ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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さぁ、シリアルを始めよう。



44話 アリスの決意

[美羽 side]

 

宙に浮く無数の絵画。

そこには知らない人物から知っている人物………仲間の姿も描かれていて………。

 

「………『魔導絵師の美術祭』。ベルも本気………だす」

 

真っ白な髪に真っ白な肌。

全てが白い少女は眠たげな表情のままそう告げてきた。

 

『絵師』ベル。

描いたものを召喚する能力を持つ少女。

今までは様々なタイプの魔獣の絵を描き、具現化し、ボクにぶつけてきた。

他にも触れた相手を解析して、描き、具現化する等、コピー能力もこれでもかと言うくらいに見せつけてくれている。

とにかく、彼女は『絵』を媒介にして能力を発動させることが出来るんだ。

 

そして、現在、彼女が今まで読み取り、描いてきたもの全てが召喚されている。

 

お兄ちゃんや、リアスさん、天界の切り札ジョーカーであるデュリオさんといったチーム『D×D』のメンバー。

他にも味方陣営の悪魔、堕天使、天使、妖怪も具現化されていて、その数は軽く千は越えている。

 

アリスさんが目をヒクつかせて言う。

その声音には焦りが混じっていて、

 

「………これって、一斉召喚みたいなものよね………? その子の能力は分かっていたけど、この数は………」

 

ただ描いたものを召喚するだけなら、今更驚いたり、焦ったりはしない。

問題はこの数だ。

お兄ちゃんを含め、かなりの実力者のコピーをこれだけの数で作り出そうとすると、必要な力は尋常ではない。

神姫化したボクでも無理だ。

 

それをベルは易々とやってのけた。

 

ヴィーカがベルの頭を撫でる。

 

「言わなかったかしら? この子は私達四人の中でも最強だって」

 

「そういえば、そんなことも聞いたわね。ロリッ娘のくせにやってくれる………!」

 

「最強のロリって言うのも燃える展開じゃない? 言っておくけど、これくらいで驚いていたら、この先もたないわよ?」

 

………っ!

これ以上、まだ何かあるというの………!?

 

ボク達が更に警戒を高めている中、ベルはゆっくり腕を上げて、掌をこちらに向ける。

それと同時に皆の複製体が一斉に仕掛けてきた!

 

「来たよ! ディルちゃんはボクの側から離れないで!」

 

「はい!」

 

ディルちゃんは強い。

だけど、複製体の元になった皆の力はディルちゃんよりもずっと上だ。

数でも圧倒されている今、離れて動けば囲まれて袋叩きにされてしまう。

 

出来るだけ距離を取って戦いたいけど、そんな暇は与えてくれなくて………。

お兄ちゃんの………赤龍帝の複製体が赤い砲撃を撃ち込んできた!

 

今のお兄ちゃんのパワーには至らないけど、それでも当たれば大きなダメージを受けてしまう。

ボクが反撃の魔法を放とうとすると、間にアリスさんが入り、赤い砲撃を槍で斬り裂いた!

 

「ああ、もうっ! モーリスでもいればここを………てぇぇぇぇぇっ!? モーリスもコピーされてるじゃない!」

 

「モーリスさんだけじゃないよ!」

 

敵の後方、ベルの近くに立っている女性―――――リーシャさんの複製体!

リーシャさんの複製体は魔装銃を構えて、引き金を引く!

こちらも本人と変わらない正確無比の狙撃だ!

 

モーリスさんの複製体も剣気の斬撃を放ってきて、ボクが展開した防御魔法陣を真っ二つにしていく!

普段はいるだけで心強いけど、敵に回ると厄介きわまりない!

というか、強敵過ぎる!

 

「ねぇね!」

 

横合いから飛んできた攻撃をディルちゃんが槍で弾く。

今のは雷光―――――朱乃さん!

 

朱乃さんの複製体に意識を取られかけた時、上から絶大な魔力がぶつけられてきた。

こちらは滅びの魔力で、

 

「リアスさん……!」

 

見上げた先には滅びの魔力を身に纏ったリアスさんの複製体。

手元には凶悪な程に高められた滅びの力が燃え盛っていて……。

 

今のリアスさん達を相手にするのは骨が折れる。

 

「くぅ……! ゼノヴィアさんの一撃、重い……ッ!」

 

アリスさんはオカ研の剣士メンバーの複製体から襲撃を受けていて、かなりの苦戦を強いられていた。

蒼炎を纏ったゼノヴィアさんの剣撃を槍で受け止めているが、厳しい表情を浮かべている。

 

そこへ騎士王姿の木場君の複製体と性欲のエロ天使………ゲフンゲフン、聖翼の清天使となったイリナさんの複製体の連続攻撃。

更にはモーリスさんの複製体も加わり、明らかに不利な状況だった。

 

助けに行きたいけど、こっちもこっちで手が一杯だ!

現在進行形で魔法のフルバーストを受けている!

 

「ロスヴァイセさんの魔法………!」

 

「ここは任せてください!」

 

ディルちゃんの槍が魔法に触れた次の瞬間―――――ロスヴァイセさんの魔法が霧散する。

魔槍ゲイ・ジャルグの能力で魔法を打ち消したんだ。

彼女の力は対魔法使いには絶大な効果を発揮してくれる!

 

ふいに冷たいものが頬に触れる。

 

「雨………これって………!」

 

空に暗雲が立ち込めている。

雷鳴が鳴り響き、強風が吹き始めた。

 

―――――神滅具『煌天雷獄』。

上位神滅具の一つであり、天候を支配する。

 

暗雲の中央でデュリオさんの複製体が黄金の翼を広げていた。

彼が手を動かすと、それに合わせるように天候が悪化、大嵐が巻き起こる!

雷が、竜巻が、大雨が、大粒の雹までもが降り始めた!

自然災害がボク達に向けて引き起こった、そんな風にも思えてしまう!

 

この大嵐がボク達を分断、ボクとディルちゃん、アリスさんが引き離されてしまう。

最悪の状況だ………!

 

分かっていたけど、自身に向けられて改めて認識した。

これが神をも滅ぼす具現の力か。

今のボクとアリスさんは疑似神格を発動させていて、一応は神だ。

そう考えると………うん、色々マズいよね。

 

神滅具といえば、お兄ちゃんやデュリオさんもそうだけど、それに匹敵する神器持ちも複製体の中にはいる。

それは―――――。

 

「数ヵ月前とは比べ物にならないよね、ギャスパー君は!」

 

一帯に広がっていく闇。

闇の中から無数の黒い獣が現れ、突撃してくる。

獣達の中心には闇の獣と化したギャスパー君。

吸血鬼の一件の時にアザゼル先生が神滅具クラスと称していたけど、本当にその通りだと思うよ!

 

ギャスパー君の闇が世界を侵食し、ボク達を呑み込もうとすると―――――それを打ち消すように極大の光が世界を包み込んだ!

 

「悪いけど、アポプスと比べるとまだまだだわ!」

 

アリスさんが翼を広げて神々しい光を振り撒いていた。

光の神の名は伊達ではなく、彼女の光はギャスパー君の闇を押し返していく!

 

ここでボクはあることに気づいた。

先程まで猛攻を仕掛けていた剣士組の動きが鈍くなっている。

木場君やゼノヴィアさんだけでなく、モーリスさんの複製体まで、その剣が鈍くなってしまっている。

 

そうか………どんなに強い悪魔にでも光は弱点。

超高出力で発せられる神の光は悪魔にとって必殺の猛毒に等しい。

 

「美羽ちゃん! お願い!」

 

「うん!」

 

複製体とはいえ、リアスさん達を消し飛ばしてしまうのは罪悪感があるけど………今はこの危機を脱することが優先だ。

 

ボクは魔法陣を無数に展開。

複製体を一掃しようとするが―――――。

 

「残念だけど、敵は彼らだけじゃないのよね」

 

「………ッ!」

 

ヴィーカが槍で斬りかかってきた!

ボクは咄嗟に回避したけど、腕を掠めてしまう。

 

「この………!」

 

「あらあら、そんなに怒るとシワが増えちゃうわよ? それにこれは殺し合い。あらゆる手段を使うのが普通じゃないかしら」

 

そう言って、ヴィーカは槍を振るってくる!

神速の突きがボクを襲う!

 

近距離戦では圧倒的不利だ。

何とか距離を置きたいところだけど、こちらの思惑通りにはさせてくれない。

 

相手の武器を魔法で分解する手も考えたけど、現状、あれは触れなければ発動できない。

しかも、ヴィーカの武器は神具。

解析するだけで時間がかかるため、それは無理だ。

仮に分解出来たとしても、この空間はヴィーカの『武器庫』。

神具クラスの武器は無数に存在する。

 

アリスさんと変わって欲しいところだけど、向こうはモーリスさんの複製体を相手に苦戦を強いられている。

 

ヴィーカの攻撃を防いでいると、向こうの方で何かが光るのが見えた。

それは魔装銃の輝きで―――――リーシャさんの狙撃がボクの肩を撃ち抜いた!

 

「くっ……うぅッ!」

 

激痛がボクを襲う!

この一瞬の隙にヴィーカが懐に入り込んでいて、

 

「隙ありってね!」

 

槍がボクを貫こうとした―――――その時。

一振りの剣が頭上から降ってきて、強力な結界を展開。

ヴィーカの槍を阻んだ。

 

「ねぇねから離れろぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

その叫びと共にディルちゃんが猛スピードで突貫、ヴィーカに鋭い一撃を叩き込んだ!

 

見れば、ディルちゃんはボロボロだった。

あの嵐を突っ切ってきたのか………。

 

ヴィーカが言う。

 

「あら? リアスちゃんと朱乃ちゃん、ロスヴァイセちゃんの複製体がいたはずだけど、倒したの? やるぅ♪」

 

ディルちゃんは肩で息をしながら言う。

 

「はぁ、はぁ………やらせない………この人は絶対にやらせない………!」

 

「うんうん、お姉ちゃん思いで良い子ね♪ あなたみたいな子は好きよ♪ でも―――――」

 

ヴィーカが後ろに目をやった。

すると、リアスさん達が描かれた絵画から再び彼女達が召還される。

一人倒しても、また召還されるのか………!

 

ベルを倒さない限り、無限ループに入ってしまう。

だけど、召喚される人達とヴィーカがそれを阻んでくる。

 

このままだと、ボク達の体力が先に尽きてしまうだろう。

ディルちゃんに至っては呼吸が荒い。

 

焦るボクを見て、ヴィーカが笑む。

 

「ウフフ、焦ってる焦ってる。それじゃあ、もっと焦ることをさせようかしら」

 

「何を………考えてるの?」

 

「さっき言ったでしょ? これくらいで驚いていたら、この先もたないって」

 

確かに言っていた。

ベルの『魔導絵師の美術祭』には描いた戦士達の召喚以外の何かがある。

 

敵陣営の後方にいるベルの元に一枚の絵が現れる。

そこに描かれていたのは―――――。

 

「火山………?」

 

そう、そこに描かれていたのは噴火する山。

真っ赤に燃えた炎が辺りを包み込んでいて………。

 

嫌な予感がした。

ベルの能力は描いたものを具現化する力。

もし、それが人物や魔獣以外も可能だとすれば………。

 

思考がそこに至った瞬間、空間が激しく揺れた!

大地が大きく隆起し、盛り上がっていく!

現れたのはあの絵に描かれていた山で―――――突如、山頂が爆発した!

土砂が舞い、岩石が流星のように降り、噴火口からマグマが噴き出している!

 

ボクは降ってきた岩石を防御魔法陣で防ぐが、驚きは隠せてなくて………。

 

ヴィーカが言う。

 

「見ての通り。ベルの奥の手『魔導絵師の美術祭』はその結界の内側において、人物や魔獣の召喚だけでなく、絵を通して様々な事象を支配できるのよ。やろうと思えば、この世界を深海にして、この場の全員を溺れさせたりも可能よ。まぁ、そんなことすれば、私も巻き込まれるんだけど」

 

なんてチート能力………!

お兄ちゃんやデュリオさんの複製体を作れるだけでも反則なのに、環境の改変まで行えるなんて、理不尽すぎる!

 

焦りが加速していく中で、ベルが新たな絵画を呼び出した。

描かれていたのはマグマの海が広がる世界。

絵が輝いた瞬間、足元が灼熱の世界へと変化した!

 

「熱………ッ!?」

 

慌てて上空へ飛ぶ………けど、空はデュリオさんの複製体の力で大嵐だ。

下も地獄、上も地獄………。

ここまで追い詰められると逆に笑いが出てくるよ。

 

ヴィーカが槍をくるくる回しながら言う。

 

「さぁ、続きをしましょうか。地面に叩きつけられたらマグマに呑まれ、空に逃げれば嵐に呑まれる。少しのミスが死に繋がるわ」

 

ヴィーカの言う通り、少しのミスが死を招く。

このまま戦えば、確実に追い込まれるだろう。

 

すると、ディルちゃんがボクの前に立った。

 

「行ってください。ここは私が食い止めます」

 

「―――――ッ」

 

本来ならここで止めるべきなのだろう。

いくらディルちゃんでもヴィーカには届かない。

二人の間にはそれだけ力の差がある。

では、ボクとディルちゃんの二人で戦えば良いという考えもあるけど、それでもダメだ。

恐らく、先に尽きるのはこちらだ。

 

ならば―――――。

 

「………ゴメンね、ディルちゃん。すぐに終わらせてくるから!」

 

ボクは全速力で飛び出した。

 

そうはさせないと、ヴィーカが追いかけてくるが、彼女の行く手をディルちゃんが塞ぐ。

ディルちゃんの力ではヴィーカを抑え込むことは出来ない。

でも、ここで得た時間はとても貴重で、この戦いを突破できる可能性だ。

 

すぐに終わらせてくるから!

絶対に助けるから!

だから………だから………!

 

「絶対に死なないで!」

 

突貫するボクの前に立ちはだかる複製体達。

全面に防御魔法陣を展開して、遠距離からの攻撃を防ぎつつ、近距離戦メンバーに極大の魔法をぶつけて倒していく。

 

また召喚されるとしても、倒されてから復活するまでに生じるタイムラグがディルちゃんやアリスさんの負担を減らすことが出来るだろう。

 

ボクは手元に七色の光を終息させ、スターダスト・ブレイカーを放つ。

貫通力に長けたこの技は堅牢な赤龍帝の鎧をも貫く。

その上、神姫化したことで貫通力を維持したまま広範囲に放てるようになったことで殲滅力も上がっている。

 

だけど、倒しても倒してもきりがない!

元々の物量からして圧倒的過ぎるんだ!

急がないといけないのに、早く終わらせないといけないのに!

 

その時だった。

 

『美羽ちゃん、聞こえる?』

 

「イグニスさん!?」

 

頭の中にイグニスさんの声が聞こえてきた!

疑似神格を受け取る時にお兄ちゃんと精神の深い次元で繋がったから、イグニスさんの声が聞こえてきてもおかしくないんだけど………。

 

イグニスさん、お兄ちゃんのところにいなくても良いの!?

 

『イッセーは今のところ大丈夫よ。それより、あなた達の方が危機的状況だったから、こっちに意識を持ってきたの』

 

良かった………お兄ちゃんの方は大丈夫なんだね。

イグニスさんはこの状況を打開する策があるの?

 

『ええ。あのベルって子は絵を媒介にして能力を発動してるでしょ? あの絵を破壊すれば、少しくらいは好転するはずよ』

 

なるほど………。

『魔導絵師の美術祭』はベルが保存している絵を展開しているわけで、絵を破壊すれば、なんとかなるかもしれない。

 

でも、ベルのことだ。

あの絵はそう簡単に破壊できるものではないだろう。

 

『そうね、生半可な力では無理でしょう。でも―――――』

 

「私がやるわ!」

 

密集した複製体の間を切り抜け、この場に現れるのはアリスさん!

全身に白金色の雷を迸らせながらの参上だ!

 

「アリスさん! モーリスさんの複製体は倒せたの?」

 

「結構危なかったけど、なんとかね。とにかく、ここを早く突破しましょう。イグニスさん………ほ、本当にさっきので何とかできるのよね?」

 

『ええ、アリスちゃんなら大丈夫よ。見せてあげなさい、スイッチ姫の力を―――――(にゅー)タイプの力を!』

 

 

 

…………え?

 

 

なんだろう、すっごく嫌な予感がする。

ここまで続いたシリアスが悉く破壊されるという嫌な予感が。

 

アリスさんは何かを決意したのだろう、服に手をかけると―――――胸をさらけ出した!

プルンと小さく揺れる可愛らしいおっぱいが!

お兄ちゃんなら間違いなく興奮していただろう!

 

アリスさんは顔を真っ赤にして、泣きながら叫んだ。

 

 

 

「チ………チクビィィィィィィィィィムッッ!」

 

 

 

………これは酷い。

 

 

[美羽 side out]




酷い………本当に酷い。


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