ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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新年一発目いっきまーす!



62話 全軍衝突

大地に空いた巨大な穴の底。

暗闇の中から、何かが溢れだしてきた。

地面を揺らしながら、天高く噴き出すそれは雨のように降り注いでいく。

降り注いだそれは俺達を濡らして、

 

「なんだ、これ………この臭いは………」

 

この鉄のような臭いは―――――血だ。

馴染み深いと言ってしまうのはあれだが、この臭いは何度も嗅いできたものだ、間違いない。

だけど、拭ったそれは真っ黒な―――――そう、あの暗闇の底から噴き出したのは黒い血だった。

今、俺達を濡らしているのは黒い血の雨ということになる。

 

それを認識した瞬間――――――

 

「あぁぁぁ………あぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?!?」

 

戦場にいる誰かが絶叫をあげた。

その者に続き、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。

 

「………ぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」

 

「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「ひぃ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

「ギィヤァァァァァァァァッ!」

 

な、なんだ!?

なにが起こって―――――。

 

周囲を見渡す俺の視界に映ったのは自身の肩を抱き、震える仲間の姿。

美羽が地面に膝をついて、踞るような格好になる。

 

「な、に………これ………!?」

 

「美羽!?」

 

俺は美羽の体を抱き締めてやるが、美羽の震えは止まらない。

見ると他のメンバー―――――リアス達や転生天使達も同様に顔を青くして、全身を小刻みに震わせている。

それはヴァーリやサイラオーグさん、デュリオといった最強クラスの力を持った面々もだ。

他の戦士達みたいに発狂とまではいかないが、明らかに身体に異常が生じている。

 

イグニスが皆に聞こえる声で言った。

 

『皆の体を襲っているものの正体は恐怖よ』

 

恐怖?

どういうことだ?

 

『そうね、簡単に説明しましょう。あの雨には触れた者の恐怖心を増大させる効果があるのよ。それもかなり強烈にね。そして、雨の効果は強者であればあるほど、強く発現する』

 

イグニスの解説にアザゼル先生が納得したように頷いた。

 

「そういうことか。恐怖ってのは強者であればあるほど忘れがちなもの。感じにくくなるものだ。………本能からの恐怖か。こんな感覚は久し振りだ、クソッたれ………!」

 

堕天使の総督だったアザゼル先生ですら大量の脂汗をかき、呼吸を荒くしている。

 

理屈ではない、本能的に感じる恐怖。

触れただけで発狂するレベルなのかよ………!

 

いや、待て。

だったら、俺はどうなんだ?

アーシアと小猫ちゃんに回復してもらったとは言え、万全には程遠い。

体力は当然、精神力だってかなり削がれた状態だ。

そんな状態なのに、俺には特に変化がない。

体は重たいが、それは雨を浴びる前からだ。

 

『それは私が雨の効果を内側から無効化してるからね。そうしてなければ、今の状態のイッセーも皆と同じ様になってたかもしれないわ』

 

なるほど、イグニスが俺を守ってくれていたと。

気づかぬ所で女神様が助けてくれていたのか。

いつもの駄女神とは思えない女神っぷりだ。

とりあえず、お礼は言っておこう。

 

そんなことを思っている内に血の雨が止まる。

そして、深い穴の中から―――――

 

《削れたのは三分の一と言ったところか。フフフ………思ったより、残ったようだね。ここまで辿り着いただけはあるかな》

 

出現したのは黒い霧に包まれた何か。

それは穴から出てくると、上空へと上がっていく。

 

あの黒い霧のようなものはギャスパーが覚醒した時のものに似ているが、危険度では桁が違うだろう。

それにアセムの波動とは異なっているようにも感じる。

この時、俺の中で嫌な予感がした。

そして―――――俺の予感は的中する。

 

宙に浮かぶ黒い霧の塊が少しずつ薄くなっていく。

内側にいるのは当然、アセムだ。

だが、奴の姿は元の面影を残さない、まるで別のものへと変貌を遂げていた。

 

灰色の肌に、鱗が生えた手足。

背には鳥やドラゴン、コウモリなど、あらゆる獣の翼があり、その中に一際大きい蝶の羽が生えている。

腰からは七つの尾が伸びていて、尾の先端には熊、豹、ドラゴンなど、元々、トライヘキサにあったそれぞれの頭がある。

そして、頭には十本の角。

身長は俺とそう変わらないが、シルエットは人から離れたものになっていた。

トライヘキサの特徴を無理矢理、人型に押し込めた、そんな姿だ。

 

アセムは今の自分の体を見て笑った。

 

《随分、面白い体になったものだ。化物っぷりが上がったじゃないか。どれ………》

 

何かを思いついたのだろう。

アセムは辺りを見渡すと、小さく笑みを見せた。

すると、意思を持ったように七つの尾の内の一つが動き出す。

獅子の頭を持った尾はアセムの視線が向けられている方向に目をやると、口から小さな火炎弾を撃ち出した。

火炎弾を向けられた陣営はとっさに防御魔法陣を幾重にも展開する。

しかし、火炎弾は魔法陣を容易に突き破り―――――陣営の中で膨張し始めた!

グゥゥゥゥゥゥン………と空間が軋む音を出しながら、急激に膨らんだ火炎の球体はその陣営を丸々呑み込み、破裂する!

破裂した球体から飛び出してきた幾つもの火の塊が、無差別に、広範囲に飛来していく!

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

襲い来る火の塊は戦士達の頭上に降り注ぎ、彼らの防御を嘲笑うかのように彼らを消し炭にしていってしまう。

 

匙が火の塊を迎撃しながら言った。

その声には明らかに焦りが含まれていて、

 

「あんな軽く力を使った感じでここまでの被害を出すのかよ………! トライヘキサの火炎以上じゃないのか!?」

 

木場もその意見に頷く。

 

「そうだね。同じ規模でも、トライヘキサにはもう少し溜めがあった気するよ」

 

そういや、この二人もトライヘキサの力を目の当たりにしてるんだったな。

俺もトライヘキサと一戦交えたけど、二人の言うように今の攻撃はトライヘキサよりも上だったように感じる。

 

すると、ロセが答えた。

 

「恐らく、彼はトライヘキサの力を効率良く使えるまでに至ったのでしょう。同じ力でも、術式次第では低燃費、短時間での放出が可能になります。かの神はその手のことに長けているようなので、十分にあり得ると思います」

 

そういや、ロセも術式に改良を重ねることで、低燃費で魔法を撃てるようになってたな。

黒歌がRPGで例えていたとルフェイから聞いたことがある。

 

ロセの言葉にリアスが厳しい表情で言う。

 

「そうなるとかなり厄介なことになるわね。トライヘキサの力を扱えるだけでも危機的な状況だと言うのに………!」

 

「それだけではありません。先ほどの雨のせいで、こちらの陣営は上手く力を発揮することが出来なくなるでしょう。強制的に恐怖心を増大させられた状態で、普段の力が使えるとは思えませんから」

 

ソーナもそう付け加える。

 

一見、冷静そうな彼女だが今も膝が震えている。

内から込み上げてくる恐怖に心を折られそうになるのを耐えながら、戦況の把握に務めているんだ。

 

怖い、死にたくない。

一歩でも前に出たら、その瞬間に命を絶たれてしまうのではないか。

周囲の人達からそんな絶望的なイメージが雪崩れ込んでくるのが分かる。

これも変革者になった影響だ。

無数に入ってくる感情の一つ一つを読み解くことは今の俺でも難しい。

だけど、その無数の中には恐怖心以外の感情も混ざっていて―――――。

 

匙が震えるソーナの手を握った。

匙はマスクを収納すると、ニッと笑顔を見せる。

 

「大丈夫です。死なせはしません。俺には兵藤みたいに世界を変えたり、多くの人を守ったりは出来ないけれど、せめて―――――目の前の大切な人達は守りきります。俺、こう見えても龍王ですから」

 

「―――――ッ! 匙、あなたは………」

 

言葉を詰まらせるソーナ。

 

分かるよ、ソーナ。

君が思っている以上に匙は成長しているんだ。

大切な人を守るため、恐怖に打ち勝つ強い心を持った誇り高い黒き龍王。

それが匙元士郎だ。

 

匙のその姿を見て、体を震わせ、蹲っていた者達が立ち上がる。

彼らの目には消えかかっていた灯が再び灯っていた。

どんなに怖くたって、守るべきもの、守りたいものがあるのなら、前に進める。

戦えるんだ。

 

皆が己に打ち勝ち、立ち上がる―――――その時。

 

「ねぇ、匙くん? これはどういうことなのか、詳しく説明してもらえるかな☆」

 

ニッコリと笑顔を浮かべたセラフォルーさんが割り込んできた!

そういや、あの人、二人の関係知らなかったね!

というか、ソーナが知られないように周囲に頭を下げてたから当然なんだろうけども!

ついにバレたよ!

男を見せたら、一番知られてはいけない人に知られたよ!

 

「れ、れれれれれれ、レヴィアタン様!? こ、これは、そのぉ………ひ、ひぃ!」

 

ゴゴゴゴ………と凄まじいプレッシャーを放つセラフォルーさんに悲鳴をあげる匙。

 

うん、さっきの男前はどこに行った匙よ。

というか、アセムの黒い雨の時より恐怖してないかい?

ま、まぁ、分かるけど。

確かにニッコリ笑顔で殺意を向けられるとメチャクチャ怖いけども。

 

「うぇぇぇぇぇぇん! ソーたんを取られたぁぁぁぁぁぁ! もう、あちこちを氷付けにしてやるんだから! うぇぇぇぇぇぇん!」

 

突然、滝のような涙を流し始めるセラフォルーさん!

体からとんでもない魔力が噴き出してるよ!

セラフォルーさんの周囲が氷原へと変わっていくんだけど!

 

「ちょ、お姉様!? 落ち着いてください!」

 

「レヴィアタン様、氷付けにするの止めてください! 俺、死んじゃう! 氷付けにされてしまうぅぅぅぅぅ!」

 

匙ぃぃぃぃぃぃ!

ソーナァァァァァァ!

今回は君達ですか!?

君達がシリアス壊すんですか!?

これも俺が悪いの!?

俺のせいなの!?

やっぱり、俺はボケを呼ぶドラゴンなの!?

もう、何をどうツッコミ入れたらいいのか分からねーよ!

 

「はぁぁぁぁぁぁ………」

 

「結局、こうなるのね………」

 

「うん。まぁ、ボク達の回りでは日常茶飯事だよね」

 

盛大にため息を吐く俺とアリス。

そして、苦笑する美羽。

それが伝播したのか、周囲からも苦笑が聞こえてくる。

ま、これも俺達らしいというのかね?

 

俺は未だ重たい体で前に出るとアセムを見上げ、奴に言った。

 

「どうやら、俺達が折れるにはまだまだ絶望が足りないらしいぜ? これくらいの絶望、俺達はすぐに乗り切れる。俺だけじゃないんだよ、変わってるのは。―――――来いよ。この世界の底力、見せてやる」

 

 

 

 

確かに絶望的な状況なのかもしれない。

恐怖心を増大させられたせいで、いつものように力を出せない者は大勢いるだろう。

恐怖心に負け、気を失った者もかなりの数がいる。

その者達を守りながら戦うのは至難の技だ。

しかも、相手は取り込んだ怪物の本来の力以上の力を扱える可能性がある。

それでも―――――。

 

アセムが言う。

 

《良いだろう》

 

アセムは左手にオーラで形成した剣を握ると、自身の右腕を切断した。

その行動に誰もが目を見開く………が、この展開には覚えがある。

異世界アスト・アーデで奴と戦ったことがあるメンバーもアセムの行動の意味を理解したようで、すぐに構えた。

 

アセムは切断した右腕を掴むと、横凪ぎに振るう。

右腕の断面から振り撒かれた血液が大地に染み込んでいき―――――。

 

ボゴッ、ボゴゴゴッ………と音を立てて、地面が盛り上がり始める。

盛り上がり、変形し始めた地面は何かを形成していく。

変化が終わり、その場に完成したのは体調十メートル程の獣。

 

人型もいれば、ドラゴンのようなもの、蜘蛛のようなもの、獅子のようなものまで。

あらゆる獣の形をした魔物が現れた。

それも何万とういう規模で。

 

アリスが目を細める。

 

「………眷獣。ロスウォードと同じ能力を使えるってわけね」

 

「ま、あいつが生みの親なら使えてもおかしくはないがな。だが、ロスウォードの時よりも面倒だな。全部が全部というわけじゃないが、龍王クラスの波動を持った化物もいやがる。こいつは骨が折れるぞ」

 

アザゼル先生はそう言うと手元に光の槍を作り出す。

 

俺も感覚を広げて眷獣の把握に務めるが………龍王クラスどころじゃないな。

下手すりゃ超越者クラスの化物も何体かいるぞ。

超越者クラスと龍王クラスの眷獣の下に上級悪魔、最上級悪魔クラスの眷獣の回りに付き従っているといった感じか?

ロスウォードの時は個別に動いていたが、今回の眷獣は一定の戦力で固まっているように思える。

 

俺は小さく息を吐くと籠手を出現させて、ゆっくりと歩いていく。

少し進んだところで足を止めると、目を閉じた。

 

こうしてるとあの頃を思い出す。

味方を背にして敵と向かい合っていたあの頃。

皆から『勇者』と呼ばれていた、あの頃を―――――。

 

 

―――――頼んだぜ、ドスケベ勇者様。

 

 

任せろ、クッキング勇者様。

俺達が全てを守ってみせるからよ!

 

俺は目を開くと全身からオーラを爆発させて、叫んだ!

 

「行くぞォォォォォォォォォォッッッ!!!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

俺の叫びに全軍が動き出す!

接近戦を得意とする戦士達は一斉に駆け出し、魔法や魔力による遠距離攻撃を得意とする者達は即座に術式を構築し始める!

 

アセムが生み出した眷獣も咆哮をあげて、前進してくる。

巨体の割りに動きが速い!

 

前衛部隊と眷獣が接触する―――――。

 

「うぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!」

 

俺は飛び上がると、拳に気を纏わせて眷獣の顔面を真上から殴り付ける!

眷獣は体をグラつかせ、地面に倒れ込む………と思いきや、その太い足で踏ん張り、俺の拳に耐えやがった!

そこから拳と蹴りの連打をくらわせていくが、眷獣は倒れない!

俺が弱っているとはいえ、なんて耐久力を持ってやがる………!

 

眷獣の血のように赤い目が攻めあぐねる俺を捉え、牙を剥く。

しかし、俺を狙ったその眷獣は背後からの一撃によって真っ二つに両断された!

やったのは―――――。

 

「今の私ならアセムの眷獣だろうと一撃で葬れるようだな!」

 

蒼い炎のようなオーラを纏うゼノヴィア。

特徴的な青髪も腰まで伸びていて、神秘的な雰囲気を持っている。

 

「サンキュー、ゼノヴィア」

 

「ああ。だが、今のイッセーはあまり一人で動かない方がいい。回復したとはいえ、パワーが相当落ちているじゃないか」

 

「まぁな」

 

正直な話、もし、この場でゼノヴィアと戦ってみろと言われたら勝つ自信はない。

俺の渾身の一撃を叩き込んで倒れなかった相手をゼノヴィアは一撃で倒したんだからな。

その差は大きい。

 

「だけど、ゼノヴィア。おまえこそ、疲労が溜まってるんだ。無理はするなよ?」

 

「この場でその注文は難しいな………。そうだ、良い提案がある」

 

「おっ、奇遇だな。俺もだ」

 

俺とゼノヴィアは集団で迫ってくる眷獣に視線を向ける。

そして、ゼノヴィアはデュランダルとエクスカリバー、俺は拳を構えて、

 

「「ここは二人で一つといこうか」」

 

不敵に笑みを浮かべた俺達は同時に前に出る。

まずは俺が先行し、眷獣から振り下ろされた拳を受け流す。

受け流されたことで体勢が崩れたところをゼノヴィアが容易く両断した。

 

今の俺に足りないのはこいつらを一撃で葬るパワー。

ゼノヴィアに足りないのは大群で押し寄せるこいつらを捌ききる技量。

なら、互いに足りないところを補えば、こんな奴ら―――――。

 

「「余裕で倒せるッ!」」

 

一度に十数体を倒した俺達は次の敵と衝突する―――。

 




~あとがきミニストーリー~


アーシア「そういえば、ワルキュリアさんの好きなものはなんですか?」

ワルキュリア「幼女です」

アーシア「………え? よ、よ………?」

ワルキュリア「幼女です」

アーシア「え、えっと………こんな時、私はどう返したら………」

ワルキュリア「幼女です」

アーシア「はぅぅ! イッセーさんのようにツッコミが出来ません!」

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