[アザゼル side]
「失態ですね」
魔王領にある会談ルームでうちの副総督シェムハザが開口一番にそれを言った。
俺は隣で茶を啜りながら「ほどほどにな」と心中で呟く。
魔王主催のパーティーは『
いや、結果的にそうなったと言うべきか。
冥界指名手配中のSS級はぐれ悪魔『黒歌』と闘戦勝仏の末裔、美猴がパーティーを見に来ていたことなど、誰も予想だにしなかっただろう。
最終的にはイッセーが一人で追い払ったおかげで被害を出さずに済んだものの、パーティー会場の隙を突かれたのは、他の勢力にとって、悪魔の警戒心の有無を疑うものだろうさ。
見ての通り、我らが副総督シェムハザ君と天使側のセラフさん達は額にシワを寄せてご立腹だ。
まぁ、俺は人のこと言えないからここは黙っとくか。
総督の俺がハメを外してカジノに夢中だったなんてことが知れたら、後で何を言われるか・・・・。
シェムハザが更に報告する。
「相手は『
あーあ、また始まったよ。
こいつの小言は長ぇんだ。
それにしてもヴァーリのやつ、とんでもないメンバーを揃えたもんだな。
メンバー全員が最上級悪魔クラス。
ヴァーリ本人も魔王クラスときたもんだ。
もう、ヴァーリチームは一個の軍隊として数えても良いくらいだな。
そんなやつらを追い払うイッセーもとんでもないと思うがな・・・・・。
イッセーもヴァーリもその実力はすでに魔王クラス。
しかも、まだ成長途中だというから恐ろしい。
タンニーンも言っていたが、白は覇龍を使い、赤は
今代の赤と白は本当に規格外だよ。
ちなみに、タンニーンはチビドラゴンと化してこの会議に参加している。
と言っても、端の方で上役達ともうすぐ開かれるリアスとソーナ・シトリーの戦いを予想しているのだが。
「俺はリアス嬢を応援させてもらおうか。今のリアス嬢が兵藤一誠を抜きでどこまでやれるのか見てみたい」
「アザゼルのもたらした知識はレーティングゲームに革命を起こしそうだよ。下手すれば半年以内に上位陣に変動があるかもしれない」
「そりゃよかった。ここ十数年もトップの十名に変化がなかったものですから。これでおもしろいゲームが拝めそうですな」
ハハハ、同盟結んでから緊張感ねぇなぁ。
こんな調子で大丈夫かね、三大勢力。
その時、部屋の扉が開かれる。
入ってきた人物を見て全員が度肝を抜かれた。
「ふん。若造どもは老体の出迎えもできんのか」
古ぼけた帽子をかぶった隻眼の爺さん。
白く長い髭を生やしており、それは床につきそうなぐらい長い。
服装は質素なローブで、杖をしている。
「―――オーディン」
そう、現れたのは北欧の神々の主神、オーディン。
鎧を着た戦乙女のヴァルキリーを引き連れてのご来場だ。
「おーおー、久しぶりじゃねぇか、北の田舎クソジジイ」
俺が悪態をつくと、オーディンは髭をさする。
「久しいの、悪ガキ堕天使。長年敵対していた者と仲睦まじいようじゃが・・・・・また小賢しいことでも考えているのかの?」
「ハッ! しきたりやら何やらで古臭い縛りを重んじる田舎神族と違って、俺ら若輩者は思考が柔軟でね。わずらわしい敵対意識よりも己らの発展向上だ」
「弱者どもらしい負け犬の精神じゃて。所詮は親となる神と魔王を失った小童の集まり」
チッ・・・・。
このクソジジィは口数だけは相変わらず減らねぇ。
「独り立ち、とは言えないものかね、クソジジィ」
「悪ガキどものお遊戯会にしか見えなくての、笑いしか出ぬわ」
・・・・ダメだこりゃ。埒が明かねぇ。
そこへサーゼクスが席を立ってオーディンに挨拶をする。
このクソジジィにそんなものがいるかね?・・・・と思う俺は間違ってない。
「お久しゅうございます、北の主神オーディン殿」
「……サーゼクスか。ゲーム観戦の招待来てやったぞい。しかし、おぬしも難儀よな。本来の血筋であるルシファーが白龍皇とは。しかもテロリストとなっている。悪魔の未来は容易ではないのぉ」
オーディンが皮肉を言うが、サーゼクスは笑みを浮かべたままだ。
ジジイの視線がサーゼクスの隣のセラフォルーに移る。
「時にセラフォルー。その格好はなんじゃな?」
セラフォルーの格好は日本のテレビアニメの魔女っ子だ。
こいつもコスプレ好きだね。
そのおかげで、妹が苦労しているみたいだが・・・・・
「あら、オーディンさま! ご存知ないのですか? これは魔法少女ですわよ☆」
ピースサインを横向きにチェキしやがったよ。
「ふむぅ。最近の若い者にはこういうのが流行っておるのかいの。なかなか、悪くないのぅ。ふむふむ、これはこれは。こういうのは我が北欧でも取り入れていこうかのぅ」
スケベジジイめ。
セラフォルーのパンツやら脚やらをマジマジと眺めてやがる。
つーか、北欧にこれを取り入れるのは色々マズいんじゃないのか?
そこにお付きのヴァルキリーが介入する。
「オーディンさま、卑猥なことはいけません!ヴァルハラの名が泣きます!」
「まったく、おまえは堅いのぉ。そんなんだから勇者の一人や二人、ものにできんのじゃ」
オーディンのその一言にヴァルキリーは泣きだす。
おいおい、なんだよ、こいつは。
「ど、どうせ、私は彼氏いない歴=年齢の戦乙女ですよ!私だって、か、彼氏ほしいのにぃ!うぅぅ!」
オーディンは嘆息する。
「すまんの。こやつはわしの現お付きじゃ。器量は良いんじゃが、いかせん堅くての。男の一つもできん」
ジジイの人選が分からん。
あんた、護衛の意味知ってんのか?
あんたを守れるとは思えんが・・・・・まぁ、他の業界へのツッコミはいいか。
「聞いとるぞ。サーゼクス、セラフォルー、おぬしらの身内が戦うそうじゃな?まったく大事な妹たちが親友同士というのにぶつけおってからに。タチが悪いのぉ。さすがは悪魔じゃて」
「これぐらいは突破してもらわねば、悪魔の未来に希望が生まれません」
「うちのソーナちゃんが勝つに決まっているわ☆」
魔王様は自分の妹が勝つと信じているようで。
まぁ、この二人は究極のシスコンだ。
当然と言えば当然か。
オーディンは空いてる席に座る。
「さてと。『禍の団』もいいんじゃがの。わしはレーティングゲームを観に来たんじゃよ。―――日取りはいつかな?」
オーディンのその言葉に場は今度開かれるゲームの話題へと移った。
それから、俺は休憩といって席を立ち、廊下の長椅子で休んでいた。
あー、お偉方でやる会談やら会議は肩が凝るぜ。
首を回しているとサーゼクスがやって来た。
なんだ、こいつも抜け出してきたのか。
サーゼクスは俺の隣に座ると尋ねてきた。
「アザゼル、今回のゲームをどう見てる? 今回のゲーム、イッセー君が参加できないことになってしまったが・・・・」
「なるほどな・・・・・。イッセーはリアス達の柱的な存在だ。これまでもイッセーがいたから切り抜けられたと言ってもいい。そんなイッセーがいない状態であいつらがどう戦うか気になるってところか」
俺がそう言うとサーゼクスは頷く。
「まぁ、普段より力は出せるんじゃないのか? 今回、イッセーは観戦に回ると知って、あいつらは無様なところは見せられないって気合い入れてたからな」
[アザゼル side out]
▽
シトリー眷属とのゲーム決戦前夜。
俺達は再び俺の部屋に集まり、最後のミーティングをしていた。
ちなみに俺の部屋に集まった理由は修行報告会の時と同じ理由だ。
パーティー会場では美猴や小猫ちゃんのお姉さんの襲来もあったけど、俺が追い払ったことで一応の決着はついた。
いやー、俺も事件の当事者として事情聴取を受けたけど担当の悪魔さんがサインを求めてきた時は驚いたね。
なんでも娘さんが俺のファンらしい。
グレモリー家の悪魔教育のおかげで助かったよ。
悪魔文字で自分の名前を何回もノートに書かされたからサインもなんとかなった。
で、今はミーティングだったな。
「リアス、ソーナ・シトリーはグレモリー眷属のことをある程度知っているんだろう?」
先生の問いに部長は頷く。
「ええ、おおまかなところは把握されているわね。祐斗や朱乃、アーシア、ゼノヴィアの主力武器は認識されているわ。フェニックス家との一戦を録画したものは一部に公開されているもの。更に言うならギャスパーの神器や小猫の素性も知られているわ」
「ほぼ知られてるわけか。で、おまえはどのくらいあちらを把握してる?」
「ソーナのこと、副会長である『女王』のこと、他数名の能力は知っているわ。一部判明していない能力の者もいるけれど」
「不利な面もあると。まあ、その辺はゲームでも実際の戦闘でもよくあることだ。戦闘中に神器が進化、変化する例もある。細心の注意をはらえばいい。相手の数は八名か」
「ええ『王』一、『女王』一、『戦車』一、『騎士』一、『僧侶』二、『兵士』二で八名。まだ全部の駒はそろっていないみたいだけれどイッセーが抜ける分、数ではこちらより一人多いわ」
なんか申し訳ないね。
俺が抜ける分、数的にも不利。
しかも俺達はオフェンスに回れる人数が元々少ないからかなり痛いな。
アザゼル先生が用意したホワイトボードに書き込んでいく。
「レーティングゲームは、プレイヤーに細かなタイプをつけて分けている。パワー、テクニック、ウィザード、サポート。このなかでなら、リアスはウィザードタイプ。いわゆる魔力全般に秀でたタイプだ。朱乃も同様。木場はテクニックタイプ。スピードや技で戦う者。ゼノヴィアはスピード方面に秀でたパワータイプ。一撃必殺を狙うプレイヤーだ。アーシアとギャスパーはサポートタイプ。さらに細かく分けるなら、アーシアはウィザードタイプのほうに近く、ギャスパーはテクニックタイプのほうに近い。小猫はパワータイプだ」
いきなり、覚えることが増えたな。
俺もそのうちゲームに出るんだし、覚えておかないとな。
木場達がどの位置のタイプなのか、グラフに名前を書いていく。
木場はテクニック、ゼノヴィアはパワーと、各メンバーがどの位置にいるのか、図にしてもらった。
あれ?
俺の解説がないぞ?
「先生、俺は?」
その質問を聞き、皆が興味津々といった感じに先生を見る。
「イッセーか。・・・・おまえはウィザード以外は全てこなせる。パワー、スピード、テクニックの方面で活躍できる。更にはサポートタイプのほうにもいける。ギフトの力でな」
へぇ、俺って結構活躍できるんだな。
ウィザード・・・・魔力方面では全く活躍できそうにないのが情けないところだが・・・・・。
アザゼル先生の解説を聞いて部長が言う。
「それだけあれば十分万能よ。逆に使い所が多すぎて困ってしまうわ」
「イッセーが参加した場合、若手悪魔のゲームなら下手な戦略はいらんだろう? 『ガンガン行こうぜ』方式でやった方が楽かもな」
「・・・・そんなことをすれば私の評価は下がってしまうわよ」
部長が盛大にため息をつく。
そっか、ゲームは一人の眷属が強すぎてもダメなんだよな。
勝つまでの戦略が重要になるんだ。
いやー、レーティングゲームって奥が深いよなぁ。
「話が脱線したな。ミーティングに戻すぞ」
先生がそう言って仕切り直しをする。
「パワータイプが一番気をつけなくてはいけないのは―――カウンターだ。テクニックタイプのなかでも厄介な部類。それがカウンター系能力。神器でもカウンター系があるわけだが、これを身につけている相手と戦う場合、小猫やゼノヴィアのようなパワータイプはカウンター一発で形勢が逆転されることもある。カウンターってのはこちらの力をプラス相手の力で自分に返ってくるからな。自分が強ければ強いだけダメージも尋常ではなくなる」
「カウンターならば、力で押し切ってみせる」
おいおい、ゼノヴィア。
それ、威張って言うことじゃないぞ?
「それで乗り切ることもできるが・・・・・、そういうのはイッセーくらいになってからにしろ。相手がその道の天才なら、おまえは確実にやられる。カウンター使いは術の朱乃や技の木場、もしくはヴァンパイアの特殊能力を有するギャスパーで受けたほうがいい。何事も相性だ。パワータイプは単純に強い。だが、テクニックタイプと戦うにはリスクが大きい」
「むぅ・・・。では今後はイッセーのパワーを目標にするとしよう」
テクニックを磨こうぜ、ゼノヴィア。
まぁ、テクニックってのはそう簡単に身につくものじゃないけどさ。
「リアス、ソーナ・シトリーの眷属にカウンター使いがいるとしたら、お前かゼノヴィアにぶつけてくる可能性が高い。十分に気をつけろよ?」
「ええ、私の消滅の魔力もゼノヴィアのデュランダルの聖なるオーラも跳ね返されたら即アウトの可能性が高いものね」
確かに・・・・。
カウンター使いには木場あたりをぶつけるのが最適だな。
先生はペンをしまうと最後のまとめを言う。
「おまえ達は今回のゲームでは色々と不利な面が多い。だがな、俺はおまえ達が勝つと思っている。―――自分の力を信じろ、おまえ達なら出来る」
それが今回の話し合いでした先生のアドバイスだった。
その後、先生が抜けたメンバーで決戦の日まで戦術を話し合った。
俺も皆に出来ることは全てやった。
後は皆の健闘を祈るだけだ。