ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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13話 世界の在り方

[アリス side]

 

「行かせて良かったの?」

 

ヴィーカがとある扉を見つめながら、そう訊いてきた。

 

開かれた扉は時間が経った今でも前後に揺れていて、開けた者がどれだけの勢いで開いたのかが良く分かる。

良く見れば扉の金具が僅かに変形していて…………。

 

急ぎすぎ…………なんて言えないか。

 

私は一度目を閉じると深く息を吐く。

 

「良いのよ。あいつがそうしたいのなら、私はそれを支えるだけ。私はイッセーの『女王』。だったら、あいつが通る道を切り開いてあげるのは私の役目でもあるもの」

 

「随分とラブラブね。でも、二対一なら私を倒せたかも知れない。そのチャンスを逃したことにもなるわ」

 

確かにイッセーと二人がかりなら、倒せる確率は倍以上になる。

EXA形態のイッセーなら、一人でもヴィーカを倒せるだろう。

 

ヴィーカの言う通り、私は絶好の機会を逃したことになる。

相手の戦力を削ぐのなら勝てる確率か高い方を選ぶべきだ。

 

それでも、美羽ちゃんはあいつにとってかけがえのない存在だもの。

行かせてやりたいじゃない。

 

それに――――――。

 

「私があんたを倒せば何も問題ないでしょ?」

 

白いオーラを纏い、稲妻が迸る。

体から発っする白雷で周りを焦がしながら私は槍を構えた。

 

そう、私が一人で倒せば何も問題はない。

そもそも、こいつは一人で倒すつもりだった。

 

ここまで何度も矛を交えてきた。

今のところ二戦中一敗と一引き分けで私が負け越している。

そろそろ勝ち星を増やしたいところなのよね。

 

ヴィーカは手元に槍を創り出す。

 

「うふふ、いい目じゃない。女の意地ってやつかしら?」

 

「残念。これに関しては違うわ。――――――騎士としての意地よ」

 

黒いオーラと白いオーラが衝突した――――――。

 

 

[アリス side out]

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

時は少し遡る。

 

ボクとレイヴェルさん、ディルさんのチームはお兄ちゃん達と別れた後、薄暗い通路を真っすぐに進んでいた。

人の気配もなく、何かが襲ってくる気配もない。

 

さっき、何かの紐が天井からぶら下がっていたけど…………明らかに罠だったから引っ張らずに放置した。

 

レイヴェルさんが呟く。

 

「あんな見え透いた罠に引っかかると思ってるんでしょうか?」

 

「誰も引っかからないだろうな。引っかかる者がいるとすればただの馬鹿だ」

 

バナナ片手にディルさんがそう返す。

 

ディルさん、冥府に入ってからずっと口が動いてるよ………。

そんなにお腹すいてるのかな?

………晩御飯食べてきたのに。

 

二人が言うようにあんな罠に引っかかる人はいないとボクも思う。

だって見え見えだもん。

あれ引っ張たら、巨大な球が転がってくるとかだよ、絶対。

アニメとかでよくあるし。

 

そんな会話をしながら更に進んでいくと、とある広間に出た。

そこはかなりの広さを持つ円形の広間だった。

石畳が敷き詰められた床に、上を見上げればドーム型の天井がある。

壁には鮮やかな色合いのステンドグラスが嵌められていて、外からの光を中に取り込んでいるようだった。

 

いや、外の光にしては明るすぎる。

多分、魔法か何かで明るくしているんだと思う。

 

周囲の様子を伺うボク達の前方、二十メートル程離れた場所に一つの影を見つける。

 

幼い少女がそこにいた。

真っ白な肌に足元まである真っ白な髪。

何もかもが白い少女。

 

絵師(マーレライ)』のベル!

 

ここで彼女に出くわすなんて!

 

強敵を前にして、ボク達は一斉に構えた。

彼女の実力はアウロス学園防衛戦の時に実感している。

触れた相手のコピーを産み出す能力、描いた物を具現化する能力、具現化した魔獣達を融合させる能力。

更に相手の力を封じる魔法まで使ってくる。

 

あの時は援軍に来てくれたディルさんのお陰で窮地を免れたけど、今回も上手くいくとは限らない。

 

凶悪な能力を持っているなんて想像できない程、可憐な少女は首を可愛く傾げた。

 

「あの時のお姉ちゃん達だ。…………一人知らないお姉ちゃんがいるけど…………誰だっけ?」

 

ベルの視線の先にはレイヴェルさん。

 

あれ………?

レイヴェルさんって、確かベルと一度遭遇してるよね?

コピー取られた、あの時に。

レイヴェルの複製からフェニックスの涙を量産してるって聞いてるけど…………。

 

視線を向けられたレイヴェルさんは肩を震わせると、胸に手を当てて叫んだ。

 

「レイヴェル・フェニックスですわ! あなた、私のコピーを作っておいて忘れるとはどういうことですか! フェニックスの涙まで勝手に量産して!」

 

「あ、そっか。あの時の小さいお姉ちゃん」

 

「うぬぬぬぬ! 人が気にしていることを………! こ、これでも毎日牛乳飲んで努力しているんですから! いつか高身長のレディになってみせますわ!」

 

「………ふーん」

 

「なんですの、その全く関心がないという態度は!?」

 

「ま、まぁまぁ、落ち着こう、レイヴェルさん。レイヴェルさんもきっと大きくなれると思うよ? まだ成長期なんだし」

 

レイヴェルさんの肩に手を置いて、何とか落ち着かせるボク。

 

………でも、レイヴェルさんに身長抜かれたらちょっとショックかも。

ボクも牛乳飲んでるんだけど、中々伸びないんだよね。

 

って、そんなことは今はどうでも良くて、今はベルを何とかしないと。

 

ボクはベルに問う。

 

「ボク達と戦うつもり?」

 

ボク達が彼らの根城に乗り込み、ボク達を待つようにベルがいた。

訊くまでもなく彼女は戦うつもりでここにいるはず。

だけど、彼女から殺意も敵意も悪意も感じないんだよね。

 

まぁ、それは前回もなんだけど。

そもそも彼女にはそんな意思はない………と思う。

 

すると、彼女は小さな口を開いた。

 

「うん。ヴィーカ達も戦ってるし、ベルも戦うよ?」

 

「周りの人が戦うから、君も戦うってことなのかな?」

 

「うん。それにパパの願いを叶えてあげたいの」

 

パパ………彼女たちの生みの親であるアセムの願い?

 

お兄ちゃんも気になっているけど、結局のところアセムの目的は何なんだろう?

リゼヴィムに協力してる時点で敵………なんだけど、どういうわけかベルやヴィーカ達からは悪意なんてものは伝わってこなかった。

 

例えばアウロス学園でお兄ちゃんと戦ったラズル。

彼はリゼヴィムやユーグリッド、邪龍たちのように子供や父兄たちを相手にしようとしなかった。

そこにあるのはただ強い者と真正面から戦いたいという闘志。

 

………単なるバトルマニアとも言えるけど。

 

とにかく、アセムとその一行は敵らしくない敵だと感じるボクがいる。

 

 

その時だった――――――。

 

 

「まぁ、あまり無理してほしくないって親心はあるんだけどね~」

 

その声は突如として、後ろからやってきた。

 

あまりに予想外の声にボク達の反応は遅れる。

 

流れる汗、速くなる鼓動。

視界がぐらつくほどの緊張がボクを襲う。

早く………早く後ろを向いて対応しなきゃいけないのに動けない。

 

ボクだけじゃない、レイヴェルさんも…………ディルさんでさえも同じだった。

 

ようやく後ろを向けたと思うと、そこにはニッコリと微笑みを浮かべた少年がいて――――――。

 

「そんなに怯えなくてもいいよ? なにもとって食おうってわけじゃないんだからさ。それに――――――僕は結果の見える勝負はしないんだ。あ、もちろん例外はあるけどね?」

 

「「「――――――っ!?」」」

 

今回の冥府入りで最大の敵。

ボク達が冥府に入るきっかけを作ることになった存在。

冥府の神ハーデスを倒した異世界の神――――――。

 

「やっ♪ いきなりドッキリ、アセムくんでーす♪」

 

な、なんて軽い挨拶………。

 

でも、それ以上に驚くべきことは声を掛けられるまで接近に気づけなかった………!

気配を全く感じさせずにここまで近づいてくるなんて………!

一体どれだけの力を持っているのだろうか。

 

「さて、とりあえず君に来てもらおうかな。シリウス君の娘さん?」

 

「――――――えっ?」

 

気づけば、アセムはボクの懐に立っていて――――――――。

そのままボクは光に包まれていった―――――――。

 

 

 

 

光が止み、目を開けると――――――。

 

「リビング………?」

 

フローリングの床にテーブル、ソファ、テレビ。

それにキッチンまであるこの部屋はよくある住宅と同じつくりだった。

 

………なんでリビング?

なんでこんなゆったりした空間があるの?

 

ツッコミを入れるべきなんだろうけど、色々と思考がついてこない。

 

そもそもなんでボクはここに連れてこられたんだろう?

 

「テキトーに座ってよ。お茶ぐらいは出すからさ」

 

声がした方を見るとアセムがキッチンでお湯を沸かしていた。

 

う、うーん………なんて緊張感のない………。

 

少しすると、アセムは紅茶を淹れたティーカップを二つ持って来た。

 

「そんなに警戒しなくても良い………って言っても無理か。僕って敵だし~」

 

「………なんで、ボクをここに?」

 

「君はあのシリウス君の一人娘だからね~。一度話してみたかったんだよ~。ほら、勇者君とは話したことあったけど、君とは話したことないじゃん? あ、そういえば王女様とも話したっけ」

 

確かに………。

お兄ちゃんやアリスさんは彼と直接話したことがあるらしいけど、ボクは一度もない。

一度しか話したことのないアリスさんはアセムを悪意の塊って言ってたけど、お兄ちゃんはよく分からないと言っていた。

 

 

――――――初めて話した時はリゼヴィムと同類だと思った。でも、何か違うんだ。あいつは………悪い、俺もあいつが何がしたいのか分からないんだ。今回、それが分かれば何歩か前進すると思うんだけどな。

 

 

元々はアスト・アーデの善神だって話だし、彼がこの世界に牙を剥く理由が分かるかも………?

 

ボクは無言でアセムの向かい側の席に腰かけた。

 

「うん、いい反応だね」

 

ボクの行動にアセムは微笑みを浮かべ、ティーカップに口をつけた。

 

ボクはアセムに問う。

 

「単刀直入に訊くね? 君は何のためにこの世界で動いているの? アスト・アーデの神であるはずの君が、なんでリゼヴィムに協力しているの? まさかと思うけど、君も異世界侵攻なんて考えているの?」

 

「いきなり質問攻めだね。とりあえず、最後の質問から答えておくけど僕は異世界侵攻なんて考えてないよ? そもそもリゼ爺ごとき(・・・)じゃアスト・アーデは崩せないよ。たとえ邪龍軍団を使おうともね」

 

今、『ごとき』って言った………?

協力関係にあるはずなのに?

 

アセムはクッキーをポリポリ食べながら続ける。

 

「少し前のアスト・アーデなら墜とされただろうけど、今のアスト・アーデは世界そのものが一つになった。人間も魔族も、そして神ですらも。その証拠にあのロスウォードを倒しただろう? 直接戦い倒したのは勇者君だとしても彼だけでは倒せなかった。そう、世界が一つになったからこそあの子(・・・)を倒すことができたんだ」

 

あの時、イグニスさんの力を発現したお兄ちゃんの力によってアスト・アーデという世界はロスウォードから守られた。

だけど、それはお兄ちゃん一人の力では為しえなかったこと。

人間と魔族、神層階も含めた世界中の人々の協力があったからこそ。

 

アセムの言葉に同意すると同時にボクは少し違和感を覚えた。

 

以前、お兄ちゃん達から聞いた雰囲気と違う………?

吸血鬼の町でまるで物を扱うような発言をしていたそうだけど、今はそんな雰囲気は感じられなくて………。

 

「それだけ繋がった世界をリゼ爺が墜とせるはずがない。断言しよう、仮に向こうの世界に行けたとしても返り討ちにあうだろうさ」

 

「それなら――――――」

 

「それなら、どうしてリゼ爺に協力しているか――――かい?」

 

「………」

 

彼の問いにボクは無言で頷きを返した。

 

アセムは紅茶を飲み干すと、ニッコリと笑みを浮かべる。

 

「そうだね………その問いに答える前に僕も質問してみようかな。ねぇねぇ、美羽ちゃん。君はこの世界をどう思う?」

 

「えっ?」

 

この世界をどう思うかって………。

どうしよう、そんな質問をされるとは思ってなかった。

 

ボクの周りにいる人はお兄ちゃんをはじめ、お父さんもお母さんもリアスさん達もとっても優しい人ばかり。

もちろんそれぞれに欠点もあるけど、温かい人ばかりだと思う。

 

でも、アセムが訊きたいのは狭い世界じゃなくて、この世界全体についてだ。

 

今のこの世界は各神話勢力が同盟を結び、一歩一歩平和に近づこうとしている。

そのためにアザゼル先生やリアスさんのお兄さんであるサーゼクスさん達が一生懸命になっているわけで。

 

ボクの考えていることを見透かすかのようにアセムが言う。

 

「この世界はアザゼルくん達の働きによって、良い方向に廻ろうとしているね。でも、それだけじゃ不十分なんだよ。神がいなくても世界は廻るなんて考えもあるけどね、それは違う。――――――神も人間もそれ以外の存在も世界の一部だ。それぞれの存在があるからこそ世界は動いていく。この世界の存在はそれを分かっていないんだよ」

 

―――――神も人間もそれ以外の存在も世界の一部。

 

ボクもお兄ちゃんもリアスさん達も学校の皆もこの世界で生きている。

それだけじゃない、アザゼル先生にサーゼクスさん、北欧の神オーディンだってこの世界で生きている。

この世界で生きる者一人一人がこの世界を構成する一部だ。

 

そして、そのことを理解していない人達がいるということもまた事実なのだろう。

 

「無駄に力を持つ者は思い上がるし、くだらないことに固執する者もいる。そして弱者はその地位に甘えて自分は無関係だと世界から自身を切り離す。こうした人達が他者を否定し、閉じ籠り、分かり合おうとしなくなる。そして生まれるのが一方的な理不尽が許させる世界。そんな世界、おかしいと思わない?」

 

「………それじゃあ、君はこの世界のあり方を変えるために?」

 

「いいや。実際にこの世界を動かしていくのはあくまでこの世界で生きる者達だ。僕は彼らに気づかせるまでかな。―――――気付かなかったら、その時はこの世界はいずれ崩壊する。それだけさ」

 

「それは君が手を出すから?」

 

「まぁ、本気になれば数日で取れると思うよ? ワンサイドゲームだろうね」

 

数日でこの世界を墜とせる、ということは各神話勢力の神々を相手取ることを考えても、それら全てを屈伏させるだけの力を持っているということ。

 

こちらの世界でも神の力は絶大。

それこそ、世界に多大な影響を与えることだって可能だ。

 

そんな神々に対して今の発言、余裕の笑み。

 

本当に底が見えない。

ロキと戦った時、神の力の凄まじさを実感したけど、目の前にいる神はまるで底無しのように感じてしまう。

 

――――――アセムという神は神という次元すら越えている、そんな風にすら思ってしまった。

 

ボクは生唾を飲み、息を整える。

 

「それだけの力を持っておいて、どうして君は動かないの? リゼヴィムに協力するくらいなら、自分で動いた方が早いんじゃ………。冥府征服してるけど………」

 

そう訊くとアセムは人差し指を立てて、チッチッチッと横に振った。

 

「それは違うね。ハーデスを倒したのは彼には僕の広告塔になってもらうため。クリフォトも僕の目的のために必要ではあるのさ。僕が動くのは――――――ピースが埋まった時だ」

 

 

ドッゴォォォォォォォォォォォン!

 

 

アセムの言葉の直後、奥の壁が粉々になって吹き飛んだ!

 

え、な………なに!?

 

驚くボクに対してアセムは待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべて、もうもうと舞う煙の向こう側に視線を送っていた。

 

煙を振り払い、現れたのは―――――――。

 

「アセム、てめぇ…………俺の妹になにしてんだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

[美羽 side out]


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