ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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32話 英雄の魂を宿す者達

[三人称 side]

 

《何が起こったと言うのだ…………?》

 

アポプスは状況を呑み込むことができていなかった。

 

腹と手足を貫かれた曹操は立つことさえ不可能な程、深傷を負った。

本来なら曹操は重力に引かれるまま落ちていき、アポプスがトドメとして放った闇に屠られるはずだった。

仮に力が残っていたとしても、発揮できるのは微々たるもの。

あの場面での反撃などあり得ない。

 

そう、あり得なかったはずなのだ。

 

アポプスは断ち斬られた腕に視線を落とし、頭の中に次々と疑問を浮かべていった。

 

なぜ、あそこから立ち上がれた?

なぜ、あの傷で反撃できた?

なぜ、自分の腕は斬り落とされている?

 

なぜ―――――曹操の力が急激に上昇した?

 

アポプスの正面には輪後光を背にし、神々しくも静かな波動を纏う曹操。

見た目に変化はない。

………が、貫ぬき、血が噴き出ていたはずの傷口はいつのまにか塞がっている。

 

治癒の力でも得たのだろうか。

アポプスはまずそう考えた。

 

今代の聖槍の所有者は複数の異形と渡り合うために多彩な能力を発現させてたと聞く。

もしかしたら、曹操は治癒の力を発現させたのかもしれない。

だが、そうなると疑問はまだ残る。

 

それはこの急激過ぎるパワーアップだ。

アポプスが纏う闇は万全の状態だった曹操の攻撃を余裕で防いできた。

しかし、先程、曹操は闇の防御を容易く突破して、アポプスの腕を斬った。

 

油断していた?

それもあるのだろう。

もう勝負は着いたと思い、気を抜いてしまったことは否定できない。

一瞬の油断は命取りになるものだ。

緩んだところを突かれれば、たとえ神をも凌ぐアポプスの闇だろうと突破されてしまうだろう。

 

だが、それでも理解できないことがある。

 

―――――アポプスは曹操の一撃が見えなかったのだ。

曹操の挙動も、放たれた斬撃も。

 

もし、曹操の攻撃を仕掛ける素振りが見えていたのなら、防げていたはずなのだ。

しかし、アポプスは曹操の動きに全く反応できなかった。

 

アポプスは異質なものを見るように曹操を睨んだ。

 

前髪で目が隠れているため、表情は分からない。

静かなオーラなのは相変わらずだが、今の曹操はアポプスでさえ不気味と思えるほど静かだった。

 

そして、無言の曹操を見ている内にアポプスは気づいた。

――――曹操から神に近しい波動を感じ取れることに。

 

《………ッ!?》

 

そのことに気づいた時、既に現象は起きていた。

離れていた場所にいたはずの曹操が闇を潜り抜け、アポプスの懐に入り込んでいた。

 

アポプスは咄嗟に闇を曹操へと放つが、吐き出した闇が届く前に曹操の姿が消えた。

気づいた時にはアポプスの右手側、離れたところで佇んでいたのだ。

 

《バカな………。私が捉えられないだと………?》

 

今の曹操の状態は全身から完全に力が抜けているように見える。

極限の脱力は究極の瞬発を行うための条件の一つ。

闇が曹操に届く寸前に最高の初速を発して、闇を避け、遠くに移動したのだろうか。

それだけでは説明できない速さではあるが。

 

ならばと、アポプスは行動に出る。

 

足元に広がる暗黒の海と周囲に漂う闇をかき集め、一斉に放った。

暗黒の津波、闇の暴風。

全てを呑み込む暗黒が嵐となって、曹操へと迫る。

 

いくら、曹操がアポプスの理解を超える速さで動けるようになったとしても、これだけの広範囲攻撃ならば、避けられないだろう。

そう考えての行動だった。

 

上下左右、ありとあらゆる方位から闇が曹操を包み―――――その全てを曹操はすり抜けて見せた。

 

その光景にアポプスは息を呑む。

 

《尋常ではない回避能力だ………。何だというのだ。貴公に何が起きたというのだ………?》

 

「………」

 

アポプスの問いに曹操は答えない。

 

曹操が僅かに前のめりになった、次の瞬間―――――曹操は再びアポプスの眼前に出現した。

 

腰をひねりを加えた、滑らかで鋭い突きが放たれる。

黄金の輝きを纏う刃が闇を貫き、アポプスの胴に突き刺さる!

 

《ぐぅ………ッ!? なんというスピードだ………ッ!》

 

曹操の動きに驚嘆しながらも、アポプスは闇を繰り出すが、闇は誰も呑み込むことができなかった。

そして、それを確認したと同時に今度は背中に斬撃を受けた。

次は右、その次は左、そして上と次々と聖槍による斬撃が刻まれていき、アポプスの肉体に聖なる力によるダメージが蓄積されていく。

 

危機を感じたアポプス。

全身に力を籠めて、一斉にそれを解き放つ。

アポプスを中心に全方位へと広がる闇の波動。

 

闇の波動は衝撃波を生じさせながら、結界の中を暴れまわる。

それすらも曹操は全て見切って見せた。

 

ふいに前髪で隠れていた曹操の眼がアポプスと合う。

―――――彼の瞳はアポプスとは異なる次元、異なる時を見ているようだった。

 

極限の集中状態である『領域(ゾーン)』は人が入れる究極の領域の一つだが、それすらも超えた場所を曹操は見ている。

今の曹操にはアポプスでさえ、捉えられない何かが見えているのだろう。

 

『領域』を超えた神の境地―――――『聖域』とでも名付けるべきか。

 

それからもう一つ、アポプスは気づいたことがある。

 

《なるほど………この力。先程の光と同じ波動を感じるな。聖書の神の意思、か………》

 

曹操から感じられる神に近しい波動。

それは『覇輝』によるものと似ているのだ。

 

『覇輝』は聖書の神の『遺志』が関係する。

亡き神の『遺志』は槍を持つ者の野望を吸い上げ、相対する者の存在の大きさに応じて、多様な効果、奇跡を生み出す。

それは相手を打ち倒す圧倒的な破壊力であったり、相手を祝福して心を得られるものであったりする。

 

この現象は聖槍が曹操の願望を叶えた結果なのだろう。

曹操の傷が塞がっていることも、異常な覚醒もそう考えると説明が着く。

 

だが、それだけでもないだろうとアポプスは思った。

 

静かな波動を纏い、己を見下ろしてくる聖槍の使い手を見て、アポプスは笑みを浮かべながら漏らした。

 

《人の持つ可能性とでも言うべきか。貴公が強く望んだからこそ、貴公はそこに至ることが出来たのだろう》

 

人の持つ可能性。

人間は最弱の種族だ。

他の異形に比べ、肉体は脆く、寿命も短い。

だが、だからこそ、他の異形にはない力を発揮する。

知恵を絞り、技を磨き、強者を打ち砕く術を求めようとする。

そして、遂には強大な力を持つ異形を倒す。

 

過去、英雄と呼ばれた者達はそうやって力を着け、困難を乗り越えてきた。

 

アポプスは曹操を見上げて、告げた。

 

《聖槍に選ばれし者、英雄の血を引く者。―――――来るが良いッ! 己の全てをかけた死闘をしようではないかッ!》

 

「――――――」

 

その叫びに曹操は何も答えない。

だが、その瞳には炎が宿っていた。

 

この先に言葉は不要。

聖槍に選ばれた男と強大で誇り高い邪龍の死闘が始まる。

 

先に動いたのは曹操だった。

 

動く気配を相手に感じさせないまま、前へと飛び出す。

到底、人間が出せるはずのないスピードで、真正面からアポプスへと斬りかかる。

 

初動を見逃したため、行動が遅れたものの、アポプスは闇による猛攻を開始した。

ドリルのようにうねる暗黒の水と闇による同時攻撃はこれまでよりも苛烈で、神クラスであろうと斬り刻まれてしまうだろう。

 

しかし、曹操はそれらを全て潜り抜けていた。

絶大な聖なる波動で打ち消す訳でもなく、聖槍の能力で受け流すわけでもない。

ただ超常の存在をも超える絶技でアポプスの闇を見切って見せたのだ。

 

アポプスの攻撃を抜けた曹操はかつてない輝きを放つ聖槍を振るいアポプスに斬撃を食らわせる。

聖槍による一撃はアポプスを大きく後ろへと退かせた。

全力のアポプスの闇が破られたのだ。

 

《私の闇でも防ぐことができないとは! 恐ろしい光量だ!》

 

アポプスは構わずに口から闇を吐き出す。

しかし、『聖域』へと至った曹操の絶対的な回避能力の前に、闇は虚しく空を切るだけ。

瞬く間に間合いを詰めた曹操はアポプスへとダメージを与えていく。

 

だが、アポプスとて伝説に名を残す邪龍筆頭格。

限界を超えた曹操の動きに順応していき、曹操の連撃に対処できるようになっていた。

 

黒い結界の中で幾度となくぶつかり合う曹操とアポプス。

一方は磨き抜かれた絶技で、もう一方は神をも凌ぐ圧倒的な力を以て、己の全てを相手にぶつけていった。

 

両者の力は拮抗。

このままどちらかが倒れるまで戦い続ける、そう思われた時だった。

 

それまで、アポプスの闇を回避し続けた曹操に異変が訪れた。

体が強く脈打ったと思うと――――――口から大量の血を吐き出した。

 

 

[三人称 side]

 

 

 

 

[曹操 side]

 

 

「ゴブッ………ガハッ…………!」

 

口から血の塊を吐き出した俺はその場で動きを止め、口許を押さえていた。

全身に激痛が走り、手足が震え始める。

聖槍が放っていた輝きも徐々に弱々しくなり、ついには消えてしまった。

 

なんだ、これは…………?

 

突然起きた体の異変に戸惑っていると、アポプスが静かに告げた。

 

《どうやら、貴公の限界が訪れたようだ》

 

「限界だと………?」

 

俺が聞き返すと奴は頷いた。

 

《私を圧倒していたあの動きは人間が持てるレベルを遥かに超えていた。神ですら容易には踏み込めない領域に貴公は踏み込んでしまったのだ。強すぎる力の代償は大きいもの》

 

つまり、この激痛は力の代償というわけか………。

 

人間だからここが限界だというのか?

いや、それはただの言い訳か。

俺がもっと強ければ、あのままアポプスを降すことができていただろう。

肝心なところで、これとは………我ながら情けない。

 

全身から力が抜けていく………。

目が眩み、前が見えなくなってきた………。

もうすぐ禁手も維持できなくなり、七宝の全てが消えてしまう。

 

アポプスが言う。

 

《残念だ。このような決着になるのは不本意なのだが………》

 

奴の体から闇が滲み出る。

聖槍によるダメージのせいか先程、俺と戦っていた時より、ずっと弱くなっているが、このまま俺を屠るには十分な威力を持っているだろう。

 

《私も私の目的がある。決着を着けさせてもらう》

 

アポプスの闇が俺へと放たれる―――――その時。

 

ぬるりとした生暖かいものが肌に触れた。

見れば、闇の空間であるはずのこの領域に霧が漂っていた。

それは見覚えのある霧で―――――。

 

空に浮くことが出来なくなった俺を誰かが受け止めた。

 

「おまえがこんなボロボロになるところなんて初めて見たぜ」

 

「ヘラクレス………おまえ、どうしてここに………」

 

そう、俺を受け止めたのはヘラクレスだった。

 

そして、俺の周囲に複数の影が現れる。

 

「待たせたな、曹操。結界の完全な解除は出来なかったが、こうして入り込むことは出来た」

 

眼鏡を直しながら言うゲオルク。

 

「あらー、本当にボロボロね。リーダー」

 

軽い口調のジャンヌ。

 

「そりゃ、日頃の行いが悪いからだろ」

 

怪我人を全く労らないペルセウス。

 

アポプスの張った結界の外で邪龍退治をしていたはずのメンバーが俺の回りに集結していた。

ゲオルクによると、アポプスの結界に通り道を作って内部へと侵入してきたそうだが…………。

 

ジャンヌが微笑みながら言う。

 

「ベストなタイミングだったんじゃない? もう少しでも遅れてたら、リーダーは死んでたわよ?」

 

全くもってその通りだ。

ここでゲオルク達が現れてくれていなかったら、俺は確実に死んでいた。

もう先程のような奇蹟は起こらないだろう。

 

ヘラクレスがアポプスに指を突きつけて言う。

 

「よぉ、待たせたな。ここから先は俺達がおまえの相手だ。文句は言わせねぇ」

 

「まさか断るとは言わないわよね? 伝説の邪龍さん?」

 

「一対一の勝負に水を差すようで悪いが、曹操は俺達には必要な存在なのでな。ここで失うわけにはいかない」

 

「ま、俺はこいつのこと嫌いだけどな。元仲間としちゃ、ここで死なれちゃ寝覚めが悪いってね」

 

ヘラクレスに続き、ジャンヌ、ゲオルク、ペルセウスがアポプスにそう告げる。

彼ら感じる闘志は過去にないほど強力なもので………。

 

すると、ヘラクレスは俺に視線を戻して訊いてきた。

 

「で? 我らがリーダー様はもう動けないってか? なんなら休んでいても良いんだぜ? あいつは俺達でなんとかしてやる」

 

「何を馬鹿なことを。奴の相手は俺がしていたんだぞ? 戦うさ。指一本動かせなくなってもな」

 

「そうかい。なら、少し休んどけ。回復したら来いや」

 

俺はヘラクレスに支えられながら、アポプスへと視線を送る。

 

特に攻撃を仕掛けてくる気配はなく、じっとこちらを観察するようにして、そして―――――笑みを浮かべた。

獰猛で豪快。

楽しそうに奴は言う。

 

《なるほど………良いだろうッ! 英雄の血を引く者達よ! 私を倒して、真の英雄となってみせろッ!》

 

アポプスの力が膨れ上がる!

邪龍はしつこいと聞くが、どこにこれだけの力を持っているというんだ!

 

だが、そんなアポプスの覇気を受けてもヘラクレス達は怯みもしない。

それどころか、前に一歩踏み出して――――――。

 

「「「ハァァァァァアアアアアアアッ!」」」

 

雄叫びをあげて飛び出していく!

ヘラクレス、ジャンヌ、ペルセウスという近接戦を主とするメンバーがゲオルクの支援魔法で肉体を強化した状態で、アポプスの闇へと突貫していった!

 

ヘラクレスがガントレットに覆われた拳で闇を弾き、ペルセウスが自身の神器である盾で黒い水を防ぐ。

そして、聖剣によって創られたドラゴンに乗るジャンヌが槍のように柄の長い聖剣でアポプスに斬りかかる。

後方からはゲオルクによる強力な攻撃魔法。

北欧式、ルーン、黒、白とあらゆる術式、全属性の魔法のフルバーストを放った。

 

ゲオルクが魔法を放ちながら言う。

 

「曹操。やはり、ここにいる者達は変わったよ。おまえも含めてな。俺達は策に策を重ね、弱点を着きながら戦ってきた。俺達が戦う時、そこには必ず勝算があった。まぁ、それが普通なのだろうがね。だが、今回は違うだろう?」

 

「…………」

 

ゲオルクの言う通りだ。

これまでの俺達の戦いには必ず勝算があった。

相手を研究し、弱点をつき、そして勝ってきた。

何の策も無しに戦うなんてことは避けてきた。

 

だが、俺は今の自分達を見て思う。

 

ヘラクレスは子供達のために戦っている。

ジャンヌにも今となっては帰る場所があり、死ねない理由がある。

 

ゲオルクは続ける。

 

「何だかんだで、これで良かったのかもしれない。異形の毒として生きてきた時よりも、今の方がよっぽど英雄らしい。………私が言えることではないがね」

 

ゲオルクが霧を展開して、アポプスの闇を阻む。

 

アポプスと英雄派の元幹部という戦いは一進一退の攻防戦に突入する。

だが―――――。

 

「がああああああああっ!」

 

ドリルのような黒い水がヘラクレスの腹を貫いた!

頑丈なヘラクレスといえど、あれは耐えられない!

 

「ヘラクレス! ちぃっ!」

 

ペルセウスがヘラクレスの援護に回ろうとするが、アポプスの闇がペルセウスを行く手を阻む。

ジャンヌの聖剣は闇の盾によって遮られ、本体まで届かない。

ゲオルクが後方から支援をするが、アポプスはそれすらも意に返さない。

 

マズいな………このままでは全滅しかねない。

 

「ゲオルク、頼めるか?」

 

「行くのか? その体で」

 

「行くさ。まだ回復しきってはいないが、リーダーがへたばってたら、格好がつかないだろう?」

 

「フッ、それもそうか」

 

ゲオルクは指を鳴らすと俺に魔法をかける。

禁手が解け、浮くことが出来なくなった代わりの飛行魔法だ。

 

「助かる」

 

それだけ言い残すと、俺はアポプスへと突貫した。

 

アポプスは俺の姿を確認するなり、嬉々として吼える。

 

《来たか! 待っていたぞ!》

 

「待たせたな! 決着をつけるぞ!」

 

もう体力は残っていない。

僅かな戦闘しかできないだろう。

アポプスの闇を避け続けることが出来るのもあと数回と言ったところか。

 

俺はアポプスの闇をかわした後、ヘラクレスに叫んだ。

 

「ヘラクレス! 俺を奴目掛けて投げろ! 全力でだ!」

 

「はぁ!? こちとら、腹を貫かれてんだぞ! 無茶苦茶言いやがって!」

 

「無茶は承知だ! 頼む!」

 

「ちっ! 分かったよ! ケリつけてこい!」

 

俺がヘラクレスの掌に足を置くと―――――ヘラクレスはその豪腕で俺を投げ飛ばした! 

今まで磨きあげた技も駆け引きもない、ただの突貫!

それでも俺はこの一撃にかけるしかない!

 

猛スピードでアポプスへと迫り、槍を構えるとアポプスが言う。

 

《最後の突貫というわけか! 面白い! 勝負だ!》

 

アポプスが一際大きい闇の塊を吐き出した! 

直撃を受ければ、かなりマズい!

 

だが、その闇は俺に届く前に防がれた。

ペルセウスが俺の盾となってくれたんだ。

 

「行け、曹操! ここは任せろ!」

 

「そうそう! リーダーの道は私達が守ってあげる!」

 

周囲から振ってくる黒い水を斬り裂くジャンヌ。

更にゲオルクが魔法と霧を用いて、周囲に結界を張り巡らせる。

 

最後の力を振り絞り、聖槍に莫大なオーラを宿らせる。

そして、今の俺が持てる力の全てをかけた一撃を繰り出した!

 

アポプスが新たに吐き出した闇の塊と衝突する!

 

《すさまじいな! まだこれだけの力を持っているとは!》

 

聖なる力と闇の力が激しく衝突し、拮抗………いや、こちらが推されているか!

だが、退けない!

ここで退くわけにはいかないんだ!

 

「これが本当に最後の賭けだ」

 

俺はそう言うと力強くその呪文を唱えた。

 

「槍よ、神をも射抜く真なる槍よ! 我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ! 汝よ、遺志を語りて、輝きと化せッ!―――――『覇輝(トゥルース・イデア)』ッ!」

 

刹那、聖槍から強大な力が溢れ出した。

黄金の輝きが穂先へと集約され、アポプスの闇に食い込んでいく。

 

「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

俺の叫びに応じたように聖槍は更に黄金の力を高めて闇を斬り裂き、邪龍を貫いていった――――――。

 

 

 

 

アポプスを貫いた後、俺は指一本すら動かせない程に疲弊しており、情けなく地面に大の字になっていた。

黒い領域と空は開かれて、周囲は元の戦場へと戻っていた。

 

「無事か?」

 

「いや、あまり無事とは言えないな………」

 

ゲオルクに肩を貸してもらい、俺は眼前に横たわる巨大な黒いドラゴンの元へと歩み寄った。

全身のあらゆるところが、崩れていて、滅びは免れない状態だった。

 

俺は滅び行く邪龍に言った。

 

「すまないな、このような決着になってしまった」

 

この邪龍が望んだのは俺との一対一による決闘。

だが、最終的には元英雄派の幹部メンバー総出での決着になった。

 

しかし、俺の言葉にアポプスはフッと小さく笑った。

 

《………気にすることは、ない。………貴公が私に勝ったのは………絆の力、だ。かつて、私に挑んできた人間の中にも………そういう者達がいた。そして、その者達は、例外なく………強者だった》

 

「邪龍が絆の力を語るとはね」

 

《フフフ………邪龍として数々の猛者達と矛を交えたからこそ………分かるものがある》

 

絆の力、か………。

俺に、俺達にそんなものがあったとはね………。

 

アポプスは途切れ途切れの言葉で続けた。

 

《私は………貴公らのような英雄と戦えたことを誇りに思う………》

 

「英雄………? 俺達がか?」

 

俺の問いにアポプスは頷いた。

 

《確かに、民衆から称えられた者を英雄と呼ぶのだろう………。だが、私はこうも思う。邪悪な存在から、畏怖され敬意すらも抱かれる者を英雄であると………。私は………貴公らを敬意を持って英雄と呼ぼう…………》

 

肉体の殆どが消え、残るのは頭のみ。

その頭ももうすぐ消失するだろう。

残された僅かな時間でアポプスは最後にこう告げてきた。

 

《また………合間見えよう、英雄達よ………》

 

それが伝説の邪龍、アポプスの最期だった。

 

 

 

 

「それで? この後はどうするの?」

 

ジャンヌが戦場を見渡しながら訊いてきた。

 

トライヘキサが停止し、アポプスも降した。

敵の数は異常とも思えるほど多いが、神クラスもいるこの場においては些細な問題だろう。

聖杯も取り返したので増えることはない。

 

俺はジャンヌの問いに答えた。

 

「まだ戦闘は終わっていない。俺達も行くぞ」

 

アポプスを倒したとしてもまだ戦いは終わっていない。

ならば、俺達は全てが終わるまで戦い続ける。

 

しかし―――――。

 

「うーん、ヘラクレスに背負われた状態でキメ顔で言われてもね。クスクスクス………」

 

「下ろせ、ヘラクレス! いつまで俺を背負っているつもりだ!?」

 

そう、今、俺は回復したヘラクレスに背負われている。

なぜ?

そんなものこいつらが面白半分でしているに決まっている。

 

「んだよ、リーダー様がヘロヘロだから、おぶってやってるんだろうが。ジャンヌ、今のうちに写メ撮っとけ。こんな曹操は滅多に見れないぜ?」

 

「オッケー」

 

ピロリンピロリンと携帯の音が聞こえてくる!

 

「やめろ! 見るな撮るな、その携帯をよこせぇぇぇぇぇぇ!」

 

まずは体力を回復させようと思う俺だった。

 

 

[曹操 side]

 




ああ………いつから曹操はこんなイジラレキャラになってしまったのか………。

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