[木場 side]
冥界から人間界―――――日本近海に転移してきた僕達は海に浮かぶ無人島に集っていた。
深夜の浜辺にて、共に戦う者達が集合している。
グレモリー眷属とシトリー眷属、天界組、レイナさんに赤龍帝眷属。
そして、八重垣さん。
八重垣さんは浜辺で一人、向こうの空に浮かぶ『門』を見て目を細めていた。
腰に携えた天叢雲剣を撫でた後、拳を握りしめる。
「クレーリア、僕は戦うよ。君が愛したあの町を、君と過ごしたあの町を………」
そう呟くと、彼は空を見上げて目を閉じた。
彼にとっても、この戦いは大きな意味があるんだ。
その瞳にかつての復讐心はなく、未来を見据えた目になっている。
そこにモーリスさんが歩みより、八重垣さんの肩に腕を回した。
「一人で気張ろうとするなよ? 今のおまえさんは一人じゃないんだからな」
「ありがとうございます。あなたは………彼の眷属でしたね?」
「おう。俺は兵藤一誠の『戦車』にして、あいつに剣を教えた師匠みたいなもんだ」
「そうですか………。あなたが彼の師………」
「さて、この戦いが終わったら飲みに行くぞ」
「え?」
「『え?』じゃねーよ。これが終わったら飲みに行くんだよ。こいつは決定事項、男同士の約束だからな」
「え、あ、いや………なぜ、いきなり………?」
突然の話に戸惑う八重垣さん。
そんな彼にモーリスさんは言った。
「約束を破るやつは男じゃねぇ。おまえさんも男なら約束は守れ。そして、約束を果たすには生きてこの局面を乗りきるしかあるまい? ―――――元死人だか、なんだか知らないが、おまえもちゃんと生き残れ。自分を犠牲にするような真似はするな。いいな?」
かなり強引な話だと思うけど………そういうことか。
モーリスさんらしいと思ってしまったよ。
少しの間、唖然とした後、八重垣さんは苦笑を浮かべた。
「なるほど………。確かにあなたは彼の師のようだ。彼と良く似ている。ただ………僕は酒が飲めませんよ?」
「おいおい、そいつぁ、いただけないな。よし、俺がおまえを飲めるようにしてやる」
冗談を言いながら笑うモーリスさんと、それに釣られて笑う八重垣さん。
重い空気を纏っていた八重垣さんの表情が柔らかくなっていった。
なんというか、やっぱりイッセー君の師匠って感じだよね。
ちなみに赤龍帝眷属は戦う力を持たないニーナさんと今だ眠り続けるイッセー君以外は全員が揃っている。
「ワルキュリアさんも戦うのですか?」
そう、赤龍帝眷属の兵士の一人であるワルキュリアさんもここにいる。
いつものメイド姿で。
アグレアスの時はニーナさんと共に留守番役だったので、今回が初参戦となる。
ワルキュリアさんは坦々と言う。
「はい。私も一応はイッセー様の眷属となりましたので。………皆さまはこの服のことを気になされていますね?」
『うん』
この場の殆どのメンバーが頷いた。
メイド服だしね………。
まさか、その格好で出撃するとは思わなかったですよ。
「お気になさらず。この服は便利なのです。服の下には色々と暗器も隠せますし」
そう言ってワルキュリアさんはスカートの中から鎖分銅を取り出した。
他にも苦内、鉤爪、呪符、短剣、毒針、薙刀………。
リアス前部長が呆れたように言う。
「いったい、どれだけ隠しているのよ………。その薙刀もスカートの中に入っていたの?」
「そうです。他には手榴弾などもあります」
「本当にどれだけ隠しているの!? というより、普段もその格好だけど、家でも持ち歩いているの!?」
「まさか。手榴弾は今回だけです」
「今、手榴弾
「心配なさらないでください。これはイッセー様が夜這いをしてきた時に備えての対策です」
「それは心配ないと思うけど…………。イッセーって自分からそういうことを求めてこないから………」
リアス前部長が深く息を吐く。
イッセー君はスケベだけど、その手のことは女性陣の方が積極的みたいなんだよね。
その辺りは日常を見ていたら、何となく分かる。
すると、朱乃さんが言った。
「私は夜這いされましたわよ?」
「「「えええええええええええええええっ!?」」」
オカ研女性陣の声が重なった!
リアス前部長が酷く狼狽しながら言う。
それは未だかつてないほどの動揺で、
「あ、あああああ朱乃!? そそそそそそ、それは………ほ、ほほほほほほ本当なの!?」
「ええ、情熱的な夜でした。あの時のイッセー君………それはもう」
それを聞いたゼノヴィアが叫ぶ。
「流石は朱乃前副部長だ! その領域に達していたとは!」
「そ、そそそそれって、あれよね………。イッセー君が夜に朱乃さんの部屋に行って………」
「イッセーさん、いつの間に…………!」
「はわわわわわわ…………」
朱乃さんの爆弾発言はイッセー君を想う女性陣を狼狽えさせる十分な威力だったらしい。
かつてないレベルの敵が迫ってきているのに、思考がそっちに向かっていないからね。
いつも通りでどこか安心はするようなしないような………。
狼狽えるリアス前部長達に朱乃さんはニコニコ顔で言い放った。
「私が一番出遅れてしまいましたから。―――――超本気モードでいかせてもらいますわ」
その言葉に彼女達は戦慄した。
▽
とりあえず、オカ研女子メンバーのことは置いておこう。
朱乃さんの発言に頭を持っていかれているみたいだからね。
『D×D 』メンバー以外にもこの周辺には大勢の者がいる。
日本に縄張りを持つ上級悪魔達も眷属を引き連れて参戦している。
日本の異能力者集団、五大宗家を中心にした者達も勢揃いして、朱乃さんの従姉妹である姫島家現当主である朱雀さんが彼らを率いている。
他には―――――
「私達もおるぞ!」
聞き覚えのある声を辿れば、そこには金髪で狐耳を持つ少女―――――九重ちゃんが、お母さんの八坂さんと共に登場していた。
八坂さんが一礼してくれる。
「皆さま、我ら日本に住まう妖怪も共に戦いますゆえ。何せ、住むところが壊されたら、困りますものなぁ」
八坂さんの背後には島を覆い尽くす程の妖怪達が軍勢となって集まっており、中には妖怪の長クラスも出てきている。
更には日本神話の神々も出陣していて、既にこの付近には強力な結界を幾重にも敷いているそうだ。
アセムが演出と言って放った攻撃に対する対策だろう。
あんなものを本土に放たれでもしたら、それだけで壊滅的な被害が出てしまう。
あの結界は敵軍の侵入を防ぐと同時に向こうの世界からの砲撃を考慮して張り巡らされているんだ。
ソーナ前会長が言う。
「普通なら安心できる規模の結界なのでしょうけど、相手が相手。これでもまだ不安は残りますね」
「そうね。だからこそ、攻撃側に回る私達に迅速な作戦遂行が求められるわ。人間界の方はどうなっているのかしら?」
「各勢力の協力でなんとか、混乱は抑えているようですが………やはり、隠しきることは出来ていません。連日のニュースで取り上げられています」
ソーナ前会長は瞑目しながら、深く息を吐いた。
アセムの行為によって、人間界に異形の存在が認識されそうになっているのか………。
合成やCGという風に思われているのだろうけど、このままでは完全に知られてしまう可能性がある。
すると、先程までモーリスさんと話していた八重垣さんが話に入ってきた。
「僕が思うに、現段階で人間界に被害が出ていないだけかなりマシだ。トライヘキサ復活というリゼヴィムの悪意に満ちた行為は人間界にも及ぶ。トライヘキサやあの邪龍達がそれぞれの意思で動いていたとしたら、この数日の間に人間界にもかなりの被害が出ていたはずだ」
その言葉を聞いて、リアス前部長が怪訝な表情で訊いた。
「アセムが彼らと手を結んだことで、その行動に制限をかけた………ということ?」
「それは分からない。ただ、結果的にそうなったのは間違いないだろう」
アセムが邪龍の手綱を握った………?
アセムの宣言通り、この三日間は彼らに動きはなかった。
トライヘキサも邪龍も、こちらに攻め込んでくるようなことはゼロだった。
僕達もそれを見越して、各地の修復や修行に打ち込んだわけだけど。
レイナさんが呟く。
「分からないわね、向こうの狙いが………。アザゼル様も考えていたけど、態々、こちらに時間を与る意味が理解できないわ。向こうには過剰と言える程の戦力が揃っているのに」
その言葉に皆も頷いて考え始めた。
この三日という期間は結局、なんだったのか。
なぜ、こちらに時間を与えるような真似をしたのか。
彼らは偽りなく、この三日間は何の動きも見せなかった。
それはなぜなのか。
やはり、何か企んでいるのだろうか…………。
その時、一人の天狗が八坂さんのところに現れた。
天狗は八坂さんの前に膝をつくと、報告する。
「八坂様。各陣、全て整ったとのことです」
▽
無人島の浜辺を静かに飛び立つ迎撃連合部隊。
翼がある異形、超常の存在は両翼を羽ばたかせて宙に飛び出していく。
人間の異能力者達は使役している式神や妖怪の背に乗って空を飛ぶ。
悪魔、天使、堕天使、妖怪、人間。
それ以外の存在もこの場に集結している。
妖怪の数が一番多いとはいえ、他の勢力からも派遣されている者達も合わせれば一万は遥かに越えているだろう。
それぞれに属する領域があり、価値観も文化も違う種族が一つの目的のために、手を取った。
そうしなければ、乗り切れないのはこの場の皆が分かっているだろう。
それでも、こうして協力して繋がった。
やられてばかりじゃないんだ。
ここにいる全ての者達は己の守りたいものがあるから立ち上がった。
強大すぎる敵に立ち向かうんだ。
耳にはめたインカムから女性の声が聞こえてくる。
このインカムは戦場に立つ全ての者に配られているため、この戦域全てに女性の声は流されている。
声の主は朱雀さんだった。
『五大宗家の一角、姫島家現当主の朱雀と申します。時間がないので簡潔に言います。―――――勝ちましょう。生きて、我らが祖国に帰りましょう』
これに、全員が―――――。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!』
声を張り上げて、飛び出していった!
空に浮かぶ『門』目掛けて、真っ直ぐに突き抜けていく!
調度、『門』の向こうから邪龍軍団が顔を出し、こちらの世界へと入ってきていた。
空が黒く埋め尽くすほどの数が一斉に向かってくる。
リアス前部長が声を張る。
「私達も行きましょう! この戦いに皆の未来がかかっているのだから!」
『はいっ!』
僕達も悪魔の翼を広げて『門』を目指す。
この戦場において、僕達の役割はオフェンス。
あの『門』を潜り、敵の本拠地を叩く役割だ。
おそらく、冥界や北欧、その他の場所でも開戦している頃だろう。
『D×D』で始めに仕掛けたのはリーシャさんだった。
「皆さんはそのまま真っ直ぐ進んでください! 私達が援護します!」
「本気モードだもんね!」
「ええ!」
リーシャさんに続き、彼女の肩に乗るサリィとフィーナの妖精コンビも元気良く言ってくれた!
リーシャさんが握る二丁の魔装銃が火を吹き、前方の邪龍を貫いていく。
引き金を引いた数と同じ数かそれ以上の数を海に沈めていった。
相変わらず、凄まじい速撃ちだ。
しかも、一回の狙撃で複数を撃ち抜いている。
空を飛ぶ魔装銃と盾―――――ライフルビットとシールドビット。
シールドビットが僕達を囲むように配置され、飛んできた流れ弾から僕達を保護。
縦横無尽に舞うライフルビットが猛スピードで敵の数を減らしていく。
彼女に守られている僕達は本当に真っ直ぐ進むだけで済んでいた。
「僕も出よう」
背後から聖なる波動を感じた。
振り向くと―――――八重垣さんが握る天叢雲剣の刀身から八つの首を持つ龍が現れている。
聖なる波動を放つ八岐大蛇。
天界の戦いで天叢雲剣が見せた新たな姿だ。
八重垣さんは首の一つに乗り、空を駆け抜けていった。
そして、残りの七つの首を操り、敵を駆逐していく!
「いくよ、天叢雲剣!」
八重垣さんが天叢雲剣を振るうと、それに連なるようにして、七つの首が動いていく。
聖なるオーラで形作られた龍が巨大な顎を開けて―――――邪龍を丸のみにしてしまう!
呑み込まれた邪龍は濃密な聖なる力によって、まるで消化されてたように溶けて、形を失っていった!
また、聖なる龍を従える八重垣さんの身のこなしも流石と言うべきか、襲いかかる邪龍を華麗にかわして、自身も斬戟を入れている。
セノヴィアが感嘆の声を漏らす。
「以前よりも身のこなしが鮮やかだな。動きに無駄がない」
「あれが本来の彼なのかも」
天界で彼と剣を交えたゼノヴィアとイリナにとっては別人のような戦いぶりに思えるようだ。
なるほど、八重垣さんは教会時代、かなりの使い手だったと聞く。
その実力がこの戦いでは十全に発揮されているということか。
――――これが一度は魔に落ちた聖剣とその使い手の力。
過去に生きた彼が未来を掴むために得た力なのか。
すると、隣にいるゼノヴィアが不敵に笑んだ。
「イリナ、木場。ここは同じ剣士として、私達も修行の成果を発揮するべきではないか? デュランダルとエクスカリバーも暴れたいと言っているのだが」
ゼノヴィアの言葉に呼応するようにデュランダルとエクスカリバーが聖なる波動を放つ。
少し荒々しい波動に感じるけど―――――どこか、主の成長を喜んでいるようにも思える。
僕も挑戦的な笑みで、
「そうだね、僕も同じ気持ちだよ」
「ええ! やってみようじゃない!」
異世界最強の剣士による地獄の修行を耐え抜いた僕達は強く頷き―――――スピードを上げて前に出た!
僕達が通り抜けた場所にいた邪龍は血飛沫をあげて、海へと落ちていく。
破壊力のあるゼノヴィアはもちろん、僕やイリナも一太刀で邪龍を斬り伏せる。
高速で、そして一撃で確実に仕留める。
僕達剣士は皆の剣。
皆に先んじて、相手を沈めていくのが役目。
すると、ゼノヴィアが邪龍の群れの中に躍り出た!
「さぁ、こい! 今宵のデュランダルとエクスカリバーは一味も二味も違うぞ!」
彼女の言葉に反応した邪龍が一斉に雄叫びをあげて、襲いかかる!
百は軽く越えているだろう!
ゼノヴィアは聖なるオーラをたぎらせて、自慢のパワープレイを繰り広げる。
デュランダルとエクスカリバー、伝説の聖剣が振るわれ、多くの邪龍を葬っていく。
しかし、相手の物量は凄まじい。
斬っても斬っても増え続ける邪龍を相手に、ゼノヴィアはついに囲まれてしまう!
完全に孤立してしまった!
だが――――。
「フフフ…………」
危機的な状況だというのにゼノヴィアは余裕の笑みを浮かべていた。
そうこうしている内に邪龍の数はドンドン増えてくる。
ゼノヴィアを囲む邪龍はまるで黒い竜巻。
囲まれたゼノヴィアの姿が次第に見えなくなっていく。
ゼノヴィアの周囲が完全な黒で多い尽くされた。
次の瞬間―――――。
黒い渦の隙間から目映い光が溢れ出し、ゼノヴィアを覆っていた全ての邪龍が吹き飛ばされた!
吹き荒れる聖なる波動の嵐!
目も開けることが出来ないほどの輝きが一帯を包み込む!
なんという力の奔流だ!
周囲にいる者達は圧倒的な力の波動に動きを取れずにいる!
光が止み、僕達の目に入ってきたのは―――――破壊の化身。
炎のように揺らめく蒼色のオーラを全身に纏うゼノヴィア。
特徴的な青髪は腰の辺りまで伸び、瞳も身に纏うオーラと同じく、強い蒼色に輝いていた。
今のゼノヴィアの姿は見るものを魅了し、畏れを覚えさせる程に神々しい。
黒一色に近い戦場を蒼く照らしているんだ。
何より注目すべきなのは彼女の握る二振りの聖剣。
リアス前部長が声を漏らす。
「………デュランダルとエクスカリバーの刀身が黒く染まってる? あれはモーリスの―――――」
モーリスさんが笑んだ。
「そうさ、あいつは俺が出した課題をクリアした。剣気をものにしやがったのさ。まぁ、結局はパワーを伸ばしたことになるんだが、今のゼノヴィアは滅茶苦茶強いぜ? あの状態を名付けるなら………そうだな」
モーリスさんは蒼い炎を纏うゼノヴィアに視線をやると、その名を口にした。
「全てを斬り裂く蒼炎の剣――――『蒼炎の斬姫』ってところかね」
[木場 side out]