パーティー当日。
俺は黒いタキシードを着て客間で待機していた。
・・・・着た、というより着せられたと言った方が正しいか。
ヴェネラナさんに命じられたメイドさん達に着替えさせられたんだ。
まぁ、パーティーだし、部長達もドレスを着るとのことだしな。
俺もこういうのに着替えないとダメなんだろうな。
「やぁ、イッセー君。結構様になってるね」
「イケメン王子に言われてもなぁ」
木場もタキシードを着てるんだけど、かなり似合ってる。
どこぞの貴族と言われても頷けるくらいだった。
うーん、やっぱり顔なんだろうか・・・・
それとも立ち居振る舞い・・・・?
ちくしょう! 俺もイケメンに生まれたかった!
「兵藤と木場じゃないか」
振り返ると匙がいた。
「おう、久しぶりだな。・・・・なんでここに?」
「会長がリアス先輩と一緒に会場入りするから俺達シトリー眷属もついてきたんだ。で、会長は先輩に会いに行ったし、副会長達もどっかに行っちまったから、俺もうろうろしてたんだよ。そしたら、ここに出た」
なるほど。
つまり、匙は迷ったんだな・・・・
この本邸、かなり広いから迷うのも分かるけどね。
近くの椅子に座る匙。
「聞いたぜ、兵藤。おまえ、ゲームに出られないんだってな」
「あー、やっぱり情報いってたのか」
そう、結局俺はゲームに参加することが出来なくなった。
決まったのは昨日。
理由はアザゼル先生が言ってた通りで、俺の実力が皆とかけ離れているからだそうだ。
俺も出たかったなー。
「会長も残念がってたよ。全力のグレモリー眷属とゲームをしたかったってな」
「そっか。でも、俺がいなくても他の皆がいる。舐めてもらっては困るな」
「舐めるわけがねぇだろ。木場達も強いのは十分承知してる。・・・・だから、今度のゲームでは全力でいかせてもらうぜ。そのために俺だって修行したんだからな」
やっぱりシトリーの方も修行してたんだな。
匙のオーラが以前よりもかなり上がってる。
相当ハードなメニューをこなしたんだろうな。
「そうそう。俺、おまえに礼が言いたかったんだ」
はて?
俺、こいつに何かお礼を言われるようなことしたかな?
「この間、若手悪魔が集まった時のことだ。会長の夢が上の連中に笑われただろ。・・・・あの時、怒ってくれてありがとな」
「なんだ、そんなことかよ。いいよ、お礼なんて。同じ学園に通う仲間として当然のことをしただけだしな」
「それでも俺は嬉しかったんだ。おまえが会長の・・・・俺達の夢を認めてくれたようでさ」
ソーナ会長の夢。
それは冥界に新しいレーティングゲームの学校を作ること。
それは上級悪魔や特定の悪魔だけじゃない、全ての悪魔が通える差別のない学校だ。
それは匙達の夢でもあるらしい。
「認めるもなにも、最高の夢じゃないか」
「ああ。だから俺達は何がなんでも夢を叶えるぜ。そのためにも今度のゲーム、絶対におまえ達に勝つ!」
「いや、勝つのは俺達さ!・・・・まぁ、俺は出ないけど。木場、何か言ってやれ」
俺が振ると木場は苦笑する。
「・・・・そこで僕に振るんだ。まぁ、でも僕達が勝つよ。絶対に負けないよ、匙君」
木場は不敵に笑みを浮かべて答える。
匙も笑っているけど瞳は真剣そのものだ。
すると、部屋の扉が開いた。
「お待たせ、イッセー、祐斗。あら、匙君も来ていたのね」
そこにはドレスアップした部員の面々。
化粧もしてドレスを着こんで髪も結ってる!
皆、お姫様みたいだ!
まぁ、部長は本物のお姫様だけど。
朱乃さんも今日は西洋ドレス姿!
メチャクチャ似合ってる!
超絶を遥かに超えた美人さんだよ!
アーシアや小猫ちゃん、ボーイッシュなゼノヴィアも似合ってる!
さて、問題はこいつか・・・・
「おい、ギャスパー。なんでおまえまでドレスなんだ?」
「だ、だって、ドレス着たかったんだもん」
こいつは・・・・
「サジもここにいたのですね」
同じくドレスアップしたソーナ会長。
うーん、可愛い!
「うおおおおお! 会長ぉぉぉ!! メチャクチャ可愛いですぅぅぅ!!!」
匙が興奮して鼻血を吹き出していた。
服、汚れるぞ?
「いいなー、ボクも行きたかったよ」
部員の後ろからひょっこり現れたのは私服姿の美羽。
美羽は今日もお留守番だ。
まぁ、悪魔のパーティーだからね。
仕方がないさ。
「カッコいいよ、その服」
「ありがとな。まぁ、こういう堅苦しい服は苦手なんだけどね」
「ダメだよ。こういうのはちゃんとした服を着ないと」
おお、流石は元姫。
こういうのは厳しいぜ。
「美羽が来れないのは残念だな。美羽のドレス姿も見たかったよ」
「本当? なら今度、着て見せようか?」
「見たいけど・・・・そこまで気を使わなくてもいいよ。それより、今日はどうするつもりだ? 一人だと暇だろ?」
「大丈夫だよ。リアスさんのお母さんに冥界の料理を教えてもらうことになってるから」
へぇ、そうだったのか。
というより、ヴェネラナさんも料理出来たんだな。
いや、部長も料理は出来るし、母親のヴェネラナさんが出来ても不思議ではない、かな?
そんなことを考えていると部屋の扉が再び開き、執事さんが入ってきた。
「失礼します。タンニーン様とその眷属の方々がいらっしゃいました」
▽
庭に出てみるとタンニーンのおっさんの他にもおっさんと同じくらいの大きさのドラゴンが十体もいた。
圧巻だな。
おっさんの眷属って全部ドラゴンだったのか。
「約束通り迎えに来たぞ、兵藤一誠」
「ありがとう、おっさん」
「おまえ達が背に乗ってる間は特殊な結界を発生させておくから、衣装や髪が乱れる心配はない。気軽にしてくれ」
おお!
この気の遣いよう、流石はおっさんだ!
紳士だぜ!
「ありがとう、タンニーン。シトリーの者もいるのだけれど、頼めるかしら?」
「おお、リアス嬢。美しい限りだ。もちろん良いぞ」
こうして、俺達はドラゴンの背に乗り会場へと向かった。
俺はおっさんの頭に乗り、空を見渡す。
ドラゴンの背から見る風景は絶景だな!
『まさか、ドラゴンの上からこの風景を見ることになるとはな』
ドライグが苦笑している。
ドライグもドラゴンだもんな。
何とも言えない体験なのだろう。
「あー、そう言えばおっさんに聞いてみたいことがあったんだった」
「なんだ?」
「どうして悪魔になったんだ?」
「まぁ、理由は色々あるが、一番の理由はドラゴンアップルだな」
「ドラゴンアップル? なにそれ?」
「龍が食べるリンゴのことだ」
そのまんまだな。
「とあるドラゴンの種族にはそれでしか生きられないものもいてな。人間界にも実っていたのだが、環境の変化により絶滅してしまったのだ」
「それヤバいんじゃないの?」
「ああ。それによりドラゴンアップルは冥界にしか存在しなくなってしまった。冥界で得ようにもドラゴンは嫌われ者だ。悪魔にも堕天使にも忌み嫌われている。―――だから、俺は悪魔となり、実の生っている地区を丸ごと領土にしたのだよ。上級悪魔以上になれば、魔王から冥界の一部を領土として頂戴できる。俺はそこに目をつけたのだ」
「ということは、そのドラゴンの種族はおっさんの領土に住んでいるのか?」
「そうだ。今ではドラゴンアップルを人工的に実らせる研究も行っている。特別な果実だから時間はかかるだろう。それでもその種族に未来があるのなら価値はある」
すごいな。
一つの種族を助けるためにそこまで出来るのか。
おっさんこそ、龍の王って感じだよな。
「やっぱり、おっさんは良いドラゴンだよ」
「ハハハハハハッ! そんな風に言われたのは初めてだ! しかも赤龍帝からの世辞とは痛み入る! だがな、俺は大したことはしていない。種族を存続させるのはどの生き物とて同じことよ。力のある者は力の無い者を救う。これは当然のことだとは思わんか?」
「ああ。だけど、その当然が難しいんだよ。それが出来るおっさんはやっぱりすごいと思うぜ?」
「そうか」
おっさんはそう言うとフッと笑った。
▽
会場の近くに到着した後、タンニーンのおっさんとは一度別れて俺たちはパーティー会場に向かっていた。
別れた場所から会場までは少し距離があり、グレモリー眷属とシトリー眷属は用意されたリムジンで移動し、そして会場である超高層高級ホテルに入っていく。
あっちこっちに武器を持った兵士の人が目に写る。
魔王主催のパーティーだからか警備が厳しいんだろうか?
そうこうしてるうちにリムジンはホテルの入口に到着。
リムジンから降りると大勢の従業員の人が迎え入れてくれた。
朱乃さんがフロントで確認を取り、エレベーターへ。
「最上階の大フロアが会場のようね」
ここの最上階って何階なんだ?
エレベーターの表示を見てみると・・・・・に、二百っ!?
流石は冥界、スケールが桁違いだ。
俺が建物の階数に驚いているうちに最上階に到着し、エレベーターが開く。
一歩出ると会場の入口が開かれ、きらびやかな空間が俺達を迎え入れた!
フロア全体に大勢の悪魔とうまそうな料理の数々!
天井には巨大なシャンデリア!
豪華すぎるぜ!
『おおっ』
部長の登場に会場にいた人達が注目し、感嘆の声を漏らしていた。
「リアス姫はますますお美しくなられた・・・・」
「サーゼクス様もご自慢でしょうな」
流石は部長。
どこに行っても注目の的だ。
「・・・人がいっぱい・・・・」
おどおどしてるけど普通についてきているギャスパー。
さっそく修行の成果が出てるな。
以前ならダンボールに逃げ込んでいただろうに。
後で誉めてやろう。
「イッセー、挨拶まわりするからついてきて」
「へ? あ、分かりました」
冥界では俺の存在を知っている人は多く、挨拶をしたいっていう上級悪魔の人達が大勢いるらしい。
皆、俺のことに興味津々のようだった。
▽
「あー、疲れた」
あいさつを終えて、俺はフロアの端にある椅子にアーシアとギャスパーとの三人で座っていた。
部長と朱乃さんは遠くの方で女性悪魔の人達と談話してる。
木場は女性悪魔の人達に囲まれてキャーキャー言われていた。
クソ! やっぱりイケメンは敵だ!
あー、もう帰りたくなってきた。
だって挨拶長いんだもん。
しかも中にはトレードしないか、とかふざけたことを言ってくるやつもいたし。
トレードというのは王の悪魔の間で同じ駒同士の眷属を交換する制度のことだ。
つまり、俺を自分の眷属にしたいから自分の眷属と交換してくれと言う意味だ。
全くもってふざけてるな。
『(悪魔というのは本来、欲が強い種族。それゆえ相棒のような強者を自分の配下にしたいという者も出てくるだろうさ)』
そういうのは全部お断りだぜ。
俺は部長以外に主を持つつもりはないからな。
「イッセー、アーシア、ギャスパー、料理をゲットしてきたぞ、食え」
ゼノヴィアが料理が乗った大量の皿を器用に持ってやってきた。
「サンキュー、ゼノヴィア」
「このくらいお安いご用だ。ほら、アーシアも飲み物くらいは口をつけておけ」
「ありがとうございます、ゼノヴィアさん。・・・・私、こういうのは初めてで、緊張して喉がカラカラでした・・・」
アーシアはゼノヴィアからグラスを受けとると口をむける。
俺も料理を受け取り、口に運ぶ。
うーん、美味い。
俺が料理に舌鼓を打っていると、人が近づいてきた。
ドレスを着た女の子だった。
「お、お久しぶりですわね、赤龍帝」
「えーと、レイヴェル・フェニックスだっけ?」
「そうですわ」
そう、部長の元婚約相手、ライザーフェニックスの妹。
いやー、懐かしいな。
数ヶ月ぶりか?
「元気そうだな。そういえば兄貴は元気か?」
ライザーのことを聞いたら、レイヴェルは盛大にため息をついた。
「・・・・あなたに敗北してから塞ぎ込んでしまいましたわ。負けたこととリアス様をあなたに取られたことがショックだったようです。いえ、それ以前にあなたが最後に放った一撃。あの時の恐怖心が未だに残っているようですわ」
あらら・・・
部長から引きこもってるって話は聞いてたけど、本当だったんだな。
「まぁ、才能に頼って調子に乗っていたところもありますから、良い勉強になったはずですわ」
手厳しいな。
兄貴もバッサリ切りますか。
「・・・・容赦ないね。一応、兄貴の眷属なんだろう?」
「それなら問題ありませんわ。今はトレードを済ませて、お母様の眷属ということになってますの。お母様はゲームをしませんから実質フリーの眷属ですわ」
へぇ、今はライザーの眷属じゃないのか。
「と、ところで赤龍帝・・・・」
「そんなに堅くならなくても良いって。普通に名前で呼んでくれ。皆からは『イッセー』って呼ばれてるしさ」
「お、お名前で呼んでもよろしいのですか!?」
・・・・なんで、そんなに嬉しそうにしてるんだ?
「コ、コホン。で、ではイッセー様と呼んで差し上げてよ」
「いやいや、『様』は付けなくて良いって」
「いいえ! これは大事なことなのです!」
・・・・そ、そうなのか?
うーん、良く分からんね。
そこへ更に見知ったお姉さんが登場した。
「レイヴェル。旦那様のご友人がお呼びだ」
この人はライザーの戦車、イザベラさんだ。
「分かりましたわ。では、イッセー様、これで失礼します。こ、今度お会いできたら、お茶でもいかがかしら? わ、わわ、私でよろしければ手製のケーキをご用意してあげてもよろしくてよ?」
レイヴェルはドレスの裾をひょいと上げ、一礼すると去っていった。
良くわからん娘だなぁ。
「やぁ、兵藤一誠。会うのはゲーム以来だ」
「ああ、久しぶりだ、イザベラさん」
「ほう、私の名前を覚えていてくれたとは、嬉しいね。君の噂は聞いているよ。大活躍しているようじゃないか」
「そこまで活躍した記憶は無いんだけどね。・・・・一つ聞いていいか?」
「なんだい?」
「俺、レイヴェルに何かしたかな? 俺と話している時、メチャクチャ緊張してるみたいだったからさ」
俺がそう尋ねるとイザベラさんは苦笑する。
「君を怖がってるとかそんなんじゃないから安心してほしい。・・・・正確にはその感情とは全く逆な訳だが・・・。まぁ、それは私からは言わない方が良いだろう」
「? 良くわからないけど・・・・、お茶はOKだと言っておいてくれ」
「本当か? それはありがたい。レイヴェルも喜ぶ。では、私もこれにて失礼する。兵藤一誠、また会おう」
イザベラさんはこちらに手を振って去っていった。
「・・・イッセー先輩って、悪魔の人と交友が多いんですね」
ギャスパーが尊敬の眼差しでそう言うんだけど・・・・。
そんなに多いかな?
すると、俺の視界に小さな影が映った。
―――小猫ちゃんだ。
何やら急いでいる・・・・というより何かを追いかけている?
なんだ・・・・?
嫌な予感がする・・・・。
「アーシア、ゼノヴィア、ギャスパー。俺、少しここを離れるわ」
「どうしたんですか、イッセーさん? もうすぐサーゼクス様の挨拶が始まりますよ?」
「ちょっと用を思い出してな。すぐに戻ってくるさ」
「分かった。私達はここにいるぞ」
俺は席を立って小猫ちゃんを追いかける。
エレベーター?
下に向かっているのか?
隣のエレベーターの扉が開き、俺はそれに乗り込む。
すると、俺に続いてエレベーターに乗ってきた人がいた。
「部長?」
「イッセー、私も行くわ。小猫を追いかけているのでしょう?」
「あ、部長も気づいたんですね」
「当然よ。私はいつでもあなた達のことを見ているのだから」