ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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6話 猫の涙

「はい、そこでターン。そうそう、中々良い感じよ。思っていたより上手いわ。どこかで習ってたのかしら?」

 

グレモリー本邸から少し離れたところにある別館。

 

俺はそこの一室でヴェネラナさんからダンスの指導を受けていた。

 

 

・・・・・なぜ俺はこんなことをしているんだろう?

 

ヴェネラナさんに会うなり、案内されて、そのままダンスの練習だ。

 

ここでも、アリスから受けた指導が役立っていた。

 

ところどころぎこちないけど、ある程度は出来ているみたいで、ヴェネラナさんも誉めてくれた。

 

 

ヴェネラナさんとの密着状態でダンスレッスン・・・・

 

美人だし可愛いから、意識してしまうぜ!

 

それにおっぱいが大きくて柔らかい!

 

おっぱいが当たって、色々反応しちゃってます。

 

ヴェネラナさん、気付いてないよね・・・?

 

気付かれたら、問題になりそうだ。

 

静まれ、俺!

 

 

 

「少し休みましょうか」

 

ふぅ、何とかやり過ごしたぞ。

 

俺は近くに置いてあった椅子に座る。

 

いやー、やっぱりこういうのは苦手だ。

 

まぁ、おっぱいの感触を楽しめるところは良いんだけどね。

 

 

「あの~」

 

「何かしら?」

 

「どうして俺だけ? 木場とギャスパーは?」

 

そう、ずっと疑問だった。

 

グレモリーの勉強会もそうだし、このダンスレッスンもそうだ。

 

紳士を教え込むならあの二人もいるじゃないか。

 

「祐斗さんは既にこの手の技術は身に付けています。ギャスパーさんも吸血鬼の名家の出身だけあって、一応の作法は知っています。問題は人間界の平民の出である一誠さんです。・・・・ですが、夕食の時の作法といい、このダンスといい、ある程度のことを身に付けているようで驚きました」

 

ヴェネラナさんは感心したように言う。

 

まぁ、これも異世界での経験が活きたってところかな。

 

アリスが「いつか役に立つから覚えておきなさい」と言って教えてくれたんだけど、本当に役に立つ日が来るなんて思ってなかったよ。

 

アリス、マジでありがとう。

 

 

「まだ完璧とまではいきませんが、今の一誠さんならリアスと社交界に出ても恥をかくことはないでしょう」

 

ヴェネラナさんが微笑みながらそう言ってくれた。

 

どうやら、部長の顔に泥を塗ることにはならなさそうだ。

 

 

 

さて、良いタイミングだし聞いてみるか。

 

正直、本人の許可も得ずに勝手に聞くことに気が引けるけど、ここ数日ずっと気になっていたことだ。

 

「もう一つ質問いいですか?」

 

「ええ、なんでも聞いてください」

 

「小猫ちゃんが自ら封じている力についてです。オーバーワークで倒れたって聞きました。小猫ちゃんはいったい、何と戦ってるんですか?」

 

俺の質問にヴェネラナさんは軽く息を吐く。

 

それから、対面の椅子に座り俺と向かい合う。

 

そして、とある話を語り出した。

 

 

 

「昔、姉妹の猫がいました」

 

それは二匹の猫の話だった。

 

 

 

 

 

親も家も失った二匹はお互いを頼りに懸命に生きていた。

 

寝るときも、食べるときも、遊ぶときも、ずっと一緒。

 

ある日、二匹は悪魔に拾われることになる。

 

姉はその悪魔の眷属となることで、姉妹はまともな生活を送れるようになり、幸せな日々を過ごしていった。

 

 

・・・・しかし、その生活は長くは続かなかった。

 

 

転生悪魔となった姉猫は秘められていた力が一気に溢れだし、急速な成長を遂げたそうだ。

 

その猫の種族はもともと妖術の類いに秀でていた。

 

その上、魔力の才能も開花し、仙人のみが使えるという仙術まで発動することになる。

 

短期間で主を超えてしまった姉猫は力に呑まれ、ついには主を殺害した後、姿を消してしまう。

 

そう、姉猫は『はぐれ』となったのだ。

 

追撃部隊は『はぐれ』となった姉猫を追ったが、ことごとく返り討ちにあい、壊滅したそうだ。

 

これを知った悪魔達はその姉猫の追撃を一旦取り止めたという。

 

 

 

そして、当時の悪魔達は残った妹猫に責任を追求することにした。

 

『妹も姉と同じように暴走するに違いない。今のうちに始末した方がいい』―――――と

 

 

 

 

 

 

「でも、妹猫には罪はありませんよね?」

 

「ええ。今、あなたが言ったようにサーゼクスが妹には罪は無いと、上級悪魔の面々を説得したのです。そして、サーゼクスが監視することで処分は免れました」

 

「それでも、妹猫が負った心の傷は大きいんじゃ・・・・」

 

「はい。ですから、サーゼクスは笑顔と生きる喜びを与えてやってほしい、と妹猫をリアスに預けたのです。妹猫はリアスと接していくうちに少しずつ心を開いていったのです。そして、リアスはその猫に名を与えたのです―――小猫、と」

 

 

・・・・小猫ちゃんの過去か。

 

つまり、小猫ちゃんの正体は―――

 

「彼女は元妖怪。猫の妖怪、猫又。その中でも最強の種族、猫魈の生き残りです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、部長。お久しぶりです」

 

「イッセー!」

 

ダンスレッスンも終わり、一旦本邸に移動した俺を迎え入れてくれたのは部長だった。

 

こうして会うのは5日ぶりか。

 

なんてことを考えていると部長が抱き着いてきた!

 

ああ、部長からいい匂いが・・・

 

「ああ、イッセーの匂い・・・。イッセーったらこの数日で一層逞しくなったんじゃない?」

 

「まぁ、龍王二人と修行してますからね。嫌でも筋肉はつきますよ」

 

「ちゃんと眠れてる? 食事は? 私はあなたと共に寝ることができなくて寂しいわ・・・」

 

ああああ!

 

そんなに瞳を潤ませながら言わないで下さいよ、部長!

 

思わず、抱きしめたくなるじゃないですか!

 

 

はっ!

 

そうじゃないそうじゃない。

 

それよりも先にすることがあるんだった。

 

「部長、小猫ちゃんは?」

 

部長は険しい顔になる。

 

「ええ、着いて来て」

 

 

 

 

 

 

部長に案内され入室したのはグレモリー本邸にあるメディカルルームだった。

 

ここで小猫ちゃんが安静にしているらしい。

 

 

部屋に入るとそこは広い部屋で、学校の保健室みたいな部屋だった。

 

部屋の方に足を進めると、朱乃さんがベッドの脇で待機しており、そのベッドには小猫ちゃんが横になっていた。

 

「!」

 

俺は小猫ちゃんの頭に生えているものを見て驚いた。

 

小猫ちゃんの頭にあるもの、それは―――――猫耳。

 

やっぱり、猫の妖怪だってのは本当のことらしい・・・

 

 

いや、そんなことはどうでも良くなるくらい、可愛い!

 

ラブリーだよ、小猫ちゃん!

 

 

おっと、今はそれどころじゃないんだった。

 

「イッセー君、これは―――」

 

俺が小猫ちゃんの猫耳に反応したせいか、朱乃さんが説明しようとする。

 

それを俺は手で制する。

 

「大丈夫ですよ。大体の話は聞いているので」

 

俺はそう答えるとベッドの脇に移動して小猫ちゃんの様子を伺う。

 

特にこれといったケガは見受けられない。

 

まぁ、ケガならアーシアの治療で一発だろう。

 

問題は小猫ちゃんの気が結構乱れてる点か・・・・

 

オーバーワークの影響だろう。

 

「・・・・何をしにきたんですか?」

 

不機嫌そうな声音だ。

 

俺が来たのを怒ってるのかな?

 

「そうだな・・・・・小猫ちゃんが心配だから来たってのと、あとは治療をしにきたってところかな」

 

「・・・・治療ならアーシア先輩にしてもらいました」

 

「ああ。でも、アーシアが直せるのはケガだけだ。乱れた気までは直せない。・・・・・小猫ちゃん、少し頭を触るよ」

 

俺は小猫ちゃんの頭に手を置く。

 

意識を集中して、小猫ちゃんの気を整える。

 

・・・・思った以上に乱れてるな。

 

これは相当無茶をしたな。

 

 

「うん。これでよし。体が大分楽になったんじゃないかな? 治癒能力も上げておいたから、すぐにベッドから起きれるようになるよ」

 

気の調整が終わったので小猫ちゃんの頭から手を離す。

 

・・・・猫耳、フワフワしてて気持ち良かった。

 

 

それにしても、ブスッとしたまま、小猫ちゃんは何も答えてくれないな。

 

「小猫ちゃん、なんでオーバーワークなんてしたんだい?」

 

「・・・・なりたい」

 

小猫ちゃんが小さく呟く。

 

「え? なに?」

 

俺が訊き返すと小猫ちゃんは目に涙を溜めながら、ハッキリとした口調で言った

 

「強くなりたいんです。祐斗先輩やゼノヴィア先輩、朱乃さん・・・・そしてイッセー先輩のように心と体を強くしていきたいんです。ギャーくんも強くなってきています。アーシア先輩のように回復の力もありません。・・・・このままでは私は役立たずになってしまします・・・・・・。『戦車』なのに、私が一番・・・・・弱いから・・・・・・。お役に立てないのはイヤです・・・・・」

 

「小猫ちゃん・・・・」

 

それを気にしていたのか・・・・。

 

小猫ちゃんは涙をボロボロとこぼしながら続ける。

 

「・・・・・けれど、内に眠る力を・・・・・・猫又の力は使いたくない。使えば私は・・・・・・姉さまのように。もうイヤです・・・・・もうあんなのはイヤ・・・・・・」

 

俺は初めて小猫ちゃんのこんな泣き顔を見た。

 

今まで感情をあまり出さない子だったから、少し驚いている。

 

「でもね、小猫ちゃん。それだったら、尚更無理をしてはいけない。オーバーワークなんてものは小猫ちゃんの将来を奪う可能性だってあるんだ。・・・・本当に強くなりたいのなら、自分を受け入れるしかないんだよ。最後に頼れるのは自分なんだからさ。それに小猫ちゃんがお姉さんと同じようになるとは限らないだろ?」

 

「・・・・・・・あなたに何が分かるんですか?」

 

そう呟くと、小猫ちゃんがこちらを睨んできた。

 

「イッセー先輩が私の気持ちの何が分かるんですか! イッセー先輩は体も心も強いからそんなことが言えるんです! あなたは強いから・・・・・ッ! あなたに弱い私の気持ちなんて分からない!」

 

そう怒鳴り、肩で息をする小猫ちゃん。

 

部長や朱乃さんもこれには驚いている。

 

「・・・・小猫」

 

部長がそう声をかけると小猫ちゃんは、我に戻ったのか、体をプルプルと震わせる。

 

「・・・・ごめん、なさい・・・・私・・・・そんな、つもりじゃ・・・・」

 

両肩を抱き、震えを止めようとしているけど、一向に止まらない。

 

涙も止まらなくなっているようだった。

 

 

俺は側に合った椅子に腰掛け、小猫ちゃんと向かい合う。

 

「気にしなくてもいいよ、小猫ちゃん。とりあえず落ち着いて。部長、水をお願いできますか?」

 

部長は頷くとコップに水を入れて持ってきてくれた。

 

小猫ちゃんはそれを受け取り、口をつける。

 

「落ち着いたかな?」

 

「・・・・少し」

 

まだ、少し体が震えてるけど、さっきよりはマシになってるな。

 

「部長、朱乃さん。俺達を二人にしてくれますか? 二人で話がしたいんです」

 

俺がそう言うと二人は頷いて、部屋を後にした。

 

 

それを確認すると俺は小猫ちゃんと再び向き合う。

 

「さっきはゴメンな。俺、少し無神経だったよ」

 

「・・・・そんなこと、ないです。・・・・悪いのは私」

 

小猫ちゃんの言葉に俺は首を横に振る。

 

「いや、実際俺は小猫ちゃんの気持ちを分かってやれなかった。・・・・ギャスパーの時だってそうだ。俺は自分の力を恐れたことがないんだ。俺はそんなことを考える余裕が無かったから・・・・。・・・・・・でもな、弱いやつの気持ちは分かるつもりだ。俺も昔は本当に弱かった・・・」

 

「・・・・イッセー先輩が弱いところなんて信じられません」

 

そう言ってくれる小猫ちゃんに俺は苦笑する。

 

「いやいや、俺は本当に才能が無くてさ。ドライグも最初は呆れてたんだぜ? 出会った瞬間に『今回はハズレか・・・・』なんて言ってきたからな。・・・・あれ? 前にも俺は才能が無いって言わなかったっけ?」

 

「・・・・ただの謙遜だと思っていました」

 

あらら・・・・

 

そういう風に捉えられていたのね・・・・

 

皆、俺のこと過大評価しすぎだぜ。

 

「まぁ、そういう訳で俺は強くなるために、ただひたすらに力を求めた。修行して何度も死にかけたこともあった。それでも力を求めて修行したんだ」

 

 

よくよく考えたら、俺がやってきた修行ってオーバーワークとか、そういうレベルを超えてるな。

 

崖の上から蹴落とされたりもしたし・・・・・

 

よく生きて乗り越えたもんだ。

 

 

「・・・・どうして、そこまで・・・・?」

 

小猫ちゃんの問いに俺は静かに答えた。

 

「守りたいものがあったから」

 

「・・・・!」

 

俺の答えに小猫ちゃんは目を見開く。

 

今の言葉にどこか思うところがあるのだろう。

 

「さっき、俺は小猫ちゃんはお姉さんと同じになるとは限らないって言ったよね?」

 

「・・・・はい」

 

「あれは確信を持って言えるよ」

 

「・・・・どうしてですか?」

 

「力に呑まれる人は、そもそも自分の力を恐れたりしないからさ。・・・・・それに、守りたいものがあるなら尚更ね。小猫ちゃんにも守りたい人がいるんでしょ?」

 

小猫ちゃんは窓の外を眺める。

 

そして、小さく口を開いた。

 

「・・・・・私は部長を・・・・リアス様を守りたい。私を救ってくれたリアス様のお役に立ちたいです」

 

それを聞いた俺は笑みを浮かべ、小猫ちゃんの頭を撫でた。

 

「だったら大丈夫さ。その気持ちを強く持っていれば小猫ちゃんは力に呑まれたりしないよ」

 

すると、小猫ちゃんは俯き、シーツをギュッとその小さな手で握った。

 

まだ、不安が残ってるみたいだ。

 

「それでも恐いなら、俺が一緒に小猫ちゃんの力に向き合ってやる」

 

「・・・え?」

 

小猫ちゃんは顔を上げて、俺の顔を見る。

 

そんな小猫ちゃんに対して俺はもう一度言う。

 

「小猫ちゃんがその力に向き合うのなら、俺は力を貸すぜ。それに、もしも小猫ちゃんが力に呑まれそうになったのなら、俺が全力で止めてやる」

 

「・・・・・・・」

 

小猫ちゃんは何も言わず、しばらくの間、ただ俺の顔をじっと見るだけだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・ありがとう、ございます。イッセー先輩」

 

 

小猫ちゃんはそう言うと涙を流しながらも微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、少し経った頃。

 

 

「ねぇ、小猫ちゃん」

 

「・・・・なんですか?」

 

「猫耳、触っていい?」

 

「・・・・なんでですか?」

 

「いや、さっき触った時、スゲー気持ちよくてさ。なんか、フワフワしてて」

 

 

俺がそう言うと小猫ちゃんは薄く頬を染めながら、

 

「・・・・そんなことを考えてたんですか・・・・やっぱり、イッセー先輩はドスケベです」

 

「え!? なんで!?」

 

 

うん。

 

やっぱり小猫ちゃんはこうじゃないとね。

 


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