑怯者!アーシアを離せ!そもそもどういうことだ!私達とゲームをするんじゃなかったのか!?」
ゼノヴィアの叫びにディオドラは醜悪な笑みを見せた。
「バカじゃないの?ゲームなんてしないさ。キミたちはここで彼ら―――『
部長が宙に浮かぶディオドラを激しく睨む。
「あなた、『
部長のオーラがいっそう盛り上がる。
激怒しているんだ、当たり前だ。
僕だって奴に対して怒らずにはいられない・・・・・!
「彼らと行動したほうが、僕の好きなことを好きなだけできそうだと思ったものだからね。ま、最後のあがきをしていてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味はわかるかな? ハハハハッ、僕はアーシアを自分のものにするよ。追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見れるはずだよ」
ディオドラが嘲笑するなか、ゼノヴィアが叫ぶ。
「アーシアは私の友達だ!おまえの好きにはさせん!」
ゼノヴィアは素早くイッセー君から借りていたアスカロンを取り出し宙にいるディオドラに切りかかろうとするが―――。
ディオドラの放つ魔力の弾がゼノヴィアの態勢を崩してしまう。剣はディオドラに届かなかったが、刃から放たれた聖なるオーラの波動がディオドラに向かう。
が、ディオドラは宙で舞うように軽く避けた。
「ゼノヴィアさ――――」
助けを請うアーシアさん!
だが、「ぶぅぅん」と空気が打ち震え、空間が歪んでいく。ディオドラとアーシアさんの体がぶれていき、次第に消えていった。
「アーシアァァァァァァァ!」
ゼノヴィアが宙に消えたアーシアさんを叫ぶが、返事なんて返ってこない。
僕はゼノヴィアに話しかける。
「ゼノヴィア! 冷静になるんだ! いまは目の前の敵を薙ぎ払うのが先だ! そのあと、アーシアさんを助けに行こう!」
「・・・・・そうだな、すまない、木場」
そう答えるゼノヴィア。
しかし、その瞳に憤怒に燃えていた。
僕たちを囲む悪魔たちの手元が怪しく光る。
魔力弾を一斉に放つつもりだろう。
ディオドラの言うことが本当なら、中級悪魔だけではなく上級悪魔も含まれている。こいつらが放ってくる魔力の雨を防ぎきれるか?
打開策を模索している僕だが、一触即発のなか『キャッ!』と悲鳴があがる。
朱乃さんの声だ。
なにかあったのだろうか!?
そう思ってそちらへ視線を向けると―――ローブ姿の隻眼の老人が朱乃さんのスカートをめくって下着を覗いていた。
「うーん、良い尻じゃな。何よりも若さゆえの張りがたま」
スパンッ!
言い終わる前にハリセンで老人の頭を叩く者が現れた。
「このクソジジイ! 俺の朱乃さんに何しやがる!」
現れたのはイッセー君だった!
イッセー君は老人の襟首を掴んで叫ぶ。
「あんたな! 神様だかなんだか知らねぇけど、ふざけたことしてると、滅しちゃうぞ! 神殺ししちゃうぞ! 神滅具の力を見せてやろうか!?」
「ま、まぁまぁ、落ち着いてよ、お兄ちゃん」
イッセー君を肩をつかんで、宥める美羽さん。
いつの間にいたのだろう?
『相棒、そんな理由で神を殺すな。赤龍帝の名が泣く。それにそいつも北欧の主神なんだ。流石の相棒でも勝てんぞ? それより今はすることがあるだろう?』
僕はドライグの言葉に驚いた。
この老人が北欧の主神オーディンなのか!?
なんで、そんな大物がここに?
というより、神に掴みかかるイッセー君もすごいと思うけど・・・・・・。
部長が三人に尋ねる。
「オーディン様! イッセー! 美羽! どうしてここへ?」
オーディン様が顎の長い白髭を擦りながら言う。
「うむ。話すと長くなるがのぅ。簡潔に言うと、『
やはり、ゲーム自体がそうなっていたのか。
「いま、運営側と各勢力の面々が協力体制で迎え撃っとる。ま、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派の手を引いていたのまでは判明しとる。先日の試合での急激なパワー向上もオーフィスの『蛇』でももらいうけていたのじゃろう。だがの、このままじゃとお主らが危険じゃろ? 救援が必要だったわけじゃ。しかしの、このゲームフィールドごと、強力な結界に覆われててのぅ、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい。特に破壊は厳しいのぅ。内部で結界を張っているものを停止させんとどうにもならんのじゃよ」
「では、オーディン様はどうやってここへ?」
「ミーミルの泉に片目を差し出したおかげであらゆる魔術、魔力、その他の術式に関して詳しくなったんじゃよ。結界に関しても同様」
オーディン様は左の隻眼の方を僕達に見せる。
そこには水晶らしきものが埋め込まれ、眼の奧に輝く魔術文字を浮かび上がらせていた。
ぞくっ
その水晶の義眼に映し出された文字を見たとき、心身の底まで冷えて固まるように感じた。
なんて、危険な輝きなんだ・・・・・ッ!
「俺の方は部長達が転移していった後、ことの次第をアザゼル先生に聞かされたんですよ。それでこの爺さんと一緒に助けにきたんです。一足遅かったようですけどね・・・・・」
イッセー君が籠手を出しながら言う。
彼はアーシアさんがディオドラに連れ去られたことが分かっているのだろう。
その視線はディオドラがいると思われる神殿の方へと向けられていた。
その目からは明らかな憤怒が感じられる。
「ボクも同じ理由だよ。皆が危ないって聞いたから助けにきたの。とりあえず、皆は無事で良かった。早くアーシアさんを助けに行かないとね」
美羽さんも普段の彼女とは思えないくらい怒りのオーラを発している。
やはり彼女もアーシアさんがさらわれたと知って激怒しているようだった。
ただ、イッセー君は一つ気になることを言っていたのを思い出す。
アザゼル先生に聞かされた・・・・・・?
ということはこのゲームは始めから・・・・・・・。
「相手は北欧の主神と赤龍帝だ! 討ち取れば名が揚がるぞ!」
旧魔王派の悪魔が一斉に魔力の弾を撃ってくる!
この数は―――マズイ!
覚悟を決めて僕たちが魔力の弾を迎え撃とうとしたとき、オーディン様が杖を一度だけトンと地に突く。
ボボボボボボボボンッ!
こちらへ向かってきていた無数の魔力弾が宙で弾けて消滅した!
オーディン様は「ホッホッホッ」とひげをさすりながら笑う。
―――すごい!さすがは北欧の主神だ。
たったあれだけの動作であれだけの魔力弾を防ぐなんて!
「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れるはずなんじゃがここに入るだけで精一杯とは・・・・・。はてさて、相手はどれほどの使い手か。ま、これをとりあえず渡すようにアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いにだすとはあの若造どうしてくれるものか・・・・・・」
そうぶつぶつと言いながらもグレモリー眷属の人数分の小型通信機を渡してくる。
「ほれ、ここはこのジジイに任せて神殿のほうまで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思え」
そういって杖を僕たちに向けると、僕たちの体を薄く輝くオーラが覆う。
「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ」
「爺さんはどうするんだよ?」
イッセー君が心配を口にするが、オーディン様は愉快そうに笑うだけだ。
「まだ十数年しか生きていない赤ん坊が、わしを心配するなぞ―――」
オーディンさまの左手に槍らしきものが出現した。
「―――グングニル」
それを悪魔たちに一撃繰り出す!刹那―――。
ブゥゥゥゥウウウウンッ!
槍から極大のオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音が辺り一面に響き渡る。
悪魔たちは先の一撃で数十人にまで数を減らしている。なんて桁違いな威力なんだ!
「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。赤龍帝の小僧はそやつらを守ってやれい。それがおまえさんの役割じゃて。さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶するほど強いぞい」
手加減してこれなのか!さすがに神は別領域の強さだ・・・・・!
「分かった。死ぬなよ、爺さん! 皆、行こう!」
『おうっ!』
イッセー君の言葉に僕達は返事を返すと、イッセー君に続いて、神殿へと走り出したのだった。
[木場 side out]