ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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16話 エクスカリバー

[木場 side]

 

一歩、また一歩とエクスカリバーのレプリカを携えた男がこちらに進軍してくる。

 

相手はたった一人だ。

しかし、その歩みから伝わってくるプレッシャーは戦士の一団が一斉に攻めてきた時よりも遥かに上だった。

こうして向かい合っているだけで嫌な汗が噴き出してくる。

 

デュリオさんが半笑いで言う。

 

「………木場きゅん、分かっているだろうけどクリスタルディ先生は元エクスカリバーの使い手。そんでもって、今手にしているのがレプリカ。本物よりは劣るけど七つの能力全てを有している。イメージしている最強の聖剣使いの四つ上は覚悟してほしい」

 

「想定の範囲をはるかに越えた剣士、ということですね」

 

「そーいうこと」

 

最強の聖剣使いの四つ上、か………。

 

聖剣使いではないけど、最強の剣士というと異世界で出会ったあの騎士団長。

彼に稽古をつけてもらってけど、こちらの剣は最後までかすりすらしなかった。

 

彼なら目の前の剣士とどう戦うだろうか。

まぁ、彼と僕とでは戦い方も実力もまるで違うんだけどね。

 

ソーナ前会長がインカムを通じて言う。

 

『戦士の相手は私たちシトリー眷属と「御使い」のメンバーで引き続き行います。エヴァルド・クリスタルディはの相手はデュリオ・ジェズアルドさんを筆頭にイリナさん、グリゼルダさん、そして木場くんに当たっていただきます』

 

「「「「了解」」」」

 

エヴァルド・クリスタルディと対峙するデュリオさん、シスター・グリゼルダさん、イリナさん、そして僕。

転生天使の三人は天使の象徴たる純白の翼を出し、僕は聖魔剣を構えた。

 

エヴァルド・クリスタルディはゆっくりと近づいてくる中で――――――無数の分身を出現させた!

 

これはかつてフリードが使っていた………いや、予備動作もなく分身を生み出したのでどうやって生み出したのかは分からない。

天閃の高速移動によるものか、夢幻の力によるものなのか。

 

僕たちの中で最初に動いたのはシスター・グリゼルダさんだった。

 

「クリスタルディ先生! いかさせていただきます!」

 

彼女は手元に光の粒子を作り出すと、光球を複数出現させる。

一発一発が濃密な光力に満ちており、悪魔が受けてしまえば大ダメージを受けてしまうだろう!

 

放たれた光球が分身を撃ち抜くと、その分身は形を崩して消えていった。

しかし、その中に光球を剣で弾き返して、こちらに向かってくる一体がいる!

 

今の分身は夢幻によるもの!

突っ込んでくるあれが本物か!

 

僕とイリナさんがそれに対応しようとするが、後ろでデュリオさんが叫んだ。

 

「それは擬態だ!」

 

その報告に反応した僕は横に飛び退くが、イリナさんは勢いに乗せてオートクレールを振り下ろした!

オートクレールによって斬られた分身体は形を崩してヒモ状に変わる!

 

ヒモを追っていくとその先には、グリゼルダさんの光球を受けて四散した幻術の中から現れるエヴァルド・クリスタルディ。

その手にはヒモ状から再構築されて一本の剣へと戻るエクスカリバーのレプリカ。

 

先程の分身は夢幻の力だけでなく、擬態によるものも混ぜていたのか!

しかも、本人は透明の能力で姿を隠していた。

 

この僅かな戦闘の中で、自然に夢幻、擬態、透明の三つの能力を使ってくるなんて…………!

 

エヴァルド・クリスタルディは擬態による分身を斬り裂いたイリナさんへと斬りかかる。

 

イリナさんも先程の擬態は見抜いていたのか、姿を現したエヴァルド・クリスタルディによる一撃を刀身で受け止めた。

 

見事に防ぎったと思った。

 

しかし、受け止めたイリナさんは膝をつき、その足元には小さなクレーターが生まれる!

破壊による一撃か!

 

受け止めたとはいえ、破壊の一撃を受けてしまったイリナさんの口元には血が滲んでいる。

それでも、イリナさんは不敵な笑みを見せた。

 

「………先生、破壊力だけならゼノヴィアの方が上だと思います」

 

「ああ、わかっているとも。だが、破壊だけでエクスカリバーを語るな」

 

エヴァルド・クリスタルディは笑みを浮かべると、懐から十字架を複数取り出して、天に放る。

彼が何かを念じたその瞬間、十字架は宙で散らばり僕達を囲むように地面に突き刺さった。

 

そして、十字架から莫大な聖なる波動が生み出され、僕達を囲む十字架の結界が形成される!

 

エヴァルド・クリスタルディは言う。

 

「祝福の特性で十字架の結界の力を底上げしている。暫くは誰も近づけない。また、天使でもこの結界はそう撃ち破れるものでもない。高速で逃げることも、空を飛んで逃げることも無理と言うことだ」

 

…………祝福の力を使って、僕の足と転生天使組の飛行を封じたということか。

更にシトリーからの助勢も禁じる結界。

 

ダメージから回復したのか、イリナさんが勢いよく師の剣を押し返す。

 

エヴァルド・クリスタルディは飛び退き様に聖なる波動を幾重にも打ち出してきた!

 

僕とイリナさんは剣を振るって聖なる波動を相殺する―――――が、手応えがない。

いや、手応えのある波動もあった。

 

つまり、今のは本物の波動と共に幻術による波動を混ぜていたということ。

幻術の波動は気配すら本物と同じで、瞬時での判断が難しい!

 

イッセーくんほどの防御力なら受けても問題ないだろうけど、僕の場合、避けるのが最善だろう。

 

そう考えて、飛んできた聖なる波動を避けることでやり過ごすが―――――聖なる波動は後方で軌道を変えて、再度僕達を襲撃してきた!

 

「私の時代には無かったとはいえ、支配もそこそこには使えるのだよ」

 

支配の特性で打ち出した波動を自在に操れるということか!

避けても避けても軌道を変えて追いかけてくる!

これほど厄介なものはない!

 

僕は咄嗟に宙に七つ剣を作り出して聖なる波動へとぶつける!

僕にも自在に操れる剣はある!

 

「甘いな、聖魔剣の剣士よ」

 

エヴァルド・クリスタルディは更に多くの聖なる波動を打ち放ってくる!

 

幻術の特性により聖なる波動は無数とも思える数となり、七剣では相殺しきれなくなってきた!

避けることで何とかやり過ごそうとするが、僕へと迫る!

 

「―――――俺もいるんすよ」

 

その瞬間、僕に迫っていた聖なる波動はデュリオさんから放たれた雷撃によって吹き飛ばされてしまう。

それだけじゃない、彼による後方支援は僕とイリナさんを苦しめていた聖なる波動全てを打ち消した。

 

彼のサポートもあり、危機を脱した僕とイリナさんだが…………。

 

レプリカのエクスカリバーをここまで自在に操れるのか。

一回の攻撃で最低でも二つの特性を混ぜて放ってくる。

しかも、使いどころが上手すぎる。

 

今はこうして間合いを取っているけど、眼前のエクスカリバー使いが本物かどうかすら疑いを持ってしまう。

擬態なのか、幻術なのか。

 

ここまでのやり取りでよく分かった。

 

今のままでは一方的な戦いとなってしまう。

後方からデュリオさんとシスター・グリゼルダさんがサポートしてくれるとはいえ、前衛で剣を交える僕とイリナさんは彼の戦術に乗せられてつづけるだろう。

 

―――――やはり、使うしかない。

 

僕は聖魔剣の切っ先を天に向けて胸元で構える。

すると、白と黒のオーラが刀身から溢れだし、次第に僕の体を包んでいく。

 

オーラが止んで現れるのは黒いコートを纏い、日本刀の形状をした聖魔剣を握る僕だ。

 

禁手第二階層―――――双覇の騎士王(パラディン・オブ・ビトレイヤー)

 

イッセーくん達との修業で継続時間が延びてきたとはいえ、やはり消耗が大きい。

だからギリギリまで使いたくなかったのだけど、そんな甘いことを言っている場合じゃないのはここまでのやり取りで分かった。

 

「ならば、僕の全力で!」

 

僕は今出せる最高速度でエヴァルド・クリスタルディへと斬りかかる。

 

目の前の男は真正面から僕の剣を受け止めた!

この手応え、分身ではなく本物!

 

僕の剣を受け止めながら、エヴァルド・クリスタルディは目を細める。

 

「それがイレギュラーとされる禁手の更に奥の領域か。速さがこれほど上がるとは」

 

やはり、このイレギュラーな力の情報もクーデター組には伝わっている。

 

禁手の第二段階。

イッセーくんに続き、僕が発現したこの力。

 

この双覇の騎士王ならば、異なる属性を同時に扱うこともできる!

 

聖魔剣の刀身から冷気が溢れ出ると、エクスカリバー・レプリカの刀身を氷付けていく!

同時に暴風を起こして、周囲に吹雪を起こさせた!

 

「はっ!」

 

僕は破壊の属性も混ぜて、エクスカリバーを押し返す。

そして、相手の体勢が崩れたのを狙って全力の突きを繰り出した!

 

聖魔剣が深々とエヴァルド・クリスタルディの胸を貫いていく――――――。

 

しかし、次の瞬間。

エヴァルド・クリスタルディの肉体はヒモ状となって崩れていく!

 

馬鹿な、今のも擬態による分身だと言うのか!

 

確かに剣の手応えはあった。

まさか、剣を受ける瞬間に分身体へと変わったのか!?

 

「天閃と擬態、夢幻そして透明を使えば受けた瞬間にあれくらいの分身は作れるのだ」

 

「――――――っ!」

 

横合いから声が聞こえてくる。

 

慌ててそちらを振り向くと、既に分身したエヴァルド・クリスタルディが複数立っていた!

 

競り合う瞬間に四つの能力を用いてきただと!?

実際に剣を合わせていた僕にそのことを気づかせないなんて!

 

いや、今は驚いている場合じゃない。

この分身は擬態か、夢幻か。

 

僕とイリナさんは剣を構えて斬りかかってきた分身に対応するが――――――同時に剣を受け止めることに成功してしまう!

どちらも本物だというのか!?

 

僕とイリナさんは高速こ剣戟を繰り広げて、目の前の分身を斬り伏せる。

しかし、どちらが斬った分身も霧散してしまう!

 

本物でも、擬態でもない!?

 

霧散したはずの分身はその場で再構築して再びクリスタルディの姿となる!

 

「天閃と夢幻の組合せだ。高速と幻術により質量を持った残像は作り出されるのだよ。聖魔剣の剣士よ、ただ速いだけでは私は斬れんぞ?」

 

「っ!」

 

今の僕は先程までと比べると速度は飛躍的に向上している。

剣戟も同様だ。

 

しかし、このエクスカリバー使いはその能力を十全に活かして、簡単に捌いてしまう!

 

「他にもエクスカリバーの使い方はある」

 

その声は背後から聞こえてきた。

僕とイリナさんが振り返った時には既に距離を詰められていて―――――。

 

「強力な悪魔であるキミ達にはまるで効果を示さないであろう聖水といえど―――――」

 

僕の眼前に小瓶が放られる。

それをエヴァルド・クリスタルディは横凪ぎにした剣で破壊。

中の聖水が僕の全身にかかる。

 

エヴァルド・クリスタルディはそれを確認して念じた。

 

次の瞬間――――――。

 

「――――――ッ! くぁ………!」

 

激痛が僕を襲った!

聖水による聖なる力が悪魔である僕の体を焦がしていく!

肉体を精神を焼き切られるような激痛が広がり、僕はその場に膝をついてしまう!

 

「祝福の特性でここまで高めることができる。祝福された聖書での朗読を聞かせても良いのだがね?」

 

祝福の特性で聖水を強化。

僕達悪魔にとっては恐ろしすぎる力だ。

 

「先生!」

 

イリナさんが僕を助けようと横からオートクレールを放ち――――――師の首を斬り飛ばした!

 

「っ!?」

 

首の無くなった胴体を見て酷く狼狽するイリナさん。

自分の一撃が師の頭を吹き飛ばすとは思わなかったのだろう。

 

「――――甘いな、紫藤イリナ」

 

その声はイリナさんの背後から発せられた。

 

彼女が振り替えれば、そこには剣を振り下ろそうとする師の姿!

教え子に自分の死という幻術を見せて狼狽えさせたのか!

 

振り下ろされたエクスカリバーをイリナさんはオートクレールで受け止めるが――――――。

彼女はその重圧に耐えられず、地に倒されてしまう!

破壊の一撃!

 

「俺のことも忘れないでくださいって!」

 

後方からデュリオさんが神器の力で生み出した炎の球体と氷の槍を同時に放つ。

彼の攻撃がエヴァルド・クリスタルディに直撃する、その瞬間に不自然に軌道を変えて全く関係のない場所に着弾してしまう。

 

デュリオさんは更に氷柱を周辺に地面から生やすが、エヴァルド・クリスタルディの周囲にだけ氷柱は生まれなかった。

 

その結果に驚愕するシスター・グリゼルダさん。

 

「ジョーカーの攻撃を支配したというのですか!?」

 

「支配の力を以てすれば、神滅具であろうとも―――――と言いたいところだが」

 

彼の視線が自身の祭服へと向けられる。

目を凝らしてみると、衣装が僅かに破れているのに気づく。

 

「流石に逸らすだけで精一杯だ。天使化の恩恵に救われたな、デュリオよ」

 

いくら、デュリオさんが本気でないとはいえ、たった一人を相手にこの戦況………!

 

「ここまでのものか、天性のエクスカリバー使い………!」

 

「だから言ったろ? 俺達が相手にするのは教会でもバケモノと称された二大巨頭の一人なんだからさ。技のクリスタルディ、力のストラーダとはよく言われてたねぇ。いやはや、我が師ながら恐ろしいよ」

 

デュリオさんはそう言って苦笑する。

 

確かに凄まじい力の持ち主だ。

だが、彼の持つ剣はレプリカ。

これが本物だとしたら、いったいどうなってしまうというんだ…………?

 

「………僕がグラムを解放します。今の僕なら、エクスカリバーの使い手であろうとあなたが隙を突けるだけの時間は稼げ――――――」

 

僕がそこまで言いかけた時だった。

 

 

―――――――身に纏っていた黒いコートが消え、聖魔剣の形状が元に戻ってしまった。

騎士王の状態が僕の意思に反して、勝手に解かれてしまったのだ。

 

 

それはあまりに予想外のことで、僕は驚きを隠せなかった。

 

「なっ………! なぜだ………!? 僕はまだ戦える! まだ剣を握れる! それなのに―――――」

 

確かに疲労もある。

受けた聖水のダメージだって小さくない。

 

それでもこの状態を保つことはまだ出来たはずだ。

 

………神器が、魔剣創造が僕を否定した?

 

冥界の魔獣騒動の際、イッセーくんと戦った曹操は最後、自身の神器に拒まれ、力を奪われた。

 

それと同じことが僕にも起こっている…………?

 

困惑する僕の肩にデュリオさんが手を置いた。

 

「イッセーどんから聞いているよ。さっきの力は禁手よりも特殊なんだろう? 発動条件は分からないのも聞いてる。だけど、その時の状況はイッセーどんも木場きゅんも似てるものがあるって言ってたさ。…………神器はそんなことのために君に力を貸したんじゃない、そう言ってるんじゃないかな?」

 

「そんなこと…………? でも! このままじゃ、僕は…………! エクスカリバーを越えることが出来ないじゃないか!」

 

僕は人生をエクスカリバーに狂わされた。

僕だけじゃない、多くの同士が巻き込まれ命を落としていった。

 

バルパー・ガリレイの死と三大勢力の和平で一応の決着はついた。

 

でも…………でもだ!

 

目の前に天性のエクスカリバーの使い手がいて、レプリカといえどエクスカリバーが握られている!

僕の目の前で敵として立ちはだかっている!

勝ちたいじゃないか!

越えたいじゃないか!

僕に達のあの施設での出来事が幻でなかったと、無駄ではなかったと…………証明、したいじゃないか…………!

 

お願いだ、魔剣創造…………!

僕に、もう一度あの力を…………!

エクスカリバーを越えるために、あの力を!

 

必死に自身の内側の神器に願う僕。

そんな僕の頭をデュリオさんさ優しく撫でた。

 

「君が命をかけて戦う相手は違うだろう? 木場きゅん―――――いや、祐斗。君は教会出身だ。だったら俺の弟みたいなもんさ。お兄ちゃんとしては弟の無茶は許容できませんてっね」

 

そう言うとデュリオさんは前に出た。

 

僕の前に出て、自らの師の前に立った。

 

「ま、これでもチーム『D×D』のリーダーだ。お兄ちゃんに任せてくれよ」

 

 

[木場 side out]

 

 

 


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