ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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14話 リラックスしよう!

[美羽 side]

 

アセムが世界に宣戦布告してから三日目に入ろうとしている。

今のところ、彼らに動きが見えないけど、数時間以内には何かしらの反応があるだろう。

つまり、数時間後には『門』からの進軍が始まるということだ。

 

ボク達『D×D』に指示を出してくれているアザゼル先生は現在、各勢力の首脳陣と最後の作戦会議に入っている。

北欧の主神オーディンから、最強クラスの神々がいるとされるインド神話の三柱の内二人までもがその会議に出席しているらしい。

普段は動きを見せない神々もこの事態に対して、積極的に連携を取ろうとしているようだ。

 

………実際にトライヘキサの力を目にしているしね。

それに世界構築なんてこと軽々と実現したアセムの規格外過ぎる力も見てしまっている。

 

神姫化したボクやアリスさんでも邪龍筆頭格には届かなかった。

あの二体の力が神クラスを超えているのは言うまでもないだろう。

 

トライヘキサも体を分裂させて侵攻してくる。

分裂したから少しはパワーダウンしていると思いたいけど………あまり期待しない方が良いと思う。

 

トライヘキサに関してはロスヴァイセさんを中心に対抗術式を構築しているから、こちらに期待するしかない。

トライヘキサを封じることが出来たとしても安心は出来ないのだけど。

 

この戦いにはアセム一派も当然加わる。

配下の四人も今度は真の力を解放してくるに違いない。

 

個々の力も、数も未知数。

どれだけ犠牲がでるか誰にも予想できない。

 

この戦いに挑む世界中の人達がそう認識しているはず。

 

そんな中でボク達は―――――。

 

「ふぅ………良いお湯ね」

 

「はい、リアスお姉さま」

 

息を吐くリアスさんと頷くアーシアさん。

 

朱乃さん、小猫ちゃん、ゼノヴィアさん、イリナさん、ロスヴァイセさん、レイヴェルさん、アリスさん、リーシャさん、ニーナさん、ディルさん、そしてワルキュリアさん。

兵藤家に住んでいる女性陣のほとんどが、兵藤家地下の大浴場で湯船に浸かっていた。

 

そう、ボク達は現在、冥界ではなく人間界の家に戻ってきているんだ。

 

この場にいないのはヴァーリチームのメンバー、黒歌さんとルフェイさんぐらいかな。

 

数時間後には世界の命運を掛けた激戦が待っているというのに、こうして皆でお風呂に入っていていいのか。

こんなにまったりしてしまっても良いのか。

 

色々なことを言われてしまいそうだけど…………。

 

「こんな時だからこそリラックスです。今から気を張り積めていては、戦場で真の力を発揮することはできませんよ?」

 

「そうそう。今のうちにのんびりしましょ」

 

リーシャさんとアリスさんがお湯を体にかけながら、そう言った。

 

皆でお風呂というのは二人が言い出したことだ。

初めは皆も眉を潜めていたけど、理由を聞けば納得がいったようで、今はゆっくりしている。

 

まぁ、この中でアリスさんとリーシャさんが最も戦いの経験が多いからね。

二人の言うことも分かるんだよね。

 

ちなみに木場君とギャスパー君は一度、自宅に戻り、トスカさんとヴァレリーさんと一緒にいるようだ。

こっちは大切な人と過ごすことで精神を落ち着かせ、決意を固めているって感じかな?

 

モーリスさんはリビングで紅茶を飲みながら、最近やり始めたルービックキューブ(八面体)と戦っていた。

お風呂に入る前にちらっと見たけど、あと二面というところまで来たようで………。

 

流石というか………モーリスさんは全力でくつろいでるよね。

 

そんなモーリスさんに鍛えられたオカ研メンバー剣士組だけど………恐ろしく強化された状態で戻ってきた。

今は湯船で足を伸ばして、普段通りにしているゼノヴィアさんとイリナさんだけど、纏うオーラは別物。

 

「………おかしいな、悲しくないのに涙が………」

 

「分かるわ、ゼノヴィア。…………怖かったよぉ………グスッ」

 

なんか突然、泣き始めた!?

結界から出てきた時も号泣してたけど、一体、どんな鍛え方されたの!?

男勝りなゼノヴィアさんまで泣くって!

 

目元に涙を浮かべる二人をアリスさんはそっと抱き締める。

 

「うんうん、分かるわ二人とも。私も昔は………グスッ」

 

アリスさんまで思いだし泣きしてる…………。

モーリスさんの本気の修行はどれほど恐ろしいのだろう。

 

三人のその光景にリアスさんは目元をひきつらせながら、

 

「い、いったい何をされたのかしら………? 祐斗もゼノヴィアもイリナも確かに強くなったみたいだけど、これってトラウマ刻まれてるような………」

 

「あらあら………私達はリーシャさんで良かったですわ」

 

朱乃さんもニコニコ顔だけど、若干引いているような雰囲気だ。

 

今、朱乃さんが「リーシャさんで良かった」と言ったけど、実はリアスさん達、ウィザード組もあの結界の中に入ったんだ。

木場君達が出てきた翌日にね。

 

リーシャさんが微笑みながら言う。

 

「本当なら美羽さんが指導についた方が効率が良かったような気もしますが、私も伊達に魔法学校の教師をしていたわけじゃありません。モーリスよりは優しく教えることが出来る自信はありますよ?」

 

すると、小猫ちゃんがリーシャさんに訊ねた。

 

「私の指導もしてもらいましたが、リーシャさんはよく気の流れなんて分かりましたね。今更な質問なんですけど」

 

「あれは何となくです。それに気のことはイッセーから聞いていましたし。私が教えたのは力の流れと使い方。小猫さんの場合、イッセーやお姉さんの黒歌さんの指導でベースは出来上がっていました。私が小猫さんの指導に当たることが出来たのはそのおかげです」

 

「イッセー先輩と………姉さまの………」

 

そう呟くと小猫ちゃんは口元までお湯に浸かり、ブクブクし始める。

半目で微妙な感じを出しているけど、あれは嬉しいのだろうね。

 

リアスさんが言う。

 

「他の『D×D』メンバーには申し訳ないわね。私達だけ特訓だなんて。もちろん、ソーナ達には了承を得ていたのだけど」

 

「私もモーリスも限られた時間で皆さんのレベルを引き上げなければいけません。それには最も力を把握しているリアスさん達がベストだったのです。もう少し時間があれば、『D×D』メンバーの特訓相手を務めることが出来たでしょうけど…………」

 

「それは分かっているわ。だからこそ、私達が前に出て、相手を蹴散らさないといけないわ。『消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)』の溜めの時間も短縮できたし、それに―――――新必殺技も形になった。祐斗の力も合わせたら相手にかなりのダメージを与えることが出来るはずよ」

 

「リアスの新必殺は本当に容赦がありませんわよ? 祐斗君の力と合わせたら必中で必殺は確実ですもの」

 

リアスさんの言葉を補足するように言う朱乃さん。

リアスさんもかなりの自信があるようだ。

 

必中で必殺。

恐ろしい単語が出てきたけど、今はとても心強い。

ボクは結界の維持で皆がどれだけ力を伸ばしたのかは分からないけど、特訓に打ち込んだ全員がレベルアップしているのは確かだ。

 

リアスさんが言う。

その表情はとても凛としていて、『王』としての風格が表れていた。

 

「必ず勝ちましょう。誰一人欠けることなく、この家に帰ってきましょう」

 

アリスさんも続く。

 

「そうね。もう悲しい涙なんて見たくない。次に泣くときは嬉し泣きが良いわ」

 

その言葉に皆は強く頷いた。

 

そうだ、ボク達は色々な意味で負けられないんだ。

この世界を守りたい、学校の皆を守りたい、大切な場所を守りたい。

 

未来を手にして、皆揃って帰ってくる。

それがこの戦いにおける絶対なんだ。

 

皆がそれぞれの覚悟を胸にしていると、レイナさんが挙手した。

 

「え、えっとね………そのことなんだけど………。皆………というより、リアスさんとアリスさんに話があるの」

 

「私達に?」

 

「うん。この戦いで必要になると思うし、アザゼル様にも言われてて…………。でも、時間なくて今言うしか………」

 

すごく言いにくそうにしているレイナさん。

なにか申し訳ないような、恥ずかしがっているような雰囲気で顔を少し伏せてしまっていた。

 

彼女の様子に怪訝な表情を浮かべたリアスさんが問うた。

 

「戦いに必要なのね? 遠慮なく言ってちょうだい」

 

「そうそう。私達に用意できるものなら、すぐに用意するわ」

 

アリスさんも頷きながら、そう答えた。

 

二人の前向きな回答にレイナさんは顔を上げると、先程よりも更に申し訳なさそうな顔をしていて………。

 

「えーと………ふたりの母乳………もらえる………かな?」

 

「「…………え?」」

 

予想外の言葉にフリーズするアリスさんとリアスさん。

 

ふたりの…………母乳?

 

イリナさんは何か分かったようで、掌をポンと叩いた。

 

「あっ、そっか。イッセー君のオッパイザー………あれの補給ね? アグレアスで一度使ってたし」

 

「「「あー…………」」」

 

なるほど、確かにアグレアス戦でお兄ちゃんはオッパイザーを使用した。

あれはお兄ちゃんの力を安定させる補助装置で、強大な力を引き出せるけど………使った後に補給が必要という仕様になっている。

 

そして、その補給に使うのがリアスさんとアリスさんのおっぱいなわけで…………。

 

スイッチ姫二人が慌てたように言う。

 

「ちょ、ちょっと待って!? 今なの!? このタイミングなの!?」

 

「た、確かにそういう仕様ってことは聞いてるけど! 今すぐじゃないとダメ!? せめて、イッセーが目覚めてからとか…………」

 

しかし、レイナさんは言う。

 

「でも、イッセー君がいつ目覚めるか分からないし………あまり時間もないし…………」

 

「「…………っ!」」

 

言葉を詰まらせる二人。

 

今、二人は相当混乱しているだろう。

ここに来てのシリアスブレイク。

しかも、おっぱいを搾らせろと言われてるんだもん。

しょうがないよね。

 

「あらあら、そういうことなら、急がないといけませんわ」

 

「朱乃!? あなた、何をして―――――」

 

「心配しないで、リアス。イッセー君の代わりに私がリアスのお乳を搾ってあげますわ」

 

「リアスお姉さま! ここは耐えてください! お姉さまのお乳がイッセーさんを!」

 

「アーシア、あなたまで! ふぁぁっ………!」

 

リアスさんを逃がさないようにガッチリ固定する朱乃さん。

ものすごくSな時の朱乃さんだ………楽しそうだもん。

 

アーシアさんもよく分からない覚悟を決めたようで、リアスさんのおっぱいに手を伸ばしていた。

 

その一方では、

 

「ちょっと、ニーナ!? あんたも何してるのよ!?」

 

「えー、だって、この緊急時だよ? お姉ちゃんのおっぱいが世界を救うのかもしれないんだし、ここは搾るしかないじゃん」

 

「緊急時なの私なんですけど!? って、ゼノヴィアさん、イリナさん!? 二人もなんで私の腕を押さえてるの!?」

 

「落ち着くんだ、アリス。そんなに暴れては搾乳出来ないだろう」

 

「ニーナさんの言う通りだわ! 二人のおっぱいは世界を救うのよ!」

 

「意味わかんない! ひゃぁっ! ニーナ、そこ………ダメッ………あんっ!」

 

 

 

そして―――――――

 

 

 

「「あっ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッ!!」」

 

 

二人のスイッチ姫の嬌声が大浴場に響き渡った。

 

 

 

 

お風呂を上がって着替えたボクは玄関でとある人物を迎えていた。

 

「こうして出迎えるのって初めてだよね? 何度か家に来てるけど」

 

「そうなるな」

 

簡素に返してきたのは銀髪の青年ヴァーリさん。

そう、彼が家を訪ねてきたんだ。

 

ヴァーリさんが訊いてくる。

 

「病院に行ったら、彼は家に戻したと聞いてね。顔を見に来た」

 

彼の言う通り、お兄ちゃんは冥界の病院から家に移している。

目が覚めないけど、生命維持装置みたいな医療器具が必要なわけではないしね。

それに冥界にも『門』がある以上、アセム達の手が及ぶ可能性もある。

 

冥界にいることは危険だと判断したボク達は一度、お兄ちゃんを家に連れ戻すことにしたんだ。

今は自室で眠っている。

 

ボクはヴァーリさんを家に上げると、お兄ちゃんの部屋まで案内し、中へと入る。

中にはベッドで眠るお兄ちゃんと、その手を握っているお父さんとお母さん。

 

お父さんがヴァーリさんを見て、手を振った。

 

「やぁ、ヴァーリ君。イッセーの見舞いに来てくれたのかな?」

 

「まぁ、そんなところ………です」

 

「ふふふ、そんなに硬くならなくても良いのよ? もっとフランクにいきましょう。ささ、こっちに座って? お茶いれるから」

 

「あ、いや、おかまないなく………」

 

「あ、コーヒーの方が良いのかしら? それともココア?」

 

「いや、その………では、ココアで」

 

フランクすぎるお父さんとお母さんに少しペースを乱されてる最強の白龍皇。

 

うん、やっぱり、うちの両親って凄いよね。

北欧の主神が相手でも物怖じしないその姿勢は世界一なんじゃないだろうか。

ある意味最強だと思う。

 

お母さんはココアを淹れるとヴァーリさんに差し出した。

それはもう笑顔で。

 

「嬉しいわ、イッセーの顔を見に来てくれて。イッセーも友達が見舞いに来たと知ったら、きっと喜ぶわ」

 

「友達、か………」

 

ヴァーリさんはそう呟くと首を横に振った。

 

「俺は………彼と戦いたくて、彼に家族を殺すと言った。殺されたくなければ俺と戦え、と」

 

―――――っ!

 

突然の告白にボクは仰天した。

 

ここでそれを言っちゃうの?

三大勢力が和平の話し合いをした時、ヴァーリさんはお兄ちゃんに本気を出させるために、そう言って煽っていた。

ボクも『殺す』と言われたうちの一人で………。

 

「で、でも、ボクには謝ってくれたよね? もうボクは気にしてないよ?」

 

以前、ボクはその事でヴァーリさんから謝罪を受けた。

あの時は少し驚いたけど、あの件で彼はそんなに悪い人じゃないってことが分かって………。

 

でも、ヴァーリさんは両親に問うた。

 

「あなた方はそんな俺を子供の友人と言えるのだろうか?」

 

その言葉に難しい表情でふむと考える両親。

お父さんもお母さんもじっとヴァーリさんの目を見て―――――。

 

「「いいんじゃない?」」

 

物凄く爽やかな顔で返した。

 

「え………?」

 

思いもよらない回答に思考をフリーズさせるヴァーリさん。

 

お父さんはヴァーリさんの肩を叩きながら言う。

 

「まぁ、『殺す』なんて単語はよろしくないけど、君は美羽に謝ったのだろう? それに悪いと思ってるからこそ俺達に話してくれた。違うかい? なら、反省をしたってことだ。それで良いんじゃないかな?」

 

「そうそう。ヴァーリ君が良い子だから、イッセーも仲良くしてるんだと思うわ。ほら、以前も二人でお茶してたじゃない?」

 

そういえば、ロキ襲撃の時にリビングでお茶してたような。

お母さんもよく見てるというか、よく覚えてるね………。

 

お父さんが微笑みながら言う。

 

「これからもうちのイッセーと仲良くしてやってくれ。そうしてくれると俺達も嬉しいよ」

 

その言葉にヴァーリさんは言葉を失うが、少ししてから小さく笑った。

 

彼はお兄ちゃんの方に視線を移すと、楽しげに言う。

それは年相応の表情だった。

 

「この間、彼とラーメンを食べに行く約束をしたんだが………ふふっ、『友達』なら約束を守ってもらわなければいけないな。兵藤一誠、俺は麺類にはうるさいぞ?」

 

それから少しの間、ヴァーリさんを交えて何でもない日常トークをした。

 

 

すると―――――

 

 

「カップ麺ばかり食べてるの!? それはダメよ!」

 

「俺達の中でまともに料理が出来る者がいないんだ。それに仲間も食に対してそれほど拘りがあるわけではなくてだな………」

 

「ダメです! ちゃんとした料理を食べないと大きくなれないわ!」

 

「…………」

 

ヴァーリさんがインスタント食品ばかり食べていることを知ったお母さんが軽くお説教することになった。

それは健康のことを気にかけてのことなんだけど………。

 

ヴァーリさんが家で食事する機会が増えるかもしれない。

 

 

[美羽 side out]

 




今回はほのぼのでした~

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