[木場 side]
暖かい。
とても暖かい。
みんなの気持ちが僕に入ってくる。
ここにきてようやく分かった。
同志たちは僕に復讐なんて望んでいなかった。
ただ、僕に生きて――――
「だけど、これで終わるわけにはいかない」
そう。
これで終わらせてはいけないんだ。
目の前の邪悪を打倒さないとあの悲劇が再び繰り返される。
「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕たちが生まれてしまう。それは絶対に阻止しなくてはならない」
僕は優しき光に包まれながら一本の剣を創る。
「道具だった分際で何をほざく!フリード!」
「はいな!」
バルパーに命令され、フリードが僕の目の前に立ちふさがる。
「素直に廃棄されておけばいいものを。愚か者が。研究に犠牲はつきものだ。それすらわからんのか?」
バルパーは嘲笑う。
やはり、あなたは邪悪すぎる!
「木場ァァァァァ!! 今のお前なら、自分が何をするべきかわかるはずだ!!」
――――イッセー君。
「あいつらの想いと魂を無駄にすんなよ!」
「そうよ、祐斗! やりなさい! あなたならできるわ! 私の騎士はエクスカリバーごときに負けはしないわ!」
「祐斗くん! 信じていますわよ!」
「祐斗先輩、負けないでください」
「木場さん!」
リアス部長、朱乃さん、小猫ちゃん、アーシアさん………。
ああ、イッセー君が言っていた意味が分かった気がするよ。
僕にとって大切なもの。
それは―――――
「あぁ~。なに感動シーン作っちゃってんすかぁ。聞くだけで玉のお肌がガサついちゃう! もう限界! あ~、とっととキミ達、刻み込んで気分爽快になりましょうかねェ!!」
フリードは剣を構える。
フリード・セルゼン。
その身に宿る同志の魂。
これ以上悪用させはしない!!
「―――僕は剣になる。僕と融合した同志たちよ、一緒に超えよう。あの時果たせなかった想いを、願いを今こそ!」
剣を天に掲げて僕は叫ぶ。
僕の想いを!
「部長、そして仲間たちの剣となる!
僕の神器と同志の魂が混ざり合う。
魔なる力と聖なる力が融合する。
そして、僕の手元に現れたのは神々しい輝きと禍々しいオーラを放つ一本の剣。
「『
僕が創り出した剣を見てバルパーが驚愕の声を上げる。
「聖魔剣だと!? ありえない! 相反する要素が混ざり合うなど、そんなことあるはずがないのだ!」
僕は狼狽えるバルパーを無視して、歩を進める。
すると、ゼノヴィアが僕の隣に現れた。
「リアス・グレモリーの騎士よ。共同戦線が生きているか?」
「だと思いたいね」
「ならば、共に破壊しよう。あのエクスカリバーを」
「いいのかい?」
「ああ。あれは最早、聖剣であって聖剣でない。異形の剣だ」
「………分かった」
すると、ゼノヴィアは自身のエクスカリバーを地面に突き刺すと右手を宙に広げた。
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」
何かの言霊を発し始めている。
そして、空間に歪みが生じた。
その歪みの中心にゼノヴィアが手を入れる。
無造作に何かを探り、何かを掴んだのか、一気に引き抜いてくる。
そこにあったのは一本の聖剣。
「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。―――デュランダル!!」
デュランダルだって!?
エクスカリバーに並ぶほどの聖剣だ。
その刃は触れるもの全てを切り裂くと聞いている。
「デュランダルだと!?」
「貴様、エクスカリバーの使い手では無かったのか!?」
これにはバルパーばかりか、コカビエルも驚いているようだ。
「馬鹿な! 私の研究ではデュランダルを使える領域まで達していなかったはずだ!」
「私はそこのフリード・セルゼンやイリナと違って、数少ない天然物だ」
「完全な適性者、真の聖剣使いだと言うのか!」
そうか、彼女は本当に神に祝福されて生まれてきたようだね。
「デュランダルは触れたものは何でも斬り刻む暴君でね。私の言うこともろくに聞かない。だから、異空間に閉じ込めていたのさ」
デュランダルの刀身がフリードの持つエクスカリバー以上のオーラを放ち始めた。
これがデュランダルか!
「ここにきてのそんなチョー展開! そんな設定いらねぇんだよ! クソビッチがァ!!」
フリードが叫び、殺気をゼノヴィアに向けた。
そして、枝分かれした透明の剣を彼女に放つ。
激しい金属音が響く。
たった一度の横凪ぎで枝分かれしたエクスカリバーを砕いたのだ。
「所詮は折れた聖剣。このデュランダルの相手にはならない!」
ゼノヴィアがフリードに斬りかかる。
すると、フリードは高速の動きでそれをかわした。
恐らく天閃の聖剣の能力だろう。
「クソッタレがぁ!!!」
逃がさないよ!
僕は瞬時にフリードの背後にまわる。
「そんな剣で僕達の想いは壊せやしない!!」
「このクソ悪魔ごときがぁ!!!」
そこから僕達の間で激しい剣激が繰り広げられる!
聖魔剣とエクスカリバーがぶつかり合い、空に火花が散る。
フリードは真正面からの打ち合いは不利と考えたのか分身を生み出す。
夢幻の力か!
『目で追うな、気配を感じろ』
イッセー君のお陰だね。
今の僕にはどれが本物なのか気配で分かる!
「うおおおおおおっ!!!」
「なっ!? 幻影が通じねぇのかよ!?」
僕の聖魔剣をエクスカリバーで受け止めようとするが―――
バギィィィン
儚い金属音と共に異形の聖剣、エクスカリバーは砕け散った。
フリードは倒れ込み、肩口から裂けた傷から鮮血を滴らせる。
「見ていてくれたかい? 僕らの力はエクスカリバーを超えたよ」
僕は天を仰ぎ、聖魔剣を強く握りしめた。
[木場 side out]
▽
木場が立ち上がろうとエクスカリバーを砕き、フリードを倒した。
木場のやつ、ついにやりやがった!
まさか、このタイミングで禁手に至るなんてよ!
『しかもあの禁手はイレギュラーのものだろうな』
そうなのか?
『ああ。通常、聖と魔、相反する物が混ざり会うことはない。あのバルパーという者が言ってた通りだ』
つまり、木場の禁手は相当レアなんだな。
まぁ、その辺りはまた今度話し合えば良いかな。
木場がバルパーに迫る。
最後のケリを着けるつもりだろう。
「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらおう」
すると、バルパーはそんな木場の言葉を無視して、何かを呟きだした。
「そうか! 聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとすれば説明はつく! つまり、魔王だけでなく神も―――」
ズンッ!
何かに思考が達したかに見えたバルパーの胸部を巨大な光の槍が貫いた。
そして、バルパーはそのままグラウンドに突っ伏した。
バルパーの気が消えていく。
これは、コカビエルの仕業だ。
「バルパー。おまえは優秀だったよ。そこに思考が至ったのもそれ故だろう。―――だが、俺はおまえなどいなくても最初から一人でやれる」
宙に浮かぶコカビエルがバルパーを嘲笑っていた。
「コカビエル、どういうつもりだ?」
「なに、用済みになったから消したまでのことだ、赤龍帝」
コカビエルはそう言うと地に降りてきた。
あいつから感じられる重圧が増したな。
部長達なんて頬に冷や汗を流してる。
「さぁ、余興は終わりだ。ここからは俺が相手をしよう。リアス・グレモリー」
「望むところよ!」
「部長、朱乃さん。今から二人に力を譲渡します。限界まで魔力を溜めて、あいつに放ってください。隙は俺達で作ります」
俺は部長と朱乃さんの肩に手を置き、力を譲渡する。
『Transfer!』
籠手から音声が発せられる。
すると、二人のオーラが凄まじいものになった!
近くにいるだけで肌が焼けそうなほどの魔力。
すげぇ。
『リアス・グレモリー、姫島朱乃のスペックは現時点でかなりのものだからな。赤龍帝の力を譲渡するだけでここまでのものになる』
流石は俺達の王と女王!
俺と小猫ちゃん、そして木場は合流して、コカビエルの正面に立つ。
「こうしてイッセー君の隣に立てるなんてね。正直、思っていなかったよ」
木場が自嘲しながら言ってくる。
「何言ってんだよ。おまえはついに禁手に至ったんだ。修業次第では数年で俺を越えることもできるぜ。まぁ、俺も抜かれないように修業するけどな」
「ははは。君がそう言ってくれるなら、僕はこれからも頑張れるよ。君を目指してね」
「ああ。木場なら出来るさ」
俺と木場が話してると小猫ちゃんが言ってきた。
「二人ともお喋りはそこまでにして集中してください」
そうだな。
今はコカビエルに集中しないと。
「木場、小猫ちゃん。部長達の準備が出来るまで俺達が時間を稼ぐ。いいな?」
木場と小猫ちゃんは静かに頷く。
「いくぜ!」
俺はそう言うとコカビエルに突っ込む。
そして、気を集中させてた拳を放つ!
コカビエルが拳を受け止める音が辺りに響く。
「まずは赤龍帝からか。今のおまえ一人では俺の相手になるまい?」
「ああ、今の俺じゃあおまえには勝てない。だけど、俺は一人じゃないんだぜ?」
俺の背後から木場が飛び出し、コカビエルに斬りかかる。
だが、コカビエルは手元に光の剣を作り出し、木場の聖魔剣を防いだ。
「聖魔剣と赤龍帝の同時攻撃か! 面白い!」
「そこ!」
俺と木場がコカビエルの両手を塞いでる間に小猫ちゃんがコカビエルの背後を取った!
その拳には俺が教えた通り、魔力を纏わせている。
「バカが!」
黒い翼が鋭い刃物と化し、小猫ちゃんを貫こうとする!
「クソッたれ! させるかよ!」
俺はコカビエルから拳を引いて、即座に小猫ちゃんを庇う。
しかし、俺は腕を掠めてしまった。
「くっ!」
俺の右腕から鮮血が吹き出す。
俺は小猫ちゃんを抱えて一旦、距離を取る。
「イッセー先輩、大丈夫ですか!?」
右腕を押さえる俺に小猫ちゃんが心配そうな目で見てくる。
「後輩を守るのは先輩の役目だからな。これくらいどうってことないさ」
それにアーシアが回復のオーラを飛ばしてくれたお陰で傷は直ぐに塞がったしな。
木場が聖魔剣をもう一本作り出し、斬りかかるが、それすらも受け止められてしまう。
だけど、木場はまだ諦めてはいない。
「まだだ!」
口元に三本目の聖魔剣を創り、それを勢いよく横に振った!
これには虚をつかれたのか、コカビエルは後方に退いた。
頬には横一文字の薄い切り口。
丁度、その時だった。
「三人ともそこから離れて!」
部長の声。
見ると、部長と朱乃さんの手元には凶悪な魔力の塊。
さらにゼノヴィアがデュランダルに聖なるオーラをチャージしていた。
俺達はそれを確認するとその場から離脱した。
そして――――
「消し飛べェェェェ!!!」
三人から放たれる滅びの魔力、雷、聖なるオーラの砲撃!
これをくらえば流石のコカビエルでも大ダメージを受けるはずだ。
現にコカビエルも焦りの表情を浮かべていた。
「ぬうううううん!!」
コカビエルは真正面から攻撃を受け止める。
だが、今までよりもあいつの顔に余裕がない。
「はああああああ!!」
部長達がさらに出力を上げ、畳み掛ける!
そして―――
ドオォォォォォオン!!
コカビエルは大爆発に包まれた。
▽
「はぁ、はぁ、はぁ」
部長も朱乃さんもゼノヴィアもかなり息を荒くしている。
今のでかなり消耗したようだ。
この状態では力の譲渡はもう出来ないな。
俺達は部長達の元に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「ええ。かなりの消耗はしたけれど、少し休めば大丈夫よ。それより、コカビエルは?」
コカビエルはまだ爆煙に包まれて姿が見えない。
その時だった。
煙が払われ、そこからコカビエルが現れた。
身に纏う黒いローブが破れ、受け止めた両手はもちろん、体のあちこちから血が流れている。
だが、予想以上に傷が少ない。
「ハハハハ! 今の攻撃は中々のものだったぞ! 最上級悪魔ですら屠る攻撃だ! まさか、ここまでやるとは思っていなかったからな、久しぶりに本気で防がせてもらった!」
コカビエルは愉快そうに笑うと俺達を興味深そうに見てくる。
「愉快な眷属を持ったものだなリアス・グレモリーよ」
「どういうことかしら?」
「赤龍帝、聖剣計画の生き残り、そしてバラキエルの娘! 面白い面子を揃えたようだ」
「私の前であの男の名を口にするな!」
あの朱乃さんがここまで怒りを顕にするのは珍しい。
ドライグ、バラキエルって誰だ?
『バラキエル。雷光の使いとして有名な堕天使の幹部だ』
堕天使の幹部!?
それじゃあ、朱乃さんは堕天使の………。
「いや、あいつの娘がまさか悪魔に堕ちるとはな!全くおまえ達、グレモリーの兄弟は揃ってゲテモノ好きらしい!」
コカビエルが朱乃さんを嘲笑う。
ゲテモノ………?
朱乃さんが?
「ふざけるなよ、クソ堕天使! 朱乃さんや部長にそれ以上ふざけたこと言ってみろ。てめぇ、跡形もなく消し飛ばすぞ!」
全力の殺気を放ちながら俺は吼える。
そして、ゼノヴィアが俺に続いた。
「ああ。貴様は神の名のもとに断罪してくれる!」
デュランダルを構えるゼノヴィア。
俺とゼノヴィアが再びコカビエルと対峙する。
その時だった―――。
「―――神? よく主がいないのに信仰心を持ち続けられる」
コカビエルは表情を一変させ、呆れたように言う。
今の言葉に直ぐに反応するゼノヴィア。
「主がいない? どういうことだ! コカビエル!」
「おっと、口が滑ったな。………いや、良く考えてみれば戦争を起こすのだ。黙っている必要もない」
何だ………?
嫌な予感がする。
何を言うつもりなんだ?
すると、コカビエルは心底おかしそうに大笑いしながら言った。
「先の三つ巴の戦争の時、四大魔王と共に神も死んだのさ!!!」
「「「なっ!?」」」
全員信じられない様子だった。
「神が………死んだ………?」
「神が死んでいた? そんなこと聞いたことないわ!」
「あの戦争で悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを失った。天使も堕天使も幹部以外の多くを失った。どこの勢力も人間に頼らなければ種の存続が出来ないほど落ちぶれたのだ。だから、三大勢力のトップどもは神を信じる人間を存続させるためにこの事実を隠蔽したのさ」
ゼノヴィアが俺の隣で崩れ落ちる。
その表情は見ていられないほど狼狽していた。
「………ウソだ。………ウソだ。」
両膝をつき、ウソだとずっと繰り返す。
「そんなことはどうでもいい。問題は神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味と判断したことだ! 耐え難い! 耐え難いんだよ! 一度振り上げた拳を収めろだと!? あのまま戦いが続いていれば俺達が勝てたはずだ! アザゼルの野郎も『二度目の戦争はない』と宣言する始末だ! ふざけるなよ!」
強く持論を語るコカビエルは憤怒の形相となっていた。
アーシアは手で口元を押さえ、目を大きく見開いて、全身を震わせていた。
アーシアだって、今でも祈りを欠かさない信仰者だ。
この事実は衝撃だったのだろう。
「………主はいないのですか? では、私達に与えられる愛は………」
アーシアの疑問にコカビエルはおかしそうに答えた。
「ふん。ミカエルは良くやっているよ。神の代わりに天使と人間をまとめているのだからな。『システム』さえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度は機能するさ」
コカビエルの言葉を聞いてアーシアはその場に崩れ落ちた。
小猫ちゃんが支えてくれたけど、アーシアは気を失っている。
「俺は戦争を始めるッ! お前達の首を土産に戦争を起こす! 俺だけでもあの時の続きをしてやる!」
そんなガキみたいな理屈で俺の仲間を傷つけたってのか?
そんなことで戦争を起こそうってのかよ?
「ふざけるのもいい加減にしろよ………っ!」
俺の怒りがピークに達した時―――
ドクンッ
鼓動と共に絶大な赤いオーラが俺の体から吹き出す。
そして、それは光の柱となってこの駒王学園を赤く照らした。