ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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新章突入!


第十八章 進路指導のべリアル
1話 兄の行方


[三人称 side]

 

 

つい先日、ディハウザー・べリアル主催のレーティングゲーム・イベント企画「王者十番勝負」が行われた。

 

一番目、二番目と行われたゲームでは二つとも王者が華麗に勝利し、ファンを沸かせた。

磨きあげられた戦術と魔王クラスと称される力による勝利。

変わらない王者の姿はテロが横行し、不安に感じていた冥界市民を安心させるものだった。

 

イベント企画はこのまま何事もなく、進む。

誰もがそう確信していた。

 

しかし―――――三番目の試合にて、それは起こった。

 

ディハウザーの相手はフェニックス家の三男ライザー・フェニックス。

このゲームはライザーにとっては復帰戦。

相手がかの皇帝であるため、勝敗は見えていたようなものだったが、それでもライザーは試合への意気込みを事前のインタビューで語っていた。

 

ゲーム当日。

 

ゲームのバトルフィールドは地下深くに設けられた古代遺跡という設定のフィールド。

 

試合開始から三十分経過した頃にはライザー側の眷属は軒並み倒されており、『王』自ら進軍する他なかった。

 

ライザーにとってはある程度想定していたことだった。

べリアル眷属は『王』だけでなく、その眷属も高い実力を持っている。

 

立ち直ってからは眷属と共に厳しい修業に打ち込んできたが、短期間で覆せるような実力差ではない。

 

ライザーは心の中で自らの眷属にここまで戦ってくれたことを感謝しながら洞窟を歩いていった。

 

洞窟の中央、ドーム状にひらけた場所に出ると、そこで待ち構えていたのは王者ディハウザー・べリアル。

 

ライザーは王者と向き合うと口を開いた。

 

「ディハウザー殿。良き試合を展開させていただき、心より感謝致します。私の元にはもう眷属は残っておりませぬ。私の敗北は必至でしょう。不躾ですが、最後に『王』同士による一騎打ちを願いたく馳せ参じたしだいです」

 

勇ましい姿のライザー。

そこには過去のライザーの姿はなく、新たに生まれ変わった有望な若手の姿があった。

 

しかし、ディハウザーは意味深に笑んだ。

 

「良い試合…………か。ライザー・フェニックス殿、良い試合とは…………何を指すのだろうか」

 

「…………?」

 

王者の問いに怪訝な表情のライザー。

 

ディハウザーは言葉を続ける。

 

「終始巧みな戦術による絶対の試合運びで完封することか、最後の最後で大逆転を繰り広げることか、それとも拮抗した戦力の者同士がお互いの全力を出し切って勝利をもぎ取ることか。私はこれまでのゲームで、とりあえずは全て堪能したつもりだ。…………いや、嘘だな」

 

最後に自らの言葉を否定するディハウザー。

彼は首を横に振ると息を吐いた。

 

「私は圧倒以外の試合は全てそのように演じてきただけだ。逆転、あるいは拮抗した戦いになるよう、あえてそのような試合運びをしただけにすぎない」

 

当惑するライザー。

 

「…………ディハウザー殿、俺には貴方の言葉の意味が分かりません」

 

「ライザー殿。私は生まれてこの方、負けたことがないのだ。レーティングゲームという遊戯でも負けを見たことがない」

 

「ディハウザー殿、私には貴方の真意が計りかねますな。…………だが、一つお訊きしたい。なぜ、それを俺に? この試合にこの会話は必要だったのでしょうか?」

 

ライザーの言葉にディハウザーは自嘲気味に笑む。

 

「…………無粋、と言いたいのだろう? 確かにそうだ。私のこの心情はこのゲームに持ってくるものではない。ゲームプレイヤーにとって神聖なゲームに余計なものを挟むなど、侮蔑以外の何物でもない。私は王座に君臨しておきながら、今、それをしている。まったく、酷い王者だ」

 

ディハウザーの体をオーラが包み込む。

手を前に突きだし、濃密な魔力の塊を放った。

 

あまりに高速で打ち出された魔力に対応できなかったライザーは、体を撃ち抜かれてしまう。

 

普通なら炎と共に傷が塞がっていくだろう。

それがフェニックスの特性なのだから。

 

しかし――――――。

 

「ガハッ…………っ」

 

ライザーは血の塊を吐き出し、その場に踞った。

撃ち抜かれた腹部からは夥しい量の血が流れ出ている。

 

激痛がライザーを襲うが、それ以上にライザーの頭にあったのは傷が塞がらないという点。

 

「なぜ…………っ?」

 

「…………不死身であろうとも、私の『無価値』の特性からすればその限りではないということなのだろう」

 

――――無価値。

 

それがべリアル家の特性。

その名の通り、相手の特性を一時的に「無価値」で意味のないものに転じてしまう。

 

今回はフェニックスの特性である「不死身」を「無価値」にして、ライザーの再生能力を消し去ったのだ。

 

ディハウザーは倒れ伏すライザーに語りかける。

 

「ライザー・フェニックス殿。貴殿は不思議に思われたことはないか? 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』についてだ。『兵士』が八、『騎士』『僧侶』『戦車』がいずれも二、そして『女王』が一。本来あるはずのものがなぜないのか。なぜあの石碑が用いられているのか」

 

ディハウザーは懐から何かを取り出す。

 

「それは…………」

 

薄れる意識の中、ライザーはそれについて問う。

 

ディハウザーは手に持つ物を見せながら言った。

 

「これは悪魔の駒―――――『王』の駒だ」

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

兵藤家上階にあるVIPルーム。

そこにグレモリー、シトリー、『御使い』、アザゼル先生のチーム『D×D』メンバー。

加えてモーリスのおっさんとリーシャが集まっていた。

 

俺達がこうして集まった理由、それはモニターに映し出されている映像にあった。

この場の全員が食い入るようにモニターを見ている。

 

冥界のチャンネルが開くようになっているモニターには、冥界のニュース番組を映している。

その内容は――――――。

 

『レーティングゲーム中に突然の事故!?』

 

『王者べリアルが試合中に消息不明!』

 

『フェニックス家三男も王者と共に行方知れずに!』

 

先日、ライザーは王者とのレーティングゲームに挑んだ。

あいつの復帰戦ということもあり、注目していたのだが…………。

 

ライザーと王者の試合中に事故が起こったらしい。

試合の途中、フィールドに設置してあるカメラの死角――――ドーム状の洞窟で戦闘を継続していたライザーと王者は突然、消息不明となった。

 

俺達も情報を知らされてから、一度ニュースを確認して、それから問題となったゲームの記録映像を見始めた。

カメラの死角であったため、洞窟内で何があったのかは分からなかった。

 

ただ…………一つだけ俺が気になったことがある。

映像では洞窟の入り口から青い光が漏れ出ていた。

 

あの輝きには見覚えがある。

 

もしかしてあれは…………いや、だとするとなぜ連絡がないんだ?

俺の予想が正しければ、俺の元に連絡が来てもおかしくはないんだが…………。

 

消えた二人の行方は依然つかめないまま。

ゲームの運営側、冥界政府、軍、警察をも動員する事態となっている。

 

俺も今回の事件に心穏やかではいられなかった。

 

ようやく、ライザーも復帰戦に臨めるようになったんだ。

俺も何度か手合わせして、あいが今回の復帰戦にどれだけ燃えたいたかは知っている。

ライザーは王者とのゲームを誰よりも心待ちしていたんだ。

 

しかし、俺よりも、誰よりも不安に押し潰されそうになっている者がいる。

 

「…………お兄さま…………ライザーお兄さま…………!」

 

レイヴェルだ。

 

妹として家族として、兄のことを誰よりも心配している。

知らせを聞いた時のレイヴェルは状況を呑み込めずにいたほどだった。

 

レイヴェルもライザーと話すときは少々ツンとしたところが見える。

だけど、レイヴェルは兄想いの子だ。

閉じ籠っていた時のライザーでさえ、心から心配していた。

 

今は不安で不安で仕方がないはずだ。

 

俺が支えになってやらないといけない。

ここで下手に動いてしまえば、レイヴェルの不安や悲しみはより大きくなってしまうからだ。

 

レイヴェルは握りしめた手を震わせる。

手の甲に雫がこぼれ落ちた。

 

「私が…………お兄さまに付いていれば…………! お兄さまは…………!」

 

涙を流し、声を震わせるレイヴェル。

 

「レイヴェル…………」

 

小猫ちゃんがレイヴェルの手にそっと手を重ねた。

震える体を抱き締めて、少しでも支えになろうとしている。

 

俺は小猫ちゃんに任せると、アザゼル先生に問う。

 

「ライザーと王者は共に行方不明。足取りも掴めていない、ということですね?」

 

「ああ。だが、一つだけ確かなことがある。二人が消える少し前にゲーム運営側の緊急用プログラムが発動したとのことだ」

 

「緊急用プログラムが………?」

 

そう聞き返すと先生は頷いた。

 

俺やリアス、ソーナを始め、一部の者は知っているようだが、多くのメンバーは要領を得ない表情をしていた。

 

まぁ、俺も昇格してから知ったんだけどね。

 

ソーナが皆に説明する。

 

「本来、プロのレーティングゲームの試合にはあらゆる事象が起きても良いように数多くの対応プログラムが用意されています。たとえば、フィールドを破壊するほどの試合があった場合、その場でフィールドを補修するためのプログラムが発動します」

 

「イッセーが毎回フィールドぶち壊してるだろ。その時に起こるあれだ」

 

先生の補足に皆は「ああ、あれか」という反応を示す!

俺って毎回毎回フィールド壊してますか!?

そこまで破壊魔じゃないですよ!?

 

と、とにかく!

想定していない出来事に対応するためのプログラムで、それがライザーと王者のゲームで発動されたということだ。

 

「何が起きたの?」

 

「まさかと思いますけど、クリフォトが襲撃した、とか?」

 

リアスに続いて俺も尋ねる。

 

先生は一拍あけて、言った。

 

「その線も探っているが、現在わかっていることは――――ゲーム中に不正行為があった可能性が高い」

 

『―――――ッ!?』

 

この報告には全員が驚いた!

 

不正行為が行われた………?

つまり、ライザーか王者がそれを行ったということか………?

 

レイヴェルが立ち上がって言う。

 

「まさかお兄さまが!? そんなはずはありませんわ! お兄さまはいい加減なところはありますが、ゲームで不正を働くなど、するはずが…………!」

 

俺もレイヴェルの意見に同意で、ライザーが不正をしたという選択肢はすぐに外した。

 

あいつの修業に付き合った俺だからこそ、あいつのゲームへの想いは理解している。

確かにプライド高いし、傲慢なところもある。

それでも、ゲームに対しての熱は本物だった。

 

それは近くで見てきたレイヴェルもそう感じているようだ。

 

皆の視線が自分に集まっていることに気づいたレイヴェルは再び座り、俯いた。

 

「申し訳ありません…………取り乱してしまいましたわ…………」

 

落ち込んだ様子のレイヴェル。

 

俺はそっと彼女の頭を撫でてあげた。

 

「分かってる。あいつが不正するなんてあり得ない」

 

「そうよ、レイヴェル。ライザーはようやく、再起するために立ち上がったのだから」

 

俺もリアスもあいつが不正をするなんて思っていない。

 

そうなると…………。

 

「では、皇帝が………?」

 

木場が顎に手をやりながらそう漏らした。

 

解せない表情をしている。

 

木場は俺よりもプロのレーティングゲームに明るい。

特に王者ともなれば、注目度と認知度は高く、木場も彼の試合を何度も見ている。

俺も木場に誘われて王者のゲームを見たことがあるほどだ。

 

木場曰くら試合内容も真摯であり、戦術も洗練されていて、奇手よりも王道を好む文字通りの王者に相応しいものだとのことだ。

 

ライザーか、それとも王者か。

どちらも不正を行ったとは思えないが…………。

 

しかし、そうなるとだ。

なぜ、ゲーム中に不正行為が行われたという可能性が浮上してきた?

 

朱乃がアザゼル先生に問う。

 

「今回の件、アザゼル先生には何か心当たりがあるのではありませんか?」

 

全員の視線が先生に集まった。

 

先生は腕を組んだまま黙るが、その後、深く息を吐いた。

 

「今は言えん。あくまで予想だからだ。だが、俺の予想が正しければ行方知れずのフェニックス家の三男の安否はそれほど悪いものではないだろう」

 

「本当ですか!?」

 

レイヴェルがアザゼル先生に詰め寄った。

 

先生はレイヴェルを宥めながら答える。

 

「ただ、あくまで俺の予想だ。現時点で具体的なものを言ってやれないのは申し訳ないが…………。レイヴェル、おまえは兄の無事を信じてやってくれ」

 

「…………っ!」

 

どこか希望を見つけたような表情のレイヴェル。

 

今まであらゆる状況に関して対応し、対処してきた先生だ。

そして、先生の予想は良くも悪くも的中する。

今回の予想は良い方向で的中するかもしれない。

先生がそう言ってくれるだけで、こちらもその気になれるというものだ。

 

リアスの耳元に小型の通信用魔法陣が展開される。

そこから伝わる情報に頷きを返すと、リアスは皆に告げた。

 

「お兄さまからも連絡が届いたわ。彼らの行方は魔王側でも探るそうよ」

 

サーゼクスさんも動いてくれるんだな。

 

…………俺も動ける範囲で探るとするか。

もしかしたら、彼女が何かを知っているかもしれないしな。

 

俺はレイヴェルの前にしゃがむと、その手を取った。

 

「大丈夫だ。ライザーはきっと無事だ。あいつは不死鳥―――――フェニックスだぜ? 俺とも殴りあったんだ。きっとあの業火を燃やして帰ってくるさ」

 

涙に濡れるレイヴェルと俺の目が合う。

 

「待とう。あいつが帰ってくるのを。それが今の俺達にできることだ」

 

 




というわけで、今回はシリアスパートでした。

本作もこの章を含め、あと二章で完結予定です。
最後まで頑張りまーす!

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