[アリス side]
「はぁぁぁぁぁぁ!」
気合いと共に火花が散る。
私がヴィーカと戦い始めてから、それなりに時間が経っていた。
互いに無傷…………ではなく、ところどころに傷がある。
頬、腕、足に切り傷がいくつも出来ていた。
見た目だけなら互角に見えると思う。
だけど―――――。
「うふふ。光力の攻撃は悪魔のあなたには効果抜群でしょ?」
ヴィーカは槍の石突きで床をトントンと突きながら笑みを浮かべる。
そう、見た目は同じくらいでも受けたダメージはこちらの方が圧倒的に大きい。
ヴィーカの握る槍からは光のオーラ―――――聖なる力が滲み出ている。
ヴィーカは言う。
「少し掠めただけでも傷に見会わないダメージを受けてしまう。強い悪魔は光の力を抑えられるらしいけど、私の力も強い。いくら王女さまでも何度も受けてしまえば抑えきれないわ」
「…………っ!」
傷口から侵入した聖なる力は私の中に留まり、内側から身を焦がしていく。
最初は平気だったけど、一度、二度三度と重ねられる度に内側から焼けるような痛みが強くなっていった。
今も何とか耐えてはいるけど、嫌な汗が全身から流れている。
私は袖で額の汗を拭うと強気な笑みを浮かべる。
「全然っ。この程度ならまだまだ余裕よ?」
痩せ我慢だ。
今にも膝をついてしまいそうなのに、私は槍を構えた。
私が無理をしているのはヴィーカだって分かっているだろう。
でも、今の言葉は痩せ我慢であると同時に自分を奮い立たせるためのものでもあった。
私は立っている。
こうして槍を構えることができている。
なら――――――戦え!
私は槍を振り回してヴィーカに突撃する!
真正面から、何かを細工することもせずに!
ヴィーカは左手に槍を持ち変えると、右手に銃を握った。
彼女は銃口をこちらに向けて言う。
「いいわね♪ そういうのは好きよ♪」
引き金が引かれると、弾丸が撃ち出される。
弾丸は回転しながら真っ直ぐに突き進んでくる。
迫る弾丸を私は真っ二つに斬った。
両断され、私の白雷で黒焦げになる弾丸!
次々に撃ち出される弾丸を私は斬って斬って斬り裂き続けた!
ヴィーカは弾切れになった銃を捨てると、今度は魔法陣を展開。
そこから飛んでくるのはいくつもの投げナイフ!
投げナイフのくせに、銃弾よりも速い!
「でも、見切れないわけじゃないわ!」
視界から色彩が消えて、全てが遅く見える。
ゆっくりと迫る投げナイフの隙間を潜り抜けると、私はヴィーカの眼前に迫った!
「こんの巨乳娘ぇぇぇぇぇ!」
全力で槍を振るう私!
ヴィーカもそれに応じて、槍を振るってくる!
ヴィーカは私の攻撃を捌きながら首を傾げる。
「王女さまもちょっとは大きくなってるし良いんじゃない?」
そう…………私の胸は大きくなってきた。
ブラのサイズも変わってきている。
ようやく訪れた胸の成長期。
今が延び盛りなのだ。
それは私もイッセーも分かっている。
でも…………でもね―――――。
「まだあんたほど揺れないのよぉぉぉぉ! なんで毎回毎回露出の高い服着てるわけ!? 特に胸元! 嫌味!? 嫌味なの!?」
こいつ、いっつも胸元大きく開いた服着てくるのよ!?
戦ってる時も無駄に揺らしてくるし!
さっきだって、イッセーの視線はヴィーカの胸にいってたし!
「そんなつもりはないのだけど…………。強いて言うならエッチな格好の方が敵役ぽいじゃない?」
「そんな理由なの!?」
「そうそう。そして、それを着こなす私。所謂ボンッキュッボンッてやつね」
そう言うとヴィーカは胸を張って、腰をくねらせて、お尻を突き出す。
「これ使って勇者くんを誘惑するのも面白いかも♪ 彼って結構イケてるし、強いし、あっちの方も凄そうだし。あなた達から奪って一人で独占するのもいいわね♪」
…………イッセーを独占?
こいつが…………この娘が…………?
イッセーを取られちゃう?
そんな…………そんなこと――――――。
「ダメェェェェェ! そんなの絶対ダメェェェェェ!」
私は半泣きで槍を振るった!
全力で!
痛みなんか忘れて!
私の一撃の重さにヴィーカは驚愕する。
「あらら? これは変なスイッチ入れちゃったかも?」
「確かにあいつは他の女の子とも仲良くしてるけど! エッチなこともしてるけど! それでも、独占してないし! 皆のイッセーよ! あんたなんかに独占なんてさせない!」
「エッチなことって…………やっぱりしてるのね。勇者くん、大丈夫なの? 勇者くんの周りって結構な数の女の子いたような気がするけど…………」
「大丈夫よ! あいつ底なしだもの!」
というか、最近は向こうから来ることも少しだけど増えたてきたし…………。
寝ぼけて色々されちゃったこともあるし…………。
と、とにかく!
この娘にイッセーを独占なんてさせない!
激しく撃ち合う私達。
刃を交える度に激しさを増していく。
二度目は一度目よりも強く、三度目は二度目よりも強く。
高速かつ連続で続く槍の衝突音は絶え間なく部屋に響き渡る。
すると、ヴィーカは間合いを深く詰めてくる。
槍の柄を私の手元に当てて絡めるように槍を回す。
ヴィーカの思惑を察知した私はそれに逆らうように槍を回した。
力の流れが急激に変化した結果、槍は自分達の手から弾かれて宙を舞う。
くるくると回転する槍は弧を描いて落下し、丁度私達の背後の床に突き刺さった。
普通なら両者共に後ろへと飛び退いて、自分の得物を取り戻すだろう。
だけど、目の前の敵はそんなことをする必要がない。
「これで終わりかしら? 今回も私の勝ちね!」
ヴィーカの手には彼女が創り出した聖剣!
切っ先を天に向けると、そのまま私を斬り裂こうと真っ直ぐ振り下ろしてくる!
得物を失った私はそのまま彼女の斬戟を―――――。
「受けるわけないでしょうが!」
私は両の手に白雷を纏わせて刃を受け止めた。
ヴィーカが目を見開く。
「白刃取り!?」
私は不敵に笑う。
「残念だったわね。私に戦い方を教えたのはあの『剣聖』よ? 得物がなくなったくらいでやられるような鍛え方はされてないの。それに―――――」
私はヴィーカの腹に蹴りを入れて吹き飛ばす!
壁に叩きつけられたヴィーカを追って――――――。
「私はあいつの『女王』! いつまでも負け越しじゃいられないのよぉぉぉぉ!」
白雷を纏った拳がヴィーカを捉えた――――――。
▽
「ふぅ! スカッとしたっ!」
大きく息を吐く私。
やっと強烈な一発を入れてやったわ!
「これで私も一矢報いたわね」
そう呟いた後、私は床に突き刺さっていた槍を回収。
もうもうと煙が立つ場所に視線を送る。
…………とりあえずは一発入れたけど、今ので参るような相手じゃないのは過去の戦闘で分かってる。
煙が収まり、クレーターの咲いた壁に埋もれているヴィーカが見えてくる。
「カハッ…………!」
彼女は口から血の塊を吐き出して、その場に膝をついた。
少なくないダメージを受けた体でヴィーカは笑んだ。
「うふ、ふふふ…………。やるじゃない。…………一つ良いかしら?」
「なによ?」
「…………女の子が女の子にグーパンチってどうなの?」
「心配するとこそこ!? あんた、結構余裕ね!?」
そ、そりゃあ、一般的な女子は平手だと思うけど…………グーパンチの方が強いし…………。
いかに女子とは言え、相手は敵だし、加減する必要なんてないと思うし…………。
というか、加減できるような相手じゃないし…………。
「脳筋ね」
「う、うううっさい!」
脳筋じゃないもん!
ひ、否定できないところあるけど、それでも私は脳筋じゃないもん!
ヴィーカは新たに槍を呼び出すと、それを杖にして立ち上がる。
そして、一度息を吐いた。
「ここまでやられちゃったら、私も奥の手出すしかない…………と言いたいところだけど、今日はここまでのようね」
「…………なんですって?」
「余計な横槍が入ったからよ。外が騒がしいでしょう?」
「―――――っ!」
そう言われて私は窓の外を見る。
すると、そこには空を埋め尽くす程の邪龍の群れがいた。
「これって…………あんた達がやった、訳ではないのよね?」
「ええ。ここにも何体か邪龍はいるけど、あれは違うわ。リゼヴィムおじさまの仕業ね」
ここであのおっさんが出てくるのね…………!
本当に忌々しい限りだわ…………!
ヴィーカは続ける。
「多分、勇者くん狙いね。おじさま、天界でボコボコにされたらしいし? きっと、お父さまとの戦いで弱っているところを狙ったのね。戦術的には正しいけれど…………あまり余計なことはしてほしくないわ。正直言って邪魔なのよ、こういうの」
そう言うとヴィーカは大きくため息を吐いた。
[アリス side out]
▽
空を覆う邪龍が咆哮をあげる。
黒一色の空が落ちてくるような感覚を覚えるほどの数が俺めがけて迫ってくる。
限界まで力を使い、弱ったところへの襲撃。
嫌なことをしてくれる…………!
舌打ちする俺だが、そこへ――――――。
『イッセー、ここは私達に任せてください』
耳にはめたインカムから通信が入る。
次の瞬間、遥か彼方からいくつもの光線が飛んできて、邪龍を撃ち落としていった!
アセムの感知範囲すらこえる距離からの狙撃!
光線を辿った先にいたのは――――――。
「サリィ、フィーナ。二人ともいきますよ?」
「了解! ライフルビット展開するぜ!」
「了解です。シールドビット展開します」
淡い緑色の髪をした女性とそれに付き従う赤髪と水色の髪の妖精。
二人の妖精の声に応じて、複数の魔法陣が展開される。
赤い魔法陣からは魔装銃、水色の魔法陣からは宝玉を嵌められた板…………いや、盾が召喚された。
それぞれ六つずつ。
魔装銃は縦横無尽に空を駆け回り、銃口から炎を吐き出した!
炎は複数の邪龍の体を貫き、その巨体を燃やしていく!
量産型とは言え、ドラゴンを燃やすその火力。
そして、感知範囲外からの狙撃。
女性の登場に邪龍の視線がそちらへと移る。
殺気の籠った目で次々と飛びかかっていく。
すると、水色の魔法陣から出てきた盾が女性と邪龍の間に入りこんだ。
宝玉が輝くと――――――盾の周囲に冷気が漂い、氷の板を形成した!
氷の盾が邪龍の攻撃を意図も簡単に防いでいく!
淡い緑色の髪をした女性は氷の盾で防いでいる間に自身の持つ魔装銃の引き金を引く。
現れた彼女達の介入により、量産型の邪龍達は早くも混乱状態に陥っていた。
女性は俺の側までくると、優しい微笑みを浮かべた。
「お待たせしました、イッセー」
「いいや、良いタイミングだったよ――――――リーシャ」
そう、この女性の名前はリーシャ。
アスト・アーデにて俺を支えてくれた仲間!
俺とアリスのお姉さん的存在!
そして―――――。
俺はリーシャの肩に乗る二人の妖精に視線を移す。
「サンキューな、サリィ、フィーナ。助かったよ」
「だろ! ナイスだろ、私!」
「うふふ、ご無事で良かったです。イッセーさん」
赤髪の活発そうな妖精の女の子がサリィ。
水色の髪の大人しそうな妖精の女の子がフィーナ。
簡単に言うと彼女達はリーシャと契約した使い魔的な存在。
戦闘ではリーシャをサポートしてくれるそうだ。
俺も知ったときは驚いたけど、この二人…………実はオーディリアの四大神霊に仕えていた精霊だったりする。
四大神霊は神に近いとされる存在で、それぞれ火、水、土、風を司っている。
そのうちサリィは火、フィーナは水の神霊に仕えていた。
よって、サリィは火をフィーナは水の力を使えるそうだ。
…………久しぶり会いに行ったらリーシャがすんごい存在と仲良くなってて驚いたよ。
ま、まぁ、もう一人はもっと凄かったけど…………。
リーシャが言う。
「イッセーに加勢しようと思ったのですが、二人の動きが速すぎて撃てませんでした」
「気にしなくて良いって」
自分で言うのも何だけど、あれに着いていけるような奴ってとんでもない存在だと思うし。
「しかし、彼が去ったのは何故なんでしょう?」
「へ…………?」
去った…………?
俺は後ろを振り返る。
――――――アセムが消えてる!?
いつの間に!?
驚く俺。
その時、空に大きく映像が映し出される。
そこに映っていたのはいつもの少年の姿に戻ったアセムだった。
『いやー、変な横槍が入ると萎えちゃうんだよねぇ。と言うわけで僕はベストキッドでも見ておくから頑張ってね☆』
「はぁ!?」
『リゼ爺とは協力関係だけどさー。楽しんでる時に邪魔されるとやる気なくなるんだよねぇ。ま、協力関係だから、邪魔してきた邪龍を消すことはしないけどね。その代わり僕もこれ以上は戦わない。今日のところはね。あとは君達と邪龍達でランデブーでもすればいいさ』
「おい、待てこらぁ!」
『待たない~。ベストキッド始まったからね~。今日は楽しかったよ、勇者くん♪ 次回はお互いに全力で戦えると良いね。それじゃあ、まったねー』
そう言い残して、奴は映像を切った。
あの野郎、マジでベストキッド見に帰りやがった!
だって、役者さんの声聞こえてくるし!
音楽流れてきたし!
「おいぃぃぃぃ! 映像消すなら、音声も消せよぉぉぉぉ!」
『あっ、いっけね』
何が「いっけね」だ!
さっきまで結構シリアスだったじゃん!
戦ってるときは珍しくシリアスだったじゃん、アセムは!
なに、いつものラフな感じに戻ってるの!?
「ベストキッドってなに? 私も見たい!」
サリィがベストキッドに興味を牽かれてる!
止めて!
これ以上シリアスを壊さないで!
次の瞬間、俺の鎧が解除されてしまった。
「あれ…………?」
限界まで力使って、普通の鎧になってたけど…………まだ鎧は保てたはず。
ドライグさん、これはどういうこと?
すると――――――。
『うへへ、うへへへへ。おっぱいがひとーつ、おっぱいがふたーつ、おっぱいがみっーつ』
ドライグ!?
お、おい、どうしたんだ、急に!?
先輩のベルザードさんの声が聞こえてくる。
『いかん! さっきまで耐えていた分、反動が大きいんだ!』
『我慢していたのが、今になって一気に来たのね! ドライグ、しっかり! …………ドライグ? ねぇ…………ドライグ? ドライグ?』
エルシャさんがドライグの名を呼んだ。
しかし、ドライグの声はない。
『『ドライグゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』』
何があったぁぁぁぁぁぁぁ!?
ドライグに何があったんですか!?
ダメだ!
オッパイザーとのドッキングはドライグへのダメージが大きすぎる!
吸血鬼の町で『乳も尻も怖くない』とか言ってたのに!
『ドライグ、しっかりしろ! 私が側にいるぞ!』
アルビオン!?
おまえ、ヴァーリを置いてこっちに来たの!?
『ヴァーリは一人でも問題ない。しかし、今はドライグが心配なのだ! 我らは二天龍! 互いに支えあい、この辛辣な時代を乗り越えると誓ったのだ! 我らは乳も尻も怖くない! そうだろう?』
『アル、ビオン…………』
おおっ、ドライグが復活した!
ちょっと声が弱々しいけど意識を取り戻した!
しかし、次にドライグが発した言葉は衝撃的なもので―――――。
『乳が…………迫ってきたんだ。大量の乳が迫ってきて、俺を包み込んだんだ…………』
『っ! それは…………!』
『戦っている時は何とか耐えた…………。しかし、戦闘が終わり、気が抜けた瞬間…………恐ろしくなった…………あの恐怖が俺を…………ぁぁぁぁぁぁ!』
心を乱すドライグ!
ドッキングしてる間、そんなことになってたの!?
アルビオンが叫ぶ!
『しっかりしろ! 心を落ち着けるのだ! その話、私がゆっくり聞いてやる! 受け止めてやる! 共にその恐怖、切り抜けようぞ!』
『アルビオン…………! おまえ…………!』
あ、あれ…………なんか二人が涙声になってるんですけど…………。
なんか絆が更に深まったみたいなんですけど…………。
イグニス…………オッパイザーの調整、もうちょっと何とかならない?
ドッキングする度にこれじゃ、ドライグがマジで昇天しまいそうなんですけど…………。
『うーん、まぁ、やってみましょうか。ようするに溢れだした乳力が神器を侵したって話だし。何とかなるんじゃないの?』
頼む…………!
ドライグのためにも…………!
『でも、スイッチ姫補給は必要よ。うふふ、帰ったらお楽しみね♪ アリスちゃんとリアスちゃんとの絆を深めちゃえ♪』
…………うん。
オッパイザー、再調整決定!(笑)