ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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21話 訴え

[木場 side]

 

 

「ほう…………。まさか、この歳になって見ることが叶うとは…………」

 

ヴァスコ・ストラーダは感嘆の息を漏らした。

 

彼の視線の先には莫大で濃密なオーラに包まれた聖剣。

伝説の中の伝説とさえ言われる聖剣の王―――――コールブランド。

 

聖剣の王の主は不敵に言う。

 

「あなたの持つ剣が本物でなくて残念ですが―――――そのパワーだけでもこの身に受けたいと思いましてね」

 

静かに歩み寄っていくアーサー。

それに応じてヴァスコ・ストラーダも歩み始める。

 

互いの間合いの圏内に入っても構える素振りはない。

眼前まで距離を詰めたところで二人は足を止める。

 

和やかな表情の若い紳士と老戦士。

しかし、その和やかな表情が今は不気味に思える。

二人から放たれるプレッシャー。

濃密な力がぶつかり合いったことで、両者の間の空間が歪み始めていた。

 

そして―――――二人は音もなくその場から消え失せる!

 

僕は何とか二人の動きが見えていた。

 

彼らは瞬時に上空に跳んだんだ。

上空で激しい剣戟を繰り広げながら降下してくる二人!

二人の滞空時間は僅かなものだろう。

しかし、その間に何十、何百と二振りの聖剣は衝突していた。

上段から下段、横凪ぎに突き、ありとあらゆる剣の型が僅か数秒の間に濃密な攻防戦が繰り広げられる。

 

二人の剣戟はただ速いだけではない。

剣が、聖なるオーラがぶつかる衝撃で周囲の建物は崩れ去っていた。

 

「…………すごい」

 

「ああ…………」

 

イリナさんとゼノヴィアはこの戦いに息を呑んでいた。

僕も二人と同じ。

 

瞬きすら許さない、これを見逃すことは剣士として恥。

そんな風にすら思える。

 

ようやく着地したアーサーとヴァスコ・ストラーダだが、その後も止まることなく二人は地を蹴り、駆けながら剣を交えていく。

 

アーサーの背広には斬られて裂けた部分が多々見られ、ヴァスコ・ストラーダの鍛え上げられた肉体にも切り傷が幾重にも刻まれていた。

それでも、二人は止まらない。

狂喜の表情で、荒々しく聖剣を振るう。

 

アーサーはふいに聖王剣をあらぬ方向に突き刺した。

空間に穴を穿ち、刀身がそこへ沈んでいく。

 

すると、ヴァスコ・ストラーダは上半身を後ろに大きく逸らす。

そこには空間を貫いて横合いから剣が飛び出していた!

 

空間に穴を開けて、そこを介しての攻撃。

聖王剣にはそんなことが可能なのか…………。

 

アーサーは次々に空間に穴を開けて、聖剣を突き刺していく。

上、下、横、後ろとありとあらゆる方向から聖なるオーラを纏う刀身が突き出て、ヴァスコ・ストラーダを襲う。

 

だが、老戦士はそれらを全て捌いて見せる!

 

死角からの攻撃ですら完全に避け、更にアーサーへ剣戟を繰り出し、余裕を見せていた。

 

…………二人ともまだ本気ではない。

 

二人の動きは見える。

足さばきから剣の軌道。

動きは見えているんだ。

 

だが、今の僕があそこに立った時…………はたして着いていけるだろうか?

あの剣を捌き、己の一撃を決めることができるだろうか?

 

おそらく、今の僕では二人に届かない。

 

歴代でも最高と称される元デュランダルの使い手ヴァスコ・ストラーダ。

幾つもの猛者と渡り合ってきたヴァーリチームの剣士、聖王剣の主、アーサー・ペンドラゴン。

 

「これほどのものか…………!」

 

悔しい…………。

一人の剣士として…………あの場に立てないことが。

 

僕が拳を握りしめ、歯噛みしていると戦況は急激に変化した。

 

二人の剣士は大きく火花を散らせると、一度後方に飛んだ。

剣を構え直す二人だったが…………アーサーが剣を降ろしたんだ。

 

アーサーはメガネを直すと笑顔で言う。

 

「素晴らしい。…………が、止めましょう。これ以上は私がショックで立ち直れなくなる」

 

「…………すまないな、若き剣士よ」

 

ヴァスコ・ストラーダも剣を降ろし、苦笑する。

 

アーサーはフッと笑むと寂しげな表情で

 

「…………あと、三十年、いや、二十年早く出会えれば、最高の戦いが出来たでしょう。これ以上は…………悲しくなるのでね」

 

―――――っ。

 

そうか…………そういうことか。

 

アーサーが退いた理由を僕は何となく察してしまった。

あの寂しげな表情に先程言い残した言葉。

 

僕の考えが正しければ…………それは一人の剣士としては悲しいことだ。

 

「さて、どうしたものかしらね…………」

 

リアス前部長がそう漏らす。

 

アーサーが退いたため、ここからは再び僕達とヴァスコ・ストラーダの戦いとなる。

常軌を逸した強さを持つ剣士を相手に僕達はどう戦うか。

 

すると―――――。

 

「―――――私が出る」

 

前に出たのはゼノヴィアだった。

 

一歩一歩、しっかりした足取りで師の前に、先代の前に立つ。

 

彼女はエクス・デュランダルを前に出すと―――――二本に分割した。

デュランダルとエクスカリバーに分けたんだ。

 

右手にデュランダル、左手にエクスカリバー。

 

あのエクスカリバーは天閃でも破壊でも擬態でもない。

七つに分けられたエクスカリバー、それらが再び統合され、真のエクスカリバーになったんだ。

 

つまり、今のゼノヴィアはデュランダルと真のエクスカリバーの二刀流。

そして、エクスカリバーで抑えていたデュランダルを解放したことになる。

 

これを見て、ストラーダは全身を震わせた。

 

「そうだ。それでいい! デュランダルの使い手だった私からすればエクス・デュランダルは疑問の塊だった。デュランダルはそれそのもので完成されている。エクスカリバーもまた同じ。なぜ既に完成している両者を組み合わせる必要がある? それは貴殿がデュランダルに翻弄されて、『補助』という愚行をエクスカリバーに課せたからに他ならない! 貴殿は一刀でも二刀でも戦える戦闘の申し子。―――――否定するな。パワーを信じてこそ、力は本物になる!」

 

ゼノヴィアは元々二刀流で戦うスタイルを好んでいた。

破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)とデュランダル、デュランダルとアスカロン。

時には僕が創った聖剣とアスカロンという組み合わせもあった。

 

今、ゼノヴィアは昔の…………いや、本来のスタイルに戻ったと言える。

 

刹那、本来の姿に戻った二振りの聖剣は濃密な聖なるオーラを滲み出し始めた。

過去にない、彼女が持つパワーを体現するかのように、デュランダルとエクスカリバーはその力を高めていく。

 

ストラーダは目を潤ませていた。

 

「…………ようやく、再会できたな、デュランダルよ。さぁ、戦士ゼノヴィアよ。何も考えず、ただ来るが良い。デュランダルの真実は破壊の中にしかないのだ」

 

「…………はい!」

 

破壊と破壊。

パワーを体現した二人の剣士が距離を詰めていく。

両者が近づけば近づくほど、聖剣の放つ波動は力強くなっていった。

 

そして――――――

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

「はあああああああああああああああっ!」

 

ゼノヴィアの二刀とヴァスコ・ストラーダの一刀が閃光と火花を散らせながら激突する!

破壊の余波だけで駒王町を模したフィールドは震えだし、二人の周囲は崩壊し始めた!

二人を中心に破壊の嵐が巻き起こり、地面、道、建物、二人の周りにあるものは全てことごとく破壊されていく!

フィールドには穴が開き次元の狭間の万華鏡のような模様まで見えてしまっていた!

 

純粋な破壊と破壊による衝突は離れた場所にいる僕達にも影響を及ぼし、炎のように燃え盛る聖なるオーラによって、体に痛みが走り出す。

 

見れば匙くんの漆黒の鎧にもヒビが入っていた。

それほどまでに凄まじい撃ち合いが繰り広げられている!

 

今代と先代のデュランダルの所有者。

本物とレプリカ。

二人の剣が交錯する――――――。

 

ゼノヴィアがデュランダルとエクスカリバーを振り上げてクロスさせると、破壊に破壊を乗せた一撃をヴァスコストラーダへと振り下ろした!

 

ヴァスコ・ストラーダはレプリカで受け止める!

 

「がああああああああああああああっ!」

 

こちらもまた破壊の権化。

破壊の一撃を力で押し退ける―――――が、その代償は大きかった。

 

レプリカの刀身にヒビが入った。

それだけでなく、ヴァスコ・ストラーダは息を荒くして、その場に膝をついてしまったのだ。

 

明らかに体力切れ。

 

怪物と呼ばれた男も老いには勝てなかったということだろう。

いくら規格外の力を持っていたとしたも人間という種族には代わりはない。

歳をとれば肉体は体力は衰える。

凄まじい力を持つヴァスコ・ストラーダも全盛期と比べると、やはり衰えていたということだ。

 

先程、アーサーが言っていたのはこのことだ。

 

ゼノヴィアは膝をつくヴァスコ・ストラーダに歩み寄る。

勝負が決まる…………という時に二人の間に入る者がいた。

 

テオドロ・レグレンツィ。

あの少年枢機卿だ。

 

彼は顔を涙でくしゃくしゃにして、ヴァスコ・ストラーダの盾になる格好で、ゼノヴィアの前に立つ。

 

流石のゼノヴィアも少年の行動に困惑し、歩みを止めた。

 

少年は涙を流しながら訴える。

 

「…………ストラーダ猊下を許してやってくれ。全ては私が…………私が悪いのだ」

 

「テオドロ猊下…………お下がりください。この老骨が全てを決めますゆえ」

 

ヴァスコ・ストラーダはデュランダル・レプリカを杖に立ち上がろうとする。

 

それを少年枢機卿は制止する。

 

「もういい! もういいのだ! ストラーダ猊下までいなくなったら…………私は…………私はどうすればいい!」

 

少年枢機卿は改めて僕達の方を向くと、背中から純白の翼を出した。

それは天使の翼―――――『奇跡の子』の証。

 

「わたしの…………父と母は…………悪魔に殺された。…………悪魔は許さない! 許すわけにはいかないのだ!」

 

震える声で叫ぶ少年。

 

彼の…………この小さな枢機卿の両親は悪魔に殺されたというのか。

 

ヴァスコ・ストラーダは悲哀に満ちた表情で少年を抱き寄せた。

 

「…………同盟もいい。それもも一つの平和の形だ。だがね…………それでは救われない者、憤りを感じる者もいるのだよ。テオドロ猊下も、我々に付き従った戦士達も生き方を魔なる存在に歪められて剣を取ったのだ」

 

その言葉に僕は…………僕は―――――――。

 

「僕達は!」

 

気づけば、僕は少年枢機卿の前に立っていた。

 

「僕達は…………ただ平穏に暮らしたいだけなんだ。あなた達はあなた達の正義があり、あなた達の価値観があるのだろう。けれど…………ここにいる仲間、この町にいる多くの仲間達は修羅場を潜り抜けてきた仲間だ」

 

ゼノヴィアも僕に続いた。

 

「お互いに支え合って、命がけで戦い抜けてきた大切な仲間だ。たとえ、ストラーダ猊下とテオドロ猊下がそれをお認めにならなくても私達にはここまで戦ってきた誇りがある! それに不満を覚える者達が出たとしても、私達は私達が信じた者達のためにこれからも戦う! 戦い続ける!」

 

僕達は想いの全てを叫んだ。

 

たとえ、彼らにとって認められないものでも、僕達にとっては大切なもの。

僕達は仲間と共に信じるもののために戦う。

 

僕達の声にヴァスコ・ストラーダは満足そうな笑みを浮かべた。

 

「なるほど。いい目をしている。リアス・グレモリー姫よ。良い『騎士』を持たれましたな」

 

「ええ、自慢の『騎士』たちよ」

 

すると、イリナさんも僕達の横に立った。

 

「ストラーダ猊下、テオドロ猊下。私も悪い悪魔はいると思います。滅せなければならない悪はあると思います。けれど―――――良い悪魔もいます。心の暖かな悪魔もいるんです。善もあり、悪もある。それは人間も一緒で…………他の神話体系では善神もいれば、悪神もいます」

 

イリナさんの言葉を聞いてヴァスコ・ストラーダは豪快に笑った。

 

「はっーはっはっはっ! なるほどなるほど。戦士イリナ。天使となった貴殿が異教の神を語るとは…………。これが同盟の結果であり、新たな時代の幕開けを意味するのだろうか。しかし―――――」

 

ヴァスコ・ストラーダは再び剣を手にした。

 

「一度振り上げたものは落としどころを見つけなければならぬ。テオドロ猊下、お下がりくだされ。この老いぼれの最後のデュランダル、お見せしましょう」

 

「もういい! 私はもう十分だ! あなたやクリスタルディ猊下、戦士達が戦ってくれただけで…………私の想いを、不満を、直接この者達に伝えられた時点で、退けば良かったのだ。…………『D×D』の者達よ、私が罰を受ける! この命をもって償おう!」

 

少年枢機卿、テオドロ・レグレンツィがそう叫んだ。

強い決心を感じる表情。

この少年は覚悟を決めているのだ、全ての罰を受ける覚悟を。

 

ヴァスコ・ストラーダは柔和な笑みで、少年を優しく撫でた、

 

「子供が不平や不満を訴えるのはいつの時代もあること。あなたの訴えは何より尊く純粋だった。だからこそ、我々は剣を取ったのです。そして、何より見て欲しかった。あなたや戦士達の意思を払いのけてまで作り上げられた彼らを。彼らは一切我らを排せず、受け入れ、亥を汲んでくれた。そして、真っ直ぐに我々の想いを受け止めてくれた。彼らが我々の想いを踏みにじらずに受け入れてくれた、その時点で私達は負けていたのですよ」

 

「―――――っ」

 

ヴァスコ・ストラーダは少年枢機卿と戦士達を見て笑んだ後、僕達に言った。

 

「此度の一件、私とクリスタルディの首を以て、天に許しを請おう。テオドロ猊下も戦士達もまだ若い。これは私が蜂起させたものなのだ。罰を受けるのはこの老人だけで十分」

 

彼の告白に戦士達が悲鳴をあげる。

 

「なりませぬ、猊下!」

 

「猊下、我らの命であれば、喜んで差し出しましょうぞ!」

 

「煉獄に行く覚悟はできております!」

 

戦士達は皆一様に涙を流し、師を止めようとしていた。

エヴァルド・クリスタルディの時と同じだ。

 

この老枢機卿はこれほどまでに敬われ、慕われている。

 

ヴァスコ・ストラーダは罰を受けると言ったが、僕達もこれ以上は…………と思っている。

互いの想いはぶつけ合った。

 

アザゼル先生もミカエルさまも彼らの死を望んでいるわけじゃない。

むしろ、戦士達と同じ気持ちのはずだ。

 

「ヴァスコ・ストラーダ猊下。私達は―――――」

 

リアス前部長が口を開きかけた。

 

 

その時だった―――――。

 

 

「私がころころしてあげるわよーん♪」

 

突如、この場の誰でもない第三者の声がこだまする!

 

その声か聞こえてきた場所へと視線を向けると――――――そこにはゴシック調の衣装に傘という格好の女性。

 

リアス前部長がその名を叫ぶ。    

 

「――――――紫炎のヴァルブルガ!」

 

全員が構え、彼女を睨む。

やはり来たのかクリフォトの横槍が…………!

 

ヴァルブルガは愉快そうに笑う。

 

「最後の最後、美味しいところを横合いから取っちゃう♪」

 

そう言うとヴァルブルガの足元に無数の魔法陣が展開し始める!

これは転移魔法陣!

この光景には見覚えがある!

これは――――――。

 

転移の光が止み、現れたのは――――――量産型邪龍の群れ!

三桁は軽く越えるほどの数、周囲を黒く染めるほどの数が僕達を囲む!

 

まずは(・・・)邪龍の皆に活躍してもらおうかなーん♪」

 

邪悪な笑みでヴァルブルガが邪龍に指示を送ろうとする。

 

「―――――そうくると思ってました」

 

ロスヴァイセさんが指を鳴らした。

 

刹那、フィールド全体が銀色の光を発した!

建物、道、この空間にある全てが銀色に輝く!

 

「…………これって…………どういうことなのん!?」

 

ヴァルブルガが驚愕する。

 

なぜなら―――――フィールドが輝いた瞬間、転移してきた邪龍の全てが力を失ったようにその場に倒れ伏したからだ。

 

これは…………事前の説明にあった仕掛けというやつだろうか?

 

ロスヴァイセさんが不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「あなた達がここに侵入することも、邪龍を召喚することも想定済みです。アーシアさんが手懐けた量産型邪龍を解析した結果をもとにこのフィールドに特殊な結界を張りました。私が合図すると彼らの動きを停止させるという術式を織り込んだのです」

 

なるほど…………そういえば天界で調査をしていたね。

あのアーシアさんが手懐けた四体の邪龍がこのように役立つとは…………。

 

これを受けてヴァルブルガは悔しげな表情を浮かべる――――と思いきや、彼女はまだ笑みを浮かべていた。

 

「あらあらん♪ なーるほどねぇ。邪龍くん達を止められちゃったことは予想外たけどぉ、こっちもまだ手札はあるのよねん♪」

 

彼女はロスヴァイセさんのように指を鳴らした。

空に先程のものとは違う転移魔法陣が幾重にも出現する。

 

まだ来るのか…………!

 

転移の光が周囲を照らし、現れるのは―――――無数の赤だった。

 

赤い龍を模した鎧…………!

 

「まさか、イッセーくんの複製!?」

 

朱乃さんが叫んだ。

 

ヴァルブルガは頬を指でなぞりながら嫌な笑みを浮かべる。

 

「そうそう♪ リゼヴィムおじさまが、アセムきゅんの保有しているデータをベースに作り上げたのよん♪ 更に――――」

 

彼女の背後、そこに一際大きな転移魔法陣が展開された。

 

暗く、妖しい輝きを放つ魔法陣から何か黒いものがぬうっと出てきた。

 

それはゆっくりと魔法陣の向こうから姿を現し、巨大な肉体を出現させる!

 

『ゴァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』

 

その怪物は咆哮をあげた!

その叫びにフィールドが揺れ、周囲を破壊する!

 

鼓膜が破れるかと感じた僕達は両手で耳を塞ぎながら、それを見上げた。

 

一言で言えば、それは巨大なドラゴンだった。

体長は百メートルほど。

剥き出しの牙、巨大な両翼、三つに別れた尾、腕は四本ある。

ギョロギョロと動く巨大な目が僕達を捉えた。

 

ヴァルブルガが言う。

 

「これはねぇ、赤龍帝くんの複製体で聖杯を強化してぇ、超おっきい邪龍くんを作ってみましたのよん♪ ちなみに、ベルちゃんの作った怪物を参考にしてるわん♪」

 

なんということだ…………!

 

クリフォトは…………リゼヴィムはこんなものまで作り出したというのか!

異世界の神の力を取り入れ、ここまで巨大な…………。

 

もし、これが量産されるようなら、また魔獣騒動が起こされるかもしれない!

リゼヴィムならそれぐらいやってくるだろう!

 

「それじゃあ、萌え燃えしちゃおうかしらん。やっぱり、美味しいところを持っていくのはわ・た・し♪」

 

この場にいる者全てが眼前の強大な悪に動けなくなっていた。

 

これはあまりに…………!

 

強大な邪龍の口が開き、赤く光る。

 

 

キンッ

 

 

ふいに金属音が響いた。

それは誰もが気にも止めないほどの小さな金属音だ。

 

次の瞬間、巨大邪龍の動きが止まった。

口に溜まっていた赤い炎が消え、ギラギラしていた目からも光が消えていた。

 

巨大邪龍の頭、その真ん中に小さな線が入る。

その線は少しずつ大きくなっていた。

 

そして――――――巨大邪龍は真っ赤な血の雨を降らせながら、真っ二つに割れた。

左右に別れた巨体が地響きを立てながら、崩れていく。

 

あまりに予想外過ぎる現象にヴァルブルガはおろか、僕達ですら口を開け、言葉を発することが出来なくなってしまっていた。

 

静まり返る戦場。

 

そこに―――――。

 

「悪いな嬢ちゃん」

 

男性の声だった。

 

その声に反応したのは僕達オカルト研究部員。

 

気配を感じた先には一人の中年男性。

白いマントを翻した彼の右手には―――――剣。

 

その男性の登場に僕は度肝を抜かれた。

 

彼がこの場に―――――この世界にいるなんて思ってもなかったのだから。

 

「―――――美味しいところを持っていくのは俺らしい」

 

異世界アスト・アーデ最強の剣士―――――『剣聖』モーリス・ノアが不敵な笑みを浮かべていた。

 

[木場 side out]




チートおじさん登場!

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