[木場 side]
―――定時。
僕たちはフロアに集まり、開始の時間を待っていた。
そして、店内アナウンスが流れる。
『開始の時刻となりました。なお、このゲームは制限時間3時間の
ブリッツということは短時間で決着をつけることになる。
長期戦と違い、あまりスタミナに気を配らなくていいのはありがたい。
「指示はさっきの通りよ。祐斗と小猫、ゼノヴィアと朱乃で二手に分かれるわ。祐斗と小猫は店内からの進攻。朱乃とゼノヴィアは立体駐車場からの進攻よ。ギャスパーは序盤、複数のコウモリに変化しての店内の監視と報告。その後は私の指示でどちらかのグループへの加勢。進攻具合によって、私とアーシアも侵攻を開始する。いいわね?」
部中の指示を聞き、頷く。
そして、全員耳に通信用のイヤホンマイクを取り付ける。
「相手はソーナ。手の内を知られている分、こちらの作戦もある程度はお見通しでしょう。それでも、私達は勝つ。―――私達の力を見せつけてやりましょう!」
『はいッ!』
全員、気合が入っていた。
当然だ。
このゲーム、絶対に負けられない。
「それじゃ、ゼノヴィアちゃん、行きましょうか」
「ああ、よろしく頼む、副部長」
先に動いたのは朱乃さんとゼノヴィアだ。
フロアを飛びだし、立体駐車場へと向かっていく。
「小猫ちゃん、僕達も行こうか」
「はい」
僕と小猫ちゃんも本陣を離れて店内を進む。
小猫ちゃんが本来の力、猫又の力を使うことは眷属の皆が知っている。
今は猫耳を出して、周囲を警戒しながら進んでいるところだ。
僕と小猫ちゃんは店内に足音が響かないように細心の注意を払いながら、歩を進める。
もし、相手にこちらの接近を気付かれると隠れられる恐れがあるからだ。
ここはショッピングモール。
隠れるところなんて、いくらでもあるからね。
思いもよらないところからの攻撃を許す可能性だってある。
「どうだい、小猫ちゃん?」
僕が尋ねると小猫ちゃんは遥か先を指差して言う。
「・・・・・動いてます。真っ直ぐこちらに向かってきている者が二人。詳細までは分かりませんが・・・・」
小猫ちゃんは今、仙術の一部を解放しているから気の流れである程度は把握できるみたいだ。
この分だと、小猫ちゃんがいる限り相手の接近には対応できそうだ。
「・・・・・あとどのくらいで接触するかな?」
「・・・・・このままのペースなら、おそらく十分以内です」
・・・・・十分。
流石に罠を仕掛ける時間は無いね。
近くに隠れるか、真正面から迎え撃つか。
僕が思考を張り巡らせた、その時だった。
「「―――ッ!」」
僕と小猫ちゃんは咄嗟にその場から飛び退いた。
「―――木場か!まずは一撃ッ!」
匙君が自身の神器のラインを使いターザンみたいに降りてきて攻撃を仕掛けてきた!
匙君の背中に誰かが乗ってる!
いつの間に接近を許したんだ!?
直前まで気配を感じなかった!
僕は驚きながらも匙君の膝蹴りを剣の腹を使って受け止める。
ドゴンッ!
蹴りの衝撃が体に伝わってくる!
僕は受け止めた時の反動を利用して後ろに大きく下がった。
体勢を整えて、剣を構える。
「よー、木場」
現れたのは匙君。
その隣には背中に乗っていた少女。
生徒会のメンバーで、一年生の仁村さんだ。
匙君の右腕には黒い蛇が何匹もとぐろを巻いている状態だった。
以前見た時と形状が違う。
恐らく、修行を通して神器が進化したのだろう。
「どういうトリックだい? 小猫ちゃんでさえ直前まで接近に気づけなかった」
僕が尋ねると匙君は笑みを浮かべながら答える。
「簡単なことさ。おまえ達が察知したのは囮。俺達は気配を悟られにくいように予め術式を仕込んで接近し、奇襲を仕掛けた。それだけだ」
なるほど。
どうりで気づけなかった訳だ。
イッセー君なら空気の流れとかで気付いたかもしれないけど、僕達はそこまでの領域に達してないからね。
僕は耳に取り付けたイヤホンマイクを通じて匙君達に聞こえない声で部長に連絡を入れる。
「・・・・部長。相手と接触しました。匙君と仁村さんです」
『祐斗達だけでいけそうかしら?』
部長の問いには小猫ちゃんが答える。
「・・・・問題ありません。索敵範囲を絞って周囲を探りましたが、それらしい気配はありませんでした。数は五分です。私達だけで相手します」
『了解したわ。二人には相手の撃破をお願いするわ』
「・・・・了解です」
そこで通信を切る。
小猫ちゃんは一歩前に出て、拳を構えた。
「私は仁村さんと戦います。祐斗先輩は匙先輩をお願いします」
「任せて」
とは言ったものの、僕の中には言い知れない不安があった。
『それから匙には気を付けろ。あいつがこのゲームにかける想いは半端じゃない。どんなことをしてでも勝つつもりだ』
転移する前にイッセー君が言った言葉がよぎる。
・・・・・匙君。
彼を見ると体の表面を薄く黒いオーラが覆っていた。
僕の頬を嫌な汗が伝う。
これは、早く終わらせた方が良さそうだ。
「仁村、おまえの相手は搭城さんだ。いけるな?」
「はい!」
「よし。――――いくぞ!!」
[木場 side out]
▽
[リアス side]
祐斗と小猫が相手と接触してから五分が経った。
相手は二年の匙君と一年の仁村さんと言っていた。
警戒すべきは匙君の神器。
繋げた相手の力を吸いとる能力を持つ。
非常に厄介な能力だけど、祐斗達なら上手く立ち回ってくれるはず・・・・・。
「ギャスパー、どのあたりまで行けたのかしら?」
『今、相手の陣地近くの食品売り場に来てます』
「それで何かおかしなところは?」
『えっと・・・・野菜売り場の方で何かしているようなんですけど・・・・』
野菜売り場?
そこで一体何を・・・・・
どうしたものかしら。
ソーナがどんな罠を仕掛けているのか気にはなるのだけど、ギャスパーに深追いさせるのは危険な気がする。
「・・・・・野菜」
ソーナがどんな手を使ってくるのか思考していると、隣にいたアーシアが呟いた。
「どうかしたの、アーシア?」
「い、いえ。そんなに気にすることでもないので・・・・」
首を横に振るアーシアに私は言う。
「いいのよ。どんな些細なことでも気づいたら言ってちょうだい。もしかしたら、それがとても重要なことかもしれないもの」
「そうなんですか? じゃあ、えっと・・・・夏休みに入る前にゼノヴィアさんと小猫ちゃんとギャスパー君の四人で女子会をしたんです」
「女子会? あなた達、いつのまにそんなことを・・・」
というより、ギャスパーは女子としてカウントしても良いのかしら・・・・?
まぁ、見た目はどう見ても女の子にしか見えないのだけれど・・・・
「それで、その時に小猫ちゃんが手作りの料理を振る舞ってくれたんです。野菜炒め、パスタ、スープという感じで色々な種類の料理を作ってくれました。ただ・・・・」
「ただ?」
「全ての料理にニンニクが使われていて・・・・・それを食べたギャスパー君が倒れてしまったんです」
・・・・・・小猫ったら。
あの子はギャスパーを弄るのが相変わらず好きね。
仲良くしているのは主としては嬉しいことなのだけれど・・・・
・・・・・・
何が私の中で引っ掛かった。
私は今のアーシアの言葉を思い出してみる。
野菜炒め・・・・・ニンニク・・・・・・
もしかして・・・・・・
私は直ぐ様ギャスパーに通信を入れる。
「ギャスパー、今すぐその場を離れなさい」
『え? どうかしたんですか?』
「野菜売り場で何かしていると言ったわね? 私の読みが正しければそれはあなたを誘き寄せるための罠よ」
『ど、どういうことなんですか?』
私の言葉に戸惑うギャスパー。
そんなギャスパーに私は告げる。
「野菜売り場・・・・・そこにはニンニクも置いてあるのではなくて? このゲームフィールドが本物と全く同じように再現されているとしたら、そのニンニクも本物のはず」
私がそこまで言うと、アーシアが何かに気づいた。
「もしかして、会長さんはニンニクを使ってギャスパー君を倒そうとしているということですか?」
「そういうことよ。・・・・ソーナは私達の大まかな主力武器については知っているわ。だとしたら、私が序盤でギャスパーに偵察をさせることはお見通しのはず。・・・・・こんな序盤でギャスパーを失うわけにはいかないわ。ギャスパー、直ぐにその場を離れて朱乃達の方へ向かってちょうだい。現状を見るに朱乃達の方にテクニックタイプをぶつけてくるはずよ。その場合、ギャスパーは例の物を使って対処してほしいの」
『わ、分かりましたぁ!!』
ふぅ。
危うく何でもないところで眷属を失うところだった。
しかも、その方法がニンニクだなんて・・・・・・笑えないわ。
「アーシア、お手柄よ」
「はい! お役にたてて良かったです!」
[リアス side out]
▽
[朱乃 side]
私とゼノヴィアちゃんは立体駐車場に入っています。
祐斗君の報告通り、平日のデパートを再現したためか車の台数が思っていたよりも少ないみたいです。
ゼノヴィアちゃんが先に進み、私が背後を警戒しながら歩を進めていく。
そして、二階から通路を進んで一階の駐車場へと足を踏み入れた時でした。
―――前方に人影。
見れば、メガネをかけた黒髪長髪の女性。
駒王学園生徒会副会長、真羅椿姫。
手には薙刀。
彼女は長刀の使い手。
その実力は確かなものです。
「ごきげんよう、姫島朱乃さん、ゼノヴィアさん。二人がこちらから来ることは分かっていました」
淡々と話す椿姫さん。
その横から二名―――。
長身の女性と日本刀を携えた細身の女性。
長身の女性が『戦車』の由良翼紗さん。
日本刀を持つ女性が『騎士』の巡巴柄さんですわ。
なるほど・・・・。
やはり、私達がこちらから来るのは読まれていましたか・・・・。
「ゼノヴィアちゃん、気を付けて下さい。ソーナ会長の眷属にはテクニックタイプの人が多いと聞いています。恐らく狙いはカウンターでしょう」
「ああ、分かっているさ。だが、私はそれを押し返すまでだ」
ゼノヴィアちゃんはそう言って腰に携えた二本の剣を抜き放つ。
今回、デュランダルは使えない。
ルールの特性上、デュランダルでは上手く立ち回れないでしょう。
私の攻撃はある程度、的を絞れば周囲へ影響を出さずに出来るでしょうが、デュランダルではそういうのは難しいようです。
「私が後方から援護します。ゼノヴィアちゃんは前衛をお願いできますか?」
「力を抑えながら三人を相手取るのは難しいが、何とかやってみよう」
「それから、もうひとつ。先程リアスから連絡がありました。ギャスパー君がこちらの加勢に来てくれるそうです」
「・・・・了解した。それでは、ギャスパーが来るまでもたせるとしよう」
そう言って、じりじりと間合いを詰める。
私も手に魔力を溜めて、戦闘態勢へと入ります。
そして―――
ギィィィィィンッ!!
ゼノヴィアちゃんと椿姫さん、巡さんの剣が衝突する。
その勢いに剣から火花が散り、激しい金属音を奏でた。
その瞬間、椿姫さんと巡さんはゼノヴィアちゃんが手にしている得物を見て、二人とも一歩後ろに下がった。
「その剣は・・・・・・聖剣!?」
巡さんの問いにゼノヴィアちゃんは頷く。
「イッセーに借りたアスカロンと木場に作ってもらった聖剣だ」
『!?』
その告白に相手全員が驚いていた。
イッセー君は修行の最中、籠手と融合したアスカロンが取り外せることに気づきました。
そして、このゲームでアスカロンが戦力になるだろうと読んであらかじめ渡していたのです。
威力はデュランダルに及びませんが、アスカロンも伝説上の聖剣。
十分な威力を持っています。
そして、左手に持つ祐斗君が作り出した聖剣。
禁手に至ったことで魔剣だけでなく聖剣も創れるようになったようです。
オフェンスに回れる人が少ない以上、人数で不利な場面も出てくるだろうと、リアスが提案したのですが・・・・早速その場面がやってきましたわね。
威力は伝説の聖剣と比べると劣りますが、それでも聖なる力を宿している以上、悪魔にとって絶大なダメージを与えることが出来ます。
「巴柄! 翼紗! 絶対にあの剣をその身で受けてはなりません!」
「分かってます! あんなのに斬られたら消滅しちゃいますよ!」
そこから始まる激しい剣戟戦。
私も後ろから支援攻撃を行ってサポートを行います。
修行の成果、今ここで見せますわ!
「雷光よ!」
ガガガガガガガガッ!!!
これまで封じてきた力が私の指先から放たれる。
これを見て、椿姫さんは目を見開く。
「これは・・・・・・光の力!? 姫島さん、あなたは堕天使の力を受け入れたというのですか!?」
その問いに私は静かに頷く。
「ええ・・・・。正直、私もこの忌々しい力を使うのは抵抗がありました。・・・・・ですが、この力と向き合わなければ私は前に進めない。だから、決めましたの。彼が見ているこのゲームで使うことで乗り越える、と―――」
そう言うと手元に雷光の塊を作り出す。
建物や車を破壊しないように調整しないといけないのが難しいですが・・・・。
狙いを定めて雷光を放つ!
椿姫さんはバックステップをしながら薙刀に魔力を纏わせて雷光を捌いていく。
「くっ! 二人とも出来るだけ物影に隠れながら攻めなさい! 聖剣だけに注意を取られているとやられますよ!」
「「了解!」」
流石はソーナ会長の懐刀。
指揮を取るのが上手いですわ。
場所が場所だけに物影に隠れられるとこちらも攻めにくい。
攻撃が単調にならないよう、タイミングをずらしながら仕掛けてますから、今は相手側も攻めにくいでしょう。
それにこちらの武器は聖剣と雷光。
掠めるだけでも大きなダメージを受けますから尚更です。
しかし、時間をかければこちらがハメ手を受ける可能性もあります。
何か手を打たなければ・・・・・。
援護攻撃をしながら思案していると、こちらに向かってくる影がひとつ。
あれは―――
「朱乃さん! ゼノヴィア先輩! お待たせしましたぁ!」
「おお! ギャスパー! 待っていたぞ!」
ゼノヴィアちゃんが歓喜の声をあげる。
そう、現れたのはギャスパー君。
どうやら、間に合ったようですわね。
「ギャスパー君、よく来てくれました。早速ですけど、お願いできますか?」
「はい!」
元気よく返事をするギャスパー君。
この光景を見て、相手全員が怪訝な表情を浮かべる。
「ギャスパー君・・・・? なぜ彼がここに? まさか、罠に気づいたのですか?」
「罠? それはもしかしてニンニクのことですか? それならリアスがギリギリで気付いたのでなんとかギャスパー君を撃破されずにすみましたわ」
「・・・・なるほど。ですが、彼がここに来たところで戦力になるとは思えませんが・・・・。彼の時を停止させる神器は使用を禁じられているはずです」
「ええ。確かにギャスパー君の神器『
私が合図を送るとギャスパー君は制服のポケットから小瓶をひとつ取り出した。
小瓶の中には赤い液体が入っています。
「これはイッセー君の―――赤龍帝の血です」
「ッ!・・・・まさか・・・・・」
今の情報を聞いて椿姫さんは気付いたようです。
慌ててギャスパー君に攻撃を仕掛けようとする。
ですが―――もう遅い。
ギャスパー君は小瓶の蓋を開けてイッセー君の血を飲み干す。
そして―――
ドクンッ
ギャスパー君の体が大きく脈打ち、この駐車場の空気が一気に様変わりした。
不気味で言い知れない悪寒が私の体を駆け巡った。
見るとギャスパー君はそこから消えている。
チチチチチ。
その鳴き声が聞こえた時、無数の赤い瞳をしたコウモリが周囲を飛び交う。
「今回のゲーム、ソーナ会長は私達の作戦の要を祐斗君かゼノヴィアちゃんだと思っていたのではないですか? だとしたら、それは間違いです。―――私達の要はギャスパー君です」
驚く彼女達にコウモリ達が襲いかかる。
「こ、これは!」
「うそっ!?」
反撃しようとした由良さんと巡さんは何かに引っ張られて大きく体勢を崩した。
引張ったのは彼女達の影から伸びた無数の黒い手。
「これがギャスパー君の力だというの!?」
「ええ、これが本来ギャスパー君が秘めている力の一部です。イッセー君の血を飲んだことで解放されたのです」
黒い手に抗っていた椿姫さんも既に捕らわれている。
もう彼女達に打つ手はありません。
コウモリが彼女達の体を包み込み、体の各部位を噛んだ。
「血を吸うつもりですか!?」
「正確にはあなた方の血と魔力ですわ。・・・・・レーティングゲームは戦闘不能とみなされれば強制的に医療ルームに転送されます。―――あなた方にはここでリタイアしてもらいます」
「くっ・・・・・申し訳ありません・・・・・会長・・・・・・」
『ソーナ・シトリー様の「女王」一名、「騎士」一名、「戦車」一名、リタイア』
[朱乃 side out]