「―――さて、行きましょうか」
部室に集まるオカルト研究部の面々が部長の言葉に頷く。
今日は三勢力の会談の日だ。
さっき外を見てきたけど学園全体を強力な結界が覆っていて会談が終わるまで誰一人として中には入れないし、帰れないようになっている。
更には悪魔、天使、堕天使の軍がそれぞれこの学園前に待機していて、今にも戦争が勃発しそうだ。
はぁ、交渉決裂で即戦争とかマジで勘弁してくれよ?
まぁ、三大勢力のトップの人達の性格は知ってるから大丈夫だと思うけどさ。
「ギャスパー、今日の会談は大事な物なの。時間停止の神器を制御できない貴方は参加することはできないの。ごめんなさいね」
部長が優しく告げた。
ギャスパ―はまだ神器を制御できていない。
もし、何かのショックで会談中に発動してしまっては問題なので今回は留守番だ。
「ギャー君、大丈夫。私もいるから」
「ボクもいるしね」
そう、留守番するのはギャスパーだけじゃないんだ。
小猫ちゃんと美羽はここに残ってギャスパーの話し相手だ。
ギャスパーは特に美羽になついているようなので適役だ。
「小猫ちゃん・・・・美羽先輩・・・・ありがとうございますぅ」
「おとなしくしてろよ? ゲーム機、貸してやるからさ」
「はい! イッセー先輩、ありがとうございますぅ!」
すると、小猫ちゃんが大きな段ボール箱を持ってきた。
中には大量のお菓子。
「ギャー君、お菓子もたくさん用意したから」
「ありがとう、小猫ちゃん!」
うーん、あれは自分用では?
「紙袋もあるから寂しくなったら存分にかぶれ」
「はい!」
よし、良い子だ。
俺は立ち上がると、美羽の方を見る。
「ギャスパーのこと頼むな」
「任せて。お兄ちゃんこそ会談の方、頑張ってね」
「俺が頑張ることは特に無いと思うんだけどなぁ。じゃあ、行ってくるよ」
「うん。いってらっしゃい」
▽
コンコン、部長が会議室の扉をノックする。
「失礼します」
部長が扉を開けて中に入るとそこには……
特別に用意したであろう豪華絢爛なテーブルを囲むように各陣営のトップが真剣な表情で座っている。
悪魔側はサーゼクスさんとセラフォルーさん。それから給仕係のグレイフィアさん。
流石のセラフォルーさんも今日は魔女っ子の姿じゃなかった。
天使側はミカエルさんと知らない天使の女の子。
美人だな。
まるで、天使のようだ!
あ、天使か・・・
堕天使側はアザゼルさんと白龍皇ヴァーリ、それからレイナだった。
俺に気づいたレイナが微笑む。
うん、かわいい。
ヴァーリも俺の方を見てくるけど・・・・男の視線なんかいらねぇ。
「私の妹と、その眷属だ。先日のコカビエル襲撃では彼女達が活躍してくれた」
サーゼクスさんが他の陣営のトップに部長を紹介する。
部長も会釈していた。
「報告は受けています。コカビエル襲撃の件はご苦労様でした」
ミカエルさんが部長へお礼を言う。
「悪かったな。俺のとこのコカビエルが迷惑かけた」
あまり悪びれた様子もなく、アザゼルさんが言う。
そんな態度に部長は目元を引き攣らせていた。
スパンッ!
突如、小気味良い音が部屋に響いた。
レイナが何処からか出したハリセンでアザゼルさんの頭を叩いたんだ。
「痛って! 何しやがるレイナーレ!」
「それはこっちのセリフです! 迷惑をかけたのはこちらの陣営なんですから失礼のないようにして下さい!」
「だからって、ハリセンで叩くことはないだろ!」
「シェムハザ様に総督が失礼なことをするようであれば遠慮なく叩けと言われましたので」
「あの野郎!」
おいおい・・・・
いきなり緊張感が無くなったぞ・・・・
見てみろ、この部屋にいる全員が苦笑いしてるじゃねぇか。
いや、サーゼクスさんだけ爆笑してる・・・・
良いの?
今から超真面目な話をするんだろ?
この空気ではじめても良いの?
「いやいや、何時ものことだがアザゼルの周りは愉快な者が多いな」
「勘弁してくれよ、サーゼクス・・・・・。俺、このところずっとこの調子なんだぜ? いつか過労死するぞ・・・・。あ、思い出した。この間のラーメン代返してくれ。1050円」
「おっと、すまない。ふむ・・・50円のお釣りはあるかい?」
「ちょっと待て・・・・・。おー、あったあった。ほれ釣りだ」
なにやら、財布を取り出して庶民的なやり取りを始めた二人。
いや、あなた達本当に何しに来たの?
つーか、二人でラーメン食いに行ったのかよ・・・・
敵同士でしょうが!
「サーゼクス様、私に黙って勝手なことをされていたようですね・・・・後でご説明願います」
「総督。今の話はきっちりシェムハザ様に報告するのでご覚悟を」
「「・・・・・・」」
グレイフィアさんとレイナに言われて黙りこむ二人。
額には冷や汗が流れてる。
「では、会談を始めよう」
え!?
この流れで始めるんですか、サーゼクスさん!?
▽
「この会談の前提条件として、この場にいる者達は『神の不在』を認知している」
サーゼクスさんはそう言うと皆を見渡す。
とくに返事がないのは言うまでもなく全員が知っているからだ。
「では、それを認知しているものとして、話を進める」
サーゼクスさんのその一言で三大勢力のトップ会談が始まった。
・・・・・・・・・
「と言う様に我々天使は……」
「そうだな、その方が良いかもしれない。このままでは確実に三勢力とも滅びの道を……」
「ま、俺らには特に拘る理由もないけどな」
悪魔、天使、堕天使のトップたちが貴重な話をしている。
正直言って、この世界の事情をあまり知らない俺にとってはちんぷんかんぷんだ。
話の内容についていけていない。
うーん、重要な話なのは分かるけど、中身が分からないんじゃあな・・・・・
仕方がない、皆のおっぱいでも眺めていよう。
部長も朱乃さんも大きいよなぁ。
ゼノヴィアやレイナも良いおっぱいなんだよな。
アーシアも最近はけっこう成長してきている。
揉みたい。触りたい。つつきたい。
「―――以上が私、リアス・グレモリーと、その眷属悪魔が関与した事件です」
おっと、妄想している間に部長の報告が終わってしまった。
すると、朱乃さんがクスクスと笑いながら小さく言ってきた。
(イッセー君、さっきから皆のおっぱいを眺めていましたね)
バレてた・・・・
(そんなにおっぱいが気になるなら後で触らせてあげますわ)
マジですか、朱乃さん!
良いんですか!?
(ダメよ。朱乃もイッセーを誘惑しないでちょうだい)
はう!
横から部長に注意されてしまったぜ!
「さてアザゼル。この報告を受けて、堕天使総督の意見を聞きたい」
その言葉に皆が注目すると、アザゼルさんは不敵な笑みを浮かべて話始めた。
「先日の事件は我が堕天使中枢組織『
ミカエルさんが嘆息しながら言う。
「説明としては最低の部類ですね。しかし、あなた個人が我々と大きな事を構えたくないという話は知っています。それは本当なのでしょう?」
「ああ、俺は戦争になんて興味ない。コカビエルも俺のことをこきおろしていたと、そちらでも報告があったじゃないか」
アザゼルさんの言葉にサーゼクスさんとミカエルさんが頷く。
確かに、コカビエルはあのときアザゼルさんをかなり悪く言ってたな。
まぁ、俺もこの人の性格は知ってるから戦争に興味がないのが本当だということは分かる。
神器大好きのサボり総督だもんなぁ。
「それで、俺も一つ聞きたいことがある。少し話が脱線することになるが許してくれ」
「まぁ、内容にもよりますが・・・」
「アザゼル、言ってみてくれ」
「ああ。・・・・・赤龍帝、おまえは何者だ?」
っ!
ここで俺に話を振りますか。
「ヴァーリから話は聞いた。いや、聞かずともコカビエルのあの状態を見れば分かる。コカビエルをああもボロボロにするやつなんざそうはいない」
「そうですね。私も報告を聞いて驚きました。いくら赤龍帝の力を宿しているとはいえ、下級悪魔がコカビエルを倒すとは思いもしませんでした。兵藤一誠君、あなたはいったい・・・・」
アザゼルさんに続きミカエルさんまで聞いてくる。
というより、この部屋にいる全員の視線が俺に集まる。
「先に謝っておく。悪いが、会談にあたり、おまえさんのことは少し調べさせてもらった。おまえは悪魔に転生するまでは普通の高校生だったはずだ。親も普通の人間。先祖に魔術や超常の存在と接触した者はいない。それなのに、おまえは既に禁手に至っている。それもコカビエルを倒すレベルだ。・・・・おまえはどうやって、そこまでの力を手にいれた?」
・・・・さて、どう答えるか。
この人たちを信用していない訳じゃない。
話しても黙っといてくれるはずだ。
ただ、情報というのは何処からか漏れるか分からない。
もし、異世界のことを知られ、美羽の正体まで知られてしまえばどうなるか・・・・
考えるまでもない。
美羽はどこぞの研究対象になるだろう。
下手をすれば何かしらの実験をさせられるかもしれない。
それだけは絶対に避けたい。
俺はあいつをもう悲しませない。
そう誓ったんだ。
だから、この場で異世界のことを言うわけにはいかない。
俺がどう答えるか悩んでいると、先にアザゼルさんが口を開いた。
「いや、すまなかった。言いたくないなら答えなくても良い。俺が気になっただけだからな」
「―――! 良いんですか?」
「そりゃあ、話してくれるならうれしいが、おまえさんは言いたくないんだろう? なら、答えなくて良い。誰でも人には言えないことの一つや二つあるもんさ」
何となく、この人が何だかんだで部下に信頼されているのが分かった。
こう言うところが人に好かれるんだろうな。
「ありがとうございます、アザゼルさん」
アザゼルさんは視線を俺からサーゼクスさん達の方へと戻す。
「話を戻そうか。と言っても俺はこれ以上めんどくさい話し合いをするつもりはない。とっとと和平を結ぼうぜ。おまえらもその腹積もりだったんだろう?」
「「「っ!!」」」
アザゼルさんの言葉に全員が驚いていた。
いや、正確には俺とヴァーリを除いた全員か。
ヴァーリはさっきから興味が無さそうにしてるもんな。
まぁ、俺の話の時は興味を持っていたようだけど・・・。
俺が驚いていないのは、この会談が始めから和平を結ぶものだと思っていたからだ。
皆は何で驚いているんだよ?
『(それはこの三つの陣営の中で堕天使が最も信用されてないからだろう)』
そうなのか?
なんで?
『(考えてみろ。堕天使というのは欲に溺れた天使の成れの果てだ。胡散臭いだろう?)』
あー、なるほど・・・・。
そう考えれば確かに・・・・。
俺はレイナみたいな良い子しか知らないからなぁ。
いや、まぁ、ドーナシークやコカビエルみたいなやつも知ってるけど、悪魔にも『はぐれ』みたいなやつがいるからな。
そのあたりの考えは無かったよ。
サーゼクスさんが言う。
「確かに私も和平の話を持ちかけようと思っていたところだ」
ミカエルさんもそれに続く。
「私も今回の会談で三勢力の和平を申し出るつもりでした。戦争の大元である神と魔王はもういないのですから争う必要はありません」
―――神はもういない
この言葉を聞いて、アーシアとゼノヴィアが暗い顔をする。
この二人はずっと神のことを信じて生きてきたからな。
分かっているとはいえ、辛いんだろう。
「そこでだ。俺達、三竦みの外側にいながら世界を動かせるほどの力を持つ赤龍帝、そして白龍皇。おまえ達の意見を聞きたい。まずはヴァーリ、おまえの考えは?」
「俺は強いやつと戦えればそれでいいさ」
アザゼルさんの問いに、ヴァーリはにべも無く答える。
本当にそれ以外には望んでいないといった様子だ。
バトルマニアかよ・・・・・
次に俺に視線が移り、問われた。
「兵藤一誠。この質問には答えてもらうぜ。おまえさんはどうしたい?」
「どうしたいもなにも、俺は最初から和平を望んでいます。俺は皆と楽しく過ごせたらそれで良いんで」
それに戦争なんざもう二度とごめんだ。
俺は皆と普通の日常を過ごせればそれで良い。
エッチなイベントがあれば最高だけどな!
「さて、話が纏まったところで私も為すべきことをしなければなりませんね。・・・・・アーシア・アルジェント、ゼノヴィア」
「は、はい!」
突然、ミカエルさんに名前を呼ばれたので二人とも緊張してるみたいだ。
ミカエルさんは立ち上がり、アーシアとゼノヴィアの前に来る。
そして、二人に頭を下げた。
「私の力不足で二人には辛い思いをさせてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」
その行動に俺と朱乃さん以外の全員が驚愕していた。
天使のトップが下級悪魔に頭を下げているんだから、当然か。
でも、ゼノヴィアは首を横に振って微笑む。
「頭をお上げください、ミカエル様。長年、教会に育てられた身。多少の後悔もありましたが、私は悪魔としての生活に満足しています。他の信徒には申し訳ないですが・・・」
ゼノヴィア・・・。
ゼノヴィアに続き、アーシアも手を組みながら言う。
「私も今、幸せだと感じています。大切な方達とたくさん出会えました」
ミカエルさんはアーシアとゼノヴィアの言葉に安堵の表情を見せていた。
「あなた達の寛大な心に感謝します」
ここでサーゼクスさんがアザゼルさんに問いかけた。
「アザゼル、あなたは神器を集めているようだが?」
「まぁな。神器の研究は俺の趣味だからな。・・・だがな、神器を集めていたのはとある存在を危惧してのことでもある」
「とある存在? それはいったい――――」
サーゼクスさんが言いかけた時だった。
「――――っ!!」
俺は窓の方へと駆け寄る。
俺の突然の行動にこの場にいた全員が驚いていた。
「イッセー!? どうしたの?」
尋ねてくる部長に俺は静かに答えた。
「―――――敵です」
その瞬間、部屋の中に戦慄が走った。
この気配は旧校舎の方か・・・
なんで旧校舎なんだ?
その時、妙な感覚に襲われた。
この感じ、身に覚えがある。
――――――今のはギャスパーの停止能力が発動した時と似た感覚だ。
▽
部屋を見渡すと、動いている者と止まっている者に分かれていた。
サーゼクスさん、セラフォルーさん、グレイフィアさん、アザゼルさん、ミカエルさん、そしてヴァーリは動けている。
部員はというと
「眷属で動けるのは私とイッセー、祐斗とゼノヴィアだけね」
部長の言う通り、アーシアと朱乃さん、会長と副会長も停止していた。
「上位の力を持った俺たちはともかく、リアス・グレモリーの騎士は聖剣が停止の力を防いだのだろう。そして、リアス・グレモリーが動けるのは止まる瞬間に赤龍帝に触れていたからだろうな」
アザゼルさんが解説してくれた。
窓の外を見ると黒いローブを着こんだ魔術師みたいな連中が次々と現れ、外で止まっている警備の人や施設に攻撃を仕掛けてきた。
「これで、校舎には被害がでないだろう」
サーゼクスさんが俺達がいる新校舎に結界を張る。
これなら攻撃を受けても大丈夫だろう。
「さて、今の状況だが見ての通り俺達はテロを受けている。時間を停止させられ外にいる警備の奴らも全滅だ。そして、時間を停止する能力を持つ奴は少ない。そう考えると・・・」
「っ! まさか、ギャスパーがテロに利用されているというの!?」
部長がアザゼルさんに問う。
まぁ、今の状況をならそう考えるのが普通だろう。
ギャスパーがテロリストに利用されていると。
でも
「それは考えにくいですね」
「なぜそう言えるんだ赤龍帝?」
「簡単な話ですよ、アザゼルさん。今のギャスパーにはあいつが――――俺の妹がついてますから」