ティア姉&イグニス姉さんの三話目です~。
『――――感じるでしょう? 皆の想いを、この熱を。今のあなたなら分かるはずよ、イッセー』
ああ、感じるよ、イグニス。
この熱、この熱さ。
俺の中に入ってくる皆の―――――。
力が溢れるというより、力に浸っているような感覚だ。
危うさはない。
どこまでも温かくて、心地良さすら感じる。
天界の時も、ディルムッドを救おうとした時も同じだった。
この虹の輝きが俺達を優しく包んでくれる。
皆の想いを繋げてくれるんだ。
異形の姿となっていたリゼヴィムは頭を抑えてもがき苦しんでいた。
『なんだ、こりゃ………!? 頭が………割れる………っ! 俺の中に何が入って………!? この輝きはおまえか、赤龍帝! おまえがこの訳の分からねぇ事象を起こしてるってのか!?』
リゼヴィムはこの虹の輝きに明らかな不快感を示していた。
まるで何かを吐き出しそうな表情。
涎を口から流すほど苦しみ、息を荒げている。
苦しむ奴に俺は静かな口調で言った。
「そうか。おまえには分からないんだな。この温かさが。この熱の意味が」
俺の言葉にリゼヴィムは顔を歪ませて叫ぶ。
『分かる分けねぇだろッッ! てめぇらのことなんざ知るかよ! 気持ち悪いんだよ、おまえ!』
リゼヴィムは手元に巨大な魔力の塊を作り出した。
それは今までのどれよりも濃密で強大。
周囲の建物はおろか、地形そのものを変えてしまうほどの威力は持っているだろう。
奴は俺の近くにいるヴァーリと王者ごと吹き飛ばそうというのか。
『消えろぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!』
リゼヴィムは魔力の塊を躊躇なく放ってくる。
放たれた側の俺としてはまるで隕石でも降ってくるかのような感覚だ。
どす黒いオーラを放つ魔力の塊は俺達を容赦なく襲った―――――。
巻き起こる爆風。
黒煙が辺り一帯を覆っていく。
煙が収まり、視界が明ける。
奴の前にいたのはボロボロの姿の俺。
鎧全体にヒビが入り、風が吹くとボロッと塊で崩れ去る。
俺の姿に奴は笑う。
『うひゃひゃひゃひゃ! まともにくらいやがった! ざまぁねぇな! 俺のクソ孫とそこの王者くんを庇ったか? どちらにしろ、そんだけボロボロになりゃあ、どれだけパワーアップしても意味がねぇ! いたぶり殺してやんよッッ!』
高らかに笑うリゼヴィム。
確かに俺は動けないヴァーリと王者を庇って、そのまま受けた。
しかし、奴は気づいていない。
ドライグが奴に聞こえる声で言った。
『ルシファーの息子よ。何を勘違いしている? 今の相棒を良く見てろ』
『なに?』
リゼヴィムは俺に視線を戻す。
確かに鎧は崩れ去っている。
全身に入ったヒビは大きくなり、砂のように脆く、風に流されていく。
しかし―――――これは奴の攻撃を受けて崩れているわけじゃない。
外側ではなく、内から沸き起こる力に鎧が耐えられず、それで崩れているんだ。
例えるなら脱皮のようなもの。
俺は今まで被っていた殻を破り、新たな領域へと足を踏み入れた。
崩れる鎧の隙間から虹色に輝くオーラが噴き出してくる。
やがて俺を覆っていた鎧は全て消え、全身から虹が溢れ出た。
目映い輝きは更に強く、激しく、それでいて穏やかに広がっていく。
『なんだ………その姿は………!? その瞳の色は………!?』
鎧を破り改めて生身となった俺を指差すリゼヴィム。
ふいに足元に落ちていたガラスの破片に目をやると、そこに映っていたのは――――――虹のオーラに包まれ、金色に輝く瞳を持った俺だった。
瞳の虹彩が金色に輝き、今までのものとはまるで違う雰囲気を出している。
自分の姿を認識して、ようやく分かった気がした。
イグニスが言っていた変化、アセムが求めた俺の覚醒はこれを言っていたんだと思う。
人でも悪魔でも、ドラゴンでもない。
ましてや神でもない。
イグニスがリゼヴィムに言う。
『――――変革者。限界を越え、新たな可能性に触れ、それを開花させた。今のイッセーはあなたでは理解することが出来ない領域に至った。進化したのよ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー』
『変革者…………!? んだよ、それ!? ここにきて訳の分からねぇ進化したってのか………!?』
進化…………そうだな。
自分でもそれが分かる、実感できる。
俺は覚醒し、進化した。
イグニスは俺にしか聞こえない声で言う。
『いい? 覚醒したとはいえ、あなたはまだ力に慣れていないわ。体はともかく、精神が追い付かないかもしれない』
つまり、僅かな時間しかもたないんだな。
それは数秒か、数十秒か、数分か。
目覚めたばかりの今では扱いきれない、か。
ま、それは何となく予想はついてたさ。
様々な要因、力が混ざっているとはいえ自分の体。
それぐらいは分かる。
すぐにケリをつけよう。
俺は特に構えることなく、リゼヴィムと向き合う。
奴は身構えた瞬間―――――俺は既に奴の眼前に立っていた。
リゼヴィムの瞳は俺を映していない。
先程まで俺が立っていた場所を見たままだ。
俺は腕を引いて、腰を落とす。
拳を握って、尋常じゃないオーラを集めた。
そこまでしてもリゼヴィムは未だ、俺の立ち位置を把握できていない。
俺を認識できていないんだ。
繰り出した拳が空間すら反応できない速度でリゼヴィムの顔面にめり込む!
拳に捻りを加え、撃ち込むと同時に捻り込んだ!
俺の一撃を受けてリゼヴィムは幾つもの建物を突き抜け、遥か彼方まで飛んでいく!
地面を蹴った俺は超神速で先回りして、奴を待ち構える。
建物を突き破って出てきた瞬間―――――俺は奴の背に肘打ちを撃ち込み、地面に叩きつける!
真下の地面が周囲の建築物を巻き込んで大きく陥没する。
建築物が崩れ、あちこちから響く地響きが大気を揺らした。
見ると俺が辿ってきた場所では空間が歪み、悲鳴を挙げている。
時間差で空間が捻れたのか………。
『ぶへっ! がはっ! なんだ………こりゃあ………!? 俺が反応できなかっただと………!?』
土を払いながら這い出てきたリゼヴィムは血を吐き出しながら、理解できないといった表情を浮かべていた。
奴は立ち上がるが、大きくよろめく。
たった二発。
たった二発の拳打で膝が笑うほどのダメージを受けたことにリゼヴィムは、
『おいおい…………マジかよ………。こちとら、賭けまでしたんだぞ? こんな厳つい姿になったってのに、たった二発? こんなクソ雑魚悪魔に…………俺が?』
現実逃避するように笑いを漏らす。
オーフィスの蛇をベースに作ったという強化剤を飲んで見た目化け物と化したリゼヴィム。
そんな奴を見て、改めて思う。
「情けない姿だな」
『なんだと?』
俺の漏らした一言に片眉を上げるリゼヴィム。
「情けないって言ったんだよ。ヴァーリの言った通りだ。どれだけ大物ぶったところで、おまえの精神は今の醜い姿と同じだ。魔王ルシファーの息子? 聖書に記されしリリン? 笑わせんな、おっさん。おまえはルシファーの恥さらしだよ」
こいつにルシファーの名は必用ないだろう?
本当に必用なのは他にいる。
真にルシファーの名を継ぐべきなのはこいつじゃない。
俺は虹色のオーラを纏い、一歩踏み出す。
そして、指で奴を挑発した。
「かかってこいよ、三流魔王。
『………赤龍帝ッッッ!』
俺の挑発に奴は浮き上がった血管を更に浮き上がらせていく。
背にルシファーの翼を全て展開し、大きく広げた。
時間が限られているなら、さっさと倒してしまおう。
徹底的にやってやる。
虹の輝きを放つ俺は再び超神速で奴に突っ込んでいく。
フェイントも駆け引きも必要ない。
今の俺ならただのごり押しだけで、こいつを潰せる。
構えるリゼヴィムだったが、俺を捉えられないのなら意味はない。
構えの間を縫って、俺は突貫のスピードをプラスした膝蹴りを奴の腹に叩き込む!
『グハッ! ちぃっ………!』
吐瀉物を撒き散らしながらリゼヴィムは腕を強引に振るって攻撃してくる。
………が、既にそこには俺の姿はない。
俺がいるのはその反対側。
がら空きになったボディーに強烈な蹴りを入れ、遥か上空に吹き飛ばす!
浮き上がった奴の肉体に無数の拳と蹴りを叩き込んだ俺は手元に気弾を作り、リゼヴィムに放つ!
気弾の勢いに耐えることすらできなかったリゼヴィムは空高く上がり、雲を突き抜けていった。
その様子を確認した俺は近くにいるヴァーリと視線を合わせる。
「行ってくる。…………おまえの奴を許せない気持ちは分かるつもりだ」
「………」
「俺がリゼヴィムを屠ることは不服か? まぁ、不服だと思うよ。でもな、ここは俺に任せちゃくれないか? 必ずあいつを地に引きずり下ろしてやる」
「………そうか。君にも奴を討つ理由がある。ここは君に任せよう」
瞑目するヴァーリ。
こいつも何だかんだで素直な奴だな。
ま、それは良いとして。
「今度、ラーメンでも食いに行くか。良い店を知ってるんだ」
「二天龍でラーメンか………。それも悪くない」
互いに笑みを浮かべる俺とヴァーリ。
俺は一つ頷いた後、リゼヴィムを追った。
リゼヴィムがいるのはこの雲を越えた先。
虹の世界を抜け、アグレアス上空に立ち込める暗雲を突っ切る。
雲を抜けた先で待っていたのは腹を抑えてもがき苦しむリゼヴィムの姿だった。
『げはっ! ぐぉぉっ! うぐぅっ! 回復を………クソッ! あの若造がぁぁぁぁぁ!』
フェニックスの涙の入った小瓶を幾つも開けて、体に振りかけている。
しかし、リゼヴィムの受けた傷は回復する兆しを見せない。
クリフォトの所持するフェニックスの涙は王者の『無価値』によって全て無効化されている。
リゼヴィムが所持するフェニックスの涙はただの水滴に成り果てたということだ。
フェニックスの涙が無効化されたことは奴も分かっているはず。
それなのに頼ろうとするということは、それだけ焦っているということだ。
「諦めろ。手はない。おまえは詰んだ」
『うるせぇっ!』
奴はどす黒い魔力の塊を俺に投げつけてくる。
手を翳して、ボールをキャッチする感覚で魔力弾を掴まえ―――――握りつぶした。
この結果にリゼヴィムは目を開くが、直ぐに手を変えてくる。
翼を広げて、猛スピードでこちらに殴りかかってきた。
俺は僅かな動きで、奴の特攻を避ける。
瞬時にリゼヴィムの背後を取った俺は、奴の翼を根本から握った。
「この翼はルシファーのものだ。魔王の面汚しのおまえが持って良いものじゃない!」
俺は根本から奴の翼を引き抜いた。
ブチブチと嫌な音と共に鮮血が噴き出す。
『ぐぁぁぁぁぁっ! てめぇ、俺の翼を………!』
激痛に顔を歪ませて、俺を睨むリゼヴィム。
俺は手に握る奴の翼を、奴の目の前で消し去った。
肩を上下に動かして、呼吸を荒くしている。
背中は血で真っ赤に染まり、滴る血は奴の足先まで流れていた。
勝負はついた。
誰の目から見ても明らかだ。
自分に勝ち目がないことくらいリゼヴィムも分かっているだろう。
精神も肉体も徹底的に潰した。
もう――――トドメを指して良いだろう?
そう思い、奴に手をかざした。
その時だった。
『うひっ…………うひひひひひ…………』
突然、気味の悪い笑い声を出すリゼヴィム。
満身創痍の肩を震わせ、気が狂ったように笑い続けた。
怪訝に思う俺だったが、リゼヴィムは、
『あぁ、負けたよ。おまえには敵わんわ。おじさんのまーけ。でもなぁ…………』
リゼヴィムの視線は俺達の真下、アグレアスへと向けられる。
そして―――――。
奴は急降下を始めた!
あの野郎…………まさか…………!
俺の嫌な予感は的中する。
奴は急降下しながら、手元に巨大な―――――直径五十メートルはある魔力の塊を複数生み出した!
『うひひひ………ひゃーはっはっはっはっ! 赤龍帝! おまえがダメなら、おまえのお仲間を消してやるよ! この島ごと消してやらぁぁぁっ!!』
なんて往生際の悪い奴!
俺に勝てそうにないから他の皆を狙うかよ!
すると、イグニスが言ってくる。
『でも、無駄な足掻きってことは分かってるわよね?』
そうだな。
今、リゼヴィムが取っている行動は悪足掻き以外の何物でもない。
感じるんだよ。
あの二人が向かってきているのをな。
リゼヴィムが下衆な笑い声と共に、アグレアスそのものを消し去りそうな魔力の塊を放とうとする。
その時―――――下の方で黒と白の入り雑じる極大の光の奔流が煌めく。
その輝きは有無を言わさず、リゼヴィムを容赦なく呑み込んでいった―――――。
リゼヴィムを呑み込んだ砲撃を放った者とは…………。
「お待たせ、お兄ちゃん」
「良いタイミングだったでしょ?」
黒い天女のような姿になった美羽と黄金に輝く翼を持ったセラフのような姿のアリス。
疑似神格を発動させた二人が俺の元へとやって来た。
このオーラ………凄まじいな。
疑似とは言え、波動は神そのもの。
しかも、上位クラスの神のものだ。
何とか二人もその力を扱えているようだな。
「おう。ナイスタイミングだ。………それよりさ」
「なによ?」
下から上へと視線を何度も移動させ、ジロジロと二人を見る俺に、怪訝な表情を浮かべるアリス。
俺はゴクリと喉を鳴らして、
「二人とも…………すっごく綺麗になったな…………か、可愛い………」
「も、もうっ! そんなこと言ってる場合!? で、でも! ………ありがと」
「えへへ………」
顔をリンゴのように赤くしながら照れる二人だった。
~後書きミニエピソード~
イッセー「うんうん、アーシアも無事に禁手に至ったようだし何よりだよ! それに皆を守る力なんて、アーシアらしいよな」
アーシア「はい! これもイッセーさんや皆さんのおかげです! ファーブニルさんも私を助けてくれましたから!」
ファーブニル「アーシアたんのおパンティー、くんかくんか」
アーシア「はぅっ! こんなところでも私のパ、パンツを!」
イッセー「この変態龍王! おまえもか!? おまえも駄女神と同じなのか!?」
イグニス「アーシアちゃんのおパンティーは至上の一品! 金髪シスターのおパンティーなんて背徳感だらけで興奮するじゃない! そういうわけで―――――」
イグニス&ファーブニル「アーシアたんのおパンティー、くんかくんか」
イッセー「この変態コンビィィィィィィッッ!」
~後書きミニエピソード、終~